相反のライ   作:星月

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第十六話 『同族殺し』

「……そんな。テスラさんだけでなく、レイさんまで脱出……!!」

 

 新たに入ってきた情報を聞き、ヴィンセントのコクピット内でマリーカは唇をかみしめる。

 たった一人――枢木スザクとその機体・ランスロット・コンクエスターのためにテスラは戦死、今またレイまでが機体を大破、脱出を余儀なくされた。

 

 二人の活躍により、ランスロットを一時的に退けて黒の騎士団の突破力を減らすことができたのは大きい。

 ……しかし、それ以上に指揮官を失ってしまったブリタニア軍の精神的ダメージは大きいのだ。スザクの前に軍の被害は甚大な上に指揮官を二人も失った中央と右翼は総崩れ。

 

 ただでさえゼロの策略により指揮系統が混乱していたのに、これでトウキョウの指揮官はマリーカのみとなってしまった。

 しかもマリーカも現在ゼロが搭乗している蜃気楼、C.C.と卜部の暁直参と交戦中。そんな状態で経験も浅い彼女にはとてもではないが全体の指揮などとれるわけがない。

 

 ゆえに、テスラ・レイの部隊の指揮は彼らの副官に任せるしかない。マリーカまで失えば、ブリタニア軍は完全に崩壊する。

 

『仲間が心配かな、ブリタニアの騎士よ?』

「ッ! ……ゼロッ!!」

 

 マリーカの心境を察してか、ゼロはマリーカの心を揺さぶりにかかる。

 ……ゼロは黒の騎士団のリーダー。この男を討ち取れば騎士団は立ち直れない。それは分かっている。

 

 ――だけど攻め崩せない! 守りを突破できない!

 先ほどから何度も攻め続けているが、蜃気楼の『絶対守護領域』の前に全ての攻撃が防がれている。

 しかもその蜃気楼をサポートするように二機の暁直参がマリーカを攻撃する。――卜部とC.C.だった。

 

「……ライ様……」

 

 誰にも聞こえないように、少女は主の名前を呼ぶ。

 今にも折れそうな心を必死に支える。――もう、私しかいないんだ。

 

 

 

――――

 

 

 

「皆、意識を集中しろ……おそらく、そろそろ黒の騎士団が来る」

 

 新しいナイトメア、蒼穹(そうきゅう)に乗ったライが彼の騎士であるカレン、そして直属部隊である白の騎士団に通信をつなげる。

 

 ……すでに、ライの元にもボーアとテスラの戦死。そしてレイの脱出という情報が伝わっている。 

 戦況は思わしくない。予定では有利であったはずのブリタニア軍が完全に押されている。

 

 ――早く救援に向かわなければならない。今も自分を信じて戦い続ける騎士達のためにも。

 蒼穹のコクピットの中でライはひたすら味方の奮闘を願う。今の彼にはそれしかできない。

 

「うん……! 来たか!」

 

 蒼穹の強化されたファクトスフィアがいち早く騎士団の接近に反応した。

 ライの予想通り、ゼロはライ達援軍に向けて部隊を向けてきた。少しでも主戦場であるトウキョウへの到達を遅らせたいのだろう。

 影崎・仙波の両隊長が部隊を展開し、ブリタニア軍の包囲網を作ろうとしている。

 

 ……だが、だからと言ってその願いを受け入れるほどライは甘くない。

 

「カレン、こいつらに付き合っている暇はない! ……いきなりだけど、二人で同時に行くよ!」

『うん! わかった』

 

 ライの提案にカレンもその意図を理解して了承の返事をする。

 

 すると蒼穹と紅蓮が騎士団に向かって並び立つ。

 暁が次々と二人に襲いかかるが……蒼穹は左手から、紅蓮は右手から輻射波動を遠距離で発射した。

 

『なっ!! 遠距離で輻射波動を!?』

 

 突如放たれた砲撃の前に、多くの暁が避ける事さえままならずに飲み込まれていく。

 ――『輻射波動砲弾』。

 蒼穹と紅蓮の輻射波動をロングレンジで放つ砲弾。これにより遠距離への攻撃も可能になった。

 さらに蒼穹と紅蓮、二機の輻射波動機能が搭載されたナイトメアが同時に打ち出すことにより、威力・効果範囲が倍増する。

 

 強化された輻射波動砲弾は容赦なく騎士団の暁を飲み込んでいく。……そしてこの一撃で、騎士団の包囲網の一角に穴が生じた。

 

