詐欺師トレーナーはトレセン学園で信頼を集めて大勢から大金を奪うつもりのようです   作:kinmoru

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詐欺師トレーナー、ミホノブルボンのトレーナーを調査する

 夏の朝というのは案外目覚めが良いものだ。

 蝉の音に目を覚まし、強い日差しに脳を焼かれ、そして横でこちらをじっと見つめる桜色の強烈な瞳。そこにサクラバクシンオーがいた。

 

「──な?」

 

 反転。

 意識は覚醒し、体は敵の襲来を認識して回避行動を取る。攻撃するか? それとも今は逃げて反撃の機会を伺うべきか?

 思考を幾重にも重ねて現実を崩しては想起し、また現実を形づくっては崩し。

 そしてようやく落ち着いた脳が認識する。

 

「バクシンオー……なぜここに?」

「トレーナーさんて、寝起き悪いんですね」

 

 ゆっくりと人間の体温が戻っていき、比例して蝉の音は大きくなっていく。私は落ち着かない息をして冷静を取り繕うとしたが諦めた。

 

「トレーナーさん! それでは!」

 

 バクの手が差し出される。

 

「ラジオ体操に行きましょう!」 

 

 それはいかにもかつ、らしい言葉だった。

 バクに連れられてホテルを出口まで進む、というのは誰かにとって都合のいい現実で実際は私が眠気を振り払いながら案内する必要があった。

 

「なあバクシンオー」

「なんですか?」

「どうやってホテルへ? いやどうやって私の部屋に入ったんだ?」

「フロントで尋ねたら普通に入れましたよ」

 

 昨日の夜、悪徳刑事の柳田に精神をすり減らされた私は、睡眠薬で眠りこけているゴールドシップを学生用の宿泊施設の玄関に放り込んだ。そういう精神状態だった。それから教職員が泊まるホテルの従業員用出入り口から中へ入るとおぼつかない手で部屋を開けて後は泥のように寝た。

 睡眠時間と呼べるほど寝れていないが、他の教職員がしっかりと睡眠している事を考えるとそれを悟られるわけにはいかなかった。

 それはともかくとして、生徒が訪ねてきたからといって宿泊客の部屋を開けるホテルというのは防犯上いかがなものだろうか。

 そんな事を考えながらラジオ体操をする。当然というか睡眠薬を盛られた大人達と自ら飲んだゴルシの姿は無い。そのせいか、特に大人が私以外誰もいない事で、前方で見本をするエアグルーヴの表情はとても険しかった。

 

「いやあ! ラジオ体操は気持ちいいですね!」

 

 バクは全ての振り付けを間違えていた。

 

 朝食のためにホテルへ戻ると宴会場には不思議そうな顔をした教職員一同がいて、皆口々に飲み過ぎただの酒は怖いだの言っていてる。

 それを内心侮蔑しながら配膳を見つめていると、駿川たづなが眠い目の秋川やよいを連れてきて朝食が始まった。例によって私の席は秋川やよいの隣である。

 昨晩の豪華な夕食とは打って変わり、朝食は味噌汁に海苔に納豆に卵とシンプルな──はずだったのだが私だけ様相が違う。新鮮な刺し身に丁寧に焼かれただし巻き卵、付随する海苔も味噌汁も他のとは格が違っていた。ふと目が合った仲居ががこちらに軽く会釈し、なんとなく理由を悟った私は温かな朝食の湯気に顔を包んだ。

 それから、不思議そうに私の朝食を眺めていた秋川やよいの開いた皿に卵焼きを乗せた。目をぱちくりして眠気を覚ました様子の秋川やよいは嬉しそうにそれを頬張っていた。

 しばらくして肩を叩かれた私は隣で不安げな顔をしていた秋川やよいの方を向いた。私が顔を寄せると小さな掌で耳を覆うようにして秋川やよいは小声で囁いてきた。

 

「あの……理事長?」

「鵜海君、昨日の事なのだが……」

「ああ……。まあ気にしないでください」

「それでなのだが、今日も……」

 

 昨日の件があって流石に懲りていると思うのだが、昨日の惨状を見ると否定も出来ない。

 私は卵焼きをもう1つ秋川やよいの皿に乗せて無言で頷いた。安心したのか周囲の目を気にしたのか、秋川やよいは私から離れて席に戻った。

 

 部屋へ戻りベッドに倒れ目を閉じる。寝たいわけではないのだが自然と瞼は重くなり開かなくなる。深夜から続いた緊張状態が解けていき吐く息も安らかなリズムに変わっていく。

