自作品クロスオーバー集 ※旧『オリ主たちが異空間でばったり遭遇するだけの話』   作:緑茶わいん

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金髪碧眼の美少女聖女と後天サキュバス 2

「久しぶり、アリス。相変わらずの美しさで安心したわ。どう? 私のものになる気になってくれた?」

「お久しぶりです、ラペーシュさん。……アイドルになって少しは落ち着いたかと思ったんですが」

「あら。偶像は崇められるのが仕事でしょう? 他人の顔色を窺って媚びへつらうなんて柄じゃないわ」

 

 帰還者たちとの会合にはラペーシュも参加してくれることになった。

 芸能活動を始めて何かと忙しいはずの彼女だが、転移魔法を使えば一瞬で移動できるのもあって時々いきなり会いに来たりする。先に連絡が欲しいと言っても「会いに来た方が早いじゃない」の一点張りだ。

 会うなり抱きついてくるのも相変わらず。

 レディースのパンツスーツに身を包んだ朱華が呆れたように息を吐いて、

 

「本当に変わらないわね、あんた」

「貴女だって相変わらずゲームに熱中しているのでしょう? お互い様じゃないかしら」

「お二人とも、仲間同士での喧嘩はお止めくださいませ。これから大事な任務なのですから」

 

 機関の調理担当として私たちを日々サポートしてくれているノワールが若干困り気味の微笑を浮かべて二人を嗜める。なんだか昔を思い出す光景に私の口許まで思わず緩んだ。

 

「皆さんがいれば何があっても安心ですね」

「でしょう? 朱華とノワールも弱くはないけれど、苦手な相手がはっきりしすぎているもの。万が一のためにも私がいた方が安心よね?」

「はい。頼りにしています、ラペーシュさん」

 

 帰還者たちには既に政府関係者が接触、ひとまず校庭から別の場所へと移動してもらっている。

 彼らとしては早く自宅や実家に帰りたいところだろうが、さすがにいろいろ話を聞いてからでないと怖くて許可が出せない。

 かといって千人もの人間をすぐさま収容できる施設も存在しないので、何グループかに分けて近隣のホテルへと宿泊してもらう形だ。

 まあ、学校の体育館とかで雑魚寝で良ければなんとかなるのだけれど、せっかく日本に帰ってきたのに「ご飯は菓子パンとペットボトルの水です。寝具は毛布一枚です」とかやられたら普通は怒る。せめて温かい食事と柔らかいベッドくらいは使って欲しいものだ。

 さて。

 会合にあたっては先方からも代表者数名を選出してもらい、私たちのセーフハウスへと招待することにした。他でもない、私たちがかつて住んでいたシェアハウスである。今は空き家になっていて、突発的に住居が必要になった時のために定期的な清掃・保全が行われている。

 

 先方は先に到着しているらしく、家の前には黒服のSPが立っていた。身分証を提示して挨拶すると入るのを許可してくれる。

 

「久しぶりのシェアハウスですね、アリスさま。スーパーへ寄る時間がなかったのが残念ですが、食材はたくさん持って参りましたので腕を振るわせていただきます。……そうだ! アリスさまも一緒にお料理をいたしませんか?」

「あ、いいですね。戻って来られた方々もこっちの食事に飢えているでしょうし」

「ストップ。アリス、代表のあんたが料理始めてどうするの。ノワールさんもちょっとはしゃぎすぎ」

「あ、そうでした……!」

「申し訳ありません。なんといいますか、昔を思い出してしまいまして……」

 

 二人して朱華に謝ってからシェアハウスの入り口を開いた。

 変わっているような、変わっていないような匂い。靴を脱いでリビングに向かうと、ほっとしたような表情の政府関係者の人と、

 

「ああ、いいなあ……! 久しぶりの日本のキッチン! なんかここの設備めちゃくちゃ充実してるし、ここで料理したら絶対楽しいよ」

「これがフーリさんの言っていたキッチンなんですね。あの、これはどう使うんですか?」

「あ、それはねー?」

 

 ノワールさん自慢のキッチンを羨ましそうに眺める二人の女性と、それを見て「なにやってるの」とばかりに苦笑する女性たちがいた。

 漏れ聞こえてくる賛辞にノワールが「わかりますか!」と乗っかろうとして朱華に口を押さえられて、

 

「あ」

「あ」

 

 目が合った。

 こほん。

 私は小さく咳払いの真似をして空気を変えると微笑んで一礼した。

 

