たとえ虚像の愛だとしても   作:ドレッジキング

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原作のゲームでも両親が協会に消されているんじゃないかと今から不安…


両親との別れ、そして決意

「ここが……マスターの住んでいた家……」

 

アナスタシアはシミュレータールーム内で創り出された立香が元々暮らしていた家の入口の前で立ち尽くす。立香の両親はもうこの世にはいない。しかし、それでも立香はこの場所を自分の実家だと認識し、今もここで暮らしている。辛く、過酷な戦いの連続で立香の心は摩耗している。今までは態度や表情には出さなかったが、誰よりも苦しみ、誰よりも泣きたかったのはアナスタシアを始めとするサーヴァント達のマスターである立香自身なのだ。

 

しかし、そんな立香を責める事はできない。何も知らずに南極に連れていかれ、そこで人理焼却が起こり他のマスター達は死亡。残った立香は人類最後のマスターとして特異点修復の旅に出た。高校も卒業していないような少年にはあまりにも酷な現実だ。そんな彼の心労に気付かず、サーヴァント達は立香に対して"人理を救うに相応しいマスター"である事を求めた。汎人類史を取り戻すという使命と責任の重さはアナスタシアのマスターである立香が何より理解している。

 

だからこそ、彼は自分の気持ちを押し殺してでも人類最後のマスターとしての責務を全うしようと努めている。だが……立香の心は既に限界を迎えていたのだとアナスタシアは思ったのだ。そこに追い打ちをかけるかのように、立香の両親が魔術協会によって命を奪われたという残酷な真実が明らかになった。そんな立香がシミュレータールームに閉じこもり、仮想空間内で創造した自分の両親と暮らした所で誰が咎めるだろう?

 

「マスター……もういいのよ。あなたはもう十分すぎる程頑張ってきたわ。これ以上無理をする必要はないの」

 

アナスタシアはシミュレーションルーム内に投影された仮想の立香の家に入る。すると立香の両親らしき男女がアナスタシアを暖かく出迎えた。

 

「あら?貴女は立香のお友達ね?いつも立香から話を聞いているからすぐに分かったわ。さ、暖かいお茶をどうぞ。立香は今、自分のお部屋にいるの。呼んでくるから待っていてね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

アナスタシアは立香の両親に促されるまま、居間で立香を待つ。二分後、階段を降りて立香が来た。立香はアナスタシアが座る席の向かいに座り、アナスタシアにいつもと変わらぬ笑顔を向ける。

 

「やぁアナスタシア、久しぶり。ここが俺の家なんだ。結構広いでしょ?」

 

「えぇ、とっても素敵な家。さっきの二人がマスターのご両親かしら?」

 

「うん、そうだよ。俺が産まれてからずっと一緒にいたんだ。でも、もう……」

 

「……そう」

 

アナスタシアは立香の隣の席に腰を下ろした。立香は虚ろな目で窓の外を眺めながら、アナスタシアに自分の両親について語る。

 

「父さんは優しくて、いつも俺の事を想ってくれる人だった。母さんは父さんよりも俺に甘い人かな。でも、俺は二人とも大好きだったんだ」

 

「……そう」

 

アナスタシアは立香の頭を撫でてやる。立香は目を細めて、アナスタシアに身を委ねた。

 

「ねぇ、アナスタシア。俺って人類最後のマスターとして失格なのかな……?こんなシミュレータールームで既にこの世にいない親と、暮らしていた家を再現して一緒に暮らすなんて……。皆が……サーヴァントの皆が今の俺の姿を見たらきっと軽蔑するかもね……」

 

立香は自分でも薄々間違った事をしているのだと気付いているようだ。

 

「……そんな事はないわ。あなたは人類最後のマスターである前に、一人の人間よ。辛い時は誰かに甘えたくなるもの。それは仕方のない事だわ。それに、私は今のあなたの方が好きよ。だって……だってマスターも両親との平穏な生活を望む一人の男の子だって分かったんだもの。それは生前の私と同じ」

 

アナスタシアは笑顔で立香の頭を撫でる。それはまるで聖母マリアが我が子キリストを慈しむように。

 

「……ありがとうアナスタシア。こんな俺でも……こんな俺でも君にとってはマスターなんだね……」

 

立香は涙を流す。アナスタシアは立香の肩を抱き寄せ、慰めるように背中をさすった。

 

「いいのよ、今は泣いても。ここには誰も咎める人は居ないわ。だから、ね?」

 

アナスタシアは立香を抱きしめ、立香はアナスタシアの胸の中で涙を流す。そしてそんな立香の姿を両親は優しく見守っていた。

 

「うぅ……ぐすっ……。ありがとう、アナスタシア。もう大丈夫だよ」

 

立香はアナスタシアから離れると、自分の頬に伝う涙を拭い、アナスタシアに微笑みかけた。アナスタシアは立香の笑った顔を見て安堵する。

 

「俺は……自分でもこのシミュレータールームにずっといる事が間違いだって薄々気付いてたんだ……。けど……けど父さんと母さんが魔術協会の手で殺されたって聞いて……例え白紙化した地球を元に戻してももう父さんと母さんはこの世にいないっていう現実に耐えられなくて……。ごめん、情けないマスターで……。こんな俺でも……こんな俺でも君はマスターだって言ってくれるんだね……」

