めっちゃ強いレミリアたんになった転生者が自分を捨てたお父様をぶん殴る話   作:あやさよが万病に効くと思ってる人

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 七つの大罪見てたら魔が差したんや…許してくれ。




めっちゃ音痴なセプテット

 

 

 

「こいつにスカーレット家を名乗る資格はない」

 

 

 

 その言葉は少なくとも我が子に向けるそれではなかった。まるで汚いものを見るかのようなその視線は、侮蔑の色に満ちている。そしてそれに反発する者もこの空間には居なかった。そもそもその男に逆らうことができないからだ。が、男がそう言うのも無理はないと周囲の者は思った。

 

「我々スカーレット家は高潔な吸血鬼一族。そんな我々の一族からこんな奴が産まれるなどあってはならない」

 

 そう、男は吸血鬼だ。人間はおろか、そこらの人外よりも遥かに強い力を持つ種族。吸血鬼はそういった力をステータスとし、常に種族の上に立つことを至上としてきた。故にプライドも高い。

 スカーレット家はそんな吸血鬼一族の中でも特別力が強く、代々吸血鬼のエリートとしてその名を轟かせてきた。スカーレット。その名を聞けば吸血鬼の中で恐れぬものはいないと言うほどに。

 

 そしてそんなスカーレット家に今一つの命が生まれた。男はそれを聞いて嬉々として我が子の顔を見に行ったのだが、その赤子には致命的な点が存在した。

 

「羽の無い吸血鬼など我らがスカーレットに相応しいと思えるはずが無い!」

 

 その吸血鬼には羽が無かった。

 そもそも、吸血鬼にとって羽とは無くてはならない存在であり、羽の大きさが力や格に直結するとまで言われているほどだ。事実、目の前の当主である男の羽は自身の身の丈以上の大きさがある。

 寧ろ、羽の無い吸血鬼が産まれること自体が異常であり、今までそんな前例は存在しなかった。どんなに弱い吸血鬼であっても、小さな羽がその身に根付いているはずである。そんな羽が無い。それは吸血鬼にとって両手がないのと変わらなかった。

 

「羽が無い吸血鬼など、人間と大差ない。それに、こいつからは魔力が微塵たりとも感じられない。本当に私の血を継いでいるのか」

 

「…血を調べてみたところ、間違いなく御当主様の子供で間違いありません。…信じられませんが」

 

「もう良い、そいつは遠くに捨ててこい。今は陽の光も出ているだろう。人気のないところで焼き殺せ」

 

 吸血鬼は強力な力を持つ反面、弱点も多く存在する。その中でも代表的なものが陽の光だ。吸血鬼は陽光の下に晒されれば、その身はたちまち灰と化してしまう体質を持つ。

 自らの血統の繁栄を何よりも望む彼にとって、羽も力も無い吸血鬼など何の価値も無かった。寧ろ自らの一族に致命的な汚点を作りかねない。血統を何よりも重んじる吸血鬼貴族にとって、それは許し難いことだった。

 

「殺した証としてこいつの灰を持ってこい。こんな奴が生きていると知られれば我が家の名に泥を塗られるからな」

 

「…かしこまりました」

 

 

 男の従者である初老の男性は、一礼をして赤子を持って部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…申し訳ありません、お嬢様」

 

 日傘を差しながら歩く従者はその赤子を抱き込みながら、悔いるように言葉を漏らした。

 

「…紅魔館に貴方様のことを快く思っている者は私と奥様くらいでしょうな。私は御当主様に忠誠を捧げた身、私にはどうすることもできません。…ですが、私は貴方様に生きて欲しい」

 

 日の当たらない木陰にその赤子を置く。赤子は信じられないほど大人しかった。わめき声ひとつ出さない。死んでしまったのではと勘違いしてしまう程だ。

 

「きっと我が子を捨て置いたことを知られれば奥様は悲しまれるでしょうな…」

 

 ただじっとこちらを見てくる黒髪の赤子を初老の従者は優しくその顔を撫でる。

 

 

「どうか強く生きてください。――レミリアお嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた瞬間に忌子認定されたんだが?

 そんでもって捨てられたんだが??

