LOST PEARSONS   作:御代川辰

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第一回 Diabolic Agreement

 ──────【城戸山(きとやま)(なお)】。お前は死んだ──────

 

 あまりにもあっさりと告げられた、(ぼく)という人間の最期。周りは真っ暗。死後の世界と呼ぶべき場所。かろうじて見える左目、(しわが)れ声すらも出せない喉を持って生まれて、その身を妹に疎まれて16歳という若さで死んだ、あまりにも情けない最期。

 

 ────お前さあ、ホンッッッッッ…………トに面白い死に方したよなあ────

 

 確かに、傍目から見ればコントでもしているかのような笑える死に方。だけどね、当事者からすればとても笑ってはいられない。みんな慌ててた。そしてその中で妹が、実穂(みほ)だけが本当に笑ってた。

 それこそ心の底から蔑むような、悪意に満ちたふざけた表情。憎くて愛しい、(にく)くて(こい)しい実穂の顔をはこれで見納めになるわけだね。

 

 ────そう。終わりだ────

 

 ところでさ、さっきからぼくに話しかけるのは誰?あの世の化物?それとも…………神様?

「おっと、俺なんかが神とは嬉しいねぇ」

 

 直が声の主の方へ向き直ると、巨大な翼竜の翼を背に生やし、尾骨のあたりから長い爬虫類の尾を伸ばす大男が、一人にやにやと笑みを浮かべて少年を眺めていた。

 本来ならば恐らく魔神や悪魔と呼ぶべき存在なのだろうが、正直に言って直は神と呼ばれるものを「正しく祀れば御利益を賜って下さるありがたい存在」程度にしか認識していない。

 

「だが俺は……神というよりは悪魔だ」

 

 悪魔は短く自己紹介をすると、動じることなく佇む直の近くに降り、短く告げる。

 

「三千世界の旅に興味はないか?」

 

 三千世界。仏教においては十方微塵世界(じっぽうみじんせかい)とも呼ばれ、無限に存在する生者と死者とその中間に位置する者たち、更に生死を超越した存在たちが栄える世界の総称である。

 

「《流行りの異世界転生ってやつ?》」

 

 直は右目が目暗(めくら)、かつ耳は聞こえるが声が出せない(おうし)。つまり片端(かたわ)。両手と上半身を動かす手話を駆使し、悪魔と意志疎通を図ろうとする。

 悪魔は静かに頷き、(いざな)うように耳打ちをする。

 

「等価交換だ。お前が持つ“ナニカ”を代価に、お前が望む“チカラ”をやろう」

 

 これこそ悪魔の誘惑。自らが持つ“ナニカ”を代償にして悪魔が与える“ナニカ”を得る、すなわち等価交換。悪魔にとっての最高最上の報酬は(たましい)、つまり自我や精神、記憶を繋ぎ止める鎖だ。人間の、ひいては生命体と呼ばれるものすべてに必ず宿る()()()()()にはまるで興味がなく、彼らの興味は地上世界に留まる七魄(しちはく)と天に昇る三魂(さんこん)のどちらか一方に尽きる。

 

「《なら……もう眼は()()()()》」

 

 迷う素振(そぶ)りを見せてすかさず答える。開いた左目はいらない、右目の光を取り戻す必要もないと言い切り、悪魔を見据えた。濁り一つない白灰色(はくかいしょく)に染まった右目の瞳と、まだ景色を映す左目の瞳。直は迷いなくこの両の眼を代価に支払い、悪魔の言う(ちから)を受け取ると言い放ったのだ。

 

「そうか……目の代わりに何が欲しい?」

「《“声”》」

 

 「何でもくれてやる」という悪魔の答えを聴く前に、まず一言「声」を表す語を手振りで表した。心なしか意図的なのか、その繊細な手は蛇の頭を形作っている。

 初めて顔合わせた時のにやけ顔も悪魔に似せており、思わず直に向けて感心の表情を浮かべた。

 

「《声だよ。()()()()()()()()()()()()()を意のままに操る“声”が欲しい》」

 

 柔軟に手を操り、複雑な語彙を並べて悪魔に乞う。

 悪魔は狂気的かつ不敵な笑顔で答えた。

 

O.K.(オウケイ)。取引成立だ」

 

 悪魔が指を鳴らすと同時に、直の姿が塵となって消える。こうして一つの命が世界(うしな)われ、新たなる世界に(あらわ)れた。

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