「……やはり、良い気分ではないな。なかなかどうして、つらいものがある……」
暁直参のコクピット内で仙波は一人呟いた。
聞こえてきたのは同じ日本人の断末魔。……殺したのは他でもない仙波自身。
(このような老いぼれが生き残り、あの者達のような未来あふれる若者が死んでいくなど……ッ!)
合衆国日本を守るためとは言え、愛する国を守るためとは言え……若い日本人の戦士を殺し、彼らの未来を奪った……責められても何も言い返せないことだ。どうしてその罪を許すことができるだろうか。
「それにしても……まさか、片腕を持っていかれるとはな。若者の成長はやはりすばらしい」
そう言う仙波の暁直参からは戦闘前まであった左腕が消えていた。
白の騎士団隊長・宮本武との戦闘で放たれた、彼の正真正銘最後の一撃。彼の刀は確かに暁に届き、暁の左腕をもぎ取っていった。己の命を引き換えに放った最後の攻撃は、無駄ではなかった。
かつては黒の騎士団副隊長であった男が四聖剣の一人である仙波とわたりあい、そして片腕を取るまでに至った。本来ならばまずないことだろう。
若者の成長を喜ぶとともに、その戦士の命さえをも奪ったことに自責の念が浮かぶ。
『仙波隊長。ブリタニア軍は全て撃墜しました』
「……そうか」
隊員の報告を仙波は静かに聞く。
たとえ『日本人』であっても、彼らは『ブリタニア軍』だった。それくらい部下達も承知の上だ。同族であろうともかつての仲間であろうとも、討ち果たすべき敵であることには何らかわりないのだから。
「……全員、黙祷せよ。
信じるものは違えども、進み道は交わらずとも、彼らは最後まで曲がることなく各々の信念を貫き通した。わしは彼らに最大の敬意を表する。彼らは確かに、日本人だったのだ」
約一分間の静寂が広がる。さきほどまでの激しい戦いが嘘だったかのように。
最後まで戦い抜いた日本の戦士達に祈りをささげた。せめて彼らの魂が安らかに眠れるようにと。
黙祷が終わると仙波は視線を前方へと移す。彼の視線が自然と細く、厳しくなった。……どうやら、ようやくお出ましのようだ。
『仙波隊長! あれは……』
「ああ。どうやら新手の登場のようだな……」
現れたのはまさに彼らの憎き敵、ブリタニア軍。
ライやカレン達が先に出陣し、それに遅れて現れた部隊だった。
状況は思わしくない。
ただでさえ先ほどの戦闘で部隊は半数以上を失い、影崎も戦死した。仙波の暁直参も左腕を失い慢心相違の状態。ここで新手のブリタニア軍に挑みに行くのは自殺行為だろう。だが、そうだとしても仙波にはすでに退くという選択肢はない。それは自らの手で消し去ったのだから。
「お主達はトウキョウまで退きゼロと合流せよ。もはや我々では勝ち目がない」
『なっ……隊長はどうなされるのですか!?』
「わしは生きているうちに、この目で日本の解放を、もう一度日本の国旗を見る事だけでも幸せだった。そればかりか敬愛する藤堂中佐の下で戦い、隊長の座まで頂いた。武士としてこれほどの喜びはない。
……わしは若き同族を殺めた罪人だ。今更中佐や他の者達に会わせる顔がない。
これからの未来は希望あふれる若い者達に任せる。だから皆の者――――生きよ。日本を頼んだぞ」
『た、隊長! お待ちください、隊長!!』
だから今さら退くことはできないのだと、それだけ言うと部下の制止の声を振り払って仙波は新手のブリタニア軍の艦隊に突っ込んでいった。
敵機の突撃に気づいたブリタニアの艦が仙波の暁直参に砲撃を撃つ。
一発、また一発と暁に命中し、装甲をむき出しにしていく。だが、
「ぬおおおおおおお!!!!」
それでも仙波は吼えた。出撃して来たナイトメアも次々と蹴散らし、戦艦に向かっていく。
仙波の最後の一撃。残された片手で廻転刃刀を振り下ろす…………
「――――日本、万歳!!!!」
だが、その一撃が届く前に暁直参に一斉射撃が命中し――暁直参は爆発した。
四聖剣の一人、仙波崚河。
また一人……勇敢な戦士が散っていった……
――――
「ハアアアア!」
『うわああああ!!』
マリーカのヴィンセントのMVSがまた一機、暁を貫いた。
なんとか脱出ブロックが作動してパイロットの扇は無事に戦域から離脱した。
……これで20機、いやもっと倒しただろうか? もう数を数えることさえ億劫だ。
マリーカはただ一人、味方を鼓舞するためにも最前線で戦い続けている。
すると、そのヴィンセントめがけて一機の暁直参が射撃を放つ。
