相反のライ   作:星月

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第十一話 『出陣』

 作戦会議から一夜明け、ブリタニア軍の兵士達はそれぞれ出陣に向けての準備を進めている。

 そんな中、ライから命を受けた彼の直属部隊――『白の騎士団(ホワイト・ナイツ)』が呼び出されていた。

 

 早朝から訓練を行っていたが、呼び出しに応じてライの元へと赴く。

 臣下の礼をとると、彼らを代表して中年の男が前に出てライに挨拶する。

 

「ライ隊長。命を受け我ら『白の騎士団』、全員参上しました」

「ああ、すまないな。忙しい中よく集まってくれた。感謝するよ」

 

 ライを隊長と呼び慕う者達。彼らが喋っている言葉も日本語である。

 実を言うと、この部隊は全員が日本人で構成されている。――つまり、黒の騎士団の離脱者だ。ライとカレンを信じ、日本を捨ててでも共に戦うことを選んだ人物である。

 それだけ黒の騎士団にとって『騎士団の双璧』という存在は大きかった。まだ若いながらも戦場に立つ事を選び、その姿から日本人の希望の星とまで呼ばれていた少年少女。まだ幼いとはいえ、勇敢に戦場に赴く彼らを尊敬までしていたのだ。

 

 当初こそ40人ほどのメンバーが在籍していたが、やはり日本への愛着か、旧友への未練か、あるいはブリタニアへの嫌悪か、環境になじめなかったのか。……こちらでも離脱者が現れだした。

 現在は20名足らずの人員である。

 「来る者は拒まず、去る者は追わず」。ライは脱走者を咎めなかった。この姿勢を受けて残り続けたのが今の『白の騎士団』である。黒の騎士団と――しいて言えばゼロと相反する者達の部隊だ。

 

 そしてこの隊の隊長を務めているが今ライの目の前にいる男――宮本武(みやもとたけし)である。

 黒の騎士団にはナリタの戦いから在籍し、その実力からゼロの信頼を勝ち取って一番隊副隊長を務めていた人物だ。ナイトメア操縦に長け、他隊員から信用されていることもあってこちらでも隊長に任命された。 

 

「……すでに皆にも伝わっていることだろうが、明日の夜明けに我々は日本へと出陣する」

「……はい。わかっています」

 

 分かりきっていたことだ。ライとカレンにつき従うということは、それはすなわち故郷への、共に戦ってきた戦友達への裏切りであり、道をたがえるということくらい。

 だがそれでも、自分で選び決断したはずなのに他人から言われると迷いが生まれる。

 ――本当に良いのか? これで満足しているのか? このままこの道を選んで……本当に良いのか? 未練はないと、後悔はしないと言い切れるだろうか?

 

「今回の戦いは、日本への侵攻だ。つまり今までの同志であった黒の騎士団と、仲間であった者達と、背中を預け合っていた者達と戦うことになる。

 貴公達の家族が、友がいる――生まれ育った故郷と戦うことになる。それら全てを敵に回すことになる」

「「「…………」」」

 

 かつてブリタニアは日本を占領し、植民地と化した。

 彼らはその現状を是とせず、再びかつての姿の日本を取り戻すために立ち上がった者達だ。

 

 それなのに、彼らは今ブリタニアにいる。日本を滅ぼそうとしている敵側に(ブリタニアがわ)。……愛する日本を敵に回して……

 

「ゆえにこれは最終通達、最後の選択だ。

 私から貴公達へ告げる。……去りたいものは去れ。幸いにも今から準備すれば、荷物をまとめてからでも我らブリタニア軍が出陣する前に日本にたどり着けるだろう。そして、黒の騎士団に合流することも十分できるはずだ」

「なっ……!? 隊長、何を……!!」

 

 てっきり部下達はライが『私のために戦え』『故郷を捨てろ』『感情に囚われるな』など、そういう言葉を発すると彼らは思っていた。いや、ある意味では期待していた。

 だが、実際はその逆。自分のために戦うことを命じるどころか、騎士団(てき)に合流したいものは合流して構わないと言っている。そのために時間を確保したのだと。

 

「私には貴公達を縛り付ける権利などない。先も言ったがこれは今までの戦いとは違うのだ! 

 同胞との戦いになる。故郷への裏切りになる。負ければ全てを失い、勝ったとしても君達には『裏切り者』の名が付きまとう。

 もし真に日本のことを憂えるならば……今からでも遅くはない。ここは貴公達がいるべき場所ではない、日本へ戻れ。ゼロも君達のことを咎めはしないだろう。全てを捨ててでも、私達について来てくれる者達だけ残ってくれ。

 ……今までよく仕えてくれた。ここで去っても私は責めはしない。君達の覚悟に、心から感謝する」

 

 そう言うとライは立ち去ってしまった。

 戦士に命令を強制するのではなく、ただ道を示しただけで王は去ってしまった。

 

 今ならまだ引き返せる。確かにそのとおりだ。

 残った戦士達に戸惑いの色が広がっていく。……そんな中、宮本は一人、遠くなっていくライの背中を見ながら拳を力いっぱい握り締めた。

 

「……どうしてあなたはいつも、我々に命じてはくれないのですか」

 

 ――共に戦ってくれと。

 発せられた声は震えていた。その先の言葉は心の中に押しとどめられた。

 彼ら戦士が求めていることは王の慈悲ではない。共に戦うことを認めてくれる、そう導いてくれる強い言葉だというのに、そのためにここまでついてきたというのに。

 幼い背中が語るのは優しくも厳しいものだった。

 

