疾れイグニース!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第12レース(1)ステラヴィオラVSステラネーロ

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「ふ~危ない、遅れるところだった……」

 

「お嬢が慌てていたぜ、天ノ川君はまだですの⁉ってな」

 

 嵐一が笑う。翔が唇を尖らせる。

 

「飛鳥ちゃんだって順番を勘違いしていた癖に」

 

「……負けちまったよ」

 

「二着は誇っていいことだよ」

 

「一着じゃなきゃ一緒だ」

 

「今回の交流レースは地方勢も例年以上に侮れないメンバーを送ってきているね」

 

「ああ、それより二着が続いているこの流れを変えること、期待していいんだな?」

 

「一着のイメージしか持っていないよ」

 

「はっ、頼もしい限りだぜ」

 

 嵐一は手を振って、その場を去る。

 

「あ、あの……」

 

「ん? 君は? 確かAクラスの……」

 

 女子が翔に声をかけてくる。

 

「はい、水田優香です……先日の模擬レース、大変感銘を受けました。今日は一緒に走れることを光栄に思います」

 

「AクラスがCクラスに感銘を受けるとはね……」

 

「す、すみません、変なことを言ってしまって……」

 

「いや、別に良いけど……ちゃんと勝つ気を持ってレースに臨んでよ? そんな相手に勝っても嬉しくもなんともないから」

 

「そ、それはもちろんです! 失礼しました!」

 

 水田がその場から離れる。翔はにこやかに手を振る。

 

「随分と余裕だな、兄貴……」

 

 天ノ川渡が声をかけてくる。

 

「渡、君の方から話しかけてくるとは意外だね。てっきり無視されるかと」

 

「ふん、はっきりと言っておこうと思ってな……」

 

「うん?」

 

「夏の伊豆でのマッチレースに続き、今日も俺が勝つ。そして俺が上に行く」

 

「堂々と勝利宣言ってわけか……いや~立派になったね~お兄ちゃん嬉しいよ~」

 

「! や、やめろ!」

 

 翔が頭を撫でようとするので渡が避ける。

 

「なんや知らんけど、兄弟でいちゃついているで、兄ちゃん?」

 

「レース前に……余裕の表れやろうなあ」

 

「誰?」

 

 翔たちの前に、二人のやや小柄な少年たちが現れる。

 

「誰とはご挨拶やなあ、天ノ川家の天才さんはご存知ないか」

 

「ほんなら自己紹介しとこうや、兄ちゃん?」

 

「ああ、僕は近畿競竜学校所属の和泉武蔵(いずみむさし)や」

 

「同じく、近畿競竜学校所属の和泉大和(いずみやまと)や」

 

「顔が似ているね~」

 

「そりゃあ俺らは双子やからな」

 

 翔の呟きに弟の大和が答える。

 

「双子? 僕らと同じだね」

 

「僕らは一卵性双生児やけどな」

 

 翔の言葉に今度は兄の武蔵が答える。

 

「双子のジョッキーって結構いるんだね」

 

「いや、そう多くはあらへんよ……」

 

「そう、だからこそ今日のレースで俺ら和泉ブラザーズの名を知らしめたんねん!」

 

「そっか~頑張って~」

 

「いや、エール送ってくれるんかい!」

 

「爽やかと取るか余裕の表れと取るか……」

 

「……単に深く考えてないだけだ。ちなみに……」

 

 渡が口を開く。武蔵が首を傾げる。

 

「ちなみに……?」

 

「俺はお前らのことなど眼中にない」

 

「んなっ⁉ 言うてくれるやんけ!」

 

 渡の言葉に大和が噛み付く。

 

「やめろや、大和」

 

「せやけど兄ちゃん! こいつ中央所属やからって調子乗っとんで!」

 

「冷静さを欠いた方が負けや……地方所属の意地はレースで見せたろうやないか」

 

「うむう……」

 

「ほな、ご挨拶はこの辺で。失礼します」

 

 武蔵が丁寧に頭を下げ、不満気な大和を引っ張るようにその場を去り、それぞれの、薄水色の竜体のドラゴンの元に近づいていく。その様子を見た渡が淡々と呟く。

 

「近畿地方では中堅どころの『和泉スタッド』で生産された、兄の和泉武蔵騎乗の『イズミソニック』、弟の和泉大和騎乗の『イズミライトニング』……血統的に見ると、短距離からマイル戦、つまり今日のレースが適正距離だな」

 

「なんだよ渡~全然知っているじゃん、彼らのこと」

 

「そっちが知らなすぎなんだ……まあいい、つまらんレースはしてくれるなよ」

 

 そう言って、渡もその場から立ち去る。仏坂が近寄ってくる。

 

「天ノ川君、最終確認しても良いかな?」

 

「あ、はい、どうぞ~」

 

「阪神1600mは外回りコースを使用する。直線が約474mと長く、勾配がキツい急坂があるのが特徴だ。差しや追込が決まりやすいが、ステラヴィオラは自在の脚質を体得しつつあるとはいえ、比較的前につけた方が良いと思うけど……まあ、君に任せるよ」

