Yu-Gi-Oh!! AVA-TARO   作:邪道キ

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『Don't Boo!ドンブラザーズ』を聞いて衝動的に書きました。

聞きながら読むと良いかも?


AVA-TARO

────TURN 0:DECK SET────

 

 15年前。空が薄明るく、地平の彼方からお天道様が顔を出し始めた時分。一人の男が川沿いの堤防を走っていた。早過ぎず遅すぎず、一定の速度を保ちながら湿ったアスファルトを駆けていく。昨夜降った雨が蒸発しているのだろう、湿度で籠った熱が男の体力を奪い、頬を汗が伝うが構わず走った。

 

 この付近に住んでもう数年。最近何処かの企業がこの街に本社を建てると工事が始めたが、それでも男はジョギングの日課を欠かさなかった。別に健康志向が高かったわけではないし、そもそも始めたのもこの街に越してきてからだ。だが朝誰もいない静かな川沿いに流れる小波が個人的に心地よかった、ただそれだけで始めたものが男にとって何気なく良いものだった。

 

 川を挟む河川敷を渡す橋に差し掛かり、スピードを落とす。ここで呼吸を整え、家に向かって引き返していくのが普段のルートだ。偶に気分で橋を渡るなり橋の先へ向かうなりしているが、今日は何分じめったく暑い。仕事に響いては問題だろう、足を止めタオルを出した、その時だった。

 

 声が聞こえた。甲高い、叫ぶような声。背に走る悪寒に辺りを見渡すが、それらしい影は見当たらない。だが声は確かに、だが確実に大きくなっていた。誰か泣いているのか、堤防を下る階段を降りながら目を皿にして探す男。やがて彼の眼は珍妙なものを捉えた。

 

「何だ、ありゃ?」

 

 目に映ったのは、桃。いや桃というのは紅すぎるし大きすぎる。だがその形状、水の中から出たり入ったりしている緑色のパーツは男に昔話の桃を連想させた。

 どんぶらこ~とモモもどきは川を流れ、やがて流木に引っかかり停止する。何故こんなものが、その疑問がわくよりも前に男は直感する。モモもどきの中から先ほどから聞こえてくる声が響いている。あの中に誰かいる。

 

 堤防を降り、川に踏み込む。大気の暑さの割に冷たい水に背がふるえるが、男は構うことなくモモもどきを引き寄せた。大の大人が両手で抱え込むにはちょっと大きいソレを河岸まで持っていき、地上へ何とか持ち上げると、突然モモもどきが動き出した。

 モーターの駆動音と共に、モモもどきが割れる。隙間から冷気が漏れ、内部構造がポップアップする。声の主はせり上がった台座の上で、顔をくしゃくしゃに歪めて只々泣きわめいていた。

 

「嘘だろ!?」

 

 毛布にくるまれた小さい体は血色良く、頭髪は今だ薄い。

 赤ん坊を抱え、男──桃井仁は戸惑いを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 15年後。Den City。

 高度なネットワーク技術を持つ大企業「SOLテクノロジー」の城下町として栄える街。

 そこに住む人々は、SOLテクノロジーが開発したトレーディングカードゲーム「デュエルモンスターズ」用VR(仮想現実)デュエルスペース──『LINK VRAINS』での新しいゲーム体験に熱狂していた。

 そして今年、ネットワークという広大で閉ざされし世界を切り裂く、文字通り”新風”が吹き込む。

 

 スピードデュエル。嘗てLINK VRAINSに存在していたとされる新感覚デュエル。仮想現実内に吹き荒れる電子の風「データストーム」が作り上げる波を専用ボード「Dボード」で滑走しながら、通常のデュエルより少ない盤面、デッキ、手札でデュエルするレギュレーションは、様々な召喚法や多種多様なカードカテゴリが発展し、環境のインフレーションが進み飽和しつつあったデュエルモンスターズに新たなる自由と爽快感を齎した。

 

 未だかつて誰も見たことのない世界の扉、今日もまたその扉を開き、一歩先へ踏み出そうとしている者がいた。

 

「みんな~!行っちゃうよ~!」

 

 青いツインテールに白い翼、ノースリーブのトップスにミニスカートを纏った少女のアバター。四葉のクローバーをペイントした頬からこぼれる笑顔は多くの人を魅了するLINK VRAINSのアイドル──ブルーエンジェルが今、自身の僕に命ずる。

