Yu-Gi-Oh!! AVA-TARO   作:邪道キ

2 / 6
デュエル描写難しい…

第2話、ドンブラ最新話を糧に出来ました。

反省
・デュエル描写分かりづらい
・ステータスこまめに出し過ぎ?

9/17 一部カード効果を変更しました。


Chapter1 ハノイの騎士編
あおとあか


────TURN 1:DRAW────

 

 

 LINK VRAINS。それはデュエルモンスターズの新たな境地を開く、もう一つの現実。

 

 しかし突如として現れた謎のハッカー集団「ハノイの騎士」により人々の自由が脅かされていた。混沌とするネットワーク世界に現れたのは、四人のデュエリスト。

 

 突如LINK VRAINSに現れた、ハノイの騎士を狩る謎の男・Playmakerプレイメーカー

 父との誓いの為、ネットワーク世界に混乱をもたらさんとするハノイの騎士・リボルバー。

 子供たちの笑顔の為、決闘のリングで剛腕振るうデュエリスト・Go鬼塚。

 愛する家族の為、華麗に羽ばたく麗らかなるアイドル・ブルーエンジェル。

 

 そして今年、一人の暴太郎あばたろうが舞い降りた。

 

「ん?…今俺を呼んだな?これでお前とも縁が出来た!」

 

 

────TURN 1:STANDBY────

 

 耳に刺さる、音が。

 頭に直接響く振動に眉を顰める。夢見心地の体が覚醒をはじめ、全身に感覚が通っていく。布団から伸ばした腕が音のする方をまさぐり、中指に当たった音源を引き寄せた。

 目覚ましを切り、未だ細い瞼から時間を確認する。毛布を剥ぎベッドから起き上がると、部屋の外から腹の内側をくすぐる匂いがしてきた。

 部屋を出てリビングへ、匂いのする方へ向かうと、女性的な外観の家事用ロボットがお椀を運んでいた。ロングスカートを思わせる脚部に内蔵されたホイールを駆動させ台所と食卓をせわしなく行ったり来たり。だが人感センサーでこちらに気づいたのか、一度静止して頭部をこちらに向けた。

 

「おはようございます、葵ちゃん」

「おはよう…」

 

 機械で合成された女性の声に、少し気だるげに答える。既に食卓にはご飯、おかず、サラダが並べられており、味噌汁が湯気を上げている。だが葵の視線は自席の向かい側、空席を見つめていた。

 

「お兄様は…いつも通り?」

「はい、帰宅されておりません」

 

 淡々とした返答にそう、と視線を落とす。だがすぐ顔を上げて席に着いた。このリビングの異様な広さも、先から流れるTVも、一人の朝食も、いつもの事だ。

 

『いや~先週のデュエルは素晴らしかったですね~!プレイメーカー対Go鬼塚!』

『互いのエースがぶつかり合った瞬間なんて、私思わずうお~って叫んじゃいましたよ!』

 

 Den Cityのローカル番組のコメンテーターが両腕を上げ興奮を表した。近くのモニターにはプロレスラー然とした大男と緑と黒のタイツじみた服を着た青年がスピードデュエルをしているVTRが写されている。

 大男──Go鬼塚の操る《剛鬼 ザ・グレート・オーガ》が大斧を振り上げ、青年──プレイメーカーの操る《デコード・トーカー》の剣が激しく鍔ぜり合う。召喚の連続、効果の応酬、果たしてその末にリングに立っていたのは、プレイメーカーだった。

 カリスマと評される男とLINK VRAINSを襲うハッカーと闘った英雄の世紀のデュエル。数日経過してもなお冷めやらぬ興奮を語るコメンテーターに既視感を感じた所で、ですがと司会が話題を切り替えようとした。

 

『同じくらいホットなデュエルが昨日繰り広げられましたよね?』

『えぇ、その通りです!今日の話題は昨日突如LINK VRAINSに現れたニューヒーロー、ドンモモタロウ!』

 

 ふいに箸が停まる。TVを見ると先ほどとは別のVTRに一人の男が映っている。髪を束ねて作った丁髷、赤一色でそろえられた袴と陣羽織、腰に刀を差した姿は時代劇の侍を思わせるが、彼が跨っているのは馬ではなく派手なバイク。見た目だけでも大分主張が渋滞しているが、何処か腑に落ちる妙な説得力があった。

 先ほどまで興奮気味に語っていたコメンテーターだが興奮そのまま、否更に気分が上がっているのか早口でペラペラ語りだす。

 

『全身赤備えの装束に、世界で初めて確認された“Dサイクル”使い!派手な立ち回りと見たことのないモンスターを操り、カリスマデュエリストのブルーエンジェルを倒すほどの実力の保持者!いやはやカッコいい!見ているだけでもう楽しい────』

 

 思わず腕を振った。センサが反応しTVが切れ、リビングに静寂が戻る。同時にこみ上げてきたものを押し戻すように朝食を全て流し込むと、葵は席を立った。

 

「もう行くわ」

「行ってらっしゃい」

 

 片づけを始めたロボットに目もくれず、足早に部屋へ戻る。扉を閉め、未だ収まらないむかむかに思わず息を吐いた。 

 寝間着を脱ぎ、制服を取り出した財前葵は、昨日の出来事────ブルーエンジェル自身対ドンモモタロウとのデュエルを思い返していた。

 

 

────TURN 1:MAIN────

 

 

DON-MOMOTARO:4000

 手札:2 場:《A・HERO ドンモモタロウ》

 

BLUE ANGEL:4000

 手札:4 場:なし

 

 灰色の空、味気の無い高層建築物のグラフィック。データストームが吹き付けるビル街にソレは鮮やかに写った。

 黒いボディに真紅の法被を着こみ、半ばに切れ込みの入った刀を軽妙に振り回す。歯車をあしらった丁髷を付け、吊り上がったサングラスから覗かれる眼孔は、不思議とエネルギッシュで信頼感を持たせる。まるで子供のころ男の子が憧れそうなTVのヒーローのよう、ブルーエンジェルは呼び出されたモンスターにそんな印象を持った。