 

「え? 良いんですか?」

 

「人竜ともに自由にさせた方が一番良いだろうと思ってね」

 

「ははっ、僕の乗りこなし方、分かってきましたね。それじゃあ、行ってきます」

 

 翔がステラヴィオラに颯爽と跨り、本竜場に入場、他のドラゴンとともに順調にゲートインする。一瞬間を置いて、ゲートが開く。

 

「⁉」

 

 皆が驚く。ステラヴィオラがかなり出遅れたのである。視界にそれを捉えたステラネーロに騎乗する渡が内心舌打ちする。

 

(つまらないレースをするなと言ったのに……がっかりだぜ、兄貴)

 

「出遅れ⁉」

 

「つまずいたわけではなさそうですが……」

 

 スタンドで声を上げるレオンの横で海が呟く。

 

「いいや、天ノ川ならまだやれるはずだぜ!」

 

「ああ、青空の言う通りだ!」

 

 スタンドに上がってきた青空の叫びに炎仁は頷く。レース序盤、イズミソニックとイズミライトニングが忙しなく位置取りを変える。海が首を傾げる。

 

「イズミの二頭、前の方に位置するかと思いましたが、落ち着きがありませんね」

 

「かかっているわけでもなさそうだけど……」

 

 レオンも首を傾げる。青空が口を開く。

 

「比べて折り合いがついているのはAクラスの水田騎乗のキクラゲクォーターか」

 

「キヨラカウォーターな……確かに良い位置につけている」

 

 青空の言葉を訂正しながら炎仁はレースを見つめる。

 

(ちょろちょろ動き回りやがって、何を狙っている……む⁉)

 

 渡が気付く。いつの間にか内ラチ沿いに追い込まれていたからである。

 

「思ったより気付くのが遅かったな、眼中に無くて助かったで」

 

 ポジションを下げ、ステラネーロの左側にイズミソニックを並ばせた武蔵が笑う。渡が前方を見ると、キヨラカウォーターが前を塞ぐ形となっている。

 

「巧妙に集団をコントロールして、俺の包囲網を形成したか、案外やるな」

 

「褒めとる余裕あるんかい! そこからはよう抜け出せへんで!」

 

 イズミソニックの後方に位置するイズミライトニング騎乗の大和が叫ぶ。レースは早くも最終コーナーへと差し掛かる。阪神レース場のこの辺り急な下り坂となっており、各竜ともそれを利用して加速する。武蔵が呟く。

 

「お先に失礼させてもらうで」

 

 イズミソニックがイズミライトニングを連れ、先頭に抜ける。大和が声を上げる。

 

「ははっ、兄ちゃんの想定通りや! ワンツーフィニッシュと行こうか!」

 

「最後まで気を抜くなよ、大和!」

 

「しっかりしている兄貴で羨ましいな……」

 

「「⁉」」

 

 和泉兄弟が驚く。内側にステラネーロが並びかけてきたからである。

 

「そんな! 内側の竜場は荒れているから皆避けるはずやのに!」

 

「いや、今日は芝の外回りはこれが初めてのレース! そこまで荒れてへん!」

 

 大和の叫びに武蔵が冷静に答える。ステラネーロが二頭を交わし、先頭に立つ。

 

「もらった!」

 

「させへんで、大和!」

 

「おうよ!」

 

 イズミライトニングが更に加速して、ステラネーロを交わす。

 

「! 兄貴をアシスト役にして脚を溜めていたのか⁉」

 

「金を賭けるプロではよう取れん戦法やけどな! これも勝つための作戦や!」

 

「息の合った双子ならではだな! しかし!」

 

 ステラネーロがもう一伸びを見せ、イズミライトニングを交わす。

 

「なんやと⁉」

 

「二人で一人前な奴らに負けるわけにはいかねえだろう!」

 

「三人だったりして~♪」

 

「「⁉」」

 

 渡と大和が驚く。外側から翔とステラヴィオラが突っ込んできたからである。

 

「上がってきた! 差せ! 翔! ヴィオラ!」

 

 スタンドで炎仁が叫ぶ。

 

(あえて後方に下げてみて気付いたことがある。渡の努力、巧みな作戦を練る人たち、皆の勝負に懸ける気持ち……今までの自由奔放に振舞っていた僕だったら気が付かなかっただろうね……Cクラスで個性的な人たちと触れ合ったお陰かな)

 

「一着はステラヴィオラ! 関東勢、初勝利!」

 

「後方で僕ら兄弟をまんまと利用しおったか、天ノ川翔……悔しいが天才やな」

 

 武蔵が苦笑を浮かべる。

 

「出遅れもワザとか……なんつうレースを……ただ、それでこそ俺が憧れた兄貴だ」

 

 渡は悔しそうだが、どこか嬉しそうな声色で呟く。

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