疾れイグニース!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第3レース(3)それぞれの問題点

「……さて、本日も騎乗訓練がメインだ。諸君らにとっては喜ばしいだろう」

 

 鬼ヶ島が並ぶ学生たちに告げる。隣に並ぶ炎仁と真帆の顔は堅い。

 

「課題が山積みだからな……」

 

「喜んでばかりもいられないわ……」

 

「ドラゴンに乗ったらコースに出ろ。ああ、朝日と天ノ川、お前らは罰走だ」

 

「ええ~なんでですか~」

 

「なんでって、まだ一週間も経っていないのに何度目だ、寝坊は」

 

「朝は弱いんですよ~」

 

「それでジョッキーが務まるか」

 

 鬼ヶ島が翔に対して呆れた目を向ける。

 

「ちょっと待った! アタシは今日遅れてないっすよ⁉」

 

「厩舎で寝泊まりするやつがいるか」

 

「そ、その方がより確実だと思って……」

 

「決められた場所で過ごせ、ルールを守れない奴は周囲の迷惑だ」

 

「ちぇ……いいアイデアだと思ったんだけどな」

 

 翔と青空はぶつぶつ言いながら走り出す。

 

「……今日は最初から模擬レースを行う。但し、強度は少し高める」

 

「強度?」

 

 レオンが首を傾げる。

 

「教官二名が混ざり、六頭立てで行う。さらに結果も求めたい。これまでは走り切ることに重きを置いていたが、一回一回勝ちにこだわれ、以上だ」

 

「……うおっしゃ! 一着だ!」

 

 深緑色の竜体をしたドラゴンに跨る嵐一が吠える。並走していた学生が抗議する。

 

「ちょ、ちょっと待て! 今の走りは妨害だろう」

 

「あん? 難癖付けんのかよ?」

 

「やめろ……今の程度ならばルール上問題はない」

 

 レースを見ていた鬼ヶ島が冷静にジャッジする。

 

「ほら見ろ」

 

「くっ……」

 

「ただ、やや強引だった。草薙、もう少し仕掛けは早くしろ」

 

「……っす」

 

 鬼ヶ島の指摘に嵐一は頷く。

 

「三日月」

 

「は、はい!」

 

「今のレースは貴様が優勢だったぞ、最後まで油断するな」

 

「……はい」

 

 海が頷いて、スタート位置へ戻る。

 

(草薙嵐一と『アラクレノブシ』号、多少の不利な状況なら打開出来る力強さがあるな。王道路線よりもあるいはあの路線の方が可能性あるのかもしれん。ただ、草薙のすぐに苛立つ性格が厄介だな……三日月海と『ミカヅキルナマリア』号、ややお上品過ぎるな……少しでも計算外のことが起こると、すぐに対応出来なくなる。せっかくの能力を活かしきれていない……)

 

 鬼ヶ島は模擬レースを見ながら分析する。

 

「よっし! 一着ですわ!」

 

 飛鳥がガッツポーズを取る。

 

「……撫子、こっちへ来い」

 

「は、はい!」

 

 飛鳥が鬼ヶ島の下へ近づく。

 

「……」

 

「ガ、ガッツポーズはちょっとはしたなかったですわね」

 

「それはいい……何故あそこで無理に突っ込ませた?」

 

「!」

 

「そのドラゴンならば無理をしなくても勝てたレースだった」

 

「いや、その……」

 

「多少の無理をしても勝てるのは一流のジョッキーだ。ただ、貴様の技術はまだそこまでは達していない、姉の真似をして背伸びをするのはやめろ」

 

「そ、そんなつもりは!」

 

「そう言ってすぐムキになるのがなによりの証拠だ、戻れ」

 

「ぐっ……」

 

 飛鳥が悔しそうな表情を浮かべながら、スタート地点に戻る。鬼ヶ島が叫ぶ。

 

「金糸雀! こっちへ来い!」

 

「は、はい……」

 

「呼ばれた理由は分かるな……」

 

「ええっと……」

 

「何故ドラゴンを下げた? あのタイミングで抜け出せば勝ちを狙えたぞ」

 

「それは……」

 

「……事情は概ね把握しているつもりだ」

 

「えっ……」

 

「ただ、冷たいようだがそれは貴様自身で克服してもらわねばならん。この短期コースは時間が無い上に、貴様の為だけにあるものではない。戻っていい」

 

「はい……」

 

 レオンがトボトボと黄色い体色のドラゴンをスタート地点へ歩かせていく。

 

(撫子飛鳥と『ナデシコハナザカリ』号、技術はこの時点でも申し分ないが、このままではそれに溺れかねんな……金糸雀レオンと『ジョーヌエクレール』号、血統的には可能性を感じるドラゴンだが、乗っている騎手があの状態ではな……騎手の不安などマイナス要因が伝播しやすいのが競争竜というものだ。このままではポテンシャルを完全には発揮できないだろう。さてどうしたものか……)

 

「教官~走り終わりました」

 

 青空が鬼ヶ島に声をかける。

 

「ああ、貴様らもドラゴンに乗って混ざれ、今日は徹底して模擬レースだ」

 

「よっしゃあ!」

 

「やった~」

 

 青空と翔が喜び勇んで厩舎へ走っていく。鬼ヶ島は苦笑しながら呟く。

 

「奴らの場合は問題点が別の所にあるからな……」

 

「は~い、スタート!」

 

 やる気があまり無さそうな男性教官の掛け声でスタートを切る。

 

「いっくぜ~!」

 

「よっと」

 

「うおっ!」

 

 勢いよく飛び出した青空のドラゴンの前に翔のドラゴンが巧みに位置する。

 

(アタシの腕じゃ、内に包まれる! 外に持ち出す!)

 

「おわっ!」

 

 青空がやや強引に位置取りを変える。外側を走っていた学生は驚く。青空が外に持ち出したことで、内側にやや空きが生まれる。

 

(外側がかえってごちゃついた! 内側がチャンスだ!)

 

 レースを見ていた炎仁はそう感じる。少し後方を走っていたレオンとジョーヌエクレールにとってはここを突いていくべきところである。

 

「……くっ!」

 

 しかし、レオンはジョーヌエクレールを突っ込ませようとはしなかった。レースは先行策を取った翔が勝ち切ってみせた。

 

「……十分休憩だ! 金糸雀、こっちへ来い!」

 

 鬼ヶ島に呼び出され、レオンがなにやら指導を受ける。その後、レオンは皆とは違う水飲み場に向かう。気になった炎仁はそれを追いかける。

 

「レオン?」

 

 水を頭にかけて、さっとそれを振り払ったレオンは炎仁を見ずに呟く。

 

「……僕は今日限りで辞めるよ」

 

「ええっ⁉」

 

 思わぬ発言に炎仁は驚く。

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