 

 

 ちょーっと、ちょっとちょっとちょっと!?それはあんまりなんじゃ無いの!?私赤子だよ!? A・KA・GO!

 こんなか弱いどころか、ニフラムで消えそうな存在を野っ原に捨てるとか頭蓮根なんじゃ無いの??あの偉そうなオッサンの頭、スライスして煮物にしてやろうかこんちくしょうが!

 

 ……ふぅ、とにかく餅つこうじゃない、落ち着こう。現状を嘆いてもどうにもならない。己が生まれ変わってしまったなんてことについては最早どうでも良い。どうせ何にも覚えてないし。わかることといえば精々日本語とか算数とか向こうの娯楽とかの基礎知識があるくらいだ。前世で何をしてたとか、どうやって生きていたとか、そもそも男なのか女なのかすら分からない。なので考えるだけ無駄なのだ。

 そもそもあやつらが言ってた言葉すらわからなかったからな。あの、すみません。日本語で話していただけませんか?

 

 それよりも目先の問題であるどうやって生活するかを考えなければならない。というか、私まだ赤ん坊だから手足もろくに動かせないのだが!?ふむ、これは考えるまでも無く詰みなのでは?

 

 …やだやだやだぁ!死にたくなーい!どうせ死ぬなら美味しいものいっぱい食べて幸せ満点の中で安楽死したいー!こんな生まれ変わり最速死亡RTAなんてやりたく無いやい!

 

 

 いやぁーーーっ!死にたくなぁーーーい!!

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 ーー

 ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、助かったんですけどね。

 

 いやぁ、間一髪。高齢夫婦の方が通りかかってなかったら死んでいたところだったぜ。私は巻かれていた布に書かれていた「レミリア」の名前で、大切に育てられたのだ!

 あの熟年夫婦には本当にお世話になった。今はもう天寿を全うしてしまったが、あの2人から私生活や、この世界の常識やらの全てを叩き込んでもらった。おかげで今じゃ外国語もペラペラだぜ!

 今の私の姿は10歳くらいの少女と言ったところだ。黒絵具で塗りたくったような艶のある黒の髪と瞳、そして整った美しい顔。やだ、我ながら惚れそう。まぁ、その実、BBAも良いところなとんでもない年齢なわけだが…。

 

 実のところ私が捨てられてから結構な月日が経っている。具体的に言うと何回か文明が変革するくらいには月日が経った。お陰で、今の私は結構な経験をした。魔女狩りとかマジで洒落にならなかったからな…。人間の悪意がふんだんに撒かれたギロチンor絞首のハッピーセットだったわ。危うく閻魔大王のお世話になるところだった。

 何より驚いたのは私が人間ではなかったと言うことだ。まさか人外だったとは…。どうりで歳を取らないわけである。

 

 そんな世界にうんざりした私は、とある世界に逃げ込み、現在では人里の洋菓子屋でアルバイトをしている。前世の知識と、400年以上の人生経験で磨かれた我が菓子技術はかなり村の人に好評だ。まぁ、食べ物の執着なら誰にも負けない自信があるからな!きっと前世でも菓子作りが好きだったのだろう!

 

 っと、今日も今日とてお客さんが来たようだなぁ。ふふ、さぁ、我が菓子を受け取って有り金を落としていくが良い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔する。開いてるかな?」

 

「はい、開いてますよー…あ、慧音先生じゃないですか。お買い物ですか?」

 

「おはよう、レミリア。この前買った洋菓子を妹紅が気に入ってな。また買おうかと思って」

 

「そういうことなら、すぐに用意しますね!」

 

「よろしく頼む」

 

 そう言って店の奥に商品を用意しに行き、すぐに戻ってきた。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう、代金だ」

 

「…はい、確かに受けとりました。あ、中に一つだけハバネロスペシャルDXをおまけでつけといたので、ロシアンルーレット感覚で楽しんでください」

 

「楽しめないが?」

 

「え、妹紅さん好きそうかなーって…、辛そうな見た目してますし」

 

「辛そうな見た目って何だ?というか、前もシュークリームにワサビを盛っただろう?妹紅は辛いものが苦手なんだ、あまりそういうのは…」

 

