めっちゃ強いレミリアたんになった転生者が自分を捨てたお父様をぶん殴る話 作:わらしべいべー
【前回のあらすじ】
・転生した瞬間に捨てられる←は?
・小傘ちゃんより弱い、人里の永遠の花レミリアたん
・で、伝説のスーパーヴァンパイア…!勝てるわけがないyo☆
目の前には混沌としている景色が広がっていた。
周囲の木々や建物はいびつに歪み、まるでオブジェのような不思議な形をとっている。所々に不自然に浮いている瓦礫や家具があり、それが落ちて、また浮いてを繰り返している。夢の世界を実際に現実に持ってきたらこうなるのかもしれない。
そんな奇怪な空間に2人の老夫婦が立っていた。
「…婆さんや」
「分かっておる」
老夫婦の警戒心は少し離れたところにいる小さな寝息を立てている子供に向けられていた。子供は青みがかかった銀髪をしており、その顔は可愛らしげだ。
しかし、その背中からは巨大な蝙蝠のような形状の翼が1つ生えており、その翼からは、きらきらと光の粒子が顔をのぞいている。
更には子供の周囲は夥しいほどの破壊痕があり、何も知らないものが見れば、爆心地か何かかと勘違いすることだろう。
「爺さん!」
「むッ」
老婆の声と同時に素早く身をこなしてその場から飛び跳ねる。
瞬間、先ほどまで立っていた場所に、巨大なエネルギーが地面を抉りながら、閃光のような速度で通過した。
「ふぅ、寝相一つでこれとはの。まったく、呑気に寝おってからに…」
「流石吸血鬼…いえ、この時点でその範疇はとっくに超えているわねぇ」
「婆さんや、儂があの子の動きを一瞬止める、その隙にあれを」
「あいよ」
老爺は懐から小さなナイフのような物を何本か取り出し、投擲。すやすやと寝ている子供の周囲の地面に突き刺さる。
「むんッ」
そう老爺が力むと同時に、刺されたナイフ同士の間から青白い電流のようなものが流れ、一瞬で動きを拘束した。
しかし、子供も自身が縛られている不快感に気づき、寝返りをうって体勢を戻そうとする。普通の子供がすれば可愛げがあるそれも、吸血鬼でも特異な力を持つ彼女がすれば洒落にならない。ギチギチ と、明らかに不味い音が電流から鳴る。
「婆さん!」
掛け声と同時に老爺の横から弾道ミサイルのような速度で老婆が飛び出す。落ちてくる瓦礫を柔和な顔で避けながら、子供の目の前まで来る。
そして、素早く手に持っていた黒いミサンガを子供の腕に結んだ。
その瞬間、子供の背から羽は消え去り、髪も色が抜けるように艶のある黒になった。そしてやがて、あたりに充満していた魔力も霧散し、歪な空気も消えて、静かな夜が訪れる。
最初から何事もなかったかのような子供の寝息があたりに響く。
それを見た2人は安堵のため息をおとす。
「やれやれ、まったくとんでもない奴じゃ…。これでは、こちらの命が幾つあっても足りんぞ…」
「まぁまぁ、良いではないですか。手のかかる子供ほど愛情が湧く物ですよ」
「手がかかりすぎるわい」
この子供は老夫婦の血縁者では無い。街に買い物に出かけた帰りの山道で偶然見つけた赤子だった子供。俗に言う捨て子だった。
しかし、老夫婦の拾った子供は、人間では無く、吸血鬼という人の血を吸う化物。本来ならば人間に害を与える存在だった。
だが、2人はそれを承知した上でこの子供を育てていた。
「しかし、既にここまで魔力が増えておるとは…。儂は子供の吸血鬼を見たことが無いから分からんが、少なくともこれ程までの力を扱う吸血鬼は見たことが無いわい。一体この小さな身体のどこからこんな魔力が来るんじゃ」
「仕方ありませんよ。この子は…レミリアは普通の吸血鬼ではないのですから」
この子供、レミリアは他の吸血鬼とは大きく異なる点が複数存在した。
一つ目がその魔力。レミリアは生まれつき、異常なほど膨大な魔力を持っていた。その力はまさに底なしで、あまりの密度と膨大さに、空間が形を保つことができないほどだ。しかし、なぜか日が昇るとその魔力は一切使えなくなる。これはレミリア自身の体質と老夫婦は考えていて、日が沈んでいる間しかその力を行使できないのだ。
二つ目が弱点耐性。レミリアは従来の吸血鬼の弱点とされているものが全く効かない。銀も、聖水も、日光も、全てが無効化される。これに関しては完全に謎であり、老夫婦も当初は頭を悩ませていた。レミリアが笑顔で日光の下を走っているところを目撃したときは思わず5度見した。
