疾れイグニース!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第5レース(3)ペア訓練

「それじゃあ、ペア訓練開始~」

 

 仏坂の若干の間の抜けた声で、Cクラスの八人は四組のペアに分かれる。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 軽く頭を抑える嵐一に翔が声をかける。

 

「併せ竜でもする?」

 

「お、おう、そうだな……」

 

「じゃあ、この3ハロン位を何回か走るとしようか」

 

「ああ……」

 

「じゃあ、スタート!」

 

「⁉」

 

 翔の騎乗するステラヴィオラが出足鋭く、リードを奪う。

 

(アラクレノブシ……しぶとさみたいなものが滲み出ているドラゴンだから、そのペースに合わせることはない。先行して優位をとり続ければ良い)

 

 翔が余裕の笑みを浮かべ、嵐一のドラゴンからリードを奪う。

 

(自由自在の脚質を体得しつつある、ステラヴィオラ……人竜揃って天才だ、間違いなく。ただ、プロを目指していくのなら、こういうバケモノじみた連中にも喰らい付いていかないといけねえ! スピードもコース取りも向こうが一枚も二枚も上手だ……ならばどうするか……こうする!)

 

「⁉」

 

 翔が驚いて斜め後方を見る。ステラヴィオラの竜体にアラクレノブシの竜体が激しくぶつかってきたからである。

 

「ふん!」

 

 嵐一は再び竜体をぶつける。

 

「くっ!」

 

苛立った様子の翔が鞭を打つと、ステラヴィオラが加速し、アラクレノブシを突き放して先にゴールする。

 

「……」

 

「どういうことなのかな?」

 

 ゴール地点についた嵐一を見る翔の眼はいつもの寝ぼけ眼ではなく、怒りを孕んだ眼である。その程度の睨みに怯む嵐一ではない。彼は悪びれず併走を振り返る。

 

「出足もよく、コース取りも完璧、竜との折り合いも抜群……普通に走ったら、とても勝ち目がねえ……そういう場合に取れる手段は一つ」

 

「反則行為を行うってわけかい?」

 

「露骨な進路妨害などはしていない。それにあの程度の接触は競竜ならよくあることだ。反則行為と言われるのは心外だな」

 

 嵐一はわざとらしく両手を広げてみせる。翔は苛立ちを隠せない。

 

「ジャッジによれば反則を取る場合もあった! そんな危険な走行をする人とは走ることが出来ないよ!」

 

「お前、入学式の日、ドローンで報道陣に突っ込んだよな?」

 

「あれは……若気の至りってやつだよ」

 

「お前、一か月くらいで老成すんのか。卒業時にはジジイだな」

 

「とにかくだ! そんな走行をするなら自分たちだけで勝手にやっていてくれ!」

 

「いやいやそういうわけにはいかないよ~」

 

 いつの間にか仏坂が二人の側にいる。

 

「そういうわけにはいかないって⁉」

 

「今はペア訓練の時間だからね~お互いの走りなどから課題を見つけて、それに取り組んで欲しいんだよね~」

 

「課題……?」

 

「天ノ川君、レースにおいて聡明な君ならよく分かっているはずさ」

 

 少し落ち着きを取り戻した翔が答える。

 

「……混戦の対処方法?」

 

「そう、混戦では想像以上にダーティーな行為を行ってくるジョッキーがいるんだ――もちろん、大体のプロがフェアプレーヤーだけど――悲しいかな、ゼロではない。そういったときの対処法・心構えを少しでも学んでいて欲しいんだ」

 

「理想は混戦なんかに巻き込まれないことですけどね」

 

「理想が高いのは大変結構、ただ、レースというのは必ずしも、君たちの思い通りには進まない。現実を知っておくことも大事だよ」

 

「俺はダーティージョッキー要員ですか……」

 

 嵐一がわざとらしくおどける。仏坂がフォローを入れる。

 

「いやいや、草薙君も天ノ川君の見事な騎乗から学んでくれ。一流から見るだけでも学ぶことが多いというのは、君も良く分かっているはずだ」

 

「……なるほどね」

 

「じゃあ、もう一回併走する? 次は接触すらさせないよ」

 

「! 上等だよ。意地でも喰らい付いてやる」

 

