相反のライ   作:星月

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第十二話 『ゼロの策』

 ―― 太平洋 上空 ――

 

 世界最大の海洋であり、またブリタニアと日本を隔てている大きな海――太平洋。

 今、広大な海が広がっているその上空にはブリタニアの精鋭達が乗る空母が多数飛んでいる。

 

 その中で、ライは予定通り中軍の艦隊『カムラン』に乗っている。

 司令室に腰かけ、黒の騎士団の急襲に備えて警戒していた。傍にはカレンが控えており、有事の際にはすぐに動けるように準備をしている。

 

 そんな中、先手を務めていたジェレミアから通信が入る。

 

『殿下。先行部隊は全員、予定通りベスタ島に到着しました』

「了解した。付近に騎士団の姿は見えるか?」

『いえ。今のところ、一つも反応はありません。黒の騎士団もまだ潜伏を続けているものと思われます』

「わかった。ならばダールトン、ボーアの艦隊から補給を開始させろ。他の部隊は引き続き、周囲の警戒を怠るな」

『Yes, Your Highness』

 

 ジェレミアからの報告を受け、回線を切ると再びライは全軍の位置が移っているモニターへと視線を戻す。モニターには行動進路図が映し出されているものの、そこに敵軍を示す赤いマークは存在しない。

 作戦立案のころからある程度想像していたことだが、ここまでの道筋の中で黒の騎士団との遭遇は一切なかった。

 

「……ここまでは特に異常はないわね」

「ああ。ゼロもさすがに、このような場所で仕掛けたりはしないさ」

 

 隣で控えているカレンの言葉にライも同意する。

 

 もとよりライはここまでのルートでの騎士団の奇襲はまずないだろうと考えている。

 もしもゼロ――ルルーシュが奇襲を行うとしても、仕掛けるならばより日本に近いベスタ島から日本までの進行ルート上だと考えているのだ。日本への引き上げの問題もあるが、ブリタニアの援軍のこともある。補給の問題も出てくる。

 総合的に考えて、日本に近い場所での奇襲の方が成功率も上がるのだ。それくらいはゼロも知っていることだろう。

 

 だが、だからこそ逆をついてくる可能性もある。何せ相手はあの策士。お互いを知り尽くしている相手。

 それゆえにライは警戒を怠らなかった。それは旧友の実力を認め、彼を自分と同等以上の実力者であると認めているということだった。

 

 

 

――――

 

 

 

 そしてその三十分後。

 ライの『カムラン』をはじめとした中軍も全てベスタ島に到着した。

 

「ダールトン、ジェレミア。……どう思う?」

「……それはゼロのことでしょうか?」

「そうだ。貴公達の意見を率直に聞きたい。なんなりと申してくれ」

 

 到着早々、ライは前軍の代表者であるダールトンとジェレミアを呼ぶ。

 すでに前軍の艦はほとんど補給を終了しており、カムランも補給を始めていた。

 

 この二人はエリア11時代に、黒の騎士団と戦い、ゼロのことを誰よりもよく知っている人物なのだ。彼らの意見を尊重することで対策を十二分に行うことが出来る。

 

「私が知るゼロならば、必ずや来るかと。……むしろここまで何もなかったことが、これから何か起こる前触れのように感じられました」

「私もジェレミアと同意見です。私は以前、姫様に申し上げたことがあるのですが……どうもゼロは皇族の方を目の敵にしているようでして。おそらく、今回もライ殿下を狙ってくるのではないかと」

「……そうか。やはりそう思うか」

 

 彼らの意見はライの考えていることと同様であった。

 戦力で劣っている場合、一番有効な手段が奇襲、そしてそれに伴って相手のトップを討つことだろう。正攻法ではまず勝ち目がない。だからこそ相手の不意をついてトップを討ち、流れを自分達の物にする。

 それが今までのルルーシュのやり方であり彼の戦闘方針。……もっとも、ルルーシュの場合は個人的な理由も含まれていたわけだが。それは彼らが知るところではない。

 

