青葉「今日も一日、がんばるぞ~い」
意気揚々とPCを起動すると以前作ったファイルを開く。
だがそれは地獄の所業の始まりだった。
青葉「え?
嘘……ファイルが全部消えてる!!あれだけ保存したデータが一瞬で!!」
名倉「よお、朝から良いリアクションするな」
青葉「名倉さん、これって……」
すると名倉は緑のUSBメモリを取り出す。
名倉「ファイルが無くて当然だ、こいつで
青葉「ええええ!!じゃあ名倉さんの仕業、何で!!」
名倉は青葉を挑発する様に指を動かし、邪悪な眼をする。
名倉「俺の部屋に来い、説明してやる」
青葉は昨日と打って変わって恐ろしい雰囲気を纏う名倉に内心怯えながらも話を聞くことにした。
名倉「話を始めよう、これは俺とお前のゲームだ」
青葉「ゲーム?」
名倉は机の横に置かれたチップを手に告げる。
名倉「これからお前にはファイルや情報を頼らず、終業時間までに2体のキャラモデルを作ってもらう」
青葉「ええ!!じゃあゼロからキャラを作ってみろってことですか?!」
名倉「その内生み出したキャラを俺が評価し、どちらか片方でも俺を納得させる事が出来るか、キャラクターは採用となり、メインクリエイターとして複数のキャラクターを自由にデザインできる権利を与えてやる」
青葉は驚愕した、自分がメインクリエイターとして大成できるか名倉は試しているのだと。
だが彼は優しくは無かった。
名倉「だが、仮に2体共ダメだった場合。こいつを書いてもらう」
名倉が青葉に黒いバインダーを渡す。
青葉「こ、これって!!」
名倉「辞表届だ、このゲームのバッドエンドはお前の退社だ、つまり、お前のクビイィィィィィ!!」
青葉「ヴェアアアア、そんな無茶苦茶なアアアア!!」
入社して2週間、いきなりクビになるかもしれない仕事をやらされる青葉。
青葉「っていうか、これゲームですよね?!ゲームで人の人生かけるなんてそんなのどうかしてますよ!!」
名倉「甘いぞ、青葉。俺はこれまで危ない橋渡って200億儲けたんだぞ。お前も俺の下でゲーム開発やりたいならこのぐらいの理不尽に耐えて見せろ」
そして名倉はケースから大量のチップを取り出す。
名倉「このゲームはお互い賭けにしようじゃねえか」
青葉「賭け?」
名倉「俺はこのゲーム、俺が青葉のキャラを認めるに12万チップ賭ける、お前はどうする?」
青葉は名倉の机の上に乗せられたチップを手に告げる。
青葉「私も、名倉さんが認めるに、6万チップ賭けます!!」
名倉に対し、覚悟を決めた眼をする青葉。
名倉「良い、良いよその目、ゾクゾクする様な感覚、やって見せろよ。青葉!!」
青葉「絶対に、認めさせます!!」
そして名倉は青葉のバッグをゲーミングチェアに置く。
青葉「あ!!私のバッグ!!」
名倉「こいつは預かっておく、飯も休みも与えるつもり無いから覚悟しろ」
青葉(うう、この人本当に理不尽だ……)
心の中でそう呟きつつ、仕事を始めた。
カタカタカタカタカタカタ
青葉(考えろ、考えろ、考えろ……)
長考を繰り返して約2時間、何も情報が無いままキャラクターをデザインし、色を乗せていく。
そして3時間経過
青葉「うう……頭が痛くなってきた……水も飲んでない……」
喉の渇きを潤すため、水を飲もうとすると……
名倉「少しでも飲んだら、クビだぞ」
青葉「はゥゥゥゥ!!」
背後から名倉の声を聞き、水をその辺に隠す。
4時間経過
青葉「ああ……喉も渇いたしお腹も空いた、今何時だっけ……」
満身創痍の中で青葉はモデリングを続けるとふとある事に気付く。
青葉「そうだ、あの時……」
名倉(世の中は理不尽なゲーム、お前もこの先正しくやっていくならゲームキャラの様に肯定できる人間性を持て)
青葉「肯定できる、人間性……それを生み出せるのは、私自身だけ……」
青葉の心に光が差し込み、青葉は今の自分の考えうる限りの自分の気持ちでキャラクターを作り上げた。
青葉「出来た……これなら……」
ピコン
名倉「来たか……」
青葉「な、名倉さん……どうでしょうか?」
名倉は2人のキャラを交互に見比べると、手元のチェックシートでキャラクターを評価していく。
横で気を張らせる青葉が見つめる中、名倉は優しく告げた。
名倉「思った通りだ」
青葉「え?」
名倉「2体の内、A案を見て気付いた。お前を見くびっていたってな……」
青葉「じゃ……じゃあ……」
ビリッ!!
