――戦術と戦略。相反する二つの力。
「戦略は戦場全てを支配する。戦術一つで戦略が覆ることはない」と、かつてルルーシュは言った。
……だが、スザクのようなイレギュラーもそうだが、戦術一つで戦略が大きく覆ることがある。
そしてそれと同じように、一つの局地的な戦闘の勝敗が戦略そのものを支配することもあるのだ。
ヴィンセントのアサルトライフルを斬月は全て紙一重でかわし、突っ込んでくる。
ボーアは戦法を変えてアサルトライフルをしまい、MVSを構えて斬月を待ち構える。
MVSと制動刀がぶつかり合い、お互いの衝撃を打ち消す。
……機体性能はほとんど互角。ナイトメアで差がでることはまずないだろう。つまり、ボーアと藤堂。――両パイロットの腕がこの戦いの勝敗を決することとなる。
「藤堂はボーアが抑えた。数ではこちらが勝っている。各機、騎士団を包囲し各個撃破に持ち込め!
騎士団の希望・藤堂を討ち取る好機だ! 敵部隊をトウキョウへ向かわせることなく、ここで叩くぞ!」
『『Yes,My load』』
ダールトンがボーアに代わって全軍の指揮を執る。数においてはダールトン、ボーアの混合部隊の方が多い。ボーアが藤堂を抑えている間に騎士団の殲滅を図る。重アヴァロンからサザーランドエアも出撃させた。
空中戦力ではないが、敵の陸上部隊を抑えるためにもさらにサザーランドとグロースターも降下させる。
トウホクでは主戦場と予測されていたトウキョウよりも一足先に激しい戦闘が繰り広げられていた。
(……しかし何かがおかしい。ゼロの作戦にしてはあまりにも軽すぎる。騎士団の要である藤堂をこのような所であっさり使ってきたことも逆に不自然だ。まさかトウキョウはゼロだけでも事足りるとでも言うつもりか?)
全軍に指揮を執りつつも、ダールトンは頭の中で激しく考えを巡らす。
奇襲を用いるにしても、ゼロにしてはあっけないことであり何より極端すぎる。何か裏があるのではないかと考えてしまうほどに。
ダールトンが考えている中、突如彼のヴィンセントのレーダーに新たな反応が映った。
「なっ!! これは……南から機体反応!?」
『ダールトン将軍、これは……」
「まだ伏兵を仕掛けていたのか、ゼロよ。
……なるほど。我々が藤堂に食いついたならば北と南から挟み撃ち。無視したとしても、藤堂と伏兵の部隊でトウキョウを攻める我々を逆に挟撃したというわけか……」
驚愕したが、ダールトンはすぐに頭を落ち着かせ考えをまとめる。想定はしていたことだ、焦ることではない。このあたりの切り替えは歴戦の猛者ならではのことだろう。
「ボーア。お前はこのまま藤堂を抑えよ。私は部隊を率いて南の伏兵にあたる」
『……分かりました。そちらは任せますよ』
「ああ。……私の部隊の者はこのダールトンに続け! 南より攻め寄せる敵部隊を迎撃するぞ!」
ダールトンはボーアに通信をつなげると、手短に用件だけを告げて通信を切り、そのまま迎撃へと向かう。
……ボーアにとってはありがたいことだった。「奇跡の藤堂」、意識をそらしながら倒せるような、そんな甘い相手ではなかったのだ。
ダールトンは部隊を従え、全部隊の向きを変える。
彼が攻撃を命じるのと、敵の指揮官機がダールトンに斬りかかるのはほとんど同時だった。
「くっ!!」
すばやい攻撃。だが敵機は受け止められたのを察するとすぐさま機体を上昇させ、入れ違いになるように今度は別の機体が斬りかかってきた。どちらも量産機とは違った形状であり、実力からも隊長格であることは理解できる。
二対一の体制のなってしまったが、ダールトンも部隊を率いる者としてここで負けるわけにはいかない。 MVSを返す事で易々と廻転刃刀を受け止める。
『将軍! 今援護を……』
「私に構うな! 敵の指揮官は私が抑える。部隊を展開し、迎撃に当たれ。
重アヴァロンも弾幕を張りつつ、敵の動きを阻害しろ。藤堂の部隊との合流はさせるな!」
『い、YES,My load』
「ここで我らが破られれば、それはすなわちボーア隊への危機につながる。なんとしても我々の手で切り抜けるのだ!」
ダールトンはすばやく部下に指示すると再び二機の暁直参に向かって行く。
へたに部隊を向かわせ戦力を失うわけにはいかない。戦ってわかったが、藤堂には及ばずともこの二機のパイロットがそれなりの実力を持っていることはわかった。連携攻撃の熟練さも並々ならぬものを感じる。ならば、その相手は自分がおさえなければならない。
そしてダールトンの考えは当たっていた。
