花思い。 作:三葉のクローバー
枯らしただけだった。
そこには感動を呼ぶ童話があるわけでもなく、
絶望を呼ぶオペラもなく。
ただ単に花を枯らした。
6月に入り、雨の大合唱とともに梅雨の湿気に気が滅入っていた。一人男暮らしの俺には、気分転換にもなる女も居ないし、仕事も学業も無い。何もない日々だった。その日は、いつもより少し早く起きた。朝食を食べていると、外では雨が降っている音と、風が木々の葉を揺らす音が聞こえる。テレビをつける気にもなれず、ただボーッとしていた。
すると、電話の音ともに雨がピタリと止んだように思えた。不思議に思いながら受話器を取ると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あぁ、おはようございます」
俺は挨拶をした。しかし返事はなかった。よく見ると相手は母親だった。
「もしもし?母さん?」
「・・・・花は…花は見つけたのかい?」
なんのことだかさっぱり検討もつかず問いかける
「いいえ、まだですけど……」
そう答えると母はため息をつく。そして一呼吸おいて言った。
「じゃあ、もう諦めなさい」
何を言っているのか分からなかった。
「どうゆうことだよ?」
「そのままの意味よ、あんたが花を見つけられず死んでゆくのはなんとも心苦しいよ…」
点で分からない、だがこう…母の言う『花』という言葉に意識が引っ張られる。俺の手を引くかのごとくその言葉は自分の思考を奪った。
はっ、と思い出しよくわからない恐怖感を怒りに変え言い放った。
「だから何のことだって言ってんだよ!」
「私はね、あんたが小さい頃からずっと花を見つけるために色々やらせてたんだけど、結局見つからなかったよね。でも、今回だけは特別だよ。見つけてごらん」
一方的に切られてしまった。
俺は、なんのことだかさっぱり分からない話に乗せられ、散歩を始めることにした。
最近物騒な話はよく聞くが
ここらへんの地域には特に情報はない。
なんの因果かは分からない。
ただ記憶の隅ににある「花」という単語に引っ張られているような。見つけなければならない、見けてほしい、
そう記憶が言っているような、
そんな気がして私は傘を持ち湿気に打ち勝ちながら玄関のドアを開けた。
外に出ると、空気が変わった。
先ほどまでジメジメとした嫌な感じだったが、今は澄んでいてとても気持ちが良い。まるで生まれ変わったかのような感覚だ。
天気は快晴、雲ひとつ無い空が広がっていた。
こんな日に出かけない手は無いと思い、地面に傘ぶつける音ともに歩いていった。
「しかし、快晴だからか?花がよく映える。紫陽花だけかと思ったがそうでもないようだな。」
今、近所の公園にある花畑に来ていた。
紫色の綺麗な花畑が広がる中、赤、黄色、オレンジなどのカラフルな花が咲き乱れていた。どれもこれも美しい。そんな中歩いていると、一本の木を見つけた。木と言っても大きなものでは無く、桜の木と同じくらいの大きさで、幹も細いものだった。その大地のうねりとともに育ってきたであろう木の根元には、季節外れとしか思えない、真っ白で、雪の結晶の如く咲いている一輪の花を見つけた。その花に見惚れると同時に後ろで声がした。
「花は枯らしてはならない。拠り所は保ち続けなければならない。」
その言葉に驚きの咄嗟に誰かいるのか!と叫んでしまったの仕方ないだろう。ふと思い出し後ろを振り向く。そこには季節外れの花はなく変わりに美しい少女の姿があった。
「あなたは誰ですか?」
俺は問いかけた。彼女は答えてくれた。
「私はこの世界を見守る者です。そして貴方を導く存在でもあり、また見送るものでもあるのです」
俺は理解できなかった。目の前にいる人は、
俺と同い年くらいの少女に見える。
だが、なぜか心を奪われ咄嗟に名前を尋ねた。
「フフ、この場合まずは自分から名乗るのが筋ではなくて?」
「ああ…済まない。私の名は『束咲。桜木束咲という。」
「私は…雪…雪華とよんでください。」
少女は笑う。
雪のようにもろく、
花のように美しい笑顔を持つ少女との
最初の出会いだった。