紅蓮とランスロット。今にも決着つこうとしたときに駆けつけたのは、先ほどの戦闘で脱出したレイだった。
『君はまさか……さっきの!!』
「そうですよー。何ですか? ひょっとして、もう出番のない旧キャラだとでも思ってましたー?
だとしたら本当にあなたは……『邪魔をするなぁっ!!』 ……なッ!?」
レイがまだ話している途中だったが、ランスロットからヴァリスが放たれる。
とっさのことだったが、レイはなんとか機体をそらしてかわすことに成功した。しかしながら突然の不意打ちにレイの機嫌は悪くなる一方だ。
「……人がまだ喋っているときに何撃ってくれてんだこの天p『君ごときと、遊んでいる暇はない!!』 このッ!!」
MVSで突撃してくるランスロット。レイもMVSでその切っ先を受け止めたが、片腕しかない上に出力でヴィンセントが劣っている。……レイはそのまま押し切られてしまった。
さらにランスロットは追撃する。レイは先ほどの戦闘でスザクのスピード、攻撃の軌道をある程度読んでいた。ゆえに回避できる。そのはずだった。
しかし……
「はっや……っ!!」
一瞬の出来事だった。二機の機体が交錯すると……ヴィンセントはランスロットのMVSによって真っ二つに両断されていた。
『生きろ』というギアスのもと、先ほどよりも強化されているスザク。今のレイの状態では防ぐことができなかった。
ヴィンセントの脱出ポッドが作動し、レイは再び戦場から離れていく。
スザクはそのコクピッドブロックに向かってヴァリスを構えた。
ナイトオブテンのような殺戮趣味があるわけではない。だが、今のように機体を入れ替えて再び現れる可能性がある。隊長の実力を持つ騎士を生かしておくのは危険だ。
そう考えたスザクはゆっくりと、ヴァリスの引き金を引いた。
「そうはさせないっ!!」
『!!』
だが、軌道上に入ってきた紅蓮が展開している輻射波動によってそれは達成されなかった。エネルギー弾は輻射波動を打ち破ることはできず、その場でかき消された。
「ごめん、レイ。助けてくれてありがとう。……スザク、あんたの相手は私! これ以上仲間を殺させはしない!!」
『……カレン!』
カレンが仲間に謝罪と感謝の言葉を継げると再び刃を交える二機。決着はまだ、ついていない…………
――――
「レイ……もう一度駆けつけてくれたのか、ありがとう」
一機のヴィンセントが戦場を駆け抜け、ランスロットに向かっていく姿がライにも見えていた。
再び戦線に復帰し、カレンを助けてくれたレイに、ライは短く感謝の言葉を告げた。
ライもゼロの蜃気楼と、C.C.の暁直参などを相手にしていてとてもカレンの援護には向かえない。
パイロットの腕ならばライが勝っている。だが蜃気楼の高い防御力、そしてC.C.とのコンビネーションのために手を焼いていた。
――このままでは事態は一向に進展しない。こちから一つ仕掛けるしかない。
ライがそう意気込み、動こうとしたところにアヴァロンから通信が入った。
画面に全軍の総指揮を任せているホールトンが映し出される。
今は戦場のため、ライはあくまで敵機を睨みつけながらホールトンの言葉に耳を傾けた。
『ライ殿下、ホールトンです。至急お耳にいれたいことが』
「なんだ、こんなときに!?」
『それが、先ほどブリタニア本国より通信が入りました。……中華連邦が、ブリタニアに宣戦布告したとのことです」
「なにっ!?」
ホールトンの言葉にライは耳を疑った。聞き間違え出ないことを確認すると、すぐさま思考をめぐらせる。
現在の中華連邦と言えば、政治の中枢を握っている大宦官が悪政を行い、国力は低下し国民は疲弊している。とてもではないが大国ブリタニアに戦いを仕掛けるような余裕はないはずだ。むしろ媚を売ってくるというほうがよほど理解できる。
そのような国が本当に戦争を起こすというのか、本当ならばありえないことだ。
『先日、中華連邦国内でクーデターが起こり、指導者である大宦官が皆殺害され、新しく代表となった黎星刻という男が合衆国日本と同盟を結んだそうです』
「ばかな、なぜその情報が……」