 

(あの薬を飲んでみようか……)

 

 まどろみの中体が浮いていき意識は沈んでいく。私はその感覚に身を任せて眠ってしまった。

 

 

 

 目が覚めた時、時計の針は昼をとうに越えて短針は3を指しかけていた。

 眠れたのは良い事だが寝過ぎた気もする。むしろなぜ誰も起こしに来なかったのだろうか。疑問を抱きつつスーツに着替えて部屋を開ける。すると何か紙片が床に落ちた。起床後の運動としてそれを拾って見ると勢いの良い文字が書かれていた。字体からしてバクの物だろう。

 

[寝る子は育つ!! 手出し厳禁!!]

 

 推察しよう。バクは私がいつまで経っても現れないので再びホテルまで来た。そして部屋の前まで来て耳を澄ませた。ウマ娘の超聴覚は私の寝息を捉えて、バクはこう思ったのだろう。

 

〈寝る子は育つと言いますし、トレーナーさんも成長の時! ご立派です! ここはこのまま寝かせてあげましょう! うんうん!〉

 

 そしてフロントから紙とペンとテープを借りてこれを書き、部屋の前に貼った。のだろう。 

 やや複雑な感情を胸に抱いて私はホテルを出た。そして突然蹴り飛ばされた。

 空間が歪み体が地面に打ち付けられる。今度こそ敵襲か、本能は防衛行動を取り敵の姿を識別しようと目を守りながら前を見る。

 

「あー、ゴメン」

 

 土で汚れ無惨な折り目のついたスーツの袖が引かれて、強い力で埃がはたかれる。

 

「君はもう少し普通の登場が出来ないのか?」

「いやあ、ゴルシちゃんもつい力が入っちまってよう……うん。本当に大丈夫か?」

 

 補助されながら立ち上がるとゴルシは申し訳無さそうな顔をしていた。余程想定外だったのか、それとも気が済んだだけなのか。

 

「たーく、お前のせいでラジオ体操に遅れてエアグルーヴに怒られただろうがよ!」

「睡眠薬を飲みたいと言ったのは君だろ」

「んもう……で、今日はどうすんだよ」

 

 なぜ自分が同行するつもりでいるのか分からないが、放っておくのも危険だ。バクが素直に言う事を聞いて自主トレーニング、いやどうやら他のウマ娘達としているらしいが、ともかく手がかからないのは幸いだ。

 私は懐から四つ折りの紙を取り出した。とても邪悪な気配のする紙を開くとそこには昨日見たのと同じ内容が書かれている。活字体であるにも関わらず漂う気配が不快だった。

 

【調査対象:本郷克樹(ホンゴウカツキ)

【職業:トレセン学園トレーナー職】

【備考:ミホノブルボンのトレーナー】

 

 これが柳田の指示だが、明らかに罠だ。本郷克樹は他の大勢と同様に専門学校卒のトレーナーであり過去の経歴に不審な点があるはずない。つまり学園に所属する中から無作為に選ばれただけであると推察出来る。

 では柳田は私に何をさせようと言うのか。恐らくだが柳田、或いはその子飼いがこちらを監視している。そして私が言う事を聞くのかどうか判断しようとしているのだろう。

 簡潔に言えば無実の相手に喧嘩を売れという話だ。四つ折りの紙にはおあつらえ向きに本郷克樹が過去に犯した軽犯罪が記載されている。それを使ってやれ、という事だろうか。

 

「どーすんのこれ、ムズくね?」

「やらないわけにはいかないだろう。だから君は何もしなくていい。直接的なトラブルになりかけたら止めてくれればいい」

「……りょーかい」

 

 私は軋む背骨を気にしながら海岸を目指した。

 本郷克樹の顔写真を見ながら本人を探すが、人の多い場所で特定個人を探すのは苦労する。その代わりに、ミホノブルボンは簡単に見つかった。

 私が声をかけた時、ミホノブルボンは特に警戒するわけでもなく私の方を向いた。既にゴールドシップの姿は無い事も功を奏したのだろう。

 

「貴方は、サクラバクシンオーさんのトレーナーさんですね。私にご用件でしょうか?」

「ああ……。君のトレーナー、本郷克樹はどこにいる? 少し話がしたい」

「私のマスターにですか?」

 

 マスター、という呼び方から2人の信頼関係が伺える。これなら多少の事を言っても関係が壊れたりはしないだろう。

 

「──お前、俺のブルボンになんの用だ?」

 

 私は歯噛みした。道化を演じなくてはいけない屈辱の立場に。

 

