相反のライ   作:星月

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第九話 『ブリタニアの魔女』

 ブリタニア本国のとある離宮。しばらくの間、主が不在だったこの場所に、その主が妹と騎士達を引き連れて戻ってきていた。

 ――神聖ブリタニア帝国第二皇女、コーネリア・リ・ブリタニアである。

 

 彼女は先ほどまで植民地エリアの一つ、エリア11の総督であったが、黒の騎士団との戦いに敗れエリア11は解放、彼女自身はなんとか本国へと帰国した。

 『ブリタニアの魔女』とまで敵軍に呼ばれ、恐れられていた彼女の敗戦は本国に瞬く間に広がった。この敗戦の罪を咎められるのかとも思われたが、皇帝は彼女を何も罰しない。何か考えがあってのことだろうが、その本意は誰にもわからない。

 ……だが、それでプライドの高い彼女が納得するわけもなく、自分から離宮に下がって行ったのだ。彼女の戦意が消えたわけではないものの、しばしの間連戦に次ぐ連戦であったため、その休養を取るためにも。

 

 今は、久しく満喫することができていなかった一時の平穏を実妹――ユーフェミアや、彼女の騎士達――ギルフォードやダールトンとすごしている。

 

「……コーネリア殿下」

「どうした? 何用だ?」

 

 庭園で紅茶を飲んでいた彼女の元に、仕えているメイドがやってきた。「急の用でも無い場合は呼び出さなくてよい」と命令していたため、何かが起こったのかと思わず身構える。

 だが、その内容は彼女が想像していたものとはまったく別のものだった。

 

「お楽しみの最中に申し訳ありません。ライ殿下がコーネリア殿下にお目通りしたいと、やってきております」

「ライ。……あの新参者のことか?」

 

 コーネリアは若干批判したような言葉をメイドにかける。メイドは短く肯定の返事を返すだけだった。

 コーネリアからしてみれば、ライはいわば『お飾りの皇族』であった。

 今までその名前さえ知らなかった皇族が突然表舞台に現れた。しかも見た目からしてまだ子供であり、体つきや風格からしてもどこかの学生のようなイメージがあった。さらにその新参者が自分が敗れた黒の騎士団の掃討を命じられ、コーネリアはライのことを悪い印象しか持っていなかった。

 

「なんでも、コーネリア殿下にはいまだにご挨拶ができていなかったので、出陣前にそのご挨拶にと……」

「……断るのは失礼であろう。客間にご案内しろ」

 

 コーネリアはメイドに命じると、ユーフェミアに自室に戻るように言い、自分はギルフォードとダールトンを連れて客間に向かった。

 

 

 

――――

 

 

 

 コーネリアが客間につくと、二人の者がいた。

 

 一人は椅子に座っている、前に映像で見た少年――ライ・フォン・ブリタニア。新たに公の場に出てきた義弟。

 もう一人は、そのライの後ろに控えている少女――マリーカ・ソレイシィ。以前、コーネリアの従卒を務めていた少女である。

 

「……申し訳ありませんライ殿下。お待たせてしてしまいました」

「いいえ。お気になさらず……はじめましてコーネリア姉上。私が――」

「堅苦しい挨拶はよい。貴様のことはすでに私の耳にも入っている。そして、今回は何用だ? 挨拶に参ったと聞いているが……」

 

 ギルフォードがわびようとするが、ライは気にする様子もない。コーネリアに自己紹介をしようとするライだったが、コーネリアが彼の口を閉ざす。

 コーネリアはライの一挙一動に目を見張る。ライ動き・言葉から彼の有能さを軽くはかろうとしていた。

 

「そのとおりです。以前、パーティーに参加した時に兄上達にはご挨拶を申し上げたのですが、姉上にはそれが適わなかったので、今日訪れたというわけです」

「それは失礼した。私もユフィも思うところがあってな。後々貴公の元に参ろうとは思っていたのだが、」

「……エリア11のことでしょうか?」

「ッ!!」

 

 コーネリアは思わずライを睨みつける。

 自分の失態を笑っているからと思ったからこその行動だったが……ライの表情は真剣そのものだった。

 

