相反のライ   作:星月

7 / 24
第六話 『科学者の視点』

 時間は少し遡り、ライの専属開発チーム『キャメロット』の研究室。

 ライとカレンが離宮へと戻ったあと、ロイドとセシルはライのナイトメアのデータの処理やシミュレータの後片付けを行っていた。

 

「ロイドさん、早くしてくださいよ。あとで殿下のところにお伺いしなければならないんですから」

 

 セシルがロイドへ呼びかける。

 先ほどはその場の勢いに任せて何も考えずにどなってしまったセシルだったが、冷静になった今となっては先ほどの自分の行為がどれほど無礼であったかを気づき(カレンも一緒にどなっていたが)、そのお詫びと、データの作成に協力してくれたお礼・その報告のためにライの離宮を訪れようとしていた。

 最もライ本人は彼女達の行為を全く気にしていないし、むしろありがたくさえ思っているのだが……生真面目な性格の彼女にはそんなことは通用しない。

 

「わかってますよ。……まったく。自分だって殿下のデータを取れて喜んでいたくせに、僕のことは散々言ってくれちゃってさ」

「……何か言いましたか?」

「いえ。何も言ってません」

 

 ロイドが先ほど自分もセシルにどなられたことをボソッと非難するが、彼女は地獄耳でも持っているのだろうか? セシルは恐ろしいほどの笑顔で――恐ろしい笑顔でロイドに聞き返す。

 さすがのロイドもこれにはたまらず反論するための言葉が出てこない。あるのは自分の行動に対する否定の言葉のみ。

 このままの空気では自分の身が危ないと感じたのだろうか、ロイドは話を自分達の主――ライの方へと戻す。

 

「……ねえ。それよりも君に聞きたいんだけど。……君はあの人のことを――ライ殿下のことをどう思ってる?」

「いきなり何ですか? その質問の意図は?」

「ああいや、変な意味ではないんだ。ただ純粋に、君の意見を聞きたくてね」

 

 ロイドが珍しくナイトメア以外のことでセシルに質問する。

 ロイドは普段からナイトメアのこと以外には、たとえ人であろうともほとんど興味を示さない。彼は身分こそ高いものの上下関係や社会的タブーにも無頓着であり、非人間的であるような振舞いさえ目立つ。

 

 その彼が、ライについて質問してきたのだ。不思議に思わないはずがない。

 

「……すばらしい方だと思いますよ。今まで公の場にさえ出てこなかったというのに、円満な人格を持ってて人当たりもいいですし。

 能力的に見ても……政治に通じ、ナイトメアの操縦や部隊の指揮にも長けていて、正直言って今まで私が見てきた人の中では、最も優秀な方だと思っています。それこそシュナイゼル殿下にも劣らないくらいに」

 

 セシルはここ数日でライと出会い、今まで話した内容や見てきた内容、さらにはシミュレータの結果から客観的に述べる。その比較対象として自らの上司、帝国宰相の名前まで出して。

 確かにライは人格的にも能力的にも、ブリタニアの中で見て――いや、世界的に見てもトップクラスの人間である。総合的に考えれば彼ほどの人物はまずいないだろう。

 

「……そうか。君はそう思うんだ。まあ僕も確かにそう思うよ。

 だけどね。僕は正直言ってライ殿下のことを……怖いと思っているよ」

「怖い、ですか?」

 

 思わずセシルがロイドの言葉を反芻する。

 先ほども言ったが、ライは人当たりがよく、また部下に対しても優しく接し、皇族としての奢りも見せずロイドの言う『怖い』という表現とはかけ離れた存在だとセシルは感じていた。それどころかどこか温かみのようなものを感じる。(最も、そんなことは本人の目の前では口が裂けてもいえないことだ)

 

「うん。人間にしては完璧すぎる能力を持っているということもそうなんだけどね。……この間のシミュレーションで見て、そして今回のシミュレーションを見て確認したんだ。ライ殿下の、戦っている姿をね」

「…………ロイドさん。まさか、そのために今日のシミュレーションを行ったんですか!?」

「……ねえ君。まさかとは思うけど、僕が本当にデータを取るためだけに2時間も殿下を縛り付けたと思っているの?」

 

 セシルの意外そうな言葉に、ロイドが不満そうに尋ねる。

 その顔から、ロイドが機嫌を損ねたような姿がうかがえる。普段の接し方から彼が不機嫌になると話が進まないことを知っているセシルはなんとか取り繕うとするが……

 

「い、いえ……ただ、意外だったので……」

「残念でした~。データを取りたいのが半分、確認したいのが半分だよ」

 