「でも、もこたんの悶える顔、見たいでしょ?」

 

「それは、うむぅ…、まぁ………見たくないことも…」

 

「ほらほらぁ〜、このむっつりさんが。スケベッ」

 

「ふんっ!!」

「ズツキィッ!!?」

 

 慧音の頭突きを喰らい、悶えるレミリア。相当痛かったのか、涙目になっている。

 

「痛いよー、助けててんちょー」

 

「今は店長は留守だろう?まったくそういうところはいつまで経っても変わらないのだから…」

 

「仕方ないです佐賀だ。間違えた性だ」

 

 

 

 

「…レミリア。どうだ、ここ最近は」

 

「え、どうしたんですか急に。…はっ、もしかして、なにかと話題を振りたがる厄介な買い物おばちゃんごっこですか?そう言ってくれれば付き合うのに〜」

 

 スッ…

 

「すみませんでしたやめてくださいしんでしまいます」

 

「…それで、どうだ。何か変わったこととかは無いか?」

 

「いやぁ、特にそう言うのはないですね。いつも通り、お客さんが来て、時々食い逃げがあって、それを慧音さんが頭突きで成敗して、最後に「つぎ食い逃げしたらケツの穴から腕突っ込んで奥歯ガタガタ言わせちゃるけん」って言って里の犯罪者を戦々恐々させているくらいですねぇ」

 

「ああ、そんなことは言ってないな。お前は私のことを何だと思っているんだ?」

 

「パキケファロサウルス」

 

 スッ…

 

「ゴメンナサイ」

 

「……最近、この人里の周辺で見たことのない妖怪が多数目撃されている。もしかすれば多数の新参が入ってきたのかもしれない」

 

「見たことのない妖怪?」

 

「ああ、夜にしか目撃例が無いのだが、見た目は洋風な格好をしているというものが多かった」

 

「昼には見かけないんですか?」

 

「それが、日が昇るとばったりと姿を消してしまうんだ」

 

「何ですかそれ〜、吸血鬼みたいですね」

 

「ああ、というより十中八九それだろう。事実、人里周辺では血が抜けきった遺体が何体か見つかっている」

 

「………まじ?」

 

「マジだ。だからレミリアも夜は外に出ないようにな」

 

「出ない出ない!絶対出ない!!」

 

「…まぁ、そうだろな。お前は妖怪だが恐ろしいほど力がないからな。寿命以外は人と何ら変わらん」

 

「弱い奴は大人しく引っ込んどくんですー」

 

「そうしておいてくれ。さて、私はこれで失礼する。何か気になったことがあったら尋ねてくれ」

 

 

 

 

「はーい!まいどありー!あ、言い忘れてましたけど、さっき話してた時に頬に小じわついてましたよー! あ、すみません!間違えました!髪の毛!髪の毛です!断じてしわではありません!シワではないので、頭突きは、頭突きだけは!1日2回とか薬じゃないんだから、あ、ちょ……ぎょえッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ちくせう…あの人自分の頭がどれほどの凶器なのか理解してないでしょ…」

 

 人々が行き交う中、レミリアは足りなくなった材料を買い出しに、炎天下を歩いて目的地の店へと向かっていた。

 

「にしても暑いな〜今日は。またチルノちゃんでも探しに行こうかな。スイーツで釣ったらすぐ来ると思うし」

 

「おっ、レミリア嬢ちゃんじゃねーか!」

 

「あ、八百屋のおじさん、こんにちわー」

 

「買い出しか?」

 

「そーですよー。アルバイトがヘマして、材料が大半お釈迦になったから魔王てんちょーに買い出しを命じられた哀れな一般歩兵レミリアたんですよー」

 

「はは、そいつは気の毒に。なんか買っていくか?まけるぜ」

 

「今度店きた時に出される菓子が牛蒡千万とかになりたいんだったら良いですよ」

 

「そいつぁ遠慮したい」

 

 八百屋の店主はレミリアが里に来たばかりの時から何かと世話になっている人物だ。レミリア自身も恩を感じている人物でもある。ちなみにレミリアは野菜が苦手である。

 