「これから先のルートが、ゼロ――黒の騎士団が一番仕掛けやすいポイントだ。

 カムランの補給が終わったら前軍は再び進軍を開始。距離をあけて中軍・後軍も続く。

 通信があったならば、すぐにかけつけてくれ。……期待しているぞ」

「「Yes, Your Highness」」

 

 主の期待に力強く答える頼もしい騎士達の姿にライは満足した。

 ここまではライの予測どおり、今のところ両軍に大きな動きはなし。

 

 

 

――――

 

 

 

 その後、ライの命令どおりまずはジェレミア、ダールトン達前軍が進軍を開始。

 さらに時間をあけてライ率いる中軍、そしてしばらくして補給を終えた後軍も続く。

 

「……セシル。聞こえるか」

『はい。なんでしょうか殿下』

 

 日本へ向かう途中、ライは後軍に控えているアヴァロンのオペレーターを務めるセシルに通信をつなげる。

 後軍も今のところ以上は何も見つからず、セシルの姿も落ち着いている。

 

「アヴァロンから周囲5キロの地点に偵察機を放ってくれ」

『偵察機、ですか?』

「そうだ。ここから先は騎士団がどこから襲ってくるかもわからない。だが、敵の探知が早ければ早いほどこちらも対処しやすい」

 

 ベスタ島から日本本島へのルート。ライが考える奇襲の一番のポイント。

 もし黒の騎士団に偵察機の存在に気づかれたとしても、この距離ならば前軍がトウキョウにたどり着くほうが早い。それならばこちらの方が好都合……

 

「……それと、念のためトウホク・チュウゴク両ブロックにも偵察機を二機ずつ頼む」

『……わかりました』

 

 さらには念には念をいれ、主戦場となるだろうトウキョウ以外にも偵察機を放つ。

 慎重な性格のライはいざというときの退路の確保のためにも命令を下した。

 

「……さあ、ゼロ。どう来る?」

 

 やるべきことは全てやる。それが友への最大の礼儀。

 

 

 

――――

 

 

 

 ……だが、ライの予想に反して一向に黒の騎士団の姿はうかがえない。

 もうすでにカムランも日本とベスタ島の中央付近だ。前軍にいたっては日本・チバエリアにつくまで5分とかからないだろう。

 

「おかしい。ゼロにしてはさすがに動きがなさすぎる。

 まさか本当にアヴァロンへの奇襲はなしにして、トウキョウの守りを固めるつもりか?」

「ゼロも今までとは違って、今回は守るほうだから戦い方を変えてきたんじゃない?」

「……たしかにそうもとれるが……」

 

 カレンの言うことももっともだがどうもライにはしっくりと来ない。今までのゼロのやり方は勝利に一番近い方法をとったものだった。だからこそ、今回も少しでも勝率が高い奇襲を行うと思っていた。

 

 ――それとも、まさかルルーシュは単純な戦力でブリタニアに勝てるとでも思っているのか?

 一つの考えがライの脳裏をよぎるが、すぐにライはその考えを否定する。

 ライの部隊はライ・カレン・ジェレミアをはじめとしたエースパイロットが存在し、兵力も十分。たしかにスザクがいるものの、双璧がいるならば太刀打ちできない相手ではない。

 そもそもの話、この戦いでたとえライ達の部隊が負けたとしてもブリタニアそのものは負けはしないのだ。国土という絶対的に日本に勝っている一面がある。

 

 だからこそ、今後の戦いのために味方の消耗も少なくするため、奇襲を行うと思ったのだが……

 

『殿下! 失礼します』

「ん? どうしたセシル」

 

 ライは考えにふけっていたが、セシルからの通信で思考を再び現実に戻す。

 何かあればすぐ知らせるように伝えてあるので、ようやく騎士団が動きを見せたのかと警戒の色を見せた。

 

