『ポケモン譲渡会のお知らせ』
日時:×日 10時 ~ 17時
会場:フミヅキ図書館内シェルターエリア
主催:フミヅキポケモンシェルター
同時開催
「ポケモン無償相談会」
日時:×日 13時 ~ 15時
内容:ジョーイさんやプロのブリーダーが手持ちのポケモンに関する相談を受け付けます。
備考:両イベントも予約は不要です。
譲渡希望のトレーナーはライセンスをお持ちください。
近隣のポケモンシェルターでポケモンの譲渡会が行われる。町内会だったかのポスターで見かけてはいた。興味がなかったのでほぼ忘れていたわけだが、当日何故か俺は出かけたところを翔子に捕縛され、連行されていた。一見腕を組んでいるようにみえるが、逃れられないようにと関節技を極められているため腕がとても痛い。
「急にどうした翔子」
「……どう?」
この現状はどう見てもおかしいだろ。
「……お
俺の質問の意図は伝わったらしく、答えが返ってきた。
「不穏な単語を聞いたような気はしたがそれより、何を頼まれたんだ」
「……パートナー持ってほしいって」
「お袋……」
お袋はパートナーポケモンを持つことを度々勧めてきたわけだが、ついに強硬手段に出てくるとは。
「……」
どうやってこの状況を打破できるかと考えていると、その考えを読んだらしい翔子の関節技が強くなる。
「いだだだだ……わかった。わかったから、せめて腕を極めるのをやめてくれ」
「……逃げない?」
不満そうな顔で見ているが考えてもみて欲しい。
「後ろに毒針構えたスピアーがいる時点で難しいだろ」
「わかった」
いつの間にか翔子の長年のパートナーであるスピアーが、俺の背後を毒針を構えたうえで後ろを飛んでいたのから恐ろしい。
腕がみしみしいうのが止まり安堵の息が漏れる。
その後も歩かされるままに向かうと、ついた場所は近隣でも大きな図書館だった。
「図書館?」
「……ここ、シェルターも兼務してる」
自動ドアを抜けるとそこには広いホールにタイプ別に分けられたブースとポケモンに相談窓口と書かれた机、奥にはベイビィポケモンエリアと書かれた看板が掲げられていた。
「へぇ、初めて知ったな」
「……ちょっと待ってて」
そう言うと翔子は足早に端に設置された机へ向かった。そこにいるスタッフに何かしらを示している。それを眺めていたわけだが、ふと視界の端に見慣れた後ろ姿を見つけた。
「よう、明久」
そう声をかければ、座り込んでいたソイツは首だけ振り向いて顔をしかめた。
「げ、雄二」
「なにやってんだここで」
コイツもトレーナーだったはずだから譲渡会参加者か?
「……バイト」
なにやら苦虫を嚙み潰したような顔で答えてくる。
「ほぅ」
腕を見ればスタッフの腕章とエプロン、それから手にはポケじゃらしを持ち。周囲には何匹もポケモンが集まっていた。構うことを止めた明久を不思議そうに見る奴や俺を睨みつける奴までいる。
「随分懐いてんだな」
「ずっと面倒見てるからね」
「ずっと?」
「中2からやってる」
「長いな」
確かに長い。なんでそこまで。
「シェルタースタッフライセンスが欲しくてね」
「スタッフライセンス……」
ここのスタッフはライセンスが必須なのか。大分厳しいんだな。
俺が黙り込んだのを見て、意味を分からなかったと取ったらしく明久が付け加える。
「シェルターのポケモンの面倒を見るのに必要な資格だよ」
「……」
コイツ馬鹿では。
「今バカのくせにとか思ったでしょ」
「まあ」
似たようなことは思っていたので肯定する。
「ひっどいなぁ。そこはいいんだけど」
いいのか。普段なら突っかかってきそうなものだが。
「雄二は? 普段ポケモンに興味ないじゃん」
こっちに話題を振ってきたか。
「……翔子に連れてこられた」
「そっかぁ。じゃあ、ここはかいさーん」
足元のポケモンたちが思い思いに散っていく。急にどうした。
明久は立ち上がり、俺の方を向く。
「行くよ」
「は?」
「譲渡会初心者ほっとくわけにいかないでしょ」
そうだ。コイツもバイトだがスタッフか。
「いや、翔子来るだろ」
そういえばアイツの姿が見当たらない。
「霧島さん多分バトル向きの子たちのところ行くだろうから、雄二には向かないよ」
は? なんで翔子のことをお前が知ってる。
「怖い顔しないでよ。とりあえずついてきて」
☆
明久についていくとそこはブースから大幅に外れた中庭のような場所だった。