「そういえば、最近なんか物騒らしいよね」

 

「ん、ああ、血抜き事件のことか?なんでも血を吸う化け物が最近この幻想郷に大量に入ってきたらしいからな…。博麗の巫女様が何とかしてくれるだろうが、俺にゃ嫌な予感がしてならねぇぜ」

 

「幻想郷のシステムも偶にいい加減なところがあるからね。今回みたいにぼこすか新参者入れたりとかさ」

 

「違いねぇ」

 

「そーいえばさ、ここの里にいる人たちはあんまり妖怪のこと好きじゃないんでしょ?」

 

「…あー、そうだな。一応、妖怪>人間 って構図ができちまってるからな」

 

「の、割には私のことはみんなすんなり受け入れたよね」

 

「そりゃ、嬢ちゃんだからな」

 

「理由になってないよ〜」

 

「嬢ちゃんは人畜無害が人の形になったみたいな奴だからな。妖怪って言われてもすんなり受け入れられた。なにせ、チルノはおろか、里の兵士にさえ腕っぷしで負けるんだ。仮に嬢ちゃんが暴れたとしても子供の癇癪程度だろうよ」

 

「ひどい」

 

「事実だぜ……ほら、前に菓子まけてくれた返しだ。持っていきな」

 

「あ、川魚!ここじゃ滅多に取れないのに、いいの?」

 

「別に良いって。嬢ちゃんにも、何かと世話になってるからな」

 

「ありがと、おじさん!」

 

「おう、またそっちの店も行くからな。……ところで、さっきから気になってたんだが、後ろのは連れか?」

 

「え」

 

 

「うらめしやーっ!!」

 

 

「わひゃあっ!?」

 

 

「わーい!驚いた驚いたー!」

 

「ぐぐ…、おんどれぃ小傘。いつの間に…」

 

「今さっきー」

 

「小傘ちゃんだったか、傘が無かったから気が付かなかったぜ」

 

 多々良小傘。最近人里に現れ始めた唐傘お化けの妖怪であり、里で食い物を得ようとしている厄介者……というのは以前までの話で、当初こそ妖怪ということで恐れられたが、蓋を開けてみれば突然驚かす以外には殆ど何もしてこない上に、レミリアと関わって以来、積極的に人を驚かすことも無くなり、おまけに素の性格も優しく素直なので、何だかんだで里の人間に受け入れられている妖怪の1人である。因みに、鍛冶屋を営んでおり、自警団の人たちは彼女に大変お世話になっているらしい。

 

「やっぱりレミリアはすぐ驚いてくれるから、すぐお腹が膨れるや!」

 

「こちとらその度に口から心臓が出てくる思いをしてるんだけどね」

 

「すぐ驚くレミリアが悪いのだ!」

 

「なんだとぉ?」

 

「嬢ちゃん、流石に擁護できない。俺は昨日も一昨日も同じ光景を見たぜ。いくら何でも心臓が小さすぎやしないか?」

 

「ぬぐぐ…」

 

 レミリアが小傘に驚かされ、そのまま軽口を叩き合う。これは既に人里の中で毎日のように見かける出来事となっていた。ちなみに小傘の驚かしは子供でも素面でいられるレベルである。つまりレミリアは子供でも動じないおどろかしで、絶叫していることになる。そんなんだからカモにされるのだ。

 

「…って、あれ、小傘、傘は?ほら、いつも持ってる茄子の九十九みたいなやつ」

 

「わちきは茄子の妖怪じゃなくて傘の妖怪!あれなら向こうのほうに置いてあるよ。傘持ってたら気づかれるって思ったからね!」

 

「向こうって…何にも無いけど」

 

「え、嘘っ!?」

 

 小傘が指差した場所には傘の影も形もなかった。

 

「あれあれあれ!?確かにここに立てかけといたのに!」

 

「あー、小傘ちゃん。ここゴミ捨て場だぜ。多分だが、ゴミと間違えられて持っていかれちまったな」

 

「そ、そんなぁー!!」

 

「あれ無いと困るの?」

 

「困るなんてもんじゃないよ!大切な半身なんだから!」

 

