[完結]わすれじの 1204年   作:高鹿

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23 - 10/22 学院祭一日目

1204/10/22(金) 学院祭準備日二日目

 

「えっ、学院祭一緒に回れるの?」

 

オレはVII組やその他出しもんに、セリはトワの手伝いで生徒会の遊撃としてお互い学院祭の準備で忙しく、他寮ってこともあってようやく隙間を縫ってコンタクト出来た時に誘ったら、まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかった。

 

「違う違うクロウと回るのが嫌なんじゃなくて忙しいんだろうなって思っていたから」

「いくら忙しくても最後の学院祭くらいカノジョと過ごさせろって話だわ」

 

去年はちっと微妙な関係だったろ、と言い募れば、そういえばそうだったねえ、なんて可愛らしくお前が笑う。あの事故から一年。VII組の案件に首突っ込みながらもこうして五体満足に生きててくれて良かったと思う。……本当に。

 

「じゃあ、23日は空けておくね」

「おう」

 

嬉しそうにはにかむお前を見送って、さぁて有志企画の進み具合見てくるかと足を向けた。

 

 

 

 

1204/10/23(土) 学院祭一日目

 

講堂搬入前に技術棟で楽器のチェックを半分済ませ、来る時に持ってきたジャケットに腕を通して待ち合わせ場所へ向かう。ジョルジュには笑われたが構うこたねえ。

 

「おーい、待たせたな」

「あ、クロ、ウ……?」

 

生徒会執行部テントの前で来場客を見ているセリに声をかけると訝しげに首を傾げられる。……そこまで変なカッコじゃねえと思うけど。というかむしろ見慣れてるとさえ思うんだが。

 

「なんで緑の方を着てるの?」

「……VII組の制服受け取った日にお前、微妙な顔してたろ」

 

計画の為にVII組編入は仕方なかったとはいえ、制服程度であんな顔するなんて思っちゃいなかった。まぁ残り二ヶ月ってところでVII組仕様のやつを渡されるとはさすがにオレも予想外だったというか。予算余ってんのか?もっと別のことに使えよと小市民な自分は考えちまう。

 

「これならお前の大好きなV組のクロウ君だろうがよ」

「そ……っ」

 

顔を真っ赤にして絶句するセリがあんまりにも可愛いもんで、このまま寮に連れて帰っちまって良いか?って思うくらいなんだがそれはまぁ駄目だろ。寮に誰もいねえから連れ込み放題ではあるが。

 

「……VII組のクロウくんもきらいじゃないですよ」

 

顔を両手で覆いながら何とか絞り出された台詞はそんなもんで、どっちのオレも好きなんじゃねーか、って笑ったら軽い拳で胸を叩かれた。痛くねえ。

 

「ローランド先輩もアームブラスト先輩もいちゃつくなら会場回ってきたらどうですか?」

「……!」

 

生徒会の一年に促され、邪魔したな、って声かけながらセリの手に自分のを絡めて歩き出すと、あわあわと慌てていたセリもゆっくり歩いてるうちに落ち着いて来たのか手が握り返された。ごった返す人混みを抜けながら紙吹雪舞う道を講堂側へ。

 

「……クロウが関わってる企画、どれだっけ」

「ん~、いろいろ手ェ出してっけど、一番デカいのは馬術部のやつかね」

「ああ、君が胴元になってギャンブルやってるっていう」

「話題に出したいのはそこじゃねえんだよなぁ」

 

苦笑を落としてグラウンドの階段前まで来ると、校庭の半分以上を占める乗馬コースが見えてきた。うんうん、壊れてることもなく無事に稼働してるみたいで何よりだ。

 

「競馬はともかくふれあい体験の方は気になるかな」

「おう、じゃあ行ってみるか」

 

実はセリと白馬のノーブルムーンの組み合わせも結構上位に食い込んでるんだが、どっからセリが馬に乗れるって聞きつけてやがんだあいつら。ま、本人にやる気がねえならしょうがねえよな!オレのせいじゃない。

