2018年 9月
イーグルジャンプ オフィスビル
桜の散るビル街の一角で、何度も息をするように声を紡ぐ少女がいた。
青葉「新入社員の涼風青葉です、新入社員の涼風青葉です、よし」
彼女は涼風青葉、この年からイーグルジャンプに入社することになった新人、彼女が意を決してビルに踏み込もうとする瞬間。
りん「あのー」
青葉「ふぇッ?」
りん「ここ、未成年立ち入り禁止だけど~」
青葉「ちちち違います!?、私、未成年だけどちゃんと社会人ですよ。涼風青葉です、聞いてませんか!?」
その名前を聞いて思い出す。
りん「あー、ごめんね~そう言えば一人若い子が入るって話忘れてた、初めまして、遠山りんです、イーグルジャンプのAD アートディレクターよ」
青葉「新入社員の涼風青葉です、よろしくお願いします!!」
挨拶を済ませた青葉はりんと共にエレベーターに乗り、イーグルジャンプのオフィスに足を踏み入れた。
様々なスペースで区切られたエリアの一角、そこに案内された青葉は…
コウ「zzz」
青葉「う、うわあああ!!」
コウ「はがあ!!」
パンツ丸出しで眠る女を目撃し、青葉の大声で飛び起きた。
りん「もう、また、パンツのまま寝てたの?」
コウ「うんごめん」
ズボンを履きつつ青葉の方を見つめる。
コウ「ああ、例の新入社員?」
青葉「はい、涼風青葉です。18歳、よろしくお願いいたします」
青葉の挨拶を聞き、ニヤリとする。
コウ「イーグルジャンプ、キャラクターデザイナー兼キャラ班リーダーの八神コウ、25歳で貴方と同じ高卒出身よ」
青葉「ええ!!あのフェアリーズストーリーのキャラクターデザインのあの八神さんですか!!」
コウ「そう、あなたの上司でもあるからよろしくね」
青葉「はい!!」
するとりんはコウに宅配ピザの箱を手渡すと告げる。
りん「彼にも挨拶よろしくね」
コウ「わかってる、人使い荒いんだから」
青葉「八神さん、彼って?」
コウは箱を手に青葉を先導する。
コウ「歩きながら話すわ」
細い通路を通り、コウは話を始めた。
コウ「うちのゲーム事業は大手電機企業を取引先にゲームを開発してる、それ故にうちのゲームは取引先の企業が販売するプ○イステーションでの販売が基本なの」
青葉「確か、フェアリーズストーリーの1作目もプ○イステーション3、つまりPS3での独占販売でしたね」
コウ「その後フェアリーズストーリー2開発難航で突然その取引先から社員が送られてきた。技術はあるしいい奴なんだけどね…」
そう言いつつ扉を開ける。
コウ「名倉、ピザ持ってきたぞ~、それと新入りの挨拶ぐらい聞いてやれ~」
青葉に背を向け、ヘッドホンを被り、ゲームに興ずる赤髪の人物、彼はヘッドホンを外すとゲーミングチェアに座ったまま身体を前に向けた。
名倉「新入りの挨拶?興味ないね」
青葉「お、男の人!!」
コウ「ああ、この会社の唯一の」
名倉「聞くに値するかわからないが、誰だ?」
青葉「新入社員の涼風青葉です、よろし」
名倉「あのさぁ、敬語やめてくれない?調子狂うんだが」
青葉「え?」
名倉「俺は名倉マーク、ゲームアドバイザーだ」
青葉「あ、はいよろしくお願いいたします、名倉……さん?」
何かを悟ったのか、コウが弁解する。
コウ「青葉、一応は言っとくがこいつの言う事は極力真に受けない方が良い、社員は慣れっこだが名倉は普通の人間じゃ無いから」
名倉「人をアンブレラ社のBOWみたいな言い方すんじゃねえよ」
青葉「え、今なんて?」
名倉「おい青葉、人の言葉の気にする前に学ぶことが沢山あるぞ、ドラクエの呪文並みに」
青葉「だから真面目な話に何か混じってる気がするんですが……」
そう言いつつ名倉は分厚い付箋の付いた本を一冊渡す。
名倉「こいつを全部頭に叩き込め、お前の配属はキャラ班のモデラー、一度モデリング作ってから俺んとこに来い」
青葉「え?八神さんじゃなくて?」
コウ「残念だけど私なんかよりも名倉が割と適任だからね、まあ、頑張りな」
青葉「は、はぁ」
キャラ班
