相反のライ   作:星月

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第十話 『集結』

 ―― ブリタニア本国 夜 ――

 

 

「……ッ! ラ、ライ殿下! ……は、激しすぎます!」

「なにを言っているんだマリーカ。こんなの、まだまだだよ!」

「あぁぁッ!」

 

 マリーカが激しいと言っているが、まだまだだ。実際、カレンとやる時はもっと動きが激しい上に速い。

 マリーカも成長はしているが、それでもカレンには及ばない……まあ、マリーカとやるのは初めてだから彼女がこう言うのは仕方のないことではあるけれど。

 

 ……そういえば藤堂さんの突きも激しかったな。一度見たことがあるけれど、あの強気な千葉さんがあっという間にK.O.していたし。千葉さんがあんなに取り乱している姿は初めて見たが……

 

「そろそろ……いくよ!」

「……! きゃぁッ!」

 

 グロースターの銃撃を避けながらも接近していく。そしてすれ違いざまにランスで突き込む。

 マリーカのグロースターもランスで受けるが、勢いを完全に殺すことはできずにマリーカのランスは弾き返された。

 

 倒れそうになった彼女のグロースターの腕を掴み、機体を支えたところで戦闘終了。

 ……今は、僕とマリーカがナイトメアでの実戦訓練をしていた。決して疚しいことなどはしていない。

 

「今日はここまでだ。終わりにしよう」

「……はい。ありがとうございました」

 

 やはりマリーカも疲れているように見える。

 エース級のパイロットを相手にできるだけでも褒めるべきことなのだろうけど、やはりまだまだ強くなって欲しいと願ってしまう。

 

 最も僕が言わなくても、真面目な彼女ならこれからも腕を磨いていくだろう。

 

 

 

――――

 

 

 

「ありがとうございました。殿下自ら相手をしてくださって……」

「動きはますます良くなっている。一つ一つの無駄がなくなってきた。

 あとは新しい機体でなれていってほしいところだけど……ヴィンセントの調子はどうだった?」

「最初こそ機体の性能や空中戦であることに苦戦しましたが、今では適合率も70%に達しました」

「……このわずかな期間で?」

「はい。何度もシミュレータを行い、スコアが伸びてきたんです!」

 

 ……へたすればもう四聖剣とも互角に戦えるかもしれない。

 どうやら僕は彼女のことを過小評価していてしまったようだ。評価を改めておかないとな。

 

 陸上での戦闘のみだったナイトメアが空を飛べるようになったことで、たしかに戦いそのものは有利になったが、当然のことながらその分ナイトメアの操縦も難しくなってくる。

 空中での回避行動や陸上の敵へ向けての降下予測、相手も空を飛べるのなら空中での戦闘訓練も必要。

 

 事実、最初のシミュレータではマリーカのヴィンセントとの適合率は50%にも満たなかった。

 陸上での戦闘に慣れすぎていたというのも原因だったのだが……それが今では70%にまで伸びたと言う。本当に頼もしいな。

 

「頼もしい限りだ、頼りにしているよ。だけどやはりシミュレータと実戦は違う。

 相手の戦法や戦略目的も変わってくるだろうからね。……これからも精進を続けてくれ」

「はい! 殿下のご期待に答えられるよう、精一杯頑張ります!」

「うん。期待しているよ」

 

 向上心があることはいいことだ。そういう人間は限界を感じられないほどに強くなれる。

 彼女が素直な性格だということもプラスに影響している。ジェレミア卿やダールトン将軍達からも指導を受けているようだし、この調子ならば日本戦でも僕たちの期待に応えてくれることだろう。

 

「……殿下、宜しいでしょうか?」

「うん? ジェレミア卿か。どうした?」

 

 マリーカと休憩もかねて話し込んでいたのだが、休憩室にジェレミアが入室してきた。

 訓練も終わったころだけど、何か用件でも……ああ、そうだった。彼には頼み事をしていたんだった。

 

