詐欺師トレーナーはトレセン学園で信頼を集めて大勢から大金を奪うつもりのようです   作:kinmoru

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詐欺師トレーナー、ライスシャワーを嫉妬させる

 ラジオ体操の起源は昭和3年に遡るとされている。時の昭和天皇即位を記念して国民の健康増進を目的として考案されたらしい。

 夏合宿も中盤の朝、なぜラジオ体操をしながらこんな事を考えているのかというと、それは毎日隣りで聞き続けていて覚えたからだ。

 

「なるほど! つまりラジオ体操は健康増進だけでなく宇宙人からの電波攻撃に耐性をつける目的があったのですね!」

「お、流石はバカちゃん。察しがいいな」

「学級委員長ですから! そして私はバカではなくバクです。バクシンオーです!」

 

 状況は芳しく無い。

 ゴルシとバクが絡むのは私個人の置かれた立場として面倒だ。本来はすぐにでも引き離したい所だが、それよりもこれを利用した方が良いと気づいたので放置している。

 私を巻き込まず勝手に仲良くなってほしい。

 

「バクシンオー、今日の予定だが」

「はい!」

「昨日は遠泳30kmだったな」

「はい! 1kmを30本やりました!」

「今日は山で60kmのランだ。ペース配分や休憩は君の好きにしてくれ。期限は今日の日没まで」

「わっかりました!」

 

 素直に返事して合宿寮へ戻るバク。すると私の耳元にゴルシが手を当てた。

 

──で、アタシはアイツの警護なんだろ?

──そうだ。それとペースメーカーもしてくれ。

──まあ、良いけどよ。

──頼んだぞ。スパイゴールドシップ

「っしゃ!」

 

 悠々立ち去るゴルシ。耳元で奇声を大声で上げられたので酷い耳鳴りがする。ダメージを受けた聴覚細胞が夏の日差しによって深刻な影響を受けて破壊されないか心配だ。

 

(ただ、今日はもっと心配事がある……)

 

 バクとゴルシをまとめて厄介払いした私は、別の厄介の対処にとりかかった。

 

 

 

 自販機で高額なスポーツドリンクを買って飲んでいると、隣に水着の女が近づいて並んだ。私は向こうが何か言うのを待つ間、缶を開けて中に沈殿した糖類と塩分を胃に流し込む。

 

「あの、本当にやるんですか?」

 

 三ノ宮優歩の臆病な台詞に私は溜め息を吐きかけて、残りの液と一緒にまとめて飲み込んだ。僅か数十秒で220円が消えた計算になる。

 

「荒いやり方ですが、効果は保証します。それに貴方が何かする必要は無い。ただ、デートするだけで良いんですよ。後は私が対処します」

 

(マイナスがプラスになるだけで得になるかどうか分からないのに、これに幾ら使ったと思っているんだ。感謝してほしいね)

「ですが……でも……」

「まあ、もう来てしまいましたし」

 

 うなだれるような暑さにエンジン音が響く。どこからどう見ても場違いな白のポルシェが近くに停まり、そこから砕けた格好のサングラスをした男が出てきた。防水を無視した金色の時計に、銀色のアクセサリーが浅黒い肌で禍々しく浮かび上がり下品な色合いを強調する。海にも山にも都会にも似つかわしくない男だ。

 それが結婚詐欺師Sとの久々の再開だった。

 

「あの鵜海さん、その方が……」

「紹介します。私の“知り合い”の会社社長であるナカハラエイタです」

「君が三ノ宮さん? ナカハラっす! ども!」

 

 ナカハラと紹介されたSはいきなり三ノ宮優歩に手を差し出し握手を強要した。この時点で並大抵の女はナカハラ──Sを嫌いになる。当然三ノ宮優歩も良い感情を持っているように見えず、社交辞令的に握手をした。

 Sは今、完璧に私の指示をこなしている。私は三ノ宮優歩からライスとの距離感について相談を受けて、三ノ宮優歩にとある策を提案した。それがこの他の男を当てつけてライスを嫉妬させて、そこを私が説得するという物だ。

 Sという結婚詐欺師はあらゆる女に好かれるよう自分をカスタマイズする能力に長けている。それら手頃な髪形や服装、さらには整形、そして人格や教養まで相手の好みに合わせることが出来る。もしもの話ではあるが、Sがその気になれば三ノ宮優歩の心を落としてしまうかもしれない。そうなれば今後の私の計画に影響が出る。だから私はSに多額の報酬を払った上で、あえて嫌われるような男にカスタマイズさせた。間違っても三ノ宮優歩が好きにならない男にだ。

 三ノ宮優歩はライスとの問題解決が優先なので嫌いな男とのプランに従うしかない。無論、Sのそれが演技だというのを明示した上でだ。

 そして今その顔合わせが済んだので簡単な策の説明をして一時解散となった。

 

 人目を気にして立ち去る三ノ宮優歩を見ながら私とSは並んで裏話をする。

 