マリーカは機体を横にそらすことでかわすが、そこにもう一機の暁直参が肉簿する。
「……ッ!」
暁直参の勢いに負け、ヴィンセントは押し切られた。
機体はそのまま後方の高層ビルへと叩きつけられる。
マリーカはその衝撃に顔をしかめるが、休んでいる暇はなかった。
すぐに機体を発進させ、ビルから離れる。――すると先ほどまでマリーカがいた場所に、蜃気楼のハドロン砲が打ち込まれた。
マリーカはなんとかゼロの蜃気楼、そしてC.C.、卜部の暁直参を相手に時間を稼いでいた。機体損傷もあるが、まだ中破レベル。まだ戦える。
(……こうなると、ライ様に特訓をしてもらって本当によかったと思う)
ライがマリーカを指導するに当たって、重点的に鍛えたのは相手の攻撃を『受ける』ことではなく『かわす』ことでもなく、『受け流す』こと――相手の攻撃の軌道をずらすことだった。
主に接近戦の話しになるが、相手の武装の軌道を読み、タイミングを合わせてそこに自分のMVSを打ち込み攻撃の『方向』をずらさせる。これにより、攻撃を受けてもその威力を軽減することができる。遠距離の敵に対してはひたすら相手の位置、砲撃の向きなどを把握するように動きの速い機体を相手に練習することで回避率を上げることに成功した。
この戦法は確かに効果を発揮し、倒すことはできなくても、強敵を相手に時間を稼ぐことができた。
レイとテスラの部隊は皆脱出し、マリーカの隊の消耗率も6割を越えた。
マリーカのその細い身に、ブリタニア軍の全てがかかっていた。それをマリーカも十分承知している。
自分を信じて戦い続けている部下のためにも、今は亡き兄の名誉を取り戻すためにも、そして何よりもこんな自分を認めてくれたライの期待に応えるためにも、負けるわけにはいかなかった。
マリーカは再びMVSを手に、突撃を仕掛けてきた暁に向かって行った。
(……なんだ、なんなんだこの女は!!)
逆に面白くないのはゼロ――ルルーシュである。
先ほどから攻撃をしかけ追い詰めているものの、攻撃を次々と受け流されてなかなか機体の破壊までいかない。
他の方面のブリタニア軍はスザクの活躍もあってほぼ壊滅状態。あとはここの部隊を残すだけ。……それなのに、マリーカ一人のためにルルーシュ、C.C.、卜部と逆に騎士団の主力が押さえ込まれている。
スザク、ライやカレン――騎士団の双璧ほど強いわけではない。だが攻め崩せない。
(ふざけるな! スザクやあの二人じゃあるまいし、このようなところで時間を食うわけにはいかない!!)
ただでさえスザクの離脱というイレギュラーが発生したため一刻も早く片付けなければならないというのに、むしろ玉城、杉山、扇といった騎士団幹部の者達が次々と撃墜されていく。パイロットが脱出できたのがせめてもの救いだ。
――この女さえ討てば、あとは残ったブリタニア軍を殲滅するのみ。
ルルーシュの思考は少しでも早くマリーカを撃ち落とすことにあった。マリーカを討てば指揮官は全員討ち取ることになる。そうすれば部隊の壊滅はたやすい。
(ライやカレンはすでにこちらに向かっているという報告があった。二人が来るまでに片付けなければ。……そういえばトウホクの方はどうなっている? 藤堂が指揮を執っている上に朝比奈、千葉もいるし問題はないと思うが……)
その一方で、ルルーシュはもう一つの戦況を考えていた。
同じように激化しているであろう、トウホクの戦況を……
――――
「みな奮起せよ! ジェレミアの援軍はもうすぐだ! それまで持ちこたえるのだ!!」
声を張り上げながらも、ダールトンはMVSを振るう。直撃した暁は耐えられるわけもなく、脱出して行く。
部隊は北と南からの挟撃を受けて半壊状態。しかしそんなところにジェレミアから通信が入り、まもなく着くという知らせを受けた。ならばここで倒れるわけにはいかない。
「……な!?」
そんなダールトンのヴィンセントの後方から射撃が撃ち込まれた。すぐに回避に移るが、間に合わずに被弾してしまう。
――損傷は「小破」レベル。まだ問題ない。
振り返ると射撃して来た暁直参、そしてもう一機の暁直参が今度は同時に斬り込んでくる。
二機の刀をMVSで受け止めるが、勢いがありすぎる。
「……ッ! うおおおおお!!」
だがダールトンはその場から一歩も退かず、そのまま二機をなぎ払った。
朝比奈と千葉のコンビネーション攻撃に苦戦するものの、ダールトンは戦い続けていた。
(ここを崩されれば我が軍は完全に崩壊する! なんとしても守り抜かねば!!)