「初めまして。この度、皆さんとの話し合いを任されましたアリシア・ブライトネスと申します。お互いにとって良い話し合いとなるよう精一杯務めさせていただきますので、どうかよろしくお願いいたします」

「ご丁寧にありがとうございます。わたしはレン──本名は藤咲蓮といいます。レンと呼んでもらえると嬉しいです」

 

 私の挨拶に一番に応じてくれたのは先方のリーダーらしい例のサキュバスだった。

 予想していたよりもずっと丁寧な応対。サキュバスということもあって「出会い頭に口説いてくる」くらいは覚悟していたのだけれど。

 私の後ろにいる女好きの魔王様(空気を読まずにドレス姿)は私の内心を知ってか知らずか「……ふうん」と妙に楽しそうな声を出して、

 

「私に匹敵する魔力量。この場に存在しているだけで影響を及ぼすほどの魅了能力。レン、ね。気に入ったわ。……貴女、私のものになる気はないかしら? もし応じてもらえるのなら、今まで感じたことのない幸福を与えてあげる」

「いきなり何言い出してるのよこの魔王」

「すみません。素敵なお話だとは思うんですが、わたしにも愛する人がいるので。彼女たちを放って一人だけを一番に愛することはできないんです」

「あら、残念。……なんならその子たちも一緒にもらってあげるのに」

「ねえ、アリス? こいつやっぱり余計だったんじゃない?」

「若干、そんな気もしてきましたけど……今から言っても遅いですし」

 

 私たちの中で最強を誇るラペーシュが「自分に匹敵する」とレンを評したのだ。抑止力という意味で「来てくれてよかった」とも思う。もちろん、このまま戦いにならないのが一番なのだけれど。

 ちょっと余計な話が挟まりはしたものの、続いてお互いの他メンバーの自己紹介が行われた。

 先方のメンバーはレンの妻だという風の精霊フーリ、レンの妻だというダークエルフのミーティア、レンの妻だというハーフエルフのアイリス。

 

「……あの、レンさん? 奥さん多くありませんか?」

「あはは。異世界はそういうの寛容だったので、みんなを平等に愛することにしたんです。もちろん子供もいるんですよ」

「へえ。やっぱり貴女とは話が合いそうね」

「ラペーシュさん、ちょっと黙っててください。……えっと、お子さんですか。その子たちはいまどこに?」

「他の妻たちに面倒を見てもらっています。みんな来たがったんですが、さすがに人数が多すぎるので。今頃はホテルですね」

「なるほど」

 

 頷く私。レンたちはレンたちで「ねえ、レン? なんかエルちゃんにちょっと似てる人だね?」「あー、たしかに」とか囁き合っている。

 ここでノワールが口を開いて、

 

「和やかに話し合いを行うためにも食事をご用意しようと思うのですが、いかがでしょうか?」

「本当ですか!? あの、できたら私もお手伝いさせて欲しいんですけど……!」

「ええ、是非。親睦を深める意味でもいい機会かと思います」

 

 未来世界から来たメイドさんとファンタジー世界の風の精霊が並んで料理をする。なんというカオスな光景だろうか。いや、二人とももともとは普通の日本人のはずなのだけれど。

 

「あの、というかアリシアさんたち──みなさんはどういった方なんですか? 悪い人でないのはわかるんですけど、見た目も雰囲気もむしろわたしたちに近い気がするんですけど」

「さっきも『魔王』とか言っていたわよね? 私たちが倒したあいつとは全然違うけど」

「それについては他言無用でお願いしたいのですが、かくかくしかじかで……」

「異世界の自分の記憶と能力を受け継いで、ついでに姿が変わってしまった!?」

 

 愕然と口を開くレンたち。

 

「ありえるんだ、そんなこと」

「いえ、私たちとしては『神隠しに遭った方々が種族すら変わって帰ってきた』というのもなかなかに信じがたい話だと思うのですが……」

「確かに」

 

 要するにどっちもどっちである。

 

「なるほど。だからあなたたちからも魔力やら何やらを感じるのね。特にあなたとそっちの魔王? からは恐ろしい力を感じるわ」

「ええ。私は当然だけど、アリスも強いわ。私がこの世で最も恐れ、最も愛する相手だもの」

「えっと、二人は結婚して……?」

「ません!」

「そうね。残念ながらプロポーズ中よ」

 