「すでに皆は集まっております。残るは殿下とマリーカのみです」

「わかった。……マリーカ、疲れているところ悪いけどもう少し付き合ってくれ。

 皆とこれから会議をしなけらばならない。……エリア11――日本について、ね」

「はい。大丈夫です!」

 

 マリーカの了承を得、僕達は皆が集まっているであろう離宮へと向かった。

 今日だけは、皆集まってもらわないと困るからな……

 

 

 

――――

 

 

 

 場所を移してライが住んでいる離宮。

 今その場所に、ライに忠誠を誓ったブリタニアの猛者たちが一同に会していた。

 

「……ライ殿下はまだ来られぬのか?」

 

 ブリタニア人にしては珍しい黒髪・黒目の青年が口を開く。

 男の名はロー・ペンバー。普段から口数が少ない寡黙な性格。その絶対零度のような冷たい目は冷静に、感情に流されること無く戦況を見渡し、またナイトメアの操縦にも長けていることからブリタニア軍内で数多くの功績を立てた男。

 

 ジェレミア卿の数少ない朋友であり、今回は彼の誘いに応じてライの部隊に加わった。

 

「なんでもマリーカさんとの一対一での訓練をしているそうですね~。一体なんの訓練なのかは知りませんけど(笑)

 先ほどジェレミア卿が呼びに行きましたよ~。……本当に、なんであんな暑苦しいおっさんを重用してんだか。もう少し人を選べよ」

 

 ローに答える様に金髪のまだ若い騎士が発言する。最後の発言は少しトーンを下げて小声で話していたが聞こえる者には聞こえている。

 名前はレイ・ストラー。歳はまだ22歳と、この中では最年少の騎士である。出自・能力共に問題ないのだが……その性格から以前の上司と問題を起こして左遷されたという経歴を持つ、ブリタニア軍きっての問題児でもある。

 

 しかしライとの年齢が近く同性であることもあって、意外と交流は深い。

 

「……口を慎めレイよ。その言葉はライ殿下への侮辱にも当たる。不用意な事を申すな」

「はーい。すみませーんホールトン将軍。ミーはこのとおり大いに反省してまーす」

 

 白髪の男性がレイを咎める。静かだが、有無を言わせない重みがあった。レイも言葉ではしっかりと謝罪の意を示した。

 リーガル・ホールトン。メンバー最年長であり、『血の紋章事件』も経験している老将軍。「老いてなお盛ん」の言葉を再現するように、若い騎士達にも負けずに指揮能力・ナイトメア操縦に長けた男。

 

 ダールトンの先輩でもあり、実質的な軍務の総責任者である。

 

「しかし自らナイトメアに乗り、ご指導までなされるとは……殿下には驚かされるばかりですな」

 

 賞賛の声をあげるのは、青髪の真面目そうな30代前半の男――テスラ・イプシロン。

 一兵卒からの叩き上げの将軍。ブリタニア帝国・皇族への忠誠心も厚く、能力も高いライのことを尊敬し、自ら日本侵攻のライの部隊への参加を表明した。

 

「はっはっは。ブリタニアにも未来を担う若い者が成長するのはよいことだ!

 ライ殿下は将来、シュナイゼル殿下やコーネリア殿下とも肩を並べるかもしれんな」

 

 豪快に笑い飛ばしたのが歴戦の猛者、アンドレアス・ダールトン。

 コーネリアの腹心の将軍だが、この作戦にあたってコーネリアがライの元に派遣した。

 

 一際大柄の壮年で、戦術・戦略の要となっている。

 

「……ハッ、くだらない。未だに戦場を知らぬような者がどれだけ騒ごうと、戦場を知ればどうなるか……」

 

 逆にライに対して冷たい発言をする者もいる。

 髪がオレンジ色のの中年の男――ボーア・リュードベリ。勇猛果敢な戦士であり、常に最前線に立ち続けるブリタニアの闘将。若干血の気が多いのが難点である。

 