指揮官としての重責。それがダールトンにはある。
だてに歴戦の猛者と呼ばれているわけではない。再び自らに喝を入れた。
『よく持ちこたえた、ダールトン!!』
「ッ!?」
息を整えていたダールトンの下に、通信が入った。
待ち望んでいた援軍の指揮官――ジェレミア・ゴットバルトからだった。
『な……トウキョウからの援軍か!?』
『なんだよ、あの変な機体はさ……』
後方より現れたブリタニアの援軍に騎士団の驚愕する。
しかも、ジェレミアの機体が他のものと違うことも効果的だったのだろう。
あれこそがジェレミアの専用機――『サザーランド・ジーク』。
これがその初陣なのだ。黒の騎士団が知っているわけがない。
『全軍、突撃せよ!!』
ジェレミアの言葉と同時に救援部隊が騎士団にどっと攻め寄せる。
その先駆けとして、ジェレミアの機体が高速で突撃して来た。
『おかしな機体だね。千葉、僕が行くよ!』
『な……待て、朝比奈!!』
千葉の制止の言葉を振り切り、朝比奈の暁直参はサザーランド・ジークを迎え撃つべく突っ込んでいく。
だが、その攻撃が届く前にサザーランド・ジークの巨大なスラッシュハーケンが暁直参を襲う。
回避は間に合わないと判断し、朝比奈はなんとか受け止めたが……威力が違いすぎた。
『くっ! そんな、押し切られる!?』
『むだだ! 今の私は……誰にも止められぬ!! 受けよ、忠義の嵐!!!!』
『なっ……多っ!?』
サザーランドの兵装ユニットが一斉に開かれ、ミサイルポッドが一挙に暁直参を襲う。
輻射波動発生装置は作動したが、それでも防ぎきれずに被弾してしまう。
『うわっ!』
そのまま朝比奈は後方へと吹き飛ばされる。
そしてこの好機を逃すほどジェレミアは甘くない。
『覚えておくのだな。ジェレミアゴットバルト!! ――貴様を殺す男の名だ!!』
サザーランド・ジークのロングレンジリニアキャノンの照準が暁直参に向けられて――発射された。
『……藤堂さん、俺は……!!』
『朝比奈ァッ!!』
輻射波動機構も弾切れで発動せず、ロングレンジリニアキャノンは暁直参に直撃。
そのまま機体は脱出ブロックが作動する間もなく、音を立てて爆散した。
ジェレミアと衝突して一分もたたない間の出来事。
それだけの時間でジェレミアは一気に四聖剣の一人、朝比奈省吾を討ち取った。
これにより、新たなナイトメアの脅威は騎士団にも伝わり、混乱状態に陥る。
ジェレミアの隊の者も突撃をしかけ、千葉は部隊を立て直す暇もなかった。
『一気に押し返すのだ! このまま攻め込み勝負を……』
『そうはさせぬ!!』
『なにっ!?』
サザーランド・ジークに一機のナイトメアが肉簿する――藤堂の斬月だった。
制動刀を振り下ろしたが、その一撃はサザーランド・ジークのブレイズルミナスによって防がれる。
『ほう。貴様、藤堂だな。……相手にとって不足なし! 我が忠義の力、受けきれるかその身で試してみよ!』
『朝比奈の仇、お前はここで私が討つ! 日本の奇跡の底力、思い知るがいい!!』
――――
再び場面が戻ってトウキョウ。
マリーカが単機、黒の騎士団本隊を相手に孤軍奮闘の働きを見せていた。
周りの部隊はもはや艦隊が全て沈められ、ナイトメアもヴィンセント10機ほど。残りは全て討たれたか脱出した。ついにブリタニア軍が追い詰められた。
……そして、そんなマリーカの体力も、集中力もそろそろ限界が近づいて来ていた。
「……くっ!!」
疲れがたまったのか反応が遅れてしまった。
暁直参から放たれた粘着輻射弾。高度を上げて回避しようとするが、脚部に被弾してしまう。