 小傘は傘が妖怪化した存在だ。小傘の持っている傘こそが本体と言っても良い。そんな傘が仮に壊れてでもすれば、小傘の命の危機である。早急に傘を探す必要があった。

 

「レミリア!手伝って!」

 

「え、私買い出しの途中なんだけど…」

 

「わちきの命の危機なの!」

 

「えー、大丈夫じゃない?どっかで根を張って立派な果実を実らせてくれるでしょ」

 

「だから茄子じゃない!!」

 

「問題ねぇよ。そうなったら俺がばっちり収穫しといてやるからな」

 

「おじさんも悪ノリしないで!!」

 

「「わはははは」」

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「結局探しに行く羽目になったじゃん。里の外まで出てさぁ…」

 

「仕方ないじゃん、結構遠くまで捨てに行ったんだからさ。……うぅ、どこ〜、わちきの半身〜」

 

 現在2人は里の範囲外まで出て、草むらに積まれた大量の廃棄物の中から、小傘の傘を探していた。軽く見回しただけでもかなりの量があり、この中から探すのは骨が折れそうだ。

 

「ていうか、何か気配とかでわかんない?仮にも自分の半身でしょ?妖力とか感知したりさ…」

 

「わちきはまだ妖力を感じ取ることができるほど強い妖怪じゃ無いんだよ。前も風で傘が飛ばされた時に大変な目にあったし…」

 

「…思ったんだけどさ、小傘ちゃんの傘って風に乗って飛べそうだよね。こう、パラシュートみたいにびゅーんって感じに」

 

「ぱらしゅーとって何…?多分そんなことしなくてもわちき普通に飛べるよ?妖力で」

 

「え、そうなの?」

 

「うん、今は傘の妖力がないから無理だけど……もしかして、レミリアは飛べないの?妖怪なのに」

 

「ぐっ、そ、そもそも妖怪全員が飛べると思わないことだ!どいつもこいつも鳥類もかくやと言わんばかりに飛びおってからに…」

 

「えー、流石に飛べないのは妖怪として致命的だと思うよ。地上にいる妖怪もほかに空を縄張りにしてる妖怪がいるから飛ばないだけで、その気になれば飛べるのばっかりだし。本当にレミリアは人間と変わんないんだね」

 

「私はそれで良いんですー!むしろこんなハイパー花魁顔負けの美人が世代を跨いで存在できること自体が私の長所なのだ!」

 

「自分で美人とか言っちゃうのは負け組の証だよ」

 

「がーん!?ど、どこでそんな言葉を覚えてきたのですか!?お母さんはそんな言葉を教えた覚えはありませんよ!」

 

「いつからわちきのお母さんになったの?それよりしっかり探してよ。このままじゃ日が暮れちゃう!」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あったぁーーーっ!!」

 

「まさか木の上に引っ掛かってたなんて。道理で見つからないわけだわ…」

 

 2人が傘を見つけた頃には辺りは暗く、すっかり日も暮れてしまっていた。傘を取り戻せたことで安心した小傘は安堵のため息混じりに空を見上げる。空にはぽっかりと浮かぶ満月があった。

 

「わぁっ!もうこんな時間!?早く帰らなきゃ!」

 

「今気づいたの?」

 

 2人はお世辞にも強い妖怪とは言えないので、ばったり別の妖怪と遭遇してしまえは、人間と同じ末路を辿るのは想像に難くない。2人は急足で帰路を辿る。

 

「それに最近はすごくおっかないじゃん」

 

「あー、血抜きの死体が見つかるやつ?」

 

「そう、それ!あんな綺麗に吸い尽くすなんて、普通の妖怪じゃできないよ!きっと、凄く怖い妖怪に違いないよ!」

 

「妖怪のくせに何言ってんだ」

 

「…わちきより弱いくせに」

 

「あ?」

「は?」

 

 そんなこんなとしていると、人里の明かりが見えて来た。小傘は里の暖かな灯りが見えてきたことに安心する。

 

「見えてきたよレミリアちゃん!早く行こう!」

 

「うん」

 

 

 

 ーー瞬間、レミリアは背後から突き刺すような悪寒を感じた。半ば反射的に小傘を突き飛ばす。

 

