[完結]わすれじの 1204年   作:高鹿

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41 - 12/15 海都寄港

1204/12/15(水)

 

その日は、起きた時にまず違和感があった。

なんだろうかと身体を起こしベッドから降りてみると直ぐに理解する。左足の鎖が消えていると。じゃらりとした不自由の象徴は、みみず腫れの傷を残して消えてしまっていた。いや案外と痛いなこれ。装着時はそこまで気にならなかったのに。

一体全体何が起きているのか。状況の説明を求められる相手はクロウも、ヒエリアさんも、誰も近くにいない。クロウは昨日一緒に寝た筈なので、逃げやがったなあの男。

 

気を取り直して辺りを見回し、今度は今まで部屋になかったものが床に鎮座しているのが見えた。靴だ。それも、一ヶ月ほど前まで私が履いていたけれどどこかに隠されてしまっていたコンバットブーツ。ローテーブルには動きやすそうな服が一式、学院に留まっていた時に取り上げられた武器まで揃えられ、部屋の角にあるポールハンガーにも知らないコートが掛けてある。もちろん服類は全てクロウのサイズではない。

いよいよもってなんだこの状況は、と思い始めたところで、壁際に置いてある作業机の上にこれ見よがしに鞄が置いてある。近づいて行ってみるとそれは見たことがないものだったけれど、私の好みそうな色合いのボディバッグ。中身を検めると、財布がひとつ。一応確認してみるとおかしなほどの額が入っていた。

おっとこれは、と怯んだところで、私の制服の内ポケットに入れていた筈の学生身分証明書が何でかそこに入れられている。

────つまり、これは、そういうことなのだろうか、と。

 

窓を確認してみるとパンタグリュエルは青を基調とした街に停留しているようで、手前に空港の風景が広がっている。250アージュ級飛行戦艦が停泊できる空港は帝国内でもそう多くはない。風景から導き出される場所としてはおそらく海都オルディスだろう。

すこし考えた私は、服を着て、靴を履き、ARCUSをポーチに、鞄を持って、パンタグリュエルを降りることにした。

 

 

 

 

戦艦を降り、ステップを降りて空港の連絡通路に降り立つ。それだけで嗅ぎ慣れない街の香りがして遠くの街に来てしまったなあ、とすこし心細くなってしまった。まぁそんなことも言っていられまい、と頭上にある看板に従って歩いていくと待ち合いのロビーのような場所に出た。

出口付近にインフォメーションセンターのようなカウンターが見えたので近寄っていくと、案内の女性がにこりと笑い、ご用件をお伺い致します、と。

 

「あの、実はたまたま乗っていた艦がこちらに停留したため出てきただけなので、街の名物や観光名所など簡単に教えて頂けたら嬉しいんですが、お時間大丈夫ですか?」

「はい、構いませんが……失礼ですが何時の便にお乗りになられていましたか?」

「ああ、定期船じゃ無いんです。パンタグリュエルという飛行船で」

 

正確には飛行戦艦、なのだけれど意図は伝わったようで女性の顔つきがうっすらと変わる。この発言で、白銀の飛行戦艦パンタグリュエル──つまりカイエン公にゆかりのある船に乗り、観光を所望している令嬢、という肩書きになった筈。それぐらいは利用させてもらってもいいだろう。

 

「よろしければこちらから送迎車をお出しすることも出来ますが如何なさいましょう」

「すみません、自分の足で気軽に歩いてみたいんです」

 

私の発言に相手は、なるほど、と得心した顔でこの街の地図を広げてくれた。

うん、嘘は言っていない。嘘は。相手が勝手に勘違いしてくれただけなのだ。だいぶ怪しいゾーンではあるけれど。

 

「まず、オルディス空港を出ますと聖堂地区──貴族の方々の邸宅が並ぶので通称貴族街とも呼ばれる場所に出られます。左手に見える大聖堂はやはり一度は訪れておきたい場所かと」

 

