「……セシルさん。ロイドさんはいますか?」
「ライ殿下! ようこそお越しくださいました。ロイドさんは……」
「ここにいますよ殿下~。お久しぶりですね」
「ええ。それで、今日を僕を呼んだ理由は?」
「ライのナイトメアになにか問題でも?」
今日、僕はロイドさんにナイトメアのことで呼ばれ、研究所に来ていた。当然のことながらカレンも護衛として同行している。ジェレミア卿は部隊編成のために今この場にはいない。
ロイドさん達にナイトメアの整備を頼んだものの、特に機体には問題はないと思っていたのだが……
「いえいえ、ナイトメアのことと言えばそうなんですが……どちらかと言いますと殿下ご自身のことでして……」
「僕のこと?」
「はい。正直に言いますと、殿下のあの機体は……とてもではありませんが初軍務の殿下に乗られる機体ではないと言いますか……」
「……なるほど。つまり、僕では役者不足だとそう言いたいわけですか」
「ち、違います殿下! 今回のこの機体……『月下』は、第七世代に相当するナイトメアの上に、出力傾向が他のナイトメアに比べピーキーで、普通のパイロットには扱いがたい代物なんです。
しかもこの機体には輻射波動という特殊な武器が装備されており、軍人でもこれを完全に扱えそうなものはいません。ロイドさんの言い方が悪いだけで、決して殿下を侮っているわけではありません!」
「いえ、別に責めているわけではないですよ。そのことは僕も承知の上ですから」
セシルさんが必死に弁解をしてくるので一応誤解を解いておく。彼女も僕が皇族ということで、色々気遣いをかけてしまっているな。……しかも上司がロイドさんだし。
そんなに気を使わなくていいと言ったんだが、彼女といい、ジェレミア卿といい軍人には生真面目な人が多い。騎士団とは雲泥の差だな。(解放戦線の人たちを除いて)
「それで? 僕を呼んだのはまさかそれを言うためだけではないんでしょう?」
「ええ。殿下にはナイトメアのシミュレータやっていただこうと思いまして」
「シミュレータ? 実戦ではなくて?」
「もしものことがあったら大変ですからね~。
それに、殿下は一度サザーランドを乗りこなして見せたじゃないですか」
「……それもそうか」
一度、ロイドさんの要望でサザーランドに乗った。もちろん、僕がパイロットとして任せられるかのテストだったのだが、文句なしの高得点をたたき出した。
搭乗したときに発生するGにも対応しているし、実戦でも普通の機体なら大丈夫と判断されたわけだ。
「すでに月下のデータを入力しています。いつでもできますが……」
「シミュレータをはいえ、並の力では動かせませんよ?」
「わかっていますよ。早速はじめましょうか」
僕は早速シミュレータを開始することにした。
まだ彼らの前で月下に乗ったことはない。……だからこそ、ここで教えておかないとな。
この機体の主が、今まで共に数多の戦場を駆け抜けてきたパイロットが、一体誰なのかをね……
――――
「セシル君、よろしく」
「はい。……シミュレータを開始します。殿下、モニタに外の景色が映りましたら、前進してください」
セシルさんの言うとおり、目の前に架空の景色が映りだされた。
なんの障害もない平野だ。純粋な戦闘訓練には丁度いい。指示通りまずは前進する。
「戦闘管制に入ります。“月下”は現在単騎で哨戒任務を遂行中。進行方向上に小規模編成の敵ナイトメア部隊を発見。“月下”は速やかに敵対勢力を排除せよ」
「了解」
指示を受けるとすぐさま行動へと移す。無駄に相手に時間を与えることはない。
ペダルを踏み込み、速度を上げる。シミュレータと言っても、本物の月下のようなスピードをしっかりだしてくれる。主の命令に答え、どんどん加速する月下。ディスプレイ上の敵を表す点がみるみる近づいてくる。
「敵部隊、まもなく交戦距離」
モニターに三騎のナイトメアが見えた。……黒の騎士団が多用している量産型ナイトメア、『無頼』だ。
スピードを落とすことなく正面にむけハンドガンを放つ。
敵は攻撃から逃れるように三方向に散会した。
弾は当たらなかったがそれでいい。もともと当てるつもりで撃ったわけじゃない。これは牽制だ。先に相手に撃たれる前に、敵を散らすことが目的。
