相反のライ   作:星月

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番外編 マリーカの悩み

 マリーカはライのことを主として尊敬しているだけではなく……なにか恋心にも似た感情を覚えた。

 不覚にも、仕えるべき主に慰められ、その腕に抱かれて泣いてしまった。だが、ライはそんなマリーカに何一つ言うことなく受け入れてくれた。

 

 あれほどの美貌と能力を持ち、そして皇族でありながらも部下である自分にもあのように優しく接してくれる……これほどの人はいない。まずいない。多分ブリタニアに二人といない。むしろいてはいけない。

 このような方の腕に抱かれてなんとも思わないような女はいない……いるのならでてきてもらいたい。というか、そのような人はもはや男性に興味が無い人だろう。

 

 ……だが、そのライの隣には絶対的存在とも言えるカレン・シュタットフェルトがいる。

 おそらく二人の仲はマリーカが考えている以上に深いものだろう。現にカレンは時々ライのことを呼び捨てでもよんでいるし、ライもそれを認めている。息もぴったりだ。

 

 つまり、マリーカにとってライに想いを伝えるにあたって一番の壁がカレンだった。皮肉にも、恋のライバルにまで発展してしまうとはこの二人の関係って一体何なのだろうか……

 

 そこでマリーカは考える。彼女と対等に渡り合うために考えなければならない最重要用件を。

 その内容とは――私がシュタットフェルト卿より劣っているものって何だろう?

 

 

 顔にいたってはいい勝負だと思う。カレンも美人の類に入るだろうが、マリーカも幼さが残っている部分があるが、同年代の中では断然可愛い方だ。

 

 次に性格。……これはひょっとしたらカレンにも勝っているのではないかともマリーカは思う。

 なにしろカレンはたまにがさつな一面が見られる。それがたとえライ相手であろうと……いや、どちらかと言うとライ一人に対しての方が多いのではないだろうか?

 ――それともまさか二面性? 殿下はギャップがある女性の方が好きなのだろうか?

 まあ、一応性格については互角ということにしておこう。

 

 となるとやはり問題となってくるのは……体か。 

 ――よく考えたら、ライ殿下の周りにはスタイルが良い女性が多すぎではないか?

 

 カレン・セシル・コーネリア。マリーカは咄嗟に思い浮かんだ女性の名前を想像していく。……あ、だめだ。勝ち目がない。無頼VSガウェイン並みに勝ち目がない。この面で完全に押し負けている。ハドロン砲一発で終了だ。

 

 どの人もスタイルがよく、かつ豊満な部類に入るその胸も相まってナイスバディの一言に尽きる。……本当に憎たらしい。一体何を食べたらあんな風に成長するのだろうか?

 

 だが、まだマリーカは発育途上である。他の女性と比べれば胸もお尻も小さいが、むしろその筋の方々にとっては理想的バランスを保っているだろう。

 しかし今のマリーカにはそれに気づく余裕がない。今カレンに勝たなければ意味がないと必死である。軍人である以上はいつ死ぬのかさえわからないのだからなおさら。大事なのは未来ではなく今このときなのだと。

 

 

 

――――

 

 

 

「……それで? 一体私に何のようだマリーカ?」

「すみませんジェレミア卿。軍事の編成でお忙しい中、私のために時間を割いていただいて……」

 

 マリーカはジェレミアを呼び出した。自分と親しく、かつ男性の気持ちを聞ける頼れる相手となると……ジェレミアしかいなかった。

 

 兄に聞ければ一番よかったのかもしれないが、残念ながら今となってはそれは不可能。

 ロイドにはそんなこと聞いてもおそらくまともな返事が返ってこない。最初からわかっている。

 ライ本人に直接聞きにいくのはさすがに無理がある。……となると、残っているのはジェレミアしかいなかった。

 

「構わんさ。他でもない君の頼みだ。それで、聞きたいこととは?」

「あの、なんと言うか、その………男の人って、やっぱり大きい方が好きなんでしょうか!?」

 

 ……沈黙。マリーカの予想を超越した言葉にジェレミアの時間が静止する。残念ながら時間を止めるギアスでさえも解除するギアスキャンセラーが発動しない。思考が一時的に完全にフリーズする。

 ジェレミアは心の中で今は亡き友に対し、彼の妹を守れなかったことに対して一言謝罪した。

 

 それでもジェレミアはなんとか我を取り戻し、一度咳払いをするとまずは彼女から原因を聞きだすことに勤める。

 

「こほん。……一体どうしたんだマリーカ。何があったと言うのだ? なぜそのようなことを聞く?」

「えっとその……言いにくいんですけど、……やっぱり殿下のお傍に仕えるにあたっても、殿下の理想の女性の姿でありたいなー、と思ったといいますか。……いえ、決して変な意味ではないですよ!」

 

 マリーカはところどころどこか恥ずかしそうに体をモジモジさせながらも言葉をつなげる。

 この言葉で、様子で普段は鈍いジェレミアも全てを悟った。――そうか、マリーカもそんな時期だったのか。知らなかった。

 そして真剣に考える。キューエルが亡き今、マリーカが頼りにできる男はもはや自分だけ。可愛い妹のような存在である彼女の恋は全力で応援しなければならない。そう、妹の期待には……全力で!!