そんな風に丁寧にいろいろ教えてもらい、最後には地図を貰って私は空港から歩き出した。

 

 

 

 

空港から道沿いに進んで行くと、ある地点で光が射す感覚が強くなり駆け足になってしまう。すると直ぐに視界が開け、道の先にあるちょっとしたテラス的な公園へ降りて行くと階段状になっている建物群の向こう側に大きな尖塔と青い、写真でしか見たことがない海がずうっと向こうまで広がっていた。

 

「────すごい」

 

森でしか過ごしたことのない私にとって、こんな風景は雪景色と同じぐらいお伽話の世界のようなものだ。それが今、目の前にある。青い空に、広い海。ひらけた空の向こうには鳥が優雅に舞い飛んで。手すりに腕と身体を預け、走って火照った身体を冷ますような冬風が気持ちよくて瞼を下ろす。

 

『視界さえ開けてれば大体どっからでも海が見える作りになってるぜ』

 

不意に以前クロウが海都について話してくれた言葉を思い出してしまった。本当だね。旧都とはまた違った趣のある綺麗な街だ。夏至祭の時にはここから見えるあそこ一帯に篝火が灯されるんだろうか。どんな景色なんだろう、見てみたいな。

 

何だか出鼻で感傷的になってしまって気合を入れ直して後ろを向けば、立派な大聖堂が建っている。建物の規模としては旧都と同じぐらいかな、と考えながら中へ入ると大司教さまたちがいらっしゃった。

私は静かに腰を折って挨拶をし、並べられている長椅子の適当な場所へ座り両手を組む。

 

────女神さま、空の女神さま。いつか私は、大切な人が自分のことを話してくれる時が来たらどうか見守ってくださいとお祈りしました。それは無事果たされたので、ここに感謝の意を捧げたいと思います。本当に、ありがとうございました。

 

顔を上げると厳かな空気の中、光を透かし綺麗に光るステンドグラスの女神さまの似姿が。

何かあった時だけこうして祈るだなんて、あまりにも現金すぎる自分に苦笑しか出ないけれど、それでもやっぱり私は祈ることを止めないと思う。

今でもそこまで敬虔な信徒というわけではなくとも、以前より多少心構えは変わった気がする。これは単なる想像……いや妄想の類かもしれないけれど、どうしてか帝国はもっと混乱の渦が満ちて行くような、そんな予感がしてしまうから。

そしてもしそんな時代が来たら、自分に為せることを探していけますように。そう誓いを小さく立てて、私は大聖堂を後にした。

 

「まだ九時か」

 

ポーチから取り出した懐中時計に視線を落として呟く。そういえば今日はまだ朝食を食べていなかったな、と気が付いたので商業地区からぐるっと街を回りながら美味しそうな店を探して行こう。小目標を打ち出したところで足を動かし始めた。

 

道を駆けて行く子供、買い物をするご婦人、どこかの邸宅から漂ってくる美味しそうな香り。

内戦中だというのに街は驚くほど穏やかだ。街角で談笑する人々の顔にも不安は全く見えない。ここだけ見たら帝国内で争っているだなんて嘘のよう。

まぁ海都オルディスは貴族連合軍総主宰であるカイエン公のお膝元ということで、戦火とは程遠いからかもしれない。この分ならもしかしてティルフィルや叔父さん叔母さんに被害が行っている可能性も少ないかな、とちょっとだけ心が緩む。

 

邸宅街を抜けると丸い広場のような場所に出た。中心の像へ近寄ってみると、足元の銅板に『人々の航海の安全を見守りし、碧のオンディーヌここに』と刻まれている。

岩場に座った女性を象った彫像は長年風雨にさらされているせいか、丸みがかっている箇所が多いように見えた。しかしその眼差しのやさしさは海に向けられ、これからも彼女はここで海都を見守って行くのだろう。

 

「その石像はね、海の大精霊の娘であるオンディーヌを彫ったものと言われていて、中世の時代から人々の航海を見守ってくださっているんだよ」

 

