詐欺師トレーナーはトレセン学園で信頼を集めて大勢から大金を奪うつもりのようです   作:kinmoru

1 / 15
詐欺師トレーナー、トレセン学園に潜り込む

 私には名前が無い。故に誰にでもなれる。

 私には過去が無い。故になんでも出来る。 

 

 私の思う私を表す言葉は【詐欺師】だ。この上なく正確に私の事を表現している。だが、その言葉で私が呼ばれた事は1度も無い。

 

 私は結婚詐欺やオレオレ詐欺といった下等な方法で仕事をしたりしない。私の流儀は相手が永遠に騙された事に気づかないまま姿を消す事だ。

 よって私の仕事がこれまで認知された事は無い。誰もが正当な理由をもって私に仕事の対価を支払っていると思い込んでいるからだ。

 

 私は人混みに紛れて街中のカフェでアイスコーヒーを飲みながら次の仕事先を探していた。そこでふと、隣の席からこんな会話が耳に入った。

 

──練習場の芝が今度新しくなるんだって!

──ホントに!? アタシ綺麗な芝で走るの好きなんだ〜! 嬉しいなあ!

──私も同じだよ。でも凄いよね理事長、他にもいろんな設備にお金を使っているのに。

──なんか凄いお金持ちなんだってね。

 

 金の話にはいつも他と違う匂いがする。それは擦りたての紙幣から漂うインクの香りだ。

 自然に声の方を向くとそこには制服に身を包んだウマ娘が2人いた。そして自分がいる場所から推察するに、あの学園の生徒であると結論づけた。会話の内容も一般的な知識と合っている。

 私は複数枚持っているクレジットカードのうちの1枚で会計を済ませて店を出た。ターゲットが決まればそこまでの道筋も見えてくる。この調子なら丁度桜が咲く頃に全ての準備を終わらせられるだろう。そして私は新たな人生を歩むのだ。

 

 まずは、トレセン学園で勤務するための資格を偽造し、ついでに一通りの知識を身に着けよう。

             

             

 

 春の陽射し、麗らかで暖かな日。

 

 その年トレセン学園での勤務を認められた教員やトレーナー達は学園の巨大な体育館に集められ式に出席した。前方には新人を歓迎する“素振り”を見せる先輩のトレーナー達及び教務担当の職員。壇上にはそれを見下ろすトレセン学園──正式には日本ウマ娘トレーニングセンター学園の理事長、秋川やよいの姿、そして隣には秘書の駿川たづながいた。

 過去5年のトレセン学園に新規採用された職員の中で中央資格を持ちトレーナーとして採用された者は約3割、また年別に分けても同様に全体の3割程度がトレーナーだ。つまり数が少ない。

 その数の少なさについて数年前に刊行されたとある経済誌にはこう書かれている。  

 

『──トレセン学園で勤務するトレーナー職は世間にある多様な職の中でも特に人気であるが、大抵の人は夢物語で終わってしまう。それはこの職が3大士業や宇宙飛行士に匹敵する就職難易度を誇っているからだ。

 ウマ娘である彼女達の身体的特性を理解し運動理論学やスポーツ医学を大学で履修し国家資格たる中央指導者取得のために難関資格試験中央指導者資格試験を受けるか、厳しい倍率を勝ち取って専門学校で学び同様に国家試験を受けるか、いずれにせよ狭き門なのだ。

 また人間の教育体系にして主に中学生〜高校生(一部例外もある)の少女と接する職であり高いコミュニケーション力と国際標準のコンプライアンスマナーが求められる事も難易度の増加に拍車をかけている。  

 これに対して管轄する文部科学省及びウマ娘の管理支援機関日本支部であるURAは採用基準の緩和や積極的な広報活動を行っているが現場からは人材レベルの低下を望まない声が多く隔たりは未だに大きい。しかし年々減るトレーナーの数をなんとかしなければ夢を追う彼女達の妨げになってしまうのも事実だ。

 こういった現状について世間では──』

 

 数年前でこの内容であり、現在はこれと変わらないかこれ以下なのが現実だ。

 なので私以外の新規採用トレーナーは恐らく同じ学校で学んだ者ばかりで、式を受けながらも時折漂わせる空気感からその親密さが伺える。逆を言えば全く知らない所から現れた私が警戒されるのは当然だ。その密かな視線を浴びつつ私は暗記した言葉を何度も口の中で呟いた。恥をかくわけにはいかない理由が出来てしまったのだ。