『今、トウホクへ放った偵察機が到着したのですが……トウホクに動いている部隊があるとのことです』

「……トウホクに? それは確かか?」

『はい。その中には指揮官機とも思われる、他の機体とは違った武装のナイトメアも伺えると』

「指揮官機だと? ……それは、ランスロットではないんだな?」

『ええ。おそらく敵の新型と思われます』

「(新型の指揮官機か。……スザクではないとすると、おそらくそのパイロットは藤堂さんか四聖剣の誰かだ。C.C.という可能性も捨てきれないが指揮能力から察するにおそらくは前者だろう。……目的はなんだ? トウキョウを攻撃する我々を内と外で挟撃するつもりか? だとしたら、本当に騎士団は奇襲を諦めて守りを固めるとでも……囮とも考えられるが…………)

 ……わかった。引き続き警戒を続けるように言ってくれ」

 

 そう言うとライは通信を切り、今度は前軍の右翼を指揮するダールトン、ボーアにつなげる。

 すでに二人ともパイロットスーツでコックピットに座っているようで、映し出された顔は戦場に立つ騎士の顔になっていた。

 

「ダールトン、ボーア。聞こえるか?」

『ハッ!』

『一体何のようですか?』

「偵察機からの報告によると、どうやらトウホクに動きがあるようだ。目的は不明だが、放っておくわけにもいかないだろう。

 貴公達の部隊は今からルートを変更し、その敵部隊の迎撃に当たってくれ。その者達をトウキョウに近づけることなく、撃退せよ」

『『Yes, Your Highness』』

 

 二人は通信を切り、ルートを変更し、北へ向かう。

 トウホクは地形が複雑な場所があるかもしれないが、エリア11で指揮を執っていたダールトンもいるし、何も問題はないだろう。

 

 問題は、ゼロ率いる騎士団本隊だ。

 

 

 

――――

 

 

 

 それから三分後、ジェレミアからライに通信が入った。

 

『殿下。申し上げます』

「なんだジェレミア」

『前軍は日本本島へ到着しました。チバ突入のさい、小規模な戦闘がありましたが……どうやら地方部隊だったようです。砲台も全て占拠しました』

「……騎士団の姿はないか?」

『はい。サザーランドの小隊を陸上にて警戒させていますが、いまだに見えません』

「……ならば、そのまま一気にトウキョウへ進軍を」

『Yes, Your Highness』

 

 ジェレミアとの通信を終えるとライはため息をついた。――意味がわからない。

 ここまでライを悩ませた戦いは初めてであった。過去の戦いでもこれほど思考をめぐらせたものはない。

 

 今回の進行上、日本への入り口とも言えるチバにゼロは部隊を配備しなかった。

 これはトウキョウの守りを全力で固めたか、あるいは全勢力を奇襲に向けたということにしかならない。

 

 だが、奇襲なら今こそ攻め時なはずなのに、いまだに騎士団の姿はない。

 守るとするならば、ゼロが今までの考えを変えたということになる。篭城戦ならばいくら要塞と言っても、援軍も呼べるブリタニアの方が有利なはずなのだが……ルルーシュが短期決戦を捨てるだろうか?

 

「……だが、守りに徹したと言うのならばトウホクの部隊のことも理解できる。

 さすがにここからアヴァロンへの奇襲はないだろう。カレン、君はどう思う?」

「私には難しいことはなんとも。……でも、たしかにゼロの動きがおとなしいとは思うけど……」

「後は、トウキョウへ攻め込むジェレミアの報告を待ってからだな。はたしてどれくらいの戦力で待ち構えていることやら……」

 

 ライはその後、セシルとも連絡を取り合い、戦況の把握に務めた。

 だがいっこうにどの部隊からも騎士団が動いたという報告はない。ライの不安は募る一方だ。

 

 すると数分後、ジェレミアから通信が入った。

 

『殿下! 一大事です!!』

「どうしたジェレミア! 騎士団が打って出たのか!?」

 

 言葉からも姿からもジェレミアのただならぬ様子は察知できた。

 ライはトウキョウで黒の騎士団に何か動きがあったのだと考え、ジェレミアに先を促す。

 

『いえ、そうではなく。……むしろ、その逆と言いますか……』

「ん? なんだ、どうした? 逆とはどういう意味だ? 今貴公はどういう状況なのだ?」

 

 ジェレミアが言いよどむ。その姿にライは疑問を覚えた。

 出撃せずに篭城ならば別に一大事と言うほどではない。だが、それにしてはジェレミアの様子がおかしい。

 