三つ目がその性格。吸血鬼という生き物は基本的に利己的だ。己の我欲のために、己のプライドのためにと、行動原理は違えど、己を中心に世界は回っているものと思っている。それはある種の吸血鬼としての性であり、本能だ。ところがレミリアはその真反対を行くような性格であり、悪戯好きではあるが、基本的に優しいし、他人の手伝いも良くする。何より他人を思いやれる。その様は本当にただの人間のようである。事実、日が登っている時のレミリアは見た目相応の力しか無い。
だから老夫婦はレミリアを人間として育てることに決めた。もっと人間の優しさや良い部分に触れてもらって、人間を愛する吸血鬼になってほしかったから。
「私たちはレミリアを導く義務があります。この子が力の使い方を間違えないように」
「元ヴァンパイアハンターの儂等がよりによって吸血鬼を育てることになるとはのぉ。人生わからんもんじゃ…」
「ふふ、さぁ早いところ家を直しましょう。もうすぐ朝ですからね」
少しずつ明るくなっている空が朝の兆しを知らせた。
***
おはよう諸君、私ダァ。
結局昨日はミサンガつけてからいつもの洋菓子屋の看板娘レミたんに戻った後、倒れたふりしてたら保護されたぜ!
いやー、昨夜は大変だった。あんな特殊性癖の持ち主に襲われた挙句に、自分とあんなのが同類だったとはねー。背筋がフリーズドライ!
まぁ大変だったのは保護されてからだったりする。
小傘にはギャン泣きされるし、慧音先生にはもろはのずつきタイプ一致でくらうし、もこたんには危うく焼きコウモリにされるところだった。もこたんの口が真っ赤になってたのは見逃さなかったけどね!ふふ、ハズレを引いたようだな!
そんなこんなで2時間くらいの事情聴取の末、ようやく解放されたわけであります。今日は昨日のこともあってアルバイトはお休みである!つまり、今日1日は自由に過ごせるというわけである!
さーて昨日は一睡もできなかったし、超眠いんだよね!今日はもう寝ーよっと。
すみおやー。
「許しません」
「にゅわっ!?」
突然レミリアの前に紺碧色の瞳が飛び込んできた。思わず布団から飛び出す。
「さ、咲夜……おはよう」
「うん、おはようレミリア」
「いつも思うけどいきなり出てくるのはワタクシの精神衛生上よろしくないのでやめて頂きたく申すのですが…」
「や」
レミリアの前にいる銀髪の少女、十六夜 咲夜。
彼女はレミリアが外の世界で放浪している時に出会った人間である。レミリアと共に幻想郷へ足を踏み入れ、現在では共に同じ洋菓子屋にて働いている。無表情で無愛想だが、お客さんからの人気は意外と高い。現在7歳。
「いやその、や、じゃなくてね?」
「やーっ!」
「やーっ、じゃなくて、ほら離れて。今私は睡魔という強者と戦ってるの」
「やーっ!」
「あの…」
「やーっ!」
「……敵を倒すのに必要不可欠なものは?」
「パワーッ!」
「よーしよしよし!パーフェクトだ!」
「やーっ!」
結局咲夜がひっついて離れなかったため、仕方なしに私服に着替えようとするレミリア。
ご覧の通り咲夜はかなり甘えん坊な性格だ。働いているとき以外は大体一緒にいる。色々と世話焼きな面もあったり、やたら毒舌だったり、当たりが強かったりするが、何だかんだでレミリアは良い友達だと思っている。
「そういえば咲夜、お仕事は?」
「休んだ。レミリアの面倒見てほしいって、店長が」
てんちょー、もしかして私が1人だと寂しいかもって思ったのかな?一応噂の吸血鬼に襲われちゃったわけだし。少しでも心のストレスを減らして欲しかったのかも。
まぁ、結果的に減らされたのは私の睡眠時間なわけだけど。
「…昨日」
「ん?」
「昨日、強い妖怪に襲われたって聞いた」
「ああ、それなら全然大丈夫だよ」
「嘘、今でもしんどそうだもん。襲われた妖怪に何かされたの?」
「犯人は私の目の前にいるぜ!今超眠い!」
「何もされてない?」
「知ってるでしょ?私は強いのだ!あんな奴、返り討ちにしてやったわ!」
「でも、服がズタズタで血だらけになってた」
…そういえばあの吸血鬼しこたま服を切り裂いてたな。あれ店のやつだから絶対後でてんちょーに怒られるやつだわ。とほほ…。
「問題なし!私の超☆再生力ならお茶の子さいさいよ」
胴は泣き別れしたけど。
「………昨日、レミリアが全然帰ってこなくて寂しかった。家に帰っても誰もいないし、里の人たちに聞いたら外に出て探し物してから帰ってきてないって聞いてすごく心配した。…もしかしたら居なくなっちゃったんじゃないかって思って」
そう言って咲夜はレミリアの体に顔を埋める。
あーもう可愛いな!見てよこの子犬みたいな咲夜を!いつもは人形みたいに無愛想に振る舞ってるのに、ふとした時に見せるこの顔がたまらないんじゃよ。既存の可愛さの臨界点を突破してるねこれは。将来美人になるぜ〜。
…って、あれ?泣いてる?
