―― 合衆国日本 黒の騎士団 ――
「どうだディートハルト。ブリタニアの動きは?」
黒の騎士団の作戦司令室。騎士団も日本防衛戦に向けて軍備を充実させていた。相手は大国・神聖ブリタニア。かつては敗戦を経験した相手である。準備をしておくに越したことはない。軍を指揮するのがあの双璧だというのならばなおさらだ。
今ここには騎士団に在籍する幹部のうち、軍事の代表が揃っている。メンバーはゼロ、扇、藤堂、ディートハルト。指揮系統や情報を任されている責任者達。今はゼロがディートハルトの報告を受けていた。
「今のところ、軍備の調整中のようです。どうやらブリタニアもまだ完全ではないようですね。少なくとも、攻め込んでくるとしてもしばらくは日を要することになるかと」
「わかった。調査は引き続き行ってくれ。……それとこちらの戦力である暁や残月、なにより斑鳩の調整は?」
「暁、並びに残月は最終調整を残すのみ。藤堂将軍や四聖剣の方々が試乗していただければ問題はないかと。しかしながら斑鳩の方は……厳しいと、ラクシャータの言葉です」
「……そうか」
新型ナイトメア、暁と残月の配備は最低限のこと。すでにブリタニアはライやカレン、ジェレミアといった主力部隊を中心にフロートユニットを搭載した機体が出回っているという情報が入っている。
日本防衛戦においても、航空戦力で劣らないためにこちらも空で戦える戦力が必要だった。
少しでも戦力が欲しい中、斑鳩が出撃できないのは痛すぎる。斑鳩は全体への指揮系統を行う戦艦であり、強力な砲撃要塞であるからだ。
「ならば、今は斑鳩を後回しにするよう伝えろ。それよりも、暁を大量に生産したほうがこちらも助かる」
「わかりました」
「……なあ、ゼロ。本当に、本当にライとカレンはブリタニアについたのか?」
「……事実だ。カレンのシュタットフェルト家も、ライの後継人となった。あの二人は……もはや敵だ!」
「くッ!」
扇は未だに現実を受け入れられないのか、ゼロに二人のことを聞いたが……聞くだけ無駄だった。
すでにあの二人はブリタニアの軍門に下ったと、団員は認識していた。
あの二人がブリタニアに加わったことは騎士団にも大きく影響した。
騎士団員の中に、ブリタニア軍に加わる離反者が出てきたのである。若いながらかつて『騎士団の双璧』と呼ばれ、隊長に任命されるほどの実力を持ち、団員達の信頼を得た二人。その二人を慕うものは決して少なくなかった。それほど、彼らの存在は騎士団の中で大きかったのである。
「だがゼロよ。実際のところ我らが不利だということは変わらない。戦力の要であった二人が消えた上に離反者が現れ、騎士団の戦力は今も低下している。地力で劣っている我らには、これ以上の戦力の低下は許されない」
「わかっている! ディートハルト、新幹部の選出はどうなっている!?」
「オペレーターは三人確保しました。……しかしながら、ナイトメアのパイロットは今だこれといった人材は見つかりません」
日本が解放され、新たに防衛の軍として人材を集めようと試みたが、これと言った実力者は現れなかった。最も、ライやカレンの抜けた穴を埋める者などいるはずがないのだが。
今の騎士団の中でブリタニアのエース級の騎士達と渡り合える戦力と呼べるのは藤堂、四聖剣、ルルーシュ、スザクくらいである。
「……中華連邦との外交はどうなっている? 神楽耶様は?」
「現在、天子と掛け合っているところですが……報告によると、上層部を憎んでいる派閥があるようで、彼らとも話を伺っているそうです」
「引き続き、連絡を頼む」
神楽耶の悲しみも大変なものだった。やっと従兄弟のスザクが目を覚ましたと思ったら、今度は同じく血のつながりがあり、頼りにしていたライとパートナーのカレンがブリタニアに。思わず、スザクの腕の中で涙していた。
だが、それでも彼女は日本の代表であるという矜持を捨てなかった。今も日本の代表として中国と掛け合っている。愛する祖国を守るために。
スザクがそうであったように、きっとライ達も目を覚ますとひたすらに信じて……
「藤堂、お前は騎士団の訓練を頼む。扇、ディートハルトは引き続きブリタニアの動きを警戒、何か動きがあればすぐに伝えてくれ。スザクには、ランスロットの調整を済ませておくよう伝えてくれ」
「了解!」
ゼロは幹部達に通達すると、自室に戻っていった。自室ではC.C.がピザを食べて待っていた。
鍵を閉めるとルルーシュはゼロの仮面をはずし、荒々しく椅子に腰掛ける。その様子からルルーシュの心情を察したC.C.は彼を茶化す様に口を開く。
「ご苦労なことだなルルーシュ」
「……黙れピザ女」
その言葉がよりルルーシュの気を苛立たせる。しかしC.C.はそのようなこと知ったことではないと言わんばかりに微笑した。
「そう言うな。元はと言えば、お前が引き起こしたことだろう? お前がライにギアスをかけたことで、この悲劇が始まった」
「違う! ライがスザクにギアスをかけなければこうはならなかった!
