めっちゃ強いレミリアたんになった転生者が自分を捨てたお父様をぶん殴る話   作:わらしべいべー

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 アンパンマーン!新しい続きよ!それっ!

 あ、紅魔郷20周年おめです。


【前回のあらすじ】
・お前を殺す(デデン!)
・わからされた
・身勝手パンチ炸裂!!




蓮根男の幼き末裔

 

 

 

 

 

 

 今から600年程前、ルーン帝国という吸血鬼が作り上げた巨大な国があった。

 

 吸血鬼が統治し、吸血鬼が主力となった武力国家。当然人間が吸血鬼に敵うはずもなく、ルーン帝国は瞬く間にその勢力を拡大させていった。次々と支配下に置かれていく世界の国々。そして遂には当時大国と呼ばれるほどの国までもがルーン帝国に取り込まれ、誰もがいずれあの国の吸血鬼の奴隷にされると、そう思った。

 

 しかし、ルーン帝国は敵対国が雇ったヴァンパイアハンターたちによって壊滅に追い込まれることになる。

 油断は無かった。吸血鬼にとってヴァンパイアハンターは脅威足りうる。それが大国直々に雇われた者たちならば尚更だ。だからこそ吸血鬼たちは万全を期して迎え撃った。しかし結果はまさかの惨敗。一軍隊ほどの数しか誇らぬ人間は、数百万以上の吸血鬼の軍勢を壊滅させたのだ。

 

 これによりルーン帝国は実質的に崩壊し、以降吸血鬼一族は衰退の一途を辿ることになる。生き残った吸血鬼もたったの数百人と、国を持っていた頃と比べれば見る影もない。これでは直ぐに再興とはいかなかった。

 当時、ルーン帝国の政権を持った王族だったアゼラル・スカーレットはこの現状を酷く嘆いた。

 

 

「何故だ…!何故なのだ!!何故我等吸血鬼の軍勢があんなちっぽけな人間に敗れるのだ!!おのれ、あの忌々しい人間どもが…!」

 

「まだだ、まだ終わっていない!…もっとだ、もっと力が必要だ…!時間も要る…!何年かかろうと、私は必ず国を再建させてやる!」

 

 

「そして、いずれ必ず【永遠の夜】にたどり着いてみせる!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 ──鉄拳炸裂の数分前。

 

 

 

「パチュリー様ー、賢者の石、安定しましたよー」

 

「そう。…はぁ、まったく吸血鬼たちは遠慮というものを知らないわね。ここまで石の魔力を使われたのは初めてよ」

 

 パチュリー・ノーレッジ。此度の戦争では吸血鬼側として参加している魔法使いだ。

 基本的に館にある図書館で魔法の研究をしている彼女。それ故に扱える魔術は数多く、彼女が0から作った魔法は優に百を超える。

 今目の前にある無数の巨大な結晶体、賢者の石もそのうちの一つだ。対象にほぼ永久に魔力を送り続けることのできる究極の魔術。古くから伝わる吸血鬼の伝承を元に魔術師パチュリーが作り出したものである。

 しかし1つだけならともかく、戦争に参加している自軍全員に送る程の数を維持するには、それなりの人手が必要だった。だからこうして戦場からは遠く離れた森の奥で、大人数の魔法使いと共に石の維持に勤しんでいるわけなのだが…

 

「殆どの幹部もやられちゃったみたいですし、もう吸血鬼どもはこの賢者の石だけが頼りみたいですね。うふふ、ざまぁない」

 

「…御当主様とフラン様は問題なさそうだけれど、他の軍はほぼ壊滅。私が仕込んでおいた蘇生の魔術が無かったらあの爆発の時点で勝敗はついてたわね」

 

 寧ろそのまま負けた方が楽だったが。という言葉をパチュリーは飲み込む。

 

「ところで周りに敵は来てないでしょうね。ここがバレたら終わりよ。主に私たちの身が」

 

「心配性ですねーパチュリー様は。ご自身で強力な隠匿の魔法を使ったではありませんか。周囲には私特製の魔獣だって放っているんです。…まさか吸血鬼への下剋上のために作っておいた魔獣ちゃんたちをこんなところで使うなんて思いませんでしたけれど」

 

「御当主様が寄越した眷属だけじゃ少し数が足りなかったのよ。我慢なさい。とにかく、魔獣との定期連絡は欠かさないでね」

 

「わかりましたっと……はろーしもしも、こちら小悪魔です。応答しなさい」

 

 ……………

 

「…あれ?」

 

「どうかしたの」

 

「いえ、魔獣ちゃんとの連絡が──」

 

 その時、小悪魔の背後にある木々が派手な音を立てて吹き飛んだ。

 そのまま落下した大木は石を管理していた幾人かの魔法使いを潰れた声と共に下敷きにする。

 

「こあ!」

 

「分かってますよっ」

 

 そう言われた小悪魔は足元に複数の魔法陣を展開する。するとそこから、足の頭に人間の体をした5メートルはあろう巨大な怪物がわらわらと出てきた。魔獣たちは一目散に敵と思しき影へ飛びかかる。

 

 彼女、小悪魔はその名前の通り、種族を悪魔としている。

 彼女は悪魔の中でも力の弱い部類ではあるが、召喚の魔法や魔獣を調教することに関してはかなり有能である。

 今呼び出した個体たちは、彼女が特に手塩にかけて作り、育て上げた魔獣。力だけで言えば一匹一匹が上位の吸血鬼と何ら変わらない実力を持つ。

 

「嘘でしょー…」

 

 そんな魔獣たちが、右手に掲げられた傘一本に一瞬で蹴散らされればそんな反応にもなる。辺りに魔獣たちの肉片が落ちる。

 

「…終わりかしら」

 

 その場を荒らした犯人は血のシャワーを浴び、冷たい視線でそう言い放つ。

 

「…ッ 風見幽香…!よりにもよって一番厄介なのが来たわね…!」

 

「あ"あ"〜!10年かけて作った私の可愛い魔獣ちゃんたちが〜!」

 

「嘆いてる暇があるなら、目の前の敵に集中しなさい!次は私たちがああなる運命になるかもしれないわよ」

 

 周囲の魔術師は突然の襲撃に慌てながらも、石の維持はしっかりと行なっている。それを確認するとパチュリーは幾つかの賢者の石を自身の周囲に集め、供給リンクを自身に変更する。

 すると、パチュリーの全身に満ち溢れるほどの魔力が迸る。

 

「…一応この周辺には結構な数の魔獣がいたはずなのだけれど」

 

「魔獣…ああ、彼らなら、今頃お花のお友達になっているわ」

 

 …つまり風見幽香の花の養分にされたと。

 あの魔獣軍団の中にはアゼラルが寄越した眷属もいたのだが、周囲から全く魔力を感じられないことから多分諸共やられたのだろう。勘弁してほしい。

 

「私も手荒な真似はしたくないわ。何もせずに大人しくここから立ち去ってほしいのだけれど」

 

「それは無理ね。私はその石ころに用があるもの」

 

 ま、でしょうね。内心そううそぶく。

 

「…仕方ないわね。ならこの世から立ち去ってもらうわ!」

 

 風見幽香は幻想郷の管理者に匹敵するほどの力を持つ化け物。まともにやり合えば、パチュリーに万に一つも勝ち目はない。

 だが、今のパチュリーは複数の賢者の石のバックアップに加え、魔力の放出範囲の底上げも行なっている。これによりパチュリーは通常の約10倍の火力の魔法を放つことができる。

 

 パチュリーの手元にある魔道書が不自然にページを刻んでいく。前方に魔力が収束し、強烈な熱を帯びる。

 

「ロイヤルフレア!」

 

 樹木が溶けるとはどの威力と熱を誇るその魔法は、幽香の逃げ道を無くすように無数に放たれる。あえて当てようとせずに、幽香の逃げ道を塞いだ。

 

「…!」

 

「焼けなさい」

 

 瞬間、幽香の足元に現れる巨大な魔法陣。そこから放たれる火柱が風見幽香を飲み込んだ。

 賢者の石によって限界まで引き上げられた魔力上限と、莫大な魔力から放たれる自身の今出せる最大火力。上位の吸血鬼も殲滅できるほどの威力を持つ魔法の残響は先の見えないほどにまで空高く燃え上がっていく。

 この魔法は普段ならば燃費が悪くあまり使わない。しかし今ならばその火力を文字通り無限に維持しながらそれを放てる必殺なのだが…

 

「…ッ 冗談きついわ…!」

 

 あろうことか、目の前のモンスターは悠々と炎の柱を歩き抜けてきた。その身体には傷はおろか、衣服に焦げ跡すらついていない。それはつまり、そもそも魔法が当たっていないということを示していた。

 

(無詠唱とはいえ、あの威力の魔法を魔力の圧だけで抑え込むなんて、なんて出鱈目な…!)

 

 恐らく隠匿の魔法もこれで壊されたのだろう。

 幽香は傘の一振りで炎もろとも魔法陣を破壊し、そのままの勢いで傘での殴打を繰り出す。

 

「グッ…!!」

 

 咄嗟に防壁で攻撃を防ぐ。しかしその光の紋章で形どられた防壁からは絶えずガラスが割れるような音が鳴り響いている。これはパチュリーの防壁が壊れている音。辞書ほどの厚さの防壁はまるでプレス機に押しつぶされるようにメキメキとひしゃげていく。しかし負けじと壊れた先から新しく貼り直して、ギリギリ拮抗状態を作っている。しかしそれも時間の問題だ。

 

(一応フラン様の攻撃も防ぐのだけれどね…!まったく幻想郷には脳筋しかいないのかしら!)

 

 殴打が直撃する前に転移の魔法ですぐ後ろにまで移動する。

 一瞬たりとも気を抜けば即座に己が身はスクラップミンチだ。そんな極限の緊迫感に慣れていないパチュリーは肩で息をする。

 幽香は冷たい目でパチュリーを見ている。

 

「……大丈夫かしら。息が荒いようだけれど」

 

「…こっちは万年運動不足なのよ。おかげで今身体中が痛いわ」

 

「そう、だったら治してあげるわ。ほら、こっちに来なさい」

 

「結構よ、みすみす殺されにいく気は無いわ」

 

「………」

 

 パチュリーは再び本を構え、魔法での攻撃に備える。──その時、バキリと何かが砕けるような音が耳に響く。

 

「…! ちょっと、何で壊されてるのよ…!」

 

 パチュリーと賢者の石は微弱な魔力路で繋がっている。石に何かあればすぐに気づくのだ。つまるところ、賢者の石の一つが破壊されたのだ。

 

(まさか他にも仲間がいる?だとすれば不味いわ、今すぐにでも防壁を張らないと…!)