 

「どうぞ~、こちらふれあい乗馬体験を行っておりまーす」

「すみません、一人いいですか?」

「はい大丈夫ですよ」

 

馬術部一年に声をかけたセリは腰のポーチを外してオレに渡してきた。中に入ってるカメラ触って良いかと聞いたら了承が返ってきたので取り出してファインダーを覗く。うん、良い腰と尻だ。

 

「クロウさん」

「んー?」

「何か後ろから写真撮っている音が聞こえるんですけど」

「気のせいじゃないかねー?」

 

セリが馬に乗ってるのなんか去年の四月ぶりっつうか、むしろあん時もそんな見てなかったからほぼ初見みたいなもんだ。だってまさかこんなことになるなんて思わなかっただろ。そういう意味じゃこの企画を立ち上げてよかった。やっぱ昔から乗ってるヤツは様になるし、これできちんとした乗馬ジャケットとかグローブとかつけてたら一層映えそうだ。

 

「いや、撮ってる……」

「ふふ、恋人の乗馬姿を収めたいなんてクロウ先輩も可愛いですね」

 

かっぽかっぽと馬を歩かせる体験者に付き添ってた後輩女子にンなことを言われて、ぐっ、となっちまう。先輩に対して可愛いはねえだろ。

 

「ばっ、いや、そういうわけじゃなくてだな」

「いや本当にそういうつもりじゃなくて、たぶんお尻撮ってるでしょ」

「おっと、オレのことよく分かってるな~」

 

笑いながら表の方に回って写真を撮ると睥睨したセリとファインダー越しに視線が合って、僅かにぞくりとする。……普段オレより低いセリに見下ろされるのもなんつうか、悪くねえな。

 

「うん、現像するときに破棄しておくね」

 

馬の首を撫でで労ったセリはすとんと軽やかに降り、後輩に礼を言ってからカメラを収めたポーチを受け取って腰に回す。

 

「そんなに写真イヤかねえ」

「好きではないかなぁ。前よりは随分マシになったけど」

 

ああ去年衣装写真を撮ったロシュのおかげか、とそこだけはあいつに感謝してもいいかもしれねえ。どうせならあの写真貰っときゃよかったか。まぁでもあの時点での最善はあの択しかなかった。

今度はセリに手を取られ、また敷地内を二人で歩いていく。

 

「そういえばトワから生徒会手伝ったお礼にチケット何枚か貰ってるんだよね」

「チケット?」

「今年から導入したものらしくて、使うとちょっとした特典がつくんだって」

 

ああ、そういや特典用の小物とか手配もあったか、忘れてたな。そんじゃあいいところで使うかねえ、と話しながら進んでいくと修練場の方から賑やかな声が聞こえてくる。

 

「ギムナジウムでは『みっしぃパニック』を開催してま~す! みんな叩いて爽快! えんじょ~い、みっしぃ!」

 

テンションの高い客引きを横目に、クロスベルかぁ、とセリが呟いた。

 

「確か昨日の午後に市長が独立宣言したんだっけか」

「うん。法的な実行力はないし、帝国も共和国も一顧だにしていないみたいなんだけど……IBC総裁兼任ってレベルのやり手の方が勝算もナシにそんなことしないよなぁって。だからちょっと不気味だよね」

 

例の通商会議のことを経て勉強していたせいで思うところがあるのか、セリは少し視線を下げた。帝国自体が動くなら俺も無関係じゃいられねえ。そう言う意味で動向が気になる場所の一つではある。帝国政府の目が内側じゃなく外側へ向いた時、たぶんそれが転換点だ。

 

「ま、東の果てのことなんざ考えたってしょうがねえだろ」

「しょうがなくても考えちゃう性質だからねえ」

「それもそうだな」

 

自分の故郷とは真反対にある自治州についても考えずにはいられない。自分が認識したものを看過せず、思考を回す。そういうある種不器用なところも好きなったところの一つだ。ンなこと言ったら「どうしたの?」なんて笑われるか顔を真っ赤にされるかだろうけどな。

