はめつでふらぐ   作:霧里

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マスターデュエルでデッキを作りながら考えていた妄想


はめつさんとしゅうえんさん

それは宇宙の片隅か、次元の狭間に浮かぶ箱庭でのこと

 

「ルインさま、ルインさまっ」

「何だい、しずく? いけないよ、もう寝る時間ではないか」

「ちがうもんっ。まだちょっと、あと少しだけ大丈夫なんだから」

「ふむ」

 

少女に言い返され、ルインは時に気を向けた

確かにそれは少女の言うとおりで、約束の時間までに長針が針を伸ばすには些かの猶予はある

屁理屈程度の言い逃れではあったが、ルインには それが少女を拒む理由にはならなかった

 

「良いだろう。おいで しずく」

 

手元の砂時計をひっくり返し、ルインは駆け寄ってきた少女を膝の上へと招き入れる

いつもそうしているように、飛び乗ってくる少女の体を抱え直すと

その長い黒髪を指で梳きながら「それで?」と、少女に話の続きを促した

 

「えっとね、えとね。ルインさまに確かめたいことがあるの」

「また、何が気になったんだい? 君の疑問は常々ではあるが」

「うんっ。ルインさま は昔、ご自分のことを「オレ」とか「ボク」って呼んでたってホント?」

「…それは」

 

純真に笑顔を向けてくる少女にルインは言葉を詰まらせた

誤魔化すのは簡単だ。しかし、それが真実である分たちが悪い

いつかの昔に葬ったと思っていた自分の黒歴史が、どうして今になって掘り返されていたものか

 

「デミス、だね?」

「正解っ。流石だわルインさま、私の事は何でも分かってしまうのねっ」

「まあ、そうだね。キミは分かりやすいから…」

 

もちろん、少女がそういった趣きなのは確かだが

彼女の境遇を考えれば、その必要の無いほどに答えは決まりきってしまう

ただそれも、向けられた信頼を裏切る理由にはならず

湧き上がる葛藤とともに喉の奥へと飲み込んだ

 

「じゃあじゃあ。私も自分の事を「オレ」とか「ボク」って呼んだらルインさま見たく…」

「やめなさい」

「えー…」

「やめるんだ、しずく」

 

そのキラキラの笑顔を曇らせてまでも、ルインは少女の狂言を止めざるをえなかった

何が悲しくて、自分の黒歴史を見せつけられなければならないのか

それが自分を慕っての事なのは嬉しくもあるが

なればこそ、振り返った時に同じ苦悶を味あわせたくはなかった

 

「良いかい、しずく? 私の様になりたいのなら、お転婆はほどほどにするんだ」

「でも、ルインさまは…」

「だからだよ、だから分かるんだ。後で困るのはキミなんだ」

「むぅ…はい。わかったわ、わかりました、ルインさま」

「うん、良い子だね」

「えへへ…」

 

頷いた少女の頭をなで、髪を手櫛で梳いてやると、気落ちした顔がすぐに綻びだす

寝る前でもなければ、お菓子の一つでも上げたくなる仕草だが

そう考える自分は、なかなかに甘くなったものだと、つられて微笑んでしまっていた

 

「あ…」

 

少女が小さく声を上げると、ちょうど時計の砂が落ち切る頃合いだった

 

「そうだ、しずく。すこし、昔話をしようか?」

「でも、ルインさま…」

「いいさ。たまには夜ふかしもするものだろう」

「まあ、ルインさまったらいけないんだから」

「キミが眠いのなら、また今度にするが?」

「いいえ。ばっちりよ、目なんてすっかりさえてしまったわ」

「そうか。じゃあ、眠くなるまで話をしよう」

 

そうして、ルインはつらつらと語りだす

それこそ、自分がまだ「オレ」だとか「ボク」だとか言ってた頃の話まで

 

 

 

「デミスさま、デミスさま」

「む…娘か。夜も遅い、眠れるぬのならばルインにでも…」

「いいえ、ちがうの。今日は夜ふかしをしても良い日なの。ルインさまが良いっていうの」

「で、あるか」

 