 

「すみませんパチュリー様ぁ!賢者の石がー!」

 

「分かってるわ!早く迎撃に行きなさい!」

 

「そ、それが…」

 

 そう言い小悪魔は視線を戻す。目の前には混乱に陥っている他の魔術師たち。ふと視界の外にあった賢者の石が唐突に砕け散る。

 これだ。さっきから誰もいないのに石がひとりでに破損していくという現象が発生している。否、正確には石を破壊している誰かはいるのだろう。しかしその存在の姿も気配も全く感じられないのだ。

 

「ぐぐぐ…!どこの誰だか知りませんが、あまり私を舐めないでほしいですね!」

 

 こうして隠れて攻撃しているということは、即ちそこまで相手の実力自体は高く無いだろう。賢者の石はその力の割に結構脆い、人間でも簡単に壊せる。だからこそ敢えて弱い妖怪に破壊させているのかもしれない。

 そう思い至った小悪魔は掌ほどの小型の使い魔を無数に出し、混乱の渦に解き放った。まるで虫のようにそこら中を駆け回る蜘蛛のような使い魔は、石の周辺をくまなく探し、内1匹が何かを捕らえた。

 

「うわっ!?」

 

「そこですかっ」

 

 目をやるとそこには、足に引っ付いた使い魔を剥がそうと慌てる小傘がいた。

 

「小傘さん!?」

 

「わ、わちきは大丈夫だから早く残りを…うぐっ!?」

 

「だーめですよ、まったくとんだおいたをしてくれましたね。後の1人もちゃんと始末してあげるので待っててくださいねー」

 

「ぐぐ…お、重い…!」

 

「重いってなんですか!可憐な乙女になんて失礼な!まったく、本当はじっくり拷問して殺したいところですが、後が控えているので一思いに首を刈ってあげます」

 

「こっ、小傘さん!」

 

 

「いきますよー、せーの…」

 

「ゆ、幽香!!」

 

 

 

 

「───ええ」

 

「!!!?」

 

 幽香がそう呟くと同時に突然地面が割れ、巨大な緑の植物が生えてきた。一瞬にして辺りは生えてきた植物に囲まれ、閉じ込められる。

 更には巨大な動物とも見紛うほどの茎に、食虫植物のような花弁に大口持った怪物。それが何匹も地面から現れ、周囲にいた魔術師ごと賢者の石を手当たり次第に破壊し始めた。

 地盤が崩れた影響で小傘は小悪魔の拘束から脱することに成功する。

 

「うわわわわぁ〜!!賢者の石が〜!」

 

「…ッ 風見幽香。貴女、最初からこれが狙いだったわね…!」

 

「フフ…」

 

 小傘と橙は姿をくらませながら石を壊す、というのはフェイク。実際はこの植物の種を石の周囲にばら撒いていたのだ。それを幽香の魔力で一気に成長させ、石を破壊する。先に展開した蔦の檻によって逃げ場も無い。パチュリーたちはまんまと罠にハマってしまったというわけだ。

 

「くっ…!」

 

 パチュリーは急いで荒狂う動植物に魔法を放つ。しかし、動植物は魔法が直撃したにもかかわらずまるで効いた様子がない。

 

「仮にも風見幽香が育て上げた植物ってワケね。参るわ…」

 

 

「もうどうなってるんですかこの植物は!私の使い魔ちゃんも全然歯が立たないし!周りに檻みたいなのがあって避難もできないし!」

 

「小傘ちゃん、今のうちに!」

 

「うん!」

 

「あっ!ちょっと待ちなさい!お前らは逃がさないわよ!!」

 

 

 …あの様子じゃこあじゃ無理そうね。ここにいる魔術師たちもお世辞にも戦闘が得意とはいえない。これじゃ、あの植物を退けるのは難しそうね。

 

「…仕方ないわね。…こあ!」

 

「はい!?なんですか!?今忙しいのですが!!」

 

「アレを使うわ!人員の避難を!」

 

「…はっ?嘘ですよね!?こんなところで!!?」

 

「文句言わないの!早く!」

 

「〜〜ッ、あーもう!わかりましたよ!」

 

 そう言って小悪魔は使い魔を展開して、他の魔術師を救助し始めた。すんなりと行えてるあたり、どうやらあの植物は基本的に賢者の石しか狙っていないらしい。

 なら好都合だ。そう考えてパチュリーは幽香に向き直る。

 

「他に何か見せてくれるのかしら?」

 

「ええ、とっておきよ」

 

 パチュリーは今回の戦争における自身の切り札を切ることに決めた。周りの被害が甚大ではないため正直こんなところでは使いたくは無い。しかしこの状況、そんなことも言っていられない。

 パチュリーは本を地面に置き、複雑な模様が描かれた青の魔法陣を展開する。そして魔法陣の周りに小さな魔法陣が囲うように描かれてゆく。その魔法陣に集っていく魔力は先程の魔法の比ではない。幽香はそれを見て思わず目を細める。

 

 今パチュリーが使おうとしているのは、恒星掌握型創生魔法、通称【天体魔法】。その属性魔法を極めた者だけが扱うことができる魔法であり、エレメンタルの到達点。あらゆる魔法の知識を網羅したパチュリーが知る中で最も破壊力がある魔法でもある。なにせ星そのものを魔法で再現、実体化させるのだ。これを放てば少なくともこの森は跡形もなく吹っ飛ぶだろう。

 

 本来ならば数分間の詠唱が必要なのだが、今回戦争が始まる前に予め詠唱を終わらせており、いつでも打てる状態にしている。しかし、それでも発動には莫大な魔力が必要だ。石の供給量に体が追いつかず、目や鼻から血が噴き出る。だがそれでもお構いなく、パチュリーは魔力を集中させる。

 それに伴って辺りに尋常では無い冷気が充満し、木々が空気が凍っていく。

 

「…ッ 二人とも!今すぐここから離れなさい!!」

 

「もう遅いわ」

 

 魔法陣の前にある球体が幽香に放たれる。

 

「───火星(Mars)

 

 幽香も咄嗟に紺色の魔法陣を展開する。そしてマイナスの世界などとうに通過した球体は、弾けるように勢いよく爆ぜる

 

 

 

「「え」」

 

 

 ───前に巨大な暴風の塊が森ごと幽香とパチュリーを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 森の中、普段ならば陰鬱とした瘴気が立ち込み、紫緑が溢れるこの森は、今や見る影も無くなっていた。

 倒れた木々の下からマゼンタ色の頭が這い出てくる。

 

「いたた…、ぱ、パチュリー様ー生きてますかー?」

 

「……ギリギリね。念のために貼っておいた障壁が無かったら即死だったわ」

 

「流石悪運が強いことで定評があるご主人ですね。…この後どうします?」

 

「…どうするも何も、賢者の石は全部壊されたし、吸血鬼もほぼ全滅よ。私1人で動いたところでどうにもなるわけでもないし……寝るわ」

 

「パチュリー様がそう言うなら私も寝ますー」

 

 ごろんと、地面に寝転がる2人。

 今日はいつにも増して美しい星空だ。不思議と引き込まれるような魅力のようなものを感じる。

 

「…しかし何だったんでしょうねさっきの」

 

「わかんないわ、というかわかりたくないわ。なんもわかんない、あーもういや」

 

「パチュリー様がおかしくなってしまわれた。おいたわしや…」

 

 確かにあんな理不尽が起こればこうなるのも無理はない。賢者の石だけでなく、折角の天体魔法までも跡形もなく吹き飛ばされてしまった。かく言う彼女も最早自軍のために動く気などさらさら無く、もう適当に不貞腐れていたい気分だった。

 一つため息を落とすと、空に視線を戻す。

 

「………パチュリー様、何だか空 歪んでないですか?」

 

「そんなわけないでしょう。気のせいよ」

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「はぁーっ、あ、危なかった…」

 

「大丈夫?小傘さん」

 

「うん、何とか…。って、幽香!怪我してるよ!大丈夫!?」

 

「問題ないわ、かすり傷よ」

 

 そう言う幽香の体には細やかな切り傷が幾つもあったが、当の本人は特別疲弊している様子はない。どうやら本当に問題はないようだ。

 

「それにしても、ここどこなんだろう。賢者の石はどうなったのかな…?」

 

「…あの石なら全部砕けたわ。あの最後の風の塊にね」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 ということは吸血鬼側の無限魔力供給は完全に停止したと言うことになる。思わぬトラブルもあったが、破壊作戦は成功したと言って良いだろう。

 

「ありがとう幽香!すごく助かったよ!」

 

「………必要ないわ。礼なんて。だって私と小傘は、その…友達なんでしょ?」

 

「うん!」

 

「…………」

 

 

 風見幽香。ここ幻想郷において、人妖問わずその名を知らないものはいない。幻想郷でも一二を争うほどの力を持ち、自身のテリトリーに入った者は彼女が育てている花の養分にされるという話は有名だ。あまりにも凶悪、そしてあまりにも残忍。幻想郷最強にして最凶の妖怪、それが風見幽香。

 

 

(と、ともだちっ!またともだちって言ってくれたわ!やった!)

