相反のライ   作:星月

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第十八話 『ただ一人の王のために』

 ライとカレンが一足先に出撃した後、ブリタニアの中軍・後軍も二人に続くように進撃を進めてもうすぐトウキョウへと着くころになったのだが、トウキョウ外延部でアヴァロンは進撃を中止した。

 

 トウキョウ方面からのパイロットの脱出者が増えだしたのである。

 もとよりアヴァロンはライの意向により前線には入らずに後方からの全軍への指揮、通信を徹底するつもりだった。

 中軍。ならびに後軍の一部をトウキョウの救援に向かわせ、ライに総指揮を任されたホールトンは全軍へのサポートに徹した。

 

「……まさか、ここまで黒の騎士団にやられるとはな」

 

 苦々しく呟いたのは司令室で指揮を執っているホールトンだ。

 ホールトンは長らく帝国に仕える軍人としていくつもの戦場に赴いた経験があるが、ここまでブリタニアの精鋭が撃破されていく戦場は初めてといってもいいほどだ。

 

 先行部隊はほとんど壊滅しており、しかもボーア、テスラをはじめとしたまだ若い騎士達が戦場で散っていった。

 ――皮肉にもこれから先の未来、ブリタニア帝国を引っ張っていくであろう若い騎士達が死に、老将と呼ばれる自分が生き延びる。戦争とは本当にわからないものだ。

 

「将軍、申し上げます!」

「どうした?」

 

 アヴァロンのオペレーターを務めるセシルがホールトンに伝える。

 正直な話これ以上悪い知らせは聞きたくなかったが、どうやら良い知らせらしい。彼女の表情からそれを察することができた。

 

「救出班から通信が入りました。レイ隊長が帰艦されたようです」

「なに!? レイか、無事だったのか!」

 

 先行部隊の隊長の一角を務めていたレイの無事を知らせる情報だった。

 ランスロットと戦い、結果脱出してしまったと聞いていたが彼の無事の知らせにホールトンは安堵した。

 

 まもなくして、アヴァロン司令室の扉が開きレイが司令室へと入ってくる。

 頭に包帯を巻いてはいるが、特に大きな怪我は見られない。表情もいつもと変わらずで問題はない様子。

 

「……すみません、ホールトン将軍。裏切りの騎士に敗れました」

「構わん。あの機体はヴィンセントとの機体性能に差がありすぎる。

 ランスロットは蒼穹か紅蓮くらいでなければ太刀打ちできないであろう。むしろ、よく持ちこたえてくれた」

「はい、ど~も。……それで戦況はどうなってますか?」

 

 ホールトンはレイの敗戦にも特に気にする様子もなく、レイを出迎えた。

 レイも形式上の言葉を述べると、すぐさま戦況を尋ねる。レイが脱出して時間もたっている。当然戦況に変化があってもおかしくないだろう。

 そしてその予想通り、戦況は大きく動いていた。

 

「まず一つ、先行部隊はほとんど壊滅している。トウキョウの部隊もマリーカ隊を除けば全滅だ」

「うげっ……」

「さらに、貴公が一度は退けたランスロットが機体の修理を済ませ再び現れた」

「……マジですか? あの脳筋(ランスロット)もう出てきたんですか。もう二度と出てこなくてよかったのに。……マリーカは無事なんですか?」

 

 レイは心底残念そうに、そして心配そうに呟く。

 自分がなんとか機体を損傷させたあの強敵が再び現れたのだ。しかも部隊は自分の隊も含めてほとんど壊滅状態。残されたマリーカにとっては酷な話しだ。体力的にも、精神的にも。

 

「その点ではな。……トウキョウにライ殿下とシュタットフェルト卿が、トウホクにはジェレミアとその部隊が到着している」

 

「じゃあひとまずは大丈夫そうですね。あの専用機ならまず負けないでしょうし」

 

 挙げられた名前を聞いてレイは安心した。 

 ライ、カレン、そしてジェレミア。そして彼らが操る新しい機体。彼らがいれば問題はない。

 三人の実力は折り紙つきであるし、彼らの機体は専用機ということもあり、その性能はブリタニアの中でも最強レベル。まず負けることはないだろう。たとえランスロットが相手であろうと、互角以上に戦えるだろう。

 

 ジェレミアの部隊はすでに到着しているし、中軍もあと数分でトウキョウに着く。問題はない。

 

「……じゃあ、ホールトン将軍。一つだけ、お願いがあるんですけどいいですか?」

「ん? なんだ。言ってみるがいい」

「それじゃあ遠慮なく……」

 

