ホテルの上階の部屋で張り詰めた空気の中でPS4を接続する名倉、青葉は名倉と始めるラストゲームに身体が震えていた。
名倉「準備が出来た、始めるぞ」
青葉「本当に、戦わなきゃいけないんですか?」
名倉「当たり前だ
自分の感情を殺せないなら、俺がお前の感情を殺してやる。こいつでな」
青葉「!!!!」
名倉がその手に持つゲームに青葉は戦慄した。
青葉「ストリートファイター
名倉「俺達のラストゲームに相応しいだろ、
覚悟を決めろ、青葉」
名倉はディスクを読み込み、コントローラーを青葉に渡す。
青葉(ダメだ、勝てるはずない。私なんかより名倉さんの方が強いに決まってる。最強のEスポーツゲーマーに勝てるはずなんて……)
頭の中で絶望的な状況に追い込まれる青葉は遂に名倉と戦う事になる。
青葉の
FIGHT!!
名倉のリュウは青葉の春麗に自殺行為な間合いを詰め、組み伏せると同時にワンサイドゲームを展開し、1ラウンドを取る。
青葉「名倉さん、いくら何でも……」
名倉「黙れ」
青葉「!!」
名倉は青葉を相手に過剰なまでのコンボを叩きつける、
名倉「青葉、俺はやめねぇ、お前を嬲り殺しにして、二度と俺の前に姿を現さなくなるその時までなぁ!!!!」
名倉はその瞳に狂気を映し、青葉の前で何度も無抵抗なキャラを潰していく。
その瞬間……
ガバァ!!
名倉「!!」
突如として名倉を押し倒し、青葉は叫んだ。
青葉「これ以上嘘つきにならないで!!」
青葉は名倉の服の胸元を握り締める。
青葉「名倉さんは嘘つきだよ……何もこんな風に突き放さなくても……
寂しいなら寂しいって、素直に言ってよ!!うあああああ、ああああ!!!!」
自分のの胸元で泣く青葉を見た名倉はその手に握っていたコントローラーを手放した。
名倉「悪かったな、俺は嘘つきだ。自分が気に入っていた女を泣かす……
最低のお人好しだ」
青葉「そうだよ……名倉さんは嘘つきなお人好し。自分以外興味無いフリをして……私達イーグルジャンプを信じてたんだよね……」
名倉は青葉の頭を撫で、起き上がるとガラにもない本心を口にした。
名倉「信じてたからこそ、お前らとはもっと仕事がしたいと思ってた。だが、それはお前たちにとって良くない事だとどこかで気づいちまったからこそ、俺はいない方が良いみたいな考えだったのさ。何故だか分かるか?
俺が居たらお前らは自分たちで前に進めない、俺の様な何でも解決できる様な人間がそばに居ればそれだけで悩まなくなるからだ。俺はお前たちにこの先もずっと悩み続けて欲しいのさ。
それがお前たちを強くする原動力だから」
青葉は名倉の話を聞いて、安堵する。
青葉「ホンットに、バカなんだから……これだけ私を振り回しておいて挙句悩み続けろだって?そんな理不尽に……何で安心しちゃうかなぁ……私……」
名倉「でも、それでもういいんじゃないか?俺達の関係」
青葉「こんな悪趣味なゲームで遊ぶ関係の何処が良いのよ、おかげでこっちは負けっぱなしなんだから」
名倉「当たり前だろ、最後に笑うのはこの俺だ、悔しかったら一回でも俺を見返して見ろよ。ま、1000年経っても無理だろうがな」
すると
青葉「やってみる?」
名倉「は?」
青葉「見返せばいいんでしょ?それなら私は名倉エンタープライズも驚くような面白いゲームを開発する。そのゲームで遊んで名倉さんが気に入れば私の勝ち。
賭けてみない?このゲームに」
青葉から突き付けられた挑戦状、名倉は答えは……
名倉「上等だ、だがこっちも手段も選ばないし手加減もしない、確実に負かしてやるから覚悟しろよ」
青葉「私も、絶対負けませんから。だって私は……」
その言葉の瞬間、名倉は笑いだす。
名倉「アハハハハハ、お前がそれ言うか?