俺もナナリーも……スザクも、ライもカレンも! 今はきっと一緒にこの国でいられた!」
「本当にそうか?」
「何だと……?」
C.C.の言葉に苛立ちを隠すことなく声を荒げるルルーシュ。
しかしそんなルルーシュを無視し、C.C.は言葉を続ける。彼女から見た物事の経緯を。
「ライのやったことは別に戦略的に間違っていない。現に今まで騎士団はあの白兜――ランスロットとか言ったか? あれに何度も苦しめられた。その白兜を行政特区日本の計画をつぶす形で味方に取り込んだ。まさに最高の結果じゃないか。
もしライがいなかったら……騎士団は今頃滅んでいたかもしれないぞ? お前とて、どうなっていたかわからない」
「それは……結果論だ!」
「何を今更。――大事なのは『過程』ではなく、『結果』。そう言ったのはお前だろう? そんなお前が、最高の結果を生んだライを否定するのか?」
「……だが!」
「確かにライのやったことは正しいことではないかもしれない。だが、お前は友情にとらわれたことで……スザクという最大の戦力を手に入れ、ライとカレンという最高の戦力を失った。果たしてどうするのかな?」
「……待て。まさかお前は知っていたのか!? ライが目を覚ましていたことを! あいつらがブリタニアに行ったことを!」
「ああ、知っていたさ。当たり前だろう? 私はコードの保持者だ。ある程度のことはわかる」
C.C.はさも当然のように答えるが、その様子がルルーシュの怒りをさらに引き立てた。
もう感情を制御することができず、ルルーシュは思わず彼女の胸倉をつかみ上げ、責め立てた。
「なぜもっと早く言わなかった!? それさえわかっていれば、まだ手のうちようはあった!」
「嘘をつくな。一体お前に何ができたと言うんだ? ただ絶望に落ちるだけだろう。
……今更女々しいぞルルーシュ。もはやこうなってしまった以上は……あの二人を殺すしかない」
「殺す……だと? 俺に、あいつらを殺せと言うのか?」
「少なくともカレンはお前のことを本気で殺しにくるだろうな。あいつはおそらくだが、お前がライにギアスをかけたことを知った。そしてあいつは、ライのためならばお前であろうと躊躇することなく殺すだろう」
「……」
「ライも同じだ。あいつはカレンを二度と一人にはさせない。カレンが修羅の道を歩むのならば、あいつは迷うことなく共に進む。……お前とて本当はわかっているのだろう? お前が殺さなければ、お前が殺されると言っている」
C.C.の言っていることは正しい。カレンはV.V.とライの話を聞き、真実を知った。そしてその上でライを受け入れ、ライにギアスをかけたルルーシュを恨んでいる。
ライもまた然り。一度カレンに悲しい思いをさせてしまった上に彼女をブリタニアに取り込ませてしまったことに深く負い目を感じている。カレンを守るためなら彼は仲間であろうとも戦うことに迷いを感じない。
二人はすでに、戦う覚悟を決めていた。騎士団と相反する覚悟ができていた。
「私を失望させるなよルルーシュ。私はお前が生きていればそれでいい。たとえ、他の者達がどうなろうともな」
「……」
ルルーシュは何一つ返事をすることができなかった。今だ何が正しかったのか……間違っていたのかを整理できていなかった。
C.C.は力がなくなったルルーシュの腕を振り払うとそのままルルーシュを部屋に残して退出していく。
ただ一人になった空間で、ルルーシュはただひたすら拳を握り締めた。
……その眼光が、まだ死んでいない。彼が見据える先にあるのは――彼が憎むべき敵、神聖ブリタニア帝国。
――――
「まったく。本当に世話がやけるやつらだ」
誰もいない廊下でC.C.は一人呟いた。誰にも語りかけるわけでもなかったその声はどこか穏やかなものだった。
『やつら』の中にはおそらくだが、ルルーシュやライ、カレンのことが入っているのだろう。