「分かっているんだろうな、S。絶対に手を出すなよ。あれで足りないなら追加も出す」

「そう心配するなよ。アレは俺の運命じゃない。でも、三ノ宮ってあの三ノ宮だろ?」

「だから念押ししているんだ。仕事相手が競合するなら平和的に解決する。詐欺師の決まりだ」

 

 私が危惧しているのは三ノ宮優歩が落とされることよりも、それを伝いに三ノ宮家に手を出される事だ。私がSに支払った報酬など三ノ宮家から得られる金に比べれば砂のようだ。

 

「はいはい、わきまえているさ。それに金持ちの家に手を出すと面倒だからな。ああいうのは金が家全体で回っている。だから手順が多くなってややこしい。狙うなら自分で稼いでる女だ」

(ほざけ。稼いでない女も狙うくせに)

「じゃあ、後はプランの通りに」

「ああ、任せておけ」

 

 今のSは男の私ですら嫌いな男だった。ただ元より私はSが嫌いなので対応に変化は無い。

 

 熱せられた灼熱の砂浜を歩き、準備体操をしている三ノ宮優歩とライスに近づく。

 

「やあ、三ノ宮さん」

「あっ、鵜海さん」

 

 そしてまるで今日初めて会ったかのように挨拶をした。三ノ宮優歩の演技力には疑問があったのだが、この程度ならなんとかやれるだろう。

 

「へえ〜! 凄え、本物のウマ娘じゃん!」

「鵜海さん……誰ですかこの人?」

 

 三ノ宮優歩が嫌悪しながら私にSの事を聞く。というのが私の想定だった。ただ、予想外にも三ノ宮優歩の顔に不快感は見えない。いや、見せないつもりなのだ。どうやら押し殺しているらしい。それはライスの前だからなのか。

 一方、当のライスは突然現れた痛々しい男に警戒し三ノ宮優歩の後ろに隠れた。しかし、そうしながら腕を三ノ宮優歩の腰に巻きつけて体をピッタリと密着させている。

 

(なるほどね、いつもこんな調子なら三ノ宮優歩も困惑するだろうな)

 

 私は三ノ宮優歩とライスシャワーに知人の不動産会社社長ナカハラエイタを紹介した。

 

「彼はウマ娘に大変興味があるらしく、是非とも貴方達の練習風景を見たいとかで」

 

 元々夏合宿に生徒の親や友人が見学に来るというのは珍しくない。事前に話を通す必要はあるのだが、私の知人だと言うだけで秋川やよいはSの見学を許可してくれた。この姿を見ていたら答えは変わっていたかもしれないが。

 

「んじゃまっ! 行きましょーか!」

 

 ナカハラが三ノ宮優歩の肩に手を回して歩き出す。私は驚きを胸に秘めて後を追った。

 プランではライスに隙を作るための嫉妬を引き起こすために三ノ宮優歩には出来る限りの笑顔を求めていた。ただ、Sの仕上がりによってそれが難しいと判断した私は軌道修正するつもりだった。

 しかし、先程は握手すら嫌っていた三ノ宮優歩がその手を肩に回されても笑顔で応じて談笑すらしている。何も知らない者が見れば演技とは気づかないだろう。そう、例えばライスだ

 

「でさ、これウチの新人の話なんだけどさ」

「それ本当なんですか? 凄い話ですね!」

 

 ライスの顔は蒼白していた。当然だ。突然現れた男が自分以上に親しい様子で自分のトレーナーと話しているのだから。嫉妬よりも絶望が勝っているのかもしれない。

 ライスの練習は続くが、その間も三ノ宮優歩はナカハラと距離を詰めていく。とても楽しげに。

 

「あの、トレーナーさん。10本終わったよ」

 

 ライスがそう言って三ノ宮優歩の元へ駆け寄った時だった。突然三ノ宮優歩が砂に足を取られて体を崩した。が、すぐさまナカハラが手を伸ばして腰に手を回してそれを支えた。そしてそのまま体を引き起こして無事を聞いたのだ。

 警察に通報されても文句は言えない状況だ。それなのに三ノ宮優歩は笑顔でナカハラに感謝する素振りを見せる。

 

「すみません、私って運動苦手で……」

「いやあ今日は暑いですしね。あ、飲み物買いに行きませんか? 皆の分奢るんで!」

「良いんですか? ありがとうございます!」

 

 そのまま三ノ宮優歩はナカハラに連れられてコンビニの方へと向かって行った。呆然とするライスと、感嘆する私を残して。

 

「なんで、なんで……どういう事?」

 

 ライスがチラリと私を見る。まるで必死に考えて解いた問題の答えが間違っていて混乱する生徒のようだった。

 

(どういう事……ねえ)

「ね、ねえ鵜海さん……」

「いつも私も同じ事をしているのに、どうして私と違ってあの人は仲がいいんだろう。か?」

 

 図星をつかれたのかライスの息が止まる。

 

「だってあんなの変だよ。私よりもあの人の方がトレーナーさんは好みだって言うの?」

「好みじゃないから、じゃないか?」

「──え?」

「君が思う通り、三ノ宮優歩はあの男が好みでもなんでもない。むしろ大嫌いだ」

「じゃあなんで?」

「君を守りたいとか?」

 