1000年早えよ、全く」
硬い約束を交わした名倉と青葉、最初で最後に本音のぶつかり合いと言うラストゲームを経てようやく前に進む覚悟が出来たのだった。
そして数日後
『アクセル航空、Ⅹ000便ロサンゼルス航空行きの受付を開始します』
空港で搭乗手続きを済ませた名倉はケースを引いて近くのコーヒーショップに立ち寄った。
寒さが厳しさを増す乾燥した空気、外を見上げながら名倉はエスプレッソとアメリカンフランクのチリドッグを嗜んでいた。
ゲートが開くまで時間がある、その間に新しい自分の社員たちに土産を買っていく事を決め、店を巡ることにした。
だが……
青葉「名倉さん!!」
自分の名を呼ばれ、後ろを振り向けば……
かつての仲間たちが冬の装いで並んでいた。
名倉「お前ら、送り出さなくて良いってあれほど言っただろ。仕事はどうした?仕事は?」
すると呆れ気味にコウの説明が入る。
コウ「すまない、一応止めたんだがこいつらがストライキ起こす寸前だったのと怖い通い妻のせいで結局ついてきちまった」
しずく「こうなったのも全部名倉の自業自得だ、君のせいで融通の利かない我儘にい育ったのはね」
うみこ「ホント、手に余る男です、居なくなってしまうのも物悲しい」
りん「本当に素直じゃないんだから、最後ぐらい送らせてよ」
はじめ「一人で行こうとしないでよ、チームリーダーを一人になんて出来ない」
ゆん「名倉さんはどこ行っても居場所はイーグルジャンプや、たまには戻ってきて欲しいんよ……」
ひふみ「ロサンゼルスには来年私も行くわ、名倉君、逃げられると思わないでね、それと向こうでもし、シちゃいけない事したら……
覚悟してね♪」
青葉「重い、重いから!!」
名倉「わかってるさ、お前に後ろから刺されて死にたくないからな」
ひふみ「私がそんな女に見える?」
名倉「自分に聞いてくれ」
全員「あはははははは!!」
笑いだすメンバーに名倉の心は大きく満たされていく。
名倉「全く、仕事投げ出してまで俺についてくるとか散々な目に遭ったハズなのに懲りない奴らだ」
青葉「でも、だからこそ愛してたんじゃないですか?
イーグルジャンプの皆の事」
名倉「……」
名倉をメンバーを見ると真っ直ぐな眼差しで名倉を見ていた。
名倉「お前ら……そっか、そういう事なんだな。
俺が散々振り回したこの愛すべき社員たちを……
お前が導いていこうしてる。俺の代わりに」
青葉「勿論です、私は名倉さんから色んなことを学びました。そしてそれが今の私に繋がってる。名倉さんの教えてくれた技術で最高のゲームを作って名倉さんを見返す。
それが私にとって、最高にクソッタレな人生のゲームですから」
名倉は青葉の意思を確認して、憑き物が落ちたかのようにメンバーを伝えた。
名倉「お前ら……
ありがとうな」
コウ「なななッ!!」
青葉「初めて聞きました、名倉さんのお礼」
名倉「まあな」
『間もなく、ロサンゼルス行きのゲートが開きます。2番ゲートからご登場ください』
コウ「時間だな」
青葉「名倉さん、お元気で!!」
名倉「頼んだぞ、俺の後継者」
名倉は仲間に背中を向け、ゲートへ向かうのだった。
名倉「じゃあなッ!!」
ゴオオォォォォ!!
飛び立つ飛行機を見届け、青葉は太陽に手を伸ばす。
青葉「今は届かなくても、きっといつか届く日が来る。名倉さんが教えてくれた様に、地面を舐めても、倒れても何度でも諦めずに挑戦し続ける。ゲーマーのプライドが名倉さんを導いたように、いつか……」
青葉は背を向け、前へと進み始める。
青葉「私は涼風青葉、ゲームクリエイターにして、
天才ゲーマー、名倉マークの意思を継ぐ者」