 

「ふむ、そうだな。殿下自身はそのようなことを気にすることはまず無いとも思える。あの方は基本的に外見で人を区別するようなことはないからな。

 ……だがしかーし! やはり男たるもの、そういったスタイルの女性に目を惹かれることはあるだろうな。それは殿下であっても例外ではないだろう。現に今までもそのことについてシュタットフェルト卿に何度か問い詰められていたそうだからな」

 

 色々と突っ込みどころが満載だが、その点についてはもうスルーすることにした。

 騎士としてそれはどうなのかとも思うが、二人の関係はただの主従関係ではないのだから大目にみるとしよう。

 

「……やっぱりですか。じゃあ……どうなったら……む、胸は大きくなりますか?」

 

 マリーカはど真ん中ストレートを投げ込んできた。

 これにはさすがの歴戦の猛者であるジェレミアも回答に困る。……なんて言えばいい? フルスイングしていいのだろうか?

 

「……マリーカ。本気なんだな?」

「はい!」

「……私がこれから言うことには、君の多大な覚悟が必要となる。それでも大丈夫か?」

「…………はい!」

 

 ジェレミアの答えにもしっかりとマリーカは答える。

 しばし悩んだが、ジェレミアは彼が思いつく簡単(?)な方法を述べた。

 

 ……その内容を聞いたマリーカは驚愕しすぎて顔が真っ赤になっていたが……

 

 

 

 

――――

 

 

 

 一方、場所が変わってキャメロット研究室。

 

『……戦闘終了。紅蓮は所定の位置に下がってください』

「どうですか~シュタットフェルト卿。新しい紅蓮の調子は?」

 

 カレンがシミュレータで新しい機体――『紅蓮可翔式』のテストを行っていた。

 紅蓮弐式と比べ機体性能がかなり上昇し、新たな武装やフロートユニットが搭載され、さらなる強化が行われた。だがカレンはそれに動じることなく自分の手足のように新しい紅蓮を操縦する。

 

「いいですね。輻射波動も強力になっていますし機動性も問題ありません。……この調子でお願いします」

「わっかりました~。殿下の機体も現在調整中ですので」

 

 シミュレータのデータを整理すると、カレン・ロイド・セシルはライの離宮へと向かう。

 ロイドとセシルは、もうすぐライの機体の最終調整が終わるので、その報告。そして何か要望があれば直接伺うということだった。

 

 離宮につくと、ジェレミアとマリーカが入れ違い、現在はマリーカがライの護衛に当たっているという。

 まだマリーカが従卒に任命されて日は浅いが、使用人たちもすっかりマリーカとなじんだようだ。

 

「……それにしてもマリーカ君も実際すごいですよね~。彼女のスコアもなかなかのものでしたよ」

「彼女ならまだまだ伸びるでしょう。問題は、実戦で戦えるかどうかです」

「確かに、マリーカは実戦経験が乏しいですからね。

 ですがシュタットフェルト卿との戦闘を見た限りではシミュレータと同等の動きを見せていました」

「あとは、本番でどうなるかかな~。僕としてはデータが多くほしいところだし、彼女にもがんばってもらいたいんですけどね~んふふふふふ」

 

 彼らの会話もそのマリーカの話で持ちきりだ。

 マリーカもなかなか優秀なパイロットである。エースと呼ぶには荷が重いかもしれないが、それでも軍人の中では高い成績をほこる。

 以前の紅蓮との戦闘においても、圧倒されていたとはいえグロースターを巧みに乗りこなしていた。

 

「ですがシュタットフェルト卿、余裕そうですけど……大丈夫ですか~?」

「ん? なにがですか?」

「いえいえ。なにせ今は殿下とマリーカ君という若い二人だけの空間。……何か間違いが起こったりしないかな~って思ったり……」

「「ロイドさん?」」

「……あ、いえ。ごめんなさい。冗談です」

 

 ロイドが妙なことを言い出すが、女性二人の鬼のような威圧感の前にすぐ口を閉ざした。

 

 ――ライが女の子に手を出せるわけがない。

 それがカレンの考えだった。ライならたとえマリーカと二人っきりになったとしても、何も早まったことをしないだろうし、何もできない。そんな勇気のかけらも持っていない。権利をたてにして従わせるなんてこと考えられるわけがない……と。

 というか、実際のところはカレンがライからそんな大胆なことされたことがない。そんなライがカレン以外の女に手を出すはずがないのだ。

 

 そんなまずありえないことを話しているうちにライとマリーカが待っているだろうライの部屋へとたどり着く。

 