 

「アカウントと同じ名前…それがあなたのエースってわけ?」

「その通り!さァ行くぜ!流れて来い、縁を結ぶサーキッド!」

 

 ドンモモタロウ──ドンが手を掲げ、全員の視線が天に向く。デュエルモンスターズ最新にして最速の召喚法、《リンク召喚》へ導くリンクサーキッドが出現する…はずなのだが、一向に現れない。従来サーキッドは上空、或いはデュエリストの進行方向に現れると相場は決まっている。システムの不具合か?観客がどよめきだした時だった。

 Dボードが揺れた。何かがぶつかったのだろうかとブルーエンジェルが振り返ると、紙のように薄い板状の何かが先を急ぐようにボードに迫っている。少し横に逸れると全容が露わになる。

 正方形の青いフレームに八つの矢印が付いた、ブルーエンジェルが日頃デュエルで見るものがあった。

 

「──え、ホントに来た!?」

 

 どんぶらこ~どんぶらこ~。宣言通り“流れて来た”リンクサーキッドはブルーエンジェルを追い越して、ドンの下へ流れつく。ドンはハンドルを放さずにサーキッドを踵で蹴り上げ、空へ叩きつけた。

 

「アローヘッド確認、召喚条件は“《HERO》通常モンスター1体”!俺はドンモモタロウをリンクマーカーにセット!サーキッドコンバイン!」

 

 ドンモモタロウが呼び声に応えサーキッドに飛び込む。一条の赤い光は一番下の辺の、中点に当たるリンクマーカーに突き刺さり、フレームに仕込まれた回路を青く浮かび上がらせた。

 

「リンク召喚!来ォいリンク1、《a・HEROアルター・ヒーロー ドンモモタロウ》!」

 

 光溢れる扉から現れるは、機械仕掛けの真紅の桃。だが頭頂部がバックリ割れて、中に隠された腕が展開される。葉を思わせる緑色の足で波を踏みしめ、背に携えた大剣を引き抜く。A・HEROが陽気な若侍なら、a・HEROは重厚で武骨な機械武者の様相だった。

 

a・HEROアルター・ヒーロー ドンモモタロウ》ATK:250 LINK:1(↓)

 

a・HEアルター・ヒー…ロー…?」

 

 新たなるヒーローの誕生、だがブルーエンジェルの声はどんどん落ちていく。理由はa・HEROの位置。従来リンクモンスターは両陣営の間に一プレイヤーにつき一つ、合計二か所設営された「EXモンスターゾーン」に召喚される。だが肝心のアルター・ヒーローの姿が見当たらない、否、いた。どこにもいないように見えるほどに──。

 

「──小っちゃ!」

 

 そう、小さいのだ。モンスターゾーンに比べ豆粒と違うほどに。恐らく手の平に乗っかるぐらいしかないだろう、いきなりのリンク召喚にも驚いたがエースを素材に呼び出した割にこの大きさ、余りのギャップに思わず声が出た。

 

「こいつを舐めるなよ!俺はカードを一枚セット!これでターンエンドだ!」

 

 魔法・罠ゾーンにカードが出現し、エンドフェイズ。先行はドローとバトルが出来ない為これでターン終了となった。

 

「私のターン!ドロー!」

 

 後攻、ブルーエンジェルが腕に現れたリングから排出されたカードをドローする。手札は五枚、彼方は手札、モンスター、伏せカードそれぞれ一枚ずつ。アルター・ヒーローは攻撃力は低いが、どんな効果を持っているか分からない。ブルーエンジェルは手札を映し出し、その一枚に手を掛けた。

 

「手札からフィールド魔法《トリックスター・ライトステージ》を発動!デッキから『トリックスター』モンスター1体を手札に加える。《トリックスター・リリーベル》の効果!このカードがドロー以外の方法で手札に加わった時、手札から特殊召喚できる!」

 

《トリックスター・リリーベル》ATK:800 DEF:2000

 

 ステージの開演を告げる鈴蘭の少女、トリックスター・リリーベルが天を舞う。だがトリックスターの舞台を飾るには、まだ役者が足りない。

 

「更に私は《トリックスター・キャンディナ》を通常召喚!キャンディナの効果、自身を召喚した時、デッキから『トリックスター』モンスター1体を手札に加える。更に更に!手札の《トリックスター・マンジュシカ》の効果で、自身を特殊召喚し、キャンディナを手札に戻す。魔法カード《トリックスター・ハルシネイション》を発動!手札の『トリックスター』モンスターを効果を無効にして、攻撃力を半分にして特殊召喚!カムバーック、キャンディナ!」

 

《トリックスター・マンジュシカ》ATK:1600 DEF:1200

《トリックスター・キャンディナ》ATK:1800→900 DEF:400

 

 リリーベル、マンジュシカ、そして戻って来たキャンディナ。トリックスターを代表する三人娘の登場だ。ここからブルーエンジェルの得意とするコンボが、ドンに襲い掛かる。

 

「そしてハルシネイションの効果で互いに1枚ドローする!」

「お、いいのか?じャあ遠慮なく!」

「ええ、この瞬間マンジュシカの効果!相手の手札にカードが1枚加わるたびに200ダメージ与える!」

「うおォ!?」

 

 マンジュシカの持つ細剣からエネルギーが放たれる。電撃にも似たそれはエンヤライドンのフロントシールドを突き抜けて、ドンに直撃した。

 

DON-MOMOTARO:4000→3800

 

「更にライトステージの効果!『トリックスター』モンスターが戦闘・効果で相手にダメージを与えた時200ダメージを与える!」

 

DON-MOMOTARO:3800→3600

 