「いや~。実際ライ殿下なら何の問題もないと思いますよ。僕もあの方の実力には思わずぞっとしちゃいましたからね~」

「……はい。本当にあの方は本物だと思います」

 

 楽観的に自分の意見を述べたのはその身に白衣を纏ったマッドサイエンティスト――ロイド・アスプルンド。

 ナイトメア開発など、技術開発担当の責任者。新型のナイトメアの開発も行っており、ライの隊のナイトメア配備を充実させた男である。性格にこそ難あれ、その実力は誰もが認めていることだ。

 

 そしてそのロイドの言葉を受けて発言したのは彼の補佐官、セシル・クルーミー。

 ロイドの補佐を行いながら、庶務全般での活動をしている。ナイトメア開発にも関わっている。

 

 ちなみに普段は温和な性格だが、怒らせるとライ以上の権限を持つ数少ない女性。

 

「もともとライ殿下はそれだけの実力を陛下に示したからこそ、今回の任務を命じられたんです。……あ、ちょうど来たみたいですよ」

 

 ライのことをよく知っているように話したのは彼の選任騎士――カレン・シュタットフェルト。

 その実力は誰もが認めており、ナイトメア操縦においては他を寄せ付けない。ライとはお互い愛し合っており、時には主君と騎士の関係も忘れてしまう。

 

「……すまない。待たせてしまったね」

 

 彼らの会話を遮るようにその言葉と共に入ってきたのは彼らの主。

 

 見たもの全てを魅了するような存在。

 王の風格と騎士の器を併せ持った選ばれし者――ライ・フォン・ブリタニア。

 

 この個性あふれる強者たちをまとめる総司令である。

 

 その隣に立つのは彼の従卒にも任命された少女――マリーカ・ソレイシィ。

 若干15歳という少女。カレンとの因縁から解放された彼女は急成長を遂げ、ライからの信用をたしかに勝ち取った。

 

 そしてライの親衛隊隊長――ジェレミア・ゴットバルト。

 忠誠心は人一倍で神聖体調の任命以前からライのために駆け回っており、ライが一番信をおいている人物。その実力はラウンズ級である。

 これだけの人材を集められたのは間違いなく彼の働きがあってこそのことだ。一番の功労者と言っても過言ではない。

 

 主の出現に、騎士達は姿勢を正して膝を着く。

 ライの許可の言葉を受けて彼らは立ち上がり、各々の席に着いた。

 

 全員揃ったことを確認し、ライが発言する。

 

「今日は夜分に集まってもらってすまなかったね。だが、この時間帯だからこそスパイなどが現れても問題なく対処できると思ってね」

「……それで殿下~。ミー達を呼んだということは……もう準備ができているってことでいいんですよね?」

「いよいよですか……」

 

 レイとテスラの発言で、部屋の空気が変わる。

 ライの表情も真剣そのもの。ライは静かに顔をあげると……全員に告げた。

 

「ああそのとおりだ。皆もすでに覚悟はできていることだと思うが……明日の夜明けと同時に、我らは日本に攻め込む」

 

 戦いの幕開けを。

 それはこれから始まる大決戦の準備が完全に整ったということを示していた。

 かつての仲間達との悲しく、そして壮絶な戦い――――開戦の時は、近い。

 

 

 

『明日の夜明けと同時に、我らは日本に攻め込む』

 

 ライが自分につき従う部下達を前にして宣言した言葉。

 その場に集まっている者は知らないことだが、それはまさに、ライと彼の旧友たちとの完全なる決別をあらわしたものだった。

 

 ライがブリタニア皇帝・シャルルより、合衆国日本の掃討を命じられてから二十日余りがたった。人員・武装共に準備は整っている。

 主の命令さえあれば、いつでも日本への出撃が可能だ。

 

 そしてその主の言葉を受け、騎士達の顔も戦場のそれと同様になっている。

 

「今日は、前回君達にデータで送った作戦をこの場で改めて協議する。何か意見があるものは誰でも、どんなことでも申し上げてくれ。この場において、身分の上下は問わない。

 ……まあそんなに固くならずに、紅茶でも飲みながら話そうじゃないか」

 