「お気に障るようなことを言ってしまい申し訳ありません。……ですが、今度は私が合衆国日本に攻め込むにあたり、姉上の意見を伺いたいと思いまして……」

「なるほど。それが一番の目的か」

「いえ、あくまで本来の目的はご挨拶だけですよ」

 

 ライは軽く笑みを浮かべる。その表情にはどこか幼さが残っていたが、全てを包み込むような包容力が感じられる。どこか逆らいがたいものを感じ、コーネリアはしばし考え、ライに問いかけた。

 

「……貴様は黒の騎士団のことをどう考えている?」

「騎士団を烏合の衆と言う者もいますが、私にとっては騎士団はもはやブリタニアに次ぐ大勢力だと感じています」

「ほう」

「特に、リーダーのゼロ。その類まれなる知略と他者を惹き付けるカリスマ性はシュナイゼル兄上にも匹敵するものだと私は考えています」

「……」

 

 とっさに出てくるような言葉ではない。コーネリアは素直に感心した。

 ――これは今まで表舞台に出なかった皇族が語るような言葉ではない。

 少なくとも、戦場を知っている者の言葉だった。しかもゼロやシュナイゼルのことをよく理解している。彼女の中でライの評価は一気に上昇した。

 

「それに、姉上が敗れてしまった時点ですでに騎士団はそれだけの資格をもっているでしょう」

「私がか? なぜそのように思う」

「『ブリタニアの魔女』の名は当然ながらエリア11にも広がっています。自らも前線に立ち、騎士達にも劣らぬ武功を立てる――まるで『閃光』のようだ、と」

「! ……からかうな。私にはそのような……」

「いえ、真実です。だからこそ、その姉上を退ける騎士団を警戒しているのです」

 

 『閃光』――コーネリアが敬愛してやまないルルーシュの亡き母親、マリアンヌの二つ名である。

 その言葉をもらって、さすがのコーネリアも仄かに顔を赤らめた。

 

「失礼ながら、ライ殿下……勝算はおありですか?」

 

 ダールトンが若干失礼にも聞こえる発言をする。

 だがたしかにこれは重要なことだ。発軍務の皇族ともなれば、どうしても勝ちを急ぐ傾向がある。そしてその結果失敗することが多い。成功したとしても犠牲を無駄に出してしまいがちだ。

 

 攻めるときは攻める。退くときは退く。ちゃんと引き際をわきまえなければならない。

 

「戦う以上は勝利を信じますが……勝算は5分5分といったところだと思います」

「やけに弱気だな。ゼロがそれほど恐ろしいか?」

「ええ。私はゼロを甘く見てはいません。確かにブリタニアと黒の騎士団との真っ向勝負なら勝算は十分すぎるほどあります。

 ……しかし、相手は策士。なにを仕掛けてくるかわからない恐れがあります。ゆえに、そう申し上げたまでです。たしかに勝利を信じていますが、相手を侮って敗北するのは三流のすることですからね」

 

 ライは素直に自分の意見と思いを打ち明けた。

 

 ――この男はできる。

 コーネリアはこの男ならば問題ないと判断した。戦いを理解し、相手をよく研究している。また自分の弱さも認めている。ライならば変なミスなどおこさないだろうと、確信した。

 

「……だが、さすがに一度戦うと決めた以上は確実にしなければならん。

 私としても、いつまでもゼロを放っておくのは気が引けるからな」

「……それは重々承知しています」

「そうか? それならばなおのことだ。……ダールトン」

「はっ!」

「お前は日本侵攻にあたって、ライの部隊に加わりライをサポートせよ」

「なっ!?」

 

 コーネリアがダールトンに下した命令にライは驚愕する。

 ダールトンはコーネリア親衛隊の将軍であり、歴戦の猛者であり軍略家だ。彼女への忠誠心も高い。そんなダールトンを自分の部隊に預けるとは思えなかったからだ。

 