一番近い機体に狙いを定める。速度はそのまま減速する事無く維持し、すれ違いざまに制動刀で斬りつける。無頼はその切れ味の前に一撃で沈んだ。
斬撃と同時に急旋回し、残ったニ騎のうち片方を正面にとらえる。
ハンドガンで即時撃破。これで二騎を撃破した。残るは一騎だけ。
最後の一騎が側方から撃ってくるが、距離があるので楽に回避できる。……いや、僕と月下ならたとえ距離がなくても回避できる。
最後の一騎がアサルトライフルを連射しながら突っ込んでくる。
最小限の動きでこれをすべてかわし、距離がつまったところでハンドガンを撃ち返す。
これで最後の一機も戦闘不能になった。
「敵部隊の全滅を確認」
「すごいね~。接触から17秒で三騎を撃破……本当に戦場に出たことないんですか?」
「ライならこの程度、朝飯前よ」
外では三人が会話しているのが聞こえる。カレンも誇らしげに話すが……あまりそういうことを言うと、直のこと疑問をもつだろうから、あまり言わないで欲しいんだけどな。まあ今の彼女に言っても無駄か。
「全弾、命中寸前のギリギリのタイミングでかわしています。しかも、操作の回数がペダルと操縦桿に対して1秒間に最高12回もの入力をしています。それも機械のような正確さで」
「……もし相手のナイトメアに人間が乗っていたら、亡霊と戦っているんじゃないかって思うだろうね。
真正面でほとんど動いていないように見える殿下の機体に、弾があたらずすり抜けていくんだから。
殿下は本当におもしろいですね~。これならすごく良いデータがとれそうですよ、んふふ~」
ロイドさんが興味津々といった感じで呟いている。最も、所詮はただの無頼だし、それほどたいしたことをやった覚えはないが、やはり普通に考えればすごいことなのだろう。
「敵増援部隊、後方より接近中」
「あ、まだ続くんですか?」
「ええ。いけるところまでいってみてください」
「敵増援部隊の編成、サザーランド15騎」
……サザーランド15騎。一気にレベルが上がったな。
まあシミュレータだし、いけるところまでいってみよう。今の僕の実力を知る絶好の機会でもある。
――――
ライは『いけるところまで』と言ったが、その『いけるところまで』というのがくせものだった。
「敵ナイトメアを撃破。敵の残存戦力、『サザーランド』8」
「ふふふ、すごいですね殿下。もう6騎倒しちゃったよ?」
「敵のさらなる増援部隊を確認。編成、月下4騎。2方面より急速接近中」
「ちょ、ちょっと待って! なんなの!? このシミュレータのプログラムは?」
「いやー、どこまでいけるかな? と思いまして。倒せば倒すほど強いものがでてくるようになっているんですよ」
ロイドの性格上、今回のシミュレータは敵を倒せば倒すほど、どんどん敵が強くなっていくという、過酷なプログラムが組み立てられていた。しかも、その内容はただ単にレベルだけが問題ではない。
「月下4騎、交戦エリアに到達。特派月下、右肩に被弾。損傷は軽微」
「あー……すごいすごい。見ました? 今の動き。また1騎……いや、2騎倒しましたよ」
「敵のさらなる増援部隊を発見。編成……月下指揮官機!? 交戦エリアに接近中」
「ロイドさん! これってまさか、黒の騎士団の戦力を……!?」
……そう。この相手の編成は黒の騎士団に在籍する戦力をデータ化して作られたものだった。
四聖剣や藤堂をはじめとして、今までの戦いのデータをフルに利用したものである……
「輻射波動、残弾ゼロ。飛燕爪牙、破壊。エナジーフィラー22%。殿下……!」
――――
「いやー、すごかったですね。しかし殿下、汗だくですよ」
「……あれをやったら、汗だくにもなりますよ」
「あの設定はやりすぎですよ、ロイドさん!」
やっぱりロイドさんの組んだプログラムだったか。……いや、途中からそんな気はしていたけど。
あんなプログラムをロイドさん以外の人が組み込んだなんて考えたくないし。
「でも結局、エナジーフィラーがなくなるまで戦い続けたんだから、いいんじゃないの?」
「ライ、大丈夫だった? あんなに酷いシミュレータで」
本当にひどかった。途中、ガウェインやランスロットまで現れたし。……まあ、ランスロットが到着する前にエナジー切れになったわけだけど……
「でも、あそこまで敵を出す必要あったの!?」
