なお、前後編になる模様( ;∀;)
最新話です、どうぞ。感想・評価お待ちしています!
爆散。
大きなキノコ雲を登らせるほどの爆発がLINK VRAINSを揺らす。猛風をモンスター越しに受け、ゴーストガールは揺れる髪を抑えた。今頃相手のライフは0、衝撃で強制ログアウトされているだろうし、しばらくはLINK VRAINSに入ってはこれないだろう。最初にいた場所から大分遠くまで来てしまった、ふぅと一息ついて踵を返した、その時だった。
「…っ!何!?」
唐突に響き渡る、ドスの効いた女声の入場コール。これに応えるように、爆炎を払い現れたのは純白のマント。清廉な白いボディにカラフルなラインを走らせ、額には勝利のV字アンテナ。ドンモモタロウとは印象の異なる、頼もしいもう一人のヒーローの登場だ。
《Z・HERO ゼンカイザー》ATK:2500 DEF:2000
「どうしてモンスターが…!?」
先ほどまで影も形もなかったはず、どういうことかと瞠目していると笑い声が降って来た。見上げると細長い影が一つ、データストームに落ちてくる。ゴーストエンジェルのモンスターが炎の彼方に消した筈のバイクが、波飛沫を上げ走行していた。
「はッはッはッはッは!《Z・HERO ゼンカイザー》の効果!相手の攻撃宣言時、手札から特殊召喚できる!そしてこいつは特殊召喚されたターン、戦闘では破壊されないのよォ!」
ドンの前で腕を組み、仁王立ちするゼンカイザー。《HERO》と名の付くモンスターでは中々いない手札から発動する効果、一向に伏せカードを使わないから油断していたのだ。
現在フィールド・手札の枚数は自分の方が上、伏せカードも2枚存在するしここから相手の手など幾らでも封じようがある。だがゴーストエンジェルは唇を横一文字に結んだ、次はどんな手で来る、どんなカードを使う?早期決着を狙い手段を大分使った自分に、勝機はあるのか────?
「やってくれたわね……!?」
「そッちもな、だが!ここまでだ、俺のタ────」
意気揚々とデッキに手を掛けた、その時だった。ドンに待ったをかける者が。
「待て!」
ピタリと手を止めた二人が顔を上げると、Dボードに乗る一人の男が。緑と黒のぴっちりした服を纏い、蛍光色に設定された髪を靡かせる彼は高度を一定に保ちながらこちらに鋭い視線を送る。
「プレイメーカー」
「お前の狙いは俺だろう!」
一躍有名人が二人も揃う、熱気荒ぶるLINK VRAINSの中でゴーストエンジェルの声が上ずる。自分がブルーエンジェルの偽物であることは既に割れてしまったから、正直出てくるとか思っていなかった。突然やって来た標的を前に呆ける彼女を他所に、ドンが怒鳴った。
「遅いぞ、何をしていた!」
「お前こそ何をしに来た!お前が首を突っ込む事じゃない!」
「俺に指図するな!やることが目の前にある、動く理由などそれで十分だ!」
「うるせぇ!全部お前の自業自得だろ!この馬鹿タロウ!」
「黙っていろチビ助!俺はお前と話していない!」
「喋るなAi!」
「い~や黙らないぜプレイメーカー様!コイツにゃぎゃふんと言ってやらなくっちゃ!」
売り言葉に買い言葉、煽られたAiがドンを罵り、眉を吊り上げたドンが言い返す。プレイメーカーが黙れというのも聞かず、次第にプレイメーカーさえも置き去りにして口撃を繰り返す両者。その様子を見ていたゴーストエンジェルは肩をガクリと落とした。
「あ~、もう…こっちのプランは台無しになるし、完全に無視されてるわね…こうなったら強引にいかせてもらうわ!」
ガシガシと頭を掻いたゴーストエンジェルは苛立たし気にディスクを叩いた。
GHOST ANGEL:4000→0<SURRENDER>
「何!?」
