めっちゃ強いレミリアたんになった転生者が自分を捨てたお父様をぶん殴る話   作:わらしべいべー

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 本当のクライマックスだぜぇ!



【前回のあらすじ】
・妖怪イカ墨女襲来!!
・レミリアたんのパーフェクト計画、ご破算にされる
・レミリアたん最強!!レミリアたん最強!!レミリアたん最強!!






レミリアたんの百年祭

 

 

 

 

 

「ばーちゃん見て見てー!折り紙で蝙蝠折ったんだー」

 

「あらまぁ、よく出来てるわねぇ。すごいわレミリア」

 

「えへへー、この調子でいつか家の中を蝙蝠だらけにしてレミリア☆キングダムを造り上げて、この家を完全支配するのが私の夢なのだ!」

 

「あらあら、もしそうなったら私も重い腰をあげてレミリアにお灸を据えないといけなくなるわねぇ」

 

「ア、スミマセン、ホドホドニシマス…」

 

「良い子ね〜」

 

 お婆さんが虚無顔のレミリアの頭を撫でていると、玄関の引き戸が開き、大きなずた袋を肩にかけたお爺さんが入ってきた。どうやら狩りから帰ってきたらしい。

 

「帰ったぞ」

 

「あ、じーちゃん!見たまえ、我が眷属を!」

 

「眷属って…何だ折り紙か。おお、よく出来てるな……いや本当によく出来とるのぅ。牙の一本一本まで精巧に作られとる。造形物かと見紛うたわ」

 

「ふふーん、この超絶美人の私にかかればこの程度朝飯前よ!」

 

「じゃあきちんと朝飯の野菜も食え」

 

「それは無理です。超絶美人にも不可能はあるのです」

 

 

 

 

 ーー

 ー

 

 

 

 

「…そろそろ夜だな。レミリア、ミサンガはちゃんとつけてるか?」

 

「え、うん!今日もバッチリだぜ」

 

「そうか。…分かってると思うが、夜にそいつを外しちゃいけねぇぞ」

 

「……いつも思うんだけど、何でこれつけなきゃいけないの?」

 

「魔除けだ。ここらには夜にとんでもねぇ化け物が出てくるからな。そいつをつけてたら化け物は近寄らねぇんだよ。ほら、儂や婆さんもつけてるだろ?」

 

「なるへそー、魔除けか。…ちなみに外したらどうなるの?」

 

「外した瞬間に化け物に頭から食われる」

 

「外した瞬間に!?判定めっちゃシビア!」

 

 

「2人ともー、お風呂が沸きましたよー」

 

「はーい!じゃあお風呂入ってくるね。あ、明日の魔法教える約束忘れないでね!」

 

「へいへい」

 

 「絶対だよー!」と言いながらレミリアは着替えを持ってそそくさと部屋を出ていった。それと入れ替わるようにお婆さんが部屋に入ってくる。

 

「あら、レミリアと一緒に入らないのですか?」

 

「…もうアイツも年頃の娘だ。いちいち気を使うのも羞恥心を煽るだけじゃよ」

 

「そうですかねぇ?私から見ればまだまだ甘えたがりの子供ですよ」

 

「子供ねぇ…」

 

 そう呟きながらお爺さんは訝しそうな表情を浮かべる。

 レミリアは、話せるようになった時からどこか子どもらしく無い部分があった。我儘を言うことはあっても、無理を言うことはない。悪戯はしても、一線を越えることはしない。まるで最初から人との接し方や道徳を知っていたかのように、彼女の振る舞いは完成されているのだ。

 だが、彼女は吸血鬼だ。自分達人間とは違う。もしかしたら吸血鬼の子供は皆んなあんな感じなのかもしれないし、レミリアが特別なだけなのかもしれない。…いずれにせよ、レミリアは吸血鬼の中でもかなり特異だ。それは日中を走る姿を見て明らかなことだろう。

 

「…もう、良いんじゃありませんか?教えても」

 

「……いや、ダメだ」

 

「そう燻ってもう10年も経ちました。そろそろ年貢の納め時ですよ」

 

「…そうは言ってもありゃ危険だ、危険すぎる。アレが暴れれば国どころの話じゃ無ぇ。下手すりゃあ世界が滅びかねんぞ」

 

「その為に私たちがいるのですよ。幸いにもあの子は善良に育ってくれています。きっとあの子ならば力の使い方を違えないでしょう」

 

「そういう問題じゃねぇだろありゃ。あの力はレミリア自身も歪めちまう。いくらあいつが人らしい性格でも夜になっちまったら全部意味がなくなる」

 

「……」

 

 あの力で最も恐ろしい点、それは力の増加に伴って当人の人格が変化していってしまう事だった。

 ミサンガを作る前は、2人もレミリアの変化に驚きを隠せなかった。訳あって今の当人は覚えてないが、あの優しく人らしい性格のレミリアが、あそこまで残忍にされる、されてしまう。

 

「…儂としちゃあ、もうレミリアにあの力は使って欲しくねえ」

 

「それは私も同感です。…ですが」

 

「ああ、何れ儂等は死ぬ。そうなった時、アイツは1人で生きていくことになる。そうなりゃ、使わざるを得ないこともあるだろう」

 

 レミリアは仮にも吸血鬼。自分達人間よりもはるかに長い寿命を持っているだろう。そんな長い命の中、一度も能力を使わない保証などどこにもない。寧ろその人間によく似た性質上、他の妖怪に襲われることもある。きっと使わざるを得ない場面の方が多いだろう。

 しかし、だからと言って下手に言うこともできなかった。あの力はレミリアの精神に大きく左右される。下手に事実を明かして夜に暴発するなど目も当てられない。そしてそれ以上に人間として幸せに暮らしているレミリアを壊すような真似はしたくなかった。

 この事実を告げるということは彼女を人間から吸血鬼にしてしまうことと何ら変わりなかったから。かつて何十年と人間として吸血鬼を殺してきた二人だからこその悩みだった。

 

「…なんもできんのかねぇ、儂等は」

 

「………やはり言いましょう、爺さん」

 

「婆さん…!」

 

「そうしなければ後であの子が苦しむだけです。その術を教えるのが私たちの役目ですよ」

 

 それがレミリアを拾った自分達の、育ての親としての責任。

 人間として生きている彼女にこの事実を告げることは心苦しいが、彼女のこれからのためだ。自分達も覚悟を決めなければならない。

 

「……そう、だな。…分かった、後でレミリアを呼ぼう」

 

「レミリアは人となりが良い。きっとこれからの出会いが、レミリアを支えてくれます」

 

「…だと良いんだがな」

 

 お爺さんはそれ以上の言葉を紡げなかった。

 アレは正に夜そのものだ。人々が疲れを癒し、人ならざる者たちが活発になる時間。そんな中、ただそこに当たり前のように在り続けるもの。それが唐突に形を得てこの地上に襲いかかる脅威。それがあの力。

 アレはレミリア自身の意思関係なしに勝手に世界を滅ぼしていく。まるでこの大地そのものを欲しているかの如く。

 そんな力の持ち主がこの世界に受け入れられるのかと言われれば…

 

「…どうして神様は、あの子にあんなものを背負わせちまったんだろうなぁ」

 

「……そうですね、今だけは神を恨みます。ですがそれでも、あの子は生きていかなければいけないのです」

 

「……」

 

 お爺さんが難しい顔でだんまりとしていると、外の廊下からドタドタと走る音が聞こえてくる。何事だと2人は音のする方に顔を向ける。そして勢いよく襖が開かれた。

 そこには衣類を一切纏っていないレミリアの姿があった。それを見た2人は絶句する。

 

「じじじじーちゃん!ばーちゃん!むし!むしが風呂場に!しかもむかで!わさわさして、ちょーきもちわるいー!たしけて!」

 

「……あらあら」

 

「……お前はせめて拭き物を巻け!!女子(おなご)だろうが!!」

 

「いだぁっ!!!?」

 

 

 2人は祈る、この力が世界に牙を向く時が来ないことを。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「え?」

 

 フランは突然立ち止まる。

 

「はぁ、はぁ、あの子早すぎ…。って、どうしたのフラン」

 

 不思議そうに自分の両手を見つめる。その顔は困惑の色に染まっている。すると徐にそばにあった歪んだ岩に手を伸ばす。そして、握る。

 すると岩は突然爆散して、跡形もなく砕け散った。

 

「……能力が、戻ってきてる?」

 

「…確か御当主様に盗られたって言ってたわよね」

 

 しかし何故今?

 能力を奪ったアゼラルは既にその気配を完全に消している。すなわちレミリアの手によって倒されたということだろう。なら普通はその時に帰ってくるはずだ。回収したかもしれないレミリアの気まぐれという可能性もあるが、どうしても拭いきれない違和感があった。

 

 

「それに……お母様の能力が帰ってきてないわ…」

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

「…あら?」

 

「どうかいたしましたか、ルシェル様」

 

「い、いえ……、なにか…」

 

 ルシェルは自身の中に何かが入り込んだかのような感覚に襲われた。異物ではない、寧ろ懐かしいとさえ感じるその感覚にルシェルは覚えがあった。

 

「これってフランにあげた…」

 

『運命を操る程度の能力』

 それが今、元々の持ち主であったルシェルの身に戻ってきたのだ。しかし何故自分に?現在の持ち主はフランの筈だ。一体どうして自分の所に戻ってきたのだろうか?

 

(まさか、フランの身に何かあった…!?)

 

 ルシェルの中に不安がよぎったその瞬間、明らかに異質な気配がその場にいる全員を突き抜けた。

 これまで感じてきた力とは一線を画すかのようなもの。魔力とは根本的に何かが違うエネルギー。その言葉に形容し難い何かに全員の顔色が変わる。

 そしてそのエネルギーのデカさに美鈴は冷や汗を流しながら明確な危機を感じ取る。

 

(……ちょっとこれは洒落にならないかも。空を覆うとかそんな次元じゃ無い。空自体がエネルギーそのものになっている…?なんて無茶苦茶な)

 

「うわぁ!?」

 

「小傘!?」

 

「な、何これ…」

 

 そう腰を抜かす小傘が指差す先にある大木、その大木がまるで削れるように消えていた。消えた先にあったのは夜空だけ。

 それだけではない、よく周囲を見れば他の木や地面も同様の現象が起こっていた。虫食いのようにジワジワと足場が消えていく。

 

「これは…!」

 

「一旦この場から逃げましょう!ここは危険です!」

 

 美鈴の声に全員が森を走り抜ける。

 その最中見えた光景は誇張なしに世界の終わりだった。星空の塊のようなものが次々と地面に降り注ぎ、この幻想の地を消していく。小傘が見知った場所も、幽香がよく通っていた花畑も、全てが夜に飲まれていく。

 何だこれは。これではまるで空が大地を喰っているようではないか。

 全員がその光景に戦慄している中、ルシェルは1人悲しそうな表情を浮かべる。

 

(この力…、かなり形は変わってしまっているけど、間違いない、レミリアだわ…!何故…どうしてこんな事を…!!)

 

 この現象もおそらくはレミリアの仕業だ。

 状況はさっぱりわからないが、向こうで何かしらのトラブルが起きていることは違いなかった。

 一刻も早くレミリアの下に行くために、ルシェルはただ走りを早めた。

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ…!はぁっ…!はぁっ…!」

 

 起こった。起こってしまった。最悪の災厄が。

 この侵食速度はレミリアの力に比例している。このままでは数分もしないうちに幻想郷の大地は完全に地図から消えるだろう。それだけじゃない。幻想郷を消した後は外の大地にも侵食して、甚大な被害をもたらす。それはきっと地球が消えるまで止まらないだろう。

 止める手段は二つ。朝日を待つか、この手にあるミサンガをレミリアの身体に結びつける事。

 

「はぁっ…!……レミリア!!!」

 

 いた。

 大地の中にできた大きな夜の虫食いの上にレミリアは佇んでいた。近くの地面には数人の知らない顔の人物が倒れている。よく見れば先程咲夜が助けた狐妖怪もいた。

 そしてその背にある翼の数は、4つ。

 

「…ああ咲夜!無事だったのね。ちょうど終わったところよ」

 

「…レミリア、もう帰ろう。戦争も終わったし、主犯も倒したんでしょ?だったらもうその姿になる意味ないよね?ほら、ミサンガ持ってきたし…」

 

「咲夜」

 

 ビクリッと肩を震わせる。

 レミリアはいつもの優しげな表情で言葉を続ける。

 

「私、今とても気分が良いの。星空もこんなに綺麗で、良い夜だわ。…だからね、まだ終わりたくないなー…って」

 

 

 

 目が遭う

 

 

 

(や、やっぱり違う…!レミリアじゃない…!)