 各々が事前にライよりうけとった資料を取り出す。日本侵攻のルート・軍編成・戦略目的などがこと細かく書かれている。今回の侵攻戦にあたってライが作成したものだ。

 今日彼らが呼び出されたのは指揮官である彼らと会議・最終確認を行うためでもあった。

 

 ライは仕えているメイドが運んできた紅茶とケーキを各将に配らせると、皆に勧める。 

 

「……殿下。しかしながら……」

「ん? どうしたロー。……ああ、そうか。僕が先に口にしなければならないか」

「……いえ、そうではなく……」

 

 口数が少ないローが一度ケーキに視線を移した後、ライに珍しく話しかけた。

 ライはその様子を見て、臣下が主君を差し置いて先に食事をとるわけにはいかないとローは思っていると感じた。

 

 なので、自分が最初に食べ始めなければ始まらない。

 ライは一口ケーキを口に運んだ……しかし……

 

「……!? うっ……!!」

 

 ケーキを口にしたライが、口に手を当てて……床に倒れこんだ。

 

「「「殿下!?」」」

「……やはりか」

 

 他の者が驚愕するなか、ローはどこか予想通りでも言うように呟いた。

 ……実を言うと、ローとレイの二人はここに来たときに見てしまったのだ。セシルが、離宮の調理場に赴き、メイドと何か話しかけているのを……

 

「セシルさ~ん。一体このケーキに何入れました?」

 

 レイも同じ結論にたどり着いたのだろう。

 おそらくこの元凶である彼女にこのケーキに何を仕掛けてたのか尋ねる。

 

 ……余談だが、ここにいる者達は皆セシルの料理を経験してしまっている。ゆえに、彼女の料理がどれほどの破壊力を秘めているのか、その身をもって知っているのだ。

 

「変なこと言わないでください! 私は普通に作っただけです!!」

「……皆さんお気をつけくださ~い。このケーキ、普通に致死性の毒が入ってるみたいで~す」

 

 レイが皆に呼びかけるがもう遅い。すでに彼らの主・ライはケーキを食べてしまった。

 ジェレミア達が傍に駆けつけるが……ライの意識はどんどん薄れていく。

 

「……セ、シル……さん……」

「殿下、喋らないでください。……いえ、やはり喋り続けてください!」

「意識を確かに! 眠ってはなりません!!」

「すぐに医師を呼べ!!」

 

 今意識を失えばへたすればそのまま眠ってしまう可能性がある。

 ゆえにジェレミア達は必死にライに呼びかけた。だが、騎士達に返している言葉はあまりにも弱々しく、今にも消えうせてしまいそうなほどだった……

 

「…………今まで、味わった事がないような……新鮮な味でしたよ……」

「「「殿下あああああ!!!!!」」」

毒殺未遂(このようなめ)に会われても、それでもなお部下を気遣って……!」

「一生ついて行きます!」

「殿下! あなたの勇気と男気、私は一生忘れません!!」

 

 そのような状況下で、責めることなくセシルを気遣うライに騎士達は感動さえ覚える。

 皮肉にも、この瞬間が騎士達のライに対する忠誠が今までで一番高まったときだった。

 

 ……というかテスラよ。感服するのは別に良いが、勝手に自分の主であるライを殺すな。

 

「…………」

「……殿下? 殿下!!」

 

 それだけ言うと、ライはその目蓋を閉ざした。

 ジェレミアが何度もライに呼びかけるが、返事は返ってこない。

 

 ――愛する母と妹を守るために、若干12歳という若さで王の座まで上り詰めた若き秀才。

 

 この時代においても、彼のパートナーであるカレンと共に大国・ブリタニアと戦い抜き、ついには黒の騎士団の双璧と味方に謳われ、敵に恐れられた戦士。

 そして再び皇子としてブリタニアに舞い戻り、存在するだけで黒の騎士団を震え上がらせた猛者。

 