その声に振り返ると、幾分かお年を召した男性が立っていた。格好からして貴族然とした方ではあるけれど、柔和な雰囲気がありどこか親しみやすさを覚えてしまう。格好からしてラマール貴族の方ではないようだけれど。

 

「ここは精霊信仰が今も残っているんですね」

「そう。お嬢さんのいる街はあまりそういうことはなかったかな」

「いえ、私がいた街も森の精霊さまを祀っているので、親近感がわく方です」

「それはいいことだ」

 

ふふ、と二人で笑い合い、丁寧にお礼をする。優しい方もいるものだ。

そしてどうやら地図によればここらはラマール街道やオルディス駅もあり、海都の玄関口のひとつのようで、高級百貨店やホテルなどが並んでいる。買うものも後であるかもしれないけれどとりあえず今はあまり関係はないかな、と丘の上に成る広場から景色を眺め、また歩を進めた。

 

 

 

 

広場を北へ抜けるとまた住宅街に入ったのか、軒を連ねる家々に囲まれた道に出る。ただこの坂を降っていくと港湾地区に出られるようなので、探検の終端はそこにしようと頷く。一応空港のある地区にも戻れるようだし。

それに帝国都市の中でも人口は帝都に次ぐ街と謳われるほどの広い街だから、あまり端の方まで行って迷子になっても困ってしまう。今日のところは空港で訊いた案内の方のおすすめに従って動いておくというのが得策だろう。

 

坂を道なりに歩いていると、生花を売っているお店が見えて思わず足が引き寄せられる。十二月だというのにわりと色とりどりの花があって驚いてしまった。薬草には冬に採れるものももちろんあるけれど、やはり春夏に比べて森の中の色数が少なくなるのは常だったから。

 

「おや、珍しいかい? オルディス近辺は陽射しが強くてね、生花の栽培に最適って有名で花卉農家がたくさんあるんだよ」

「へえ、初めて知りました。それでこんなにたくさんあるんですね」

 

風対策がされている花たちはどこか誇らしげで、七分咲きのものなどは買って帰ったらその蕾が綻ぶ前後の数日間を楽しませてくれるだろう。……そういえば、クロウから初めて貰った薔薇も満開ではなかったっけ、なんてことを思い出す。綺麗に咲いていく過程を写真で撮ったりして、あれも嬉しくて楽しかった。

 

「どうだい、一輪。大切な人へも、自分へでも、あるいは何でもない日の食卓を飾ったりね」

 

言われて、すいっと視線を奪われた花があった。オレンジ色の、花びらが何重にもなった可愛らしい小ぶりのそれ。添えられた札によるとカレンデュラという名前らしい。

 

「それじゃあ、まだ街を見て回る予定なので、そこのカレンデュラを一本取っておいてもらえますか? 代金はここで支払いますから」

「あいよ」

 

快く応じてくれた店主の方にお金を渡し、よい一日を、と見送られてまた坂道を。

すると美味しそうな香りがしてきて、ふらふらとまた吸い寄せられるように歩いていくと一軒の宿酒場の前に着いた。ぐう、とお腹が空腹を主張してくるので、遅い朝食でも摂ろうか、と扉を開けて中を覗いてみる。地元っぽい方から、宿泊など観光客のような方まで、朝と昼の間だからそこまで混んではいないけれど、楽しそうな声が。

 

「いらっしゃいませ、一名様ですか?」

 

給仕の女性に頷くとテーブル席へ案内され席に着く。メニュー表を渡されたところで、そうだ、と口を開いた。

 

「あの、この美味しそうな香りの料理って」

「ああ、ブイヤベースですね。野菜を炒めた後に魚を入れて煮込んだ具沢山のスープみたいな。うちの自慢の料理なんです」

「じゃあそれをひとつお願いします。あとパンも」

 

海辺のお店で海鮮料理なんて、そんなの絶対に美味しい。

 

 

 

 