 

「そういや一階の『ステラガルテン』、かなりカップル向けみたいだから行ってみねえか?」

「いいよ。一階だったら中庭から入っちゃった方がいいかな」

 

そうだなと肯定して中庭のベンチで休んでる来場客を横目に右の扉へ入る。一年がやってる喫茶店がまず目に入るがお目当てはその奥だ。

 

「喫茶店が気になるなら昼飯食った後にでも寄ろうぜ」

「あ、いいの?」

 

どう控えめに見たって東方風喫茶に目を奪われてるセリに笑いがこぼれちまった。オレたちの中でジョルジュといい勝負するくらい食いしん坊なんじゃねえか?

 

「こんにちは、一年II組の出し物『ステラガルテン』はいかがですか? 星空の下、美しい庭園を歩く巡回式のパビリオンです」

 

丁寧な案内をする女子にチケットを一枚渡して二人で入る。ごゆっくりどうぞ、と扉を閉められたら天井にある星と共に生花が飾られたアーチに出迎えられ、プランターに植わった植物も丁寧に手入れされたもんばっかで金のかかり具合がえげつねえなと思っちまった。さすがに蝶は作りもんみてえだが。

 

「暗がりにしつつも足元にしっかりと光源を置いて転けないようにしてあるね」

「注目するところそっちかよ」

「……田舎の森育ちだから?」

 

情緒も何にもねえなあ、なんて笑って、入る時に一瞬離した手をまた繋ぎゆっくり歩いていく。ある程度入場を制限しているのか、ゆったりとした散歩が出来るようになってるみてえだな。さっきのセリの言葉じゃねえが、雰囲気作りをしつつも安全面にも配慮してあってさすが貴族クラスな感じはある。

 

「ふふ」

「ん? どうかしたかよ」

「いや、飾られてるのがグランローズだから去年のこと思い出しちゃった」

「あー……」

 

学院祭が終わって、十一月の自由行動日にやったあの情けない告白だ。考えてた言葉全部吹っ飛んで、いろんなもんでいっぱいいっぱいになっちまって、結局グランローズを差し出すしかなくなったあの日は正直封印したいまであるんだが。

 

「本当に嬉しかったなぁ」

 

だけど暗がりの中でそんな恍惚とした表情と声をいま引き出せたのはあの日の自分のおかげで、まぁそれならチャラにしてやってもいいかと過去の自分に上から目線をかましておいた。そういやグランローズが名産のドレスデンの奴が在籍してるクラスだったなここ。それでこの量か。

 

「おっと、終点みたいだな」

「だね」

 

ゆっくり歩いてる何組かを抜かしたオレらは、ベンチと半球状の装置が置いてある終点だろう場所に着いた。チケットがある場合はこのスイッチを押せるんだったか。意味ありげな黄色いスイッチを押して起動すると、天井の星空がより一層輝いた。

 

「……これは、綺麗だねえ」

「ああ、そうだな」

 

内部機構としてはだいぶ簡単なもんだとは思う。だがそれを天井に投影して輝く夜空を作るっていうのは発想の勝利だ。

手を引いてベンチに座り、二人で空を見上げる。こいつと夜空を見上げたことは何度もあった筈で、作りもんだってわかってるのにどこか胸にクる。あり得ない夜空ってのがどこか心のやらかいところに触れてんのか。笑えねえな。

 

「夜っていいよね。こわいけど、誰でも一人になるから」

「……今は二人だと思ってたんだが違うかよ」

 

拗ねたように呟くと一瞬呆けてから、そうだね、と笑い声と共に肩に頭が乗っかってくる。

普段のオレなら、リィンとかが女子といい雰囲気になってたらそこでキスの一つでもしとけと言うんだろうが、ま、こういうのもいいもんだろ。好きなやつと手ェ握って、静かに笑いあうなんて幸せがすぎる話だ。

 

 

 

 