彼は知らぬことだが、この二機のパイロットは藤堂の懐刀と呼ばれた、四聖剣のメンバーであり騎士団の隊長を務めている戦士。――朝比奈と千葉だった。騎士団の主戦力の二人、エース級のパイロットでなければまず撃墜される。
騎士団がこれだけの戦力を向けてきたのだ。ならばブリタニアもダールトンが迎え撃たないわけにはいかなかった。
ダールトンは一息つき体制を立て直すと、再び暁直参に意識を集中させた。
――――
一方、ダールトンに藤堂の相手を一任されていたボーアであったが、予想以上の藤堂の技量とそして伏兵の出現によって一気に押し返してきた騎士団の部隊に苦戦していた。
「……ッ!」
MVSで切りかかるが、斬月はヴィンセントの攻撃を輻射障壁で受け止めた。
動きを止めた斬月は両肩に装備されている機銃を展開し、ヴィンセントに打ち出した。
これにはさすがにボーアも反応しきれずにヴィンセントに被弾。だがそれ以上の攻撃をくらわないよう、ヴィンセントは機体を横にそらし、追撃をかわす。
藤堂の実力、そして残月の予想以上に豊富な武装。全てがボーアの想像を上回る。そしてその結果、ボーアは次第に追い詰められていた。予想だにしない苦戦。このまま戦えば……おそらく、ボーアが負ける。
もしもボーアが負けてしまったとすれば、部隊の指揮を執る者を失ったボーア隊は指揮系統が乱れ、下手すれば全滅する。それだけの実力と信用を、ボーアも部下から得ていたのだ。
……いや、ボーア隊だけではない。今ブリタニア軍は南からも攻撃を受けている。
もしもここを突破されたら藤堂は間違いなくダールトンの部隊にも追撃を仕掛ける。そうなってしまえばまさに騎士団の思う壺だ。トウキョウを攻める部隊からの援軍がなければダールトン隊までもが危機におちる。
だが逆にボーアがここから逆転し、藤堂を討ち取れば戦況は一転してブリタニアに大きく傾く。
「奇跡の藤堂」。この名はエリア11――現日本の人々にはゼロと同等かそれ以上の知名度だ。しかも藤堂は騎士団の軍事責任者。藤堂を討てば黒の騎士団の士気は大きく下がる。
しかもそうすればボーア隊がダールトン隊に加勢し、伏兵の部隊を逆に殲滅することもできるのだ。
この戦いが、ボーアの命運が部下達の――トウホク戦の命運を握っている。
「……ならば!!」
だからこそ、ボーアは勝負にでる。もうこれ以上消耗してしまってはますます勝ち目がなくなってしまう。
再びアサルトライフルを連射。最初から当たる事など期待していない。そのような事は分かりきっている。
そして予想通り、藤堂は銃弾の嵐をすべて回避しヴィンセントに肉簿するべく襲い掛かる。……そこでボーアはアサルトライフルを捨てて、斬月へと投げつけた。
『なっ!? くっ……!』
ボーアの突然武器を投げ捨てた行為に藤堂は驚いたが、すぐさま視界に入ったライフルを制動刀で切り捨てる。これでボーアの武装は一つなくなった。
しかしそれでもいい。攻撃を防ぐために、残月には隙が出来た。
「いまだ!!」
『しまっ……!!』
その間にできた一瞬の隙をボーアは逃さない。今の動作で斬月の動きは制止し、機体の勢いは消えた。
ヴィンセントは右手にMVSを持ち、残月へ突進する。
藤堂もここから回避する事はできず、斬月は左腕を貫かれてしまった。
『……だが、ただではやらせん!!』
左腕をなくしたが、斬月が戦闘不能に陥ることはなかった。
攻撃を受ける前から藤堂はボーアの攻撃はかわせないということを理解し、左腕を捨てて反撃に転じることに専念していたのだ。
【肉を断たせて骨を断つ】。
藤堂は残った右腕で制動刀を操り、ヴィンセントに突き刺した。……制動刀は、見事にボーアのヴィンセントを貫いた。
「ばか、な。……私は、ブリタニアの進む道を、切り開くために……!!」
ボーアが最後まで語ることなく、ボーアのヴィンセントは爆発した。
脱出ブロックが作動することなく、機体の残骸は落下して行く。
常に先陣を引き受けその戦いで味方を鼓舞してきた勇猛果敢な男。
ブリタニアの闘将、ボーア・リュードベリは日本で戦死した。
『……ブリタニアの騎士、天晴れな最期だった』
藤堂は自分と戦い、最後まで自国・ブリタニアを憂えた騎士に敬意を示す。
騎士と武士。立場は違えど、お互い自分達の愛する国のために戦場に立つ事を選んだ戦士だった。
一礼すると、藤堂はボーアの残存部隊へと向かっていく。
この勝負は負けるわけにはいかない戦い。満足な状態ではないが、奇跡を背負う人間が戦わないわけにはいかないのだ。