 

 あの時と同じだ。

 レミリアだけどレミリアでは無い。口調も雰囲気もレミリアそのもの。しかしいつもの優しさと温もりは微塵も感じられなず、代わりに鉄のような冷たさと無機質さがあった。まるで人から別の何かに変わってしまったかのように。

 

「咲夜ー?」

 

「……このままじゃ幻想郷が消えちゃう。だからもうやめて、お願いだから…!」

 

「いーじゃない別に。それに私最近ストレス溜まってたのよねー、だからここらでぱーっとやっちゃおうかなって、ね?」

 

「だめ…絶対ダ」

 

「さーくや」

 

 ゆっくりと咲夜は抱きしめられる。普段通りの、いつもレミリアがしてくれる抱擁。だがその人肌から温もりというものは一切感じられない。あるのはただの冷めた身体だけ。まるでその白い肌から下が空っぽのような感覚。

 咲夜は動けなかった。今がミサンガをつける絶好の機会だというのに、身体が言う事を聞かなかった。

 すると強烈な眠気が咲夜を襲った。レミリアの能力の本質の一つ、安泰と安らぎ。他者の睡眠欲を限界まで引き上げる夜の権能だ。

 

 咲夜の意識が完全に途切れる寸前、突然2人の周囲から歪みのようなものが現れる。

 

「!?」

 

 弾けたような音と共に歪みから一斉に攻撃が放たれる。思わず咲夜は目を瞑るが、その攻撃は全て2人に当たる前に溶けるように消失してしまった。

 

「折角お友達と団欒中だったのに、随分無粋ね」

 

 そうレミリアが視線を送る先にいたのは管理者八雲紫だった。

 だがレミリアの権能によってその足元はおぼつかなく、今にも倒れてしまいそうなほどに弱々しい。その表情からは普段の覇気は微塵も感じられなかった。

 

「瞼の重さも限界なのによく頑張るわね。もう楽になったら?そこに転がってる人たちみたいに」

 

「貴女を…幻想郷の為に…ここで討つ…!」

 

「幻想郷のため?おかしな事を言うのね。貴女が封印なんて馬鹿な真似をしなければ、こんなことにはならなかった。私は優しいままだった」

 

「…ッ」

 

「最初から私の邪魔さえしなければ全部丸く収まったのに、余計な蛇足がついたせいで、この幻想の世界は儚く散るの。残酷にね」

 

「……確かに、こうなったのは私の責よ……。私の選択の誤り。でも、私はこの幻想郷の親…!黙って貴女に壊させるわけにはいかない…!」

 

「あっそ」

 

 心底どうでも良さそうにレミリアは吐き捨て、そのままレミリアは紫の下へとゆっくり歩いていく。

 

「貴女がどれだけ崇高な志で動いてるのかは知らないけど、この幻想郷はもうお終いよ、お終い。───だって私が食べちゃうもの」

 

 そう嗤うレミリアの口の中は、吸い込まれそうな宇宙(そら)色。

 紫は素早く手をレミリアに向け、能力を行使しようとする。しかしその瞬間、痺れるような感覚が腕を伝い、弾かれた。

 

「その力、ものの境目を操るのかしら?面白いわね」

 

「…ッ」

 

「じゃあ勝負しましょう?どっちが強いか」

 

 紫とレミリアは同時にその手を互いに向ける。

 紫は全力でレミリアの有と無の境界を破壊しようと試みた。先程とは違い、ちゃんと手応えはある。だが、相手の境界は全く動かない。まるでガチガチに溶接された巨大な鉄を素手で剥がそうとするかのような感覚。

 それは紫とレミリアの間にどうしようもない力の差があることの証明だった。

 

「ほらほら、ちゃんと力みなさいな」

 

「ぐうぅ…!!!」

 

 肉体の限界を超え、目や鼻から血が流れ出る。しかしその手は決して緩めない。ここでこの存在を止めなければ幻想郷は終わる。幻想郷を生み出し、今日まで見守ってきた者として、たとえどれだけ絶望的でも一歩たりとも退く訳にはいかなかった。

 

「飽きたわ」

 

「え」

 

 レミリアは紫を指差した。

 その瞬間、紫の顔中から血が噴き出て、膝から崩れ落ちた。頭のナイトキャップが地に落ちる。

 レミリアは倒れ伏しそうな紫を優しく受け止めた。着ているドレスに血がへばりつく。

 

「フフッ、お勤めご苦労様。お給金も出ないのによくやるわねぇ」

 

「あ…ぐ…」

 

 瀕死の傷を負っても、紫は未だ能力を使おうと、止まらない。

 

「まだ諦めないのね。…あ、じゃあ、良いもの見せてあげる」

 

 そうレミリアは紫を優しく抱き上げ、そのまま上空へと上がる。

 幻想郷の大地を一望できる程の上空。普段ならば絶景と言えるそこから見える光景は、今や見る影もないほどに変わり果てていた。

 大地を貪り食う夜空から飛来した星空、夜に侵食されていく山々、まるで破れた紙のように散っていく楽園の食いカスたち。

 それを見て紫は歯噛みする。

 

(ごめんなさい…、必ずいつか元に戻してみせるから…)

 

「私知っているわよ。この幻想郷を囲ってる博麗大結界はその力の大半が博麗神社の要で成り立っているって。だからこの楽園にとっては生命維持装置のような代物。…………さて、それを踏まえてだけど、これなーんだ?」

 

 そうレミリアが何処からともなく取り出したもの。

 マトリョーシカのように何重にも重なった透明な立方体。その一つ一つが立方体の中でゆっくりと回転しており、七色の光が中で乱反射している。それを見て紫は息が止まる。

 それは博麗神社の建つ山深くに厳重に安置されているはずの博麗大結界の要そのものだったからだ。

 

「……な、なんで…なんで!!」

 

 今のレミリアは夜という世界全てを意のままに操ることができる。つまりそれは文字通り幻想郷の全てを掌握しているということに他ならない。最早、この世界を生かすも殺すも彼女次第なのだ。

 

「正直、食事の邪魔なのよね。私ショートケーキ一つじゃ満足できないの。もっともっと、山盛りのパフェが食べたいのよ」

 

 やめて、お願い。

 レミリアの力のせいか、そう声を出すことすらも紫には許されていなかった。結界の要は目と鼻の先にあると言うのに、紫は一切体を動かすことができず、能力も使えない、何もできない。だがそれでも必死にその幻想郷の命を掴もうともがこうとする。

 

「ばん」

 

 それは紫の目の前で儚く砕け散った。

 

「あ………あああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 砕けた、砕けてしまった。この楽園を支える最後の柱が。

 

 辺りに無情に響くその叫びは、紛れもなく八雲紫がこの幻想郷を愛していた証だった。

 紫の絶叫の裏で幻想郷を護る何かが静かに崩れていくことをレミリアは察し、紫にゆっくりと顔を近づける。その顔は恐ろしいほどに慈愛に溢れた笑みだった。まるで年端もいかない子供を宥めるような、そんな優しい表情。

 

「うぁ…ああ、あああああ…!!」

 

 とめどない涙を流す紫の耳元で囁くように言う。

 

「泣きやすいのは疲れている証拠。大丈夫よ、目が覚めたら全て終わっているわ。───だから、もうおやすみなさい」

 

「ぇぁ」

 

 紫の視界にレミリアの手が当てられ、そのまま星空に呑まれる───

 

「レミリア!!!」

 

 その瞬間、その腕に銀のナイフが突き刺さる。そしてナイフの柄の部分にはあのミサンガが。

 

「!」

 

 レミリアは咄嗟にナイフごと腕を切り落とし、その場から飛び退く。

 咲夜は紫を抱えてレミリアから離れるように地上に降りる。

 

「あら危ない……フフッ、前はこれでしてやられちゃったからね」

 

 咲夜は歯噛みする。

 このミサンガはレミリアの身体に近づけば勝手に結ばれる仕組みになっている。前回はこの性質を利用して隙をつくことで何とかできたのだが、流石に同じ手は通じないようだ。

 

 懐中時計を確認する。

 今の時刻は0時。つまり夜明けまで約6時間近くあることになる。そんな時間を待っていられる余裕はない。つまりレミリアを止める為にはミサンガを身体に結ぶしかないわけだ。

 はっきり言って絶望的だ。だがやるしかない。

 ミサンガの予備はあと3つ。本当に取り返しがつかなくなる前に、何としてもレミリアを止める必要がある。

 

 咲夜は自身の知らない表情で嗤っているレミリアを睨みつけながら、覚悟を決めた。

 

 

 

 

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 ***

 

 

 

 

 

『私ね、時々自分が怖くなるの』

 

『…え?』

 

 なんの前触れもなく、突然レミリアはそう言葉をこぼした。その表情はレミリアにしては珍しく沈んでいて、いつものハキハキとした言葉遣いでもない。

 パチパチと焚き火の薪が割れる音だけが森の中に静かに響く。

 

『夜の姿になるとね、だんだん私は私じゃ無くなるの。いつもの私なら絶対にやらない事を平気でしちゃうし、他人の幸せを奪ってもなんとも思わなくなっちゃう』

 

 レミリアの能力は力が増し続けると同時にその人格も少しずつ変異してしまう。状況によって程度は異なるが、少なくとも翼が4つ出れば、今のレミリアの性格はほとんど消えると言っても良い。人外らしい非情な一面が顔を覗く。

 しかしこれはどちらもレミリアなのだ。言ってしまえばただ考え方が変わっただけの同一人物。昼と夜の姿と性格、両方ひっくるめてレミリアという存在だ。

 

『それで気づけばいつの間にか村や町が消えちゃってる。でも確かに私が自分の意志でやったことだけはわかるの』

 

 それがレミリアの苦悩。

 レミリアは夜になると変わってしまう自分が怖かった。平然と他者を殺してしまうことが、何よりそれを普通と感じてしまう自分が、恐ろしくてたまらなかった。

 いつか自分の大切なものでさえ、この手で壊してしまうのではないかと。そう思わずにはいられないのだ。

 

『ねぇ、咲夜』

 

『……なに?』

 

『もし私が馬鹿みたいなことしようとした時は、止めてくれる?』

 

『……レミリアと私は友達。止めてみせる』

 

『ふふ、ありがと』

 

 

 そう笑うレミリアの顔はいつもの明るいものだった。

 

 

 

 

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 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちょっと、何よこれ」

 

「……」

 

 開けた場所に出たパチュリーとフランの目の前にあった光景は、筆舌にし尽くしがたかった。

 本来あるはずの場所に地面は存在せず、そして空があるはずの場所には地面と呼べるかどうかも怪しい残骸がそこかしこに漂っている。

 

「…正直、私の理解を超えてるわ。何をどうしたらこんな悍ましいことになるのよ」

 

「…………」

 

 フランドールはそれを見ながら呆然としていた。

 これはレミリアの力だ。だいぶ変質してしまっているがそれは間違いない。そのはずなのだ。だが……

 

(なんでこんな嫌な感じがするの…?)

 

 力自体は凄まじい。未だ底を見せないレミリアの魔力は最早魔力という括りを超えて一種の概念に近い力となっている。その力を感じ取った時はフランも興奮したものだが、一つ違和感を感じた。

 その力から感じる悪意にも似た嫌悪感。フランはレミリアを知ってまだ時は浅い。だが少なくともこんな意志を持って力を振るうようなことはないと言うことは理解していた(それはそれでアリだが)。だからこそフランドールは困惑する。

 

「それよりもあの人間は何処にいったのよ。見当たらないけど…」

 

 その場の何処を見渡しても十六夜咲夜の影は無い。見知らない誰かが数人倒れてるだけだ。

 よく見れば、戦争の初っ端にこちらの軍団に特攻してきた鬼2人もいる。ここにいた何かにやられたのだろうか。

 

(この2人がやられるなんて半端じゃないわね…)

 

 兎に角、咲夜を完全に見失ってしまった。探知の魔法もこの環境では機能しないだろう。

 これからどうするかの判断をフランドールに仰ごうとする。

 

 と、その時、フランドールの耳が誰かが草をかき分けて走る音を捉えた。1人ではない、複数人だ。そしてそのまま音の発生源らは森から飛び出してきた。

 

「あっ、森出ましたよ!」

 

「ひーっ、ひーっ、ほ、ほんと?」

 

「ええ。…あの星も追ってきてませんし、なんとか逃げ切れたみたいですね。あー、死ぬかと思った…」

 

 森から出てきたのは小傘たち一行だった。レミリアの魔力を辿りながら、降り注ぐ星から逃げていた小傘たちはようやく落ち着ける場所に出ることに成功した。

 フランとパチュリーは何事だとその集団を観察する。するとその中には幾人かの見知った顔が…

 

「………お母様?」

 

「フラン!」

 

 ルシェルはフランを見た瞬間に走った疲労も関係なしにフランの下へ駆け出し、勢いよく抱きしめた。

 

「よかった…!無事だったのね…!」

 

「ぅん、むっ…お、お母様…」

 

 ルシェルは目頭に涙を溜めながらフランを胸に埋める。

 

「大丈夫?怪我はしてない?何も無かった?」

 

「…うん、お姉様が…レミリアお姉様が助けてくれたんだ…」

 

「……そう、そうなのね。レミリアに…会ったのね…」

 

「お母様も…?」

 

「うん…うん、私もあの子に助けられちゃった…。でも今はフラン、貴女が無事で本当に良かったわ…」

 

「あ………」

 

 久しく聞いた母親の言葉からは確かにフランを思いやる気持に溢れていた。望んだ母の声が、望んだ温かさが今ここにあった。フランドールはそんな母親の温もりに充てられる。

 

(ああ、お母様は、私を見ていなかったわけじゃ無かったのね……)

 

 きっと自分が母親のことを見れていなかったのだろう。奪われたって勝手に勘違いして、それで姉にも迷惑をかけて…。結局はフランの1人走りだったのだ。何がお母様を返せだ。悪いのは何も理解しようとしなかった自分ではないか。母も、姉の愛も。

 こんなにも、愛されていたのに。

 

 その目からポロポロと大粒の涙がこぼれた。

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「…もしかして2人は家族なの?」

 

「その通りでございます、フラン様はルシェル様のご令嬢。私とルシェル様は御当主様の命によって長い間地下室におりました。なのでこうしてお二人が会うのは約50年ぶりほどになります」

 

「ご、50年…。そんな長い間会えなかったなんて…」

 

 50年。妖怪から見れば短いようで、長い時間。きっとお互いにとても苦しかったのだろう。会いたい人に会えないというのは。

 

(わちきもレミリアと会ってなかったら……)

 

 …なんて、今考えても仕方ない。

 2人のやり取りをもう少し見ていたい気持ちもあったが、今はレミリア優先だ。ようやく見通しの良い…とはあまり言えないが、脅威に追われない場所に出れたのだ。小傘は近くにレミリアと咲夜がいないかを調べる。

 

「…あれ、橙ちゃん…?橙ちゃん!?」

 

 小傘の視線の先にいたのは先ほど別れた橙だった。小傘は慌てて倒れ伏す彼女に駆け寄る。

 

「大丈夫!?ねぇしっかりして橙ちゃん!!」

 

 しかし小傘がいくら揺さぶっても橙は目を覚さない。小傘の頬に嫌な汗が流れる。

 

「そ、そんな…」

 

 まさか、死…

 

「すぴー…すぴー…」

 

「…え?」

 

 …いびき?