「そろそろ腹減ったし屋台でも巡るか~?」

「そうだね。トワの様子も見たいし。役員は休憩回せててもトワは出来てない気がする」

 

ゼリカとはまた違った方向でこいつもトワ大好きっ子だよなあ。まぁ妬きはしねえけど。

食いもん系の屋台は正門の方に集まってたよな、とパビリオンから出てそのまま正面玄関へ向かい外へ出る。トワは相変わらず座りもせず各所に指示を出してんのか忙しそうにしてやがる。

 

「んー、やっぱ強制的に休ませる方向かなぁ」

「だな。使われてねえみたいだけどあいつの席でも奪っちまうか」

「一瞬どうかと思ったけどわりとアリな気がする」

 

ま、とっとと買っちまうかと肉の焼ける音と匂いがする方へ歩いていくと、串に刺さった肉がじゅわりと鉄板の上で油を踊らせてんのが見えた。おお、フツーに旨そうじゃねえか。

 

「すみません、この十連ステーキ串とターキーレッグを1つずつください」

「お、注文ありがとうな~」

「オレはあっちのホットドッグとか飲みもん買ってくるかね」

 

セリと分かれてホットドッグを買うと、オレに近寄ってくる道中でクレープ屋に引っかかってるセリが見える。まぁそこ旨そうだよな。

 

「クレープは後で買った方がいいんじゃねえか。食ってる間にクリーム溶けたら悲惨だぞ」

「わかってるけどこのたっぷり苺のクレープが美味しそうでね。後で絶対に買いに来ようね」

 

ったく、後で喫茶店行くの覚えてんだろうな。いやこいつならたぶん食べ切るんだろうが。とりあえずお互い食うもんと飲みもん確保したからそのまま執行部のテントへ。

 

「トワー、調子はどう?」

「あ、セリちゃん、クロウ君。概ね順調だよ。リィン君も手伝ってくれてるし」

「……リィンくんも大概ワーカホリックだよね」

「うん、心配かなぁ」

「それをトワが言うの?」「それをお前が言うのかよ」

 

見事にハモってオレらが指摘すると「私はそうでもないよ!」なんて両の拳を握ってトワが反論してきたがいやいやどう考えてたってお前もワーカホリックに両足突っ込んでるタイプだろ。

 

「おっ、そうだいい感じに席空いてるからここ頂くぜ~」

 

するっと後ろからテントの下に入ってどうせ使われてねえトワの席に座ると、あっ、とトワが声をあげる。

 

「もう、クロウ君。ここ休憩所じゃないんだからね!」

「だって他のベンチ空いてねえから仕方ねえだろうがよ」

「も~~~、セリちゃんも何か言ってあげて!」

 

くるりとトワに振り向かれ助けを求められたセリは苦笑する。この場合言いたいことがあるのはオレじゃなくてトワの方だかんな。今回だけはセリの小言を聞くのはオレの役目じゃねえ。それに席が欲しけりゃ最悪技術棟に行けばいいワケで。

 

「ここに私とクロウが詰めておくから、トワは休憩行ってきなって」

「あ、セリちゃんもそっち側なんだ」

「うーん、どっちかっていうとトワ側なんだけど」

 

ぶっちゃけた話それはずっとな気がするんだよな。トワ側じゃなくなったことあるか?オレとトワが喧嘩したとして味方についてくれる未来は全然思い付かねえ。いや元々のオレの素行が悪いとも言うんだが。

 

「……それはずるい言い方だよ、セリちゃん」

 

あまりにもあっけらかんとセリが言ったからか、逆に恥ずかしそうにするトワに対して、横にいた生徒会役員共が立ち上がる。

 

「会長、俺たち大丈夫ですから」

「はい、この一年会長の下で鍛えられましたし!」

「そ、そう? じゃあ……お言葉に甘えよっかな」

 

えへへ、と笑いをこぼしたトワは「学生会館の方へ行ってくるね」と残して歩いて行った。まぁでも行く先々で見つけたトラブルは解消しちまうんだろう。容易に想像がつく。そういう意味だと送り出すよりついて行ったほうが良かったか。