わー!泣いちゃってる!?そんなに寂しかった!?
ヤバい!このままでは咲夜の魅力に取り憑かれた人たちに血祭りに上げられかねない!
「ご、ごめんね、そんなに心配してたなんて…」
「…ぐすっ、もっと誠意をみせて」
「……ごめんっちゃ☆」
「…」
あっ、ちょ、なんで持ち上げるんですか?え、なに?なんで窓を開けるんですか?というか、力強くない?
え、まっ、待って?待って待って待って!?落ちる、落ちるよ!?今の私人間と変わらないよ!?
ちょ、ぱわーーーっ!?
あ、これ知ってる!多分前世で読んだやつだ!確か名前はキン肉ドライb
ーーー
「…えーっと、大丈夫ですか?」
「問題ありません」
「い、いや、問題しかないと言いますか…」
少女は目の前の状況に困惑していた。
あり得ないところに、あり得ない体勢で知り合いが突き刺さっている。こんな時私はどうすれば良いのでしょう?
少女の名前は稗田阿求。人里においての重役、稗田家の娘であり、幻想郷のあらゆる記録を残す役目を負っている人物である。
そんな阿求は、洋菓子屋の看板娘であるレミリアが最近現れたという妖怪に襲われたと聞き、その妖怪の詳細な記録をすることも兼ねて、見舞いに来たのだ。…のだが、いざ彼女の自宅に着くと、そこには地面に上半身を埋めたレミリアがいた。
側にいた咲夜に聞いても、問題ないの一点張りである。何がどうしてこうなったのか、まるで理解できなかった。
「あの、お医者さんとか呼んだ方が…」
「必要ないです」
「えーっと…、れ、レミリアさん!大丈夫ですか!」
阿求が声をかけると、それに気づいたのか、レミリアは足をバタバタとさせて反応を示す。
そして自力で腕を出して、そのまま頭を地面からすっぽ抜いた。
「ぷっはぁー!ペッペッ!あっ、あっきゅん!久しぶり!」
「は、はいお久しぶりですレミリアさん…」
レミリア。彼女は阿求から見てもかなり奇想天外な存在だ。
長い年月を生きる妖怪だというのに、人間と同じぐらいの力、価値観、倫理観を持ち合わせている。人助けも積極的に行うし、性格も自由人すぎるところはあるが、基本的には争いを好まず、穏やかだ。
「大丈夫ですか…?結構深く刺さってましたが…」
「問題なしです!久しい土の感触が心地よかった。植物はあんな良いところで一生を過ごすのか…羨ましい」
まぁ、当人は少し自由人すぎるというか、変わりすぎているところがあるが。
「あ、もしかして昨日のこと聞きに来たの?」
「あ、はい、大体の概要は担当の方から聞いたのですが、一応当人の話も聞いておこうかと」
「仕事熱心ですね。レミリアにも見習ってほしい」
「何をいうだぁー!私はちゃんと働いてるよ!」
「ことあるごとにサボっている。この前だって仕事中に慧音先生を怒らせて追いかけ回されてた」
「マカロン・ロシアンしてただけだよ。むしろあの傑作を見てない咲夜が損してるよ!慧音先生、逆張りで明らかな危険色引きに行くんだからさ。それで初回KOしてほんと大笑いして…ごめ、思い出しただけで、んふふっ」
「あの時追いかけられていたのレミリアさんだったんですか…。あれあの後大変だったんですよ。周辺が穴だらけになってその処理に追われて」
「あの人が曲がるという言葉をご存知なかったのがいけなかったのよ!まさか家の壁をぶち抜いて来るなんて思わないじゃん…。結局頭突きは喰らうし、里の人たちには怒られるし、散々な目にあったよ。慧音先生のバカ!アホ!サイ!ゴリラ!恐竜!変た」
「なるほど、レミリア。お前が私のことをどう思っているのかが良くわかったよ」
死刑宣告。
冷や汗びっしょりで振り返るとそこにはとても良い笑顔をした慧音がいた。乙です。
「………あ、あはは〜、そんなわけないじゃないですか。ジョークですよジョーク。真に受けちゃって、もーうやだ」
レミリアの言葉を無視して慧音はスタスタと近づいて来る。
