Re:ゼロから時飛ばす異世界生活 作:きなこ餅君
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時が止まる、というのはこういうことだろうか。 路地の入口、さっきまでの男たちと同じように一人の少女が立っている。
「それ以上の狼藉は見過ごせないわ。 ―――そこまでよ」
銀鈴のような声色は鼓膜を心地よく叩き、紡がれる言葉には他者を震わせる力がある。
スバルはこの銀髪の少女がその存在感から只者ではないと肌で感じていた。
そして問題なのは彼女の敵意はスバルに向けられているということだ。
「ま、待てよォー 嬢ちゃん。 そんな目で睨まれたら落ち着いて話が出来ないだろ? な? ここは一つ見逃してくれねぇか?」
スバルはこの場から逃げ出したいと思っていた。
ようやく、最初の問題を解決したらさらに難問が彼を襲ったのだ。 無理も無い。
とりあえず謝って隙を見て逃げ出す作戦を実行に移すことにした。
「潔くて助かるわ。 今ならまだ取り返しがつくから、私から盗った物を返して」
「だから悪かったって‥‥ヘ? 盗った物?」
「お願い。 あれは大切なものなの。 あれ以外のものならあきらめもつくけど、あれだけは絶対にダメ。 ――今返してくれるなら、あなた達の命までを取ろうとは思わないわ」
(おいおい。 盗ったものなんて身に覚えがねえぞ! 俺が盗ったのはトンチンカン三人組の財布とナイフとライフだけなんだからよォー‥‥! つーか、今
(俺‥‥ コイツラの仲間だと思われているゥゥゥ!!?)
ピンチ。 今のスバルの状況はその一言で表せられてしまう。 最悪の場合、この少女に生殺与奪の権利を握られてしまうだろう。。
一刻も早くこのピンチから脱したいという思いから口任せに言い訳をくっちゃべた。
「ちょちょちょちょっと待て! 盗んだって何!? 俺そんなん知らないんだけど! な! お前ら!」
スバルは、少女の注目をトンチンカン三人組に向かわせる。
「あ、ああ、そうだ。 さっきの! 壁蹴って屋根伝いに逃げていった女がお前の物を盗んだ奴なんじゃないか!?」
「そうそうそう! この奥に逃げていった!」
「あの勢いなら通りをもう3つは抜けているだろうぜ!」
男たちの続けざまの言い訳に、少女の視線が再びスバルに向ける。
男たちの言葉が真実がどうかを問う視線にスバルは頷いた。
それを見届けて、少女は「うう」不承不承、納得の頷きを作り、
「嘘じゃ、ないみたい。 それじゃ、盗った人は路地の向こう‥‥‥? 急がないと」
こちらに背を向けて、少女は路地の外に向かう。
「バイバイ〜」
スバルは、少女が路地の外に出たのを見送り三人組を視線を送る。
「じゃあ、俺もそろそろお暇するわ~ お前らー まぁ強く生きろよ~」
「「「余計なお世話だッ!!!」」」
三人組にそう適当な言葉を残し、路地裏を出た。
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「しーかっしな〜 今の俺の財布と僅かな食料じゃあ一週間も持たないよな~」
スバルは自分の持ち物を見つめ現状をどうするかをベンチに座って考えていた。
だが、全く打開策を思いつけない。 このままは不味いと思ったのかスバルは賭けに出た。
「あ〜の〜 すみません~」
「ん? どうした少年?」
通行人にいい仕事を募集している所を教えてもらう策だ。
無論、何も教えて貰えない可能性もあるがスバルは賭けに勝った。
「それなら、そこの詰所に聞いてみるのはどうだ?」
「詰所?」
「ああ、そこに騎士の方々がいるだろう?」
