めっちゃ強いレミリアたんになった転生者が自分を捨てたお父様をぶん殴る話 作:あやさよが万病に効くと思ってる人
【前回のあらすじ】
・天使咲夜ちゃんの甘える攻撃!(効果:相手は死ぬ)
・慧音先生は脳筋(周知の事実)
・Q.明日から何が始まるんだ?A,大惨事世界大戦だ
全面戦争が起きるという衝撃のカミングアウトから、一夜が経過した。
相も変わらず人々はいつも通り生活している。
だがそれは、この情報一つが知れ渡るだけで簡単に崩れる脆い物だ。人々も、まさか今日幻想郷の命運がかかった戦が行われるなど夢にも思っていないだろう。
だが、所詮はそんなものだ。いつだって幸せな時が崩れ去るのは唐突である。何気ない日常に、己の知り得ないところで、崩壊の予兆は始まっているのかもしれないのだ。
気がついた頃にはもう遅い。今まで積み上げてきたものは全て無に帰し、全てが台無しになる。そんな光景を目の前でただ見ることしかできないその心境は如何程か。とてつもない無力感と、絶望に襲われるだろう。
だから我々は常に日常生活の中でも気を張る必要がある。どんな些細なことも細心の注意を持って見なければならない。でなければ全てを失うことになる。誰だって大切なものを失うのは嫌だから。
……そう、例えそれが
「私の大好きなチョコレートパフェだったとしても…」
絶望に打ちひしがれた表情をしているレミリアの目の前には、転倒した巨大チョコレートパフェが転がっていた。
レミリアが一つ一つ、神経を削って3メートル以上に達したそれは、熱によるチョコレートの摩耗、そして科学界の重鎮 重力によって無慈悲にもその塔のように積み上げられた中身を机と床にぶちまけた。
「レミリア、どうしたの?すごい音したけど………うわっ…」
倒れた音を聞いてキッチンに入ってきた咲夜が顔を顰める。
「レミリア…またパフェタワー作ってたの?前に店長に怒られたの、全然懲りてない」
「いや今回は惜しかったんだ!あと少しで完全体だったのよ!完全甘物パーフェクト・パフェ、略してパーパフェが出来ようとしてたのよ!」
「知らない。どうするのこれ、もうすぐ店長来るよ」
「しまった!はやく片付けないと!次バレたら今度こそやっばい目にあうに決まってる!てんちょーのことだから逆さ吊りにさせられたり…」
「そうだな、良くわかってるじゃないか」
「あぇ?」
瞬間、レミリアの視界がひっくり返る。
気がつくと、レミリアはその場で逆さ吊りにされていた。
「げげっ!?もう来たのてんちょー!?今日早くない!?」
「今日は予約注文があるからな。早めに仕込みしないといけなかったんで来たんだが……やってくれたな、レミリア。例の吸血鬼に襲われたってんで心配してたんだが…どうやら手心の必要は無さそうだ」
「ち、ちくしょー!やめろーっ!能力解けーっ!」
「やだね、お前にはそろそろ本格的にしばき上げないといけないようだからな…」
「ま、待っててんちょー!弁明を、弁明の機会を!」
「…言ってみろ」
「私はスイーツ界の新たな扉を開こうとしてたんだ!誰だって想像したことあるでしょう?見上げるほどに積み上げられたパフェを!私は全パフェラーの夢を叶えようとしてただけなんだ!」
「連行だ」
「うわーっ!そんな殺生なー!」
「咲夜、悪いがその散らかったやつ片付けといてくれ。その分の給金はこいつから引いて出しとく」
「わかった」
「ヤメロー!死にたくなーい!…あ、咲夜!今の私、前見た天井下がりって妖怪に似てない?わーべろべろ〜!あっ、ちょ、てんちょー締めないで、締め付けないで、そこは敏感なのぉ!ぎゃあぁぁぁぁ!!?」
逆さ吊りの状態で、そのまま店の2階へと連行されていくレミリアを咲夜は呆れた顔で見送った。
ーーー
多々良小傘は思い悩んでいた。
例の吸血鬼に襲われ、丸1日が経過した。心の整理も何とかついた小傘は改めてレミリアに会おうと、彼女が働いている洋菓子屋の前まで訪れていた。