 レイはホールトンにあることを告げる。

 その頼みごとを聞いて一瞬ホールトンは目を丸くし、そして笑みを浮かべた。……どうやら、レイにも思うところがあるようだ。ホールトンは快く彼の提案を受け入れ、レイも飄々とした笑みを浮かべていた。

 

 

 

――――

 

 

 

 トウキョウ中心部をヴィンセントの小隊が飛んでいる。

 その機体はトウキョウを通っている鉄道を一通り散策し、その中でとまっている列車を発見すると、すぐさまアサルトライフルで狙撃。その列車を破壊した。列車を破壊するとしばらくして周囲の電子機器が回復していく。

 列車に仕掛けられていたのはゲフィオンディスターバー。トウキョウを覆うように設置されているその装置は次々と破壊されており、もはやその効果範囲は微々たる物だ。そしてそれを破壊しているのが……

 

『隊長、スガノのゲフィオン・ディスターバーは完全に破壊しました』

「……あとは、イケブクロ周辺といったところか……」

 

 ローが率いる部隊だった。ライの命を受けた彼はただ忠実に任務をこなしている。

 彼は隊を三つに分けトウキョウを巡回し、各場所に設置されているゲフィオン・ディスターバーの破壊を命じられていた。

 

 ローは次々とトウキョウに仕掛けられているであろう場所を察知し、装置を破壊して行く。

 おそらく、残るイケブクロの装置を破壊すれば影響を受けている第五世代以前のナイトメアも完全な状態で戦線に復帰できるはず。

 

「……よし、シンジュクに向かった部隊にイケブクロへ進軍するよう伝えろ。我々は一足先に殿下の援護に向かう」

『わかりました。トウホクにも一隊を向かわせますか?』

「……その必要はない。あちらにはジェレミアが行っている。援軍など不要だ」

『よろしいのですか? トウホクには藤堂がいるようですが……』

「……それがどうした?」

 

 ローの副官が彼に進言する。

 確かにジェレミアがトウホクに到着しているとは言え、黒の騎士団の指揮を取っているのは藤堂。しかもダールトンの部隊は疲弊している。

 副官は援護に向かうべきと考える。だが、一隊をトウホクに向けたほうがいいと言う部下の言葉をローは一掃した。

 

「……ジェレミアという男が、仕えるべき主を見つけた忠臣が、負けると思うか?」

 

 朋友をとことん信じ、理解しているからこそでた一途な言葉。

 これを聞いて、ローの副官は返す言葉を持たなかった。

 

「……そうだろう、我が朋友(とも)よ。そちらはお前に任せる。ライ殿下は……私に任せろ」

 

 ローは一度トウホクの方角に視線を向けてそう呟くと、一目散に首都・トウキョウへと向かっていく。

 それこそが彼の友であるジェレミアに対して、彼が誓った騎士としてのあり方であるのだから。忠臣の分まで自分が主を守り抜くと、ローは心に誓い主の下に駆け参じる。

 

 

 

――――

 

 

 

 トウキョウと同様に激闘が繰り広げられているトウホク。

 この場ではジェレミアと藤堂の一騎討ちが繰り広げられていた。

 

 ジェレミアのサザーランド・ジークと藤堂の残月。機体性能はほとんど互角。後はパイロットの腕次第だ。

 最新兵器の中でもこれだけの戦力を誇る機体を失えば、均衡している戦力は一気に傾く。

 しかもパイロットであるジェレミアはライの親衛隊隊長。対する藤堂も黒の騎士団の軍事総責任者。

 

 どちらも負けてしまえば全軍の士気に関わる。

 戦士としても、部隊の責任者としても負けられない。

 

「こしゃくな!!」

 

 言葉と共にサザーランド・ジークのロングレンジリニアキャノンが残月に向かって放たれる。

 だが藤堂は機体を旋回させ、砲撃をかわしながらサザーランド・ジークへと突撃していった。

 

 無駄のない洗練された動き。残月が制動刀を振り下ろすが、それはブレイズルミナスによって防がれる。

 受け止められたのを確認すると、藤堂は電磁ユニットを警戒して一度距離を離して牽制の銃弾を撃つ。

 サザーランド・ジークはなんなくこれをかわし、距離を保った。

 

 ……一進一退。お互いが全力を尽くしているものの決定打には至らない。だからこそ少しの油断が命取りとなる。二人とも一瞬たりとも気を緩める事無く、ここまで打ち合っていた。

 

『ジェレミア・ゴットバルトと言ったな。ナリタの戦いで戦死したとも聞いていたが。……あれだけ味方の信用を失い、倒れた男がこれほどの力を持って再び戦場に姿を見せるとはな。正直驚いたぞ』