 今度は緑色の雷撃がドンモモタロウを痺れさせる。“相手の手札にカードが1枚加わるたび”に合計400のダメージを受けるコンボ、ただデッキからカードをドローするだけでじりじりと相手を削っていく事実にドンはニヤつく頬を抑えた。

 

「ほォ~、こりャヤバいな」

「そんなので済ませていいのかしら?出てきて、夢と希望のサーキット!」

 

 ウインクしたブルーエンジェルの頭上に現れたのは先ほど流れて来たものと同じサーキッド。ブルーエンジェルはトリックスターたちと共にその中へ飛び込んでいった。

 

「アローヘッド確認、召喚条件は“『トリックスター』モンスター2体”!私はリリーベルとキャンディナをリンクマーカーにセット、サーキッドコンバイン!」

 

 リリーベルとキャンディナがサーキッド下部の頂点2ヶ所に突き刺さる。輝くゲートから出現するのは青いドレスを纏った、トリックスターの切り札。

 

「リンク召喚!現れてリンク2、《トリックスター・ホーリーエンジェル》!」

 

《トリックスター・ホーリーエンジェル》ATK:2000 LINK:2(↙,↘)

 

 ブルーエンジェルのエースモンスターの登場に観客から歓声が沸く。彼女の勝利には常に彼女が隣にいた、正に勝利の天使、先もデュエリストを打ち据えた鞭を片手に華麗に天を舞っている。

 

「カードを2枚伏せて、バトル!ホーリーエンジェルでa・HERO ドンモモタロウを攻撃!」

 

 ホーリーエンジェルが鞭を振り上げ、小さな標的に振り下ろそうとする。このまま行けばアルター・ヒーローは破壊され、1750Pの戦闘ダメージが通るが、そううまくいかないのがデュエルの常。

 

「リバースカードオープン!罠カード《ヒーロー見参》!相手の攻撃宣言時に、俺の手札一枚を相手がランダムで選択、それがモンスターなら俺のフィールドに特殊召喚する!違う場合は墓地に送る。さァ選べ!」

「…なら、右のカードよ!」

 

 伏せられていたカードが起き上がり、力を解放する。ブルーエンジェルの選択したカードは──。

 

「右は…ラッキー!《A・HERO イヌブラザー》を特殊召喚!」

 

 現れたのは犬。黒い体にゆるキャラのような三頭身、しかしドンモモタロウと同じく吊り上がったサングラス上のゴーグルが凛々しさを感じさせる御供が現れた。

 

《A・HERO イヌブラザー》ATK:500 DEF:1600

 

 バトルフェイズ中に相手モンスターが増えたため、ホーリーエンジェルはもう一度攻撃対象を選び直さなければならない。勿論アルター・ヒーローを選ぶことも可能だが、新たに表れたイヌブラザーも能力は未知数。

 

「ホーリーエンジェル、構うことはないわ!バイバイ、アルター・ヒーローさん!」

 

 だが彼の言葉からしてイヌブラザーを攻撃してもらいたいらしい。そんな見え透いた罠に乗る気はなかった。ラッキーと言ってしまったのが運の尽き、ホーリーエンジェルの鞭が小さい的へ打ち込まれる。

 

「a・HERO ドンモモタロウの効果!このカードは戦闘では破壊されず、互いの戦闘ダメージもゼロにする!」

 

 だが再び変形し、桃のカタチに戻ったa・HEROが鞭をはじき返す。これで与えられるダメージは大きく絞られ、モンスターを除去する効果でa・HEROを除去しない限りダメージを抑えられてしまう。

 

「イヌブラザーはブラフだったのね…」

「そうでもないゼ、俺のお供は簡単にやられるほどヤワじャねェッてことだ」

 

 フィールドにはマンジュシカがいるが守備表示、攻撃はもうできない。ブルーエンジェルは顔を曇らせた。

 

「これでターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

「再びマンジュシカとライトステージの効果!」

 

DON-MOMOTARO:3600→3200

 

「この瞬間、トリックスター・ホーリーエンジェルの効果!『トリックスター』モンスターの効果で相手がダメージを受ける度に、このカードの攻撃力はターン終了時まで、そのダメージの数値分アップする!」

 

《トリックスター・ホーリーエンジェル》ATK:2000→2200 LINK:2(↙,↘)

 

 さらに力を増していく相棒に、ブルーエンジェルは決断する。もっと相手にプレッシャーをかけることを。このまま自分のペースに完全に巻き込んでしまえば、後は効果ダメージの嵐とホーリーエンジェルでフィニッシュだ。

 

「この瞬間、罠カード発動!《トリックスター・リンカーネーション》!相手の手札を全て除外し、その枚数分だけ相手はデッキからドローする!」

「なるほど。そしてその分マンジュシカとライトステージのダメージか…ッたく、おッかねェ天使たちだな」

 

 ドンの手札は2枚。リンカーネーションの効果で2枚除外して2枚ドロー、マンジュシカの効果で2枚分のダメージが与えられ、ライトステージで更に2回分のダメージを追う。そしてマンジュシカのの力を吸ったホーリーエンジェルが大きく背伸びをした。

 

DON-MOMOTARO:3200→2400

《トリックスター・ホーリーエンジェル》ATK:2200→2600 LINK:2(↙,↘)

 

 並の上級モンスターでも越えられるものではない攻撃力、これには守備を固めるしかないだろう。

 だがココで予想だにしない一手で戦局が大きく揺らぐのが遊戯。その証拠にドンは笑みを一切崩していなかった。

 

「面白れェ、ならこッちは精霊だ!もう一回来い、縁を結ぶサーキッド!召喚条件は“a・HERO含むモンスター2体”!」

 

 号令に応え、アルター・ヒーローがイヌブラザーをつつく。足元のアルター・ヒーローを拾い上げたイヌブラザーは、流れて来たサーキッドを蹴り上げ中に飛び込む。右下と左下のマーカーを輝かせ現れたのは黄色と青、正方形を並べたような翼をはためかせた小さな鳥人。相変わらず目視の厳しい小ささだが、吹き付ける逆風を物ともせず軽快に飛び回る。