だが、今更自分がどの面を下げて会いに行けるのだろうか。
結果的に助かったとはいえ、レミリアはあの恐ろしい吸血鬼に襲われたのだ。自分のせいで、大切な友だちが危険な目に遭ってしまった。その責任感がレミリアと会うことを憚ってしまう。
だが、せめて一言謝罪と感謝は述べなければならない。何より、小傘はこのままレミリアと会えないというのは、どうしようもなく嫌だった。
そんな一心で、ここまで来てはみたものの、やはりいざ会うとなると、どうしても尻込みしてしまう。
「うぅ〜っ!」
拒絶されてしまったらどうしよう。嫌われていたらどうしよう。
そんなことを想像してしまい、その場でうずくまってしまう。
「どうしよう〜っ!」
「た、助けてー!へるぷみー!」
「え?」
聞き覚えのある声が耳に入り、その声が聞こえた店の裏手に入っていく。
するとそこには、店の二階の窓からロープで身体中を縛られ、逆さ吊りにされているレミリアがいた。
「な、何やってるの…?」
「あ、小傘!色々あってご覧の有り様なの!助けて!」
「色々って…?」
「パフェ、塔、倒れる」
「ああ…」
全てを察したように小傘は声を漏らす。
まるでミノムシのようにブラブラと体を振りながら助けを求める友人を見てると、小傘は悶々と悩んでいた自分が、何だかバカらしく思えてしまった。
「……もーう、しょうがないな。今回だけだよ」
「ありがとう〜」
「助かったよ小傘…。くそぅ、てんちょーめ…。毎度毎度、手心というものを知らないのか!?」
「毎度毎度、同じことを繰り返して怒られてるレミリアの責任だと思うよ…」
「えーん。一週間まかないスイーツ抜きにされるし、散々だよ…」
涙目になりながらそう言葉を漏らす。
店の材料費もタダではない。逆にあれだけのことをしておいて、それだけで済んでいるのは、ある意味店長の情なのだろうか。
「…ねぇ、レミリア。あの後大丈夫だった?ほら、その…吸血鬼に襲われた後…」
「あの後…ああ。うん、全然問題なかったよ。今ピンピンしてるし!」
「……ごめんね、レミリア」
「え、なんで謝るの?」
「だってわちきがレミリアを連れて行かなかったら、怪我なんてしなかったし、危険な目にも遭わなかった。だから、全部わちきのせいなんだ…わちきが…」
「そんなことない」
「え?」
「私は小傘に誘われはしたけど、最終的には私が自分で決めてついて行ったの。それは小傘のせいなんかじゃない。私のせいだ」
「そ、そんなこと…!」
「それに、小傘はあの時、ちゃんと私のこと助けようとしてくれたじゃん。あの時小傘が立ち向かってくれたから私は逃げ切れたんだよ」
「う、うぅっ…!」
「はいはい泣かないの。最恐の妖怪の名が廃るわよー」
「廃ってないもん」
「え、じゃあ腐ってるの?やっぱり小傘は茄子の妖怪…」
「だから茄子じゃない!」
「茄子の名が腐るわよ」
「その茄子で殴打するよ?」
「ア、スミマセン」
時刻はもうすぐ昼になる。
2人はどこかで昼食を摂ろうと、どこか手頃な店を探そうと辺りを見回す。
「おうどんが良いな私ー」
「…ねぇレミリア。あの子 様子おかしくない?」
「ん、どれどれ…」
小傘の指差す先には、人里の通りを歩く小さな少女がいた。
しかし、ナイトキャップからはみ出た獣耳と、その身から生えている2本の細長い尻尾で、その少女が人間でないことが分かる。だが、小傘もレミリアもあんな妖怪は里で見たことがなかった。
そんな少女は、何か困った様子で辺りをキョロキョロと見回している。
「ど、どうしよう…。守護者さまの家がわからない。一回藍さまのところに戻ろうかな…。でももう、転送板も2枚しかないし…」
「へいへーい、そこの嬢ちゃん。私と一杯やってかない?」
「え!?そ、その、怪しい人に付いてったらだめって藍さまに言われてるので遠慮しておきます」
