疾れイグニース!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第12レース(3)コンペキノアクアVSマキシマムフレイム

「勝ちましたわ!」

 

「おめでとうございます」

 

 満面の笑みを浮かべ引きあげてきた飛鳥を真帆は迎え入れる。

 

「これでCクラスは2連勝、良い流れが出来ています! 紺碧さんも頑張って!」

 

「は、はい! ベストを尽くします!」

 

 真帆は飛鳥を見送る。

 

「気に入らんな……」

 

「え?」

 

 真帆が後ろを振り返ると、そこには自分よりも一回りほど小さい女の子が立っている。ややダボダボだが、勝負服を着ているということは、彼女もレースに出走するのであろう。青い瞳の女の子は真帆に向かってビシッと指を差してきた。

 

「紺碧真帆! このレースに勝つのはわらわじゃ!」

 

「は、はあ……」

 

「ふん、驚きの余り声もあるまい」

 

「ど、どちら様ですか?」

 

 真帆の質問に女の子はガクッとなる。

 

「し、知らんのか?」

 

「えっと……」

 

 真帆が頭を回転させて答えを探すが思いつかない。痺れを切らして女の子は叫ぶ。

 

「わらわは美麗(びれい)ローズマリー! 欧州のある高貴な国の血を引くものじゃ! 南関東競竜学校に所属しておる!」

 

「ええっ! ジョッキーの方ですか?」

 

「対戦相手のことも把握しておらんのか?」

 

「そ、そういえば見ましたが、子供の頃の顔写真とか載せちゃったのかなって……」

 

「子供⁉ わらわは17歳じゃ!」

 

「ええっ⁉ 年上⁉」

 

「そんなに驚くことか⁉」

 

「い、いえ、失礼しました……」

 

 真帆は頭を下げる。ローズマリーはふんぞり返る。

 

「ふん、分かれば良い……」

 

「そ、それで私のなにが気に入らないのでしょうか?」

 

「ヴォルフ!」

 

「はっ……」

 

 ローズマリーが指を鳴らすと長身男性がスッと姿を現す。真帆が困惑気味に頷く。

 

「あ、貴方は確か……」

 

「お初にお目に掛かります。ローズマリーお嬢様の執事を務めております、日辻(ひつじ)ヴォルフと申します。お嬢様と同じく、南関東競竜学校に所属しております」

 

 そう名乗ってヴォルフは真帆に向かって折り目正しく礼をする。

 

「は、はあ、はじめまして……」

 

「ご質問についてですが、お嬢様は幼少期より、様々な分野で輝かしい栄誉に浴してこられました……競竜でもトップに君臨したいとお考えです。そこに至るまでの道として、今日のレースは大事な大事な第一歩……ただ、注目が竜術競技からの転向組、紺碧真帆さん、貴女に集まってしまっていることに大層ご立腹なのです」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「だからといって出走するなというのは乱暴な話じゃ……よって正々堂々とそなたを倒してわらわがターフの『姫』となる!」

 

「……」

 

「はははっ! 驚いて声も出まい!」

 

「えっと、ターフは芝のことですよね、このレースはダートですが……」

 

「……」

 

「ですから、何度もご指摘申し上げましたのに……」

 

 ヴォルフが俯きながら呆れたように呟く。ローズマリーが首を振って声を上げる。

 

「と、とにかく、わらわはこのドラゴンレーシングで世界の頂点を極める! その序章として、今日、そなたを倒す!」

 

「気に入らんのお! ワレ!」

 

「む!」

 

 ローズマリーたちが振り返ると、火柱ほむらが腕を組んで立っている。

 

「この見るからに柄の悪い女は……」

 

「関西競竜学校所属の火柱ほむらさんです」

 

 首を傾げるローズマリーにヴォルフは耳打ちする。

 

「ワシも世界を目指しとる! そのサクセスストーリーのプロローグとして、この紺碧真帆を血祭りに上げるのはワシじゃ!」

 

「ち、血祭りって……」

 

「言葉のあやっちゅうやつじゃ!」

 

「そ、それは分かりますが……」

 

「面白いことを言う……そなたもまとめて倒してやろう、行くぞヴォルフ!」

 

「はっ……失礼します」

 

 ヴォルフが真帆たちに一礼し、ローズマリーに続いてその場を去る。

 

「けったいなやつらやで……まあ、それはええわ。夏に続いて勝ちはもらうで」

 

「! ま、負けません!」

 

「どないなレースになるか楽しみにしとるで」

 

 ほむらもその場を去る。仏坂が近寄ってくる。

 

「えっと……最終確認しても良いかい?」

 

「あ、はい、お願いします」

 

「ダート1200mは圧倒的に逃げ・先行が有利だ。皆が前に行きたがるだろう」

 