突然のサレンダー、ディスクに表示された勝敗結果にドンが驚いていると、ゴーストエンジェルがDボードから飛び出し何かを投げつけた。
投げつけられたのは一輪の赤いバラ、仮想現実の大地に突き刺さると同時にズンッ、と体が重くなる。一定範囲を包むように発生したデータの過負荷に、耐え切れなくなったアバターが次々と消滅・強制ログアウトさせられていく。ドンとプレイメーカーは辛うじて耐えていたが、余りの過重に苦悶の声を上げる。
「お、の、れェ、卑怯…千万────」
「あら、ズルは大人の特権よ?」
Dボードもエンヤライドンも次第に速度を落とし、やがて近場の建造物へ落ちて行く。唯一重力の井戸の中にいてケロッとしていたゴーストエンジェルは両者の不時着を確認すると手を打ち鳴らす。それを合図に地面から赤く禍々しい柱が立ち上がった。
柱に押され崩れ行く建物の中にドンが消える、姿が見えなくなる。見届けた黒い天使はわずかに目を伏せた。
「でも…続きは機会があれば…ね?」
一方ボードから降りたプレイメーカーは、ビルの屋上に転がり込んだ。横たえた景色からは、轟音と、光と、夥しい数の剣山。自分が今倒れていられるのは、この異常事態の中心地だからだろうか。プレイメーカーは立ち上がるべく膝をついた。
だが両手で上体を持ち上げようとした時、地面が紫に輝きだす。光は手足を登り全身に纏わりついて、プレイメーカーを放さない。やがて全身を縛り上げた光はプレイメーカーを無理やり立たせると、更に大きな光を放ちながらビルの中に引きずりこんだ。
無重力が一瞬だけ、直ぐに下向きの重力が強まりプレイメーカーの体が突き上がる。転送されたのは室内、明かりはないが正面のステンドグラスが通した光のお陰で視野は明るい。目の前に鎮座された金の台座も、中に敷き詰められた羽毛に沈むブルーエンジェルもはっきり見えた。
「捕まったのか…くっそ~これも全部あの頭の可笑しな奴のせいだ」
ボヤくAiを無視して身じろぎするがビクともしない。自力での脱出は不可能だし、先ほどの衝撃で通信もイカれたらしい。ただ一人を捕まえる為だけに電脳世界にここまでの影響を及ぼす高度なプログラムを構築したことには素直に感心した。
「その通り、このプログラム組むのに徹夜だったのよ」
顔を上げると何時から居たのか、色違いのブルーエンジェルが。パチン、と指を鳴らすと偽装が解け、黒い短パンとウェアを纏い、口元をマスクで隠した灰色の髪の美女が現れた。
「悪く思わないでね。そのトラップは誰にも解けない…私の雇い主以外はね」
「お前の目的は何だ?」
「改めまして、私はゴーストガール。端的に言えばお金で雇われる無枠の謎の美女ってトコロかしら?」
「…やはりSOLテクノロジーか」
おおむね予想通りだった。
LINK VRAINSにブルーエンジェルが現れた、という一報を聞いてから遊作が考えていたことは3つ。
一つ、財前葵は現代医療では治療のしようがなく、今だ目を覚ましていないという事。つまり現れたのは偽物だ。
二つ、もし偽ブルーエンジェルがハノイの騎士の手によるものなら、捕まえることが出来れば治療法の糸口、例えばウイルスに対するワクチンプログラムを入手できるはずだ。
三つ。仮にSOLテクノロジーなら彼女の身に起きたことを伝えなければならない。明らかに自分を誘い出すための罠に飛び込む危険を草薙翔一にも咎められたが、彼女の一件は止められなかった自分にも責がある。出向かない理由はなかった。
「私の雇い主があなたにどうしても聞きたいことがあるんだって」
そういう彼女の横でポリゴンが揺らぐ。人の形をとったそれは、スーツ姿の一人の男を現出させた。
「…さっきはゴメンなさい、邪魔が入るとは思ってなかったわ」