 よくよく橙の様子を見ると、どうやらただ寝ているだけのようだった。小傘は肩の力が抜ける。

 

「よ、良かったぁ…」

 

 よく周りを見れば先ほど会った藍を含めて他にも人が何人か倒れている。しかし皆、橙と同様にぐっすり眠っているだけだった。

 

「…管理者の式神に鬼の頭領…幻想郷の実力者ばかりね。一体何があったのかしら」

 

 幽香から見ても、自身より圧倒的な実力を持つ彼女たち(幽香視点)がこんなところで呑気に寝るとは考えにくい。ならば何者かの仕業だろうが…

 

「…さっきぶりね、風見幽香」

 

「貴女は…」

 

「あっ!?確か賢者の石にいた…!」

 

「パチュリーよ、パチュリー・ノーレッジ。一応言っておくけど私はもう貴女たちと闘う気はないわ。あれば私の負けよ負け、完敗。だから攻撃してくるのはよしてくださいな」

 

「…こんな時に終わったことを掘り返すほど私は暇じゃ無いわ」

 

「なら有難いわね」

 

 パチュリーは寝ている橙に近づき様子を確認する。

 

「目立った外傷も魔法を使われた形跡もなし、呼吸もしっかりしてるから気絶してるわけでもなし……本当にただ寝てるだけね。不自然なほどぐっすりと」

 

 たが本当にただここで寝ているわけでもあるまい。何かしらがあったはずだ。幻想郷の実力者が綺麗に全員伸びるほどの何かが。

 パチュリーが思考を深めていると、背中のお荷物からもぞりと動く感触がした。

 

「っは!?…あれ、パチュリー様?なんで私背負われて…もしかしてあれは夢だった!?よかった!」

 

「残念ながら現実ね。ほら、さっさと降りなさいこの駄目悪魔」

 

「いたっ」

 

 パチュリーは未だ寝ぼけている小悪魔を地面に落とした。

 小悪魔は呆然としながらも辺りを見渡す。そしてみるみるうちに顔を青くしていく。

 

「ゆ、夢じゃ…無かった…」

 

「だから言ってるじゃない」

 

「な、なんでパチュリー様はそんな落ち着いられるんですかぁ!」

 

「もう一周回って諦観してるだけよ。いちいち難しく考えてたら頭がパンクするわ」

 

「そう言う問題じゃないんですよ!!このままじゃあ私たちはあの方に消されちゃうんですよ!?」

 

「…そういえばそんなこと言ってたわね。貴女、何か知ってるの?」

 

「そんなこと話してる暇無いんですって!今は早くレミリア様を探しにいきましょう!じゃないと本当に手遅れに…!」

 

 

「────レミリア?」

 

 そう反応したのは小傘だ。

 

「な、何でそこでレミリアの名前が出てくるの?」

 

「なんでって…レミリア様がこの現象の原因だからに決まってるでしょう!?」

 

「そ、そんなはずない!!だってレミリアは弱いけど心は強くて優しくて…こんなことするはず無くて…!」

 

 小傘は焦燥する。

 この異変の原因がレミリア?馬鹿なことを言うな。そうだとしたらレミリアは幻想郷を滅ぼそうとしていると言うことになる。そんな訳がない!

 

「小傘、落ち着いて。貴女の知るレミリアとは違うのでしょう?なら別人の可能性の方が高いわ」

 

 幽香に諭され、小傘は一旦落ち着く。そうだ、レミリアはそんなことをする妖怪じゃない。それにこんな馬鹿げたことをする力も無いはずだ。これがレミリアの仕業なわけ…

 

 その時、何かが弾丸のように空から降ってきた。それは地面を削りながら勢いを落としていき、静かに止まる。

 全員が視線を向ける中、土煙が晴れた先にいたのは、紅白の服を着た人間だった。

 

「博麗の巫女…」

 

 唯一彼女と不本意ながら拳を交えたことのある幽香が反応する。

 なんと空から降ってきたのは博麗霊奈だった。身体中が擦り傷だらけの霊奈は蹲った体制からゆっくり起き上がり、腕に抱えたものを確認する。

 

「ゲホッ、ゲホッ…!…おい、無事か?」

 

「…うん、何とか。助かった」

 

「咲夜!?」

 

 霊奈の腕には咲夜が抱えられていた。咲夜には目立った外傷はない。

 

「な、なんで咲夜が空から…」

 

「ッ!来るぞ!」

 

「!」

 

 

「あっ、みんな揃ってるじゃない!」

 

 

 その声がした方向へ全員が視線を向ける。

 そこにいたのは4つの翼を漂わせた、その場にいる全員の探し人。

 

「……レミリア」

 

「凄いわね!全員集合してる!何何?何かの集まり?私を呼んでくれないなんて薄情ねぇ」

 

 そうキャッキャと子供のように喋るレミリア。放たれる存在感に反した余りに軽い喋りに、皆は何も反応することができなかった。

 

 なんだアレは?

 元のレミリアを知る者も知らぬ者も皆一様の感想を抱いた。あまりに異質、しかし何処か落ち着く気配。しかしその場にいる誰しもがその目の前の存在に対して、脳味噌に強烈な危険信号が送られる。

 

「れ…レミリア?」

 

「ん?あっ、ルシェル!さっきぶりね」

 

 そう言うとレミリアは一瞬でルシェルの目の前に現れる。空を突かれつつもルシェルは困惑のままレミリアを見据える。

 

「………ねぇ、貴女は本当にレミリア…なの?」

 

「ええ、そうよ。この地球が生み出した超絶美人のレミリアよ!ふふっ」

 

「………」

 

 違う

 確かに姿はさっきあった時とは随分違うが、そうじゃない。言葉にし辛いが、目の前の存在はあのレミリアとは、根本から異なっている。そんな確信にも近い直感があった。

 だが目の前の存在は、あの時別れた紛れもないレミリア本人だということは確かだった。一体彼女の身に何が起きた?

 纏まらない思考と感情の中、ルシェルは1番気になることを聞く。

 

「…レミリア、この惨状は…貴女の所為なの?」

 

「え、うん。そうだけど」

 

 あっけからんとレミリアは言った。

 嫌な汗が頬を伝う。

 

「どうして…こんなことを…?」

 

「どうしてって……そうね、お腹が減ったからじゃないかしら?ほら、ルシェルだってお腹が空いたら好きなものを食べたくなるでしょ?それと同じよ」

 

 ルシェルにはレミリアが何を言っているのかが理解できなかった。食べる?この幻想郷を?なんで?お腹が空いた?

 思考がごっちゃになったルシェルは一体どうしたら良いのか分からず、その場に立ち尽くす。

 

「そこの吸血鬼!離れて!」

 

 その声と同時にフランが動き、ルシェルをレミリアから引き離す。

 

「あっ」

 

「はぁッ!!」

 

 霊奈の上段の飛び蹴りがレミリア目掛けて放たれる。しかしそれは、目の前の見えない何かに阻まれる。

 レミリアはそれを意にも返さず、そのまま弾き飛ばす。

 

「ぐぅッ!?」

 

 霊奈が吹っ飛ばされると同時に咲夜がレミリアに懐中時計を向け、そのままダイアルを押す。

 

「五重停止」

 

 瞬間、レミリアの時間が止まる。時間の停止を五回重ねかける技。止まった時間でも平気に動くレミリアだからこそできる力技だ。

 

「可愛いわね」

 

 しかし数瞬と経たない内にレミリアは再び動き出そうとする。適応能力が半端では無い。今のレミリアには時間停止など紐を解くように解いていく。

 

(やっぱり効かない!!)

 

「いや、十分だ」

 

 咲夜のおかげで余裕ができた。少なくとも、この場にいる全員を避難させるくらいには。

 霊奈は懐から折り畳まれた札のようなものを取り出し、それを開く。そしてすかさず地面に叩きつけた。その瞬間、地面が見えなくなるほど深い巨大な穴が開く。

 

「ええええ!?」

 

 ルシェルが叫ぶ。

 そのまま霊奈を除いた全員が穴の中へと吸い込まれるように落ちていく。いや、実際吸い込まれているのだ。

 幻想を傷つけてしまう霊奈は一緒には行けないが、少なくとも管理者である紫たちが無事ならばまだ巻き返せる可能性はある。

 

(紫、後は頼むぞ…!)

 

 レミリアは動かず落ちゆく彼女らを見送る。

 

「逃げるの、そう、逃げるのね。…まぁ、デザートは最後まで取っておくのがセオリーだしね」

 

 そう言うレミリアの表情は少し寂しげで。

 小傘は我慢ならず吸い込みに抗うように空を飛び、声を上げる。

 

「レミリア!!」

 

「!」

 

 小傘とレミリアは向かい合い、互いの目が合う。

 

「……来てたのね、小傘」

 

「レミリアッ…!」

 

 言いたいことは山ほどあった。だが今にも持っていかれそうな体を堪えるのに精一杯でそれ以上の言葉を紡ぐことができない。そんな小傘を見てレミリアは小さく言葉を漏らす。

 

「あーあ、小傘だけには知られたくなかったんだけどなー…」

 

「…ッ、なんっ、でっ…!」

 

「まぁ、バレたものは仕方ないわよね。ほら、行きなさいな」

 

 小傘は突き放されるように優しく肩を押される。

 

「──!!」

 

「…待ってるわよ」

 

 

 視界が閉じる寸前のレミリアの表情が小傘の頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何とか、逃げ切れた」

 

 咲夜たちが落ちてきた場所は正に異空間と言うに相応しかった。紫色の靄がかかったような空間が果てし無く続いており、見たこともない物体が幾つも漂っている。そして地面らしき所には至る所に目玉のようなものが描かれていて非常に気味が悪い。しかしこんな場所でも現在唯一自分達の安全を確保できる場所であることに違いなかった。

 

 ここは八雲紫が作り出した境界空間。

 本来は境界を操ることができる八雲紫しか行くことはできないのだが、先程使った特注の札があれば、こうして入り込むことができる。主な利用用途は緊急の避難先。この空間は紫自身の手によって現実よりも時間の進行が遅くされている。なので一時の撤退先としては最適な訳だ。

 

「…で、どういうことか説明してくれるのよね?人間」

 

「……」

 

 咲夜に詰め寄るフラン。今どういう状況なのか、あのレミリアの現状は一体何なのか。それはこの場にいる全員の疑問だった。

 

「それは…」

 

 言葉が詰まる咲夜。今のレミリアの状態を話すということは、レミリアが日中では無力であることを教えてしまうということだ。その事実がどうしても咲夜に言葉を紡ぐ事を憚ってしまう。

 そんな咲夜の態度にフランは苛立ちが溜まっていく。そんな中、話を聞いていた幽香が口を開く。

 

「……言いたく無いなら別に言わなくても良いわ。もっと事情を知っていそうな奴が転がっているみたいだし」

 

 幽香はそう言って、鬼や藍たちと一緒に転がっている紫の上に立つ。

 

「起きなさい八雲紫、いつまで寝転がっているつもり」

 

「……」

 

 全員の視線が紫に集まる。確かに他に寝ている妖怪たちとは違って彼女には意識があった。彼女たちがレミリアにやられたのは明白。ならば何が起きているのかは知っているはずだ。

 しかし紫は幽香の呼びかけに何の反応も示さない。まるで魂でも抜かれたかのようにだんまりだ。そんな姿に幽香は痺れを切らす。

 

「そんなところで不貞腐れるのが貴女の仕事だったかしら?」

 

「…」

 

「…ハァ」

 

 こんな危機的状況で何もしない彼女では無い。

 確かに八雲紫は幽香をして苦手と言わざるを得ない輩ではあるが、少なくともこの幻想郷のことを本気で想っていることは知っていた。

 そんな彼女が今では何もかもを諦めてしまっているような顔をしている。こんな彼女を見るのは初めてだった。

 しかしこんな状況で何もしない彼女に、珍しく腹が立っているということも事実だった。幽香は紫の胸ぐらを掴んで持ち上げる。

 

「折れてんじゃないわよ八雲紫!!その御大層な能力と脳ミソは何のためにあるのかしら!?どっちも豪華な飾りね!何のために博麗の巫女が貴女を逃したのか考えなさい!!その脳味噌が装飾品じゃ無かったらね!!」

 

 幽香自身でも驚くぐらい大きな怒号が出た。

 

「…………貴女に」

 

 紫は幽香の胸ぐらを掴み返す。

 そして溜まった激情をぶちまけた。

 

「貴女に何がわかるのよ!!幻想郷の大地は食い尽くされている!結界の要も完全に壊された!!幻想郷はもう数分もその形を保つことはできない…!!終わったのよ、楽園は…!」

 

「…じゃあ諦めるのかしら」

 

「諦めるしか、ないじゃないの…。あんな化け物、手の打ちようが無いわ…」

 

「その化け物相手にまだあの巫女が命削って時間を稼いでるのに?」

 

「………」

 

「貴女がどう思おうが、あの巫女は貴女がどうにかしてくれるって信じて逃したのよ。そのお前がこんなザマなんてアイツも浮かばれないわね。無駄死によ、無駄死に」

 

「……」

 