 小さな子供に宇宙の話をすると口を開ける。考えても分からず、脳が熱を持つのでそれを発するために口を開けるのだ。

 

「多分、三ノ宮優歩は自分が笑っていれば空気も壊れないし君に何かされる事も無いと思っているんだろう

「でも、そんなの苦しいだけだよ!」

 

 そう、苦しいはずだ。なのに三ノ宮優歩は平然としている。私は考えたくもない想像を脳の片隅に置いてライスの修正に注力した。

 

「君、少し焦り過ぎなんだよ」

「焦ってる? 私が?」

「そうだ。いいか、まず身体接触から攻めるのは実に愚かな行為だ。あのナカハラみたいにね」

「──っ!」

「君が積極的に接触しても、三ノ宮優歩は笑ってくれていたんだろう? それは今日、ナカハラを相手にしても同じだった」

「それは……私との関係を壊したくなくてトレーナーさんが我慢してたって事?」

「そうだな。そういう事だ」

 

 ライスはまた顎を引いて考え込んだ。どうやらそれが思考の癖になっているらしい。

 

「君はまだ学生の身だ。それを無視して勘違いするなら、あのナカハラみたいになるだろう。それで得られるのはああいう偽の笑顔だけだ」

 

 私は腰を下ろしてライスと目線を合わせた。

 

「まだ、年相応のやり方があると思うがね?」

 

 そこへ向こうから三ノ宮優歩とコンビニ袋を持ったナカハラがやって来た。まだ2人の距離は近い。しかし私がサインを送るとSは身を引いて距離を取った。向こうもかなり疲弊したらしい。

 Sの買ってきた物を食べながら休憩する。一幕の休憩を終えて、ライスは三ノ宮優歩の前に立った。それはとても学生らしい笑みだった。

 

「ねえ、ちょっと遊んでもいいかな?」

「え? でもライス、今日のトレーニング……」

「じゃあ一緒に走ろうよ!」

 

 そのままライスは白い手を掴んで駆け出す。少し戸惑い気味だった三ノ宮優歩も心から楽しげな顔でその手に引かれて駆け出した。

 

 残された詐欺師2人は彼女達が小さくなり見えなくなるとその場に座り込んで息を吐いた。

 

「ご苦労さん。これで問題ないだろう」

 

 その呟きに対するSの返事はなぜか暗い。

 

「おい、まさか今更約束を反故にするのか?」

「いや違う。でも、彼女変だぞ」

「……そうだな。少し演技が上手すぎる」

「あれはまるで、慣れているみたいだった。空気を壊さないように笑う事、男に触られても不快な顔を見せない事。まるで人形だ」

 

 先程と片隅に置いた想像が大きく広がる。それと三ノ宮家という名前が結びつく。

 

「そうだな。考慮する必要がありそうだ」

 

 私はコンビニ袋から溶けかけのアイスを取り出して齧りついた。安っぽい甘味料の味が口いっぱいに広がり夏を感じさせる。

 

「そういやどうだ? 三ノ宮優歩は駄目だが運命の相手とやらは見つかったか?」

 

 それは軽い冗談のつもりだった。しかし、Sは鼻の穴を膨らませてにやけついた。

 

「まあな。運命かは分からないが、好みはいた」

「ああ、そうかい。しかし海水浴客と恋に落ちてもひと夏で終わるぞ。なにせそこでしか会えないのだからな」

「いや、お前がいる限りそうでも無さそうだ」

「──なんだって?」

 

 それは、Sのいう相手が学園の関係者である事を指し示している。

 

「ほら、あそこで扇子を持っている娘だよ」

 

 扇子という響きが私の耳にまとわりつく。

 Sがアイスの棒で指した先、そこには遠泳をする生徒を激励する秋川やよいの姿があった。

 

 果たしてそれは夏の魔物がしかけた悪戯か、或いは運命などというバカげた御伽話か。

 手元のアイスが溶け落ちて砂浜に青い溜を作った。そこには空も私も映らず、ただただ青い。

 

→→→→→→→→→

 

終了時点、鵜海晴希への主要な登場人物からの信頼度(%表示)

 

秋川やよい80% 前話よりの変位なし

三ノ宮優歩55% 前話よりの5ポイント↓

乙名史悦子50% 前話よりの変位なし

柳田光一郎0% (元より誰も信用しない)

サクラバクシンオー98% 前話よりの変位なし

ライスシャワー?% 信頼せざるを得なくなった

ゴールドシップ?% 協力関係?

 

→→→→→→→→→

 

オッス! オラゴルシ! 熱中症て怖えよな! お前ら水分補給はしっかりしとけよ! 喋るだけで疲れるくらい暑いからこれくらいにしといてやるぜ! というわけで次回!

 

『詐欺師トレーナー、罪を犯す』

 

絶対読んでくれよな!

 

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次回の更新は4月14日午前8時頃を予定しております
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