「構わない。これで彼も懲りてくれればいいのだがな」
台に眠る天使を憂うように見つめる男の横でゴーストガールが声を掛ける。男は力なく首を振ると、顔を上げてプレイメーカーの前に立った。
「私は財前晃。お前達が傷つけたブルーエンジェルの兄だ」
現実と寸分違わぬ姿で現れた晃がプレイメーカーを睨む。LINK VRAINSの管理を任されている晃が、LINK VRAINSに影響を及ぼすほどの罠を仕掛けて来た。妹が目覚める為なら何でもする、愛ゆえの怒りがひしひしと伝わって来た。
「貴様はあのデュエルで妹に何をした?妹はあの後昏睡状態となった。LINK VRAINSから抜け出せずにな」
「お前は誤解している、俺は何もしていない。彼女は俺と闘う前からハノイのカードを持っていた」
「嘘をつけ!妹がハノイの騎士と手を組むはずがない!」
「本当だ!彼女はハノイの騎士の電脳ウイルスに感染した。彼女を元に戻すにはハノイからウイルスの除去プログラムを手に入れるしかない」
「そんなウソが通用するとでも思っているのか!このまま八つ裂きにしてでも真実を聞き出してやる!」
徐々に語気が強まり、声質も荒くなる。意味のないことと言っても今の彼には聞こえないのか、晃は腕に紫のサークルを纏わせ、拳を握りしめた。
「お前を甚振る時間は幾らでもあるんだ!」
プレイメーカーを縛る悪魔の腕に力が籠る。アバターを介して全身を圧迫され、肉が骨に押し付けられる。抑えられた部分から血が引いていき、代わりに激痛が流れていく。意識が肉体から切り離された仮想現実ゆえに本当に体が折れるわけではないが、このままでは握りつぶされた痛覚でショック死するだろう。
「何でもかんでも力ずくか、相当頭に血が上ってんな!」
「さあ、早く喋らないと全身が引きちぎれるぞ!」
Aiの呆感さえ握りつぶし尋問は続く。耐え切れずプレイメーカーが叫んだ。その時だった。
天から稲妻が走り、地面が真っ二つに裂けた。目を焼く閃光に思わず目をつぶるが、押し寄せる防風に晒され首をもたげる。体を固定されているから吹き飛ばされることはなかったはずだが、かすかな金属音と共に、ゆらりと拘束具が倒れ始めた。
「…何!?」
唐突に拘束から解き放たれ、体を宙に放り出さるプレイメーカー。そのまま床に体を叩きつけると身構えたが、体が横たわることはなく何かに突っかかって踏みとどまることが出来た。自由になった体をさすり無事を感じ取ると、大きく息を吐いて振り返った。
そこに居たのは擦り切れた赤い装束を着た一人のアバター。全身泥に塗れ、袖や首から覗く肌も傷塗れだが、肩に刀を担ぐその姿は戦意にみなぎっている。
「お前…」
あの崩壊に巻き込まれてログアウトしていなかったのか、驚くプレイメーカーは邪魔と横に退かされる。ドンの背後には人一人くらいは入れるだろうか、細く長い切れ込みが入っている。
まさか地面を切って掘り進んできたのか?荒唐無稽な発想に振り返ると、既に稲妻は止んでいた。立ち込める煙が引いていきその中に一つの影が見え始めた。
「誰だ?」
影は跪き、顔を上げる。鎖骨から緑のラインを走らせた白いコートが揺れ、立ち上がったソレの顔には半透明のマスクが。
「…お前は」
知っている。この灰髪に赤いメッシュを入れた男を、プレイメーカーは追い求めていた男の登場に思わず名を叫んだ。
「リボルバー!」
「プレイメーカーを放せ。この男の相手をするのは私だ」
低く、その場にいる全員の脳に反響するような声がした。
当然そんなことはできないと晃が前に出た。ハノイの騎士はLINK VRAINSを荒らす悪質なハッカー集団、この間もLINK VRAINSを楽しんでいた大勢のユーザーが被害を受けたのだ。警戒をあらわにする晃に、リボルバーはフンと鼻を鳴らした。