 

「リンク召喚!来ォいリンク2、《a・HERO ドンジュウオウモモタロウ》!」

 

《a・HERO ドンジュウオウモモタロウ》ATK:500 LINK:2(↙,↘)

 

「更に、手札の《A・HERO サルブラザー》の効果!自分メインモンスターゾーンにカードが無い時、自身を守備表示で特殊召喚できる!」

 

《A・HERO サルブラザー》ATK:2000 DEF:500

 

 イヌブラザーが居なくなったことで空いたメインモンスターゾーンに、筋骨隆々の青猿が現れた。鍛え上げられた肉体が威圧的だが、両手を前にちょこんと出した珍妙なポーズがどことなく愛くるしい第2の御供。彼の登場にドンジュウオウモモタロウのリンクマーカーが輝き、新たな力を発揮する。

 

「ドンジュウオウモモタロウの効果!このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚された時、デッキからそのモンスターよりレベルの低いモンスター1体を効果を無効にして特殊召喚できる!」

 

 サルブラザーのレベルは6。デッキが自動シャッフルされ、一枚のカードをせり出す。それを引き抜いたドンモモタロウはディスクに叩きつけ、新たな戦士を世に出した。

 

「来い、《Z・HEROゼンリョク・ヒーロー ゼンカイガオーン》!」

 

Z・HEROゼンリョク・ヒーロー ゼンカイガオーン》ATK:1500 DEF:1500

 

「Z・HERO…また私の知らないカード」

 

 右腕に三爪を携えたロボットのような黄色いモンスターにブルーエンジェルが声を潜める。HEROと名の付くカテゴリは『Eエレメンタル・HERO』や『Dデステニー・HERO』が代表的だが、『A・HERO』も『Z・HERO』は聞いたことのないカテゴリだ。

 いったいどのような力が、思考を回すブルーエンジェルに、ドンは手札最後の1枚を突き付けた。

 

「さァ役者は揃ッた!魔法カード《融合》を発動!」

「《融合》!?」

「自分の手札、フィールドから融合モンスターによッて決められた素材を墓地に送り、融合モンスターを融合召喚する!俺はゼンカイガオーンとサルブラザーを融合!」

 

 驚くブルーエンジェルの頭上でゼンカイガオーンとサルブラザーが跳躍する。黄色と青、二つの光が螺旋を描き一つの渦となって虹彩を放つ。

 

「命あるところ、正義の雄叫び在り!融合召喚!!!」

 

 視界が晴れ、上空に出現したのは巨大な島。亀を思わせる外観の天空島から五色の獣が地上へ駆け抜けていく。

 黒鉄の猛牛の背に灼熱の赤獅子が飛び乗る。獅子の両側に白虎と青鮫が並び立ち、黄色の荒鷲が上に停まる。すると百獣たちは目を輝かせ、さながらロボットアニメのように変形し始めた。

 牛は胴を下に伸ばし“足”へ、鮫と虎は顔を回して“両腕”に、獅子は“胴体”へ、鷲は翼で鬣を包み“王者の冠”へ。

 

“────猛獣はその聖なる肉体を一つに重ね、巨大なる精霊の王が生まれます。”

 

「誕生!《ZA・HEROザ・ヒーロー ガオキング》!」

 

ZA・HEROザ・ヒーロー ガオキング》ATK:2700 DEF:2300

 

 今の誰?唐突なナレーションに周囲が訝しむ中、ドンジュウオウモモタロウの右斜め後ろにゼンカイガオーンを思わせるモンスターがそびえ立つ。両腕を上げ雄叫びを上げる精霊王。邪気を払う生命の守護者が降臨した。

 

「サルブラザーの効果!自身が融合素材として墓地に送られた時、デッキから1枚ドローする!」

「マンジュシカのこう──」

「マンジュシカの効果!俺の手札にカードが1枚加わるたびに“200ライフを回復する・・・・・・・・”!」

 

 突然効果処理を被せて来たドン。しかも横暴でねじ曲がった内容にブルーエンジェルが溜まらず訂正しようとした。

 

「何言ってるの!?200のダメージよ!」

「いやッ、回復と言ッたら回復だァ!《ソウル・ドライブ》!」

 

 放たれたマンジュシカの電撃、だがドンの前にガオキングが立ち塞がる。ガオキングは胸を反ると電撃が胸の獅子に吸い込まれ消えていく。そしてエネルギーを取り込んだガオキングの咆哮は、先ほどよりも大きく、そして深く響き渡った。

 

DON-MOMOTARO:2400→2600

 

「まさか…」

「ガオキングの効果!このカードがフィールド上にいる限り、俺への効果ダメージは全て、回復効果に切り替わる!」

 

 余りの効果に目を見開くブルーエンジェル。これでトリックスターお得意の効果ダメージは封じられ、ホーリーエンジェルの強化も出来ず、攻撃力を上回れない。どころか相手は手札を補充までしてしまった。

 だからと言って手加減はしない、とばかりにドンは言葉を紡いだ。

 

「ドンジュウオウモモタロウの効果で、このカードのリンク先に存在するEXデッキから特殊召喚されたモンスターは、ダメージ計算時に攻撃力を500Pアップする!カードを一枚伏せて、バトルだ!ガオキングでトリックスター・ホーリーエンジェルを攻撃!」

 

《ZA・HERO ガオキング》ATK:2700→3200 DEF:2300

 

 ドンジュウオウモモタロウから向けられたリンクマーカーから赤、青、黄色のキューブ状のオーラが充填される。力を受け取ったガオキングがどこからか持ち出した青い刀でゆっくりと円を描く。天と地に漂う生命の息吹を集め、邪なるものを払う必殺の一撃が振るわれるのだ。

 