カタカタカタカタカタカタカタカタ
青葉(ある程度予習しておいて良かった、大まかな部分はスムーズに行ける)
青葉はその周囲にいる同業者をチラチラ見ながら仕事を進める。
青葉「出来た」
だがその時
ピロン
青葉「え?」
画面右上に表示される吹き出し、恐る恐るクリックすると。
[やっほー、私は貴方の席の後ろにいる赤いリボンのカワイイ滝本ひふみだよ、この機能は社内メッセ―ジって言って何か誰かに質問したいときに使える機能だよ♪一応連絡網も兼ねてるから入ったメッセージはこまめに確認してね♡、それじゃあ、伝えておくけど出来たCGモデリングはスクリプトのブラウザコピーでアドレスとネームを選択して相手に送れるよ、送ったら必ず本人の元に向かって話を聞いてね。特に名倉君は基本ヘッドホン付けてるから通知に気付いてない場合あるから教えてあげてね。それじゃあ、これからもよろしくね。青葉ちゃん(^O^)/]
メッセージを見た青葉はすぐに返信を送った。
青葉[ありがとうございました、これからもよろしくお願いします。ひふみ先輩]
青葉の様子を見る後ろの少女、滝本ひふみは嬉しそうにしていた。
そしてデータを送った青葉はすぐに名倉の元へ向かうのだった。
青葉「名倉さん、出来上がったモデル見ましたか?」
名倉「こいつ、コーナリングド素人だな。新参か?」
青葉「え?」
この時青葉は気付く、名倉が目にしてるディスプレイはPCではなく、モニターに接続したPS4である事を。
青葉「ってあれ絶対、グランツーリスモスポーツじゃないですか!!」
ヘッドホンを外し、名倉は話を始めた。
名倉「確かにグランツーリスモスポーツだ、対戦相手は三流だがな」
青葉「あのー仕事中ですよね?ゲームやってて大丈夫なんですか?」
名倉「想像だけじゃあゲームは作れない、大きなインスピレーションやリアリティーを得るには他のゲームから学んだ方が良い」
名倉はゲーミングチェアで移動するとPCで送られたモデリングを凝視する。
名倉「素人にしてはよく出来てるが色彩のセンスはまだまだだな」
青葉「そうですか……」ガックシ
名倉その様子を見るな否や立ち上がると……
ガンッ!!
青葉「!!」
突然の壁ドン、動揺する青葉に名倉は無表情で答える。
名倉「そう言う顔をする奴ほど見飽きた物はない」
青葉「え?」
名倉「出来るとわかってて逃げる奴はそんな顔をする、これから青葉に教え込むのはホテルで犯されるレベルじゃ済まないぞ」
青葉(えええええ、な、何言ってるのこの人!!!何教え込むつもりなの?!未成年に対して容赦なくイケナイ事を!!このままじゃ私……)
動揺する青葉に名倉は更に言葉を続けた。
名倉「フェアリーズストーリーのキャラデザについて基本的な事を全部教えてやる、但し明日な」
・・・
青葉「え?」
名倉は手を放すと悪魔の笑みを浮かべる。
名倉「お前も案外、面白い反応をするんだな。本気で犯されると思ったか?」
青葉「ま、まさか……」
名倉「ただのジョークだって、本気にする奴の反応チョーサイコー」
青葉「ば、バカアアアア!!」
PM8:00
りん「初日お疲れ様」
コウ「何か、とてつもない叫び聞こえたけど大丈夫?」
青葉「名倉さんいつもああ言う感じですか?」
コウ「まあ、あいつの事はすぐに慣れると思うよ」
名倉「青葉、初日から大絶叫だったな」
青葉「誰のせいだと思ってるんですか?」
すると名倉はコウに聞く。
名倉「明日は取引先との面談、朝9時元町カフェな」
コウ「フェアリーズストーリー3について上層部も知りたがりだな」
青葉「ええ!!」
青葉の反応に一同が顔を揃える。
青葉「今、作ってるゲームって、フェアリーズストーリー3なんですか!!」
名倉「ああ、だからフェアリーズストーリーについて明日教えるのさ」
名倉は青葉にすれ違うと肩を叩く。
名倉「明日は寝かさないぜ、青葉」
青葉「ピギャァ!!」
そうして帰って行く名倉を見届けつつも、青葉は若干顔を引きつらせた。
青葉「名倉マークさん、あの人は注意が必要だな……」