「がーん!?私不審者扱い!?」
「今のは明らかに怪しい人の行動だよレミリア…。ごめんね、何か困ってるみたいだから声をかけたんだけど、どうかしたの?」
「えっと……、わ、私 橙って言います。実は、里の守護者さまの家を探してるんですけど、全然見つからなくて…」
「つまり、はじめてのおつかいで迷子になったと。……ところでその尻尾ちょっと触らせてくれない?あ、耳でも良いよ!」
「え、嫌です…」
「そんなこと言わずに頼むよー。私の荒んだ心を癒しておくれ。ほらー、この茄子触っていいからさー」
「唐傘スマッシュ!」
「ぎゃん!?」
「え、えっと…」
「慧音先生の家だね。わかった、案内するよ!」
「は、はい、有難いんですけど、さっきの人大丈夫なんですか?すごい体勢ですけど…」
「大丈夫だよ、いつもの事だし」
頭から地面に突っ込み、鯱鉾のような体制になっているレミリアを無視し、小傘は橙と共に、慧音の家へ歩を進めた。
「……多々良小傘はレベルアップした!人里のヒロイン、レミリアちゃんが仲間になりたそうにこちらを見ている!仲間にしますか?▶︎はい ▶︎いいえ」
無視無視。
人里の通りから少し外れた場所。そこに里の守護者こと、上白沢慧音の自宅はある。
玄関の前にある鈴を軽く鳴らし、しばらくすると引き戸がガラリと開き、慧音が顔を出す。
「ん、橙じゃないか。君が来たということは…」
「はい、結界の護符を届けに来ました!」
そう言って橙は、数十枚ほどのお札の束を渡す。
このお札は結界符。これを対応する方角に貼ることで、その範囲に結界を発生させることのできる代物だ。今回橙が持ってきたものは、博麗の巫女という幻想郷の調停者が作ったもので、かなり強力なものだ。
「何とか枚数はあるな。ありがとう、これなら一晩くらいなら何とかなるかもしれない」
「はい。それで、えーっと…少しお話を聞きたいのですがよろしいですか?」
「ん?ああ、別に大丈夫だぞ。戦争までまだ時間があるからな」
「はい、じゃあお邪魔して…」
「ねぇ、戦争ってなに?」
「「……あ」」
橙をここまで案内してきた小傘。
彼女はいつも人里で暮らしていることもあり、今日起こることを一切知らなかった。
「そういえば、小傘は何にも知らなかったね」
どこからかレミリアがひょっこりと姿を表す。
「わぁっ!?」
「レミリア、お前いつからいたんだ?」
「さっきからずっと」
「な、何で声かけてくれなかったの?」
「だって小傘が ▶︎はい か ▶︎いいえ で答えてくれないから…」
「それまだ続いてたの!?」
「……はぁ、兎も角、聞かれたからには仕方ないな。小傘、お前も中に入れ。一緒に説明する」
「う、うん」
「げ、幻想郷と吸血鬼が戦争!?しかも今夜!?」
「驚いた?」
「驚くよ!」
「まぁ、そんなわけで里に結界を張る必要があったから、こうして管理者側から届けてもらう必要があったんだ」
「ええ!?ということは、橙ちゃんってもしかして凄くお偉いさんなの…!?」
「え、そ、そういうわけじゃ…」
「そう、橙様はこの幻想郷から我らを護るために遣わされた使者なのだ!崇めよー讃えよー」
「「ははーっ」」
「ええ!?ちょっとレミリアさん!?小傘さんと守護者さまも頭を下げないでください!」
「いやすまん、つい…」
「というか慧音先生って結界とか貼れたんですね」
「ああ、これでも里の守護者なんて呼ばれているからな。術も多少は扱えるさ」
「意外すぎる。てっきり頭突きで敵を撃退するものだと…」
スッ…
「ナンデモアリマセン…」
そんなやりとりをしてる時、ガラリと玄関の引き戸が開かれた。
「お邪魔します。慧音さん、いらっしゃいますか?」
「ああ、こっちだ阿求。そうか、もうそんな時間か」
中に入ってきたのは、阿求だ。
今日は里の警備の話をするために、慧音に呼ばれてきたのだ。