 すぐに行動すべきだったとはいえ独学で中央指導員資格試験に合格してしまうのは少々強引なシナリオだったかもしれない。結果、私は優秀な新人トレーナーの代表としてスピーチをする事になってしまった。辞退も考えたが理事長へ近づく第一歩として悪くは無いとも思った。

 

 長々と進んだ式も私のスピーチを残すのみとなり、私は緊張した顔の演技をしながら壇上へと進んだ。高い位置から全体を俯瞰すると体育館の広さや整列した職員を見渡す事になり、特別な優越感に浸る事が出来る。

 

《では今年の新人トレーナーを代表して、是非壇上に上がってきてほしい! 鵜海晴希(ウカイハルキ)君!》

 

 【ウカイハルキ】とは私が新しく作った名だ。多少珍しく覚えやすく、それでいて耳馴染みの良い音で構成されている。

 私は暗記したとおりのスピーチをし始めた。勿論それと同じ内容の書かれた紙はあるが、紙は前に広げるだけでじっと見たりはしない。前を向きながら話す事で拝聴する相手に好印象を与える事が出来るからだ。減点の無いスピーチが終わり、会場は形式的な拍手に包まれた。ただ、隣から聞こえる理事長の拍手からは本物の音がした。見た目通りの年齢らしい彼女が嬉しそうに拍手する様に私はいくばくかの満足感を得る事が出来た。

 

《立派! 今年も優秀な新米トレーナー諸君が我が学園に集まってくれた。感謝!》

 

 この独特な言い回しは幼くして学園の長を引き継いだ自分を、大きく賢く見せようと威厳を出すための癖が身についた結果、という話を思い出しながら席に戻り、あとは式の終わりを待つだけだった。

 

《今年はもう1名代表者にスピーチしてもらう!》

 

 小さなざわめきが巻き起こった。代表者に選ばれる基準は不明だが、独学で資格を取得したという私のシナリオで選ばれたのでもう1人の代表者も同じである可能性は高い。そうなるとその人物はとてつもなく優秀という事になる。

 または、その人物を特別扱いせざるを得ない理由がある場合なのだが──。

 

三ノ宮優歩(サンノミヤユウホ)君! 是非壇上へ!》

 

 その名がマイクを通して空間に放たれた瞬間、大きなざわめきが会場を包んだ。するとそれに怯えるかのように隣に座っていた女が立ち上がり、ツカツカと、いやドタドタと歩き出した。

 『三ノ宮』という名に聞き覚えがある私はこれまでにない興奮と期待を抱いた。

 その女、三ノ宮優歩どこからどう見ても緊張しており。階段を2度躓いて昇り、壇上に上がる際もまた躓いてスピーチの原稿を落とした。

 

《あ、あのっ! ──っィタ!》

 

 頭を下げると同時にマイクに額をぶつけてしまい打撲音が響き渡った。会場は冷やかな笑いに包まれ空気が変化した。居心地の悪い空気だ。

 

《し、失礼しました! それと初めまして三ノ宮優歩と言います! 一所懸命に頑張っていきますのでよろしくお願い致します!》

《三ノ宮さん……?》

 

 そこへ壇上の席にいた駿川たづなが三ノ宮優歩に駆け寄ると何かを口囁いた。途端にその顔が赤く染まり勢い良く頭を下げるを結果、再び額はマイクと衝突し鈍い音が広がった。

 

《し、失礼しました! あの私、スピーチと自己紹介を間違えてしまいまして、その、これから代表としてのスピーチを読みたいと思います!》

 

 やや明るめダークブラウンでうねる髪は肩から背中にかけて弧を描いており、その大人びた顔に刻まれた目元の薄い小皺が一定の苦労を重ねてきた事を物語っている。1言で表すなら負を感じるオーラなのだが笑顔と動作でそれを誤魔化している。

 そんな評価をしている間にも三ノ宮優歩は愛想笑いをし続けていた。笑われていると分かっていて。まるで周りの笑いを止めたくないかのように。

 私は慌ただしい彼女の動きに興味を持った訳では無い。ただ、周りから聞こえる囁き声が全て彼女についての話題である事に興味を持った。

 

──あれが噂の三ノ宮家の秘蔵っ子か。

──あの人もさっきスピーチした人と同じように独学で試験合格したんでしょ?