「わっ!?」

「ぐぅっ!?」

 

 小傘は田んぼ道をごろごろと転がり、草むらに入る。

 

「いてて…、ちょっと何する…の…」

 

 小傘の目に映ったのは血を流して倒れるレミリアと、その背後にある大きな黒い影。

 

「一匹やり損ねたか。まぁ良い、見たところ唯の雑魚妖怪のようだからな…」

 

「ぐ…ぎぃ…!」

 

 よく見ればレミリアの背中には爪が何かで引っ掻かれたような、大きな傷があった。痛みで脂汗を流しながら、苦悶の表情を浮かべている。

 

「失せろ劣等種。死にたくなければな」

 

「あ…、あ…!」

 

 目の前にいた影が形を帯びてはっきりと姿を現す。

 2メートルはあるであろう背丈、吊り上がった赤に光る目、そして西洋の装飾のついたローブのようなもので覆われた体。その容姿は、噂で聞いた妖怪そのものだった。

 

「いや、別に逃す必要もないな。いずれ近いうちに我ら以外の人外は死ぬことになるのだから。…さて、まずはこいつの血をいただくとするか」

 

「あ"っ…!」

 

「レミリア!」

 

 髪を引っ張られたレミリアは思わず声を上げる。

 

(レミリアが危ない…!わ、わちきが助けなきゃ…!)

 

「こ、がさ…、にげ…て…!」

 

 

 そんなこと…そんなことわちきにはできない!!

 だってレミリアは、わちきの初めての友だちだから!初めてわちきに声をかけてくれたから!

 

「存外しぶといな。人間なら既に死んでいる出血だというのに。……いや、何だ?お前は人間なのか?何かが…」

 

「だぁッ!!」

 

 小傘は目の前の妖怪がほんの少し気を取られている隙に、ありったけの妖力を込めた傘での一撃を目の前の妖怪の頭めがけて振りかぶった。

 

「がッ!?」

 

 しかし、その攻撃はあっさりと片手で止められ、そのまま首を掴まれる。妖怪は首を掴んで手の力を強めていく。

 

「雑魚がこの私に傷をつけられると思ったのか?私は偉大なる種族、吸血鬼、ハルバード卿であるぞ。そんな汚らわしいもので私を傷つけようなど笑止千万。愚かにも程がある」

 

「ガッ……あ"ッ…!」

 

 ハルバードと名乗った吸血鬼はそのまま小傘の首を絞め潰さんと万力を込めようとする。

 その時、ハルバードの顔に何かがぶつかる。硬いものでは無い。ゴンッ ではなく、ベチョッ だ。そのまま地面に落ちたそれを、ハルバードは見る。

 

「……魚?」

 

「お前にはその生魚がお似合いだナルシ野郎!…ハァ…ハァ…来れるもんなら来てみな!バーカ!」

 

「あのガキ…まだ動けたとはな!」

 

 小傘を放り投げ、森に入っていくレミリアを追うハルバード。

 朦朧とした意識で小傘はレミリアが走っていった森へ手を伸ばすが、届かない。どたどた と、数人の足音を聞いたのを最後に小傘は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…!」

 

 森の中を走る。周囲は暗がりで数メートル先もろくに見えない。だが、走らなければいけなかった。少しでも小傘から、里から距離をとらなければならないから。

 

「うあ"っ」

 

「吸血鬼から逃げられると思ったのか?カスめ」

 

 ハルバードは数秒とかからずにレミリアを捕らえ、その首を乱雑に締め上げた。

 

「…よくもこの私にあのような汚らわしい物を投げつけてくれたな。人間風情が…!」

 

「ぐ、ぎぎ…ッ」

 

 レミリアは締められている相手の手首を掴むが、びくともしない。

 

「貴様の血を頂こうと思ったが、やめだ。貴様の血は妙な匂いがする。何よりこの私にここまでの恥辱を受けさせた報いを受けてもらわねば気が済まん」

 

 そう言ってハルバードはレミリアの右腕を自身の鋭利な爪で切り落とした。真っ赤な鮮血が舞い、右腕が落ちる。

 

「あ"あ"ッ…!!」

 