魚と貝と野菜を煮込んだスープがこんなに複雑な味わいだなんて知らなかった。だけどこれを自分でやろうとしてもきっと上手くはいかない。鉄道が発達したとはいえやっぱり生鮮食品は高くつくから学生には手が出しづらいし、それ以上にこれはこの街だからこそだろうとも思う。

最初にこれだけ美味しいものを食べてしまったら、内陸の方で作る自分の料理に満足が出来るかと言ったら否だ。またひとつ美味しいものを知れたのは大きな収穫……だと思う。

それと残ったスープにパンを浸して食べるのも、ちょっと行儀は悪いかもしれないけれど余すことなく頂けるという一点において許されたい。

 

「あら、綺麗に食べてくれてありがとう」

「本当に美味しかったです!」

「それは良かった」

 

ゆっくりしたいけれど、まだまだ動く予定なので手早くお会計を済ませてしまおう、と席を立ちカウンターへ。精算をしたところで、あの、と声をかける。

 

「観光で来ているのですが、近辺でここは見ておいた方がいい、って場所はありますか?」

「それならやっぱりシュトラウス工房かな。道を少し上ったところの対面にあるんだけど、硝子細工を専門にされている方でね、見るだけでも楽しいと思うよ」

 

硝子細工。それは是非とも見たい、とお礼を言って店を出た。少し戻ってしまうけれどそこまでロスじゃない。たぶん。……大丈夫だよね?と時計を出して確認したけれどリミットまでは十分時間があった。よしよし、体内時計はまだ狂ってないな、と満足して工房を目指す。

 

坂道を戻って行くと右手にそれらしき建物が見えてきた。看板を確認して入ると、中にはこれまたたくさんの色が飾られている。花を模したランプや、花器、流線型のグラスや、細かい細工が入った杯、小物入れなど、いろいろな硝子で作られたものたちが。店の中央にある獅子を象った細工など、今にも動き出しそうなほどで驚いてしまう。

天井からの光を受けてきらきらと輝く硝子工芸品を見て、ああそうか、と納得がいった。さっき花屋の方からオルディスは陽射しが強いと聞いた。強い陽射しは硝子を退色させるものでもあるだろうけれど、それと同時に硝子を美しく魅せるものでもあるのだ。そして花を生ける花器も需要が高いのは明白なこと。

 

知らない街でも、そこには人々の生活が、文化が息づいている。

私は帝国という概念にアプローチをかけるためにティルフィルの外へ出ることを考えているけれど、もしいつかあの街へ戻るのなら、それらをきちんと理解して街のために働きたい。でもその為にはやっぱり他の場所を知った上でないと、何が弱くて何が強いのかわからない。

だから、そう、あの街を愛しているからこそ外へ。

 

自分の心が定まって行くのを感じる。知らない街なのに、知らない街だからこそ、浮き彫りになるものもあるんだな、なんて。

 

きれいな硝子工芸品の数々。残念ながら今の私では購入することは出来ないけれど、いつかまたこの街へ来た時には何かひとつ自分のお金で買いたいと心に決める。

カウンターに立っている男性に会釈して店を出たときの私の足取りは、本当に軽かった。

 

 

 

 

「……な、んで、お前がここにいるんだよ」

 

そうして街を巡り、歩きながら必要なものを考え、物を引き取ったり買い物をしたりして、私はパンタグリュエルの一室へ戻りソファへ座った。というところでクロウも帰ってきたのだけれど、第一声がそれだった。

 

「なんでって、いや、むしろなんで?」

 

そう言われる筋合いは一切ないと思うのだけれど。

 

「足枷外れてお誂え向きに停留してんだろうが」

「あぁ、一度外出はしたよ。怪我してるから傷薬とか、暇だから参考書とかまとめ買いとかしてきて重かったかな。一緒に来てくれたら良かったのに」

 

どうせなら二人で街を歩いた方が楽しかったかも、と考えないではない。でも二人だったらあんな風に落ち着いた心にはならなかっただろうという気配はあるので、これもまた女神さまのお導きだろう。