「お前達は私の力を甘く見ているようだ」
そうリボルバーは手を掲げると、風が吹きすさんだ。リボルバーを中心にそよ風は旋風へ、やがて大竜巻へと変じてあらゆるものを吹き飛ばす。そして風を操る者の意思に従い立ち尽くす晃へ突き進むと、彼の横を通り過ぎた。
直撃はしていない、背後に横たわる妹も無事だ。だがひび割れたステンドグラスや砕け散った天井、荘厳だった空間は見る影もなく、その惨状にゴーストガールは思わず呻いた。
「データストームを自在に操るなんて…」
「だが驚いたな、対策済みのものがいたとは…なッ!」
口元に笑みを浮かべながらも、リボルバーは不意に体を逸らした。彼が立っていた場所に剣閃が通り過ぎ、地面が割れる。
反動で切り上げて来る刀を手で抑えられ、リボルバーとドンとせめぎ合う。じりじりと力を込めていくドンは、リボルバーの顔を見てハッとした。
「この感覚…そうか貴様か!」
「私がLINK VRAINSを破壊するなど容易いことだ…だが私の目的はそのような些末事でも、貴様のような有象無象でもない」
「舐めるな、俺こそオンリーワンだ!」
互いを蹴り合って距離をとった両者。リボルバーはすかさず腕を振るい、データストームの鎌鼬を繰り出して、ドンが次々撃ち落としていく。
「目的はただ一つ…プレイメーカーの持つ、AIのみ!」
「渡すと思うか?」
「渡すさ!…我々がブルーエンジェル、お前の妹に電脳ウイルスを、仕込んだのだからなっ」
突然の告白に全員が瞠目する。そして電脳ウイルスはハノイの騎士、つまりリボルバーにしか除去できない。なぜそのようなものを妹に、その疑問にリボルバーは淡々と答えた。
「人質だよ、誰でも良かったのだ。プレイメーカーの正義感を煽ることが出来ればな。だがこいつのような無名の者では意味がない」
「ドンモモタロウだ!人の名前は覚えろ!」
「貴様には知る価値もない!」
リボルバーはドンを突き放すと、彼の足元に手を翳す。すると一際大きい風が吹き上がり、瞬く間にデータストームの檻が出来た。これでゆっくり話す時間が出来た、リボルバーは上げた手を降ろして晃に向き直った。
「今すぐ除去プログラムを渡せ!」
「それはお前次第だ、SOLテクノロジー社セキュリティ部長、財前晃。お前もまた、イグニスを回収することが役目だったな?」
「っな…」
「このままイグニスを回収すれば、お前はSOLテクノロジーの一員として使命を果たすだろうが、妹が目覚めることは永遠に無くなる。もしプレイメーカーが私に勝てば、除去プログラムを渡そう」
余りにも一方的な要求に晃は返答を窮した。得体の知れない者たちに妹の未来を委ねること等できない、しかし腕利きの医者でも対処不可能と言われ、今も妹は眠り続けている。
「道は一つだ」
社の利益は守らなければならない、だがその為に一人の命を犠牲に出来るか。顧客の安全を守るセキュリティ部門の長として、そして一人の兄として、晃は奥歯を食いしばった。
「────妹の命には代えられない」
苦渋に満ちた返答を聞いたリボルバーは、振り返ると一言、
「待っているぞ────」
そうプレイメーカーに言い残して風と共に去った。残ったデータストームの残滓が一閃される。ドンが檻を解いたことに目もくれず、崩れ落ちた壁の淵に立つプレイメーカーを晃は呼び止めた。
「信じていいのか、プレイメーカー?私は君に、憎まれて当然のことを…」
晃は顔を曇らせた。結果として勘違いだったとはいえ、彼を傷つけた挙句、厚かましくも妹の命運を託そうというのだ。恨んでも誰も咎めない立場でありながら、リボルバーに挑もうとしている。