 

 

 …そしてこれが最強にして最凶の妖怪の真の姿である。

 

 実は風見幽香は、力こそ強いがその正体は非常に臆病かつ人見知りなただの気の弱い妖怪だった。

 

 喧嘩は大の苦手だし、血だって見るだけでフリーズしてしまう。可能なら人里に溶け込んでまったりと暮らしたい。そんな妖怪の中では珍しい人間寄りな考えを持つ妖怪なのだ。

 なので今回幽香は相当頑張ってパチュリーたちに戦いを挑んだ。心に悲鳴をあげながら。それもこれも全ては自分なんかを友達と言ってくれた小傘のためである。

 それでも天体魔法を目にした時は本気でビビり散らかしていたし、最後の風の塊がぶつかる瞬間には己の生を放棄した。戦闘中もいつ自分の内面の弱さが露呈するか気が気でなかった。実はあの戦禍の中で一番ピンチだったのは幽香だったりするのだ。

 ちなみに彼女が暴れたと噂になっている出来事の9割は正当防衛であり、例えるなら虫が寄ってきたから怖がって腕を振って追い払った、みたいなものである。それで山が崩れたりするのだからその力だけは本物なのだが。

 

 

「それにしても凄かったよ幽香!あんな強そうな相手に堂々と立ち向かっていくし」

 

 そんなわけなし。この妖怪、内心ガクブルだった。

 

「あの火の攻撃を受けても全然効いてなくて、涼しい顔だったし」

 

 それは外面だけ。火柱の中にいたとき心の中で絶叫していた。

 

「更には相手に気遣う煽りも入れる圧倒的余裕!」

 

 否である。この妖怪、真面目に心配していただけで、あわよくば戦いやめられるかなーとか思ってただけである。

 

「それに比べてわちき、自分の弱さに泣いちゃいそうだよ…」

 

 風見幽香は自分の情けなさに泣きそうである。

 

「そ、そんな事ないわ。それに私の植物を撒いて石を壊す作戦は小傘が考えたじゃない。あの策があったから石を壊すのに成功したのよ」

 

「…うん、そうだね。ありがとう幽香」

 

「べ、別に……別に良いのよ」

 

「えへへ」

 

 小傘の反応を見て内心ホッとする。どうやらこの対応は間違ってなかったようだ。

 

(…やっぱりこの癖全然抜けないわ…)

 

 相応の力を持つ者には、相応の態度と威厳が必要だ。そんな幼い頃からの教えが未だ抜けきらない幽香は今まで数々の誤解や曲解を受け、肩身が狭い思いをしてきた。

 

 幽香は産まれつき持った強大な力のせいで周りの妖怪からあれやこれやと敬われ、自分の知らぬ間に高い身分となり、周囲から畏怖の感情を向けられながら幼少期を過ごしてきた。だが、その強大な力に反して人間のような精神を持つ幽香はそんな毎日に耐えられず産まれた世界を飛び出し、この幻想郷に来たのだ。

 なので幽香に産まれてこの方対等な友人などできたことがない。故に対応に困るのも仕方なしと言える。

 

 

「え、えっと…、私からもお礼を言わせてください。風見幽香様、手伝っていただいてありがとうございますっ」

 

「…別に、ただの気まぐれよ」

 

「それでも、私たちだけじゃ石を全部壊すことはきっと出来なかったですし、おかげできっと戦況も良くなったと思います!」

 

「そうだよ、幽香のおかげで何とかできたんだからさ!もっと堂々としてても誰も文句言わないよ」

 

「………そ、そうかしら」

 

 幽香はこの橙に苦手意識を感じている。いや、正確には八雲が苦手なのだ。特に八雲紫。最近こそ割と穏やかに接してくるが、以前までは式神の狐含めて事あるごとに殺気的なものを飛ばされていた。事情が事情なだけに仕方なかったのだが、それでも幽香は生きた心地がしなかった。なので八雲の系譜は基本的に苦手なのだ。

 

(や、やっばり私の監視なのかしら…?)

 

 

 

 

(あの風見幽香とあんなに親しげに…、やっぱり小傘さんって凄いなぁ…)

 

 今回の破壊作戦は、この風見幽香の力無くしては不可能だっただろう。なにせその場にいた戦力の大半を請け負っていたのだから。それでも尚、力で圧倒していたのだ。橙は改めて風見幽香の強大さを認識する。もしかすれば、拳一発で概念の塊である博麗大結界を破壊したという話も本当なのかもしれない。

 そしてそれを御する小傘にも畏敬の念が向けられる。自分では間違いなくあのまま逃げていた。そうなれば石の破壊どころか、自分は他の魔獣に殺されていたことだろう。しかも幽香の力を聞いて即座に作戦も思いついた思考力。本当に凄いと橙は思った。

 それだけに己の力不足を痛感した。今回は殆ど二人に頼りきりで任務を達成したようなもの。これではいつまでたっても八雲の名は貰えない。そう思い橙は歯噛みする。

 

 

「そういえば凄かったよ最後の攻撃!こう、森がドカーンってなって、みんな吹き飛ばしてさ」

 

「…違うわ」

 

「え?」

 

「あれは私じゃ無い」

 

「…じ、じゃあ一体誰が…?」

 

「……判らない。だけどあれは魔法だったわ」

 

 風に飲まれる最中、ビビり散らかしながらもそれだけは幽香にも理解できた。

 つまり、あれは誰かが放った攻撃だったということだ。それが味方なのか、敵なのか、それはわからない。だが一つ判ることは、あの魔法を放った存在はとんでもない実力者だということだ。

 それを聞いて小傘と橙の背筋は凍る。浮かれていたせいで失せていた不安が一気に押し戻ってくる。

 

「…と、とにかく一旦ここから逃げよう。またさっきの攻撃が来たら危ないし、それに咲夜も心配だし」

 

「うん、そうだね。賢者の石も壊せたけど、紫さまと藍さまが心配だし…」

 

 

「…!!」

 

「え」

「わぁ!?」

 

 小傘と橙は突然に幽香に襟を引っ張られる。次の瞬間、二人がいた場所はまるで吹き飛ぶように轟音を立てて、抉れた。

 

「な、何何!?」

「ぶにゃぁ!?」

 

「…」

 

 何とか二人を抱えて空中に避難した幽香は地上の惨状を目に映す。先程とは違うが、これもおそらくどこかの戦闘の余波だろう。

 こんな流れ弾がそこら中ポンポンと飛んでくるのならば、最早幻想郷に安全な場所など無いのかもしれない。そう思い、幽香はちょっと涙目になった。

 

 

(……こんなことなら八雲さんの話になんて乗るんじゃなかった)

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「はい、これで大丈夫ですよ奥様」

 

「ええ、ありがとう。美鈴」

 

「いえいえ、いくら門番と言ってもこれくらいならば。それにしても良かったです、お二人とも大事無くて」

 

 この門番、名を紅 美鈴。種族も出生も不明な自称妖怪である。そんな彼女は妖怪の中では比較的温厚な性格の持ち主だ。誰にも優しく接し、かと言って自分の立場をわきまえていないわけでもない。その性質はどちらかと言うと人間に近いものがある珍しい妖怪だ。

 

「それにしても信じられませんね。御当主様がルシェル様を…」

 

「…仕方ないわ、元々吸血鬼は血統主義と実力主義に重きを置いている。力も無くて、能力を渡し終わった私が排除させられるのは自明の理よ」

 

「それでもですよ!いくら吸血鬼が主義主張を掲げてるからと言って、長年連れ添ったルシェル様を殺そうとするなんて許せません!」

 

 ふんす!と怒りをあらわにする美鈴。彼女は優しい。よく自分の話も聞いてくれたとても気の良い妖怪だ。だからこうして共感してくれるのだろう。そして彼女の怒りも最もだろう。アゼラルが行ったことは自身の人生のパートナーへの裏切り行為だ。だが、それでもルシェルはアゼラルを恨み切れなかった。

 

「そんなにあの人を悪く言わないであげて…。本当に、本当に私が悪いの…」

 

「ルシェル様……」

 

「………フランたちも心配だわ。怪我をしていないかしら…」

 

「大丈夫ですよ!フラン様はお強いのですから、無事に帰ってきますって!」

 

「そう…ね」

 

 ただ自分は待つことだけしかできない。その吸血鬼としての能力の低さゆえに、今まで何度もやるせない思いをしてきた。こういう時、ルシェルは自分が無力であることを呪うのだ。家族のために何もしてやれない奴など何が母親なのか。ルシェルは切にそう思う。

 

「──ッ!? ルシェル様ッ!」

 

「え?」

 

 轟音と共に地面が抉れる。まるで隕石でも降ってきたのではないかと言うほどの衝撃が辺りを襲い、その余波が辺りを破壊していく。揺れがおさまった頃に美鈴は顔を上げる。

 

「ゲホッゲホッ、だっ大丈夫ですか!ルシェル様!」

 

「え、ええ、何とか…」

 

 頭を上げて周囲を確認すると、先程まで館の部屋だった場所は見るも無残な瓦礫の山となっていて、崩落後から外の景色が見えていた。否、部屋だけではない。館の半分が衝撃によって崩落し、住居としての機能を失っていた。

 だがルシェルがそれ以上に目に留まったのは自身の周囲を包み込むように展開されている星空だった。

 

「これは…」

 

 うっすらと外の景色が見えるほどに薄いそれが、自分を守ってくれたと確信する。

 よく見れば美鈴とクルムの周りにもある。つまり二人も守ってくれたと言うこと。ルシェルはこの星空に見覚えがあった。これはもしかして…

 

 

「うわぁ…凄いことになってますね…」

 

 事態を把握するために美鈴は何とか形をとどめている館の頂上に登り、周囲を確認する。

 それを一言で言うなら、地獄だった。紅魔館の前方から後方にかけて、巨大な破壊痕が道のように出来上がっていた。おそらく前方からさっきの衝撃が来たのだろう。そして館を破壊して後方へ飛んでいった。

 

「…だと思うんだけど、一体何が飛んできたんだ?」

 

 殺意が乗ってる攻撃なら美鈴はもっと早く反応していた。つまり何者かの攻撃の余波?

 

「美鈴!」

 

「ルシェル様、ここは危ないですから早く戻って…」

 

 その時、美鈴の真上に何かが通過した。

 すぐに美鈴は視線を空に戻すが、突風と共に既にそれは通り過ぎていて…

 

 

「………レミリア?」

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「グボァァッ!?」

 

 止まらない、止まれない。己の体が未知の衝撃によって吹き飛ばされて早数十秒。周囲の景色が確認できないほどの速度で地面に擦り付けられ続けられていると言うのに、止まる気配が全くない。

 

 そして唐突に何かに激突し、ようやく己の体は止まった。ズタズタになった体を動かし周りを確認する。どうやらどこかの山の中腹のようだ。

 

 荒くなった息を整え、冷静に現状を分析していく。八雲紫を殺さんとした時に突然頬に衝撃が走り、そのまま吹き飛ばされた。…つまり、誰かに殴られた?八雲紫では無い。あの女ならばもっと急所を狙った一撃を見舞ってくるはず。つまり顔もわからぬ第三者が己を害したと言うこと。

 そう思い至ると、アゼラルの中に沸々怒りが湧き出てきた。どこの誰だか知らないが、今や全能に高い力を得た自分にこんな屈辱を与えられるなど、到底許せるものではなかった。

 

「許さんぞ…絶対に…!!」

 

 

「許さない…ねぇ」

 

「!!」

 

 その声は自身の上から聞こえてきた。顔を上げると、そこに星空を着飾った女がいた。高貴さを感じられるその佇まいは、その存在の超然さを醸し出している。

 

「それはこっちが言いたいのだけれどね」

 

 同時に明確な敵意と怒りもだが。

 チリチリ と、不思議な熱がアゼラルの肌を伝った。

 

「…貴様か、私にこのような無礼を働いたのは。見たところ…同族か?」

 

 こんな吸血鬼は己の軍には存在しなかった。自分の指揮外にいるものも含めてだ。アゼラルの中に疑問が湧く。

 

「なぜ同族がこの私に牙を剥く」

 

「ムカついたから」

 