 

「……逃げてくれって、つもりだったんだが」

「もちろんそれは理解したけど、元々どこかへ行くつもりはなかったよ」

 

出掛ける時に武器だけは置いていった身として苦笑するしかない。あれだけあからさまな意図を見逃す筈もないわけで。

クロウは閉めた扉の前で立ち尽くし、理解不能だというような表情で私を見下ろしている。

 

「出ていかねえ理由がないだろ」

「君がいるから。君が私を求めてくれるから。それじゃあ駄目?」

 

君は自分ばかりが好きでいるかのような行動をするけど、私だって君のことが好きだし、何よりやっぱりここにだって夜中にクロウのことを抱きしめられる人間なんてのは存在していないと思う。私が安らぎの場になれるのかどうか、ちょっとだけ自信はないけれど、僅かにでも安寧を差し出せるなら傍に居たい。その程度には、愛しているから。

それにやっぱり、この間の今日ということはリィンくんがどこかで関係しているのだろうということは想像に難くない。私の言葉は届かなくても、彼の言葉なら届くんだな、なんていう嫉妬も混じっている。だからこれは意地のようなものだ。

 

「……」

「あ、というか時間あるなら薬塗って欲しいな。自分じゃやりづらいから」

「ん? あ、あぁ、そういや怪我したって」

「そう。左の足首」

 

紙袋から小瓶を取り出してひらひらと振ると、思うところがあるのに噛み殺したんだろうクロウが手袋を外しそれを受け取って、私の前に膝をつく。いや別に椅子に座ってくれてもいいんだけど。だけどどうやら自罰的なのかそこがいいようで、まぁいいか、と靴などを脱いで足を差し出した。

蓋を開いたそこから適量を指先で掬い、冷たいものが足首に乗るのですこし声が漏れる。一周ぐるりとついた傷跡は、それほどもなく消えるだろう。

 

「足枷ももう少し肌に優しいものだったら嬉しかったなぁ」

「……以後善処する」

「しなくていいけどね! もう嵌めないでね!」

 

まるでこれからも鎖を嵌める可能性があると言わんばかりの発言に思わず反論を返してしまった。戻ってきたと言っても別にそれを了承したわけじゃないからね?

今後もそれがあったらさすがに室内が傷つくという天秤をひっくり返して、導力銃で鎖を撃ち抜かせて貰うとしよう。ああ、でも、そう。実のところ脱出しようと思えばいつでも出来たというのをこの男は知るべきなのかもしれない。もちろんヒエリアさんに迷惑がかかるとか、そういう状況も含むとおいそれとするつもりはなかったけれど。最終的には自分の意志であることは明確だ。

 

「というかさ、たとえ貴族派が大多数を占める平和な場所だとしても知らない街で放り出すのは責任なさすぎでは? 拾った動物の面倒は最後まで見て欲しいにゃあ」

 

おどけて言ったところで包帯も巻き終わり、訝しむようなクロウの頬に両手を添えて目尻にキスをする。ぱちぱちと瞬きする隙間で暗い紅耀石の瞳と視線が合い、私は笑みを深くした。

するとお返しだと言わんばかりにそのまま唇を合わせられ、無遠慮に差し込まれた舌が私のに絡みつきナカを蹂躙していく。自分の意思以外で動くそのあたたかさが気持ちよくて、首へ絡めるように腕を巻きつけた。

暫くそうして貪り合っていたところで、不意に終わりが来る。すこし物足りなくて閉じていた瞼を開くと、真っ直ぐな瞳に射竦められ、背筋がぞくりとした。

 

「……お前自身がそれを望むなら、もうなかったことになんてしてやらねえぞ」

「そんなの、元からそうじゃない?」

 

この関係を清算できる地点なんて、とっくのとうに過ぎ去っているのだから。

 

 

 

 

「そういえば財布に引くほどお金が入ってたんだけど」

「お前が何処へ逃げても当分暮らせる額は入れてた」

「愛が重い……」

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