 

「さぁ覚悟なさい、これでフィナーレよ!《トリックスター・ホーリーエンジェル》でダイレクトアタック!」

 

 金髪のブロンドヘアー靡く、聖なる天使の鞭がうなる。先端の棘がデュエリストを打ち据え、データストームの彼方に飛ばしていった。

 

MAN:0 <LOSE>

 

 デュエル決着。アイドルの勝利に観客たちが湧きたつ。可憐なる少女が操る、これまた可憐なモンスターたちが織り成す甘く刺激的なコンボの数々。これこそブルーエンジェルの魅力であり、“カリスマ”と評される所以。多くのデュエリストを惹き付ける要因であった。

 一デュエルを終え、ファンの声援に応えるブルーエンジェル。

 

「ハイ終了!みんな!次のライブまでいい子にしているんだぞ。じゃあね~」

 

 バイバ~イ!とカメラ目線で手を振る。これで映像が終了し人々は日常へ戻っていく、はずだった。

 

 

 

 

 

 

 爆音、突如としてスピーカーから響いた大きな音に観客は目を剥いた。先までブルーエンジェルが映っていた映像にノイズが走り、煙幕のヴェールで包み込まれる。程なくしてデータストームに払われたその正体は、壁に埋まった無数のデュエリストだった。

 

MAN1:0 <LOSE>

MAN2:0 <LOSE>

WOMAN:0 <LOSE>

 

「…何!?」

 

 過度なダメージによる強制ログアウトの間に映し出されたライフから、どうもデュエルに負けたらしい。だが幾らダイレクトアタックでもここまでアバターを、一度に三人も吹き飛ばす腕も柄など聞いたことがなかった。ブルーエンジェルは思案する、これを引き起こしたのは自身と同じ“カリスマ”と形容される男か、それともLINK VRAINSの英雄と名を挙げた彼か──。

 

「まさか…Go鬼塚?それともPlaymaker──」

「ハーッハッハッハッハッハッハ!ワーッハッハッハッハッハッハ!」

 

 電脳世界を揺らす、高笑いが響く。何だ誰だと見渡しても、声の主はいずこやら。モニタリングカメラは今だブルーエンジェルを映し、肝心の周囲を映さない。

 しかし観客が苛立つ中、青い天使は気づいていた。デュエリストが吹き飛んできた先、灰色のビル群の一つ飛び出た建物の頂上に、ひょっこり飛び出た人影があることを。

 

「あなた、誰?」

 

 彼女の指摘にようやく動いたカメラは、逆光に照らされた影を映し撮る。

 片わなに結わえた立派な髷、ぴっしりと揃った着物と袴、その上から羽織った陣羽織と腰に刺した一振りの刀は、タイムスリップでもした侍のよう。何より目を引くのは、今挙げた特徴全て、しつこいほどの赤で揃えた赤備えだということ。

 男のアバターは壁にめり込んだプレイヤーたちを眺めながら、優雅に白い扇子を仰ぐ。だがブルーエンジェルの声が聞こえたのか、揺れる手首をはたと止める。そしてこちらを流し見ると、扇子を閉じて彼女を指さした。

 

「俺の名を問うたな?これでお前とも縁が出来た!」

「は?」

 

 突然の宣告に、可愛らしくも間の抜けた声が漏れてしまった。慌てて口を抑える仕草に、画面越しのファンはときめきを隠せない。だが男は彼女を気にも留めないのか、大空向かって声を張り上げた。

 

「袖振り合うも他生の縁、躓く石も縁の端くれ!共に踊れば繋がる縁!この世は楽園!!悩みなんざ吹っ飛ばせ!!」

 

 笑え笑えーッ!と両手を仰ぎながら男は再び大笑いする。その様子に、ブルーエンジェルは戸惑わざるを得なかった。

 

「何コイツ…」

 

 今人々の心がデュエル以上に一体となっていた。良い意味かは推して知るべし。

 未だ笑い声を上げ続ける男に呆気にとられるブルーエンジェルだが、ふと我に返ると負けじと大声で叫んだ。

 