 

「取り敢えず休憩に出すのは成功?」

 

セリが執行部のL字に組まれた机の端っこに持ってたもんとかを置いて、後ろのベンチに座る。

 

「ああでもしなきゃ行かねえだろうからなあ」

「そうだね。……ごめんなさい、勝手に会長送り出しちゃって」

 

セリが残っていた生徒会の奴らに声をかけると、いえいえ、と勢いよく返ってきた。

 

「会長には後ろで構えていてもらいたいくらいなんですが、中々そうもいかず」

「むしろローランド先輩が来てくれて助かりました」

 

おっと、オレへの労いはなしか?と首を傾げるとやたらと敵意の強い視線が寄越されたので黙っておくことにした。空気の読める男なんだオレは。

 

そんで昼も食い終わり、セリご所望の苺山盛りクレープを食べながらその間に来た落としもんだの迷子の案内だのをこなしつつ、宣言通りトワの帰りを待つことしにした。

 

 

 

 

『ごめんねっ、いろんなところでちょっとバタバタしてきちゃって』

「トワのことだからそうだと思ってたよ」

 

随分と長い間席を開けたトワからセリに通信がかかってきてスピーカーモードで応答した時、真っ先にそう謝られちまう。まあわかっててやってんだからいいんだけどな。

 

『それでこれから食堂のコンロのトラブルでジョルジュ君のところに行かなきゃいけなくて』

「あらー、それじゃあもう暫く私たちいようか」

 

ちらっと目配せをされて、さすがに頷かねえほど人情がないわけじゃない。それに食堂のコンロがトラブルってだいぶ痛手だろうしな、と口を出そうとしたところで、いえ、とまたぞろ横から声が飛んできた。

 

「私達だけでも大丈夫です! 会長はもっと頼ってください!」

 

頼りねえから頼れねえんだろ、なんて言うのは野暮かと黙ってると、トワは少し迷った末に『何かあったら絶対に連絡ちょうだいね?』と念を押して通信が切れる。

 

「……お役御免?」

「みてえだな」

 

そんじゃあ東方喫茶行くか、とごみを捨てて手を差し出すと、何の衒いもなく繋がれた。

 

 

 

 

「へえ、結構内装も凝ってるんだ」

「かなりそれっぽい感じだな」

 

注文をしてからエプロンをつけた男子の案内で赤い布が敷かれた長椅子に座ると、暫くして抹茶と茶菓子が運ばれてくる。結構重量感のある器に口をつけると、ほろ苦い味が口の中に広がった。なるほど、つまりこれに菓子を合わせると……予想通り丁度いい塩梅だ。

 

「結構苦いんだねえ」

「けど旨いな」

「うん、珈琲とはまた違ってるけど、こっちも好き」

 

ふにゃりと緩んだ笑顔を見せられて、こういう横顔を独り占め出来ちまうのほんっとうに、ヤバいんだよな。好きな女の幸せそうな表情はいくらでも見てられるっつうか。いやだいぶ頭が茹だってるなこれ。学院祭のテンションって怖え。

 

「おくつろぎ中に失礼しま~す♪」

「えっと、突然ですが"おみくじ"を引いてみませんか?」

 

箱を抱えた女子二人が前に現れてそんなことを言うもんで、おみくじ?、とセリが首を傾げる。

 

「女神様に祈願して吉凶を占う東方の文化で、チケット使ってくれたお客様へのサービスよ」

「へえ、面白そうじゃねえか」

「じゃあ試しにひとつ」

「では、どちらから引くかお選び下さい。私の方は様々な吉凶を占う《開運おみくじ》で」

「あたしの方は恋愛や相性を占う《縁結びおみくじ》が引けるわよ」

 

たかが占いとはいえ、どっちにしろロクなもん引きそうにねえな。

 

「どうするよ」

「うーん、もうすぐ進路関係もあるし、開運の方かなぁ」

「ぐっ、おま、ンなこと思い出させんなよ」

「いやそもそもクロウは卒業できるかどうかだし……」

 