阿求はそのまま履物を脱ぎ、居間へ入ってくる。
「あ、皆さん。それに橙さんも」
「にゃっ!丁度よかったです!実は皆さんに聞きたいことがあるんです!」
「ああ、すまない そうだったな。言ってくれ」
「えっと、実は二日前の夜にこの人里の近くですごい魔力が観測されたみたいなんです。それで、守護者さまや、阿求どのなら何か知っているかな、と」
(ぎくりっ)
「二日前の夜…といえば、丁度レミリアと小傘が吸血鬼に襲われた時だな」
「え、人里に吸血鬼が現れたんですか!?」
「正確には人里の周辺でですね。丁度里の外にいたお二人が襲われたんです。それにしても凄い魔力ですか…。慧音さん、それらしいものは感じましたか?」
「…一応、強力な力自体は感じはした。が、それは恐らく例の吸血鬼のものだろう。橙、その魔力はその後どうなったんだ?」
「えっと、数分後には消えたと…」
「ふむ、私が感じていた魔力も小傘を保護してから間もなく消えた。多分、その吸血鬼のものだと思うのだが…レミリア、お前はどう思う?」
「んえっ!?わ、私?え、えーっと、あの時はがむしゃらに逃げてたからちょっと分からないかな〜。でも吸血鬼はそいつ一匹しか見てないし多分そうなんじゃないかな!ね、小傘!」
「うん、吸血鬼は1人しかいなかった」
「藍さまから聞いた話だと、異常な力を持ってたって聞いたんですが、やっぱりその吸血鬼の魔力なんでしょうか」
「そうだろうな、仮に他にいたとしても私たちはその吸血鬼しか分からない。…すまないな力になれなくて」
「いえいえ、とんでもないです!ありがとうございますお話を聞いていただいて」
そう言って橙はその場でお辞儀をする。
「やはり橙さんは良い子ですね。…誰かさんにも見習って欲しいのですが」
「ん?」
「お前のことだ、レミリア。毎度毎度問題ばかり起こして…」
「おっとぉ!?流石の私もこの流れで責められるとは思わなかったぜ!」
「わちきと会うたびに茄子とか言ってくるし」
「私と会えばやれ脳筋だの、頭突きファロサウルスだの」
「あっきゅん呼びは直してくれませんし…」
「「「はぁ…」」」
「苦労してるんですね…」
「ちょっとーー!?違うからね橙ちゃん!これは捏造だぜ!本当は私たちいつも笑顔ほわほわ仲良しーだからね!」
「そ、そうなんですか?」
「待てーい!何存在しない記憶を植え付けようとしている!レミリア、どうやらお前には、私たちが普段お前にどれほど苦労させられているのかわからせる必要があるようだな!」
「暴力反対!」
「問答無用!何よりお前がいると話が進まん!小傘!阿求!」
「「はーい」」
「ちょ、やめて!一体何するの…って、あ、ちょっと!?こそばい!んふふっ、こしょこしょはずるい!あっ、ふふふっ、あ、あははははははっ!!?」
しこたま くすぐられたレミリアは精魂尽きて倒れ伏していた。荒い息をたて、身体を痙攣させながら、恨めしそうに3人を見ている。
「み、みんなヒドイ…」
「本当にこれからは真面目な話なんですから、少しは大人しくしておいてください」
「ふぎゅう…覚えてろ〜…ガクッ」
「……さて、橙。一つ聞きたいんだが、今回誰がどれくらいの規模で、戦争に参加するのか知っているだろうか」
「そう、ですね。藍さまから聞いたのですが、地底以外の幻想郷の殆どの有力者が戦争に参加するみたいです…。私が知ってるだけでも、伊吹童子に星熊童子、あと天魔様と、風見幽香…そして、ルーミアも」
「ルーミア!?あの常闇妖怪がか!」
「他の方々は里が近くにあると知れば、手心を加えてくれるかもしれませんが、あの妖怪は…」
「はい、ですので恐らく何もしなければ、人里への被害は避けられないかと…」
「…今宵は満月だ。私の力も増す日でもある。だがそれでも里を隠し切れるかどうか…」
上白沢慧音。