「殿下。カレン・シュタットフェルト、ただ今戻りました……?」

「……あれ?」

「……え?」

 

 カレンがまず挨拶し、それにロイドとセシルが続こうとする。

 だが彼らは主への挨拶をすることなく、ライとマリーカの動きに釘着けとなった。

 

「……あ」

「……はぁ……はぁ……」

 

 予想以上に早かったカレンの帰還にライはおどろく。

 ライはマリーカを自分のひざの上に座らせ、彼の手はマリーカの胸を服ごしで包み込んでいる。しかもマリーカの口からは色っぽい声が溢れ、息もなんだか荒い……

 

「あっはー……殿下もやっぱり男性だったんですね」

 

 ロイドがなんともわかりやすくこの状況を口にした。

 しかし、カレンは特に言うことなくライ達に近づいて行って……

 

「一体何をしていたんですかライ殿下?」

 

 恐ろしいほどの笑顔でライの肩をたたいた。

 その笑顔を見て、ライもマリーカも一歩も動くことができなかった。

 

 

 

――――

 

 

 

「OK。まずは落ち着こうかカレン。順を追って説明しようじゃないか」

 

 マリーカをはなし、なんとかカレンをなだめるライ。もっとも、カレンはさっきから笑顔をたやすことなく笑い続けているのだが……その笑顔が逆に怖い。

 突然ライを殴り飛ばさないあたり、まだカレンにも理性がかろうじて残っているように思える。もっとも、ちょっとしたことで爆発することは火を見るより明らかではある。

 

「ええ。それで、一体何をしていたんですか殿下?」

「ま、まってくださいシュタットフェルト卿! 今のは私のほうから殿下にお願いしたんです。

 その……殿下の思うがままに、私の胸を揉んでください……って」

 

 カレンがライに問い詰めるが……しかし、まさかのマリーカがお願いしたという事実が発覚。

 顔がこれ以上ないほど赤く染まっており、自分の恥ずかしさもちゃんと自覚しているのだろう。

 

「……なんでそんなこと言ったのよ! そしてライもどうして言われるがままにしているのよ!」

「ち、違っ! 『そうじゃないと私、殿下の傍にいられません』って、真剣そうに言ってたから!」

「えっと……その……ジェレミア卿に教わって……」

「……あのオレンジか!」

 

 カレンはライの肩を激しく揺らしながら講義する。

 だが、マリーカの元凶発言にカレンの怒りは一気にジェレミアへと移っていった。

 

 

 

――――

 

 

 

『やはり、胸を大きくするには……そうだな。誰か男性に胸をもんでもらうことだろうな』

『も、揉んでもらうんですか……?』

『ああ。事実【彼氏に揉んでもらったら大きくなった】という実例がいくつかある。今すぐなにかできることといったらこれくらいだろうな。……マリーカも誰か気になる男性がいるなら頼んだらどうだ?』

『……』

 

 

 

――――

 

 

 

 ジェレミアにやられるのは気が引ける。

 ロイドは論外。兄もいない。

 すると……残ったのはまさかのライ本人のみという結果に。

 

「……ちょっとあのオレンジ、しばいてくる」

「カレン、落ち着いて!!」

 

 カレンが軽い足取りで部屋を出ようとするのをライがとめようとするが、ライの制止を振り切ってついに出て行ってしまった。

 その足取りは軽い。今のカレンは冗談抜きで誰かを殺しかねないほどの勢いだった。ライは心の中でジェレミアの無事を祈るしかなかった。

 

「……ねえマリーカ君。勇気を振り絞ったところ悪いけど……それ嘘だよ」

「…………え?」

 

 一方、話を聞いていたロイドがマリーカに残酷な真実を告げる。

 マリーカは思わず目を丸くした。聞きたくもない言葉を耳にして固まらざるをえない。

 

「それは医学的に根拠のない噂話であってね。揉んでも大きくはならないんだ」

「……それじゃあ」

「残念でした。君、だまされちゃったみたいだね~」

「…………」

 

 思いやりがないが、簡潔に事実を述べるロイド。セシルがフォローをいれようとするが……マリーカは無表情のまま固まっている。

 そしてそんな嘘を信じ込んでライにやってもらったことを思い出し……

 

「ふええええええええええええ!!」

 

 顔から火が出るほど恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染めながら叫んだ。

 

「で、殿下ァ……」

「……マリーカ。いや、僕は責めたりはしないからね。安心して。

 あと、別に僕は女性を胸で差別したりしないし、今のマリーカが好きだからね? だから、そんなに気にしないで。マリーカは今が成長期なんだからさ」

「……はい……」

 

 思わずマリーカ涙目。オロオロする姿が小動物みたいで可愛いらしい。

 そんな彼女を見るに耐えなかったのか、ライが頭を撫でながら優しく声をかける。

 

 結局マリーカの体には変化は無かったが、心はだいぶ落ち着いたようである。周りのことは気にせず、今の自分で勝負することにしたそうだ。

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