「フン、実に愚かで短絡的だな。態々命を捨てにくるとは、同族とはいえ余程頭の出来が悪いと見える」

 

「……」

 

「私に狼藉を働く程だ、貴様もそれなりの力を持っているのだろう。しかし今の私には及びもつかない。そう、この破壊と運命の力を持つ私にはな!!」

 

 ピクリ と、レミリアが反応する。

 

「そんな私に歯向かう理由がムカついたから?フハハハ!!まさに愚の骨頂!」

 

「………ふぅーっ…」

 

「先ほどは油断したが、次は無い。吸血鬼の、否、の世界の頂点に立ち、かの永遠の夜となる我が力を───ブボァッ!!?」

 

 言葉の途中で、レミリアのストレートが顔面に入った。アゼラルは派手に上空へ吹っ飛び、血液を撒き散らす。

 

「ごちゃごちゃ話が長いのよ。お前はフランに手を出した。それで私はムカついたからお前を叩きのめす。それだけよ」

 

「グウゥ…!!」

 

「後ついでに戦争も止める」

 

 自分と同じ紅色の瞳がアゼラルを射抜く。

 

「きっ貴様ァ…!殺すッ!!」

 

 怒号と共に真っ赤な三叉槍が無数に飛んでくる。が、レミリアはそれを全て躱し、再び拳がアゼラルの顔面を捉える。

 

「ブッバァッ!!?」

 

「お前には言いたいことが山ほどある…けど、それ以上にぶん殴りたくて堪らないのよ。──このダメ親父が!」

 

 怒りが滲んだ言葉と共にレミリアはアゼラルの顔面に次々と拳を叩き込んでいく。そして最後に渾身の爪先蹴りをお見舞いした。そのまま山を砕きながら森へ吹っ飛ぶ。

 

「グウゥッ…!な、何故だ…!何故私がこんなカスに…!」

 

 アゼラルは焦る心を落ち着かせようとしながら、一先ず傷を治そうとする。

 

「…!? き、傷が治らん?馬鹿な!」

 

 吸血鬼は外の世界で死の王と形容されるほどの再生能力を持っている。明確な弱点を突かれない限りは半身や頭が吹き飛ぼうとも再生できるし、吸血鬼によっては分裂もできる。再生能力は吸血鬼の本懐の一つと言っても良いのだ。そんな再生が行えない。日中ならともかく、吸血鬼の時間である深夜で今それが行えないのは明らかな異常だった。

 

「あらあら、調子が悪いのかしら?」

 

「貴様ァ!この私に何をしたッ!!」

 

「教えるわけないでしょこの蓮根男」

 

 蹴りが顎に入る。弾かれたバットのように回転した体は回し蹴りによって彼方へ吹っ飛ばされる。自分がまるで玩具のように扱われる状況にアゼラルはひどく動揺する。

 

(あ、ありえん!ありえん!!この私がフィジカルで圧倒されるなど!こんなよくわからんカスに…!?)

 

 考えてみれば、そもそもこの吸血鬼自体が何か変だ。魔力というか、力の大きさというべきものがどこか曖昧に感じられ、力がうまく測れないのだ。それが原因でアゼラルはレミリアの力量を認識できずにいた。

 

(クソッ、こんなはずはない!私は無敵の力を手に入れたのだ!我が宿願は目の前なのだ!!こんなところで終われるか!!)

 

 

 

 

 

 

 おーおーおー、よくもやってくれなさったなこの蓮根男。

 私の可愛い可愛いフランたんをあんな道端に捨てるジャンクフードの包装みたいな扱いしやがってよぉ〜!私の心の中のウルージさんもJET・因果晒し・ガトリングを決めなさってるよ。もう久々にブチギレたよ、唯じゃ帰さんぞこの性悪男。じわじわとなぶり晒しにしてくれるわ…!

 

 フランたんは私ちゃんのナイスアイデアによってぎりぎり一命を取り留めたとはいえ、これはちょっと世間(私)は許してくれませんよ、これは。能力もぶん取りやがったし、自分の子供を何だと思っとるんや!

 

 とにかく今はこのどうしようもねークソ親父だ。予想外のアクシデントが起こって、色々と湾曲したけど、当初の目的通りこのクソ親父こと敵の主犯を完膚なきまでにボコボコにして、戦争を終わらせる。以上!閉廷!

 

「うおらぁッ!!」

 

「ぐべらぁ!!!?」

 

 オラオラー!!顔面を現代アートみたいに歪めてやるから覚悟しろぉー!!

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

「───あれ?」

 

「あ、起きた」

 

 唐突にフランドールは目を覚まし、そのまま飛び起き周囲を確認する。…どこかの森の中のようだが、何故自分はここに?確か戦争をしていて、お姉さまと戦って、それで負けて……

 

(あ、そうだ、私お父様に…)

 

 胸部を貫かれ、血を吸い取られたはず。いくら吸血鬼でも生命力の源泉である血が無くなれば死ぬ。しかしそんな致命傷を負ったはずの自分は今こうして息をしている。いや、よく体を見れば傷すら無い、血も身体中に満ち足りている。服は破れたままだが。

 

「どうして…」

 

「レミリアのおかげ」

 

「!」

 

 声をする方に目をやるとそこには銀髪の少女がいた。匂いから察するにおそらく人間だろう。何故人間がこんな戦禍の中に?

 

「あなたはレミリアが血を分けてくれたから、生きてる」

 

「……」

 

 そう、レミリアはフランドールの身体に自身の血を分け与えたのだ。そしてその血がうまく馴染んだ結果、今こうして生きていられている。その事実にフランドールは震えそうになる。無論嬉しさでだ。

 吸血鬼同士において血を分け与える行為は特別な意味を持つことが多い。主に愛情表現として。当然レミリアはそんな意味は一切知らないし、飽くまで治療行為の一環としてフランに血を与えたが、それでも吸血鬼の常識に親しみ慣れているフランドールからすればそういう意味で意識せざるを得ないのだ。ええい!心頭滅却!!

 

「フゥー………それで、貴女は?」

 

「十六夜 咲夜、レミリアの友達。私はレミリアに頼まれたからここにいる」

 

「…そう、ならもう良いわ。もう問題無いからどこかに行っても良いわよ」

 

「…は?」

 

「それにしてもよく体が動くわ。さっきよりも調子が良いかも」

 

「待って、せっかく態々私が見てあげたのに、お礼も無し?」

 

「はぁ?何で私が人間に礼なんて言わなきゃいけないのよ。寧ろ幸運に思ってほしいわ、お姉様の友人じゃ無かったら即私の食糧行きだもの」

 

 そう嘲るように視線を向けるフランドール。それが咲夜の神経を逆撫でする。

 

「とっても哀れ、生かされたのはそっちの方。レミリアの親切心でそこに立っているのを理解してる?」

 

「ええ、それは理解してるわよ。お姉様に対してどうこう言うつもりはないけど、貴女に対して大きな不服があるだけ。そもそもお姉様を呼び捨てなんて身の程知らずにも程があるわ。お姉様は近い将来吸血鬼の未来を背負う方になるのだから、貴女みたいな人間ごときが近寄れる存在じゃ無いのよ」

 

「レミリアの未来を勝手に決めるな…!私とレミリアは友達、だからいつも対等で、一緒。そう約束だってした」

 

「あらそう、なら勝手に言ってれば?でも一つだけ訂正、未来お姉様の隣にいるのは私よ。貴女じゃ無いわ人間」

 

「人間なんて名前じゃ無い、私は咲夜!十六夜咲夜!レミリアから貰った大切な名前がある!」

 

「ふうん、貴女なんかには勿体無いわね。十六夜の咲夜(昨夜)なんて、名前負けしてるわ」

 

「うるさい!私とレミリアのことを何も知らないお前が文句を言うな!」

 

「お姉様のことならこれから知っていくから問題無いわ。それよりも、さっきから聞いてれば人間のくせにその口の聞き方は何?貴女なんて今の私でもあっさり殺せるのよ」

 

「そんな差別的な発言をしてる時点でレミリアのことは理解できるわけない」

 

「はぁ?」

 

「レミリアは貴女の言うその人間と一緒に住んでる。人間を理解しようとしない貴女にレミリアを理解できる日は永遠に来ない」

 

 咲夜は思った。この女とは絶対相容れない。いくらレミリアが望んでるとは言え、こんな危ない考えを持つ奴と関わらせるわけにはいかない。最悪の場合は始末する考えが脳裏によぎる。

 

「…もう良いわ。これ以上話しても無駄、主張は平行線。それよりもお姉様は何処?お父様も居ないようだけれど、まさか…」

 

「そのまさか。レミリアは今回の戦争の主犯をとっちめに行った。…あんなに怒ってるレミリアは久しぶりに見た。だからすぐ終わると思う」

 

 同時に一抹の不安もあるが、兎も角、ようやくこれでこの戦争は終わる。人里崩壊は回避されるのだ。

 

「そう…」

 

「取り敢えず、ここで待ってよう。貴女と待つのは不服だけど、今動くのは危険」

 

「あら、お姉様を助けようとは思わないのかしら?」

 

「………必要無い。寧ろ今行ったら間違いなく巻き添えにされるかもしれない。レミリアは興奮したら周りが見えなくなるタイプだから」

 

「へぇ、お姉様って意外とやんちゃさんなのね」

 

「…いつもいつも厄介ごとばっかり持ってくる。貴女の時だってそうだった」

 

 

 

 ***

 

 

 

 

『ふぅ、これで良し。あとは一人で頑張ってね、狐さん』

 

 藍の治療を終えた咲夜。あれだけの傷を負っていた身体は時間の逆行によって見事に元通りとなっていた。生命活動も正常に行われてるのでこれなら目が覚めても問題なく動けるだろう。

 そう思った咲夜はレミリアの下へ行こうと、その場を後にしようとする。

 

『咲夜!』

 

『わぁっ!? れ、レミリア…!?』

 

 突然何も無い場所からレミリアが現れた。夜のレミリアならよくあることなのだが、それでもこれは咲夜にとってはいつまで経っても心臓に悪いのだ。

 

『急だけどこの子お願い!私の血をあげたから大丈夫だけど、誰もいないのは不安だから』

 

『え、誰…、というか血を分けたって、それって…!』

 

『私まだやらないといけないことあるからあとはお願いね!』

 

『あっ、待って!私も行く!!』

 

『ダメよ、今貴女殆ど魔力が残ってないじゃない』

 

『でもっ…!』

 

『それに、これは私の家族の問題。……私一人で片付けたいの』

 

 そのあまりにも冷たい声と表情に咲夜は思わず震えた。

 レミリアの明確な怒りを感じるのはいつぶりだろうか。今のレミリアについて行っても巻き添えを食らって肉塊になることは目に見えていた。

 