ごもっともなことを言われて閉口しちまった。そういやこいつ帝国時報に呼ばれてんだったか。かなり大手だから入れたなら人生安泰にもなりそうだっつっても、そんな理由で受けるとも思えねえな。

 

「はい、ではおみくじをお引きください」

 

差し出された箱に順番に腕を突っ込んで引けば、「引いた紙はお守りにしてもいいですし、良くなるようみくじ掛けに結んでも大丈夫です」と言い残して二人が去っていく。さてはて。

 

「えっと、『凶──いつか心揺れる日が来るだろう。しかし諦めなければ翳りを打ち払い吉と転じる可能性あり』……おっと、縁起でもないことが」

「オレの方は……『中吉──おそらくそれは一度きり。選択の時を逃さぬよう目を光らせておくべし』……こっちもだいぶ不穏なんだがこれで中吉なんかよ」

 

二人で顔を見合わせて同時に首を傾げちまう。

 

「……帰りに結んで行こうか」

「だな」

 

紙を畳んで残っていた茶菓子にセリが手をつける。

その横で、そっとセリの文面を思い出す自分がいた。どうにもこうにも不吉さが拭えない文面に、どうしても、これからのことを見透かされたような、そんな寒気が、した。

 

 

 

 

そうしてダービーの結果をこっそり聞きに行き学院長とマッハ号が一位を掻っ攫っていったと聞いて撃沈しながら夕方には技術棟に戻って、ジョルジュと一緒に導力楽器の最終チェックを済ませていく。屋台で買ってきた甘いもんをジョルジュに差し入れたセリはいつもの席に腰掛けぼんやりとしている。

 

「アン、来られるかなぁ」

「さぁな。でも、今日来なかったってことは明日に賭けてんじゃねえか?」

「そうかもしれないね。しかもアンは賭け事には滅法強いから」

「確かに。それにこんな楽しいことに顔出さない筈がないか」

 

心配しすぎも良くないね、と立ち上がって身体をほぐす。

 

「楽器の運び込み、するなら手伝うよ」

「そんじゃお言葉に甘えて来場者がハケたところで一働きしてもらうかね」

 

そんな風に笑いながらトワによる一日目閉場のアナウンスも流れ、合流してきたVII組の面子とも協力して楽器を講堂へ運び込んだ。さーて、明日はどうなるか。

 

 

 

 

そうして帰寮して夕食をとりながら三曲目への導入を詰め終わったところで、遠く鐘の音が鳴り始めた。普段昼間に鳴り響く本校舎のものとは響きの違う荘厳なそれは、どこか聞いたことのあるもんだった。────ああ、そうか。時が来たのか。

呆気ないもんだと内心で笑いながら、音の出どころに心当たりがあるらしいサラに続いて全員で学院の方へひた走る。

 

「学院長、先輩たちも!」

 

サラとリィンを先頭に、本校舎の横を通り抜け旧校舎まで駆け抜けたところで五つの影が青白い障壁の前で立ち尽くしているのが見えた。学院長、トマス、セリにトワにジョルジュ。学院に残っていたり、この鐘で駆けつけたりしたんだろう面々だ。セリだけはオレたちに気付いていたのか振り向いて出迎える。

 

「リィン君たち!?」

「おお、サラ教官も」

「……来たか」

 

そうして他の四人も振り向き、状況把握のすり合わせが始まった。

 

「先ほど鐘がなり始めた直後、この状況になったそうじゃ。複数の学生が証言している」

「な、何だか透明な壁に包まれているみたいで……」

「工具のハンマーで叩いても衝撃が吸収される感じですね」

「衝撃の強弱では結果変わらない感じかな。アガートラムレベルだと分からないけど」

 

簡単に試したことを情報共有されて、全員一様に訝しみ疑問符が上がる。

 

「物理的な衝撃を相殺するような力場……?」

「不可解な場所とは思ったがここまでだったとは……」

 