「全軍突撃! 突破するぞ!!」

 

 ライは全軍に突撃を命じる。蒼穹が、紅蓮が、ヴィンセントが一気に押し寄せる。

 できた穴を塞ぐように周囲の暁がサポートにでてくるが、ライ達は次々と斬り込んで行く。

 

『戦闘隊長!!』

「ッ!?」

『紅月隊長! お戻りください!』

『なっ!?』

 

 そこにオープンチャンネルで聞こえてきた騎士団員の声。

 今も変わらず、二人を騎士団の『隊長』と呼んでくる。敵にも関わらず。戦っているにも関わらず。

 

 そうだ。相手は同じ日本人――かつての仲間達だったんだ……

 ……一瞬、一瞬とはいえ二人の動きがとまった。

 

『ライィィ!!』

「ッ!?」

 

 聞こえてきた叫びでライは覚醒した。

 蒼穹に突っ込んできたのは一機の暁直参。なんとかMVSでその刃を受け止め、衝撃を吸収した。

 

「……仙波さん!?」

 

 聞き覚えのあるずっしりとした、どこか重みのある言葉。

 そのパイロットは四聖剣の一人、仙波だった。

 

『紅月!!』

『……影崎さん!』

 

 紅蓮にも同じように暁直参が肉簿する。黒の騎士団三番隊隊長の影崎だ。

 

 二機の急襲に押され、ライとカレンは一度機体を退いた。

 その間に騎士団は生じた穴を埋めにかかる。

 

 ……だが、その後は騎士団は動きを止めた。

 ライが不思議に思う中、仙波の暁直参から通信に強制的な割り込みが入る。聞きなじんだ懐かしい声が聞こえてきた。

 

『戦闘隊長殿、そして紅月よ。……我ら両名はゼロの命を受け、ブリタニア軍の迎撃を命じられた』

「……そのようですね」

 

 仙波の通信にライも答える。

 戦意は感じられない。時間稼ぎの言葉にも思えない。これは仙波の本心。ライもそれを感じ取り、仙波の話を聞くことにした。

 

『だが、我々は未だにお主達を敵と割り切れん。……どうだ、二人とも騎士団に戻ってきてくれぬか?』

「……」

『今からでも遅くはない。ゼロにはわしからも取り次ごう。もう一度我々と……』

「それ以上、何も言わないでください」

 

 二人を気遣う言葉。仙波の心からの本音。

 だが、仙波が最後まで言うことなく、ライが仙波を黙らせる。

 

 その声にはいつもの彼とは違っていた。どこか苦しそうに、だがはっきりと仙波に告げる。

 

「もう、ここに来た時点で何もかも遅いんですよ。今もすでに僕は罪なき騎士団員を討った。……僕達は、あなた達の敵だ!」

『私もライも……もう二度と、黒の騎士団に戻る事は――ゼロに従うことはありません!!』

 

 答えは拒絶。再び共に戦場に立つことはないのだと告げる。

 わかっていたことではある。だが、心のどこかに「それでも」、と願いが確かに仙波には存在した。

 ……だが、その願いは届かない。

 二人が言うように、もう遅すぎた。ライ達と騎士団の溝は、もはや深すぎる。彼らの関係に入り込む余地などない。

 それほどまでに、お互いの恨みが深かった。深すぎた。

 

『……そうか』

 

 仙波は黙り込むと、残念そうに一言呟くと刀を構える。

 彼もついに、ライ達を完全な敵であると認識した。だからこそ戦わなければならない。

 

『ならば是非もなし。これ以上お主達若い者に、余計な罪を重ねさせるわけにはいかん!

 お主達をここで打ち倒し、縛り上げてでも騎士団の元へと連れ帰る!!』

 

 その言葉が決裂の証となった。

 仙波だけでなく、影崎や他の団員達も戦闘体制に入る。

 

(まずいな……ここで時間を食うわけにはいかないが、仙波さん達を倒さなければそれこそ後ろから追撃をくらう。だがそれを防ぐためには……)

『……ライ隊長、紅月隊長。行ってください!!』

「なっ!?」

『宮本!? 何を言っているの!?』

『この場は我々が引き受けます。隊長達はその隙をついてトウキョウへ向かってください!』

 

 ライがどうやってこの場を切り抜けるか思案しているところに、白の騎士団隊長である宮本が二人に通信をつなげた。

 ここの騎士団は自分達、白の騎士団が相手をするという提案。

 確かにここで時間を無駄にするわけにはいかないが、宮本には四聖剣を相手にするのは荷が重い。

 

 ――ここの騎士団を一気に倒すか、それともいち早くトウキョウへ援護に向かうか。

 

「しかし……」

『隊長! 我々は隊長達を信じてここまでついてきました!