彼女はハクタクと言われる神獣のハーフであり、半妖だ。故にある程度の術は扱えるし、その力も人と比べて遥かに強力だ。しかし慧音は、人と共にあることを選び、常に己の持つ力で人々を守ってきた。
『歴史を隠す程度の能力』『歴史を創り出す程度の能力』
この二つを駆使し、里自体を無かったことにしたり、別のものに誤認させたりと、外敵から里を守ってきた。
だが今回の戦争の規模は過去最大になるだろう。更には人間のこともお構いなしに襲うような凶悪な妖怪までもが戦うのであれば、まさに戦場は地獄絵図となるに違いない。
そんな戦いの中、里を守り切れるかと言われれば、慧音は言葉を詰まらせてしまう。
「…どれだけ戦況が荒れてしまっても、外の被害を里に出させるわけにはいきません。考えましょう!レミリアさんもそう言ってました。私たちにできるのはそれだけです!」
「…そうだな。よし、もう一度結界の配置を見直そう。里の皆んなが安心して朝を迎えられるように」
「わ、わちきも一緒に考えるよ!」
「私も!」
「ああ、ありがとう…」
「……………」
ーーー
夕焼けの空。赤く染まった雲を見つめながら、小傘とレミリアは帰路へついていた。
「はぁー、今日は疲れたよー。色々知りすぎて頭がパンクしそう」
「お疲れ、小傘。中々話し込んでたね」
「うん、おかげで今夜は何とかなりそうだよ!…わちき自身は弱すぎて何もできないけど」
「そんなことないぞ、考える人手が1人でも増えるのは大きな前進だ。小傘のアイデアも採用されてたしな」
「き、聞いてたんだ…。照れるよ」
小傘は目の前に浮かんでいる夕日をじっと見る。瞳に夕日の茜色が映る。
「……この太陽が沈んだら戦争が起こるんだよね…」
「そうだね」
「…戦火は来ないで欲しいな」
「そう祈ろう。そのためにいっぱい考えたんだからさ」
「…それでも心配だよ。わちき、ここの人たちが大好きだから、誰も死なないで欲しいんだ」
「そうね、私も誰も死んでほしくはないな」
「うん、もし誰か死んじゃったら…、それが知ってる人だったら……それが…レミリアだったら。そう考えると…」
「……」
「わちきが、わちきがもっと強かったら……前に立って皆んなを守れるのに!」
あの時だってそうだ。
結局自分はあの吸血鬼に歯牙にも掛けられなかった。あの時、自分が戦えていれば、レミリアを守れていたかもしれない。
傘を持つ手が震える。
夕日に映された自分の影を見る。そこに無力だけが写されているような感じがして、そんな自分がどうしようもなく嫌だった。
「……こしょこしょこしょ!」
「わっひゃあ!?あははっ、ちょっと、やめっ、あひゃひゃひゃひゃ!」
「おらっ、さっきの仕返しだ!あの時はよくもやってくれたな!」
「や、やめっ……唐傘スマッシュ!!」
「うぼぁ!?」
レミリアは空中で錐揉み回転し、地面に激突する。
「はぁ、はぁ…あっ!ご、ごめんレミリア!大丈夫!?」
「…ふ、ふっはははは!ほら、強いじゃん。小傘は弱いことなんてない」
「で、でも…」
「この私が言うのだから間違いないさ!」
「いや、レミリアに言われても説得力皆無なんだけど…」
「ヒドイ!」
レミリアは小傘の手を掴んで立ち上がる。
「……弱くっても良いじゃん」
「え?」
「弱い奴は弱い奴なりにできることがあるんだよ。力がある奴が全てなんかじゃない」
「………」
「人間だって、考えて考えて、考え抜いて、自分達よりずっと強い妖怪に勝ってきた歴史だってあるんだ。小傘が弱いからと言って何もできないわけじゃない」
「そう、かな?」
「そうだよ!それに、弱いってことは、これからぐんぐん強くなれるってことじゃん!今は何もできなくても将来すっごい強い妖怪になれば、皆んなを守れるでしょ?」
「…わちき、レミリアのそういうポジティブに考えられるところ結構好きだよ」
「そう?もっと好きになって良いのよ〜?」