アリサやラウラの言葉が続いていく横で、どうも委員長ちゃんだけは何かを知っているかのような雰囲気で──ああ、そういえばヴィータの妹だったか。それなら魔女ってことだ。この状態にも心当たりがありまくりだろう。

ガキンチョが叩いてみようかと提案し、ユーシスがそれを即座に却下する。まあ物理的に破壊できるなら世話ねえんだよな。

 

「そういえば、レポートにあったローエングリン城のやつってもしかして?」

「ええ、青白く不可解な力で封じられた障壁。まさにこのようなものでした」

 

セリの質問にガイウスが答える。

そう、つまり人智を超えたもの──広義的には古代遺物になるんだろうが、いわゆる1200年前の大崩壊以前にあったとされる古代ゼムリア文明によるオーパーツ的なもんじゃない。暗黒時代に地精と魔女が造り上げた機体がこの旧校舎の地下に眠っている。あの魔導器物が眠っていた壁の紋様を見た時にピンときた。"あれ"がここにあると。

 

「──全教官を招集」

 

話を聞いていた学院長が厳かに口を開く。

 

「これより緊急会議を開く。最悪の事態を想定して備える必要があるじゃろう」

 

その言葉にサラ教官もトマス教官も、そうなるか、と諦観を示した。

 

「トワ君、明日の学院祭だが、中止の方向で進めておきなさい。セリ君はその補助を。ジョルジュ君は、この場所の監視機器を揃えてもらいたい」

 

全員、その言葉に頷く。

さもありなんだ。こんな異常事態が発生しているところに一般人を招き入れることは到底許せるもんじゃねえ。学院を、トリスタを、そしてすべての人間を守るためにはその判断しかないだろう。これに対して本当の意味で正確な判断が出来る存在なんざ一握りだ。

 

「ま、待ってください!」

「まさか……学院祭を中止にするつもりですか?」

 

マキアスとガイウスが堪らないといった風情で声をあげたが、それをサラが「仕方ないわ」と嗜める。

 

「教官の言う通り、周囲にどんな被害があるかも分からない状況だし、学院……ううん、トリスタにも避難指示を出す必要があるかも」

 

トワのその言葉に、この状況がいかに危ないのか、というのがようやく伝わったのか後輩共の表情が強張る。そう、VII組や前年度組は、ある種この手の騒動には慣れている。だけど通常そうもいかねえ。そして、オレたちの手は全員を守れるほど強くも広くもない。個人に出来ることなんざたかが知れてる。

そう結論も落ち着くかと思った矢先、あの、と今まで黙っていたリィンが声を発した。

 

「────この一ヶ月、俺たち、それに他のクラスも学院祭に全てを賭けてきました。単なる意地の張り合いだったり、身内への見栄もあるかもしれません。皆で一緒に何かを成し遂げるのが単純に楽しかったのもあります」

 

こぼされていく青臭い言葉にはそれでも力があって、全員でその言葉に耳を傾ける。

 

「だけど、それだけじゃない。俺たちがここにいた"証"……それが残せるかどうかなんです。勝ってもいい、負けてもいい。大成功でも、大失敗でもいい。これまで教官や先輩たちに導かれお互い切磋琢磨してきた、"全て"を込めるためにも」

 

拳を握って学院長へ真っ直ぐ視線を向けるそいつは、出会った時よりずっと強くなっていた。

そうして、理解する。たぶんコイツなんじゃねえかと。この異常事態を引き起こしている存在に呼ばれているヤツは。

 

「どうか俺たちに"明日"を掴ませてもらえませんか!?」

 

VII組のヤツもそれに続くよう言葉を重ねる。こんな終わりなど受け入れられない、出来ることがあるならそれを成すべきだと。ああもう、ほんと青臭え。でも、悪くもねえ。

 

「……本気みたいだね」

「やれやれ、聞いてるこっちが気恥ずかしくなってくるぜ」

 