 100年に一度――いや、1000年に一度生まれるかどうかの風雲児はこうして再び眠りに着いた。

 この時、ライ17歳。今大きく世界にはばたこうとしていながら、その才能をいだいたまま…………

 

「【コードギアス 相反のライ 第一章】完。

 皆さん、ご愛読ありがとうございました。ミーの大活躍と、すた~先生の次回作にご期待くださ~い」

「何を言っておるかレイ!!」

「殿下……また、私は……今度はライ殿下まで……!!」

「そんな……私が人口呼吸を……!」

「あ! シュタットフェルト卿ずるいです!」

「……ねえ。君達がノリノリなのはわかったからさー、そろそろ僕に殿下を診せてくれる? 早くしないと本当に危ないよ?」

 

 開き直るもの、悲しみに浸るもの、欲に走るもの……騎士達はそれぞれ思いに浸った。

 そんな中、むしろ通常まともでないロイドが一番まともな発言をする。

 

 ……余談だが、まだ連載は続くので安心していただきたい。

 

 

 

――――

 

 

 

 そして10分後。ロイドの必死な治療もあってライはなんとか眠りから目を覚ました。

 ちなみに使用人達には、いかなる状況に陥っても二度とセシルを調理場には連れ込まないよう一人一人にギアスをかけた。今は念のため、新しく入れなおした紅茶だけが並んでいる。

 

 そこ、ギアスの無駄遣いとか言わない。それだけ重要なことなんだから。

 

「……さて、すまないね。話しの途中だというのに取り乱してしまった」

(((いや、あれは取り乱したとかの問題じゃない。冗談抜きで殿下の命が危なかった!!)))

 

 咄嗟のことながらその場にいる者達全ての心がシンクロする。これほどまでに曲者ぞろいが集まっているというのに、集う者達の心を一つにしたのはブリタニア建国以来、いや世界の創造以来初めてのことではないだろうか。一体どれだけの破壊力を持っているというのだ、セシルの料理は。

 

「さて、脱線してしまったが話しを戻そう。

 ……今回の作戦は皆にも事前に申したとおり、日本の首都・トウキョウが戦略目標だ。ジェレミア卿、頼む」

「はっ」

 

 ライに返答し、ジェレミアがライのすぐ横に立つ。ジェレミアが目配りすると、部屋の隅に立っていた給仕達が一礼して部屋を退出していく。

 そして、その扉が完全に閉められた事を確認すると、ジェレミアは口を開いた。

 

「それでは、これより現在の日本の情勢について説明させていただく。

 僭越ながら、司会はこの私ジェレミア・ゴットバルトが全力で務めさせていただく」

 

 ジェレミアが言うと、上から巨大なモニターがゆっくりと降りてきた。

 他の者達も全員意識をモニターに集中させる。こういう意識の切り替えはさすがというべきだろう。

 

「全員知ってのとおり、トウキョウは現在の日本の首都であり、政治・経済の中枢である。また、世界屈指の要塞都市でもある。ここを落とせば日本にとっては大きな痛手であり、我々にとっては日本侵攻にあたって最高の足がかりとなる」 

 

 モニターにトウキョウ周辺の映像が映し出される。中にはかつてブリタニア政庁だった場所も見える。要塞都市というだけあってその守りは堅い。

 ただでさえ攻撃側と防衛側では、防衛側の方が有利なのである。一般的に攻撃側は防衛側の二倍から三倍の戦力が必要とまで言われる。黒の騎士団に守りに徹しられたらなかなか落とせないだろう。

 

 日本人は一度ブリタニアの植民地にされた経験から、二度と他国に支配されまい、と言う気概を持っている。そのため士気も高いだろう。

 ……だが逆にそのトウキョウさえ落とせば、戦況はブリタニアに優位に働く。

 

「次に黒の騎士団の戦力についてだ。騎士団もナイトメア開発が進んでいる。

 敵は独自のフロートユニットをも開発し、騎士団のナイトメアも空中戦が可能となっていることが判明した。

 まだ数は出揃ってはいないだろうが、それでも騎士団の要注意人物達には全員与えられているだろう」

 