「俺はお前を憎んでなどいない。俺が憎むのはハノイの騎士だけだ」
プレイメーカーにとって、リボルバーは追い求めてきた敵。奴が率いるハッカー集団「ハノイの騎士」の正体を暴き、嘗て自分の身に降りかかった事件の全容を白日の下に晒す。それこそプレイメーカーが“復讐”と形容する動因であり、その過程で人が助かるならそれに越したことはない。ただそれだけであった。
「いくぞ────」
「お前は引っ込んでいろ」
だからこそ飛び出そうとしていたドンを、プレイメーカーは忌避したかった。他人の領分を土足で踏み抜いてすりつぶす様な所業を平然と行うこの男に邪魔されては溜まらない。
「俺に指図するな、俺は────」
「自分の行いが他者に害を及ぼしていることを自覚しろ。昨日のブルーエンジェルだって、お前が煽らなければハノイのカードを使うことも無かったんだ」
「そーだそーだ!この疫病神め」
「黙れ…拘束を解いてくれたことは礼を言うが、お前が居たら足手纏いだ」
反論を断ち、一方的に言いつのったプレイメーカーはデータストームに身を投げると、彼方より飛来したDボードに飛び乗って行った。
残されたドンは不愉快そうに眉をひそめた。だが彼に慰めも励ましも掛けるものはいない。代わりに晃はドンの肩に手を置いて戒めた。
「残念だけど…彼の言うとおりだ。君は速くログアウトするんだ、後のことはプレイメーカーや私たちに…」
「だから、俺に指図するな!」
しかしドンは厚意を振り払い晃を睨んだ。そこまで目立ちたいのか、自分の妹を踏み台にしてまで。拒絶されるとは思わなかった晃は声を荒げた。
「いい加減にするんだ!君が邪魔をして妹が目覚めなくなったらどうする!遊び半分でこれ以上周りを引っ掻き回すのは────」
「俺を許さないんだろう、好きにしろ!だが俺も責任を果たさせてもらうぞ!」
脳幹まで刺さりそうな大声に晃はたじろいだ。
「責…?どういうこと」
「葵が目覚めない原因が俺にあるのなら、俺はそれを禊ぎ祓うまで!晃…お前は葵の側に引っ込んでいろ」
強い圧に押される大人二人、だが晃はそれ以上に訝しんだ。何故彼は自分が許さないと言ったことを知っているのか、このことを話したのはエマと昨日の高校生たちぐらいだ。それにこの物言いを聞いたことがある────。
考えた時、頭の中に電流が走った。昨日の高校生と目の前の男、その繋がりを見出した時、晃は一人目を見開く。
「待て、待つんだ!桃井君ッ!」
いそいで呼び止めなくては、そう考えた時には、そこには晃とゴーストガールしかいなかった。
噴き出すマグマ、火炎旋風が頬を焼きつける。
リボルバーが用意した世界は正しく地獄、平穏だった電脳世界は跡形もなく。
だがプレイメーカーとリボルバー、因縁渦巻く待ち望んだ死闘の渦中に、一つの影が近づいていく。
「そこか…」
データストームの波を疾走するドンは、二人の位置に大まかなあたりを付けた。スピードデュエルは基本的に電脳の波に乗る為、デュエリストたちは波の行く先に収束する。それにあの二人は風に愛されている、この強く吹き付ける風圧が強い場所、データの街を吹き飛ばし、ポリゴンの欠片も残さないほどデータストームが吹き荒れている場所に行きつくはずだ。
その考えを証明する様に、地獄の底から光が溢れ出した。目を細め凝らしてみると、橙の肌にずんぐりとした体からねじれた螺旋状の尻尾を生やした単眼の竜が、翼から光雨を数多降り落としている。落ちた光がどんどん膨れ上がり、やがて大きな爆発となってデータストームを押し出した時、轟音が背後から迫って来た。
「む!」
振り返ると、半ば折れたビルの残骸を粉砕しながら樹木の波が迫っている。だが前からは波打つデータストームがドンを削り取ろうとしている。すかさずスロットルを引き後輪を跳ね上げると、樹木へのつっかえ棒にして、座席に身を縮めた。