「まあまあ、シュタットフェルト卿。そうは言われましても実際ガウェインは戦闘には参加していませんし……」
「それでも、空中からずっと狙ってたじゃない!」
そう。ガウェインは直接戦闘にこそ参加しなかった。しかし、隙あればいつでもハドロン砲を撃つと示すように、常に空中から月下を狙っていた。おそらく指揮に専念していたのだろうが。
……ゆえに僕は陸上と空中、二つに対して常に気を回さなければならなかった。それは僕の集中力を削り取るには十分すぎるものだった。
「でもこれだけ戦えるのなら、殿下が戦場にでても何の問題もないですね。……このロイド・アスプルンド。責任を持って殿下のナイトメアを用意させていただきます」
「……ああ。こちらこそ、よろしく頼みます」
これで一安心だ。おそらく、ルルーシュたちも次の戦いまでに戦力を整えてくるだろう。ナイトメアの質だって上がっているはずだ。
こちらも早いうちに、ロイドさんにナイトメアや新武装の開発をしてもらわないと。
――――
―― 後日 ――
僕は再びロイドさんに呼ばれた。研究所にはセシルさんの姿は見えない。どうやら今日は外出中のようだ。カレンは今日はジェレミア卿のところに部隊の様子を見に行ってもらっている。
つまり、今日は僕とロイドさんだけか……
「殿下~今よろしいでしょうか?」
「ん? なんですか、ロイドさん」
「新パーツのテストを行いたいんですけど、よろしいでしょうか?」
「新パーツ? もうできたんですか? ……わかりました。いいですよ」
さすがに仕事が早い。なら、早速ためさせてもらおう。何事も早いにこしたことはない。
――――
「まずはこのライフルを試してみてください。基本はアサルトライフルと同じなんですが、モード切り替えで長距離からの狙撃もできます」
言われたとおり、ライフルのモードを切り替える。すると長距離用に銃の銃身が伸び、モニター上にカーソルが現れた。
……なるほど、通常モードは従来のアサルトライフルと変わらないが、狙撃モードにすると銃身が伸び、その攻撃範囲が増すのか。
「敵を2機出すので、試しに撃ってみてください」
「了解」
レーダー画面にふたつの光点が現れた。
しかしレーダーに映るものの、ここからはまだ距離が遠く、正面モニターにはナイトメアの影も形も見えない。
射撃するのならばこちらから接近するのが一番なのだが……果たしてこの銃の射程範囲はどれくらいなのか。
「ロイドさん、この距離からでも狙えますか?」
「射程内です。モードを切り替えてみてください」
狙撃モードに切り替えると、モニターにターゲットサイトが表示される。
1騎の無頼にロックをかけて、トリガーを引く。
……命中。的であった無頼が火を吹いて倒れた。
このまま残った無頼に狙いを定めるが、違和感を覚える。
「ああ、狙撃モードでは速射はできません。通常モードに切り替えてください」
すぐに切り替える。
これで通常のアサルトライフルと同じように使える。一回の速射で、無頼を撃破した。
「どうでした、殿下?」
「切り替えを使いこなせば、かなり助かる……ただ、エナジーフィラーの減りがやけに多いのが気になるんですが……」
ゲージを見ると、エナジーが余分に減っていた。特に激しい戦闘でもなかったのだが……
「狙撃モードの時はファクトスフィアを開きっぱなしにして、なおかつ感度を増幅させますから……そのファクトスフィアも新パーツなんですけどね。あとライフルそのものも、狙撃モードでは通常モードの15倍のエナジーを消費します」
「だから速射ができないし、ロックに時間がかかるんですね」
「はい。使いすぎますと活動時間がどんどん短くなりますからね。……これは殿下にはつけないほうがいいかもしれませんね。総大将ですし、エナジー切れなんて一番危険ですからね。
……それじゃあ、次のパーツをシミュレータにロードしましょう」
ロイドさんは実に楽しそうな声で話しかけてくる。そのせいか、僕もなんとなくつぎのパーツが楽しみになってきた。
「これはショート・ソードなんですが……」
「……妙に柄の部分が長いですね」
「いいところに気がつきますねー。それ、2本つなげても使えるんです。いろんな使い方ができますよ。つねげて使ったり、分離して両手に一本ずつ持ってもいいですし、もちろん一本だけ使ってもいい。アタッチメントをつけてぶら下げておきますね」