即座に右脚部をパージする。これで右脚を失った。
「でも、まだ私は……えっ!?」
右脚を失おうとも胴体が無事ならばまだ十分戦える。
反撃に移ろうとしたそのときだった。
突然表示された
「うわあああああ!!」
反応するどころか直撃してしまい、今度は左腕が吹き飛んだ。
ハドロン砲がとんできたほうを見ると……そこには、白き死神が再び戦場に降り立っていた。
「……そんな!!」
レイが退けたはずの裏切りの騎士――枢木スザク。
その絶対強者が、マリーカにさらなる絶望を味あわせるかのように、戦場に舞い戻った。
『戻ったか、スザク』
『すまないゼロ。迷惑をかけた。……だけど、これで終わりにする』
再び姿を現したランスロット。壊れたフロートも元に戻っている。
ランスロットはそのままMVSを手に有無を言わさずヴィンセントに突撃してくる。
ヴィンセントもMVSで受けたが、ランスロットはその体勢のまま回し蹴りを放った。
頭からくらってしまい、バランスを崩したヴィンセントに、追撃と言わんばかりに今度はハーケンブースターを放つ。
(……次元が違いすぎる! 私では……敵わない!!)
機体を動かすこともままならず、これも直撃してしまった。
ヴィンセントも悲鳴をあげている。損傷はすでに大破に至っている。スピードも、力も……全てが桁違いだった。
ライの訓練のときとは違う。カレンとの模擬戦のときとも違う。
明確な殺気。そして迫り来る死の恐怖。それらがマリーカの体を完全に支配した。
『これで、終わりだ!』
「!!」
MVSを振りかざすランスロット。
――直撃コース。これを食らえば間違いなく死んでしまう。……だけど、もう体が動かない。
(そんな……こんな形で……私はまた何もできずに……)
「ごめん、キューエル。ごめんなさい……ライ様!!」
避けられないことを悟ると、マリーカは静かに目を閉じた。
そして大切な者の名前を呼ぶ。謝罪の言葉を告げる。
慕っていた今は亡き兄の名を。敬愛し、好意を寄せていた主君の名を。
振り下ろされた剣が何かとぶつかった金属音が聞こえる。
ついにその刃が振り下ろされたのだろう。……しかしいつまでたっても襲われるだろう痛みは感じることがない。
「……ぇ?」
『謝る必要はないよ、マリーカ』
「!!」
『この機体。……まさか!』
『久しぶりね。……スザク!!』
振り下ろされたランスロットのMVS。それはヴィンセントとランスロットの間に入ってきた赤い機体によって防がれていた。
さらにマリーカのヴィンセントを支えるように、後ろには青く染まった機体がある。
「……ぁ……殿、下……」
『君のおかげで、トウキョウの仲間は守られた。誇ってくれ』
待ち望んだ声、待ち望んだ存在。戦いの真只中だというのに思わずマリーカの目から涙が溢れ出した。
その一言は確かにマリーカの心に溶け込んだ。
『まさか……来てしまったのかライ!!』
『カレンもか……』
現れた二機を目の前にして、黒の騎士団にも動揺が広がる。
たった二機。しかし、この二機は単機で戦場を変えてしまうほどの最強の戦士達。
『さて、黒の騎士団よ。……よくも僕の可愛い部下をいじめてくれたな!!』
『ッ!!』
「……(そんな……可愛いだなんて……わざわざオープンチャンネルで言わなくてもいいのに……!)」
『ここからは私達が相手をする!』
『さあ……覚悟はいいな?』
かつての黒の騎士団最強。騎士団の双璧。
現ブリタニア第3皇子とその選任騎士。
ライ・フォン・ブリタニア、カレン・シュタットフェルト。
双璧が、騎士団と相反して今戦場に現れた。