「ダールトンは日本占領作戦にも参加していた男だ。今回の侵攻にあたっても役にたつだろう。私の戦略も全て叩き込んである。意見を大いに聞くといい。

 それに私はおそらくしばらくの間出撃はしないだろう。そんな私の元に優秀な将軍をおいておくよりは、弟の部隊にいれておくべきだ」

「……姉上はそれでよろしいのですか?」

「構わん。そのかわり、ここまで貴公に期待をよせているのだ。必ずや結果を示せ!」

「! ……はい! ありがとうございます。これからよろしくお願いします、ダールトン将軍」

「はい。こちらこそ、ライ殿下」

 

 ライとダールトンが握手を交わす。力強く、たくましいものだった。

 

「ふっ……マリーカ、貴様もしっかり自分の務めを果たせよ」

「姫様も私も、君の活躍を期待している」

「は、はい! 必ずや、ご期待にこたえてみせます!!」

 

 そしてコーネリアとギルフォードは後方に控えていたマリーカに声をかける。

 彼女のことはよく知っている。このような幼い少女にはまだ生きていてほしい。是非とも戦功を立てて帰ってきてほしいものだ。

 

 

 

――――

 

 

 

 コーネリアとギルフォードに別れを告げ、ライ・マリーカ、そしてダールトンは離宮への帰り道だった。使用人の車に乗ってダールトンから軍略のことや、コーネリア自身のことを聞いている。

 これからダールトンにはジェレミア達と共に日本侵攻に当たっての部隊編成や作戦会議を行ってもらう予定だ。

 

「しかし、本当に助かります。これで戦略の幅も広がりますからね」

「お役に立てれば何よりでございます。……姫様も、ライ殿下のご武運を祈っておりましたからな」

「コーネリア姉上、意外ではありましたね。私はコーネリア姉上は妹・ユーフェミア以外には冷たい方かと思っていたのですが……」

「ハッハッハ! ライ殿下もそのように感じておられましたか!」

 

 ライの言葉を受けてダールトンは豪快に笑う。敬語ではあるが、どこか接しやすさを感じる人柄だった。

 

「たしかにその一面もありますな。しかし、姫様は一度認めた相手にはとことん尽くす一面がありまして……昔はユーフェミア様の他にも、そのような方がいらっしゃたのです」

「へえ。一体誰なんですか?」

「……今は亡き、ルルーシュ殿下。そしてナナリー殿下です」

「!?」

 

 ダールトンはためらいながらも口にした。昔を懐かしむその様子はどこかさびしげである。

 そして呼ばれた名を耳にしてライは戸惑いを隠せなかった。彼の親友だった男と、その妹の名を。

 

「そのお二方はユーフェミア殿下とも交流がおありだったのですが……お二方がエリア11に送られ、亡くなられてからというもの、姫様はお二方のことまで『力なき弱者』とまで扱うようになり、以後ユーフェミア様だけを寵愛するように……」

「……それ、本当ですか?」

「はい。今となってはお二方の名前さえ出さなくようになりまして……」

「……」

 

 ――何かおかしい。

 ライはこの時疑問に感じた。話がかみあわない、と。そもそも、ライがコーネリアが(ユーフェミア)想いだと思っていたのは、世間的な話しもそうだが何よりもルルーシュから過去――ブリタニア本国で過ごした幼少時代のことを聞いたからである。

 だが彼はコーネリアとはそれほど親しくは無かったと言っていた。たしかに母・マリアンヌつながりでの交流はあった。だが、どちらかと言うとナナリーのことばかり見ていて、『あの人は完全なシスコンだ』とあのシスコンが言っていたほど。

 

 ――ツンデレか?

 ライは咄嗟にそう考えるが……すぐにその想像をかき消す。ありえない。あの人がデレるなんてありえない。デレ期なんて存在しない、と。

 

 なのでライは結論づける。

 きっとあれだ。ルルーシュも初恋の人(ユーフェミア)との美しい思い出以外は全て嫌なものなのだろう。コーネリアも近くにいるユーフェミアが可愛すぎたのだろう。そしてその妹を狙っている弟を警戒していたに違いない。

 

 そうしてライはこのことについて考えるのをやめた。

 もはやコーネリアは味方であり、ルルーシュは倒すべき宿敵で二度と会うこともないのだから……

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