「《邪気退散》!」

 

 上段から振り下ろされた刀はホーリーエンジェルの所まで延び、抵抗させず一刀両断。その延長線上にいたブルーエンジェルさえも斬り付けた。

 

BLUE ANGEL:4000→3400

 

 後ずさり肩を抑える。まさか相手が融合使い、しかもここまで強力なモンスターを扱うとは思ってもいなかった。痛みに歯を食いしばる彼女、そこにガオキングは刀を投げ捨てた。

 

「更に、ガオキングの効果!このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!」

「効果ダメージまで…!?」

 

 両手を突き出し、仁王立つガオキング。前面に向けられた五体の猛獣の顔が口を開き、その中に光が収束していく。地球の命を守るため、気高き雄叫びが砲弾となって放たれようとしていた。

 

「でもこの瞬間、罠カード発動!《トリックスター・スキャッター》!トリックスターモンスターがバトルしたターン、相手フィールドのモンスター1体を破壊する!対象は……ガオキング!」

 

 スキャッターからの波動を受け、霧散していくガオキング。これでまた効果ダメージが通るようになるが、破壊と無効は別物。消えかけた体から放たれた力の奔流がブルーエンジェルに襲い掛かる。

 

「《天地轟鳴・アニマルハート》!」

「きゃあああああああああああ!」

「うォおァあァあァあああああ!」

 

 だが五色の光弾がブルーエンジェルに直撃し、Dボードから大きく吹き飛ばされる。観客から悲鳴が上がるも、空中で何とか持ち直し、見事Dボードに着地する。アイドルの無事に再び歓声が沸くも、ブルーエンジェルの顔は険しかった。

 

BLUE ANGEL:3400→1400

 

「…相打ちか、やるじャねェか。ターンエンドだ!」

 

 モンスターの消滅に煽られた車体を戻したドンのターンが終わり、自分にターンが移る。場にはマンジュシカのみ、手札はナシ。故にこのドローで逆転の一手を引けるか否かにかかっている。電子化されたデッキからカードを手に、勢いよく引き抜いた。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 振った腕をゆっくり戻し、引いたカードを確認する。頭の中で戦術が組まれ勝利の方程式が構築される。一呼吸を置いてドンへ向き直る、もう前のターンで見せた可愛らしいアイドルの顔ではなかった。

 

「私は…負けられない!見せてあげるわ、トリックスターの本当の力を!」

 

 

 

────TURN 1:BATTLE────

 

 

 

DON-MOMOTARO:2600

 手札:0 場:《a・HERO ドンジュウオウモモタロウ》 伏せ:1

 

BLUE ANGEL:1400

 手札:1 場:《トリックスター・マンジュシカ》 伏せ:0

 

「ライトステージの効果!1ターンに1度、相手の魔法&罠ゾーンにセットされたカード1枚を選択、そのカードはエンドフェイズまで発動できず、エンドフェイズにそのカードを発動するか、墓地へ送らなければならない!」

「じャあエンドフェイズに墓地へ送る」

 

 ライトステージの輝きが、ドンの伏せカードに降り注ぐ。まずはこれで伏せカードは封じた。後はドンを倒しうる布陣を完成させる。まずは今手札に加わった彼女の出番だ。

 

「私は《トリックスター・ヒヨス》を通常召喚!」

 

《トリックスター・ヒヨス》ATK:100 DEF:0

 

 ショートボブのトリックスターが指揮棒を振るう。他のトリックスターより幼さの残る彼女が、ブルーエンジェルの道を拓くのだ。

 

「さぁ、行くわよ!夢と希望のサーキット!まずはヒヨスをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク1、《トリックスター・ブルム》!」

 

《トリックスター・ブルム》ATK:100 LINK:1(↓)

 

 三つ編みのツインテールを振り、現れたリンク1のトリックスター。攻撃力は高くないが、真の力はそこではない。可憐な少女の齎す恩恵が、彼岸花の少女の力を引き寄せる。

 

「トリックスター・ブルムの効果!このカードのリンク召喚に成功した時、相手はデッキから1枚ドローする!」

「成程、マンジュシカとのコンボか、ドロー!」

 

DON-MOMOTARO:2600→2200

 

「ブルムのリンク素材となったヒヨスの効果、自身を特殊召喚!この効果で特殊召喚されたヒヨスはフィールドを離れた時除外されるわ。でももう一度表れて、夢と希望のサーキット!私はヒヨスとブルムをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク2、《トリックスター・ディーヴァリディス》!」

 

 墓地から素材のリクルート、間髪入れずのリンク召喚、ギャラリーはこれまでにない連続召喚に驚きを隠せないが、構うことなくサーキッドより新たな天使が舞い降りてくる。ホーリーエンジェルと似ていて、だが彼女より清純な印象の歌姫が、仇名す者を打ち据えるハミングを放つ。

 

《トリックスター・ディーヴァリディス》ATK:1800 LINK:1(↙,↓)

 

「ディーヴァリディスの効果!このカードの特殊召喚に成功した時、相手に200のダメージを与える!」

「またか!いい加減しつけェな」

 

DON-MOMOTARO:2200→1800

 

 トリックスターによる連続ダメージを受け、顔をしかめるドン。戦術そのものはとうに理解していたが、ここまで連続で来られると誰だって鬱陶しい。

 だがそれも終わりを告げる。既に勝利の布陣まであと一歩。必要な役者はあと一人。

 

「墓地のトリックスター・リンカーネーションの効果、このカードを除外して墓地の『トリックスター』モンスター一体、キャンディナを蘇らせて……これで最後よ!召喚条件は“天使族モンスター2体以上”!私はマンジュシカとリンク2のディーヴァリディスをリンクマーカーにセット!」

 

 トランペットを吹き鳴らした天使と入れ替わるように、マンジュシカとディーヴァリディスがサーキッドに吸い込まれる。

 ディーヴァリディスを二体分の素材として扱い、これまで相手手札の動きを制限していたマンジュシカを手放し、現れるのは前代未聞。未だかつてブルーエンジェルが出したことのない──リンク3。