 

 

――――

 

 

 

「……ライ、あれで本当によかったの?」

 

 カレンが心配そうに呟く。

 良くも悪くも『白の騎士団』はライの直属部隊であるためにライとの接点が多かった。そのためブリタニア軍の戦力・戦略なども知っている。

 もしも本当に彼らまで離脱するようなことになれば、騎士団の戦力が増すどころか情報を提供することになる。騎士団に優位に働くことに他ならない。

 それはライも十分わかっている。だが彼女の呟きに答える声はいつもとなんら変わりない。

 

「構わないよ。彼らも日本人なんだ。各々の事情もある。

 今が彼らの分岐点なんだ。かつての僕のように、ね。それなのに僕が彼らの道を強要させるわけにはいかない」

「ライ……」

 

 ――分岐点。ライならばあの行政特区宣言の日にスザクと話したことが、カレンならばあのV.V.との出会いがまさにそうだった。

 あのときの選択で、二人は今ここにいる。その時の選択が正しかったのかはわからない。でもこれは確かに自分で選んだ結果だ。それなのに、選ぶ権利を持っていたはずの自分達が他人の選択肢を決定するわけにはいかない。

 

 カレンは立ち止まると、ライの正面に立ってライを抱き寄せた。

 

「たとえ誰が敵になったとしても、私だけは傍にいるからね」

「……ああ。信じているよカレン。君だけは……」

 

 二人はお互い見つめあうと、絆を確かめ合うように、さらに深めるように唇を重ねた。 

 口付けは、ほんの一瞬だったけれど、2人の顔が離れるとお互いの視界には頬を赤く染めるパートナーが映る。

 そのまま2人は見つめあい、もう一度だけ唇を重ねた。

 

 

 

――――

 

 

 

 出陣に向け、各々が準備を進めていく。

 

「キューエル、行ってくるね。必ずあなたの代わりに、役目を果たすから……!」

 

 ある者は、今は亡き者に対して誓い……

 

「ではコーネリア殿下。……これにて失礼します」

「ああ、期待しているぞダールトン。お前の力で弟を支えてやれ」

「……将軍、ご武運を」

 

 ある者は、自分の主君に挨拶を告げ……

 

「はっはっは。どうしたのだロー? 腕が鈍ったのではないか? ボーアも遠慮はいらんぞ?」

「……まだだジェレミア!」

「腕ならしはここからでしょうが!!」

 

 ある者達は、戦いに向けて闘志を燃やし……

 

「すみませ~ん。このパフェもう二つプリーズ」

「……レイ隊長。あまり食べ過ぎるのはどうかと……」

「いいんですよ~。なにせもうすぐ血生臭い戦場に赴くんですから。……だからその前に、せめて今くらいは甘い一時を楽しませてくださいよ。ひょっとしたら、これが最後になるのかもしれませんから」

 

 ある者は、戦いに向けて戦意と体力を温存し……

 

「……ここまでとするか」

「ええ、そろそろ時間です。参りましょうホールトン将軍」

「ああテスラ。行くとしようか、我らが主の御前へ」

 

 ある者は、情報の確認を念入りに行い……

 

「ロイドさん。紅蓮も準備はできました」

「そっか~。それじゃあ朴達がやることはもう何もない。……いよいよだね、セシル君」

「……はい」

 

 ある者は、離れてしまった少年の身を案じ……

 

 

 そして、ついに出陣の時がきた。

 ライをはじめとして、ブリタニアの騎士達が集う。準備は整った。いつでも出発できる。戦士達は次々と戦艦に乗り込んでいく。

 

「……ライ隊長!!」

「ん? ……ああ、来てくれたか」

 

 騎士達が次々と戦艦に乗り込む中、『白の騎士団』が全員やってきた。 その瞳にはもう迷いはない。

 

「隊長。我らは隊長達に憧れ、ともに戦う道を選びました。

 たとえ裏切り者の名を冠することになろうとも、ここにきてお二人を見捨てて日本へと戻るような卑怯者に成り下がりたくはありません! 我々はもう覚悟を決めております!

 どうか……我々『白の騎士団』を、隊長達と共に戦わせてください!!」

「「「お願いします!!」」」

 

 宮本が隊員達の総意を述べ、隊員全員が頭を下げる。

 カレンが不安そうな表情でライを見つめるが、ライは笑みを見せると隊員達に告げる。

 

「……わかった。これ以上の問答は覚悟への無礼にあたるだろう。貴公達にはもはや何も言うまい。

 私に着いて来い! 共に戦い抜き、大いに戦功をあげよ! 貴公達の活躍を私の目に焼き付けさせろ!」

「「「はい!!」」」

 

 ライの言葉に彼らもまた力の限り答える。もはや彼らに言うことはない。

 あとは戦場で共に語るだけだ。彼らの生き様を、信じた道を。

 

 

 皇暦2018年2月10日。

 世界唯一の超大国、神聖ブリタニア帝国は合衆国日本に宣戦布告した。

 

 ブリタニア軍の総司令は第三位王位継承者、ライ・フォン・ブリタニア。

 迎え撃つ日本軍の総司令は黒の騎士団のトップ、ゼロ。

 

 かつての侵略戦争から7年半、合衆国日本独立から三ヶ月がたったときのことだった。

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