「一体やつらがどうやってライを目覚めさせたのかは私にはわからない。……しかし」
そこでC.C.は言葉を遮り、下げていた視線を真正面へと移す。
彼女の表情からはいつもの笑みは消えていた。そこにあったのは見たものがぞっとするような、冷たい怒りだけであった。
「本当に酷なことをするな、お前達は。仮にも自分達が尊敬していた男を、己の計画遂行のための部品にしようって言うのだから」
C.C.にしては珍しく、彼女の声には激しくはなくとも静かな怒りがこめられていた。
そう言うと彼女は引き裂かれることとなったルルーシュ、ライとカレンのことを考え……静かに目を閉じ、行き先もわからずにその場から立ち去った。
そこにいつもの彼女の姿はなく、『魔女』と呼ぶには似ても似つかない少女の姿があった。
――――
「ライ……どうしてなんだ? どうして君がブリタニアに……?」
スザクは自分に与えられた騎士団アジト内の個室で一人呟いていた。今部屋にはスザクしかいないため、その声を聞いている者はいない。
彼の力のない声は自室に広がり、誰にも届くことなく消えていく。彼の心からの苦言は誰にも伝わることはない。
「どうして、僕に進む道を教えてくれた君が……どうして僕達の道に君はいないんだ……?」
ライがかけたギアスは『黒の騎士団に加わり、ゼロの進む道を切り開け!!』というもの。
たとえライが、ギアスをかけた本人がブリタニアに加わろうともその効果は続く。効果が切れることはない。
それゆえにスザクは迷っていた。騎士団に入ったのは間違いだったのではないかと。信じていた主君を裏切ってまで選んだ道が間違いだったのではないかと自責の念に駆られていた。
「やっぱり、あの時の僕が間違っていたのか……? 僕はユフィと……ッ! 違う! ゼロが正しいんだ!
ゼロの道が僕の道。そして、ゼロの道を切り開くのが僕の役目。
だから、ゼロの道を邪魔するなら……ライでも、カレンでも……ユフィでも! 僕は……!!」
スザクの疑問もライのギアスによって打ち消されていく。王の力は彼のささいな迷いも許さなかった。
白き騎士は光を失った瞳で、友を……大切な者達と戦うことを決意していた。
「スザク君、今大丈夫か?」
「ん……はい、藤堂さん! 大丈夫です」
「失礼するぞ」
スザクの許可を得て、藤堂が部屋に入ってくる。
師弟だった間柄、藤堂はスザク加入のことをとても喜んでいた。騎士団幹部の中で、藤堂はスザクに何の偏見もなく接する数少ない一人である。
「調子はどうだ?」
「大丈夫です。命令があれば、いつでも出撃できます」
「フッ、それは頼もしいな。その言葉を聞けて私も嬉しく思う。……おそらくだが、ブリタニアが攻め込んでくるまでもう少し時間はかかる。それまでにランスロットの調整を万全にしておけとのことだ」
「わかりました」
本来ならばこうして言葉を交わすこともなかっただろう。
以前は戦場で、ナイトメアの通信越しに話すだけだった。それが今となってはこうして仲間通しで話し合える。藤堂にとって、これほど嬉しいことはなかった。
「……君は大丈夫か? ライ君や紅月君とは、その……クラスメイトだったのだろう? 友と戦うことに、迷いはないのか?」
「関係ありません。彼らがゼロの道の妨げとなるのなら、僕が彼らを討ちます。ゼロの道を切り開くのは自分です!」
「そうか。……いや、それならいい。私も期待しているぞ」
「はい、任せてください!」
(……どうなっている? 頼もしくはある。彼の言葉に嘘は感じられない。……だが、何かがおかしい。あれほどゼロを否定していたスザク君が、今となってはゼロを肯定するどころかゼロを守るほどになった。一体彼に……いや、彼らに何があったんだ?)
スザクやライ達の変貌に疑問を感じつつ、藤堂はその疑問を心に留めた。
変わったのも個人の理由がある。その理由を自分が聞いても仕方がない。
藤堂は何も聞かずに、自分の任務を全うするため部屋を後にした。