「何もしないなら私は貴女を歴史的な腑抜けとして軽蔑し続けるわ。貴女の大好きな幻想郷はまだ終わってもいないし、探せば巻き返しようもある」

 

「無理よ、だってもう結界の要が…」

 

 博麗大結界は外の世界の現実を断絶するためにあったものだった。あの結界があったからこそ、幻想郷には妖怪たちが存在を確立できて、生活できていた訳だ。それが無い今、幻想郷が自然崩壊してしまうのは時間の問題だった。

 

「それは無いわ」

 

 幽香はきっぱりと言い切る。

 

「え?」

 

「見てたならわかるでしょ。あの存在は幻想郷を食べるために自分の魔力を大量に出して幻想郷を喰ってるわ。そう、本当に沢山、この幻想郷全体を包み込むくらい沢山ね」

 

「…あっ」

 

 つまりはレミリアの莫大な力が外からの悪影響を防いでいるのだ。そうでなければ要が壊された時点で幻想郷は塵のように消滅している。

 しかしそれでも多少崩壊が遅れる程度で、どの道レミリアに食い尽くされることに違いは無い。アレを相手にするには未だ光明も見えない。それに結界が消えた今、仮に今ある問題を全て解決しても、幻想郷に妖怪たちが生活できる環境はそこには無かった。

 すると、そばから見ていただけのルシェルが紫に歩み寄り、目の前でしゃがんで目線を合わせた。

 

「…貴女は」

 

「初めまして!私はルシェル・スカーレット。お近づきの印にお茶会でもいかが?…っていつもなら言うのだけれど、今は大変なことになってるのでしょう?」

 

「スカーレット…。そう、貴女がアゼラルの…」 

 

「だから私たちが協力するわ!貴女の幻想郷を守るために!」

 

「え?」

 

「だからお願い!知ってる事を教えてほしいの!今私たちには情報が必要なの」

 

「ちょ、ちょっと待って!!」

 

「ど、どうしたのかしら?何か問題でも…」

 

「あ、貴女は幻想郷に来たばかりなのでしょ!?なんでそんな…」

 

 彼女はこの幻想郷に何の思い入れも無いはずだ。それに彼女の同族も沢山殺したし、こんな状況でなければ自分も彼女の首を刎ねている。何でそんな相手に迷わず手を差しのばすのだろうか。紫は一体何が狙いなのかが分からず警戒する。

 

「…私ね、この幻想郷のこと、結構好きなのよ?自然もいっぱいで、私の知らないものばっかりで、お散歩するのもワクワクしてたり…」

 

 そう言うルシェルの表情は心底楽しそうで、純粋で、とてもあの吸血鬼たちと同類とは思えなかった。

 

「それに何よりあの子が好きな世界、あるべき居場所。なら、母親として守ってあげないとね!」

 

「まぁ、ルシェル様ならそう言いますよねぇ」

 

「ルシェル様がそう言うのであれば、私たちも」

 

 紫は呆然とする。すると、突然誰かに頬を鷲掴みにされ、上に回される。

 

「…フランドール・スカーレット」

 

 つい先程まで敵対していた彼女。冷たい目で紫を見下ろしながら、不服そうな声色で話し始めた。

 

「正直貴女に手を貸すなんて死んでも嫌だけど、お姉様とお母様に免じて今回だけは貴女の望みに乗ってあげる。感謝なさい」

 

「…まぁ、フランがやるなら私も行かないとね。それに、あんな存在を見たら黙っていられる道理はないわ」

 

「え、嘘ですよねパチュリー様?本気であの方のところに行くんですか!?その知識欲は身を滅ぼしますよ!?」

 

「命令よ、小悪魔。私と来なさい」

 

「しょんなぁー!!幻想郷と一緒に死んじゃいますよー!?」

 

「そうはならないわ。でしょう奥様」

 

「ええ、そんな運命は見えない。幻想郷には明日があるわ!」

 

 ルシェルは堂々と、紫の前でそう言ってのける。そんな姿に紫は一瞬気圧された。彼女は今まで自分が出会ったことのないタイプの妖怪だった。力自体は紫から見てもとても脆弱、しかしそのお人好しは人間でもそう見ないほどで、底抜けに明るい。まるで太陽のようだ。吸血鬼である彼女が太陽と揶揄するなど皮肉も良いところだが、そう見えてしまったのだから仕方ない。

 少なくともこの絶望的な状況で足掻こうとするその姿は、不思議と紫には眩しく見えた。

 

「ほら、幻想郷に来たばかりの彼女たちが頑張ろうとしてるのに貴女が呆けてどうするのよ」

 

「…貴女に背中を押されるなんて、藍に言ったら驚きで失神しそうね」

 

「馬鹿言わないで頂戴。貴女は普段通り幻想郷の為に脳味噌を使えば良い」

 

「……ありがとう。礼を言うわ、風見幽香」

 

 そうだ、こんなところでこの幻想郷の未来を諦めるわけにはいかない。

 

「………どうも」

 

 そう言って紫はルシェルたちの下に歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

(し、死ぬかと思ったぁーーーー!!!怖っ、八雲紫怖っ!?胸ぐら掴まれた時なんて消し炭になるかと思ったぁーー!!ありがとう吸血鬼さん!おかげで私のか弱い命は救われました!!おかげでなんかうまい感じに丸く収まったし、良い方向に向かっていったし?……な、何とかなったのよね?やはり許さんシヌがよい!とか言って不意打ちされないわよね!?)

 

 未だバクバクと収まる様子を見せない心臓を抑えながら、幽香は一旦小傘のところに戻る。未だ緊張が解けず、言葉の端々に力が入ってしまう。

 

「コ、小傘、戻ったわよ」

 

「あっ、幽香。お疲れさま…」

 

「…?」

 

 幽香は内心首を傾げる。

 さっきと比べて明らかに元気がない。一体どうしたと言うのか。幽香は咲夜を見やり、咲夜は僅かに萎縮する。

 

「小傘に何かしたのかしら」

 

「さ、さっきまでのことを話してただけ…」

 

「…そういえば貴女博麗の巫女と一緒にいたわね。知り合いか何かかしら」

 

「霊奈は途中で殴り込んできただけ。流れで共闘になった」

 

 実にあの巫女がやりそうな事である。以前幽香が八雲紫といざこざを起こした時も横から突然飛び蹴りをかましてきたものだ。おまけに話を全く聞かないときた。あの巫女は喧嘩を売らなければ話もできないのか。鬼でももう少し順序良く喧嘩をする。

 そんな2人のそばで小傘は顔を俯かせ、思い悩むように手に持っている傘の柄をぎゅっと握る。そして何かを決心したかのような顔で前を向いた。

 

「ねぇ、2人とも!」

 

「どうかしたの?」

 

 

「…お願いが、あるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 多々良小傘は唐傘妖怪だ。

 何十年と使い古された唐傘が持ち主に捨てられたことで、その執念によって付喪となった妖怪。しかし既に小傘の持ち主はこの世を去っていた。行き場のない執着は何処にも向かうことはなく、小傘は自身の存在意義を見失ってしまった。しかし未だその身が消えぬのは小傘自身の心が満たされていないから。小傘は寂しかったのだ。自分が必要とされてないことが、自分の隣に何者もいないことが、誰も多々良小傘に見向きもしてくれないことが。

 だから人を驚かすことを始めた。小傘はその手に持つ妖怪化した傘を除けば人間に近い容姿だったので、人間の里に忍び込み、毎晩のように人を驚かそうとしていた。しかし小傘は人間に毛が生えた程度の弱い妖怪。そんなものよりも、はるかに恐ろしい妖怪を知っている里の人々には見向きもされなかった。小傘は内心焦ることになる。

 

(ど、どうしよう…!誰も驚いてくれない…。このままじゃわちき…)

 

 小傘は他人の驚愕の感情を食べることで腹を満たす。食べなくても死なないわけではないが、とんでもない飢餓の苦しみが待っている。そうなれば動くことすらままならなくなるだろう。

 

(それに誰にも見向きされないまま終わるなんて絶対嫌だ!誰か…誰でもいいからわちきを…!)

 

 そんな折、目に入ってきた夜道を歩く人間。暗がりで良く見えないが、どうやら少女のようだ。鼻歌を唄いながら上機嫌そうにこちらへと歩いてきている。ふと、以前男児に笑われてしまった苦い記憶が脳裏を過るが、それでもと近くの物置に身を潜める。そして足音が真横を通ろうとしたところを一気に──

 

「おどろけーーっ!!」

 

「わっひゃあっ!!!!?」

 

 少女は小傘の想像の120%のリアクションをとった。

 少女はそのまま足を滑らせ、思いきり後頭部を打つ。そして白目を剥いて失神した。

 

「…………えっ?」

 

 唖然とする小傘。10秒ほどその場に立ち尽くし、少しずつ状況を把握して、一気に顔が青ざめる。

 

「うわわわわあぁーーー!?ごめんなさーい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「心の臓が止まるかと思ったわ…」

 

「ご、ごめんね…」

 

 里にある団地。そこで小傘は目を覚ました少女と共に置かれている丸太に腰掛けていた。

 

「それにしても貴女だったのね!最近里で人を驚かしてるって妖怪は」

 

「う、うん…、全然驚いてもらえないけど…」

 

「私は死ぬかと思ったわよ」

 

 少女はそう言いながら後頭部をさする。

 どうやら少女から見れば小傘の驚かしは相当ビックリしたらしい。

 

「やっぱり人間を驚かすのはダメよ!命に関わるわ!今後私みたいな被害者が出てこないとも限らない!」

 

 多分それは彼女だけだと思う。小傘は内心呟く。

 

「だからこれからは人を驚かすの禁止!」

 

「そっ、それは困るよ!わちき人の驚いた心を食べないとお腹空いて動けなくなっちゃう…」

 

「…だったらこうしましょう、貴女は里の人たちを驚かすのは今後禁止。そのかわり、私のことはいつでも驚かしていいわ」

 

「…えっ?」

 

「そうすればいつでもお腹いっぱいになれるわ!私天才!」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「どしたの?…あ、もしかして人によって味が変わったりする?だったら私の友達を…」

 

「そう言うわけじゃなくて…!な、なんでわちきのためにそこまでしてくれるの?さっき会ったばかりだし、寧ろ迷惑かけちゃってるし…」

 

「別に気にしてないわよそんなこと。いや頭打ったのはちょっと根に持ってるけど」

 

「それじゃ貴女が…」

 

「大丈夫よ!それに驚かさないとお腹減っちゃうんでしょ?なら私の心臓くらいなんてことないわ!ちょうど毎日にスリルが欲しいって思ってた頃だったしね!」

 

「……でも」

 

「んー、なら貴女私のお友達になってよ!」

 

「とも、だち?」

 

「そう!そうすればお互い気兼ねなく接せるでしょう?」

 

「…」

 

「私の名前はレミリア!一応こう見えて妖怪よ!貴女の名前を教えて頂戴」

 

「わちきは……わちきは小傘!多々良小傘!」

 

「うん、よろしくね小傘!」

 

 小傘は迷っていた手を取られ、ぎゅっと優しく握られる。その瞬間に小傘の中で何か足りないものが綺麗にはまった気がした。

 それから小傘の毎日は劇的に変わった。里でレミリアを驚かしたあと、色んなところに遊びに行ったり、レミリアのイタズラに巻き込まれて一緒に怒られたり、慧音先生との頭のたんこぶを賭けた鬼ごっこをしたり…。レミリアと過ごす日常はとても楽しかった。

 いつの間にか小傘の中に巣食っていた不安は綺麗に消えていた。もう独りで拠り所のなかった自分はいない。隣にレミリアがいてくれているから、ちゃんと自分のことをまっすぐ見てくれたから。多々良小傘はレミリアに救われたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ……だからこそ、変わり果てたレミリアを見た時のショックは大きかった。

 小傘の知らない姿だった、小傘の知らない顔だった。小傘の知らない笑い方だった。その一挙手一投足が小傘の見たこともないものだった。別人と言われた方が納得するレベルで。しかし彼女は確かにレミリアだった。それだけは鈍い小傘でも理解できた。つまり、小傘はただ知らなかっただけだった。レミリアのそういう姿を。

 

 

『…レミリアは夜にだけ力が強くなっていく性質がある。多分…無限に』

 

『でも力が強くなると、一緒に性格もどんどん変わっちゃう。残虐な妖怪…それこそ今まで見てきた吸血鬼みたいになるんだと思う…』

 

『今のレミリアはそんな状態。私もああなってるのを一回しか見たことないけど、基本的に話を聞いてくれない。だから実力で止めるしかない』

 

『…レミリアは、小傘や里の皆んなにこのことを知られるのを怖がってた。あんな恐ろしい姿を知られたら皆んなが離れていくかもしれないって…』

 

『レミリアは本当は幻想郷を消すなんて望んでなくて…!あんな冷たくなくて…!能力のせいでおかしくなってるだけなの…』

 

『だから…その、これからもレミリアを否定しないであげてほしい』

 

 小傘は愕然と咲夜の話を聞いていた。

 頭痛に眩暈がする。

 自己嫌悪が身体中に突き刺さっていく。

 

(………わちき、レミリアのこと何も知らなかった。知ろうともしなかった)

 

 きっと側にいたからと、自分は甘えていたのだ。レミリアがいなくならないわけがない、いるのが当たり前。だから現状に甘んじて、自分だけが今を楽しんでいた。レミリア自身の苦悩を知ろうともしなかった。

 

 最低だ

 

 でも…でもだからこそ、今やらなければいけないことはハッキリとしていた。レミリアの大好きなこの世界を、レミリア自身に壊させるわけにはいかない。

 今のレミリアはきっと話なんて聞いてくれないだろう。否が応でもこの幻想郷を消し去ろうとするかもしれない。だから、やるしかない。自分が、多々良小傘が、やるしかない。

 

 