「然り。たしかに私は軍内での信用を失い、ナリタの戦いでは死さえをも覚悟した。

 ……しかし、私はその過去を嫌悪してはいない。むしろ私は感謝さえしている。あの敗戦がなければ、私はこの場にはいなかっただろうからな。……あの敗戦があったからこそ、私はいまここにいるのだ!!」

 

 藤堂の皮肉めいた言葉にもジェレミアは一切動じない。

 そればかりか、あの忌々しいとも呼べる過去さえもなんなく受け入れているという姿勢を突きつけた。

 

『ほう。貴様はもっと執念深い男と思っていたのだが。……どうやら案外軽い男だったようだな』

「何とでも言うがいい。もとより私は他の誰の理解も求めてなどいない。私の目的はただ一つ。

 たとえ他の者に軽蔑されようとも、愚かだと侮辱されようとも……私はただ、己が忠義を貫くのみ!!」

 

 心の底からの叫びと共に、サザーランド・ジークは突撃をかける。

 

 ジェレミアのブリタニア皇族への絶対的な忠義。それは紛れもない本物だ。誰も否定できることではない。

 彼ほど忠義のために生き、そして戦うことを選んだものはいないだろう。それほどまでに彼の覚悟は固いものだった。たとえその身を改造されるような目にあっても、心を乱すことなく王に忠誠を誓うほどに。

 

 ――神聖なるブリタニア帝国を、そして皇族の方々を、ナンバーズごときに汚されたくなかった。

 かつて私は敬愛していた主君、マリアンヌ后妃を守れなかった。己が忠義を果たせなかった。

 それ以来、私は我が忠義をせめてでも貫き通したかった。……ただそれだけが望みだった。

 

「たしかに私は、他人からは良い目では見られなかったことが多々ある」

 

 残月から放たれる機銃を全てかわしていく。

 

 ……他の者からしてみれば、私は口だけの人間だったのかもしれない。

 枢木スザク強奪事件後はなおさらだ。ゼロの策に踊らされた私は、私の皇族への忠誠心さえをも疑われた。

 あれほど自分を憎んだことはない。なぜあのようなことになったのだと、ひたすら恨んだ。そしてもう皇族の方々へ忠義を果たす機会さえ奪われたのかと、絶望さえした。

 

 だがそれでも、それでもあの方は……

 

【ジェレミア卿。貴公には感謝している。貴公がいなければ、私もここまでブリタニア国内で動くことはできなかっただろう】

【もったいなきお言葉。光栄に存じます】

【ありがとう。私に仕えてくれたこと、とても嬉しく思う。

 この時代に目覚め、貴公のような忠臣を得られたのは我が名誉だ。あの時代にも貴公のような男がほしかったくらいだ】

【とんでもございません。……身に余る言葉でございます。そのお言葉だけで、このジェレミアは救われました】

【これからも、私のために戦ってくれるか? ――我が騎士、ジェレミア・ゴットバルトよ】

【Yes,Your Higiness!!】

 

「それでも我が君は……そんな私に手を差し伸べてくださったのだ!!」

 

 遠距離から牽制してくる残月にスラッシュハーケンを放つ。

 残月は後方へと押しやられていく。……どうやら出力ではこちらが勝っているようだ。

 

 本当に身に余ることであった。……ライ殿下はそんな私に、もう一度チャンスを下さった。 これほど幸せなことがあるか? いや、あるはずがない。

 名誉を失い、エリア11で敗北し、肉体を改造され、もはやブリタニア皇族に仕えることなど適わないとさえ思っていた。

 

 そんな私が、崇拝の念さえ覚えていたかの王――我が君、ライ殿下に仕えることができた。それだけではない。殿下はこのような私を認め、親衛隊隊長の座まで与えてくださったのだ。

 

「ならばこそ、私は……!!」

 

 マリアンヌ后妃を守れなかった、その罪を晴らそうなどと言う考えは今の私には無い。

 そう。私は最期の時まで我が君・ライ殿下に忠誠を誓うだけだ。

 

「あのお方のために、戦い抜くのみ!!」

『くっ!』

「私の忠義は果てぬ! 藤堂鏡志朗……貴様ごときのために、歩みを止めるわけにはいかんのだ!!」

 

 だからこそ、私は再び立ち上がった。今度こそ我が忠義を貫き通すために。

 ライ様の理想、ライ様の夢、ライ様の世界。それに仇なすものがいるならば、ライ様の道を妨げる者がいるのなら、私はライ様に仇なす敵を排除する刀となり、殿下を外敵からお守りする盾となろう!

 

 我が忠誠はまだ終わっていない! これから始まるのだ、我が君の輝かしい歩みとともに! このようなところで倒れるわけにはいかんのだ!!

 

「オール・ハイル・ライィィィィ!!!!」

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