「こんなものでは済まさんぞ…!」

 

 左足、右腕、横腹、左太腿と、次々と身体中に大きな切り傷がついていき、その度レミリアの身体は人形のように揺れ動く。

 

「………」

 

「最早言葉を発する気力すら無いか」

 

 ハルバードが怒りの限りを尽くした後には、既にレミリアの体からは力が抜けきっていた。顔からは生気が感じられない。そんな姿を見て、ハルバードは鼻で笑う。

 

「この私を侮辱するからこうなるのだ。死ね」

 

 ザシュッ と、レミリアの身体が右上から袈裟斬りにされた。そのまま胴が真っ二つに別れ、肉の塊は地面に落ちた。流れ出る血は、地面を紅に染め上げていく。

 

「……少し私らしくなかったか。カスごときに感情をあらわにするなど。こんなことでは、いつまで経ってもあの一族を超えることはできない」

 

 流れ出る血を自分の足につけないように避ける。吸血鬼は、とにかくプライドが高い。基本的に他種族は自分達より下だと認識しているし、自分達のために死に、淘汰されることは当然だと思う輩も少なく無いのだ。それは吸血鬼に刻まれた半ば本能に近いものであり、自然なことなのだ。

 だからここで弱い者が犠牲になることは吸血鬼にとって絶対的に正しいことなのだ。

 

「…さて、戻るとしよう。今頃あの場所に人が集まっているだろう。そこで血を頂くとするか」

 

 

 そう、弱い者が犠牲になることは。

 

 

「……は?」

 

 

 右側に違和感。

 気がつけば、ハルバードの右腕が落ちていた。

 

 何だ!? そう声を上げようとする。しかしそれは叶わなかった。上げないのではなく、上げられなかったからだ。

 背後から感じる異常なプレッシャー。息が詰まる、声が出せない、振り返ることができない。

 

 なんだ、なんなのだ、何が起きた。

 

 ハルバードは現状を理解できずにいた。

 

 

 

 

「――ああ、良かった。みんなには気づかれてないみたい」

 

 

 

 

 声が響く。子供のそれだが、異様なほどに押しつぶされるような何かを感じてしまう声色だ。

 それと共に、異様な気配が、空気と共にねじ曲がる様子を幻視する。いや、幻覚などでは無い。実際にまるで空間そのものが生きているかのようにゆったりと蠢いている。

 

 ハルバードはそれを見て初めて気づいた。この一帯が濃密な魔力に包まれていることを。その魔力によって空間が歪んでしまっているのだ。普通ならあり得ないことだった。

 空気が震える。という例えがあるが、今起きている現象は明らかにその事象の上を行っている。

 

 ハルバードはその未知の現象に恐怖した。

 

「―――ジャアッ!!」

 

 その恐怖を振り払うように、勢い良く振り返り、取り出した大剣を振りかぶった。

 

「あまり大きな声を出してくれるな。わざわざ小傘と距離を取った意味がなくなる」

 

「…はっ?」

 

 自身の身の丈以上の刃は指で摘まれ、受け止められていた。

 

 ハルバードは、その気になれば、一撃でこの森の木々を全て斬り払えるほどの力を持っている。実際、目の前の相手にはそうする気で攻撃を放った。だがその攻撃はまるで物を受け取るかのようにあっさり止められている。

 

「き、貴様…、まさかあのカスか…!?貴様はさっき私が胴を切り落として殺したはずだ!」

 

「…カス、ねぇ…。私の今の姿が貴方の言うカスに見えるかしら?」

 

「な、何を言って…」

 

 ベキン という音と共に摘まれていた部分から大剣が折れ、遮られていた姿が露わになる。

 青みのかかった銀髪、血のように紅く染まった瞳、そして、背から1翼だけ生えている黒に染まった巨大な翼。翼には星のような光の粒子が無数に見え、まるでそれは、翼が夜そのもののようだった。

 

「な、あ…!?き、さま…は、まさか、同族…!?吸血鬼か!?」

 

「へぇ、やっぱりそうなのね」

 

「な、何故だ!なぜ誇り高き吸血鬼が人間と共に暮らしている!?」

 