 

 

 ───わちきがレミリアを、助けるんだ

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 小傘たちがどこかに消えてから3分ほど経過した。既に幻想郷の表面積のおよそ半分が食われており、最早元の形は保たれていない。水中に漂うゴミのように大地の断片がちらほらと見えるだけだ。手に持っている巫女を適当なところに放り投げ、もたれかかるように空に腰掛けた。

 そこから見える今の変わり果てた幻想郷。レミリアはそれが心底美しいと思った。まるで床にあるまばらなゴミ屑を掃除機で一気に吸い出すかのような爽快感がレミリアの中を満たしている。そんな自分の考えにレミリアは疑問すら持たなかった。

 するとレミリアの目の前の空に人1人が通れる大きさの切れ目が現れた。それが何なのか、誰が出てくるのか、レミリアは分かっていた。

 

「お帰り 小傘。待ってたわよ」

 

「……」

 

「ふふっ、綺麗よその頭のお花。イメチェンかしら?」

 

 小傘は真っ直ぐレミリアを見据えている。さっきまでの迷いに迷った目では無く、何かを腹に決めたような覚悟の据わった目。自然とレミリアの表情も堅くなる。

 

「…レミリアのこと、全部咲夜から聞いたよ」

 

「…………そう」

 

 全部、ということは、つまりはそういうことだろう。

 レミリアという妖怪の全てを小傘は知ったということ。弱さと強さ、慈悲と冷酷、対極の二面性を持つ怪物の真実を知ったと言うこと。

 レミリアはにっこりと笑顔になる。

 

「ねぇ小傘!一つね提案があるの!」

 

「…なに?」

 

「今私は幻想郷を美味しく頂いてるわけだけど、人里とルシェルの館だけには手を出してないの」

 

「…えっ」

 

「小傘や咲夜、ルシェルにフラン…。皆んなが危ない目に合うのって、幻想郷の心無い妖怪たちが悪いからって思わない?」

 

「そんな…」

 

「そこで超天才な私は、パーフェクトなアイデアを思いついたのだ!やることは簡単!この幻想郷の大切なところ以外は全部消しちゃって、幻想郷を人里と館だけにする!そしたら争いなんて起こらないでしょ?」

 

「違う…!」

 

「だから小傘。私と一緒に平和な世界で暮らしましょう?…あ、結界なら大丈夫よ。私が新しいのを作ってあげるから」

 

「レミリアッ!!」

 

「!」

 

 その怒声にレミリアは思わず身を引く。

 そんなに強く拒絶の意を示されるとは思わなかったから。

 

「……わちき、そんな世界で暮らしても全然嬉しくないよ」

 

「なんで?嫌なことだけが取り除かれる世界なんて寧ろ理想的じゃない」

 

「確かにそうかもしれないけど、その為にそれ以外を全部消しちゃうなんて絶対ダメ!…それに、朝になったらきっとレミリアは後悔するから…!」

 

「…そう、まぁ…小傘ならそう言うわよね。…だったらそこで寝ていて、大丈夫よ、起きたらみんな終わってるから!」

 

「ッ!」

 

 レミリアは小傘に権能を使って眠らせようとする。思わず身構えるが、小傘の身には何も起こらない。レミリアは困惑する。

 

「…? なんで?どうして?今までこんなこと…」

 

「な、何とかなったみたい…」

 

 レミリアの力は基本的に無敵だ。この夜という時間帯においては全てがレミリアの意のままに支配される。…だが、いくつかの例外が存在するのもまた事実だ。ほんの僅か、本当に数えるくらいにしかない対処法。それはレミリアと同格の力。同格の能力。

 

「でもそんな力何処にも…!」

 

 その時、レミリアは思い至る。

 いや、あった。一つだけ物事の流れそのものに干渉できる力が。

 

「まさか…!」

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「魔力が足りないわ!もっと頂戴!」

 

「け、結構今ので全力なんですが…!」

 

「あーもう!賢者の石が一個でも残ってたらこんな苦労せずに済んだのにっ!何で全部壊すのよ花妖怪!」

 

(え、そんなこと言われても…。全部は私じゃ無いし…)

「知らないわ、そんなこと言う余裕があるならもっと魔力を流しなさい吸血鬼」

 

「私たちの命運が賭かっているんですよ!この小悪魔、精一杯エールを贈らせていただきます!頑張ってくださいね皆さん!」

 

『お前も手伝え!!』

 

 

 

 八雲紫は驚嘆していた。本当にあの力と張り合うことができるなんて想像もしていなかったからだ。その分莫大な妖力が持っていかれているが、それでも尚、十分な成果だろう。

 

「まさか、本当に…!」

 

「やってみたらできるものよ!大昔私のご先祖様はこの力で海に大っきな大陸を造ったらしいんだから!」

 

 レミリアが権能を使えなくなった正体、それはルシェルの『運命を操る程度の能力』だ。あらゆるものごとの流れに干渉できるこの力はレミリアの能力の一部と幻想郷の崩壊を防ぐにまで至っていた。

 しかしルシェル自身には魔力はほとんど無い。何故そんな彼女がここまで大きなスケールで能力を扱えているのか。その理由は至極単純だった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

『作戦はシンプルよ、皆んなが私にありったけの魔力を流す!それで私の能力で幻想郷を元通りにするの!以上!』

 

『…………大丈夫なのそれ?』

 

 流石の八雲紫も困惑の声を出す。秘策と聞いて蓋を開けてみれば彼女の能力頼りの綱渡り。消えていた不安が再び募る。

 

『問題ないわ!この能力の扱いにはちょっと自信があるのよ!』

 

 本当に大丈夫なのだろうか?

 

『大丈夫ですよ八雲さん、確かに魔力自体は貧弱ですけれど、ルシェル様の力は本物です。魔力さえあれば幻想郷を元の姿に戻すことも夢見事ではありません』

 

 それはルシェル・スカーレットに許された唯一の才。ルシェルは今までの能力継承者の中で最もこの『運命を操る程度の能力』の力を引き出すことができる存在だった。しかしそれを扱うための肝心の魔力がからっきしだったので、これまでその真価を発揮することは無かった。しかしその魔力を補えるのならば、話は変わる。

 

『…そう、そこまで言うなら信用するわ。正直今は藁にも縋りたい思いだしね。…でも魔力は足りるのかしら?この幻想郷の大地を元に戻すのなら相当量が必要よ』

 

『問題ないわ。貴女と美鈴にそこの花妖怪、それにこの私。燃料役としては十分だと思うわね』

 

 しかしそれはレミリアとの決着が早くつければ、の話になる。あまりにも時間がかかり過ぎればこっちの魔力が尽きてジ・エンドだ。

 

(それに…1番心配なのはお母様…)

 

 確かにルシェルの力を使えば幻想郷を元に戻すことは不可能では無い。しかしこのやり方はルシェルの身体にとてつもない負担をかけることに他ならなかった。それは美鈴もクルムもパチュリーも理解していた。だが自分達が何を言おうともルシェルは止まらないだろう。

 自分にもっとあの力を扱える才能があれば…。フランは内心で歯噛みする。

 

『よし!じゃあ外に出たらパチュリーの魔法で私に魔力を流せるようにして、早速実行よ!お願いできるかしらパチュリー』

 

『……本当に良いのね』

 

『ええ、もう覚悟は決めたわ』

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 フラン、美鈴、幽香、紫。

 今まで経験したこともないような莫大な量の魔力がルシェルの身体を激流のように流れ出てゆく。絶え間ない激痛が体を蝕んでいくが、それを周りに知られぬよう歯を食いしばって耐え忍ぶ。

 こうなることは自分がこの提案をした時点で覚悟していたことだ。何ら問題に入らない。それに崩壊を止めるという成果も出ている。制限が解除された八雲紫のサポートもあって後はレミリアさえどうにか止めれば無事に幻想郷は元の姿を取り戻すだろう。

 

(でも正直このペースだと皆んなの魔力量的にも10分くらいが限界…!2人とも、なるべく早くレミリアを止めてあげて…!)

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なる、ほどね。あーあ、してやられちゃった」

 

 レミリアは顔を俯かせて、頭を抑える。まるで悪戯が失敗した子供が拗ねるように気落ちする。

 

「まぁ、ラスボス相手にデバフイベントは当然よね…」

 

 相手がルシェルならばレミリアは強引な手は使えない。しかしあの力が長時間持たないということもレミリアは理解していた。

 

「そうまでして私を止めたいの?」

 

「うん、わちきたちでレミリアを止める」

 

 そうして小傘は一歩前に出る。

 

「レミリア、わちきたちと勝負しよう」

 

「…勝負?」

 

「うん、でも殺し合いじゃ無い。いつもやってた遊びで」

 

「遊び…」

 

「ルールは簡単だよ。お互いに死なない程度の弾幕を出して一回でもそれに当たればその人の負け」

 

「…ふふっ、つまりいつもの玉当てごっこね!」

 

 それはかつてレミリアが教えてくれたゲーム。

 実力的には天と地ほどの差がある2人。だがこれならば小傘でも勝てる可能性はあるし、何よりレミリアが納得しえる。

 

「良いわ!やりましょう!」

 

 何故ならレミリアは体を使って遊ぶことが大好きだから。

 

「負けた人は何でも言うことを聞くって言うのはどう?」

 

「うん、それで良いよ。開始の合図はこの石が地面に落ちたら」

 

「ふふっ、ワクワクしてきちゃった!」

 

 小傘は手に持った小石を手放す。石は重力に従い自由落下していく。

 2人の間に静寂が流れる。僅かな音すらも聞き取れるように小傘は神経を尖らせる。この勝負に幻想郷の命運が掛かっているのだ。自分が負ければ幻想郷は終わり。だが勝てれば全てが元に戻る。

 

 きっと勝負は長くはないだろう。そんな予感が小傘の中を巡る。

 

 

 

 コン と、音が響いた。

 

 

 

「それっ!」

 

「ッ!!」

 

 開始と同時にレミリアから膨大な数の魔力弾が全方位に発射される。しかも一つ一つが恐ろしく速い。避ける隙間など無い程にぎっしりと敷き詰められた弾の群れ。普通ならば避けることすらままならない。

 一瞬で勝負はつくだろうとレミリアは思う。だが、

 

「うああぁぁ!!」

 

「!」

 

 小傘は自分の弾幕でレミリアの弾の群れに僅かな穴を開けてその中に入り込み、その全てを避け切ってみせた。

 

(あ、危ない…。いきなり終わるところだった…)

 

「………凄いわ小傘、本当に。………いえ、貴女何か借りたわね」

 

「…うん、正解。流石にわちきの力だけじゃ今のレミリアに勝てないよ」

 

 小傘の頭につけている向日葵の髪飾りと腰につけられた懐中時計が淡く光った。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

『レミリアと一対一で戦う!?』

 

 

 

『うん』

 

『何言ってるの…!!無謀にも程があるわ…!』

 

 それはあまりにも結果が見え透いた勝負だった。実力差は月とスッポンどころでは無い。月とミジンコで良いところである。

 

『…ダメ、小傘とレミリアじゃ力の差があり過ぎる。抵抗する間もなく一瞬で眠らされる』

 

 そうだそうだと言わんばかりに幽香も激しく頷いている。

 

『でもそれって多分咲夜でも幽香でも同じなんじゃないかな』

 

 その通りだ。今のレミリア相手ではこの場にいる全員でかかっても、10秒保てば良いところだ。真っ向からの勝負ではこちらに勝ち目は皆無だった。

 

『だからわちきはレミリアと一対一で勝負する。勿論本気の勝負じゃなくて、遊戯で』

 

『遊戯…?』

 

『うん、昔レミリアが教えてくれたの。玉が一回当たったらその人の負けって遊び』

 

 確かどっじぼーるなんて言っていた記憶がある。

 

『多分…いやきっと、レミリアは勝負に乗る。その勝負の壇上なら何とかできる可能性はある』

 

『…それでも今のレミリアが真っ向から勝負をするなんて…』

 

『するよ』

 

 小傘は咲夜を真っ直ぐ見据えて言う。

 

『確かに色々変わってるけどレミリアはレミリアだよ。絶対に勝負でズルはしない』

 

 小傘はレミリアが根本的な部分では変わっていないということを信じていた。完全にあのレミリアとしての人格が消えているのなら、あの時見逃したりなんてしなかったはずだから。

 

 咲夜はそんな小傘の真っ直ぐな目を見て何も言えなくなってしまう。

 …なんでそんなことが分かるんだ。何で付き合いの浅い小傘が私よりレミリアを知ってるんだ。思わず拳を握る力が強くなる。

 

『それでも小傘1人じゃ危険だわ。せめて私がついて…』

 

『ごめん、でもこれは譲れない。この勝負はわちきとレミリアとの2人だけだから意味があるんだ。……我儘だっていうのは分かってる、でもわちきはどうしてもレミリアと白黒つけたい』

 

『小傘…』

 

 既に小傘の覚悟は決まっていた。ルールありきとはいえ、絶望的な程に力の差がある相手と幻想郷の命運を賭ける勝負をしにいく。だが相手はレミリアだ。小傘にとっては友達を助けに行くだけ。そこに微塵の怖気も無かった。

 

『待って!』

 

『咲夜…?』

 

『…小傘1人でやらないといけないのは分かった。私じゃやりきれないってことも。…けど、私も譲れないものがあるの』

 

 咲夜は手に持った懐中時計を握りしめ、意を決したかのように小傘に向き直り、小傘の手に懐中時計を乗せてそのまま包み込むように握らせた。

 

『これ、貸してあげる』

 

『え?』

 

『私の時間を止められる時計。上のダイアルが押せるようになってるからそれを押せば小傘でも時間を止められるくらいはできる』

 

『ええ!?そんな大事なもの…!』

 

『これは私の覚悟。私も一緒に戦わせて』

 

『…なら私も』

 

 それを見た幽香は小傘の頭に手を翳す。すると淡く光ったかと思えば、手を下ろすとそこには綺麗な向日葵の花飾りがついていた。

 

『な、何これ綺麗!?』

 

『私の魔力よ、きっと小傘の助けになるわ』

 

『あっ、ありがとう幽香!』

 

(ん"!!)