なるほど。これは先ほどとは打って変わって近接戦闘用の武装か。これも期待できそうだ。
「じゃあ、敵機を出すので使ってみてください」
至近距離に三騎の無頼が現れた。
まずはショートソードを片手に持ち、無頼が振り下ろしてきたトンファを止めようとすると……特に手ごたえもなく、トンファがスバッと切断された。
そのままの勢いで無頼の肩口から胴にかけて、ソードを走らせる。無頼はあっさりと切断された。
「……すごい切れ味なんですけど。一撃で無頼が……制動刀と同等の、いやそれ以上か?」
「大きさは違いますけど、機構はランスロットと同じ、メーザー・バイブレーション・ソードですからね」
「MVSですか。刃の部分が高周波振動してるっていう……」
「……殿下~。本当にナイトメアのことをよく知ってるんですね。もうそこらへんの騎士が見たら自信喪失しちゃいますよ~?」
……まあ、本当は戦っていたし。
苦笑したいところだったが、残った二機の無頼が襲いかかってくる。
今度は二本のソードをつないで一本のランスにして、左の無頼に突きを入れ、引き抜きつつ反対側の刃を前に押し出し、右の無頼を腰からまっぷたつに斬りおとした。
「使い勝手はどうですか? それ」
「いいですね。使いやすい上に実に実践的。とくに複数のナイトメアと至近距離でもみ合いになったときには、かなり有効ですよ」
「なるほど。そのソードは凡庸性が高いですからね。量産も考えているんですよ。……うん。いいデータがとれました。
……どうですか? せっかくですから、前回のリベンジマッチといきます?」
「リベンジ?」
「ええ。前回はランスロットなどを相手に途中でエナジーが切れましたからね。藤堂などを相手に……やってみませんか?」
「……いいだろう。その挑戦、受けてたつ」
そう言われると、戦士である以上は引き下がるわけにはいかない。今後のためにも良い勉強になる。
僕は再びシミュレータに挑んだ。
……目の前には早速、僕のことを迎えうたんといわんばかりに四聖剣が揃っていた。
――――
―― 二時間後 ――
「「何をやっているんですか!? ロイドさんはともかく、ライ(殿下)まで!!」」
「「本当にすみませんでした」」
結局気がついたら二時間ぶっ通しでシミュレータを行っていた。完全に勝つまでやろうとしていたら、戻ってきたカレンとセシルさんに止められて……現在、ロイドさんと二人で正座中です。
女性は怒らせると怖いと初めて知りました。いい加減足の感覚がおかしくなってきそうだ。ある意味では先ほどのシミュレータよりも厳しい。
「殿下も気をつけてください! ロイドさんはほっとくと何時間でも騎乗させようとしますので、殿下自身の判断で降りてください」
「そうよ! ライ、本当なら貴方がすぐに降りなきゃいけいのよ!? パイロットは体調管理も大切なんだから」
「うん。ごめんなさい。僕が悪かったです」
だからそろそろ開放してくれないだろうか?
……今まで皇族が自分の騎士に正座で謝るといった事例があっただろうか? 今、ここではありえない光景が広がっている。
十分ほど説教が続き、やっとのことで僕とロイドさんは解放された……足が痛い!!
ひとまず僕はロイドさんとセシルさんにナイトメアのことを任せ、離宮にカレンと戻って行った。
「ライ、お願い。本当に無茶はしないで……」
「え? ……カレン?」
「言ったでしょ。あなたは私が守るって。あなたが一人で全てを背負う必要なんてないんだから。
私も戦うんだから……もう、無茶なことはしないで!」
どうやらカレンには僕が無理をしているように見えたらしい。知らぬうちに、カレンにつらい思いをさせてしまったようだ。
……確かに他のものからすれば、僕は一人で戦う戦士のように見えただろう。騎士団の戦力を相手に一人で相手をしていたんだから。
自然と強さを求めているうちに周りが見えなくなっていたようだ。
そんなことにも気付かないなんて、本当に馬鹿だな僕は。
「うん、ごめんねカレン」
「一緒に戦いましょう。これからもずっと……」
カレンが僕の手を握り締めてきた。僕も彼女に答えるように力をこめた。
……そうだ。僕は一人じゃない。一人で戦っているんじゃない。頼もしい騎士が、パートナーが傍にいるんだから……