「スタートに気を付けて、良い位置を確保します……では、行ってきます」

 

 真帆がコンペキノアクアに騎乗し、本竜場に入場し、ゲートインする。各竜のゲートインが完了し、ゲートが開き、各竜が飛び出す。

 

「はっ!」

 

 スタンドでレオンが感嘆の声を上げる。

 

「あの3番の薔薇色のドラゴン、抜群のスタートを決めたね」

 

「南関東の美麗ローズマリーさん騎乗の『ウルワシノバラ』ですね……真帆さんもなかなか良い位置につけましたね」

 

 海が冷静に答える。

 

「関西の奴が乗っているあの赤いの……えっと、マキシマムフレイムだっけか? 随分と後方につけたな。天ノ川よ、どう見る?」

 

 青空がスタンドに戻ってきた翔に尋ねる。

 

「……それも気になるけど4番の濃い青色のドラゴン、不気味な感じだね」

 

「あれも南関東の奴か……日辻ヴォルフ騎乗の『ブラウエライター』だな」

 

 嵐一が出走表を確認する。レースは早いペースで動く。ウルワシノバラが内ラチ沿いを快調に飛ばす。真帆が内心驚く。

 

(あの自信は確かな実力からくるもの! 絶好のスタートから折り合いも良い! このままだと逃げられてしまう! もう少し位置取りを押し上げないと……!)

 

「……させません」

 

 ヴォルフとブラウエライターが真帆とコンペキノアクアの左斜め前につける。

 

(嫌らしいところに……! ならば少し抑えて外に……!)

 

 真帆は外側、斜め左後方に目をやって驚く。竜群がひしめいていたからである。

 

(このまま内側を進んでも正面はお嬢様が塞いでいます……斜め前は私がブロックしていますので持ち出せません……コンペキノアクア、チェックメイトです)

 

(くっ……自分の位置取りばかり考えてしまって、周囲を確認しきれていなかった! 私もまだまだね……でも、諦めたくない!)

 

 真帆は周囲の様子を伺う。控室のモニターで見る炎仁は険しい顔で呟く。

 

「真帆はまだ諦めていない……しかし、状況は厳しいな……」

 

(なにか……局面が打開されれば……)

 

「よっしゃ! いてもうたれ! フレイム!」

 

「⁉」

 

 叫び声がしたかと思うと、竜群が左右にばらけて、その中央を赤いドラゴンが突き進んでくる。ほむらとマキシマムフレイムである。ヴォルフは驚く。

 

(そんな馬鹿な、プレッシャーに圧されて、竜群が……⁉ しかし、人竜ともになんという威圧感! 一体、どんな修羅場を潜り抜けてきたのだ⁉)

 

「ふん! このまま、前のお嬢様を捉えるで!」

 

「そうはさせません!」

 

 ヴォルフがブラウエライターの竜体をマキシマムフレイムに併せに行く。

 

「ほう! ワシにビビらんとは! 羊かと思って見くびってたわ!」

 

「執事です……そして今、このレースでは姫を守る『青い騎士』!」

 

「かっこええやんけ! ただ、甘やかし過ぎも考えもんやで!」

 

「ぬおっ⁉」

 

 マキシマムフレイムが加速し、ブラウエノライターを一気に振り切る。

 

「こいつは競り合った方がより熱く燃えるんや!」

 

 ほむらは外側を走るマキシマムフレイムを内側のウルワシノバラの方に迫らせる。ローズマリーが驚く。

 

「くっ⁉ なんという脚色!」

 

「もろたで!」

 

「今よ!」

 

「「⁉」」

 

 真帆がコンペキノアクアを羽ばたかせ、内からマキシマムフレイムの外側に着地させる。ローズマリーとほむらが揃って驚く。

 

「こ、ここでジャンプを決めるとは!」

 

「ワシが外側から迫られるのはなんとも新鮮やな!」

 

「タイミングばっちりよ! 良い子ね、アクア!」

 

 三頭が横一線になる。炎仁が叫ぶ。

 

「よし! 行け! 真帆! アクア!」

 

(正直、衝動的に決めてしまった競竜への転向だけど……後悔だけはしたくない! 決断が間違いでなかったことを証明したい! Cクラスの皆からは沢山刺激を受けた……私も負けずに上を目指したい! その為にもこのレースを勝ちたい!)

 

「お願い、アクア!」

 

 真帆が懸命に鞭を入れながら叫ぶ。その結果……。

 

「コンペキノアクアが一着! 関東勢これで三連勝!」

 

「わ、わらわが負けた……?」

 

「ワシが競り負けるとは……紺碧真帆、やっぱり大した奴やな」

 

「ありがとう……アクア!」

 

 真帆は勝利の余韻に浸るよりもまずコンペキノアクアを心から労うのであった。

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