 騎士団特有のフロートユニットの写真。ブリタニアの翼型と違って、短いX字型の外観となっている。見た目は全然違うが、性能はほとんど同じと考えていいだろう。

 

 そして続いて黒の騎士団の主要メンバーの写真が一人一人出てくる。

 ゼロ、藤堂、四聖剣。……そして、スザク。日本では独立を成し遂げた英雄とも謳われている者達だ。

 

「騎士団で要注意すべきはこの者達だ。

 ゼロはナイトメア操縦はそれほどではないが、あの者の指揮能力・カリスマ性は卓越している。

 続いて藤堂と四聖剣。彼らは旧解放戦線の軍人。今の騎士団の主戦力だ。

 ……そして、枢木スザク。ランスロットのパイロットである。現段階では彼が一番の障害だろう」

 

 枢木スザクの名前が出た瞬間、メンバーの表情が変わる。

 悲しく思うもの、嫌悪感をかもし出すもの、苦々しく思うもの。……思いは人それぞれである。

 

「……まあ、そんなのどうでもいいですよ~。どうせ、騎士団の双璧とやらはもういないんでしょ~?」

「ああ。黒の騎士団の双璧はすでに無く、注意すべきはこの者達くらいだ」

 

 レイが場の雰囲気を変えようと、話題転換とばかり双璧の話しを出す。

 ……表情には出さないが、ライもカレンも複雑な状況だった。

 

 スザクという最強の戦士を手に入れたが、その分騎士団は最高戦力と呼ばれていた黒の騎士団の双璧を失った。実質的にはプラマイゼロである。

 

「新型ナイトメアなどの詳しいデータまでは確認できなかったが、性能はヴィンセントと同等と考えてよいだろう。その点を忘れずに、油断はせずにいただきたい。

 ……日本・黒の騎士団の報告については以上だ。他の細かい点は資料を見てもらうとして、他に何か聞きたいことや意見はあるか?」

 

 全員を見渡すが、特に誰も意見は出さない。

 敵については十分理解できたのだろう。残る問題は、それに対して彼ら自身がどういう風に動くかだ。

 

「それでは、今回の日本討伐軍における軍編成を発表する」

 

 モニターの映像が再び変わる。

 今度はブリタニア軍の騎士達が各々の場所に布陣されている映像だ。

 

「今回の作戦において我々は前軍、中軍、後軍の3つの部隊に分かれる。

 前軍、右翼を指揮するはダールトン、ボーア。中央は私とロー。左翼をマリーカ、レイ、テスラが指揮をとる。

 中軍はライ殿下とカレン。後軍にアヴァロンを設置し、ホールトンが指揮をとる。

 進軍にあたり、我々は太平洋を通り、ベスタ島にて補給を行ってから日本本島に進撃する。……ここまでで何か質問はあるか?」

「は~い。ミーが質問しま~す」

「なんだレイ」

 

 レイが積極的に質問する。

 ちなみにベスタ島とは太平洋に浮かぶ小さな島で、ブリタニア領土となっている場所。日本とブリタニアの中継地点のような場所でありブリタニアの補給ポイントだ。

 

「なんで殿下をアヴァロンに搭乗させないんですか~? アヴァロンの防御力くらい、ジェレミア卿の残念な頭でも知っていますよね~? 事実、皇族の方は後軍で全軍への支持に徹するのがフツーですし、シュナイゼル殿下だってアヴァロンで後ろに下がっているじゃないですか~」

 

 レイがもっともな意見を出す。

 アヴァロンの防御力は軍艦最高といってもいい。改良に改良をかさね、今の状態なら輻射波動砲弾とて防げるほどの防御力を誇る。また、アヴァロンにはハドロン砲は装備されていないがレールガン、つまり電磁加速砲は七門装備されているため攻撃も問題ない。

 