「いや、用があるのは君だよ本郷克樹君」

「あ?」

 

 本郷克樹は浅黒い肌に金色の髪、サングラスでいかにもな男だった。私の嫌いな人種だ。

 

「君、聞けば学生時代に振り込め詐欺の受け子をしていたそうじゃないか」

 

 私はわざと声を潜めて言った。ミホノブルボンにハッキリと聞こえないようにするためだ。

 

「……そうだよ。知らなかったとはいえ、一回だけとはいえ、断れなかったとはいえ、俺は詐欺に関わった。それは滅茶苦茶反省してる」

 

 想像以上に素直な反応だった。ここで殴られるつもりだったのに肩すかしだ。

 

「お前、それを言いたいだけで来たのか? サクラバクシンオーのトレーナーなんだろ? 一緒にいなくて良いのかよ?」

 

 気が進まないが、こうするしかあるまい。

 

「問題ない。バクシンオーは私がいなくても強くなれる。それは私の指示が完璧だからだ」

「お前、さっきから何が言いたいんだよ?」

「君みたいな犯罪者崩れよりも、私の指示を受けた方がミホノブルボンは強くなれるんじゃないのか? どうせ金欲しさに受け子をしたんだろ? 好きなだけ払うからミホノブルボンを、譲れ」

 

 そこで見たのは本郷克樹の逡巡した顔だった。まるで何かに引っかかっているような、悩んでいるような顔。

 そして、私の顔はいつの間にか近づいていたミホノブルボンによって殴り飛ばされて空を向いていた。余りの攻撃速度に反応が追いつかない。

 私は再び地に打ち付けられる。最悪だ。

 

「お、おいブルボン!」

「黙っていてくださいマスター。もう気は済みました。いかなる処分も受けます。ですが、ですがこの男は余りにも“私達を”愚弄しています!」

 

 当然だが私はこれを暴力行為としてどこかに持ち出す事が出来ない。するつもりもない。ここまで派手にやられれば柳田の耳にも入るだろう。 

 私は逃げるようにしてその場を離れた。

 最悪だ。プライドを傷つけられた。この怒りと報いはいずれ必ず柳田に受けてもらおう。

 

 木陰に座って殴られた顎を撫でていると背後に大きな影を感じた。

 

「大丈夫か?」

「手加減してくれたからな」

「んで? あれで良かったのか?」

 

 ゴールドシップがこちらを覗き込む。

 

「ああ。私をずっと監視していたなら気づくはずだ。そのうち次のアクションがあるだろう」

「いや、殴られるのを止めなくて」

「なぜそう思う」

「お前、アタシを試したんだろ? アタシがちゃんと意図を読んでお前が殴られるのを“止めないかどうか”見たんだろ?」

 

 多少の秘密を共有出来る相手との会話は心地いい。嘘をつく量が減るからだ。

 

「今は止めて欲しかったと思うよ」

「まあ、ウマ娘に殴られるのは想定外なんだろ? しかも相手はムキムキのブルボンちゃんときたもんだからな。あー痛そ」

 

 これで同期の本郷克樹、そしてミホノブルボンと確執が出来てしまった。レースプランに影響も出るだろう。また支配する必要のある相手が増えかねない事で溜め息も増える。

 敵が増え続けるなら、味方は多い方がいい。

 

「ゴールドシップ、話がある」

「なんだ? 男女の話はNGだぜ?」

「男女じゃない。仕事の話だ」

 

 影の濃くなる木陰に秘密の会話が響く。

 

→→→→→→→→→

 

終了時点、鵜海晴希への主要な登場人物からの信頼度(%表示)

 

秋川やよい80% 前話よりの変位なし

三ノ宮優歩60% 前話よりの変位なし

乙名史悦子50% 前話よりの変位なし

柳田光一郎0% (元より誰も信用しない)

サクラバクシンオー98% 前話よりの変位なし

ライスシャワー?% 信頼せざるを得なくなった

ゴールドシップ?% 協力関係?

 

→→→→→→→→→

 

オッス! オラゴルシ! ゴルシちゃんそろそろ必殺技が欲しいんだよなあ。なんかねーかな、落ちてねーかな必殺技。やっぱよう、派手なやつが良いよな。ビームとかさ。うん、ビームだよな! ゴルシビィム!! というわけで次回!

 

『詐欺師トレーナー、ライスシャワーを嫉妬させる』

 

絶対読んでくれよな!

 

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次回の更新は4月13日午前9時頃を予定しております
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