なぜその情報が伝わってこなかったのかと呟く前に、ライの脳裏に一人の男――ディートハルトの顔が浮かぶ。たしかにあの男ならば、全世界への情報を偽造することとて可能だろう。
最近のブリタニアが、新米のライや合衆国日本に意識を取られすぎていたのも原因だ。国境付近の者達も、合衆国日本への援軍への準備にいそしんでいたため、他国の情報のことは完全におろそかになっていた。
――騎士団が全員日本国内にいると決め付けていたのが悪かった。
ライ達が日本戦の準備をしている間にもゼロはすでに国外にも目をつけ、手を打っていたのだ……
『中華連邦は同盟国の危機を知り、この合衆国日本にも援軍を、さらにエリア21にも部隊を展開しているようです』
「な!? エリア21に!? ……それでは、オデュッセウス兄上の援軍も無理か!?」
『はっ。オデュッセウス殿下の部隊は北上してきた中華連邦軍のために足止めを受けているとのこと。援軍は出せそうにありません』
「……馬鹿な」
ライの表情からは余裕が消えていく。
この日本に攻め込むに当たって、ライは旧ロシア――現エリア21の総督・オデュッセウスに援軍を要請していた。エリア21ならばこの日本にもすぐに部隊を向けられるとの考えからだ。だが、それさえも黒の騎士団に阻まれてしまった。
援軍を再び要請したとしても、ただでさえ中華連邦の宣戦布告に混乱している国内に、今から部隊の編成からはじめては時間がかかりすぎる。どう考えても中華連邦軍が着くほうが早いのだ。手遅れになってしまう。
『殿下、申し上げます!』
「セシルか。今度はなんだ!?」
ホールトンの通信を受けているところに今度はセシルから通信が入る。
次々と入ってくる状況。戦いながら聞いているライの頭はすでにいっぱいだ。
『先ほど、チュウゴクブロックに放っていた偵察機。『高速で動く機体』を発見したという報告をしたその数十秒後に、全て破壊されました!』
「全て破壊だと!?」
『これが、機体の破壊直前に送られてきた映像です』
ライは距離を保って、戦場に注意を払いながらも映像に目を向けた。
そして驚愕した。偵察機を破壊したという機体。それは、ライに見覚えがあった。危険だというのに思わずその機体に目を奪われた。
「――――『
それはまさに絶望を体現させるようなものだ。
紅蓮と同時期に開発されたという第七世代相当のナイトメア――『神虎』。
しかも、ハイスペックを追求した結果、誰にも乗りこなすことができなかったという孤高のナイトメアだ。あのライでさえ、黒の騎士団在籍当時は機体性能の50%程度しか引き出せなかったほどだ。
……その機体を乗りこなして、神虎がここに向かってきている。
よく見ると、背中に何かブースターのようなものが数個装備されている。ライは知るよしもないが、ラクシャータが作ったこのブースターの効果によって、現在の神虎は第九世代相当ナイトメア並みのスピードでトウキョウへと迫ってきていた。
(まずい、まずい、まずい!!!!)
次々と届く知らせの前に、ライにしては珍しく混乱した。
補給路確保のため、すぐにでも制圧しなければならないブリタニア軍。ただでさえ黒の騎士団の必死な抗戦の前に苦戦を強いられていたというのに、ここでさらに中華連邦の援軍。第七世代のナイトメアの登場。味方の援軍は間に合わない。――――絶望的状況。このまま退路を失えば全滅する可能性とてある。
……こうなると、ランスロットを一次的に退けてしまったことが逆にあだとなった。
ランスロットは先ほどの修理と同時に補給も済ませていた。だが、こちらはまだ戦いが始まってから一度もエナジーフィラーを交換していない。このまま戦い続ければ間違いなくこちらが先にエナジー切れとなる。
トウキョウに篭城したとしても、ランスロットの網追撃が待っている。
それに、ナイトメアが空を飛べるようになった以上、建物の防衛力も落ちた事だろう。
もしもルルーシュが建物のこともなりふり構わずに攻撃を始めたとしたら、それこそ終わりだ。
「……まさか、ゼロは最初から読んでいたのか? 僕がここで決戦を挑むと……」
『ライ。たしかにお前のほうが『人の和』は勝っていたのかもしれない。だがしかし、お前は『天の時』を、『地の利』を生かしきれなかった! ゆえに、お前にはもう勝利はない!!』