『…良いのよ、頑張って』

 

 幽香が心の中で悶える中、咲夜は小傘の前に出る。

 

『それと、もう一つだけお願いがあるの』

 

『…?』

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 咲夜の時間停止、幽香の魔力。これにより小傘は遊びとはいえ、短時間ながら今のレミリアと張り合えていた。しかしそれでも圧倒的な実力差は埋まらない。つまりこの勝負はレミリアが極限の手加減をしてくれるという信頼ありきで成り立っている勝負なのだ。

 

「ふふっ、良い、良いわ!そんな強そうな武器を持ってるなら、こっちも遠慮しなくて良いわね!」

 

「!!」

 

 夜空を埋め尽くすほどの弾幕の雨。あんな姿でもルールはちゃんと守っているのか、かなり威力は抑えられている。だが逆に一つでも当たれば終わりだ。小傘は咲夜の懐中時計のダイアルを押す。すると、世界が灰色に染まり弾幕の雨は全てその動きを止める。

 本来ならば咲夜の時間停止もレミリアには殆ど意味をなさないが、今はルシェルが能力を抑えてくれているおかげで何とか通用する。

 

「咲夜の時間停止ね、そういえばそれだけなら誰でも使えたわね!」

 

 しかしそれは弾幕だけに限る話。レミリア自身には全く効果は無い。そして一瞬で小傘の目の前にまで移動してくる。

 

「ッ!!」

 

 放たれるレミリアの蹴り。その軌跡から大量の弾幕が現れるということを察した小傘は咄嗟に幽香の魔力をたっぷり纏った唐傘を横に薙ぐ。その二つがぶつかった瞬間、大量の弾幕が爆散する。

 

「だあああぁぁ!!」

 

「あははははっ」

 

 お互いに弾は当たっていない。中心にいた2人の周辺の弾幕は、傘と足の衝突で消し飛んでいた。後ろに下がって再び互いに距離を取る。

 

「いやー、楽しいわね小傘!ここまでできるなんて思わなかったわ!」

 

「レミリアこそ手加減が上手だね!さっきの弾、今のわちきと威力が変わらなかったよ!」

 

「でしょう?頑張って弾の中身すっからかんにしたもの!それに小傘が怪我でもしたら大変だわ」

 

「正直有難いよ、レミリアの攻撃なんて受けたらわちき死んじゃう」

 

 そんなことを話しながら小傘は息を整える。

 たった一撃だ。しかしその一撃が恐ろしく遠い。技量云々よりも圧倒的な力。こっちの力は限りがあるのに向こうは無限。このままでは単純な物量で押し切られてしまう。

 

(なら、一気に決めに行くしか無い!)

 

 小傘は一気に魔力のエンジンを吹かし、弾を展開しながらレミリアとの距離を詰める。レミリアも小傘に合わせるように弾を展開して応酬する。

 レミリアの隙を探そうと頭を回すが、流石に素の実力が離れすぎていて隙と言える隙がうまく作り出せない。そんな状況にヤキモキしていると、突然レミリアが目の前に現れる。

 

「うわっ!?」

 

 避けきれずに弾が直撃する。が、幽香の花が自動で作り出した魔力の盾で事なきを得る。レミリアは再び消えて少し離れた場所に現れる。

 

「ちょっとその瞬間移動みたいなのズルくない!?」

 

「ふふーん、使えるものは使うのは当然でしょう?というか小傘だって咲夜とかの能力借りてるんだからお互い様でしょ!盾なんてチートよ!」

 

「存在そのものがズルみたいな今のレミリアにだけは言われたくないよ!」

 

 そう言って勢いのまま弾幕を放つ小傘。レミリアは軽くそれを躱すと、翼を翻し上空へと上る。夜空を切りながらレミリアは冷静に小傘を観察する。

 

(誰の仕業かは分からないけど、あの魔力のおかげでだいぶパワーアップしてるみたいね、凄いわ。………面白くはないけど)

 

 正直、さっきの瞬間移動に限らずレミリアが勝利する方法はいくらでもある。小傘の魔力を奪い取ってガス欠にしたり、適当な魔法でも使って動きを拘束してからトドメを指したりと、レミリアの多彩さをもってすれば容易なことだ。しかしそれでは意味がない。小傘は飽くまで玉当て遊びをしにきたのだ。そんな方法で勝ったとしてもそれはルール違反。小傘の心は収まらないだろう。何よりそんな搦め手を使わずとも、己ならば勝てるという自負がレミリアにはあった。

 いつもの、単純に動いて当てて、笑い合って終われる勝負で勝ってこそ意味があるし、小傘も大人しく着いてくるだろう。

 

 

「だからこのルールの範疇で、貴女を屈服させてみせる」

 

「!!?」

 

 小傘が上を見上げると、そこにはとんでもなく大きな魔力弾があった。一つではない、まだ数えられるだけでも十数個はある。あんなのが落ちてきたら一瞬で詰みだ。

 小傘がその場から離れようとする。しかしそれを見越したかのように、空の弾幕群は一斉に降り注いできた。小傘は迎撃の態勢をとる。しかし、

 

「えっ!!?」

 

 なんと巨大弾幕は小傘に当たる直前に破裂し、細やかな小さな宇宙色の弾幕となった。しかし圧倒的なのはその数。視界が光で埋め尽くされるほどの膨大な量の弾幕が雪崩の如く小傘1人に押し寄せる。

 

「うわぁ!!?」

 

 再び魔力の盾が現れ、小傘を弾の被弾から守る。しかし当の小傘は視界が光に埋め尽くされていて全く視界を確保できずにいた。

 

「…その魔力、何処の誰から借りたのかは知らないけど、扱える量には限りがあるわよね。その盾、いつまで持つかしら?」

 

「ぐぐぐぅ…!」

 

 少しずつ向日葵から出る淡い光が弱まっていく。

 不味い、幽香の魔力が底をつきかけている。このままでは盾はいずれ消える。そうなれば光の雪崩が容赦なく小傘を襲うだろう。どうにかこの場を切り抜けようと小傘は手段を模索する。

 そんな必死の形相から小傘の意図を読み取ったのか、レミリアは少し悲しそうな表情をする。

 

「……小傘、貴女が望めばずっとこれまで通りの毎日が帰ってくるのよ」

 

「…ッ、ぐぐッ…!」

 

「だからもう諦めて。私と一緒に里に戻りましょう、小傘」

 

「ぐぎぎぃ…!!?」

 

 弾幕の光が更に増す。本格的に締めにかかってきた。だが既に幽香の魔力も小傘自身も、限界だった。

 

 

 

「good night」

 

 

 

 更に上から巨大弾幕をぶつけ、辺りは膨大な光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───! 今の光って…!」

 

「お姉様と…あの雑魚妖怪でしょうねっ…!」

 

「相当派手にやってるみたいね…!あのお2人…!」

 

「威力がないから、勝負には乗ってくれたみたいだけれど…」

 

「今は信じるしかありません…!」

 

 2人が心配ではあるが、今はこっちに注力しなければいけない。相も変わらず状況は拮抗している。しかしこのままでは不味いこともタンク役の3人は理解していた。

 

「…ッ!? ゴホッ、ガハッ!?」

 

「お母様!?」

 

「だ、大丈夫…!魔力を絶やさないで!」

 

 吐血したことを無視しながら能力を行使し続けるルシェル。

 はっきり言ってルシェルの身体は既に限界だ。慣れない大量の魔力の供給。それにより起こる強烈な痛みは確実にルシェルを蝕んでいっている。単純に肉体的にボロボロなのだ。

 3人の魔力をルシェルに供給する魔術を維持しているパチュリーと小悪魔はそれを察し嫌な汗が流れる。

 

(……今は気合いで持っているような状態ね)

 

「ぱ、パチュリー様ぁ…」

 

「腹括りなさい こぁ。私たちも失敗すれば全部お釈迦なんだからね…!」

 

「は、はいぃ…!」

 

 

 

 

「…小傘」

 

「そんなにあの雑魚妖怪が気になるかしら?」

 

「……」

 

「フン、彼女なら大丈夫よ。負けることはないわ」

 

「…何故分かるの?」

 

 

「別に分かるわけじゃないわ。ただ、私の分も背負って行ったアイツが簡単に終わるわけがないってだけよ」

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 当然ながらあの光の弾幕は中身がすっからかんのハリボテだ。土煙こそ立ちこめてるが、周りにほとんど被害は出ていない。だがそれでも小傘が気を失うぐらいの威力はある。地面に俯せに倒れ伏す小傘を見てレミリアは勝利を確信する。

 

「…ふふっ、やった…!」

 

 レミリアは小さくグッと拳を握る。思ったより小傘が粘ったのが驚きだったが、久々の楽しい遊びだった。でも、それはこれからも続くのだ。ルシェルやフランたちも加えて。そう考えるとニヤニヤが止まらない。

 そうしてレミリアはゆっくりと高度を下げていき、千切れた大地に近づいていく。あとは小傘を回収してなんとかルシェルたちを止めるだけだ。そうすれば全部丸く収まる。

 レミリアは小傘がいるところまで降り立ち、そっと声をかける。

 

「小傘、起きて小傘」

 

 しかし小傘は反応しない。少しやりすぎたか、と考えたその時、違和感に気づく。

 レミリアは寝ている小傘を乱暴にひっくり返し、その顔を見る。

 

 

『オドロケー!!!』

 

 

「きゃあぁ!!?」

 

 

 小傘の頭がびっくり箱のように飛び出して、大音量の声が響いた。

 

 

 

「だりゃあッ!!!」

 

「!!!??」

 

 

 レミリアの背後の土煙から七色の光を背負った小傘が現れたのはその直後のことだった。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、妖怪』

 

『わっ、はい!?…え、えっと、フランドールさん…だっけ…』

 

『そう、私はレミリアお姉様の妹、フランドール・スカーレットよ』

 

『え、ええ!?レミリアの妹!?妹がいたの!?た、確かに顔がよく似てるような…でも妹がいるなんて聞いたこともなかったし…』

 

『まぁ、お姉様とは今日初めて会ったからね。……にしても、見れば見るほど貧弱な妖怪ねぇ貴女。本当にお姉様を止められるのかしら?』

 

『……大丈夫だよ、殺し合いをしにいくわけじゃない』

 

『…ふーん。ま、本当なら意地でも私が行きたいところなのだけれど、こっちはお母様で手一杯になると思うわ。だから特別に、とくべつに!お姉様のことを任せる権利をあげる。喜びなさい、本来なら貴女みたいな雑魚妖怪が任される大役じゃないのだから!』

 

『え、あ、うん!任せて!』

 

『…チッ、まぁ途中で貴女がバテて失敗したら目も当てられないからね。超特別に私の魔力を少し貸してあげるわ。ほら、受け取りなさい』

 

『えっ、わっ』

 

 小傘はフランが放り投げた宝石のようなものを受け取る。

 

『正直私は今のお姉様も悪くないとは思ってるわ。支配者として相応しい風格を持っているし、この世のあらゆるものを奈落に葬り去れる圧倒的力。吸血鬼の悲願も今のお姉様ならあっさり叶う。……でも、やっぱり私が惚れたお姉様はあの優しい笑顔のお姉様なの』

 

『フランちゃん…』

 

『誰がフランちゃんよ!気安く呼ぶな!』

 

『ひぇっ!?ごめんなさい!』

 

『ふん………お姉様は、この世界の人たちが好きって言っていたわ。お姉様が好きなものが壊れる様を黙って見てるわけにはいかないのよ』

 

 何故姉であるレミリアがあんな有様になっているのかは分からない。しかし事実として今レミリアは幻想郷を消し去ろうとしている。まだ利用価値のある幻想郷を理由もわからず消されるのは都合が悪いし、母のルシェルもレミリアの凶行を止めようとしている。

 それにフランとしてもあんなことをする姉はいつまでも見ていられるものではなかった。

 

 

『……お姉様のこと、頼んだわよ。もし敗けたら地獄の果てまで追いかけてぶっ壊してあげるから』

 

『……うんっ』

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 レミリアが驚いている隙を突いた一撃。いや正確には弾幕による乱撃。

 レミリアは咄嗟に身体の原型を崩して全て躱しきるが、躱した先には小傘が既に先回りしていた。弾幕を放つが咲夜の時計によって止められる。

 そうして振り下ろされる唐傘をレミリアは作り出した槍で受け止めようとした時、小傘は唐傘を手放した。

 

「!?」

 

 視線がズレた隙にすかさずレミリアの足を掴んで転ばせる。そしてレミリアの腹の上に小傘は馬乗りになり、放った傘を掴んでレミリアに突きつけた。

 

「ハァ…ハァ…!……えへへ、驚いた?」

 

「こ、がさ……なんで…!」

 

「ハァ……アレは幽香が植物の茎とかで作ってくれたそっくり人形。わちきの妖力も入ってる。前にレミリアが言ってたでこい?ってやつ。真似してみたんだけど、まさかあんな綺麗に引っかかるなんて思わなかったよ。やっぱりレミリアはレミリアだね」

 

 しっかりものだけど、少し抜けていて、ちょっとしたことで驚いてしまうようなドジな女の子。それが小傘の知るレミリアという妖怪だった。どれだけ姿形が変わってしまっていても、それだけは変わっていない。その事に小傘は安心する。

 

 レミリアは苦虫を噛み潰したかのような表情の後、小傘の背にある翼のような七色の光を見る。

 