 

「リンク召喚!《トリックスター・フォクシーウィッチ》!」

 

《トリックスター・フォクシーウィッチ》ATK:2200 LINK:3(↑,←,→)

 

 杖を携えたジギタリスの天使、フォクシーウィッチの登場に熱狂は最高潮に達した。新たなるトリックスターの登場に心ときめかせる者、それを実行させたほどの実力の拮抗に興奮する者、あらゆる情動と反応がLINK VRAINSを包み込んでいく。降りかかる声援に帽子を押さえ、フォクシーウィッチは杖をドンに向けた。

 

「フォクシーウィッチの効果!このカードの特殊召喚に成功した時、相手フィールドのカード一枚につき200のダメージを与える!あなたのフィールドのカードは2枚!よって400のダメージ!」

「ぐゥゥゥゥゥ!」

 

 杖の先から巻き起こる花吹雪が、エンヤライドンのタイヤに巻き込まれスリップする。波の受けで回転するエンヤライドン、近くの建築物に激突しかけるがドンは腰を上げて、壁に思い切り蹴り込んだ。衝撃にビルは破砕、上がる噴煙に一部から悲鳴が上がるが、ほどなくして煙の中からエンヤライドンが無傷で現れたことに、安堵の息が漏れる。

 

DON-MOMOTARO:1800→1200

 

 ブルーエンジェルの表情は変わらない。佳境とは言えまだデュエルは途中、漸く自分とライフを並べたのだ。事故で脱落などここまで来て許さない。最後はきっちり自分の手で決めてみせる、確信を胸にブルーエンジェルはバトルフェイズに突入した。

 

「バトルよ!フォクシーウィッチでドンジュウオウモモタロウに攻撃!」

 

 フォクシーウィッチが杖を振り上げ、ドンジュウオウモモタロウに振り下ろす。相手のこれを防ぐ術などない筈、これが決まれば後はキャンディナの攻撃でライフは尽きる。

 しかしここでドンが腕を横に振った。

 

「なら、ドンジュウオウモモタロウの効果!このカードが攻撃対象になッた時、このカードをリリースして、墓地のリンク1モンスター一体を特殊召喚、攻撃対象に差し替える!」

「差し替える、ですって!?けどあなたの墓地のリンク1って…」

 

 足元に空いた穴へドンジュウオウモモタロウが飛び込むと、代わりにリンク1──a・HERO ドンモモタロウが桃の状態でフォクシーウィッチに激突する。だが攻撃が防がれたことより、戦闘ダメージはゼロになるにもかかわらずバトルをさせたことが気になった。

 ブルーエンジェルは知らない。アルター・ヒーローの効果には、続きがあることを。

 

「a・HERO ドンモモタロウの効果!このカードは戦闘では破壊されず、互いの戦闘ダメージもゼロにして、更に!ダメージ計算後、戦闘した相手モンスターの元々の攻撃力以下の守備力を持つモンスター一体を、自身の墓地から特殊召喚できる!守備力1600のイヌブラザーを特殊召喚!」

 

 フォクシーウィッチを弾いたアルター・ヒーローがザングラソードを地面に叩きつける。すると割れるように現れたゲートから小さな体を動かして、イヌブラザーがよじ登って来た。

 戦闘ダメージを回避しつつ、墓地のモンスターを蘇らせる。エースを素材にしただけの力を力はあったのだ。だが守備力は1600、キャンディナで破壊できないわけじゃない。

 

「キャンディナでイヌブラザーを攻撃!」

「イヌブラザーの効果発動!このカードが戦闘を行うバトルステップに、手札一枚を墓地に送って、自身と相手モンスターをエンドフェイズまで除外する!」

 

 しかしキャンディナの一撃も、イヌブラザーが放った畳返しに防がれた。何もない虚空から現れた畳に巻き込まれキャンディナとイヌブラザーが消えていく。これでもう、ブルーエンジェルの攻撃は終了してしまった。止めを刺しきれなかったことが悔やまれる。

 

「ターンエンド…」

「エンドフェイズに、イヌブラザーとキャンディナがフィールドに戻り、墓地のカード一枚を手札に加える」

「そしてライトステージの効果であなたの伏せカードを墓地に送るわ」

 

 互いのフィールドのモンスターゾーンが裏返り、キャンディナとイヌブラザーが出てくる。イヌブラザーが手にしたカードをドンに投げ渡すと、足元のカードが消え去った。

 途端、消えたカードのあった場所から一匹の蛇が現れた。唐突な登場にギャラリーが驚くが、蛇はスルスルとドンモモタロウの足に絡み付き、彼の左腕にまでよじ登った。

 

「伏せられていた罠カード《やぶ蛇》の効果が発動!フィールドのこのカードが効果で墓地に送られた時、デッキ・EXデッキからモンスター一体を特殊召喚する!」

「破壊をトリガーにするトラップ!?けど、トリックスター・キャンディナは相手が魔法・罠カードを発動した時200のダメージを与えるわ!」

 

DON-MOMOTARO:1200→800

 

 キャンディナのトランペットから放たれた音波がドンモモタロウを襲うが、腕にまで登って来ていた蛇が投げ放ったカードに阻まれる。ひらりモンスターゾーンに落ちた一枚は光を放ち、ゼンカイガオーンに似ているが胸にライオンではなく恐竜の意匠を持つ赤い戦士を呼び込んだ。

 

「来い、《Z・HERO ゼンカイジュラン》!」

 

《Z・HERO ゼンカイジュラン》ATK:2000 DEF:100

 

「俺のターン!ドロー!俺はゼンカイガオーンを召喚!」

 

 ジュランの横に現れた黄色いライオンの戦士、ガオキングの素材として墓地に送られたガオーンが帰還する。これでモンスターゾーンが全て埋まったことになる。

 