 ……もっとも、それもロイドの演技であったりしたのだが。

 先ほどまでの曇った表情がうそのように、ロイドは飄々とした笑みを浮かべている。

 

「……ロ・イ・ド・さ~ん?」

「ごめんなさい、冗談です。本当に確認したかっただけです。

 え~話を戻すよ。ほら、この前……殿下がシミュレーションで藤堂のナイトメアと戦ったの覚えてる?」

「はい。あの悪魔のようなシミュレーションですよね」

「悪魔は言いすぎだよ」

 

 ロイドがセシルの鉄拳から逃れるため、話を変えて先ほどのシミュレーションについて述べる。

 

 今ロイドたちが言っているのは、最初ライがシミュレーションに取り組んだときのプログラムのことだ。黒の騎士団の主要戦力との連戦につぐ連戦。まさに悪魔のようなプログラムだ。

 ……当然ながら、そのプログラムを組んだのはロイドである。最も、作った彼でさえライがあそこまで持ちこたえるとは想像さえしていなかったようだが。

 

「あの時……殿下の機体はすでに無頼やサザーランド、そして四聖剣のナイトメアによる連携攻撃の前に追い詰められていた。そこに追い討ちをかけるかのように現れた藤堂。常識的に考えれば正に絶望的な状況だよね。

 味方もいないし、援軍も望めない。状況を考えると退却もできない。そんな時、殿下はどんな表情をしていたと思う?」

「……さあ?」

「殿下はね、あの時……笑ってたよ。藤堂が現れた瞬間、笑みが現れた」

「……笑ってたんですか?」

「うん。あの表情は……あの瞳は、戦場を知る者だけが纏うものだよ。思わず僕は鳥肌がたった」

 

 それは正に、好敵手と出会った強者がするものであり、戦いを楽しむものであった。

 ライは敵でさえも、自分の危機でさえも喜んで迎えうったのだ。彼らが良く知るスザクでさえ、そのようなことはしない。

 

「それはつまり……殿下がブラッドリー卿のようなお方だと?」

「いや、それは違うよ」

「え?」

 

 セシルが問いかけるが、ロイドはそれを迷うことなく否定する。

 

 ――ルキアーノ・ブラッドリー

 帝国最強の騎士団『ナイトオブラウンズ』の一角、ナイトオブテンを務めている男である。

 攻撃的な人間で、戦場での破壊と殺人を何より好む。

 その凶暴性は味方にも向けられることもあり、撃墜寸前の味方艦を敵艦に向けて撃墜すると言う暴挙も平気で行ったりする為にブリタニア軍内でも嫌われている。

 

「だってブラッドリー卿とライ殿下では、タイプが完全に正反対だからね」

 

 ロイドが語ることによると、こういうことであった。

 

 ルキアーノは自らの快楽を求めるがために、自ら望んで狂い戦場へと立ち始めた。

 対照的にライは護る為に戦場を知り、その過程で勝負さえも好むようになったのではないかと。

 

 結果的にそうなってしまったライと、最初からそれだけを求めて戦場に出るルキアーノ。

 この二人が同じわけがなかった。同じであると言っていいわけがない。

 

「だけど、だからこそ僕は怖いんだ。ああいう強い人に限って……壊れやすいんだよ。

 その肉体も、心も。……そして互いの関係も。それは君も知っていることでしょ?」

「……ええ」

「最も、シュタットフェルト卿がいればその心配はなさそうなんだけど……僕が気になるのは、ライ殿下が、過去にすでにそういう経験があったんじゃないかって思うんだよね~」

「過去に、ですか?」

「うん。なんとくなんだけど、そう感じるんだ。

 普段からあの人は……何かを失うことを恐れ過ぎているように思えるんだよ」

 

 このロイドの想像は的中していた。

 

 ライは常日頃から失うことを恐れている。記憶が戻ってからは常に。特に、ルルーシュによってギアスをかけられた後はいっそう強くなった。

 再び大切な人を傷つけてしまうことを、失ってしまうことを……

 

「そしてそうなってしまったら、もう誰にも止められない。何をするのかわからないんだ。僕が恐れているのは正にそれだよ」

「……そうだったんですか」

「ま、僕達がここで言っても何も起こらないんだけどね。……さ、おしゃべりはここで終了。作業に戻ろっか」

 

 そう言って再びロイドは作業に戻っていった。

 飄々とした性格でつかみどころがない人間だが、人一倍人を見ている。

 

 ……ある意味で、ロイドもライの数少ない理解者となっているのかもしれない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。