『………わかった』

 

『ん、良い子よ。よーしよしよし』

 

『だから子供扱いしないで!!』

 

『私から見れば子供よ。…じゃあフランのことお願いね』

 

『あっ…』

 

 そう言ってレミリアはどこかへ消え去ってしまった。結局彼女が誰なのかも、今まで何をしていたのかも教えてくれず。

 

『…もうッ、本当自分勝手…!』

 

 

 

 

 ***

 

 

 

(………正直、私もレミリアと一緒に行きたかった)

 

 巻き添えのリスクなど関係ない。咲夜にとってレミリアと離れてしまうことが一番嫌なことだった。

 だが夜のレミリアは恐ろしい。あの姿になれば、時間が経つにつれて人間性が薄くなっていく。きっと、より吸血鬼本来の姿に近づくからだろう。そんなレミリアの姿を見るたびに咲夜は自分が置いていかれるような感覚に陥る。人間と妖怪の感性はかけ離れている。平気で人は殺すし、同種の妖怪同士で殺し合うのも珍しくない。もしレミリアがそんな手の届かないところまで行ってしまったら、咲夜はきっと耐えられない。たとえ朝が来ると分かっていても、そのままどこかへ行ってしまうようで堪らないのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけどこれ以上は…)

 

「どうしたの、黙ったりして」

 

「……何でもない」

 

 結局咲夜がどうしたいにせよ、レミリアにこの鬱陶しい吸血鬼の面倒を頼まれたのだ。今彼女から離れるわけにはいかない。未だ幻想郷側からすれば彼女は討ち取るべき敵なのだから。

 

「…さて、じゃあそろそろ行きましょうか」

 

「……は、どこに?」

 

「どこってお姉様のところに決まってるでしょ?」

 

「話聞いてなかったの?今貴女は幻想郷中から狙われてると言っても良い。そんな中で動いたら…」

 

「関係ないわよそんなの、私が会いたいんだから。それに今は調子が良いの。能力がなくても大抵の奴なら何とかなるわ。…それとも何?貴女はお姉様に会いたくないのかしら?」

 

「むっ…!」

 

「私は私の欲に従うだけよ。少しでもお姉様を理解するために…ね」

 

「むーっ…!」

 

 そう言われれば自分がする行動は一つだけだ。何故かは分からないが、この女にレミリアのことを先取りされるのはどうしようもなく癪に触った。

 

「…そういば、まだ貴女の名前聞いてなかった」

 

「今更?はぁ、まぁ良いわ。私はフランドール・スカーレット、レミリアお姉様と血の繋がったれっきとした妹よ。よろしくね、夜空に縋る人間さん」

 

「……変な名前。直訳が腐乱人形」

 

「失礼な奴ね。……ま、でも我ながらそれは少し思うわ。全く、お父様の名付けのセンスの無さにはほとほと呆れる。普通自分の父親の名前をそのまま娘につけるかしら」

 

 だから私、自分の名前はあまり好きじゃないの。と、言葉をこぼしながらフランは髪先を手でいじる。

 

「…じゃあレミリアの名前も誰かの名前から取ったの?」

 

「さぁ?知らないわ。…でも心当たりはあるわよ。教えないけど」

 

「…別に良い。気になっただけだし」

 

 そんな嘘を呟いて、咲夜は勝手に歩き出しているフランの後ろを追う。

 

「あ、そうそう、この戦争が終わったら、お姉様は紅魔館に住んでもらうから」

 

「…は?あの趣味の悪い赤い館に?そんなの絶対ダメだけど」

 

「お姉様は吸血鬼なの。だったら私たちと一緒に暮らすのが道理じゃ無いかしら?」

 

「そんな通りは存在しない。レミリアは私と一緒に里で暮らすの。お前らなんかと一緒にいたらレミリアの評判が下がる」

 

「大丈夫よ、その時は里も一緒にし・は・いしてあげるから」

 

「そういうことじゃない!」

 

 やはりこの女とは仲良くなれない。レミリアと同じ紅い目を忌々しげに睨みながら、咲夜はそう思った。

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 目が覚めると、森の中だった。それを認識した瞬間に、藍は飛び起きる。ここはどこだ?何が起こった?藍は状況把握のために記憶を遡る。

 己の最後の記憶は吸血鬼フランドールが己に手を翳して、掌にある何かを握りつぶした場面。直後己の体から飛び散る夥しい量の血液、臓器。

 

(私は……負けたのか)

 

 幻想郷に仇をなす存在が目の前にいながらあの失態、自身が敬う八雲紫に何の申し訳も立たなかった。

 しかし、かと言ってこのまま動かないというのも論外だ。木々の間から見える美しい何故か紅みがかった夜空がまだ自分が意識を失ってそこまで時間が経っていないことを示している。

 

(…? どういうことだ、傷が無い?)

 

 うろ覚えではあるが、確かに自分は致命傷とも言える傷を負った。にも関わらず何故かこうして立っていられている。いくら九尾の獣である自身の治癒能力が他と比べ物にならなくとも、あの未知の攻撃による傷を治癒しきれるとは考えられなかった。

 

(…いや、それは今は良い。傷が治っているならそれに越したことはない。…紫様との通信術式は…繋がらない。壊れているか。ならば今は現状把握が先だな)

 

 どれくらい己が気を失っていたのかは判らないが、戦況が大きく変化しているのは確かだ。気を失う前よりも明らかに両陣営共、気配の数が大きく減っている。

 

 藍は予め幻想郷中に仕込んでいた式神を起動させる。この式神は言わば情報端末。その式が見聞きしたことを主である藍に送りつけるものである。

 

 しかし起動したものは配置した総数の半分以下だった。式神の大半はあの戦禍の中に設置していた。大方戦闘の巻き添えで破壊されたのだろう。

 しかし妖力が上手く伝播していないのか、ノイズが激しい。だがかろうじて状況は確認できた。見たところ思ったよりも幻想郷への損傷が大きい。

 しかしそんなことがどうでも良くなるほどの事実が藍に突き刺さる。

 

「何だこれは…!」

 

 一言で言うなら、それは歪みだった。その場の空間がまるでかき混ぜられているかのようにぐちゃぐちゃになっている。木々や川、山までも歪みに沿ってひん曲がっている。長い時を生きてきた藍でさえ、目にしたことがない異様な光景。

 

(これを紫様は認知していらっしゃるのか?)

 

 この歪みは今にもゆっくりとだが広がっている。これを放置していたらいずれ博麗大結界の要に達して、最悪結界そのものが消滅してしまう可能性があるだろう。

 恐らく紫との連絡が取れないのもこれが原因だ。この歪みによって上手く霊力が伝播しないのだ。それに伴って気配も上手く察知できない。これでは紫の居場所が分からなかった。

 

「…兎も角、この歪みを止めなければ!」

 

 紫に判断を仰いでいる場合では無い。今は一刻も早くこの異常事態を解決することが先決させられた。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「…ダメね、繋がらないわ」

 

「マジかー、紫の能力でもダメとか、一体どうなってんだー?」

 

「ふむ、藍殿は無事であることを祈るしかありませんな…」

 

 突如として幻想郷中に現れたこの歪み。紫が見るに、何か大きな力が空間ごと流動していることで生じているものだと考える。だが、驚くはその規模。既にこの歪みは幻想郷の三分の一を覆い隠さんとしていた。

 腐っても紫はこの幻想郷の管理者である。戦争中とはいえ、こんな目に見えるような異変が起これば事態が起きる前に対処できたはずだ。何故今に至るまで全く気が付かなかったのか、それが紫にはさっぱり分からなかった。

 

「それにしても悪いわね、向こうの戦闘が終わったあとなのに」

 

「問題ありませぬよ。それにこの歪みは妖怪の山にも甚大な被害が出ているのです。黙ってはおれませぬな」

 

「私らも問題なし!アイツら全っ然手応えが無かったんだよ、これじゃ地底の連中の方がよっぽど殴りがいがあるっての」

 

「同感だね」

 

 そう答えるは天魔、勇儀、萃香の3人。賢者の石が壊れたことにより前線が崩壊した後、この3人は紫にここへ呼び出されたのだ。

 紫はこの歪みは何者かの手によって発生させられていると睨んでいる。ならば早い話その発生源を排除すれば少なくともこれ以上被害が出ることはない。そのための戦力というわけだ。

 

「…んで、紫。私らをここに呼んだってこたぁ、犯人の目星はついてるってことだよな」

 

「…まぁ、一応心当たりはあるわ」

 

 あの時、アゼラルを打ち抜いた一閃。あれが一体何者なのかは分からなかったが、あれからは不自然なほどに力を感じなかった。まるで水彩絵の具が塗られた紙の一部だけが色抜きをされているかのような違和感。そして何より決定的なのは、その誰かが通過した場所から歪みが発生していたと言うことだ。

 まだ疑問が生じる部分はあるが、あれが歪みの発生源と見て間違い無いだろう。

 

「さっすが!じゃあ早速その元凶とやらのところに行こうぜ!今そいつはどこにいるんだ?」

 

「今は多分吸血鬼側の首領と絶賛開戦中だと思うわ。アゼラルの魔力が随分荒立ってるもの」

 

「ってことはもしかしたら敵の頭とも闘り合えるかもしれないってことか!」

 

「やったぜ勇儀!これで相手は山分けできるな!」

 

「「わははーーっ!」」

 

「……はぁ」

 

 嬉しそうにはしゃぐ勇儀と萃香。

 こんな状況だというのに、随分と気楽なものである。しかしこの二人に限らず鬼という種族は基本的に闘争を好む存在。どういう状況だろうと関係なく、その戦いそのものの快楽を求めてしまう妖怪なのだ。

 

 が、今はこれくらいの気概で行ってくれた方がありがたい。今回の相手は紫でさえ全ては計りかねる程の相手だ。天魔も含めればこちらにもだいぶ余裕はできるだろう。

 何より今相手は交戦中だ。こちらが着く頃にはお互いかなり消耗しているだろう。いや、どちらかと言うとアゼラルの方に利があるだろうか。アゼラルの力は身をもって知っている。それに加えフランドールの力が合わさっているのならば、厄介どころの話では無いだろう。

 

 まぁ、どちらが勝者にしろやることに変わりはない。方や幻想郷へ侵略を仕掛けてきた敵の頭、方や幻想郷を壊しかねない程のねじれを生み出す存在。この美しくも儚い幻想の地の為に、死んでもらうだけだ。

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「それっ」

 

「グボァッ!!?」

 

 血が撒き散る。己の血だ。未だに再生ができない彼の身体は既にボロ雑巾のような様子であった。

 そんな現状を到底許すことのできないアゼラルは更に怒りのゲージを上げていく。

 

「ジャラァッ!!」

 

 魔力で作り上げた双剣を振り回し、目の前の忌々しい存在を切り刻もうとする。しかし、その斬撃は全て相手の革靴の爪先で弾かれる。

 

「ほいほいほいっと」

 

(クソッ、何故当たらん!!)