「待ってほしい!私たちはまだ分かり合える!ほら、話し合い!話し合いで解決しよう!私は対話主義者なんだ!何でもかんでも頭突きで解決するなんて良くないよ!ちょ、だめ!ダメだから!なんで首鳴らしてるの!?準備おっけーって!?…あ、慧音が準備おっけーね、ぷふっ!あ、ちょまっ…あごぁっ!!!??」
レミリアは再び地面に埋まった。
「――お話ありがとうございます。やはり記録には実際に当人から聞くのが一番ですね!すみません、その、色々お疲れのところ」
「良いですよ全然。むしろ私の将来残る武勇伝がまた一つ生まれたと思えばへでもないね!」
「逃げ回ってるだけの話だがな。だがまぁ、吸血鬼相手に逃げ切れただけでも充分僥倖か」
「逃げ足と食い意地だけは誰にも負けない自信がありますから!」
「だったら野菜もちゃんと食え」
「それは無理です」
「…さて、ではこちらの話もそろそろしようか」
「あれ、今回慧音先生は私をjudgementしに来ただけじゃないの?」
「流石にそれだけではここには来ない。というか、それはいつもお前が変な悪戯をするからだろう。毎度毎度、よく懲りないものだ」
「長所、ですから」
「短所に修正するべきだな」
「そう言う先生は短気ですよね」
スッ…
「ほら!ほら!ほーら!すぐ腕っ節!そんなんだから寺子屋のテストで猪突猛進の四字熟語だけ生徒全員に正解させられるんですよ!」
「お前は……はぁ、今は良い。これからは真面目な話になるからな」
「真面目な話?」
「ああ、吸血鬼についてだ」
そう言うと、慧音は机の上に幾つかの纏められた書類をばさりと置いた。
「これは?」
「幻想郷各所の近況状況を天狗に纏めてもらったものだ。一旦それに目を通してくれ」
資料の内容を簡単にまとめると、幻想郷各地で吸血鬼が暴れまくってるよ!現地の妖怪の殆どは太刀打ちできてないよ!ついでに霧の湖の方にでっかい館みたいなのが現れたよ!多分それ敵の本拠地!っと言ったところである。
「見ての通り現在幻想郷では吸血鬼たちが他の妖怪たちに危害を加えている。さっきのレミリアの話から聞いても、恐らくこれは吸血鬼たちによる侵略行為と見て間違いないだろう」
「…レミリアを襲った妖怪たちがいっぱいいて、そいつらが幻想郷を支配しようとしてるってこと?」
「そゆこと、咲夜はちゃんと理解できて偉いねー」
「…レミリア、前に子供扱いしないでって言ったよね」
「いーじゃん、別にー。…あ、一つ思ったんだけど、この資料を見る限りだと、結構被害受けてるところは多いみたいだけど、今のところ人里は何ともないよね」
「ああ、それは恐らく、向こうに人間を残すメリットがあるからだろう」
「メリット?」
「元々幻想郷は外の世界にいた妖怪や神が存在を保てなくなったから、作り出した秘境と言われている。人間に畏れてもらわねば、妖怪はその形を保てないからな。吸血鬼も同じなのかは判らんが、少なくとも吸血鬼も人間が必要な理由があるのかもしれない、と考えている。それこそ血を確保するためなどが有力だな」
「なるへそー」
「管理者側は何もしていないんですか?」
「いや、向こうもかなり問題視してる。一応、各々で討伐をしているようだが、なにぶん数が多いらしい。おまけに一体一体が強いからキリがないそうだ」
「それは…厄介ですね」
「そんな折に、こんな手紙が届いたそうだ」
机に一枚の書記を置く。その手紙には、高貴そうな模様が描かれており、いかにもな高級感が出ていた。
手紙の内容を一言で言うなら、『この幻想郷は今日からワイらのもんやから、それを証明するために幻想郷と戦争してやるで!』と言った感じだ。完全なる宣戦布告である。
「またこんなベタな…」
「管理者側もこれを機会と思い、この戦争で吸血鬼を一気に殲滅するつもりだ」
「まじかー。管理者めっちゃバトルジャンキーじゃん。血の気多いな」