「ここは比較的穏やかな子たちのスペースでね」
ホール側よりも随分静かであることはよくわかる。
明久は通りすがりのポケモンたちに声をかけながら進んでいく。
「穏やかって言っても、いろんな事情でここに来てるから一筋縄ではいかないけどね!」
「その割に楽しそうだな」
「そりゃあ、ポケモンと過ごすの好きだからね」
調子に乗っているときの顔で笑ってきた。コイツ学校でこんなに楽しそうだったことないよな。
「あ、いた」
明久が立ち止まる。
「そこ見て」
笑いながら指さす先にいたのは、水色でカエル型をしたポケモンだ。
が、そいつの目を見て俺は固まる。あの、目は……
「なあ、明久」
思わず声が強張る。
「なにさ」
「アイツは何なんだ」
何かをあきらめたような目をしたそいつから目が離せない。
あれはいつか鏡で見た俺の目のようで……
「なにって、カロス地方の初心者用ポケモンのケロマツって子だよ」
「ちげぇ」
「……トレーナーにゲットされたのはいいものの、バトル嫌いだったことで逃がされた子ってことでいいかな?」
「……」
それも違う。
「睨まないでよ」
「睨んでねぇ」
そんなやり取りをしていたら、ケロマツがこちらによって来た。
思わず膝をついて目線を合わせる。
「……けぇろ」
ケロマツが手を差し出してきた。その目は何かを期待するような目で、先ほどとは違うことに安堵を覚える。
指を差し出せばケロマツはそれをしっかり握ってきた。
「いいんじゃない」
「は?」
急にどうした。コイツ今日は言動が唐突すぎる。
「君らがパートナーになればいいんだよ」
「……いいのか」
俺でいいのか、ケロマツを見れば指をさらに握ってきた。
「大丈夫だって、行ってらっしゃい」
明久に促されるままに中庭を後にする。
アイツがつぶやいていたのは聞こえなかった。
「ま、癪だけど君らお似合いだとは思ったからね」
☆
「明久、俺にポケモンの世話の仕方教えてくれ」
それから一晩明けた後、俺は疲れ切った顔で明久にそう告げた。
パートナーポケモンを持つことを家族に報告し、ケロマツを出したところ、家の中で大暴れされたこと。
お袋のパートナーポケモンのおかげで何とかなったが、掃除をやらされたこと。
部屋に入るとおちついたが、今度はボールにすら戻らず部屋から出ないことを説明する。
「あっ、はははは」
腹抱えて笑うな腹立たしい。
「翔子も避けられるし」
「まあ、霧島さんは気質的に合わないでしょ」
そこでなんでお前は翔子のことを理解してますみたいな言動をとる。
「あの子は必要以上にかまわず、かまってほしい時はちゃんとかまってくれて、バトルはしない人がいいんだから」
ケロマツがそういう気質なのは昨日の晩で分かったので、コイツの観察眼は正しい。
「霧島さん構いたがりの構い下手でしょう?」
なんで翔子。
「手持ち見ててもちょっと思うし」
「なんで手持ちも知ってる。」
「え、たまにガーデンで一緒になるから知ってるだけだけ」
だけ。というのが本当に腹立たしい。
後方にいたやつらに視線を向ければ、その意図を理解したのか異端審問会がいつものマスクをもうすでにかぶっていた。
「ひえっ」
明久は鞄をひっつかんで窓に足をかけたところで、俺の方を振り向いた。
「雄二の鬼! アホ!」
そのまま壁伝いに逃走を始める。それを奴らも追いかけていった。
「はんっ」
いい気味だな。
「雄二、お主……」
さらに奥にいたらしい秀吉が呆れたような顔をこちらに向けていたが、気にならなかった。
☆
とりあえず校舎裏の目立たないところまでは来れた。けどまだFFF団のみんなは追いかけていている。
なんかぶつぶつと拷問の内容とか呟いてたし、なんか怖い。
これ以上の追いかけっこは勘弁してほしいので、鞄に入れてたスマホを取り出す。
「ああああ、もう! ケテケテ【電磁波】っ!」
「けてーっ」
スマホから出てきた僕のパートナーであるケテケテの【電磁波】を喰らったFFF団は痺れて動けない。
後で先生に怒られるかもだけど、丸腰相手に武器もって追っかけてきてるんだし大丈夫でしょ。
「もう帰ろっか」
「けーけ」
ケテケテが上機嫌でスマホに戻っていく。
あーもう、つっかれたぁぁ。珍しく親切心出した結果がこれだよ。
こっちとしてはいいパートナーに出会えたことは良かったけど、いい加減アイツと霧島さんとの仲なんとかならないかな。
正直あの二人のあれやこれやには巻き込まれたくないんだけどダメかなぁ。