 その答えは、すぐに明らかになった……

 

『トウキョウに、黒の騎士団の姿はおろか……人一人見当たりません……』

「…………え?」

 

 イレギュラーに弱いわけではないが……ライにして珍しく驚きの声をあげた。

 

 

 

――――

 

 

 

 一方、そのころダールトン、ボーアの部隊。

 ライの命を受け、この二人の部隊はルートを変更して他の部隊とは別れてトウホクへと向かっていた。すでにフクシマエリアにいたり、報告にあったミヤギの敵部隊までもう少しだ。

 

『ダールトン将軍、どう思います?』

 

 ダールトンにボーアが通信をつなぐ。二人ともすでにナイトメアに乗り込み、出撃体勢に入っている。

 何か騎士団の思惑があってのことだろうが、歴戦の猛者の意見を問おうという考えだった。

 

「やはり、トウキョウに意識が向いている我々を挟撃するためだろうが……」

『ですよねー。……まあ、その前に私が叩き伏せますが』

「ふっ。油断はするなよ。まだ相手が何者かもわかっていないのだからな。……うん? 来たぞ! 全軍、戦闘態勢を!!」

 

 通信していたとき、ダールトンが敵軍の接近に気づいた。

 すぐさま航空戦力が出撃する。ダールトン、ボーアの両名もヴィンセントで騎士団を迎え撃つ。

 

『ようやく出てきたか。……さあ、戦いの始まりだ!!』

 

 軍を預かる者としてボーアが先陣を切った。単機で敵の新型量産機――『暁』へと斬りかかっていく。

 暁の小隊がハンドガンで牽制するが……遅い。ボーアは機体を高速で上昇させ、暁に狙いをつけると一直線に急降下。MVS(ランス)で真っ二つに貫いた。

 

 味方機がやられたことに気づいた他の機体がボーアに迫るが、レベルが違う。

 廻転刃刀で斬りかかってくるが、最初の一機は廻転刃刀をはじかれ、一閃。

 さらに二機同時に迫るが、ボーアは受け止めず刀の早さにあわせてランスを突き出し、軌道をかえるとそのまま両槍が二機を貫いた。

 

 暁を軽くあしらうと、ボーアはさらに敵を求めて暁へと向かっていく。

 

 また一機、暁に狙いをつけた。

 狙われた暁は迫るヴィンセンとにハンドガンを放つが、ボーアは機体を少しずらすだけでかわす。

 

 そして標的の暁を貫こうとした瞬間……一機のナイトメアがヴィンセントのランスを制動刀で受け止めた。

 

「なんだとっ!!」

 

 ボーアは自分の攻撃を受け止められたことに、そしてその相手が他の機体と違うことに驚愕する。

 

 暁と形は似ているが、全身は黒い装甲で覆われており、ランスを受け止めた刀身も大きい。

 間違いなく、セシルの報告にあった指揮官機だった。ランスをいとも簡単に受け止めたこの技量、決して侮れるものではない。騎士団の隊長格の者だと一瞬で察した。

 

『……この実力、ブリタニアの騎士とお見受けするが、如何に?』

「ああ、そうだ。私の名はボーア・リュードベリ。お前を殺す男の名だ。……貴様は?」

『私は黒の騎士団所属、藤堂鏡志朗だ!』

「藤堂だと! ほう。これはこれは……どうやら私は当たりをひいたようだ!!」

 

 世界にその名を轟かせた相手の名前を聞き、怯むどころかボーアは笑みを深くする。

 藤堂鏡志朗。この戦いにおいてこれ以上ないほどの極上の獲物。それが今、目の前に現れたのだから狩人にとってこれほど嬉しいことはない。

 

「ならば今ここで、日本の希望とやらを討ち取らせてもらおうか!!」

『……やれるものならばな!!』

 

 MVSと制動刀がぶつかり合う。激しい金属音が戦場に響き渡る。

 

 ボーア・リュードベリと藤堂鏡志朗。 

 ブリタニアと騎士団の対決は、ここから始まった……

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