 お返しというかなんというか、その後レンたちの話も聞いた。

 普通に学校にいたと思ったら気づくとクラス全員で異世界にいて、戦う力を与えられた。そこには転移者たちの作った街があって、何者かが用意したダンジョンがあった。ダンジョンを攻略し、大地を耕し、闇に覆われた世界に光を取り戻しながらなんとか生き抜いてきたのだと。

 

「大変だったのですね……」

「でも、楽しいこともあったんですよ? ……最初の頃に転移した人たちにとっては本当に地獄だったみたいなので、あんまり良い場所とは言えないのも事実ですけど」

「亡くなった人もいるんでしょ? そういう人たちはどうしたの?」

「火葬のうえで埋葬しています。幸い、炎の魔法がありましたから」

 

 話している間にノワールとフーリ特製の料理も出来上がった。

 スーパーに寄れなかったと言いつつ、ノワールが常備している食材だけでも十分というか、十に近い品数がずらっと並べられる。

 日々料理の腕を上げるノワールのやることとはいえ張り切りすぎではないだろうか。

 

「フーリさまが手伝ってくださったのでとても楽しかったです」

「私こそ、久しぶりにこっちのキッチンが使えて最高でした! アイリスちゃんも一緒にやれば良かったのに」

「私はぜんぜん使い方がわからないので……。でも、見ているだけでも楽しかったです!」

 

 ご馳走のようなメニューになってしまったけれど、これだけの人数がいれば食べきれないことはないだろう。

 みんなでいただきますをして、温かいうちに食べ始める。

 レンは真っ先にエビチリを口へ運ぶと突然涙ぐんで、

 

「美味しい……。こんな完璧なエビチリ、向こうじゃ食べられなかったから」

「だねー。海はなんとか作ったけどエビはなかなか獲れないし、チリソースの調合も大変だし、向こうだと火加減だって難しいから」

「いや、でも悩みが『エビチリが食べられない』って。異世界にしてはずいぶん食事のレベルが高いわね?」

「私みたいな例外を除くとみんなこっちからの転移者だから、料理のレパートリー自体は豊富だったのよ」

 

 それを創意工夫でなんとか再現していろいろ食べていたらしい。

 

「もちろん、凝った料理はなかなかできないですし食材にも限りがあるので大変だったんですけどねー。揚げものとかこっちなら気軽にできるのに」

「あー。こっちにいる間にカツ丼と牛丼と天丼と親子丼食べておかないと。あとお寿司」

「私はホームセンターに行きたいよ。カセットコンロとか植物の種とか椎茸の原木とか欲しい。むしろホームセンターごと持って帰りたい」

「こっちにいる間……ということは、皆さんは異世界に戻るんですか?」

「はい。まだ向こうでの戦いが終わっていないので」

 

 彼女たちは当初、ダンジョンをクリアすれば日本に戻れると考えていたらしい。

 けれど戦いは難航し、結局最初の転移から四十年近くが経ってもクリアはできていない。代わりに魔法やマジックアイテムを用いて強引に帰ってきたのが今回の帰還。

 ただ、これだと根本的な問題は解決していない。

 召喚──神隠しは発生してしまうし、転移者たちに与えられた力も消えてはいない。彼らが本当の意味で帰ってこられるのはまだ先の話なのだ。

 

「それに、異世界を終の棲家にすると決めた人もいます。わたしの娘の中にはこっちだと生きづらい子もいるので」

「レンさんは、戦い終わっても異世界に?」

「たぶん、そうなると思います」

 

 答えて微笑む彼女の目には決意が宿っていた。

 ラペーシュに匹敵する実力者。ダンジョン攻略においても最前線にいるという彼女は、きっとそういう星の下に生まれてきたというか、率先して頑張らないとだめな人なのだろう。

 

「損な性格ですね」

「なに言ってるの。鏡見て言いなさいアリス」

「え? どうして急にディスられたんですか、私!?」

 

 朱華の罵倒に抗議すると、彼女は呆れた表情を浮かべて私を見て、

 

「あんたがこれから言おうとしてることを当ててあげましょうか? 『戦いなら私たちにもお手伝いできませんか?』でしょ?」

「どうしてわかったんですか……!?」

「それくらいわかるに決まってるでしょうが、何年付き合ってると思ってんのよ!?」

「あの、ちなみに二人は付き合って?」

「ません」

 

 なんというか、レンたちの対応に私たちが来たのは正解だった。

 色んな意味で私は心からそう思った。

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