疾れイグニース!   作:阿弥陀乃トンマージ

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第3レース(3)対策会議

「なにをそんなに驚く?」

 

 環太郎が首を傾げる。

 

「い、いや、重賞挑戦ですか?」

 

「オープン競走も勝ったんだ、自然な流れだろうが」

 

 環太郎が環の問いに答える。

 

「そ、それはそうですけど……」

 

 環が顎に手を当てる。

 

「なにか気になることでもあんのか?」

 

「……鞍上は?」

 

「小僧で良いだろう」

 

「それは問題が……!」

 

「なんだよ?」

 

「新人ジョッキーには重賞での騎乗条件というものが……」

 

「それなら例外があんだろ」

 

「え?」

 

「え?じゃねえよ、競竜学校からコンビを組んでいるドラゴンとなら、一年目からでも、勝利数が足りなくても、重賞やGⅠに出れるって特別ルールだよ」

 

「ああ……」

 

 環が思い出して頷く。

 

「分かっただろう?」

 

「ええ……」

 

「それじゃあ、グレンノイグニース号の次走は7月第三週の函館2歳ステークレースだ」

 

「はい……」

 

「小僧もそのつもりで準備しておけよ」

 

「は、はい……」

 

 炎仁が戸惑い気味に頷く。

 

「なんだ、気合が足りねえなあ?」

 

「と、突然のことで驚いてしまって……」

 

「別に他の乗り役に替えても良いんだぞ?」

 

「い、いえ! それは……」

 

「じゃあ、ビッとしろ!」

 

「は、はい!」

 

「勝ちにいくぞ!」

 

「はい!」

 

「話は終わりだ、俺はもう上がるからよ……ご苦労さん」

 

 環太郎が部屋を出ていく。炎仁と環が目を見合わせる。

 

「ど、どうしましょうか?」

 

「決まったのなら仕方がありません。急ではありますが、調教スケジュールを組み直します。紅蓮さんも函館遠征の準備をしておいてください」

 

「も、元々帯同させてもらうつもりでしたけど……」

 

「心構えとしての意味です。グレンノイグニースの騎手として」

 

「! わ、分かりました」

 

 それから数週間後、函館の宿舎の一室で、黒駆厩舎が会議を行っていた。

 

「いよいよ、グレンノイグニース号にとって初の重賞となる函館2歳ステークレースが近づいてきました……」

 

「前置きはいい、話を始めろ」

 

 環太郎の言葉を聞いて、環は一つ咳払いをする。

 

「おほん……6戦5勝という成績から見て、グレンノイグニースが一番人気に推されるということは確実です」

 

「へへっ、我が厩舎からは久々だな、重賞で一番人気っていうのも……」

 

 環太郎が腕を組みながらどこか嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「当然ですが、他竜からマークされることになります」

 

「マーク……」

 

 炎仁が呟く。環太郎が出竜表を眺めながら告げる。

 

「複数頭出している陣営はいねえ、露骨なブロックはねえから安心しろ」

 

「は、はあ……」

 

「もっとも……重賞ともなると、一流どころのジョッキーたちが出てくる。奴らは阿吽の呼吸で封じ込めに来るかもしれねえな。そうなってくると、ペーペーのお前さんじゃあ、まず対処出来ねえな」

 

「はあ……」

 

 炎仁が顎に手を当てる。

 

「先生、いたずらに不安を煽るようなことを言わないで下さい」

 

 環が環太郎を注意する。

 

「俺はあくまでも可能性を伝えているまでだ。レースっていうのは、最後まで何が起こるかわからねえもんだからな」

 

「それはそうですが……」

 

「だが安心しろ」

 

「え?」

 

 炎仁が環太郎に視線を向ける。

 

「グレンノイグニースが本領を発揮すれば、このレベルでもまず後れは取らねえ……」

 

「そ、そうですか?」

 

「ああ、俺の勘がそう告げている」

 

「か、勘ですか……」

 

「長年の経験からくるものだ、馬鹿には出来ねえぞ」

 

「はあ……」

 

 環太郎の話に炎仁は困惑する。環がもう一度咳払いをする。

 

「おほん……レースは勘だけではどうにもなりませんので、コースと有力竜の確認をします。よろしいでしょうか?」

 

「は、はい、お願いします!」

 

「はい、まずコースですが、函館の芝1200m、スタート位置は向こう正面のポケットからで、そこから第3、第4コーナーまでの800mが上り坂、残りの400mが下りとなっています」

 

「はい」

 

「直線が短いため、先行有利です。本来ならば……」

 

「本来ならば?」

 

「函館レース場と札幌レース場は寒地に適した西洋芝を用いている……」

 

 環太郎が口を開く。

 

「いわゆる洋芝ですね」

 

「そうだ、それにより開催時期が進むと、竜場は重くなる。そうなると……」

 

「そうなると?」

 

「函館開催の最終週に行われるこのレースは差しが決まりやすくなります。後方からでも十分勝負になるということです」

 

「そういうことだ」

 

「なるほど……」

 

「続いて注意すべき有力竜です。まずは『ホロウスター』、逃げ竜ですね。2戦2勝、2勝とも逃げを決めて勝っています」

 

「このレベルだと、ドラゴン同士の実力差というのもあるからな。ただ重賞ともなれば、そう易々と逃げられねえだろう」

 

 環太郎が顎をさすりながら呟く。

 

「もう一頭、『ツヨキモモタロウ』、先行竜です。先々週デビューしましたが、同じコース、距離のレースを楽々と勝ちました。調教の具合を見ると、疲れもないようです」

 

「なかなか良いレース内容だった。2戦目だが、侮れねえな」

 

「最後にもう一頭、『パワードアックス』、差し竜です。グレンノイグニース同様、春先のデビュー、4戦3勝、新竜戦こそ敗れましたが、その後は順調に勝っています」

 

「名前の通り、2歳竜にしては力強い走りを見せるな……」

 

「……以上が注意すべき有力竜です。先生……」

 

「そいつらが注意するのがグレンノイグニースなわけだが……取るべき策は……だ」

 

「「ええっ⁉」」

 

 環太郎の言葉に炎仁と環が驚く。

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