──三ノ宮家といえばURAや政財界に太いパイプがあるって聞くし、そういう忖度でしょ。ほら、だってどう見ても大した事無いじゃん。

 

 三ノ宮家、確かにその名は高位な社交界でも良く聞く名前だ。もう記憶に殆ど無いが前に仕事をした時にパーティで関わった覚えがある。

 三ノ宮優歩のスピーチは私のと違って実に脱線気味でかつ何度も同じ話を繰り返しており、それが余計に周囲から嘲笑されているようだった。それでも一所懸命に話し続ける様に私は強く好印象を持った。

 なぜなら、そういう人間は騙しやすいからだ。  

 三ノ宮家ならば保有する資産はかなりの物だろう。秋川やよいをターゲットにすると並行して彼女と仕事をする準備をしておこう。

 

 全ての式目が終わり学園内の施設を案内される事になったが、その途中で私は職員に声をかけられ理事長室へと案内された。かしこまった扉を叩いて入るとそこには満面の笑みを浮かべた秋川やよいと駿川たづな、そして隣には三ノ宮優歩の姿。

 私はどうやらSTEP1が上手くいっているらしい事に喜びを感じ、表では冷静を装った。

 

「お呼びでしょうか、秋川理事長」

「うむ、揃ったな! 三ノ宮君、鵜海君、本日の代表スピーチご苦労! 実に素晴らしかった!」

 

 秋川やよいが扇子を開くと『天晴!!』という文字と共に紙吹雪が舞った。よく見れば紙吹雪は帽子の上に乗っている猫が撒いている。

 

「あ、あの申し訳ありません! 至らないスピーチをしてしまい……昔から上がり症で」

「そんな事ありませんよ。ウマ娘達への想いがよく伝わる良いスピーチでした」

 

 駿川たづながフォローすると三ノ宮優歩は恥ずかしそうに、そして嬉しそうに頬をかいた。

 

「ありがとうございます。ですので鵜海さんは凄いなって思いました。あんなに長文をスラスラと、しかも内容もまとまっていて綺麗で」 

「いえ、それ程大した事はありません」

「そんな事ありません。だって鵜海さん全部暗唱されていましたよね? 私感動しました!」

 

 それを言われた時、私は平静な顔をしていたはずだ。ただ、心中にはやや動揺が広がっていく。余り不自然にならないよう時折一瞬紙の方を向いたりしていたにも関わらず、三ノ宮優歩は私が完全に暗唱していると見抜いていた。

 

(この女、無自覚的に鋭いな……)

 

 三ノ宮優歩は案外面倒かもしれない。そんな思考の先に枝を広げながらも私は社交的な表情を取り繕った。何も知らないであろう理事長が軽快に言葉を続ける。また扇子が開いて紙吹雪が舞った。

 

「今年の新人トレーナー達は皆優秀だが、その中でも君達2人には特に期待しているぞ!」

「はいっ! ありがとうございます!」

「……ありがとうございます」

 

 そうしてようやく解放された私は途中だった学園内の設備案内(余りにも広大なのでほんの一部しか説明はされなかった)を終え、敷地内にあるトレーナー専用の寮へ戻った。寮は男女別の建物で、食事は自室や寮内の食堂、また学園のカフェテリアでも可能らしい。生徒に門限はあるが、教職員などは当てはまらないため外食や外泊も可らしい。

 ふと廊下の方から仲の良さそうな声がしたので耳を澄ませると、付近の飲食店で酒飲もうかなどという相談が聞こえてきた。当然誘われるはずも無く、声は部屋の前を通り去っていく。

 

「食事がてら下見にでも行くか」

 

 さあ、腹ごしらえをしよう。秋川やよいに信頼され、騙し。三ノ宮優歩にも好かれ、騙そう。

 私はカフェテリアの場所を渡された職員手帳に付随する地図をめくり確認した。遠くで鳴る七つの子を聞きながら。

 

→→→→→→→→→

 

1話終了時点、鵜海晴希への主要な登場人物からの信頼度(%表示)

 

秋川やよい 65%

三ノ宮優歩 40%

 

→→→→→→→→→

 

オッス! オラゴルシ! いやあ、まさな天王星人のヤツあんなに卑怯な事してくるとは思わなかったなあ。アタシも思わず新技の流星ゴルシキック決めちまったぜ! なに? 金星が大ピンチ? おいおいどうするよ。かーっ! やるっきゃねえ!

というわけで次回! 

 

『詐欺師トレーナー、ターゲットに接近する』

 

絶対読んでくれよな!

 

→→→→→→→→→

 

各種リンクはこちらから評価 感想 目次

 




次回更新は4月2日午前6時を予定しております
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。