通行人が指さした方向には鎧を身に纏った人たちがいる施設だ。
スバルの世界で言う交番のようなものなのだろう。
「噂じゃ傭兵を募集しているそうだ。 ここルグニカ王国は、とある理由による警備の人手不足で日給で傭兵を雇っているんだ」
「とある理由?」
「今、この国は王が不在なんだ」
「え? ここ王国なんだろ? そういうのは王の子供とかが引き継ぐんじゃあないの?」
「あ~ それにも理由があってだな」
通行人から聞いたここルグニカ王国の現状。 なんでもとある病気が流行し、王家の人間が全員死んだそうだ。
それ故に今は賢人会という昔からの王国の重鎮たちが国を次の王が決まるまで延命している状態だそうだ。
そして、次の王は王選といういわゆる選挙と言われるモノで、王選候補者という『竜歴石』に刻まれた『竜珠に選ばれた5人の巫女』と指定されており、竜珠がはめられた徽章の輝きで資格を持つものを示すという。 現在は5人の内4人まで見つかっているという。
しかし、国を纏める王が居ないということは国の混乱を招くモノ。 賢人会の采配で収まってはいるが、犯罪率は上がっているため騎士の対応が間に合わず、騎士の手が届かない所で傭兵を雇い働かせるということらしい。
まぁ、スバルにとっては日給で稼げる仕事を受けられるならありがたい話だが
「そうか‥‥ おっちゃん。 色々教えてくれてありがとよ!」
「おう。 兄ちゃんも頑張んな!」
「おう!」
通行人の案内通りにスバルは詰所を訪ねた。
「ごめんくださ〜い」
「何か用か?」
詰所の前にいた衛兵が返答した。
「ここで傭兵の募集があると聞いたんですが〜?」
「あ、ああ〜傭兵の申し込みね。 え〜と‥‥名前は?」
スバルはてっきり衛兵というのは堅苦しい性格かと思っていたが
この男はかなりフットワークが軽い。
顎髭を蓄え、短髪茶髪でモロおっさんの印象を与える男だ。
「スバルだ。」
「はいはい。 ス・バ・ルと‥‥」
衛兵は雇用書のようなものにスバルの名前を書いた。
この世界の文字であるためかスバルにはなんて書いてあるかよく分からない。
「あと、ほれこれ付けて。」
衛兵がスバルに腕章のようなものを手渡した。
「傭兵の証ってやつだ。 それ失くすなよ? 失くしたら報酬とか貰えねぇからな? じゃあ今からこの稼業について説明するぞ」
「オッス! よろしくお願いしやす!」
「ここでの傭兵は時給銀貨一枚だ。 そして犯罪者を一人捕まえると報酬としてさらに銀貨一枚が加算されていくようになっている。」
「銀貨一枚ってことは‥‥確かヤ○ーによると日本円で凡そ1500円だから‥‥時給1500円の日給日払い形式‥‥ めちゃめちゃ高待遇じゃあねえか!!!」
「おう。 何言ってるか分からねぇが、概ねそのとおりだ。 まぁ裏もあるがな。」
「裏ぁ!?」
「だってよぉー 誰とも知れねぇ奴にこんな待遇の良い仕事が与えられる筈がねぇだろ普通?」
「ぐっ」
「この仕事には危険が付き纏う。 犯罪者をサシで捕まえたりしなきゃあならねえ時が圧倒的に多いし、勿論中には返り討ちにあって殺されたやつもいる。 命をかけることが多いから報酬も美味いってこった‥‥ 兄ちゃんよぉー もし辞めんなら今だぜ?」
この言葉を聞いてスバルは衛兵が心配しているのだと感じた。
口調こそ軽いが良い人なのだろう。
しかし、スバルにはスバルの事情がある。
実は彼には苦い経験がある。 高校1年のとき、アルバイトにとあるレストランを選び面接の時に目が怖いという理由で断られたことが5回くらい続いたのだ。 末に彼が出来たアルバイトは土木工事のバイトだけ。