 余裕を取り戻した翔の笑みを嵐一がキッと睨み付ける。

 

「くそっ、なんで届かねえ!」

 

 青空が悔しそうに声を上げる。

 

「……どうします? もう一本走りますか?」

 

 飛鳥が余裕の笑みを浮かべる。

 

「上等だ!」

 

「……では、参りましょうか!」

 

 ややインターバルを置いて、飛鳥の騎乗するナデシコハナザカリと、青空の騎乗するサンシャインノヴァが走り出す。ハナザカリの方が一、二竜身ほど先行する。

 

(先行されるのは想定内だ……最後の直線で捉えれば良いだけの話だ……!)

 

 コーナーを曲がり、サンシャインの方が仕掛けるが、なかなか差が縮まらない。

 

「……」

 

(くっ、まただ! 差が縮まらねえ! なんでだ? ……まさか!)

 

 再び、ハナザカリの方が先着する。飛鳥がホッと一息つく。

 

「ふう……」

 

「分かったぜ! カラクリが!」

 

「カラクリって……お聞かせくださいますかしら?」

 

「竜なりと見せかけてペースを微妙に早めながら走ってやがったな? サンシャインノヴァはスタミナが徐々に奪われちまって、直線で爆発力に今一つ欠けた!」

 

「ほう、思ったより早くお気付きになられましたね。天性のレース勘というのもあながち馬鹿には出来ないものですわね」

 

 飛鳥が感心した様子を見せる。

 

「くそっ! もう一回だ!」

 

「今日は良いんじゃありませんか? 何度やっても結果は同じだと思います」

 

「ぐっ……」

 

「もう一本見てみたいな~」

 

「うおっ⁉」

 

「教官⁉」

 

 仏坂が二人の間に顔を出す。

 

「よし! 教官もこう言っているんだ! もう一回やるぞ!」

 

「仕方ありませんわね……」

 

「よっしゃ! スタート!」

 

「なっ⁉」

 

「要はペースを握らせなけりゃ良いんだろ!」

 

「だ、だからと言って、そのドラゴンに先行策を取らせるなんて!」

 

 サンシャインが前に出たことにより、飛鳥は戸惑う。仏坂は笑う。

 

「セオリー通りの戦い方に強い撫子さんにセオリーに囚われないタイプの朝日さんをぶつけてみる……さて、そこでどのような化学反応が見られるか……」

 

「さあ! このジョーヌエクレールの稲妻のような走りについてこられるかな⁉」

 

「これはローテーション走です……必要以上に飛ばさないで下さい」

 

「は、はい……」

 

 調子に乗るレオンを海が注意する。エクレールのペースが落ちる。

 

「全く……うん?」

 

 ため息をつく海の視界に炎仁と真帆が入る。

 

「凄いよ、炎ちゃん! 競争竜でそんなに高く、タイミング良く飛べるなんて!」

 

「そうか?」

 

「そうだよ! 人竜一体になってないとなかなか出来ないよ!」

 

 真帆の言葉に炎仁が頷く。

 

「そこまで言われると段々とその気になってくるな……」

 

「その気に?」

 

「ああ、このジャンプを効果的にレースに取り入れることが出来ないかなって……」

 

「そ、それが実現出来たら凄いよ!」

 

「凄いか?」

 

「うん! 私も良かったら協力するよ!」

 

「……それが狙って出来るようになれば確かに凄いですが……」

 

 盛り上がる二人の近くで海が呟く。

 

「み、三日月さん⁉」

 

「紅蓮君、貴方はそれより純粋なレース技術を高めた方が賢明ではないですか?」

 

「むっ……」

 

「……紺碧さんもイチャイチャを見せつけられる身にもなって下さい」

 

「ええっ⁉ イチャイチャって……」

 

 海の言葉に炎仁と真帆は俯いてしまう。海はため息をつきながら頭を下げる。

 

「すみません。別に嫌味を言いにきたわけではありません。一つ提案がありまして」

 

「提案ですか?」

 

「ええ、私と金糸雀君のペアと貴女方二人とでレースをしてみませんか?」

 

「「ええっ⁉」」

 

 海の提案に炎仁と真帆は驚く。

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