「まぁ、仮にも妖怪ですからね…。それに最近の幻想郷では刺激が足りないと、他の妖怪たちから不満が出ていたそうですから、その発散も兼ねているのかもしれません」
「なるほど、で、戦争っていつやるの?人里に被害出るなら避難とかしといた方が良いでしょ?」
「明日だ」
「へー明日、なるほど明日ねー明日明日……いや、明日ぁ!!?」
「ちょ、ちょっとどういうことですか!?明日からいきなり戦争って…」
「…この情報が届いたのは今朝だ。急なことだ、一応里の者には内密にしておいてくれ」
「やばいよやばいよ!何か準備しないと!」
その戦争の決行はあまりに急だった。
戦争の規模は未知数だ。だが、総力戦になることは容易に想像できる。そうなれば被害は大きくなると考えるのが自然だろう。
仮にこの情報が伝われば、里中がパニックになってしまう。これでは人の避難どころではない。
「どうして明日?明らかに、人間の都合が考えられてない」
「一応、開戦時には結界を張ってくれるとは言っているし、私もできる限りのことはしようと思っている。だが、いくらそれありきでも厳しいと私は考えている。…今回の事件は管理者たちにとっても予想外だったのだろう。こちらを気遣う余裕すらないのかもしれない」
「そんな…」
阿求の顔から血の気が抜けていく。自分が住んできた里が、関わってきた人たちが明日にでも崩れていくかもしれない。それは最悪の未来だった。
するとドタドタと廊下から荒ただしい音が聞こえて来る。
スパン と襖が開かれるとそこには全身に防護服を着込んだレミリアがいた。手には鍋と火の用心と書かれた木刀が握られている。
「これで完璧だ!」
「焼け石に水」
「ひどい!」
「レミリア…流石にそれでどうにかなるなら苦労はないぞ…」
「うるさいやい!いいか!確かに人間は妖怪とかに比べたら弱っちい!でも柔軟に考えることができる!考えることを放棄したらその時点で一番の長所をポイ捨てしてるのと同義!だからそんな風にうじうじするより、無駄でも何か考えて動いた方がずっと良い!」
「レミリア……そうだな、やる前から諦めるわけにはいかないな」
「あっきゅんも!」
「…え?」
「里がダイナマンされるのが嫌なら、できる限りのことを考えよう!私だって里が破壊されるのはゴメンだからな」
レミリア。彼女は妖怪だが、その考え方は非常に人間に近い。故に、妖怪でありながら人間に深い理解を示し、その行動が不思議と安心感を誘う。それが里の人たちにとってはこの厳しい環境でもある幻想郷においての数少ないよすがだった。
そんな人々に寄り添う妖怪の姿を阿求は見た気がした。
「………はい、そうですね。私も知り合いの霊術師の方々に声をかけてみようと思います!」
「その意気だあっきゅん!」
「…思ったのですがなぜレミリアさんは私のことをあっきゅんと呼ぶのですか?」
「え、この前あっきゅんがくしゃみした時に、「あっきゅしゅん!」ってしてたから」
「え、あ、あれ見てたのですか!?夜中で誰もいなかったはずなのに!?」
「そのあと、一人でツボってたよねー。かーわーいーいー」
「ああああ!忘れて!忘れてください!」
「やだー、レミリアたんは一度見たものは忘れないのよー」
「それ私の専売特許だから!お願いだから忘れてぇ!」
●●●
森に囲まれた風変わりな屋敷。他の空間とは隔絶されているそこは、誰の目にも見つかることはない。超然的な雰囲気がうっすらと辺りを満たしている。
その屋敷の中、襖で隔たれた空間に一つの影がある。
金色の髪に、絶世と呼べるほどに美しい顔立ち、中華人のような衣服を着ている。そして何より目につくのはその少女の背後にある巨大な九本の尾。ゆらゆらと時折動くそれと、どこか幻想的な雰囲気が、彼女を人間ではないことを物語っている。
少女は何かに傅くように、その場に座り、頭を下げていた。
「…ご報告に上がりました、紫様」
目の前の空間が不自然に横に割れる。その空間にできたひずみのようなものは、徐々に広がっていき、人の背の半分くらいの大きさになった。