 

「どりゃっ!」

 

「ガハァッ!!?」

 

 レミリアの拳が盛大に決まり、木々を吹き飛ばして山を三つ貫き、巨大な岩に激突する。

 

「ゴア…!グッ…、おのれ…!!どこまでも私をコケにして…!!」

 

 しかしそう言う一方、アゼラルは確かに感じていた。圧倒的な力の差を。相手は今の自分よりも遥かに強い。それは現状を鑑みて明らかなことだった。

 しかしその事実を彼のプライドが許さない。吸血鬼として何者よりも優れている存在になった瞬間に現れたあの理不尽な存在。500年以上かけてここまで来たと言うのに、終われるわけがなかった。

 と言うより、そもそもあの存在自体がよくわからない。フランドールの力を奪ったことに大層怒っている様子だったが、理由がわからない。それに見た目もどことなく自分に似ているような気がする。あれが一体何者で、どこからやってきたのか、アゼラルに思い当たる節は全くなかった。

 

「ふー、だいぶスッとしたわ」

 

「…何なのだ貴様は、何故私の邪魔をする。貴様も吸血鬼ならば解るだろう?支配が吸血鬼の本能であることを…!」

 

「私そう言うの興味ないんだってば。全く、出会う吸血鬼はどいつもこいつも支配支配支配…いい加減耳にタコができそうよ」

 

「この異端めが…!」

 

「異端で結構。私は私の生き方があるの。たとえ何者であろうとも私の生き方を邪魔はさせない。ま、自分しか見ていない貴方には私のやり方は理解なんてできないだろうけど」

 

 基本的に吸血鬼には他者を想う心が乏しい者が多い。幼少の頃からの教育でそう教えられるからというのもあるが、全体で見れば種族的な性質が大きい。

 そういう意味ではレミリアは正しく異端だった。人間の倫理観を持った吸血鬼など、今までの吸血鬼の歴史を見てもただの1人もいないのだから。

 

「…まぁ、そんなことよりも、私貴方に聞きたいことがあるのよ」

 

「………聞きたいこと?」

 

「そうそう、貴方を知った時からずっと聞きたかったのよね」

 

「……」

 

「ぶっちゃけさ…自分の家族のことどう思ってるわけなの?」

 

「家族…だと?」

 

「そうそう、身内身内。さっきも実の娘をゴミみてーに捨てやがった訳だけど、そんな家族のことをどう見てるのか気になったのよ。とても」

 

「ふ、フフフ…くだらんことを聞くな。ルシェル、フランドール、この二人はこの私を上にのし上げるためのパーツだった」

 

「…じゃあ、ルシェルを殺すように命じたのも」

 

「ほう、奴を知っていたか。…無論私だ。そもそも力の無い吸血鬼が生きる価値など皆無。私が望むは力による支配!その世界の同族に人間以下のカスなどいらん!!それに奴は事あるごとに私に噛みついて鬱陶しくてかなわなかったからな。役目を終えたあの女はもう必要ないわ!」

 

「……愛しては、いなかったのね」

 

「愛?そんなものに何の価値がある!私が望むは力だ!!栄光だ!!支配だ!!それに比べれば、家族など何と小さなことか!!あんなモノ唯の道具に過ぎんわ!!フランドールも最後には力をもらう予定だったからな!!少し時間が早まっただけよ!!」

 

「それでも、ルシェルは貴方のことを信じていたわ」

 

「知ったことか!そんな気色の悪い信頼など唯の毒!ルシェルも!フランドールも!何も分かってはいない!吸血鬼は強く、力と支配に貪欲であるべきだ!!力があればどんなこともできるのだから!!そしてそれを理解していないのは、貴様もだ!!」

 

 アゼラルは血走った目で、最後の障害を睨みつける。

 今のままではこの障害を乗り越えることはできない。ならば更なる力を得れば良いだけの話だ。この女を八つ裂きにできるほどの力を。

 

「衰退した吸血鬼一族を今この幻想郷の地で復興させ、再び我が帝国を復活させる!!そしてその野望は、貴様を殺すことで達成される!!」

 

 振り切るように体勢を元に戻したアゼラルは空に向かって高らかに命令する。

 

 

 

『この幻想郷にいる全ての吸血鬼共よ!!我が血肉となれ!!!』

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「な、何今の声…!?」

 

「…! 地面よ、二人とも」

 

「え?」

 

 すると、小傘たちのいる地面が蠢き、黒い何かが這い出てきた。しかも一つだけではない。見渡す限り無数にだ。

 

「ええっ!?な、何何!?」

 

「こ、これって吸血鬼!?」

 

 しかし吸血鬼たちは空な目で小傘たち3人には見向きもせず、そのまま次々と空へ飛び去っていく。

 

「あ、あれ…?襲ってこない?」

 

「小傘さん、上!」

 

「え?」

 

 そう言われ空を見ると、そこには夜空を埋め尽くすほどの無数の黒い何かが一方向に向かって飛んでいる光景が目に映った。まるで烏の大群のようだ。

 

「あ、あれもしかして全部吸血鬼…!?」

 

「え、えぇーーっ!!?もし、こっちに来たら…!」

 

(帰りたい…)

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「…御当主様、まさか幻想郷壊すつもりなんじゃ無いでしょうね…!」

 

「…ちょっと、これやばくないですかパチュリー様。逃げた方が…」

 

「どこに逃げ道があるのよ。……逃げ場なんて、もうこの幻想郷のどこにも無いわ」

 

「そんなぁ!!こんなことならもっと美味しいモノたくさん食べとけば良かったですーー!うわーーん!!」

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「アゼラル…貴方一体何を…!」

 

「待ってくださいよ奥様ー!危険ですってぇー!」

 

「美鈴…」

 

「ハァ、昔から逃げ足だけはお速いんですから…。それよりもこんな空のど真ん中は危険です!今はそれのおかげで何の影響もないですけど、これ以上は安全を保障できませんよ。それにクルムさんも置いてきちゃいましたし…」

 

 ルシェルは優しく自身を包み込む星の球体に触れる。それからは今まで感じたことのない力を感じだが、しかし不思議な温もりが肌を伝っていた。

 

「…ごめんなさい、でも私は行かないといけないの。美鈴は先に館に帰ってて」

 

「そう言うわけには…!」

 

「…いえ、行かせてさしあげましょう」

 

「えっ!?クルムさん!気がついたんですか!?」

 

「つい先程、いつまでも寝ているわけにはいきませぬので。この老体で御二方を追いかけるのは中々に苦労しましたが。はは」

 

「クルム…」

 

「奥様…、あんこ様の…いえ、レミリアお嬢様の下へ行かれるのですね…」

 

「……ええ」

 

「…ルシェル様、私めは貴女様の意思を尊重いたします。ですが代わりに私と門番殿もお供させてください」

 

「…分かったわ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!いくら私たち2人がついていても、ここから先の安全は…」

 

「お願い、美鈴…!どうしても、どうしても行きたい…行かないといけないの」

 

「ルシェル様………もう、理由は後でちゃんとお聞かせ願いますからね!」

 

「……ありがとう、美鈴」

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「…これって」

 

 声が響いた瞬間、フランの周りに星空が描かれた球体が現れた。フランは驚くが、すぐに安堵の表情をあらわにする。

 

「……レミリアがつけたバリア。それのおかげで今フランは何の影響も受けてない」

 

「そっか、お姉様が…私の為に。ふふ…」

 

「……一応言っておくけど、私もさっき同じやつ貰ったから。というか、多分知り合いには全員あると思う」

 

「………」

 

「フッ」

 

「チッ」

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「これは…!あの声、まさかアゼラルの仕業か…!」

 

『──ザザッ……藍、聞こえてるか』

 

「ッ 霊奈か!」

 

『ようやく繋がったか。…そっちは今どうなってるんだ。急に吸血鬼が明後日の方向に飛び去っていくのは…やはりあの声の主か?』

 

「ああ、聞こえた通りだ。吸血鬼の頭領が力を得る為に残った吸血鬼を吸収しているのだろう。その頭領は紫様が相手をしていたはずだ。私も今から向かうが…」

 

『そうか、なら私が行こう。それなりに距離も近い』

 

「…すまない、紫様を頼んだ。私も後から追いつく」

 

『ああ……全く、悪い勘が当たりそうだ』

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「おぉ〜、壮観だねぇ こりゃ」

 

「闘りあうのが俄然楽しみになってきた!!」

 

「……あの男、まだ力を増やすつもりなのね。ご丁寧に死んだ吸血鬼たちの残滓魔力まで吸い上げている」

 

「うむ、この地の自軍全てを己に集めるとは、向こうも勝負をつけにきたということかのう」

 

「……」

 

 フランドールの力を得たアゼラルがわざわざ幻想郷中の吸血鬼から力を取り込む。それはつまり、力を上げざるを得ない相手がいると言うことだ。

 

 

(これは本気で笑えなくなってきたわね…)

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「グオォォォォォ…!!」

 

 命令通りに引き寄せられた吸血鬼たちが次々とアゼラルの身体へ取り込まれていく。そして発する魔力と共にその図体も少しずつ大きくなっていく。そして最後の一匹が取り込まれる。

 

「フゥー!フゥー!……クク、フハハハ!!良い!これは良い!!素晴らしい全能感!!フハハ!私はまた永遠の夜に大きく近づいた!!」

 

 それは山のようだった。この幻想郷にいるほぼ全ての吸血鬼を吸収したアゼラルは見上げ入道もかくやと言わんばかりの巨体となっていた。魔力も先程の比ではなく、漏れ出してる魔力で辺りが軋んでいる。

 

「さぁ、図に乗るのもそこまでだ!私をコケにしたことを後悔するのだな!!」

 

 今や空を覆うほどに巨大になった翼が広げられ、巨体が空へ浮く。そして拳が振り上げられ、叩き込むようにレミリアへと振り下ろされた。

 

「…!」

 

 拳はレミリアに直撃し、そのまま大地を砕く。まるで世界が割れたかのような光景が広がるが、それに留まらず、衝撃による亀裂は山へと広がっていき、一帯の地面はまるで爆発したかのように吹き飛んでいく。

 

「ジャラァッ!!!」

 