「ゼンカイガオーン…イヌブラザーの効果で墓地から回収したのね」

「その通り!そしてジュランとガオーン、二体のZ・HEROがフィールドに揃ッた時、新たな扉が開かれる!行くぜ、ゼンカイ融合!」

 

 ドンの号令に合わせ、ジュランとガオーンがお互いに目配せすると拳を合わせ、同時にジャンプする。LINK VRAINS内にけたたましいくもリズミカルなホイッスルが鳴り、音に合わせて恐竜とライオンの口が開き、赤と黄の半身を作り出すと一つに合体、双方の力を合わせた新たな機械戦士が誕生した。

 

「《ゼンカイオー・ジュラガオーン》!」

「…今度は融合魔法なしで!?」

 

《ゼンカイオー・ジュラガオーン》ATK:2500 DEF:1600

 

 融合モンスターは従来、魔法カード《融合》などを用いて融合召喚される。だが稀にフィールド上のモンスターをデッキに戻すことで召喚できる融合モンスターは存在するのだ。ブルーエンジェルはキャンディナの効果で融合を封じられると踏んだが、まさかの融合魔法なしで融合召喚してくるとは思わなかった。

 

「ジュラガオーンの効果発動!このカードの召喚に成功した時、フィールド上のモンスター・魔法カードを二枚まで選んで破壊できる!俺が破壊するのはライトステージと、a・HERO ドンモモタロウ!」

 

 ジュラガオーンはジュランとガオーンの合体戦士、当然二人の武器も引き続き使用する。左腕に備えられたガオーンの爪がライトステージとアルター・ヒーローを捉える。ステージは粉微塵に消え、アルター・ヒーローも鎧に無数のヒビが入る。

 守りの要をなぜ破壊したのか?その理由はドンの口から語られる。

 

「a・HERO ドンモモタロウの効果発動!このカードが効果で破壊された時、墓地の『HERO』通常モンスター一体を特殊召喚する!来ォい、A・HERO ドンモモタロウ!」

 

 ひび割れたアルター・ヒーローから光が溢れ出し、一気に砕け散る。中から現れたのは我らがドンモモタロウ、さながら桃から生まれたモモタロウ宜しく、手にした刀を意気揚々と振り上げる。これで攻撃力2500が二体も並んだ。

 

「バトルだ!ゼンカイオー・ジュラガオーンでトリックスター・フォクシーウィッチを攻撃!《ジュランソード・円月クラッシュ》!」

 

 ジュランの剣を振るい、ゼンカイオーがフォクシーウィッチに斬りかかる。フォクシーウィッチは杖で防ごうと構えるが肉厚な剣には枝同然、容易く両断されがら空きの胴を蹴り飛ばされる。そして真っ向から両断され爆散した。

 

BLUE ANGEL:1400→1100

 

 振り下ろされた剣圧が両者の攻撃力の差分ライフを奪っていくが、未だ戦意は衰えず。せっかくのリンク3がただで倒れる筈はない。

 

「かかったわね!戦闘で破壊されたフォクシーウィッチの効果!EXデッキからリンク2以下の『トリックスター』リンクモンスターを特殊召喚し、相手フィールドのカード一枚につき200のダメージを与える!おいで、《トリックスター・スイートデビル》!」

 

《トリックスター・スイートデビル》ATK:2000 LINK:2(←,→)

 

 フォクシーウィッチだった粒子が花びらに変わり、EXデッキとフィールドをつなげる扉を開く。現れたのは真紅のドレスを纏った猫耳のトリックスター、スイートデビルが蠱惑的な笑みと共にドンモモタロウを殴りつけた。彼のフィールドのカードは3枚、ライトステージがあればこれでライフが丁度ゼロになったが、それでもドンのライフは風前の灯火。

 

「600くらい構うか!ドンモモタロウ、キャンディナをぶッた斬れ!《ザングラソード・快桃乱麻》ァ!」

 

DON-MOMOTARO:800→200

 

 されどヒーローは止まらない、一瞬の内に懐に入られたキャンディナは、虹色に輝く刃によって真っ二つにされた。葬られた仲間を思ってかスイートデビルは残ったイヌブラザーを睨みつける。

 

BLUE ANGEL:1100→400

 

 だがブルーエンジェルはこれ以上攻撃が来ないことを確信していた。スイートデビルはやる気満々だが、イヌブラザーの攻撃力はスイートデビルの攻撃力を大きく下回っている上に、守備表示だ。ライフは互角、次のターンでモンスターの有無に関わらず相手に直接攻撃可能なリリーベルを引くことが出来れば、今度こそ勝てる。

 

「──どお!?これでしのぎ切ったわ!」

「いいや、これで終わりだ!」

 

 しかしブルーエンジェルの勝利宣言は、ドンの勝利宣言に叩き切られる。ドンの手札、最後の一枚を引き抜くと彼女の眼前に突き付けた。

 

「速攻魔法、《必殺奥義・アバタロ斬!》発動!自分フィールド上のドンモモタロウが戦闘で相手モンスターを破壊した時、ドンモモタロウ以外の自分フィールド上のモンスター一体を墓地に送ッて、もう一度バトルする!」

 

 絶句。目の前が暗くなる。突然何かに押し上げられたデータストームが大きな波を作りブルーエンジェルのDボードを揺らす。だが体勢を立て直す余力は、もう彼女には残っていなかった。

 打ち上げられた大波を登り、頂上に達したドンはエンヤライドンから飛び降りる。隣でジュラガオーンが墓地へと消えていくのを確認してから、腰に刺した刀を引き抜き、横にいるドンモモタロウと一気に急降下してスイートデビルを切り裂いた。

 

BLUE ANGEL:400→0<LOSE>

 

 爆散、立ち上る炎がLINK VRAINSの天空を焼く。自分のライフを削り切った火柱を眺めながらブルーエンジェルは爆風を受け吹き飛ばされた。

 