ジョルジュの言葉に続くよう肩を竦める。たぶんゼリカがいたらおんなじような言葉を落としたんじゃねえかな。だけど、いいチームであるって前にトワが言っていたことに全面的に同意する羽目になるとはな。

 

「しかし、意気込みはともかくこの障壁をどうするかですが……おやぁ、リィン君? 腰の所、どうしたんですか?」

 

わざとらしくトマスが指摘したリィンのARCUSホルダーに全員の視線が向く。確かに青白く光っている。そいつはまるでARCUSの戦術リンクが完全に一致した時と似たようなもんだったが、よくよく見れば光の強さが異なる。言ってしまえば、障壁の光に似て。

そうしてリィンが取り出したARCUSを起点に、VII組全員へその光は伝播していった。ミリアムにも、そして──オレにも。

 

そうして何かを理解したのか、リィンがARCUSを片手に障壁へ手をかざす。エリオットが悲鳴をあげたが、何もなく……いや、その指は障壁へと僅かにめり込んだ。

 

「これは……旧校舎そのものと共鳴しあっているのか……?」

「ええ、間違いないと思います。そして、俺たちVII組なら旧校舎の中に入る事が出来る」

 

その言葉に、VII組の面々は障壁の前に移動し、ふれる。オレも試してみるとリィンと同じように入ることを許されているかのような挙動が見て取れた。ちらりと他の奴らを確認すると、その瞳は、もう前しか見据えていない。この異常事態を解決するのは自分たちだと、そう心に固く誓った色。

やれやれ、ここまで巻き込まれんのか。まあ、いずれ対峙する相手を拝んでやるとしよう。

 

「……参ったわね。学院長、すみません。どうやら育て方を間違えてしまったみたいです」

「フフ、おぬしはこの上なくよくやってくれたと思うぞ。それに、どのように育つか選ぶのも、また若者たちじゃろう」

 

教官の言葉に笑った学院長はVII組を整列させ、裁定を下した。

 

「現在、19:40。24:00までの探索を許可する。それ以上は"明日"に障りがあろうからな」

「君たちの"証"を残すためやれるだけやって来なさい。多少の無茶なら許可するわ」

「それと一応、女神の加護を。無理をせず退くというのも勇気のうちだと思いますよ~」

 

教官陣の言葉に、それぞれが強く頷く。

 

「みんな、くれぐれも気をつけて! 私たちも出来る限りバックアップするから……!」

「技術棟も開けておくから整備が必要なら来るといい。それと、売店や食堂も閉めないよう頼んでおくよ」

 

トワとジョルジュがバックアップをすんなら百人力だ。こいつらの実力はオレがよく知ってる。すると、セリがオレの前まで来て自分のポーチから取り出したものを手のひらに乗せてきた。

 

「私も走り回ることになるだろうけど、クロウにはこれを渡しておくよ」

 

それはセリのARCUS、そして耳介装着型通信機。一年前にあったルーレの課外活動で渡されて以来使ってきていた大切なツールだ。

 

「お前、これ」

「ずっと繋げておいて。手が塞がってもこれなら連絡が取れるから。通信するだけならARCUSとの相性は関係ないし、バッテリーの消耗も抑えられるし……そして、絶対私に直接返して」

 

何が起きるか分からない場所に赴くというのは、つまり死地への旅だ。正直なところこんだけ人数がいるんだからという油断もなくはねえが、地精どもが人数に合わせて変わるダンジョンを作り上げてる可能性もある。あん時は本当に、死ぬかと思ったかんな。

 

「おう、任せとけ」

 

耳に装着し、セリのARCUSを開けてトワへ通信を接続する。蓋の裏にオレたちのARCUS番号が丁寧に金属彫刻されてて、笑っちまった。どんだけ好きなんだよ。オレらのこと。

 

「会長、先輩たち、ありがとうございます……!」

「後ろのことはヨロシク頼んだぜ!」

 

安心させるようセリの肩を叩き、青白い障壁の中へオレたちは侵入を果たした。




原作の学院祭集合写真でクロウが標準服着てる理由が知りたすぎる。
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