名倉は辞表届を破り捨て、青葉に告げる。
名倉「お互い、信じた結果が引き分けだ、このゲーム、やってよかったぜ。よくやったな、青葉。採用だ」
青葉は眼を輝かせ、名倉に頭を下げる。
青葉「ありがとうございます!!」
名倉は青葉にバッグを返すと自らもバッグを背負う。
名倉「青葉、ちょっと付き合え」
青葉「どこへ?」
名倉と青葉は電車に乗りどこかへと向かう。
移動の途中、名倉は青葉に質問した。
名倉「なあ、青葉、人は何故弱いと思う?」
青葉「突然なんですか?」
名倉「今日のお前、一番自分の弱さを感じたんじゃないか?」
青葉「確かに……そんな気はします……」
名倉はスマホをしまうと告げた。
名倉「本当はこの世界に置ける弱さってのは、自分の辛い事から逃げてる奴の事を言うんだ。やられたらやり返す、何度も負けても挑み続ける、納得が行かないとゼロからやり始める。それを繰り返してる奴が一番強くなれる、生まれ持った天才は少なくても、努力の天才はこの世で一番ありふれてるんだ」
青葉はここで気付く。
青葉「もしかして、それを私に教えるために……」
名倉「人間の一番強い時ってのは何度やってもダメで完全に追い詰められた時が一番強い、俺も長らくEスポーツって言う敵しかいない世界の中で追い詰められた事がある。そんな中で俺も悪い癖で変な負けず嫌い起こして衝動のままコントローラー叩きまくってたら勝ってたなんて事があった」
青葉はその話を聞くたびに名倉の生きてきた世界がどれだけ過酷で辛かったかを理解する。今の自分と同じことを何回も経験しているんだと。
青葉「随分苦労してきたんですね、私以上に……」
名倉「だから、わかって欲しかったんだよ。俺が出来た様に、お前にも出来るってな」
青葉「本当に、ありがたいですけど、こんなやり方しなくても良かったんじゃ」
名倉「残念だが、俺はこんなやり方しかやれないんじゃなくて出来ない人間だからな」
青葉「紛らわしいですよ、ホント……」
アナウンス「間もなく、築地、築地に止まります」
名倉「行くぞ」
青葉「は、はい!!」
名倉に案内され、店に入る青葉、そこには……
青葉「嘘……」
板前さん「らっしゃい、おっ名倉のぼっちゃんか」
名倉「大将、客人招いてるんだサービスよろしく」
板前さん「おう、どんとこい!!」
見た目で寿司屋と分かるがカウンター席しかなく、目の前に寿司ネタがショーケースに並び、貫禄のある寿司職人。
青葉「ここってまさか!!」
名倉「俺の行きつけの寿司屋だ、軽く6万ぐらい持ってかれる築地屈指の名店だ」
青葉「いやいや、そんな凄い店に何故私を!!」
名倉「お前の今日の晩飯だ、好きなだけ食え。なあに、金の事は気にするな。こいつで払ってやる」
青葉「サラっとブラッククレジットカード、この人凄い……」
この日、青葉は今日一日の仕事もあって飢えていたため我を忘れて目の前にあった寿司をとにかく食べまくったらしい。
結果的に名倉と2人で14万円分ごちそうになった。
翌日
ゆん「青葉ちゃん嬉しそうだね」
青葉「えへへ~別に♪」