[完結]わすれじの 1204年   作:高鹿

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50 - 03/24 白き花が咲く頃に

1205/03/24(木)

 

「ああ、セリ。よかった」

 

学院の敷地をぶらぶらと歩いて、今までの日々を思い出していたら校庭付近の階段辺りでフィデリオが手を振ってやってきた。手には何か封筒……いや紙袋と言って差し支えない程度の厚さがあるものを持っている。

 

「どうしたの?」

 

フィデリオは例の内戦を撮影した写真が評価され、1204年度フューリッツァ賞特別賞を受賞してそのまま帝国時報に誘われたと聞いた。私も入社することを決めていたら肩を並べて走り回っていた未来もあったんだろうか。

 

「その、感光クオーツと写真の整理ついでにロシュとも手分けして、君たちが写っていたやつを集めてみたんだ。……余計なお世話だったら置いてってくれて大丈夫だけど」

 

渡された紙袋の中を出してみると数々の写真の中に、彼がいる。楽しそうだったりロクでもなさそうだったり。もう取り戻せない愛しい日々が切り取られた、そんな姿を。

ああ、そう。こんな風に笑ってた。

 

ぎゅっと唇を噛み締めて、涙を落とすことだけは我慢して、笑った。学院解放の交換条件だったとはいえテロリストだった恋人と出て行った人間なんて、とんでもない噂の対象だったのに、それでも変わらずに接してくれたフィデリオには感謝しかない。

 

「……ううん、嬉しい、ありがとう。あんまりみんなで写真を撮る機会はなかったから。アルバムに収めて大切にするよ」

「そっか、良かった」

 

それじゃ、とやることがあるのかフィデリオが走っていくのを見送り、私はそのまま写真を手に校庭近くのベンチへ座って写真を眺める。

私は写真に収まることは殆どなかったけど、それでも一昨年の冬辺りからほんのちょっとずつ増えて、ロシュとフィデリオのカメラには嫌悪感を抱かなくなっていっていたようだった。

クロウが写真の中で笑ってる。楽しそうに。……ねえ、こんな表情でフェイクだったなんて言っても全然説得力ないよ。その辺わかってたのかな。

 

 

 

 

1205/03/26(土) 卒業式当日

 

「あ、いたいた」

「サラ教官。どうかされましたか?」

 

式も終わり、写真も撮って、朝に返し忘れていた寮の鍵を返却しに来たところで教官に捕まった。この後はキルシェを借り切って打ち上げだからみんなは先に行っている筈だ。

 

「いやね、君ってば旅に出るそうじゃない?」

「はい」

「だからこれ」

 

渡された封筒には遊撃士協会のマークが印刷されており、それが数通。おそらく内容としては同じものなんだろう。

 

「もし何かあったらギルドに行きなさい。紹介状なんてなくても話は聞いてくれる筈だけど、話も早くなるし念の為ね」

 

お守りだと思って持って行くといいわ、と言いながら教官は私の頭を撫でる。教官はたまにこうやってお姉さんぶるのだけれど、もしかして私の頭は撫でやすい位置にあるのかなと最近思い始めた。確かクロチルダさんにもスカーレットさんにもこんなことをされていた気がする。

しかしそもそも、だ。

 

「教官、私は国外に出ないんですけど」

 

一応帝国内を見て回る予定で、そうすると遊撃士協会というのは酷く冷遇というか撤退を強いられた立場のためこの紹介状はあまり使えそうにない。たしかレグラムとか一部には支部が残っているそうだけれど。

 

「えっ、そうなの? アンゼリカがそうだったからてっきり」

「でも去年の自主休講させられた貸し、これでチャラにしておきますね」

 

笑って鞄の中へしまうと、よく覚えてるわねえそんな昔のこと、なんてしみじみと言われてしまった。いやいや忘れるわけないじゃないですか。あの無茶振りをどうやって忘れられるのかと思うけれど、たぶんそれ以上の無茶振りをしたりされたりしてきた結果なのかなと少しばかり遊撃士時代のことを考えずにはいられなかった。

 

 

 

 

1205/03/27(日)

 

実家が遠い私は打ち上げの後そのままキルシェに泊まり、朝食を摂ってからティルフィルに戻ることにした。役場の建物はもう完成しているだろうし、後は事務手続きとかを終わらせたら晴れて自由の身だ。

暫くの食べ納めになるキルシェのご飯をゆっくり味わって、二年間ありがとうございました、とフレッドさんとドリーさん、常連の方々に挨拶をしてトリスタの駅に入る、直前。

 

駅前に赤髪の男性が立っていた。妙に視線を惹く瞳の色と、それに似たブローチを首元のジャボに留めた人。そしてどこかで見たことがあると内心で首を傾げた瞬間、三ヶ月前の煌魔城にもいた人物であることを思い出した。