 さらに追撃と言わんばかりに空中から大量の槍の弾幕を降らせ、最後には極太の魔力砲を見舞った。

 大地はすでに原形をとどめておらず、空いた大穴からはそこが全く見えなかった。先程の状態ではこれほどの威力を出すことは到底できなかっただろう。それ故に、アゼラルは今度こそ自分が絶対的な力を得たことを確信する。

 

 

「く、ククク…!フハハハハ!!!やはり私に敵う者などいない!!この力ならばあの賢者にも勝つことは容易い!!私こそが永遠の夜なのだぁ!!」

 

「最早他の同族など必要ない!この力があれば私だけが支配する世界を作り上げることができる!!」

 

「どの道最終的にはこうするつもりであったが、待つ必要など無かった!!最初から全て私1人で侵略し、支配すれば、何も問題は無かったのだ!!この姿!!まさに夜を支配する王の姿にふさわしい!!無敵の王!!」

 

「いやー、どうかしら。巨大化なんて明らかな負けフラグじゃない」

 

「もうすぐ管理者共がこの場に来る!そいつらを全員殺して、私がこの幻想郷を、引いては世界をし………は?」

 

 一瞬で興奮が冷める。声のする方には、自身の真横に何事もなかったかのように佇んでいるレミリアの姿が。

 それを認識した瞬間、一気に寒気が押し寄せ、アゼラルは急いで距離をとる。

 

「ところで永遠の夜って何?座右の銘か何か?」

 

「きっ、貴様…!何故生きている…!?確かに攻撃は当たったはずだ…!」

 

 あの連撃は先程までの自分の攻撃とはワケが違うのだ。力を取り込む前ならまだしも、今の攻撃を受けて無傷など有り得なかった。

 

「ええ、当たったわよ。全然効かなかっただけで」

 

 だが常識という言葉から最も離れているレミリアという存在に意味など為さなかった。

 

「グッ!ならばこれならどうだ!」

 

 アゼラルはレミリアに手をかざす。すると掌に黒い球体が現れ、アゼラルはそれを躊躇なく握りつぶした。同時にレミリアの身体は爆散する。

 

「フハハハ!!これが我が破壊の力!!万物を崩壊させる究極の…」

 

「そろそろこのパターンもマンネリ化してきたわね」

 

「はぁッ!!!????」

 

「力の使い方が下手くそね。フランの方が上手だったわ。そんなんじゃ百万発撃っても私は殺せないわよ。あと声がうるさい。ただでさえそのでかい図体のせいで声量上がってるんだからもう少しボリュームを下げて…」

 

「ヌオォォ!!ならばッ!!」

 

 アゼラルが空に両手をかざすと、赤い魔力が発射され、天を埋め尽くさんばかりの紅の剣となった。それらは全てレミリアに矛先を向けている。

 

「受けるが良い!!我が運命を支配する力を!!」

 

「だから貴方のじゃ…」

 

「死ねぇ!!」

 

 剣は一斉にレミリアへと放たれる…が、

 

「軽い」

 

 その全てが二枚の翼に叩き落とされ、砕け散る。

 

「あっ…なっ、何故…!?馬鹿な!!運命そのものだぞ!?」

 

「言ったでしょう、使い方がなってないのよ。これじゃフランが持ってた方が何倍もマシだったわ」

 

「フランドールの方がマシだと…!?いや、待て…!あの時のフランドールからは魔力が殆ど回収できなかった…まさか…!」

 

「ああ、その前に私と喧嘩してたのよあの子。ええ、ほんと、やっとフランが心を開いてくれたってのに、よくもまぁ台無しにしてくれたわね」

 

「ぐっ、『近づくな!!!』」

 

「ん?」

 

 レミリアは自身の体を何かが縛るような感覚に襲われる。いや、縛られているというよりかは、動きづらい。まるで海中にいるかのような感覚だ。

 

「こ、これが我が命令を現実にする力!!元来私が持ち得た力だ!!力を得たことで更に我が能力は強大となっている!!そうだ!そのまま『死n』」

 

「ふんっ!!!」

 

 ブチリ と、何かが引きちぎれる音がした。その瞬間、アゼラルの力は効力を失い、レミリアは自由の身になる。

 

「──────」

 

「……で、もう演目は終わり?」

 

 レミリアはゆっくりと空を歩き、こちらに近づいてくる。空間(そら)が歪む。魔力も何も感じないというのに、何故か焼けるような熱さがアゼラルの肌を伝った。

 

「う、ウグオォォォォォ!!!」

 

 アゼラルは自身の力に任せて出鱈目に攻撃する。巨大な魔力弾を、レーザーを、剣を、破壊の力を、死の運命が定まった槍を。しかしそのどれもが見えない障壁に阻まれ、怪物に傷ひとつつけられない。

 

「…私ね、結構怒っているのよ。お母様とフランに散々酷い仕打ちをして、挙句にあんなあっさり捨てやがって…」

 

『来るなァ!!死ねェ!!』

 

「でも、なんだかんだで貴方も私の家族なの。お母様もまだ貴方のことを大事に思ってるみたいだし。…だからあと一発だけで許してあげる」

 

『私は最強だぁ!!!!もっと力をぉ!!!!!』

 

 レミリアは走り出し、アゼラルの攻撃が当たる前に空に跳ぶ。

 

「そんなに力が欲しけりゃ、たらふくくれてあげるわ!!」

 

 レミリアの右手拳に魔力が急激に集まっていく。空間を巻き込むほどに凝縮されたそれは、レミリアが使っていた隠匿の魔法を遂に突き破った。

 

 そして彼は目撃する。その目にはっきりと視認できるほどに凝縮された膨大すぎる魔力の塊を。今まで感じていた熱さは彼女の魔力そのものだったのだと。

 

 それはまるで彼女が世界の中心にいるかのような、余りにも神々しい光景。

 

『ア…ぁ………アァ…!!』

 

 

「必殺!!れーみーりーあー…!!」

 

 

 強烈な力に当てられ、アゼラルは世界がまるでゆっくりと揺蕩うような感覚に陥る。そしてそんな中、その目に映ったのは、怪物の顔。激情に駆られた紅い、紅い瞳。

 

 

 

 そして幻覚か、その背後に黒髪の少女の姿が重なって見えた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

『アゼラル、お前は紅魔の名を背負うに相応しい存在になるのだ』

 

『こうま…ですか?』

 

『その通り、お前はスカーレット家の男として吸血鬼の頂点に立つべくして産まれてきたことを自覚しろ』

 

『ちょうてん……わかりました、お父様』

 

 

 

 ーーー

 

 

 

『スカーレット万歳!!アゼラル様万歳!!』

 

『見ろアゼラル、これが支配だよ。我々吸血鬼は自分達よりも下の者を支配してやらねばならない義務がある』

 

『義務、ですか…』

 

『そうだ、力を持つ者にはその力を十全に使い、己の欲望を満たさなばならぬ。それが吸血鬼の宿命だ。そして我等スカーレット家は吸血鬼の中でもエリート中のエリート。そしてお前はそんなスカーレット家の中でも特別強い力を持っている。…ならば己がどうするべきかは、理解しているだろう』

 

『はいっ、お父様!』

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

『お父様、この本は…?』

 

『…ああ、それは古い童話だよ。永遠の夜の物語 と言ってな、大昔に存在したと言われている吸血鬼の伝承の話を元にしたものだ』

 

『……太陽の下を歩いている…!』

 

『そう、永遠の夜は世界で唯一太陽を克服した吸血鬼。否、それだけではない、流水、聖水、銀、あらゆる弱点を克した究極の存在だ。その話は吸血鬼がそんな永遠の夜に至るまでの冒険譚を描いたものだ。有名だぞ、少なくとも同族でこの話を知らぬ者はいない』

 

『永遠の…夜…!お父様!』

 

『なんだ?』

 

『俺、いつかこの話の吸血鬼みたいな偉大な吸血鬼になりたい!!』

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

『正気かアゼラル。そのような吸血鬼にあるまじき非力の女を…』

 

『ですが彼女には代々受け継いだ運命の力があります。彼女のこの力はいずれ我等が支配に役に立つことでしょう』

 

『…一理ある…が、一応他の女も見繕っておけ。万が一、力の無い子が産まれては我が家の恥だからな。保険はかけておけ』

 

『はい…』

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

『アゼラル、何を読んでるの?』

 

『ん、ルシェルか。これだよ、永遠の夜の物語』

 

『まぁ、懐かしいわね。私もよく幼い頃お母様に読み聞かされたわ。確か才能の無い吸血鬼が努力で力を得て、国の王様になるまでのお話だったわよね。昔はその話のお姫様に憧れてたわ』

 

『ああ、私はいつかこんな偉大な吸血鬼になりたい』

 

『…なれるわよ、貴方ならきっと』

 

『フッ、そうなったら君の憧れも叶うな』

 

『うふふ、そうね。…ねぇ、アゼラル。私たち2人の間に子供ができたら、この名前にしない?』

 

『…ああ、それは良い。きっと誰よりも強い子になる』

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

『『『ルーン帝国万歳!!万歳!!』』』

 

 

『遂に完成したな、我等の国が』

 

『ええ、お父様。ここから我々の支配は始まるのですね』

 

『うむ、そしていずれはお前が王となり世界を我らの支配下に置くのだ』

 

『はい…!』

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

『お父様ッ!!』

 

『あ、アゼラル…!逃げるのだ…!お前だけでも…そして、我等の悲願を…!!』

 

『無理だ…!私はあの人間どもを許せない…!!』

 

『…まだ生き残りがいたか』

 

『ッ! おのれ貴様ら!!』

 

『悪いな、だが、幾万人もの人間を殺した貴様らを許すわけにはいかん!!!』

 

『ウオォォォ!!!』

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

『…俺の、勝ちだ…』

 

『………』

 

『最後に言い残す言葉は…』

 

『まっ、待って!!』

 

『…!! まだ…!』

 

『お、お願いッ、この人は殺さないでッ!!』

 

『…吸血鬼が何を…』

 

『お願い…お願いします…!』

 

『………あなた』

 

『…! お前』

 

『見逃しましょう……少なくとも彼女は人を殺していないわ。それに、私と同じ愛している人がいる目をしてるもの』

 

『…………今回だけだ。そいつを連れてとっとと何処かへ行け!!』

 

『…ッ』

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

『クソォ!!クソォ!!何故だ!!何故我等が人間なんぞに…!!』

 

『…アゼラル』

 

『力だ…!私が弱くなければあんなカスどもに負けるはずが無かった!!もっと力が!!もっと、もっと!永遠の夜のような力を…!!!そうだろう、ルシェルゥ…!?』

 

『ヒッ…!!』

 