「………その魔力は…、そう、フランまで…。とんだ隠し玉ね…」

 

 追い詰められてしまった。

 油断していたわけではない。ルシェルの力で世界を掌握できる力の大半が封じられているからとか、そんなものは言い訳にもならない。小傘の方が圧倒的に不利な条件で勝負を挑んできたのだから。つまり正々堂々やってそれで尚このザマ。

 

「…今の慧音先生の護身術よね。ふふっ、私よくサボってたからまんまと引っ掛かっちゃった…」

 

 小傘は持ち得るもの、託されたものを全て駆使してここまで自分を追い詰めた。恐らく小傘が止まったのは自身の背後に大量の弾幕があることに気がついたから。小傘が攻撃すると同時にそれらは一気に牙を剥く。故に動けない。

 だがそれでもレミリアが追い込まれたことに変わりはない。後一瞬でも反応が遅れていたら敗北していたという事実に、表情を歪める。

 

「ほんと、なんで…なんで…!!」

 

「レミリア…?」

 

 レミリアは星の涙を浮かべて、叫んだ。

 

「なんで皆んな分かってくれないのよ!みんな邪魔するのよ!!私は小傘たちを守りたいだけなのに!!」

 

「!?」

 

「見たでしょ今日の戦争!!幻想郷は危険なの!!この世界は里のみんなを妖怪たちの存在を確立させるためだけの駒にしか見てない!!今のままじゃいつか小傘も咲夜も里のみんなもいつかこの世界に殺されちゃう…!」

 

「…そんなことッ」

 

「あるッ!!事実アイツらは里の被害なんてお構いなしに暴れてた!私が守ってなかったらみんな死んでた!!人間なんていくらでも外から呼び込めるなんてクソ管理者共が楽観視してるから!!!」

 

 レミリアは小傘の胸ぐらを掴んで引き寄せる。

 

「そんなの私は許さない、絶対に」

 

「そんな都合で小傘たちを殺させない」

 

「だってここは、みんなは、世界でたった一つの、私の居場所だから…!」

 

「妖怪としての私を、受け入れてくれたから…!!」

 

「だからもう二度とこんなことが起きないようにする!絶対に皆んなが危険な目に遭わないようにする!!」

 

「そのための世界が欲しいの!!……………誰も死んでほしくないの」

 

 

「レミリア…」

 

 その声を聞いて小傘は悟る。

 今まで見てきたレミリアは明るく見えていても、心の中は不安でいっぱいいっぱいだったのだ。

 レミリアの能力には人格変化の他に軽い興奮作用がある。この夜を支配する力はそんな抑圧していたレミリアの感情を人格変化という手段でぶちまけさせていた。これがタガの外れたレミリアの本音、抱えていた不安。

 

「レミリア…わちきは…!」

 

「私は、みんなを失うわけにはいかないの、居場所を失いたくないのっ…!だから、だから私は!!」

 

 レミリアに魔力が収束していく。寒気を感じた小傘は反射的にその場から飛び退いた。

 

 

「この幻想郷をぶっ壊す!!」

 

 

 瞬間、世界が爆発した。

 同時に全方位に大量の弾幕もばら撒かれる。その数は最早避けれる避けれないの問題ではない。それは弾幕と言うよりかは、魔力の壁というに正しかった。さっきの巨大弾幕の時の比ではないレベルの猛攻が小傘を襲う。フランの魔力の盾で守るが長くは持たないだろう。小傘は時間を止めようと時計のダイアルを押す。

 

「…ッ!?」

 

 しかし世界は何の反応も示さなかった。二、三度押しても同じ。

 咲夜の能力が通用しなくなっている。つまりそれはレミリアの力が上昇してきているということ。ルシェルの力で押さえ込まれても尚、咲夜の力を受け付けなくなっていた。

 徐々にルシェルの力を押し返しているからか、周りの大地も再び侵食が始まる。小傘は弾幕の数が多過ぎて前に進むこともままらない。この弾幕の雨も被弾するまで止まらないだろう。再び小傘は窮地に追い込まれることになった。

 

 レミリアの幻想郷を守るという動機は、いつしか自分の理想の幻想郷を型作るという方向に変わってしまっていた。自分が守りたいのは幻想郷そのものではなく、そこに住んでいる人々と里だけだから。それだけあれば何でもよかった。

 きっとそれがレミリアの吸血鬼としての自己中心的な思考だったのかもしれない。

 

「小傘!!もう諦めて!!諦めて私と一緒に帰ろう!!里に!!」

 

「………そう、だね。もう帰ろう…レミリア」

 

「小傘…!」

 

「でも帰るのはレミリアの作る世界じゃない!わちきたちが暮らしていた、幻想郷だ!!!」

 

「なんっ、でぇ!!!」

 

 更に勢いを増す光。最早弾の形すら見えなくなっているそれは託されたフランの魔力を確実に削っていく。

 

「もういい!!こうなったら無理矢理にでも連れて行く!!だからもう敗けて倒れて諦めて小傘!!」

 

「嫌だ!!わちきは諦めない!!」

 

「なんでなんでなんでぇ!!!私はみんなだけがいれば…!」

 

「レミリアが良くてもわちきは良くない!!!」

 

「!?」

 

「レミリアや里のみんなだけじゃ無い!!幽香や紫さん、幻想郷にいる妖怪たちもわちきたちと同じで必死に生きてるんだよ!!だから戦争だってした!!それを踏み躙ってまでわちきは生きたくない!!」

 

「そんなの分かってるわよぉ!!!でも、でもこうしなきゃみんな失っちゃう!!1番力のある私だけが生き残っちゃう!!いや、いやいやいやいや!!いやなのそれは!!絶対いや!!」

 

「ぐぅ…!?」

 

 

「落ちて!小傘!!私はもう独りはいやなの!!!だから一緒に!!!」

 

 

「────絶対に、独りになんかさせない!!!わちきはレミリアを助けてみせる!!!」

 

 

 

 そう叫び、小傘は最後の一手を打った。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

『多々良小傘』

 

『うぇ!?』

 

 今レミリアの下にいかんとした時に小傘を呼び止めたのは幻想郷管理者、八雲紫だ。話にしか聞くことがなかった大物を目の前に小傘は萎縮してしまう。

 

『…そんなに怯えないで、私は貴女にお願いをしにきただけなの』

 

『お願い…』

 

『最早幻想郷の未来は貴女に賭かりました。貴女が勝つか負けるか、それでこの楽園の全ては決まります』

 

 述べられる言葉一つ一つが小傘に重くのし掛かる。そう、小傘は今幻想郷の運命を決める戦いに出るのだ。賢者のその言葉に嫌でも責任を自覚する。

 

『…本当なら、私がしなければならない役目。…ですが情けない話、私はもうあの存在に立ち向かう勇気がありません。私は彼女に敗れて、そして折れてしまった』

 

 紫は血が滲むほどに手を握りしめる。幻想郷を壊された悔しさと、あの存在に対する恐怖、今の自分の惨めさ、そんなマイナスの感情が心の中でごった煮になっている。だがそれでもと、できる限りの足掻きをすると立ち上がったのが今ここに立っている八雲紫なのだ。

 例え情けなくても、自分より圧倒的に格下の妖怪に縋ってでも、紫は幻想郷を取り戻したかった。

 

『だから、お願いします。幻想郷を、私たちの楽園を、どうか取り戻してください』

 

 紫は地に頭をつけて懇願する。それが情けなくも動けない自分ができる精一杯のことだった。

 そんな紫を目の前に小傘はどうしたら良いのか分からず混乱する。

 

『あ、あわわっ、と、取り敢えず頭を上げ、上げてくださいっ』

 

 小傘は慌てて紫の頭を上げて、紫の目線に座る。

 

『た、確かにわちきが勝つか負けるかで幻想郷の未来は変わるかもしれないけど、わちきはそんな凄いことをやろうとしてる訳じゃないよ…』

 

 命運がかかっているのは事実、それでも小傘がレミリアのもとに行くのはもっとシンプルな理由。

 

『わちきは友達を取り戻したいだけだよ。それにレミリアはバケモノなんかじゃない、わちきの大事な、友達だよ!』

 

『……』

 

 友達。不思議と紫の中にその言葉がストンと入り込む。

 脳裏に映ったのは自身の唯一の友人とも言える桜色(白黒)の立ち姿。手を伸ばした小傘と手を伸ばさなかった自分、紫は小傘に自分の姿を重ねてしまう。

 

(…あの時動けていたら、今彼女のいる場所にいたのは、私だったのかしら)

 

 そんなもうどうしようもないことを考える。消えた時間も思い出も、もう元に戻らないと言うのに。きっと小傘は自分が手に入れられなかったものを手にしている。妖怪の賢者としてではなく、八雲紫個人として多々良小傘という妖怪を紫は認めていた。『それじゃあ、行くね』と、隙間空間の出口に向かおうとする小傘を紫は再び呼び止める。

 

『多々良小傘、これを持っていきなさい』

 

『うわっ!?え、か、傘?』

 

 洋風な装飾がついた薄紫色の日傘。何処となく幽香の使っているものとよく似ている。

 

『私の能力が込められた日傘。幻想郷に回す分があるからそこまで多くは無いけれど、きっと貴女の助力となってくれるはずです』

 

 一体彼女はあの存在とどう言う関係なのか、どんなドラマがあったのか、それは敢えて聞かなかった。そんな資格は今の自分には無いから。

 だが、事実として彼女が唯の1人の友を救いに行くと言うのならば、八雲紫個人として精一杯のエールを送ろう。

 

『多々良小傘、貴女は貴女の友人を救いにいきなさい』

 

『────うん!!』

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは一瞬のことだった。

 

 気がつけば、と言う他ない。さっきまでレミリアの視線の先で弾幕を耐え忍んでいただけの小傘が、何故か真横にいた。その手には薄紫色の日傘が。

 レミリアは全てを悟る。

 

 

「───小傘ぁ!!」

 

「───レミリアぁ!!!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 小傘の大ぶりの一撃。振り下ろした瞬間に込められた魔力から弾幕が弾ける。だが、レミリアは咄嗟に魔力の障壁を作ってガードした。そのまま小傘の身体に弾を叩きつけるが、小傘はそれをもう片方の手に持っていた唐傘で上手く防ぐ。お互い力の押し合いになるが、今の小傘とレミリアの腕力の差は歴然だ。徐々に小傘は押されていく。

 

「ぐぎぎぃ…!!」

 

「私の…!!勝ちよぉ!!!小傘ぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 しゅるっ

 

 

 

 

「───え?」

 

 

 不意に手首に感じる違和感。そこに目を向ける。

 振り下ろさんとするその腕には綺麗に結ばれたミサンガが。そしてその側には──

 

 

「さく、や」

 

 

 なんで?なんでここに咲夜が?さっきまでいなかったのにどうしてなんでなんでなんで。

 よく見ると、咲夜の背後には空間が裂けたような跡が。

 まさか、さっきの大振りは攻撃じゃ無くて、これのため?でもなんで咲夜が?だって小傘は一対一で勝負を…

 

 

 

 

 ───わちきたちでレミリアを止める

 

 

 

 

 勝負、を………

 

 

 

 

 

 

 ───わちきたちと勝負しよう

 

 

 

 

 

 

 あ

 

 

 ああ

 

 

 あああ

 

 

 ああああああ!

 

 

 

 

 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レミリア、落ちて」

 

 

「だりゃあッ!!!」

 

 

 

 

 次の瞬間、小傘の紅の弾が直撃し、レミリアの意識はブツリと途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時々、夢を見る。

 

 

 とても嫌な夢だ。お爺さんとお婆さんと住んでた時からずっと見る夢。

 私が独りぽつんと何も無い場所にいる。視線の先には家族らしき大人2人と子供3人。何でかその人たちを見ていると、とても寂しい気持ちになる。なのに皆んな私から遠ざかるみたいに何処かに行く。追いかけるために走ろうとしても身体は全く動かない。声も出せない。私はたった独り皆んなが何処かへ行ってしまうのをただ見ていることしかできない。そうして泣き崩れてしまいそうになったところで目が覚める。

 

 だからか分からないけど、私は昔から1人でいることが嫌だった。常にいつも誰かといないと落ち着かない。周りに誰もいないと寂しさでどうにかなってしまいそうになる。

 

 だから2人が死んでしまった後、1人で旅に出た。

 たった1人であの家にいるのは耐えられなかったから。

 

 けど実際私を受け入れてくれるって所はすごく少なかった。あの時代の人たち妖怪とかそういう存在に結構ピリピリしてたし。攻撃されて死にかけるなんてこともあった。私が生きてきた四百と余年、野っ原とかで寝ることの方が多かったと思う。

 それでも偶に見るあの悪夢で飛び起きて、最悪な気分になる時もあった。多分その時に気づいたんだと思う。私は妖怪だけれど心は人間なんだなって。

 こんな力を持ってるもんだから400年以上も人にも妖怪にも避けられて、誰とも接せなくて、一時期気がおかしくなったこともあった。

 

 だからこそ、この人里はとても心地が良かった。

 たまたま縁で来た世界だったけれど、この幻想郷の人間の里は私が妖怪と知っても気兼ね無く接してくれる唯一と言っても良い居場所だった。それに外の世界で咲夜、幻想郷で小傘と出会えた。私の日常はこの上無く充実していた。

 この里は私にとっての最後の居場所だ。

 

 でもそんな私の気持ちと反して幻想郷は里にはあんまし優しくなかった。基本的に里の被る損害に対する処置は最低限だし、流行病とかの病にも何の手当てもなし。管理者たちや妖怪たちは人間を食糧か己の存在維持装置としてしか見ていなかった。幻想郷を維持する都合の良い歯車としか見ていなかった。

 

 だから私は私の居場所を守らないといけないっていう使命感に駆られた。こうして過ごしている日常(いま)を壊させるわけにはいかない。そんなこと許せるわけがない。

 

 

 

 だって皆んながいないと、きっと私は生きていけないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!!力が消えたっ!!」

 

「ということは…」

 

「つまり…!」

 

「2人がやってくれたのね!」

 

 そうなればやることは後一つだ。

 

「うん!あとは幻想郷を元に───ゴプッ」

 

「お母様!!?」

 

 突然ルシェルの口内から血が溢れる。肉体の限界が来たのだ。

 抑えようとしてもその口からは止めどなくな溢れて止まらない。それと同時に能力の集中も切れていく。

 

「グッ…!!こっちも魔力が持たないわ…!」

 

「私ももうすっからかんね」

 

(せっ、折角2人が繋いでくれたのにっ…!このままじゃあ…!)