この世界でも同様の理由で断られるかもしれないためにこの稼業を選んだのだ。 目が怖いって逆にアドバンテージになるかもしれないし。
「いや、忠告痛みいるが、俺はやるぜ。 文字通り命をかける覚悟だぜ」
「‥‥そうかい。 まぁ死なねぇ程度で頑張んなー」
「おう、任しときな「きゃあァァァァァァ!!」へ?」
突如、広場で悲鳴が上がった。
「泥棒よォォォ!! 誰か! 捕まえてッ!!」
女性が野菜やら果実やらを抱えている30代くらいの男性を指差しながら叫んでいる。
状況から察するにあの男が女性の隙を見て盗んたのだろう。
「運が良いのか悪いのか‥‥‥
「おうッ 分かったぜ!」
スバルは泥棒が走っている通りの先に走って待ち構える。
そしてよく見ると泥棒がナイフを掴んでいるのが見えた。
しかし、スバルは不思議と、恐怖はあまり感じなかった。
先程の路地裏で見たように泥棒がするであろう動きが見えていたのだ。
「何でかは分からねえが‥‥ これが俺の貰った特典ってやつか? 『少し先の未来を見る能力』‥‥ 一見地味だが結構ありがたい能力だぜ!」
「どけェェェ!! 餓鬼ィィィ!!」
泥棒がスバルの目の前に迫る。
スバルがどかないのならナイフで刺してまでどかそうという試みなのだろう。
しかし、スバルの見た未来では問題なく対処し泥棒を引っ捕らえる光景が見えていた。
「そらっ!」
まず、犯人のナイフを持っている手の関節を掴み、同時に胸部を殴る。
「うッ!?」
当然、殴られた犯人は怯むのでその隙に殴った方の手でナイフを掴む。
そして、犯人の脚を横に蹴ってバランスを崩し、掴んでいた手首の関節を回転させてそのまま地面に転ばせた。
「いでッ!」ドサッ!
このとき、犯人はナイフを落としたのでスバルはナイフを誰もいないところに向けて蹴り飛ばした。
これらの手法はクラヴマガという体術の一種である。 スバルはたまたま見た動画の動きを参考にしてクラヴマガの体術を成功させたのだ。
「マジかよ」
衛兵は度肝を抜いた。 スバルがここまで出来るような男だとは思わなかったからだ。
自分よりもずっと若いものがあそこまでの技量を持っているということに
「衛兵さんよぉ‥‥‥」
「ん?」
「これで銀貨一枚‥‥‥だよな?」
「‥‥‥ おう!」
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夕方頃‥‥
「へへへ‥‥ たんまり貰ったぜ‥‥」
傭兵のバイト?が完了し、スバルは一先ず、しばらく生けていけるだけの財産を手に入れた。
「これで何処かホテルみたいに泊まれるところを見つけて‥‥‥?」
スバルは自身の目の前の光景に信じられないことが起こった。
「雪ッ!?」
そう。 雪が降っていたのだ。 いつの間にか空には黒い雲が覆っており寒気もしてきた。
いや、ただの寒気ではない。 体の芯から凍てついていくかのような感触だ。
そして、スバルが空を見上げたその時、この街全体に響き渡るかのような声が聞こえた。
『僕は契約に従い‥‥ この世界を終わらせる‥‥』
このルグニカ王国の王都の一角で突如として出現した巨大な獣の影。
「何だあれはッ!? 化け猫‥‥‥!!?」
スバルは、その獣の影のシルエットが何となく猫のように見えた。
しかし、スバルがそう認識した瞬間
既に獣はこの王都をものすごく勢いで凍てつかせた。
「あ"‥‥‥あ"‥‥」
スバルもそれに巻き込まれた。
体中を氷が包み込んでゆく
彼はこの突然の出来事にただ震えていることしか出来なかった
「アアァァァァァァアアアア‥‥‥」
スバルは声にもならない叫び声を上げながら、氷に飲み込まれ氷像となってしまった。
菜月昴 死亡