『戦場を知らぬ貴様には理解できないだろうがなぁ…!!そう、力だ!もっともっと力を得て、私は偉大な支配者になる!!まだ我等の覇道は終わっていない!!!』

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

『こど、も?』

 

『そうだ、私とお前の子供だ。私の才ではあの時のハンターどものような存在に勝つことは難しい。私とお前の子ならば、私を圧倒的に上回るような存在が産まれる筈だ』

 

『…ッ………分かったわ』

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

『クソッ!!まさかあんな出来損ないが産まれるとは…!アレでは使い物にならんっ!!』

 

『いや、まだ…まだチャンスはある…!今は戦力を増やすことが先決…!我らスカーレット家に相応しい存在は必ず産まれる筈だ…!その時まで…!』

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

『おお…!この魔力…!翼の大きさ…!これこそが私の求めていた存在だ!』

 

『ハァ…、ハァ…、あ、あぜら…』

 

『お前はフランドール…!我が偉大な父フランドールの名を継げ!』

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

『幻想郷?』

 

『はい、結界に囲まれた秘境です。今は失われつつある神秘が残っているようで、そこには潤沢な魔力が存在していると推測されます』

 

『…なるほど、そこならば我等の復活の基盤となろう。皆を集めろ、幻想郷に乗り込む算段をつける』

 

『はっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『…しかし幻想郷、かのような地があったとはな……ん?』

 

 書斎にある一冊の本が目に映る。アゼラルはそれを取り出し、表紙を捲る。

 

『…永遠の夜の物語…。久しく読んでいなかったな』

 

 これからは、ルーン帝国復活のための最後の正念場。その前の息抜きに読んでおくのも悪くは無い。

 …正直、この本を読むとあの忌々しい出来損ないが頭によぎる。だが、この名前だけはどうしても嫌いになれなかった。自分にとって思い入れが強いからなのかもしれない。

 そう思いながら、アゼラルは貢をめくる。

 

 

 

 ────むかしむかし、あるところにレミリアという名の貧相な吸血鬼がおりました。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──まさか、お前は、レミ」

 

 

 

 

 

「パンチッ!!!!!!」

 

 

 どごんっ

 

 

 

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 嗚呼、これこそが、私が求めていた───

 

 

 

 

 

 

 この日、幻想郷の地図に大きな穴が空いた。

 

 

 

 ーーー

 ーー

 ー

 

 

 

 

 

 

「………やり過ぎたわね、これは」

 

 

 幻想郷にとんでもない大穴が空いちまったぜ。

 やっべーよ、まじやっべーよ…!もしかしなくても結構不味いよねこれ!絶対後でおっきーに怒られるやつじゃん…!!いやだってさ、こんな脆いとは思わないじゃん!!まるで家の窓ガラスでも割っちまった気分だぜ…!もう少し時間たってたらマジで幻想郷がサヨナラバイバイになるところだった…。

 

「…ま、それよりもこれをどうするかね」

 

 そう言うレミリアの手にはぐったりと死んだような大きめの蝙蝠がいた。そして何を隠そうこの蝙蝠は、あのアゼラルである。

 レミリアの全力パンチを食らったアゼラルは、力の殆どを削がれ、ご覧の有り様となっていた。

 

「ま、フランの能力も取り返せたし、結果オーライね!」

 

 めんどくさい事は後で考える!一先ずこのミニマムお父様は一旦お母様に預けておこうかしら。処遇の方もそっちでってことにしておこう。そうすれば勝手に戦争も終わるだろう。殆ど敵もいないみたいだし。

 

 さーて、そうと決まればとっとと家に帰りますかね。明日も朝から新メニューのチラシ配りしなきゃだし。咲夜と小傘を回収して…

 

 

「……また派手にしてくれたな、吸血鬼」

 

「…ん?」

 

 レミリアが声のした方へ振り返ると、そこには少し変わった装束の巫女服を着た女性が佇んでいた。巫女服の女はこちらをじっと睨みつけている。

 あれ、あの格好どっかで見たことある気が…

 

「…貴女は?」

 

「ふむ、博麗の巫女…と言えばわかるか?」

 

 

 …は、ははは博麗の巫女ーー!!!?

 

 エッ、ソノ、それって幻想郷最強のフィジカルデッドヒューマンじゃないですかやだー!!

 やべー!!やべーぞ!!本当にやべーのに見つかってもうた!!つーかなんでバレた!?私隠匿の魔法ちゃんと使ってたよね!?…って壊れてるー!?最後のあの時か!待て…ってことは、今私の魔力は幻想郷中にダダ漏れ…ってコト!?

 

「その力……やはりお前が吸血鬼の首領と見て間違いなさそうだな。紫がいないのが気になるが…まぁ、そのうち出てくるだろう」

 

 いやこの調停者とんでも無い勘違いしとるんですけど!?誰が首領じゃ!!こんな蓮根野郎と一緒にすんな!!

 というか、早く誤解を解かないと!このままでは退治されてしまう!

 

「その…私は帰りたいのだけれど…」

 

「帰る?こんな派手に結界を破壊しておいてそんなことがよく言えたものだ」

 

 え、結界?

 

「先の一撃、貴様の仕業だろう。あの一撃で博麗大結界の一部が吹き飛んだ。この幻想郷に危機を齎した貴様を、私が逃すわけがないだろう?」

 

 …………おーまいがー。

 まままま不味い!!ワタクシ完全に戦犯認定されてる!!いや私がやったんだけど!ほらそれはそのー、主犯倒すために仕方なかったというかー…!

 というかこのままじゃ帰るどころの話じゃない!博麗の巫女に目をつけられるって事は、この世界のお尋ね者になっちまうって事じゃあないか!

 

 ふー、待て。落ち着け、もちつくのよレミリア…。こんな時は深呼吸…コオォォォ…。

 

 よし!取り敢えずまずは何とか説得しないと。結界が壊れたって言ってたけど、ワンチャン私の力なら結界も治せるかもしれないし?それでチャラって事で?よしイケル!

 

「…取り敢えず話を──」

 

 

 

 

    「み つ け た」

 

 

 

 瞬間、空から黒が降ってきた。

 比喩では無い。本当に黒い何かが地上へ溶けるように降り立ったのだ。瞬く間に辺りは黒に飲まれ、景色が消失する。そして徐々に引いていく黒の海から何者かが現れた。

 金髪のロングヘアーに吸い込まれるような黒の衣服を纏ったその女はレミリアをその赤い瞳に映すと、にっこりと微笑った。

 

「ふふふ、こんばんは、吸血鬼さん」

 

「…何の用だ、ルーミア」

 

「あらクソ巫女、いたのね。今お前に用は無いからどっか行って」

 

「何の用だ、と聞いている」

 

「オマエに言う理由なんて無いわ。殺すわよ」

 

 

 なんか増えた…。

 おいおいおい、このままじゃミーは襲われちまうじゃないか。パツキンネーチャンも殺気バリバリだし…。

 

「ふふ、ごめんなさいね。私の名前はルーミア。貴女の名前を教えてくださいな」

 

「嫌よ」

 

 名前バレたら即特定されるわ。真昼間に来たら私普通に死ぬぞ?

 

「あら無愛想。まぁでもそう言うところが良いのだけれど」

 

「…で、そのルーマニアさんは何の御用で」

 

「ふふふ、それはねぇ……私、貴女に惚れたの」

 

「はい?」

 

「正確には貴女の黒に惚れた。その翼!その目!星みたいに輝いてるけど、その奥には延々と続いてる底なしの混ざり合った黒に満ちている!私はそれが欲しいわ!一眼見た時から欲しくて欲しくて堪らないの!!──だから、」

 

「私のモノになって?」

 

「丁重にお断りします」

 

 コイツやべー奴じゃねーか!!

 なんだよ黒に惚れたって!確かに私がウルトラスーパーアルティメット美少女である事は世界の常識だけど、そんなワケワカメな理由で恍惚な表情されても全然嬉しく無いんだよ!!

 

「お前はまたよくわからん理由で…」

 

「私にとっては重要な事なのよ。欲しいものは力ずくで手に入れる、それが妖怪のルールだもの」

 

「こいつは危険だ、舐めて掛かると死ぬぞ」

 

「知ってるわよそんなこと。というか、アレを見て分からない方が馬鹿よ」

 

 …本当にどうしよう。私史上でも結構なピンチだ。それに正直これ以上の戦闘は持たない。私じゃなくて、幻想郷が。いやー、今気づいたんだけど、そろそろ幻想郷自体が限界っぽいんだよねー。

 …だってこんなに幻想郷が私の魔力に染まりやすいなんてわからないじゃん!!幻想郷は全てを受け入れますってか!?やかましいわ!私の魔力ぐらいうまいことペッしなさい!ペッ!

 

 

 

 

 無理な話である。

 未だ現在進行形でレミリアの魔力は上昇を続けている。というのも、レミリアは自身の魔力の供給量を増減する事はできても、ゼロにはできない。自身が意図しなくともその世界が夜である限り勝手に魔力は増え続けるのだ。

 タイムリミットが過ぎれば、レミリアから発せられる魔力に耐えられず、藍の想定した最悪のシナリオで幻想郷は崩壊するだろう。

 

 

「…もう良い、お前が加勢するのならば勝手にしろ。だが、邪魔だけはするなよ」

 

「誰がオマエなんかに加勢するか。ただ、私は私のやり方で暴れさせてもらうわ。よろしくね、吸血鬼さん♡」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

(…どうやって逃げよう)

 

 

 

 

 レミリアによる幻想郷崩壊まであと15分。

 

 

 

 

 

 

 

 






風見幽香:力は強大、心は貧弱なお花の妖怪。その生は誤解と曲解で出来ていると言っても過言ではなく、直らない仏頂面と抜けきらない尊大な態度によって無事幻想郷でもその悪名を轟かせてしまった可哀想な妖怪。自分のステータスの高さを把握しきれてない節があり、必要のない攻撃にも極端に怯えることが多い。可愛いね。実は能力込みのフランちゃんより強い。

アゼラル・スカーレット:自身の夢と、父親に託された野望に板挟みにされ、結果欲張って両方取ろうとしたら、自分の夢にぶん殴られた哀れな人。最終的には誰よりも弱い存在になるという皮肉な結末になった。自分で一番大切なものを捨てちゃったからね、是非もないよね。

永遠の夜の物語:内容をざっくりと言うなら吸血鬼版ドラゴンボール。最後はお姫様と幸せなキスをして終了。主人公の吸血鬼は大昔に実在したらしい…?

レミリア☆パンチ:ただの全力パンチ。


レミリアたん

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フランちゃん

【挿絵表示】


咲夜ちゃん

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