 

「ルシェル様!口を開けてください!」

 

「え───ムゴッ!?」

 

 声と同時にルシェルの口に何かが放り込まれ、そのまま勢いで飲み込んでしまう。すると、ルシェルの体調はみるみるうちに治っていく。

 これはエリクサーだ。飲めば身体の病症、損傷的異常を完治させる万能薬。一時期パチュリーが躍起になって作った中のたった一つの完成品。それを遠慮無しに使ったからかパチュリーの顔はすごいことになっているが。

 そんなルシェルを見てフランはほっと一息をつき、その2人に視線を向ける。

 

「…遅いわよ、クルム」

 

「これでも最短距離で帰ってきたつもりだったのですが…フラン様は手厳しいですね」

 

 クルムはこうなることを見越して、1人紅魔館に戻り、使用できる薬品や魔法薬を持ってきたのだ。

 

「紅魔館が無事だったことが幸運でしたよ。おかけでこの魔法薬を沢山持ってこれましたので。どうぞ、飲んでください」

 

 4人は魔力回復の薬が入った瓶を受け取り、そのまま飲み干す。

 

「───ぷはぁ!全快!!ほら雑魚2人!さっさとこのクソッタレな世界を元に戻すわよ!」

 

「分かってるわ、命令しないで。不快よ」

 

「……」

 

「あら、賢者サマは乗り気じゃないかしら?今貴女の望みが叶うっていうのに」

 

「……いえ、ただ信じられないだけ。本当にあの状況から巻き返してしまうなんて」

 

「礼なら後で小傘と咲夜に言いなさい。それにまだ終わってはいないわよ、ここから私たちが全部元に戻す。何もかもをね」

 

 

「……ええ、分かってるわ」

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 やけに重い瞼を開ける。レミリアは倦怠感を感じつつも上を見る。目の前に小傘の顔があった。そこで漸く自分が膝枕をされていることに気づいた。

 

「あっ、レミリア!起きたんだね!」

 

「………小傘」

 

 さっきまでの出来事がレミリアの中で蘇る。

 その瞬間、レミリアは小傘に抱きついた。

 

「うえぇっ!?な、なになに!?どうしたのレミリア!?」

 

「小傘っ、け、怪我とかしてないわよね!どこも傷とかついてないわよね!?」

 

「あはは、レミリア焦りすぎ。…大丈夫、何処も怪我してないよ。レミリアのおかげで」

 

「………よ、よがっだぁ〜!!」

 

 そう言ってレミリアはビエビエと泣き始めてしまった。

 姿背丈格好もいつもの黒髪レミリアに戻っている。小傘も泣き喚くレミリアを宥めながらほっと一息つく。

 

「ごめんね、ごめんねぇ…!私がもっとしっかりしてたらこんなことにならなかったのにぃ…!」

 

「ううん、レミリアは悪くないよ。寧ろレミリアはわきちたちを守ろうとしてくれたじゃん。レミリアがいなかったらきっとわちきも咲夜も、里の皆んなもきっと戦争に巻き込まれて死んじゃってた」

 

「でもぉ…、でもぉ…!」

 

「それに謝るのはわちきの方だよ」

 

「んぇ…?」

 

「レミリアもわちきたちと同じでちゃんと悩んでたんだって、ちゃんと苦しかったんだって、そんな当たり前のことに気づいてあげられなかった。…だからごめんね……ごめんねレミリア…!」

 

 そう言って小傘は大粒の涙をこぼしてレミリアを抱き返す。

 今回の件はレミリアが前々から抱いていた不満や不安が爆発した形でもあった。もっと小傘や咲夜がその気持ちに気付けていれば防げていたかもしれない。そんな責任感が小傘の中にはあった。

 

「う"う"〜!!私もごめんねぇ…!!小傘にもみんなにも幻想郷にも酷いことしちゃってぇ〜!!」

 

 2人はお互いを抱きしめ合いながら泣き叫んだ。

 すると、唐突に咲夜が2人に近づきレミリアを小傘から引き離した。

 

「うぇ?」

「あぇ?」

 

「レミリア、私も頑張ったよ。ほめて」

 

「うわぁーーん!さくやもありがとゔー!!ごめんねまたこんな事になっちゃってぇー!」

 

「ん、良い、許す」

 

 レミリアの抱きつきの中、咲夜はとても満足そうな顔をしている。

 

 最後の一撃をすると考えたのは咲夜だった。どんな形であれ小傘とレミリアがお互いの力の凌ぎ合いになれば有利なのは確実にレミリアだ。だからこそ一番隙ができる仕留める瞬間を狙った奇襲。レミリアの性格的にもそれが一番効果があると考えた。そして結果的に紫の能力と相まってこれ以上ないほどうまくいった。

 

(ありがとう、小傘)

 

 心の中で小傘にそう感謝を述べる。

 小傘があそこまで粘り、凌いだからこそ、今回の勝ちはあるのだから。正直、あの時里でナヨナヨしていたあの妖怪がここまでしてくれるとは思ってもいなかった。咲夜から見ても小傘の度胸と機転の利き方は目を見張るものがある。もしかすれば最恐の妖怪になるという彼女の夢も案外夢物語ではないのかもしれない。…まぁ、そう言うには少し優しすぎるが。

 

 

 

「れーみーりーあー!!!」

「お姉様ぁ!!!」

 

 

「ふぎゃっ!!?」

「!!?」

「うわぇ!?」

 

 突如降ってきた吸血鬼二名に3人は体勢を崩してずっこける。

 

「レミリア大丈夫!?怪我とかしてない!?元に戻ってるわよね!?」

 

「…お姉様また雰囲気変わった?」

 

「ちゅ、ちゅぶれりゅぅ…!」

 

 レミリアは何とかぎゅうぎゅう詰めの中から抜け出す。するとルシェルに思いっきり抱きしめられた。

 

「る、ルシェル…」

 

 思わずレミリアは顔を背ける。合わせる顔が無かった。自分の失敗でこんな迷惑をかけて、ルシェルにも大きな苦労をかけてしまった。どこかに逃げて隠れてしまいたい気持ちだったが、今のレミリアではルシェルの拘束を解くことは叶わない。

 

「お母さん」

 

「え?」

 

「お母さんって呼んで、レミリア」

 

 そんな声にレミリアは戸惑った様子を見せる。

 

「で、でも…私たくさん迷惑かけちゃったし、ルシェルもいっぱい痛かったと思うし、それに…」

 

「───レミリア」

 

「あっ…」

 

 ルシェルはレミリアの頭を優しく撫でる。

 

「親が子の後始末をするなんて当たり前よ。子供は親に迷惑をかけて生きていくものなの。こんなの私には迷惑にも入らないわ」

 

「あ、あぅ…あうぅ…ご、ごめんなさいぃ…!」

 

「…謝るのはこっちの方。………ごめんね、貴女を助けられなくて、今まで見つけてあげられなくて、気づいてあげられなくて…!」

 

「うぅ…!うあぁ…!!」

 

「貴女はレミリア。レミリア・スカーレット。私の大切な、大切な娘よ」

 

「母さん……!お母さん…!!」

 

「おかえり、レミリア…!会いたかった…!本当に、会いたかったわ…!!」

 

 よく今日まで生きてくれていた。

 泣きじゃくるレミリアを力強く抱きしめる。その身体をもう二度と離さないように、ぎゅうっと。

 とても遠い回り道をしたが、ようやく2人は会うことができた。ルシェルは永い間想い続けてきた子供と、レミリアは夢にまで見ていた家族と。

 

 

「おかえり、レミリア」

 

「ただいまぁ、おかあさん…!」

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「何とかひと段落ついたみたいね」

 

「…えぇ、そうね」

 

「幻想郷の大地も結界とやらも完全に元に戻ったし、これで今回の異変も完全に閉幕。……で、貴女はどうするのかしら。今の彼女にはカケラの脅威も無い。仕留めるには絶好の機会だけど」

 

 2人の視線の先にはあの悪夢を生み出した張本人が。しかしその姿からは先程のような力は微塵も感じられない。同一人物かと疑うほどだ。

 

「……幻想郷の今後、という意味では消した方が良いかもしれない。でも、それをするには私は今回彼女たちに恩を作りすぎた。それに今回の一件は私の不手際でもある。…彼女たちと関係を作っていくことも、また幻想郷の未来のためよ」

 

「そう、良かったわ。殺すなんて言い出したら私が先に貴女を殴り殺すところだった」

 

「…怖いわね」

 

 確かに彼女は明確な脅威ではあるが、少なくとも今排除するのは得策では無い。理由はわからないが、今彼女は無力化されているし、敵意もない。ならば見守るという選択肢が今は一番無難ではある。

 何より小傘にあんな大恩を作った手前、それを仇で返すことはできなかった。

 

 

「あぁ、そういえば」

 

「?」

 

「あの産まれたての妖精を連れてくる件、もう必要無くなったわ」

 

「どうしてかしら?変に食いついてたのに」

 

「……気が変わったのよ」

 

 そう薄く笑う幽香はどこか嬉しげだった。

 紫にその笑顔の真意は掴みきれなかったが、少なくとも彼女にとって満足する出来事があったのだろう。紫はほんの少しだけ幽香との距離が縮まったような気がした。

 

「…私は一旦戻るわ。日が登ったら色々と忙しくなりそうだしね」

 

「そう、ご苦労様」

 

「……今回はありがとう。一応改めて、礼を言っておくわ」

 

 そう言って、紫はその場から消え去った。幽香だけがその場に取り残される。

 幽香は大きく息を落とし、いまだに泣き喚いている集団に目を向ける。

 見たところ小傘にも目立った傷はない。疲弊こそしているが、土や泥に塗れているぐらいで外傷と言えるものは一つも無かった。小傘が1人で立ち向かうと言い出した時は心の臓が口から飛び出るところだったが、無事で帰ってきてくれて何よりである。

 それに本当にアレ相手に勝ちを収めるとは思っていなかった。小傘がいなければ本当に幻想郷はジ・エンドだったろう。本当の意味で戦争を終わらせたと言っても過言では無い。もしかすれば自分が友達になった妖怪は凄い存在なのかもしれない。今更ながら自分なんかがお近づきになっても良いのだろうか?

 

「あっ、幽香もこっち来てよ!レミリアに幽香のこと紹介したいんだ!」

 

「…ええ、今行くわ」

 

 …なんて、小傘はそんなふうに見られることを望んでいるわけがない。小傘だってきっと友達を助けたいから動いただけだ。そんな彼女に自分の勝手な評価を加えて接し方を変えるのは違う。いつも通り、普段通りの自然体が小傘には一番だろう。

 

 小傘の下に行く最中、ふと顔を横に向ける。悠々とした山が遥かの遠くに見え、そこから少しずつ日の陽の点りが見えた。それは夜明けの証。この長い夜も漸く終わりかと、嘆息して再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

「…………あれ、なんか焦げ臭い?」

 

「レミリアぁ…!」

 

「ルシェル様!日光日光!!身体焦げてますよ!?」

 

「日陰!日陰に行きましょう!一旦離れてください!」

 

「いーやー!」

 

「こんな時に我儘言わないでください!」

 

「小傘!傘!唐傘!」

 

「えっ、あっ」

 

「鈍い!貸せ!」

 

 フランは小傘から唐傘を奪い取り、そのまま開く。

 

「いや穴だらけ!!」

 

「うわぁーっ!!なんでぇ!!?」

 

「流石にあの戦闘には耐えきれなかったみたいね…」

 

「ひぇー!?お母さんの羽が消えかけてる!?」

 

「大丈夫よレミリア、これくらいへっちゃ───あっ」

 

「お母様ーーッ!?」

 

 ベキッ

 

「わちきの傘がーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───此度の戦争の勝者、幻想郷

 

    解決者、多々良小傘

 

 

 

 

 

 

 

 

 








多々良小傘ちゃん:今回の戦争の実質的な勝者。いつもはダメダメな感じだけど、いざとなったらちゃんと頭も行動も回るタイプ。あと胆力が凄い。普通にあのレミリアたん相手に勝ち星収めるとか異常ですからね?

十六夜咲夜:実は飛べない。小傘とのレミリアへの理解度の差を見せつけられてジェラった。そろそろ実るな♠︎

ルシェル・スカーレット:あのあと何とか助かった。


☆良くわかる!レミリアたんの歴史①☆
・一時期レミリアたんの力を脅威に思った神が束になって襲ってきた時期があったよ!その時のレミリアたんはちょっとした人間不信になっててイライラしてたから、怒りに任せて大暴れ。一夜で全員返り討ちにしたよ!でもそのせいで世界中の神秘が薄れてしまって、神だけでなく人外の数も減ってしまったのだ!幻想郷が結界を囲まざるを得なくなった原因の一端でもあるよ!その時の荒れてた時期はレミリアたん曰く黒歴史らしい!ちなみにその時の神の生き残りがまだいるとかいないとか…




 次回最終回



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