 我々は今更命を惜しみません。我々に構わず、行ってください!!』

「……ッ!!」

『……行きましょう、ライ。彼らの気持ちを、覚悟を無駄にしないで。マリーカ達の救援に行かないと』

「カレン! ……くそっ!!」

 

 宮本だけではなく、カレンからもトウキョウへの進軍を推される。

 時間が惜しい。それはわかる。……部下の気持ちもわかる。無駄にはできない。

 どちらか一つしか選べない。ならば……

 

「……宮本」

『はい』

「……ここは任せる! 白の騎士団よ、私が誇る戦士達よ! 思う存分戦え!!」

『『『はい!!』』』

 

 ライの命令に、宮本は……白の騎士団員は全力で答えた。

 それだけ告げると、蒼穹と紅蓮は空に向かって機体を上昇させるとそのままトウキョウへ向け発進した。

 

『行かせん!!』

『仙波隊長!!』

『なにっ!?』

 

 二人を逃がさないと仙波が追おうとするが、宮本のヴィンセントが肉簿する。

 刀で防いだものの、さすがの仙波もこれではライ達を追うことができない。

 

 他の白の騎士団も暁へと総攻撃をしかけた。

 

 それでも騎士団全軍を押さえられたわけではない。

 影崎の隊が蒼穹と紅蓮の進路を塞ぐ。

 

 だがしかしライとカレンはスピードを緩めることなく、次々と暁を撃破しながら進んで行った。

 

『ライ! 紅月!!』

 

 そこに影崎の暁直参が立ちふさがる。ここから先は一歩も通さないと言わんばかりに。

 ライとカレンはその姿を確認すると……迷うことなくMVSで機体を両断した。

 

『……畜生。やっぱり……つええな……』

 

 機体の爆発音が後方で聞こえる。

 それでもライもカレンも立ち止まらない。振り返らない。さらに速度を上げる。

 

 仲間だった者の断末魔を背中で受け止め、この場を宮本達に任せて二人はトウキョウへ向かう。

 

 殺してしまった。かつての仲間を、同じ日本人を。

 だけど、だからこそ……もう戻れない。進むしかない。

 

 心の中で二人は謝罪と、そして感謝の言葉を告げる。

 ――ごめん、そしてありがとう。これでもう迷うことなく、戦える。

 

 

 

――――

 

 

 

『……お主、まさか日本人か?』

 

 仙波は一度距離を離して宮本に問いかける。

 今のオープンチャンネルで発せられた言葉。たしかに日本語だった。

 

「ええ。私は白の騎士団隊長、そして元黒の騎士団一番隊副隊長、宮本武です。

 私だけではなく、我々『白の騎士団』は全員が日本人です。あなた方と同じように」

『……なるほど。戦闘隊長殿達に魅入ったか』

 

 そして納得した。元黒の騎士団だというのならば、ライ達に惹かれても仕方がない。離反者が出ていた事も知っていた。

 ……しかし、まさかこうして戦場で会うとは思いもしなかった。このように刃を交えることになるとは想像できなかった。いや、したくなかった。

 

『知らぬ間柄でもない。お主達にも言っておく。騎士団に戻るのだ。今ならばまだ』

「お断りします! 我々は隊長達についていくと、日本を捨ててでも共に戦うことを選んだのです!

 今更お二人のご期待を裏切り、命令に背くことなど……できるわけがない!!」

 

 先ほどと同じ問いに、同じ拒絶の返答。

 意志が強い。騎士団の双璧の名は伊達ではなかった。ライとカレンはそれほどの希望だったのだ。

 

『あいわかった。これ以上の言葉は無駄だと、お主達の覚悟への侮辱と受け取る。

 ……同族殺しの罪はわしが全て引き受けよう。お主達、最期にでかい花咲かせてみよ!!』

「白の騎士団隊長、宮本武。……行きます!!」

『藤堂中佐の懐刀。四聖剣が一人、仙波崚河。……推して参る!!」

 

 

 

 この衝突から五分後。白の騎士団隊長、宮本武の戦死がブリタニア軍全てに伝わる。

 そしてさらにその二分後。……ライ直属部隊『白の騎士団』の全滅が、全軍に伝わった……

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