そしてVII組のレポートでも散々書かれていた────レクター・アランドール特務大尉。

クレアさんと同じくオズボーン宰相の懐刀である鉄血の子供達の一人、かかし男。

 

「よ、こうして直接言葉を交わすのは初めてか」

「……どのような御用件か伺ってもよろしいですか? レクター・アランドール殿」

 

別にクロウの思想に共感したわけではないけれど、それでもさすがに宰相側の人間と相対して完全に冷静でいれられるほど人間が出来ちゃいない。

だって貴族を煽り、自身の死亡まで道具にして、そうしてあの結末を導こうとしていたのは紛れもない事実なわけで。そんな陣営が私に今更何の用だと言うのか。

 

「おう、お前さんの進路が未定って話を聞いてな、情報局にスカウトしに来たぜ」

 

は?

 

「……ご冗談を」

「冗談じゃねえんだな、これが」

 

その飄々とした態度もあるし頼むから冗談であって欲しかったというのに、ばっさりとその可能性を切り捨てられる。……まぁ、情報局の特務大尉という立場は一個人に冗談を言いに来るほど暇ではない。そんなの端から分かっていたけれど。

 

「……単なる平民一人、どうにでもなると?」

「いやいや、国家に関わることだからな、キッチリ納得させた上で連れてこいってお達しだ」

 

つまり、納得させられる自信があるということだ。馬鹿にしている。

 

「ではお引き取りください。私は、少なくとも貴方たちと仕事をする気にはなれないので」

「帝国の明日を見据えるって意味じゃ、うってつけの場所だと思うがねえ」

 

それは私が大手帝国時報のお誘いを蹴ってまでどうして旅をすると決めたのか、その理由を看破しているとでも言いたげな物言いだった。

 

「……そこまで分かっているのであれば、腹芸が得意でないことはご存知でしょう?」

「だが類稀なる斥候能力がある。加えてその容姿だ。使える場所なんざ幾らでも思いつけるぜ」

 

使えるものは使う。その信念自体は素晴らしいものだ。トワを起用したのも本当に徹頭徹尾、能力主義による差配なのだろうと確信できた。一平民の学生であるにもかかわらず素質を見出す力は素晴らしいの一言だろう。そして私が活躍出来るというのもきっと嘘じゃない。

だけど、さすがに。

 

「私がかつて敵の恋人だったとしても、ですか。らしい考えですね」

「だがそいつはもういない」

「ええ、亡くなりました。それでも私はそこまで器用じゃありません。どうか、お引き取りを……お願い致します」

 

懇願のような声になってしまった。でも、これ以上感情を抑える自信がない。こういう手合いに感情を露わにしたって何のメリットもないと理解出来るのに。

 

「わかった。今日のところは引いとくとするか」

「今後一切私から手を引いてください」

「そいつは無理な話だ。それにお前さんはきっとまたいつか、大きな流れに首を突っ込んでる。そいつが性分だってな」

 

不吉な予言めいた言葉を残して、レクター・アランドール特務大尉は私の前から姿を消した。

帝国の風は、未だやまない。




【第二部 あとがき】

どう足掻いても結末が見えていた第二部ですがどうしてもこの、関係の破綻から再度の成立を書きたい!と当初から目標にしていたので無事ここにたどり着くことが出来て嬉しいです。
書いてみたら思ったよりも関係が決裂している期間が短かったな、という印象になりました。とんでもなくいちゃいちゃしている。でも戦術リンクは破綻中という(一応12/31のタイマンを経てもう一度繋がっているのですが、正直それどころではなかったので彼らがそれを認識することはありません)。
描写としてはパンタグリュエル側での生活を延々と書いておりましたがいかがだったでしょうか。案外と結社方面と絡まなかったので驚きです。やはりオリ主は一般人(表世界の存在)という証左かもしれません。一番首を突っ込んできそうな怪盗紳士に関してはヴィータさんからちょっかいかけるなと釘を刺されていたのかな、とも思ったり。

個人的に書けてよかった部分は『クロウのお墓に刻まれている生年を誰が言い出しのか』を示せたことかと思います。
閃IVで驚いているのでリィン君ではもちろんないですし、じゃあ誰が正しい生年を?、となるので自分なりの答えとして出しました。いや本当に原作だと誰が教えたんでしょう(もしかしてサラ教官が書類をちゃんと見たら書いてあったとかでしょうか)(トワさんとかから年齢訊かれた時にテキトーに「おう、おんなじおんなじ」とか言っていそう)。


トワさんのことをどうしても看過出来ない不器用な相手の真っ直ぐさを好いたクロウと、そんなオリ主の道がまた交わる時を楽しみにしながら、のんびり1205年に想いを馳せたいと思います。

そんな感じなので、もしまた縁があったら嬉しいです。
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