 ちなみに電磁加速砲とは、リニアモーターカーと同じ原理で電磁石を利用し、砲弾を発射する砲のことである。初速が速い分、運動エネルギーが増すので同口径の火薬式の砲よりも威力がある。

 さらに、電磁加速砲は磁力の反撥力で砲弾を発射するので砲身と砲弾が接触せず摩擦が起きないので速射が可能なのである。

 

「それについては僕が説明する」

 

 レイの問いに対し、ジェレミアに代わってライが話しだす。

 

「確かに本来なら僕だってそうするさ。相手が正攻法を仕掛けてくる相手ならばな。

 ……だが、今回の相手はあのゼロだ。正攻法などしかけてくるはずもない相手。今まで幾度も奇襲をしかけ、成功して来た男だ。

 今回もおそらくはトップ――つまり僕を狙ってくるだろう。だからこそ、あえて防御力の高いアヴァロンには搭乗せず、中軍でゼロの様子を伺う」

「……つまり、ライ殿下はゼロが今回も奇襲を仕掛けてくると?」

「ああ。僕が予想しているのはベスタ島から日本本島までの道。その間にゼロが奇襲を仕掛けてくると思っている」

 

 ライは視線をモニターに移す。

 進軍予定ルートの途中を指差し、ゼロが仕掛けてくるであろう点を指す。

 

「ならば後軍に戦力を固めたほうがよいのでは? これでは攻めに戦力を集中させすぎです。ゼロに奇襲を仕掛けてくれと言わんばかりです」

「そうだ。僕の狙いはゼロに奇襲をさせることにある」

「……意味がまったくわかりませ~ん。殿下の脳みそとろけてるんじゃないですか?

 なんで敵の作戦を助けるような布陣で挑むんですか~?」

「先も言ったが、トウキョウは世界屈指の要塞都市。守りに専念されたら攻め落とすのは一苦労だ。

 だからこそ、黒の騎士団を要塞から引きずり出し、対等な条件化で一気に勝負を決める」

「……なるほど、そういうことでしたか」

 

 ライの言うところによるとこういうことだった。

 戦いの重点は黒の騎士団との対決。黒の騎士団さえ破ればトウキョウとて長くはもたない。

 

 だが、もしライの周りに戦力を固めればゼロは奇襲を諦めてトウキョウの守りを固めるに違いない。

 そうなればトウキョウを攻め落とせず、黒の騎士団も破れずということになりかねない。

 

 黒の騎士団からしてみてもブリタニア本国からの援軍が来るまでに片付けたいはず。国力ではブリタニアの方が上なのだ。となるとゼロからしてみればこれまでどおり、一刻も早く敵将を倒して油断した敵軍を打ち取り、戦力を温存したいはず。

 

 そしてそうなったときのためのこの布陣なのだ。

 騎士団がアヴァロンを制圧しようとしても、あの堅固な守りを突き破るのは容易ではないし、指揮をとるのは歴戦の猛者ホールトン将軍。兵達の信用も厚く、そう簡単には倒せる相手ではない。

 そしてその間に中軍からライとカレンが出撃する。そうなれば騎士団は今度はそちらに注意をむける。そうなれば敵がもたつき挟撃も可能になり、そこに前軍部隊が駆けつければ黒の騎士団は袋のねずみというわけだ。

 

「……よくそんな清々しい紳士のような顔をしてこんなえげつない作戦思いつきますよね~。

 到底同じ人間とは思えなせ~ん。だけどそこにシビレる、憧れるゥ!」

「……一応ほめ言葉と受け取っておくよレイ。

 さて、理由については述べた。他に何か貴公達から意見はあるか?」

「……いえ、何も」

「ミーもありませ~ん」

「殿下がそこまでお考えならば、私の方から申し上げることはありません」

「お好きにどーぞ」

 

 ライが全員に問いかけるが、特に意見はないようだ。

 ここまで自分で作戦を立てられるならば、指揮も問題ないと判断したのかもしれない。

 