「どうして、って言われてもねぇ…。私は人間の方が好きだったから、かしら」

 

「ふ、ふざけるな!吸血鬼は支配してこそ!己の力を誇示することにこそ存在意義がある!!求めないのか!?力を!支配を!我々と共にこの世界を支配しようとは思わないのか!?」

 

「悪いけど私、そういうの興味ないの。特殊プレイは他所でやってくれないかしら」

 

 ハルバードの意見をバッサリと切り捨てるレミリア。ハルバードの額に青筋が浮かぶ。

 

「貴様ァ…余程死にたいらしいなぁ…!」

 

「そんな怯えきった顔で何を言ってるのよ」

 

「黙れぇ!私は誇り高き吸血鬼、ハルバード・レイジュ!!貴様のような片翼しか無い欠陥品なんぞに敗れるものかぁ!!」

 

 再び大剣を作り出し、羽を広げて、勢い良くレミリアに切り掛かる。今度こそ、その首を斬り落とさんと、先ほど以上の膨大な黒い魔力を纏った突撃。

 

 

 

「――私は片翼しか無いわけじゃないわ。一枚しか出す必要が無いだけよ」

 

 

 

「あ?」

 

 

 

 気がつけばハルバードの視界は両断されていた。

 そのまま縦に二つに分かれた身体は地面に落ち伏せる。信じられないと言わんばかりにハルバードの目は見開かれている。

 

「ば、かな…」

 

 急いで身体を修復しようとするが、斬られた断面は何の反応も示さない。傷が治らない。それどころか、身体が動かなかった。指先一つ。

 

 ザリ と、こちらに近づく足音が聞こえる。

 かろうじて動かせる目を向けると、己の真上にレミリアはいた。その瞳は射抜くように鋭い。冷や汗が止まらない。威圧感だけで押しつぶされそうな…。

 

「まさか…!まさか貴様は…スカーレ」

 

 

 

 

「good night」

 

 

 

 

 

 最後にハルバードが見たものは、満点の星空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 死んだと思った?残念、生きてましたー!そして実は私は強いのだー!夜限定だけど。

 

 

 それにしても、私吸血鬼だったのかぁ…。

 

 400年以上生きて、ここで知る衝撃の事実。

 いやね、今私の心は、自分の種族を知れて安心できた派と、あんなクソプライド高い種族だったことにめっちゃショック受けてる派と、そんなことよりおうどん食べたい派の三つにわかれて混沌を極めてるんだよね。むしろ、今まで知らなかったことが異常だったのかもしれない…。

 

 いやでも考えてみれば私、動物の生き血はやけに美味しいなって思うことあったし、夜になったらやけに強くなるし、ばちくそテンション上がるし、心当たりは結構あるかも…。

 それにじいちゃんが昔読み聞かせてくれた本でも吸血鬼は支配欲がすごいって聞いた記憶がある。実際、夜の時の全能感凄いからな。何でもできそうな感じがするというか、事実何でもできたっていうか…。もしかしたらそれが私のイマジナリー吸血鬼なのかも。

 

 

 …ともかく、この状態じゃ里には戻れないなぁ…。私の見た目、今完全に吸血鬼だし。それにミサンガも切れちゃったし。これが無いと、何かと不便なのよねー。

 取り敢えず予備のミサンガ付けとこ。放置してたらめんどくさいことになるし。

 

 はぁ、小傘無事かなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、そういえば私、吸血鬼なのに太陽平気なんだけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 





レミリアたん:レミリアとなってしまった誰かさん。変に魂がメタモルフォーゼした結果、吸血鬼と人間の良いとこどりみたいなハイブリッドが誕生した!日が登っているときは魔力なしのクソ雑魚だけど、夜になると強くなるよ!だけど、強すぎるから普段は腕につけてるミサンガで魔力を封じているよ!実は拾ってくれた老夫婦が魔術の家系であったため、魔法は結構使えたりする。

能力:夜を支配する程度の能力
 能力と言うより体質。夜という概念を媒体に無限に魔力を徴収できるので、実質無敵。何でもできる。ただし、日が登っていると全く使えない。

 レミリアたん(昼の姿)
 
【挿絵表示】








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