 

「えぇ、そうよ。私は貴方に救われた……。罪悪感で押しつぶされそうな私の手をマスターは握ってくれたの。だから……だから今度は私がマスターの悲しみを受け止めてあげたい。貴方の苦しみを理解して、分かち合いたい」

 

アナスタシアの言葉を聞いた立香は再び涙を流し、アナスタシアに抱きつく。アナスタシアもそんな立香の体をしっかりと抱きしめてやった。しばらくすると落ち着いた立香は自分の胸に手を当てて言う。

 

「アナスタシア、俺は戦いに戻りたい。最後まで……最後まで戦い抜きたいんだ。地球を白紙化したままじゃ終われない……汎人類史を取り戻すまで戦いは止めない……!」

 

立香は力強くアナスタシアに答える。そんな立香の決意を汲み取ったのか、アナスタシアは笑顔で立香に語りかける。

 

「うん、それでこそマスターよ。私も全力でサポートしてあげる。さぁ、行きましょう」

 

アナスタシアは立香の手を取り、立ち上がる。そして立香は虚像の両親に対して別れの言葉を言った。

 

「父さん……母さん……俺、行ってくる……。最後まで戦い抜く……!」

 

両親は立香の言葉を聞き、笑顔を向ける。それはまるで、戦いに向かう愛する息子を見送るような眼差しであった。

 

「ありがとう、父さん、母さん……。俺、頑張るよ……。」

 

立香は目に涙を浮かべながら、虚像の両親に向かってそう告げると、アナスタシアと共に家を出ていく。そして家を離れていく立香は両親に別れの言葉を告げた。

 

「……さようなら、父さん……母さん……」

 

別れの言葉を告げた立香の目からは大粒の涙が零れ落ちる。そんな立香の肩をアナスタシアは優しく抱いてやる。

 

「マスター、もう大丈夫よ。マスターは一人じゃない。私が居るから……」

 

アナスタシアは立香にそう声をかけると、立香は泣きながらも笑顔を見せた。

 

「うん、ありがとうアナスタシア……行こうか」

 

立香はアナスタシアに支えられるように歩き出した。二人はシミュレータールームを出ると、ダ・ヴィンチの元へ向かった。

 

ダ・ヴィンチは二人の姿を見ると、笑顔で出迎えた。

 

「おぉ、藤丸君!やっと出てきたね。もう大丈夫かい?」

 

ダ・ヴィンチはそう言うと、立香の頬を指先で軽く突いた。

 

「あはは、心配かけてごめん……。もう大丈夫だよ……。それと……ダ・ヴィンチちゃん、その……ありがとう。俺がシミュレータールームで虚像の両親と一緒に暮らすのを認めてくれて……」

 

立香はダ・ヴィンチに礼を言うと、ダ・ヴィンチは微笑みながら立香に言う。

 

「いいんだよ。藤丸君の心の傷が癒えるまで、シミュレータールームの中で家族と触れ合うのは構わない。でも、シミュレータールームから出る時は必ず誰かに声をかけてから出る事。それだけは約束してほしいな」

 

ダ・ヴィンチはそう言うと、立香は笑顔で答える。

 

「うん、わかったよ」

 

ダ・ヴィンチは立香の返事を聞くと、満足げにうなずき、食堂の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

立香は食堂に集まったサーヴァント達に対して頭を下げる。自分の感情を優先して、10日以上もマイルームに引きこもったり、シミュレータールームに何日も閉じこもり、偽物の両親と一緒に暮らしていた事を謝罪した。

 

「みんな、本当にごめんなさい……。俺はみんなのマスターなのに……。こんな情けないマスターで……」

 

「ふむ、確かにそなたはマスターとしては未熟だ。しかし余は、そなたがどのような状況であれ、決して諦めずに前に進む姿勢を評価しているぞ」

 

ネロはそう言うと、立香の肩に手を置いた。

 

「そうですとも!私達は先輩の味方ですよ!」

 

マシュはそう言うと、立香の手を握った。可愛い後輩の励ましの言葉を聞いた立香は、笑顔を見せた。

 

「ありがとう、マシュ……。俺、頑張るよ……」

 

立香はそう言うと、笑顔を見せた。

 

マシュはそんな立香の顔を見て安心すると、笑顔を見せた。

 

「はい!一緒に頑張りましょう!」

 

食堂にいる英霊達は、立香の持つ"一人の少年としての弱さ"を受け入れ、シミュレータールームに引きこもっていた事を許した。無論、中には立香の持つ弱さを"マスターとして未熟"と断じるサーヴァントもいたのだが、ブーディカとアナスタシアの説得により、大半のサーヴァントは立香を責める事をやめた。立香は最後の異聞帯である南米を前にして、途中で投げ出す事をしなかった。ここまでくれば最後まで責任を持って戦うのが筋だと、立香は思ったのだ。そう、まだ戦いは終わっていない。漂白化された地球を元に戻さなければならない。マシュは立香の決意に満ちた表情を見ると、満足げに頷く。




やっぱ自分がしている事は間違いだと気付いているのが立香らしい。
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