そのひずみの中には無数の巨大な目があり、それらは全て傅いている少女に向けられていた。
『面を上げなさい、藍』
言葉の通りに静かに頭を上げる。眼前にあるのは無数の視線があるひずみだけだ。
そのまま何も言わずに藍と呼ばれた少女はひずみに向けて言葉を発する。
「吸血鬼討伐に関しては、幻想郷に存在する地底を除いた、殆どの有力者に協力を取り付けることに成功しました。既にそれぞれ所定の場所に向うよう申したので、今すぐにでも開戦の狼煙を上げることができるかと」
『そう、吸血鬼たちの動きはどうかしら』
「現在は日が登っていることもあり、大きな動きは見せていませんが、こちらの動きには勘づいているでしょう。不意をついたとしても、向こうはそれを承知で反撃してくると考えておりますので、総力戦は避けられないかと…」
『成程。…それで、例の吸血鬼は見つかったかしら?』
「……いえ、申し訳ありません。それらしき存在は今に至るまで確認できず…」
『そう…。まぁ、否が応でも乱戦時に会うことになるでしょう。私はまだ結界の修復に時間がかかるわ。明日には終わるでしょうけど、それまで引き続いてお願いね』
『はい』
結界とは、幻想郷全体を囲む博麗大結界と呼ばれるものである。
この博麗大結界。簡単に言うと、幻想郷を外の世界と隔絶するために貼られている結界であり、この結界のおかげで幻想郷は外の世界の影響を受けない仕組みになっている、これが万が一壊れてでもしてしまえば、外の影響をモロに受けてしまい、幻想郷はあっさりと崩壊するだろう。まさに幻想郷の生命線とも呼べる存在だ。
『…博麗大結界は通常見ることもできなければ認識することすら不可能、見つけたとしても並大抵の手段では傷一つつけられない。…それを一部とはいえここまで完全に破壊した存在がいる……分かっているわね、藍』
「はい、博麗大結界を破壊した吸血鬼は必ず仕留めて見せます」
『ええ、良い子よ。報告は以上かしら?』
「……実は気になることが一つ」
『言いなさい』
「昨晩、人里周辺で異様な魔力が観測されたと式神から報告が上がりまして…、魔力は数分後には消えたそうですが、その魔力が異常なほどの力を放っていたそうで、結界を破壊した吸血鬼と何か関係があるのでは…と」
『…そう、今は私も貴女も手が離せない身。貴女の式神を向かわせなさい。稗田の姫や里の守護者なら何か知っているかもしれないわ』
「畏まりました。報告は以上です」
『私は修復に戻るわ。明日までに戦力を整えておきなさい。――決行は明日の夜よ』
「はっ」
その言葉を最後にひずみは閉じて、消え去った。
藍はその場で立ち上がる。
「橙」
「はい、藍さま」
「話は聞いていたな。人里で情報を集めてきてくれ。それと、結界の護符も守護者に渡してきてほしい」
「わかりました、藍さま」
そのまま橙と言われた少女は、影に溶けるようにスッとその場から消えた。
藍は襖を開け、縁側を歩いていく。
ギシギシと床が軋む音が鳴る。
「…楽園で好き勝手に暴れた報いを受けろ、蝙蝠ども。幻想郷で妖怪がルールを破ればどうなるか、その身を以って教えてやる」
●●●
薄暗い一室。壁に飾られている蝋燭の火だけが辺りを怪しく照らしている。
長い赤の大理石のテーブルの前に十数人の者たちが椅子に腰掛けており、皆一様に何かを待つように沈黙している。
その者たちは普通とは思えない雰囲気を醸し出しており、それが人間の理解を超えた何かだということを暗に訴えかけている。
「…さて、まだいない者はいるか?」
一人の男が沈黙を破った。
その男は、貴族のような衣服を装い、長いローブのような者で身を包んでいる。だが、その口から時折見える大きな牙と、薄暗闇の中、怪しく光る瞳は、明らかに人間のそれではなかった。
「もう大体出揃ってると思うけどね」
「いや、ハルバード卿がまだだ」