「ッ! ゼロォッ!」
別にライの取った作戦が間違っていたわけではない。もしあのまま決戦をいどまなかったならばブリタニア軍は第五世代までの戦力を全て失っていたし、騎士団は今度こそトウキョウでの篭城戦を挑んでいた。しかも、中華連邦からの援軍もあるという状況で。
正確に言えばルルーシュはライが決戦を挑もうとも、挑まなくても対応策を講じていた。ただそれだけのことだった。ルルーシュの策略が、ライの知略を上回っていたということだ。
「くそっ。……ジェレミア、ダールトン、ホールトン。
全軍に命じる。……これより、撤退戦に移行する!!」
ライは状況を理解すると早々に全軍に命じた。――撤退の指示を。
撤退がどれほど困難なことかは知っている。しかも、今回は本国からここまで攻め込んできたのだ。黒の騎士団の追撃を防ぎつつも迅速に行わなければならない。……だからこそ、迷ってはいけない。
――――
『これより、撤退戦に移行する!!』
「……了解しました」
藤堂と刃を交えながらジェレミアは短く了承した。トウホクでも変わらず戦闘が継続されている。
なかなか戦況は好転せず、突如入ってきた中華連邦の情報。これ以上戦い続けては、犠牲が増える一方だ。その前に迅速な判断を下したのは間違いではない。
「藤堂。悪いが、どうやら貴様とこれ以上戦っている状況ではないようだ」
『だろうな。ブリタニア軍にとっては、の話しだが。しかし私には貴様を逃がす理由はない』
ブリタニアにとっては被害を少しでも抑えるためにも迅速に、敵を足止めしつつ後退しなければならない。逆に騎士団にとっては少しでもブリタニア軍を追い込み、戦力を削り取ることが大切だ。
だからこそ、ジェレミアはここで倒せはしなくても、藤堂を追撃不可能なほどにまで残月を破壊しなければならない。
「然り。だからこそ最早……手段は選ばぬ!!」
『なにっ!?』
残月を後方から肉簿する機体――ダールトンのヴィンセントだった。
ダールトンは千葉の暁を撃墜し、ジェレミアの加勢にやってきた。
『くそっ!』
残月は制動刀で防いだが、そこにサザーランド・ジークの大型スラッシュハーケンが放たれる。
藤堂もさすがにこの二人を相手にするには無理があり、大型スラッシュハーケンをまともに食らい、片腕を失った。
『ジェレミア、私には構うな! やれ!』
「御意! ……うけよ、忠義の嵐!!」
近くにダールトンもいたものの、サザーランド・ジークから砲撃の嵐が全方位に放たれた。
輻射波動機構も尽きた残月はその勢いに呑まれ、残月の装甲がどんどん削り取られる。
『……不覚!』
大破した斬月はシステムに従い脱出ポットを射出する。ここで藤堂を逃がすのは惜しいが、今は撤退が優先。
これでトウホクの黒の騎士団は指揮官を全て失い、総崩れとなった。
ジェレミアは、攻撃に巻き込まれて中破したダールトンのヴィンセントと合流し、全軍に予定の撤退ルートに向かった。
――――
『殿下。トウキョウの地上戦力はすべて回収しました!』
「そうか……」
セシルからの通信。
トウホクの部隊も退路を確保したとジェレミアから連絡を受けた。
あとは、ここだけだが……問題がある。今でこそなんとか防いでいるものの、蜃気楼・ランスロットともに今から退けるのは無理がある。時間をかけすぎては神虎も到着する。
よほどの実力を持つものを殿にしなければ、あっという間に突破されてしまう。
犠牲は仕方がないとして、一気に引き上げるか。……それとも、犠牲を減らすためにも誰かに殿を命じるか。
しかし、この戦力に殿を命じるとなると……
「……どうすれば……」
『ライ。お願い……行って』
「カレン?」
ランスロットと交戦していたカレンは一度ライの下に退がり、通信をつなげた。
そしてライに言う。その声は、どこか覚悟を決めた強さが感じられて……
『全軍、至急引き上げを!! 殿は私が引き受ける!!』
「なにっ!?」
突如、カレンがライに代わってトウキョウにいる全軍に命じた。そして、自分が殿を務めると断言した。
このまま撤退すればどれだけ大きな犠牲がでるかはカレンも分かっていた。いや、へたすれば追いつかれるかもしれない。