「調子乗るからヤダ」
「しょぼん」
「……あははっ、うん!ありがとう。おかげで元気出てきたよ!」
「そりゃ良かった。んじゃ、私家こっちだからここでお別れだね」
「うん、また明日!レミリア!」
「…そうね、また明日!」
ーーー
「待って」
「あ、咲夜!バイト終わったの?珍しいね、いつもなら仕込みしてきて帰ってくるのに」
「レミリア」
「 あっ、もしかして てんちょーに頼まれて無断で抜け出してきた私を連れ戻しにきたのか!?嫌だい!もうお仕置きは勘弁!」
「聞いて」
「いやー!もう亀甲縛りはいやー!あんな霰もない姿を店の前で晒すのはもう嫌なんだい!おのれー!だがやってやるぞー!頑張れ私!スイーツがこの世に存在し続ける限り、私が挫けることは、絶対に無い!」
「話を聞いて!」
「え…何?」
「…どこ、行くの?」
「どこって…家に帰るんだけど」
「嘘」
「嘘じゃ」
「そっち、家の方角じゃない」
「…ちょっと寄り道しようとしただけじゃん。つまみ食いぐらいでケチケチしちゃって〜」
「……………」
「……………何?」
「……………」
「……はぁー、何で気づくのよ」
「レミリア、小傘と帰ってる時から様子おかしかった」
「え、あれ見てたの!?凄く恥ずかしいのですが…」
「…本当に行くの?」
「うん、いっちょ暴れに行こうかなって」
「私も行く」
「だめ」
「ッ……なんで!」
「咲夜、貴女は人間よ。しかも子供。今の貴女に戦場は危険すぎるわ。今回は今まで見てきたものとは訳が違うのよ」
「嫌だ!私も行く!」
「駄目」
「嫌!行くの!!」
「咲夜、帰りなさい」
「嫌だ嫌だ嫌だ!!私もレミリアと一緒に戦う!!私だって戦える!私だって強い!!だから…!」
「二度言わせないで。 咲夜、帰りなさい」
「……ッ!」
空気が軋む。
息が苦しい、眩暈が、吐き気がする。
重心が崩れ、咲夜は地面に四肢をついてしまう。そのまま急激に力が抜けていく感覚に襲われ、地面につくばう。
そんな咲夜を無視して、レミリアは歩みを進める。
「い、いや…だぁ…!!」
「………」
「いかない…で!」
「……」
咲夜はレミリアに手を伸ばす。
動かない体を前に出して。少しでもレミリアとの距離を縮めようとする。
「…もう、わたし…を、置いてかないで!!」
「……はぁ、もう仕方ないわね」
空気が緩む。
レミリアは咲夜に近づき、その伸ばした手を掴んで体を起こしてやる。
「…うっ、ひっぐ、うっぐ」
「ほらほら泣かないの。咲夜は強いんでしょう?」
「……ずずっ………うん」
「ほら、一緒に行きましょう?何かあったら私が守ってあげるから」
「………私が守るの」
「えぇー、本当にそんなことできるのでごさるか〜?」
「守るったら守る!」
「あはははっ、分かってるわよー」
「…レミリア、結局どうやって戦争を止めるの?」
「うーん、別に私としては人里に被害が出なかったら戦争だろうが勝手にやってくれれば良いからね。かと言って、私が人里守ってたら多分バレるし…」
そんなことはないだろう。咲夜は内心そう思う。
夜の時のレミリアは普段とは、まるで別人だ。常日頃見せる人間らしさは形を潜め、妖怪のような冷徹さが顔を出す。言動は普段のレミリアに近いが、その中身がまるまる得体の知れないモノに変わってしまう。初見で普段の腑抜けたレミリアと夜の姿を同一人物と判断するのは難しい。
が、それはそれとして人里の人たちにレミリアが恐れられるのは嫌なので、咲夜はあえて口を噤んだ。
「だから今回の事件の主犯をぶん殴れば全部解決するかなーって」
「短絡的すぎる」
「でも一番効果はあると思うわ。そいつのボコボコにした顔面を晒し上げれば敵も戦意喪失間違いなし!意見はある?」
「……異議なし」
「じゃあ決まりね。早速その主犯とやらのところへ行くわ!まだ日が沈んでないから途中まで歩きだけど…」