(負けた…そんな…っ)

 

 なぜ負けた、どうして負けた、何を間違えた、どうすれば良かった────じわりじわりと頭の中を回る負の思考に沈む。観客の悲鳴さえくぐもって聞こえなくなっていく。やがて彼女の体はデータストームに叩きつけられ無残にもアバターをポリゴンへと還元────

 

「ムン!?」

 

 突然何かに引き寄せられた。正体を探ろうにも赤い何かに阻まれ何も見えない。何かのはじける音が聞こえ、衝撃。視界がズレて目にしたのは、細い切れ込みの入ったデータストームだった。

 データストームはそれ自体が膨大なデータの塊。安易に触れようものならアバターはおろか、電脳世界を構成する情報さえ容易く吹き飛ばしてしまう。LINK VRAINSの運営はその為スピードデュエルを原則禁止しているほどだが、今押し流され消えていく切れ込みは不自然だった。

 

 ブルーエンジェルは思わず自分を抱きかかえる男──ドンの横顔を見た。頬にはすすが付き、服の端々はほころびて破けている。そして刀を手にした右腕は擦り切れて赤くなっており、握った刀も刃こぼれしている。

 

 切ったのだ、データストームを刀で。自分が消し飛ぶかもしれないのを覚悟で、とんだ奇天烈をやってのけたのである。

 

 ドンは刀を逆手に持ち替えて納刀して、脇に抱えたブルーエンジェルを降ろした。全身に付いた煤を叩き落としている姿を見て、漸く助けられたことに思い至り声を上げた。

 

「何のつもり──」

「見ろお前らァ!空が青いぞォ!笑え笑え──!」

 

 がしかし突然天を指さし笑い始めるドンに遮られてしまう。また何を言い出したのか、LINK VRAINSの空は青くないと、空を見上げて。

 スイートデビルが燃えた空は、グラフィックの故障か、はたまたそういう演出なのか。

 炎が晴れた電脳の空は、現実と変わらないほど真っ青だった。

 

 

 

────TURN 1:MAIN2────

 

 

 

「はぁ…」

 

 ──楽しかったぞ、またな!

 そう言い残したドンは呆ける彼女を置き去りに何処かへと去っていってしまい、一人置いてけぼりをくらった葵はそのままログアウトするしかなかった。

 昨日のことは瞬く間にLINK VRAINS中、掲示板やニュースに出回り「ニューヒーロー誕生か!?」だの、「ブルーエンジェル敗北!」と騒ぎ立てられている。今朝のように特番が練られるほど、彼という存在は刺激と話題に飢えたこの街の住人にとってセンセーショナルだったのだろう。

 

(昨日は…勝負を急ぎ過ぎたのかも。)

 

 昨日のことを思い返し、再び思考の底に沈む。あの時振り返ってみれば、リンカーネーションの効果でキャンディナではなくリリーベルを戻しておけば勝てたかもしれない。そうすれば魔法・罠に対するダメージはなくともフォクシーウィッチの破壊時の効果ダメージと合わせてドンのライフは尽きていた。

 考えれば考えるほど悔やまれる、こうしておけば勝てたのに、と。過ぎたことはどうしようもないのに、未練がましいことばかり浮かんでくる。手札一枚を選ぶだけ戦術もコンビネーションも変わるのがデュエルの醍醐味ともいえるのだが、こうも自分が女々しいとは思っても見なかった。もう幾度かの溜息を吐いたとき、だれかにぶつかった。

 

「…っあ、ゴメンなさい」

「すまない、怪我はないか?」

 

 ぶつかったのは自分と同じ、デンシティ・ハイスクールの生徒らしい。黒いブレザーに赤いネクタイ、白いシャツを着た赤みがかった茶髪が特徴の男子生徒だ。確か隣のクラスにこんな感じの男がいたような気がする。葵は軽く会釈をした。

 

「大丈夫、ありがと」

「そうか…しかしこれでお前とも縁が出来た!」

 

 男子の唐突な宣言に思わず顔をしかめる。ただぶつかっただけで縁など出来るわけがないし、第一個人的には“縁”という言葉を今一番聞きたくなかった。だから少し声が低くなるのは致し方ない。

 

「何それ?ドンモモタロウのファン?」

「いや、違うぞ」

「…?」

 

 半ば忌避の視線を向けられても、真顔で返答する男子。どうやら相手にすると面倒な輩らしい、何でもないと無理矢理話を断ち切って、校門へ駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見っけ!各パーツデータを照合すると、まぁ美人の部類だな』

「黙って様子を見てろ」

 

 ──そしてこの時、財前葵と一緒にいた男と浅からぬ因縁で結ばれることを、この俺、藤木遊作はまだ知らない。

 

────TURN 1:END────




俺は藤木遊作。

一つ、俺は過去の事件の真実を知るために、財前葵と接触を図ろうとしていた。
二つ、ハノイの騎士が現れただと?狙いはAiか、それとも…
三つ、何なんだアイツは…何故神輿で現れるんだ!?

「さァ楽しもうぜ!」
「今それどころじゃない!」

今日のカード

○a・HERO ドンモモタロウ
リンク1/炎属性/戦士族/ATK 250
【リンクマーカー:下】
『HERO』通常モンスター1体
①:このカードは戦闘では破壊されず、このカードの戦闘で発生するお互いの戦闘ダメージは0になる。
②:このカードが相手モンスターと戦闘を行ったダメージステップ終了時に発動できる。自分墓地に存在する、バトルした相手モンスターの元々の攻撃力以下の守備力を持つモンスター1体を特殊召喚する。
③:フィールドのこのカードが効果で破壊された場合に発動できる。自分墓地に存在する『HERO』通常モンスター1体を特殊召喚する。


ご感想、お待ちしています。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=278643&uid=358201
↑こちらもどうぞ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。