仲間を失うだけではない。これ以上の犠牲はライの評価にも関わる。ただでさえこの戦いですでに多大な犠牲者が出ているのだ。それでなくてもライは新参者としてあしらわれているというのに、さらに立場を悪くするわけにはいかない。
『ロー、殿下を連れて脱出を。何があっても、ライ殿下をお守りして』
『……引き受けた』
「ふ、ふざけるな! 僕も戦う!!」
『……そうね。だからライ、戦って。生き残って……今度は自分自身のために』
「っ! ……だけど、カレンは!!」
『大丈夫。言ったでしょ。……私は、死なないって』
「!!」
そう言うと、紅蓮は蒼穹を後方へと突き飛ばした。
その蒼穹をローの機体と数機のヴィンセントが受け止めて、速やかに撤退を開始する。
だが、ライはそれでも納得せずに、蒼穹をつかんでいる機体を振り払おうとする。最も、味方が相手では無闇にあしらうこともできず、その間にも紅蓮との距離は離れていく……。
『ほう。主を逃がすため、自ら殿を引き受けたか。……カレン・シュタットフェルトよ』
「ライを守るのは騎士たる私の役目! 誰にもライを殺させるわけにはいかない!」
『ならば、その覚悟を抱いたまま朽ち果てろ!!』
もはや降伏勧告など必要ない。
短い言葉のやり取りが終わるや否や、暁が、ランスロットが次々と紅蓮に襲いかかる。
――――これでいいんだ。
カレンは瞳を閉じてその間から一筋の雫を流すと……MVSを抜き、暁を切り捨てた。
――――
「!! カレン……」
見える。ただ一人で黒の騎士団に挑んでいる紅蓮の姿が。
見える。暁の部隊の中を勇敢に斬り進んでいく紅蓮の姿が。
「……嫌だ……ッ」
カレンが一人で、戦場に取り残される姿が見える。
「嫌だぁぁっーーーーー!!」
『殿下!?』
蒼穹が自分を引っ張っているヴィンセントの腕を強引に振り払う。
そして、蒼穹は戦場へと戻っていく。紅蓮の下にまで、カレンの下にまで戻っていく。
(……あとどれくらい撃破できるんだろう? でも、やるしかない……)
第一陣を撃墜し、再び臨戦体勢に入る紅蓮。
黒の騎士団はまだまだいる。ランスロットも、蜃気楼も、暁直参も。
おそらくカレンほどの実力を持ってしてもここから生き残ることは不可能だろう。それでも、自分の命と引き換えにブリタニア軍が、ライが撤退するだけの時間を稼ぐ事はできる。そう考えればまだまだ戦えるような錯覚を感じる。
気休めに笑うカレン。だがそんな余裕などないのだと言うかのように、今再び第二陣が紅蓮に突撃を仕掛けてきた。
「やめろーー!!」
『!? な!?』
だが、それは紅蓮の後方から放たれたハドロン砲によって撃破された。
カレンも驚愕した。今の声は、彼女が誰よりも守りたかった人の声だったのだから。
先行部隊を撃墜し、紅蓮と並び立つ蒼い機体。――ライの蒼穹。
「嫌だ、ふざけるなよカレン。……君の主は僕だ! 君の命令なんて、聞けない!!」
『……ライ』
「双璧は、僕一人じゃ成り立たない……! 君がそうだったように、僕がカレンを失うなんて、僕が許せない!!」
『……』
「勝つんだ、二人で。生きるんだよ、二人で! これは、命令だ……!!」
『……!』
神聖ブリタニア帝国による合衆国日本への侵攻。
だが歴史上二度目となるその侵攻戦は、合衆国日本の軍事組織・黒の騎士団の奮闘と、同盟国・中華連邦の援軍の前にブリタニア軍は敗れた。
その後、中華連邦は国名を合衆国中華と改め、合衆国日本と共に、アジアを中心とした対ブリタニアの連合国家『超合衆国』を設立する。
黒の騎士団は超合衆国と契約する唯一の軍事組織としてさらに強大なものとなった。
これにより、世界には合衆国・ブリタニア・EUの3極が成立する。
超合衆国の台頭を警戒したブリタニア皇帝、シャルルは再び合衆国日本へと攻め込むことになるのだが……それはまた、別の話し。
「来い、黒の騎士団。お前達の絆なんて、鼻で笑ってやる!!」
見届けろ。今まで日本を、仲間を守ってきた少年少女の戦いぶりを。
目に焼き付けろ。自分達が双璧と呼んだ者達の、双璧たるゆえんを。
そして心に刻め。若き騎士達の悲しいほどに強すぎた絆を。断ち切れぬ想いを。