懐っこく足元に駆け寄ってくる少女を、デミスはただ見下ろしていた

この少女がなにを考えているのかが分からない。ルインの様な姿見ならばそれも分かるが

およそ、悪魔のような相貌の自分に臆せぬ理由が検討もつかない

嫌う理由はないが、しかし触れれば壊してしまいそうな少女の容姿を前に

デミスは頭一つも撫でられないでいた

 

「それでね、それでね。デミスさまに聞きたい事があるの」

「…聞こう」

「うんっ。えっとね、昔ルインさまとお付き合いしてたってホントなの?」

「むぅ…。それは、ルインか」

「せいかいっ。流石デミスさまだわ。私の事はなんでもお見通しなのね」

「…」

 

分からいでか。私とお前とルインしか居ないこの場所で

自分たちの過去などと、他の誰から斯様な事を聞けるというのか

だがしかし、それを口にして少女の信を裏切るほど、デミスも野暮ではなく

輝かしい笑顔を前に、些か視線を逸らすに留めていた

 

「どうしてお別れをしてしまったの? 今はもう好きじゃなくなってしまったの?」

「アレは、なんと?」

「それが酷いのよ。肝心な所は教えてくれないんだから「考えてごらん?」だってさっ」

「そう、か」

 

口を滑らせた自分に非があるとはいえ、少女が持たされた手土産に返す言葉が見つけられず

デミスは寡黙なままに、少女の愚痴に相槌だけを返していく

 

「やっぱり、デミスさまも教えてはくれない?」

「好きだとて。知られたくないこともある。娘よ、お前にもあるのだろう?」

「むぅ、それは…。おやつをつまみ食いしたことを言っているのかしら」

「で、あろう」

「あ、でもルインさまにはっ」

「アレが気づかぬと? 目こぼされているのだ、娘よ」

「うぅ…。ごめん、なさい」

「良い。些事である」

 

砂時計が零れるような沈黙が二人の間に流れていく

息苦しくはないがこそばゆい

叱られた子がそうするだろう仕草を前に、デミスは掛ける言葉が見つけられずにいた

 

「あのね、デミスさま。デミスさまは、ルインさまの事お嫌いですか?」

「むぅ…」

 

普段の少女らしからぬ遠慮がちな言葉を前に、デミスは一つ目を閉じる

一言と、言ってしまえば伝わるだろうその言葉も

プライドか、昔には持て余していたそれは、未だデミスの心に引っかかりを作っていた

 

「己が心に聞け。娘よ、それが答えだ」

「おのって、自分の? それは、だって…そんなこと…」

 

分かりきった答えに 少女は首を傾げ、不思議そうな顔をしてデミスを見上げていた

 

「さあ、もう良い時間だ。娘よ、休むが良い」

「あ、はい。おやすみなさい、デミスさま…」

 

その可憐な唇から、良からぬ問いかけが掛かる前に

言葉と態度とで、デミスは少女の背中を押していた

 

 

 

「しずくは?」

「寝かしつけたよ」

「寝かしつけたって、キミがかい? 子守唄だけでも泣かせそうなもんだけど」

「不可解だがな。アレは私を恐れてはいないよ」

「懐いているのさ。今度、名前の一つでも呼んでごらんよ」

「むぅ…」

 

唸るデミスの前に、小さなグラスが差し出される

透明なグラスに赤く赤い酒色が揺蕩って、芳醇な香りが立ち昇ってくる

 

「飲むでしょう?」

「貰おう」

 

乾杯と、お互いのグラスを軽く小突き合わせると、甲高い音が響く

ゴクリ…一息に赤い酒を飲み干して、吐いたため息には酒の色が移っていた

 

『さて』

 

どちらでもなく一息ついて、グラスを置いて立ちがる

それは行儀の問題か、ただの礼儀作法か

肩が触れ合うような二人の距離が、一歩分離れたかという間合いに

 

『ふんっ!』

 

裂帛の気合

 

「ぐはっ!」「ぬぅっ!」

 

同時に伸びた拳が二人の顔面に突き刺さった

 

「あの子に良くも余計なことをっ教えてくれたもんねっ!!」

「どの口が言う。おしゃべりは治らぬかっ」

「その偉そうな喋り方が鼻につくっ!」

「軽々しい物言いが気に入らぬっ!」

 

続けて2発、重ねて3発

殴り合いは正しく喧嘩に発展し、それは夜どうし続いていった

 

 

ーおしまいー

 




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