「…どうせ先にこの世界の人間を味見に行ったんだよ。先取りが好きだからね、アイツは。それで日がのぼって帰ってこれなくなったってオチだろう」
「ふむ…まぁ良い。これでハルバード卿を除いた全員が揃ったということだな」
彼らは吸血鬼。
現在、幻想郷を襲撃し、この世界を自らの種族のものとしようとしている存在たち。元々は外の世界で生活していたが、彼らはどこからかこの幻想郷の存在を知ったのだ。
幻想郷。人と妖怪、神までもが限りなく共存に近い形で過ごしている人外からすればまさに理想郷と言って良い世界。支配欲が本能とまで言われている彼らがそれらを牛耳りたいと考えるのは自然なことであった。
そして、とある手段でこの世界に無理矢理入り込み、今日までこの世界の妖怪たちに力関係を理解させんと襲撃を繰り返していた。
「あとはスカーレット卿を待つだけだが…」
そう誰かが呟いた瞬間、突然、部屋中に蝙蝠の大群が羽ばたいた。
しかし、吸血鬼たちは驚く様子もなくテーブルの奥に視線を向ける。誰も座っていない椅子に、蝙蝠たちが集い、段々と人の形をとっていく。
現れたのは一人の男だ。
青みがかかった銀髪をオールバックにし、静かに開いた眼からは紅の瞳がぼんやりと光っている。そして、その背にある雄々しい翼はこの中にある誰のよりも巨大。その翼が男がこの中で最も格が高く、力を持った存在だということを示している。辺りに息苦しいほどのプレッシャーが満ちる。
男の名は、アゼラル・スカーレット。
現紅魔館の当主であり、外の世界で吸血鬼たちをまとめ上げ、幻想郷侵攻を主導した、今回の事件の実質的な首謀者だ。
「…諸君、我々の支配はいよいよ佳境へ入る。先日、我々は幻想郷へ宣戦布告を行った。最早いつ総力戦が起きてもおかしくない状況と言えるだろう」
「ふふ、いよいよね。私たちが幻想郷の最高戦力をねじ伏せて、真の支配者になる時は」
「その通り、だが相手も愚かではない。あらゆる手段を使って我々を潰しにかかるだろう」
「確かに、特に日中に仕掛けられればこちらが不利になる事は避けられない」
「いや、奴らは夜に仕掛けてくる」
「…なぜわかる?」
「我々吸血鬼が夜に本領を発揮するのと同じく、向こうの妖怪もまた、夜に力を発揮する存在だからだ。あちらも確実にこちらを潰したいはず。己にとっての、最高のコンディション、フィールドで攻めてくるだろう」
「成程…」
「相手も我々の想定外の襲撃に焦っているだろう。守りが間に合わず、毎晩の襲撃で、かなりの被害も出せている。短期決戦を仕掛けてくるはずだ。遅くとも明日にはこちらを攻め落としにかかるだろう」
その言葉を聞いて一気に空気が張り詰める。
目元が険しくなる者もいれば、拳を握りしめる者、猟奇的に笑う者もいる。皆楽しみなのだ。自らの強さを誇示することが。この幻想郷という広大な土地を支配することが。
ガタリ とアゼラルは席から立ち上がる。
「我々は必ずこの幻想郷を手にし、再び吸血鬼の天下を獲るのだ!そして、永遠の夜をこの手に!」
アゼラルの宣言に吸血鬼たちは震える。
これがアゼラルの、スカーレット家の力。何者も自然とその者に己を預けてしまうようなカリスマ性。だからスカーレット家の吸血鬼の周囲には常に傅く者が集う。この世で最も統べることに特化した力。ある種の安心感を植え付ける力であった。
「…んでよ、スカーレット卿。それだけのために態々オレたちを呼んだんじゃねぇだろ」
「…ああ、その通りだ。今回諸君を呼んだのは、一度顔を合わせてほしい子がいるからだ」
「顔合わせェ?」
「そうだ、お前たちも気になっていただろう。…出てきなさい」
その声とともに、アゼラルの背後から光のような物が現れる。それは、一つ、二つ、三つと増えていき、それが翼だと気づいたのはその姿が現れた頃だった。
小さな少女だった。見た目では10を過ぎたこと辺りだろうか。