「まって、私良いもの持ってる」
「?」
そう言って咲夜は懐を漁り、木の板のようなものを取り出した。表には術式らしきものが書かれている。
「これあの猫耳の子が使ってたの。遠くにワープできるみたい。だから一個盗ってきた」
「猫耳って、橙ちゃんのこと?」
「多分そう。あの子がこれ使ったら、藍さまの元に戻れるって言ってた」
「あ、そっか、橙ちゃんは管理者側だからそれを使えば戦場までひとっ飛びってわけか!」
「うん、確かこの板を割れば使えたはず」
「よーし、じゃあ私に任せときなさーい!咲夜、一応つかまっといて」
「うん」
「いくわよー、せーの…」
「まっ、待って!!」
「「え?」」
バキンッ
●●●
「ただいま戻りました、藍さま」
「お帰り、橙。何か分かったことはあるか?」
「すみません、あまり有力なことは…。ただ、丁度魔力が観測された日に人里の近くに吸血鬼が現れてたみたいで、多分それが原因じゃないかって守護者さまは言ってました」
「……ふむ」
解せないところはあるが、守護者がそう言っているのならばこちらがこれ以上首を突っ込むことはできない。
直に戦も始まる。今はそちらに集中するべきだ。
「そうだ橙、ちゃんと転送板は使えたか?」
「はい!藍さまの言いつけもちゃんと守りました!」
「そうか、良い子だな。転送板は1人で使わないと、術式が壊れて、あらぬ場所に転送されてしまう。こうして帰ってこれているからには問題なかったようだが、次からも扱いには気をつけるんだよ」
「はい!」
「…さて、そろそろ時間だ。橙も所定の場所に行きなさい」
「はい、わかりました藍さま!」
そう言って橙は、部屋を出てその場を後にする。
「……あれっ!?予備の転送板が無い?もしかして、どこかで落としちゃった!?」
●●●
「……ぅん」
頭痛と共に咲夜は目を覚ます。
気怠さと共に起き上がり、辺りを見回すとそこは薄暗い森の中だった。聞いた事のない生き物の鳴き声や囀りが響き渡っている。
「……転送…できた?」
しかし周囲には森が広がるだけで、吸血鬼はおろか妖怪の影も形もない。
「……誰もいない」
「うぅ〜ん…」
「!」
突如聞こえた声に咲夜はその場から距離を取り、携帯しているナイフに手をかける。
「…あ、あれ?わちき…」
「……小傘…なんで…」
「あっ、さ、咲夜!」
「…なんでついてきたの?」
「だ、だって、2人が戦いに行くって聞いて…それで……」
「……はぁ、もう良い」
来てしまったからには仕方ない。
こうなった以上、見て見ぬふりはできなかった。
「…そういえば、レミリアは?いないみたいだけど」
「…え?」
咲夜は慌てて周囲を確認する。
草むらや、木の上、地面など、近くで探せる限りのところは探したが、そのどこにもレミリアは見当たらない。
「どこ…?レミリア! どこ!?」
ーーー
「あいったたたた…頭打ったぁ…」
頭部を強打したことで目を覚ましたレミリアは辺りを確認する。
「……なにここ…お城?」
視界に映るは、赤、赤、赤。
そこは、壁、床、装飾品に至るまで全て赤一色に統一されている、通路のような場所だった。なんとも目に悪い場所である。
だがその周囲の様子から何らかの館か、城のようなものだということが分かる。
「うわぁ、趣味悪ぅ…ここの主人様どんな神経してこんな館作ったのよ。…おーい、咲夜ー!どこー?」
レミリアの声は反響した音が響くだけで、それ以外は返事どころか、物音すら一切聞こえない。
知り合いはおらず、全く知らない場所にいることに加え、右か左、どちらに行けば良いのかすら分からない。
レミリアは一つの結論に辿り着く。
「……うん、これは迷子案件ね」
窓から差し込む陽光が、完全に消え去った。
レミリアたん:迷子
咲夜:迷子
小傘:迷子
橙:コロンビア╰( ̄^ ̄)╯
みんなも物を使う時はしっかり説明を聞いてから使おうね!