「ちょっとあなた!いきなり人を吹っ飛ばしておいて、危ないじゃない!」

「安心しろ、俺との縁は、超良縁だ!」

「何処がよ!こっちは当たりそうだったのよ?」

「この世は無数の縁が絡み合い、結び合い、奇跡が生まれる!お前の無傷もその証拠!俺とのまだ見ぬ縁が、お前を守ったのさ!」

「なわけないでしょ!?」

 

 これでは話にならない、ブルーエンジェルはDボードを操って男の元まで浮上すると、ピシッと指を刺した。

 

「デュエルよ、この暴れん坊!みんなの笑顔を奪う奴は、私が許さないわ!」

 

 天使の宣告にLINK VRAINS内外問わず熱気が沸き上がる。訳が分からないが、どうやらブルーエンジェルのデュエルがもう一回見られるらしい。四方から聞こえる声援に包まれ、アウェイな男は頬を限界まで釣り上げた。

 

「…勝負するのか?面白れぇ!そいつらじゃ物足りなかったんだ!」

 

 男は扇子を放り投げると、背後にあったバイクにまたがる。男同様真紅のボディに鳥のヘッドライトをあしらった粋なバイク、男はハンドル中央のコンソールに左腕のデバイスを叩きつけた。

 

「行くぜェ“エンヤライドン”ッ!」

『SPEED DUEL MODE ON. AUTO PILOT.』

 

 コンソールの窪みにはまったデュエルディスクが腕から外れ、反転して小さなプレートを投影する。無機質なボードにうっすらと浮かぶ三つのカードゾーン、スピードデュエル用のものだ。腕に残ったデッキホルダーを横に回し、ハンドルを握ると、エンヤライドンはエンジンを震わせて空へ急発進した。

 長い巨体がデータストームに着風、データの飛沫を八方飛ばす。大波にあおられブルーエンジェルがボードから落ちかけるが、男は気にすることなくデータストームの上を走り出した。

 

「退け退けぇ!ドンモモタロウ様のお通りだァ!!!」

「あのバイクが、Dボードなの!?何て目立ちたがり…!」

 

 体勢を立て直し、DボードもといDサイクルと思しき乗り物に追随する。そして両者並び立った時、デッキからカードを四枚引き抜き、開戦の音頭を取った。

 

「「スピード、デュエル!!!」」

 

DON-MOMOTARO:4000

BLUE ANGEL:4000

 

「俺のターン!魔法カード《古のルール》発動!手札からレベル5以上の通常モンスター1体を、特殊召喚!」

 

 先行、ドンモモタロウは手札から一枚のカードをディスクに叩きつける。フィールドに現れたのは読解不能な文字が書かれた1枚の古紙。だが記述されるは古代エジプトから齎されし召喚呪文。これ一つで黒き最上級魔術師も純白の巨竜も呼び出せる過去からの贈り物。

 データストームに乗り、舞い上がる呪文が輝きだす。そして紙を裂いて現れたのは、額に桃を掲げた、英雄ヒーローたちの首領ドン

 

「聞けェい!桃から生まれたァ、《A・HEROアバター・ヒーロー ドンモモタロウ》!」

 

A・HEROアバター・ヒーロー ドンモモタロウ》ATK:2500 DEF:2000

 

 スポーツサングラスを模した得物、ザングラソードを担いだ七つ星レベル7モンスター、ドンモモタロウがブルーエンジェルに片足上げて大見えを切る。アカウント名と同じ名前のモンスター、彼女は直感する、これこそこの男の切り札エースモンスターだと。

 舞い散る呪文書の紙吹雪の中、エンヤライドンは加速する。データストームを駆けだし、車体を大きく風の中に投げだしていった。

 

「さァ楽しもうぜ、勝負勝負ゥ!」

 

 ──こと~しことし、LINK VRAINSに一人の暴太郎が舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そしてブルーエンジェルわたしは、この灰色の空が眩いくらいに色付いていくことを、まだ知らなかった。

────TURN 0:END────




「楽しかったぜ!またな~!」

「覚えてなさ~い!ドンモモタロウ──!」

「一つ、お前は目立ちすぎる。二つ、お前は部外者だ。三つ、これは個人的なことだが…俺はお前が嫌いだ──」




続きは…未定ッ!
というのも衝動的に書いたので続きを全く考えていません。どうしようか…。
コメントお待ちしております。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=278121&uid=358201
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