サラリとした艶のある金髪、アゼラルと同じ紅に光る瞳、そして最も特徴的なのが、宝石のような奇妙な物体が生えている翼。その大きさは身の丈の三倍はあるだろうか。その小さな体から生えているとは思えないほど巨大だ。
その顔に表情と呼べるものは無く、まるで鉄のようだった。
「紹介しよう、彼女は私の一人娘、フランドール・スカーレットだ。今回、この幻想郷の結界を破壊した、我が紅魔館が誇る最高戦力だ」
「………」
「そういえばレミリアさんって家族っていたりするんですか?」
「急にどうしたの、あっきゅん」
「…その呼び方は後で絶対直させますからね……おっほん、その、普段から見て思っていたのですが、人と接するのが上手だなって…。育ての親か誰かに教えてもらったのかなと」
人懐っこかったり、話が通じるタイプの妖怪は、産まれて間もなくから人間と接していた、もしくは育ててもらっていたというケースが多い。そのまま人間のルールに適応して生活している妖怪もこの里には幾人かいる。害を与えるかどうかは別として。
「ああ、一応私人間に育てられたからね。そういうモラルは一通り持っているつもりよ」
お前の行動のどこにモラルがあるんだ、という言葉を慧音は飲み込む。
「ええ!?そうなんですか!?私初耳なんですけど!」
「確か、山奥で捨てられたところを老夫婦に拾ってもらったのだったな」
「そうそう」
「慧音さんが知ってるのに、幻想郷の記録を担当してる私が知らないってどういうことなんですかー!!」
「知らない、うるさい」
「ほら〜、7歳児に言われてるぜ、あーっきゅん」
「ぐぐぐ…!」
「…だが、そう考えると、レミリアを捨ててしまった家族もどこかにいるということだな」
「ふーんだ!私を捨てるような恥知らずの家族なんて知らないわ!こんな美少女をバース直後に即リリースするなんて損してるとしか思えない!」
「私もそう思う」
「まぁ、そう言うな。もしかすれば家族の誰かが探してくれているかもしれないぞ。例えば妹とか…」
「私には咲夜ちゃんがいるから間に合ってますー!ねー、さくやん!」
「離れて、鬱陶しい」
「辛辣!えーん、あっきゅん!咲夜がグレたー!私の心にチクチク言葉が機関銃ばりの速度で突き刺さる!」
「あはは……でも確かに、こう見ると二人は姉妹に見えますね。いつも一緒にいることが多いからそう見えるだけかもですけど」
「もうこの際、姉妹としてやっていったらどうですか?」
「それはダメ!レミリアと私は対等なの」
「そ、そうですか」
「それにしても、妹かぁ…」
「何か気になることでも?」
「いや、実際に私に妹がいて、今私の隣にいたらどうなってたのかなって…」
「尻に敷かれる」
「妹が姉に見えるだろうな」
「妹さんの方が背とかお胸大きそうですね」
「揃いに揃って皆んな酷くない!?今ちょっとしんみりしかけたよね!?珍しく私がそういう空気にしようと思ったのに!」
「日頃の行い」
「違いないな」
「もーう!皆んなさっきからひどいー!私に癒しは無いのかー!?あー!こういう時に妹という存在が欲しい!」
「ふふ、ここは幻想郷ですよ。忘れ去られた物が最後に辿り着く地。いつかレミリアさんの家族もここに来るかもしれませんし、もしかすれば妹さんともばったり会うかもしれませんね」
「えー、そうかなー?仮にもし本当に妹がいて、会えたとしたら、仲良くなれたりできるかなぁ?」
「大丈夫だ、その時は私たちも協力する」
「そっかー、ありがとう。…まぁ、もしいたなら、きっと私に似てめちゃくちゃ美人なんだろうな!あはは!」
管理者「ファ!?なんか結界ぶっ壊されたんだけど!?敵にやべぇ奴いるぞ!はやくコロコロしなきゃ…。結界も直さないと!あー忙しすぎて人里に手回せないわー」
人里「おいおい、これじゃあMeは死ぬじゃないか」
レミリア「↑熱くなれよ!」
吸血鬼「勝ったな(フラグ)」
タイトル詐欺は悪い文明なので、多分続きます。