「わかった。ならば今日の目的はここまでだが、出陣前に一つだけ貴公達に言っておく。……死ぬな。生きろ」

「「「……」」」

「死んでしまっては何の意味もない。命あれば再び立ち上がることもできる。

 指導者ゼロを捕らえるのは最重要事項だが、貴公達ブリタニアが誇る歴戦の猛者が生き残るのは最優先事項だ」

 

 ライの発言に騎士達は呆然とする。

 ……ああ。この人は騎士の資格があっても、軍人にはなりえない。

 

 弱さとも取れる甘さ。それがライの長所であり、短所であった。

 

「……承知。元より、死ぬ気などありません」

「わかりましたけど~、間違っても戦場ではそんなショコラテよりも甘ったるいこと言わないでくださいね。

 逆に戦意がうせますし、それに……あんなやつらにミーが殺されるなんて、笑えない冗談もいいとこなので」

 

 各々思うとところがあるだろうが、騎士達は了承し、ライに一礼して去って行く。

 残ったのはライ、カレン、ジェレミアの三人のみ。

 

 使用人達も後片付けに入ってくるが、そんな中ジェレミアが口を開いた。

 

「殿下。私の方から一つよろしいでしょうか?」

「ん? なんだジェレミア」

「なぜ、出撃が明日の夜明けなのですか? 兵達の休養なら十分取らせてあります。

 こちらの準備が整ったならば、騎士団にあまり時間を与えないうちに攻め込むことが上策だと私が考えますが……」

「ああ、そのことか。……それは黒の騎士団じゃなくて、彼らに考える時間を与えたくてね」

「彼ら……?」

「ああ。ジェレミア卿……白の騎士団(ホワイト・ナイツ)を、明日の訓練前に全員呼んでくれ」

「! ……なるほど、そういうことでしたか。承知しました」

 

 ジェレミアはライ意図を理解して、下がって行った。

 すでにブリタニアの準備は整っている。あとは、彼らの意思の確認だけ……

 

「ライ、彼らはもう……」

「念のためだよ。彼らとて、彼らの事情があるからね。……道は示すさ。その後は、彼等次第だ」

 

 

 

――――

 

 

 

 一方、同じころ日本でも会議が行われていた。

 司令室には騎士団の幹部が全員集められている。

 

 ゼロをはじめ、藤堂、四聖剣、スザク、扇といったメンバーである。

 

『……以上が、今回我々がとる作戦だ。何か意見がある者は?』

「確かに戦力で劣る我々に奇襲は必要不可欠だ。だがしかし……」

「そうだ。今回俺達は防衛側だろう? なら無理に出撃せずにトウキョウに篭城した方がいいんじゃないのか?」

『確かに、相手がかつての我々のようなレジスタンスが相手ならばそれで問題ない。

 だが相手は大国ブリタニア。時間をかければ援軍もくるだろう。そうなれば我々に勝ち目は無い』

「それは……そうだな……」

 

 ゼロの意見に扇は黙り込む。

 あらゆる面で日本はブリタニアに劣っているのだ。ならば彼らには短期決戦しかない。

 

『よし、ならば今日のところはここまでだ。ブリタニアもおそらく近日中に攻め込んでくるだろう。その前に、私の方からお前達に言っておく。

 ……戦え! 死ぬまで戦い続けろ! 負けてしまっては何の意味も無い、またエリア11の姿に戻るだけだ!!』

「「「……ッ!!」」」

 

 ゼロの言葉で、彼らの脳裏には占領時代の日本の姿が思い浮かぶ。

 負ければ再びあのころに戻る。また日本の誇りを、名前を奪われる……

 

 皮肉にも、ライが彼の部下に言ったこととゼロが騎士団員に命じたことは完全に相反するものだった。

 

『ブリタニアに容赦などいらない。ライ・エル・ブリタニアを……見つけ出して殺せ!!』

 

 だからこそ、ゼロはかつて自分達を守ってきてくれた親友の殺害を命じる。

 交わっていたはずの道は、もはやかけ離れてしまった……

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