後輪が樹木を押しとどめ、フロントカウルでデータストームを防ぐ。前後からの圧力はエンヤライドンを挟み込み、上空へ弾き出された。止めるものなく互いを打ち消し合う両者を下に見下ろしながらドンは体勢を立て直し、眼前まで迫っていた竜巻の中に突っ込んだ。
アクセルを全開にしてタイヤを空転させ、風を裂いていくエンヤライドン。車体は竜巻の中へぐんぐん進んでいき、内部へ突入。ちらほらと浮き上がる島の一角に見事着地した。
ブレーキをかけ停車するエンヤライドン。フロントカウルはデータストームに晒され、無残にも擦り切れている。ドンは労をねぎらうように愛車を叩いた。
「粋の良い波だった」
「そのまま溺死してもらえれば手間が省けたのですがねぇ」
慇懃そうな声が降って来た。ドンが不愉快そうに見上げると、向かいの浮島に一人の男が立っている。リボルバーと同じ白を基調とした、髪を綺麗に整えた若い男だ。
「誰だ、お前」
「これは失礼。私の名はスペクター…リボルバー様に群がる蛆を、払いに来ました」
端正な笑みを浮かべて、スペクターは一礼した。ドンは目を細めてスペクターを凝視する。リボルバーを目上として敬う態度、自分を蛆虫と同列に扱う不敬さ、何よりアバターに流れるソレは、ブルーエンジェルからわずかに感じたモノと同じだ。おおよそ目論見は露払い、あの二人のデュエルのジャマを排除しようというのだ。
「貴様もハノイのなんとやらか…」
「貴方には個人的に恨みもありますが…何より許しがたいのは、リボルバー様に剣を向けたこと!その愚鈍さを贖ってもらいましょう、あなたの敗北と共に!」
「御託はいい…かかってこい!」
ドンはエンヤライドンから飛び降りると、刀を抜いてディスクに添えた。刀はディスク側面を浮遊すると、峰と柄を消して刀身の幅を広げる。丁度カードが5枚置けるほどのそれは、正にデュエルディスクの様相だ。
スペクターもそれに応え、右掌に拳を当てる。左腕の腕輪が赤い光を放つと、両者の間に2×5の盤面と二つのEXモンスターゾーンが展開された。ルールはマスターデュエル。デッキ上限は40枚から、初期手札は5枚で行われる、デュエルモンスターズ最初期からのルールだ。
「「デュエル!」」
SPECTOR:4000
DON-MOMOTARO:4000
「私の先行!私は《
《
「現れよ、私たちの道を照らす未来回路!召喚条件は“レベル4以下の植物族モンスター1体”!」
先行を取ったスペクターの足元に現れた異形の種、それはすぐさまリンクマーカーに突き刺さると、電脳の大地に大きな木を芽吹かせた。
「リンク召喚!リンク1、《
《
スペクターの背後に現れた巨木、緑を生い茂らせ、枝々に大きな実を付けている。だがそれらを支える幹には三つの切れ込みが入っており、まるで人の相のようにこちらを見ている。
「サンアバロン・ドリュアスの効果!リンク召喚に成功した時、デッキから《サンヴァイン》魔法・罠カード1枚を手札に加える。カードを2枚伏せてターンエンドです」
後攻であるドンへの対策は万全、とでも言いたげな布陣。
「俺のターン、ドロー!」
相手の場に存在するモンスターは1体のみ、しかし攻撃力はゼロ。リンク召喚したにも拘らず地力が低いモンスターだけという状況は警戒すべきだろう。ドンは6枚の手札から1枚を取った。
「魔法カード《
手札とデッキから一枚ずつカードが墓地へ送られると、メインモンスターゾーンの真ん中に穴が空き、真っ赤なモモが出現した。
「来ォい!《A・HERO ドンモモタロウ》!」
《A・HERO ドンモモタロウ》ATK:2500 DEF:2000
「その後、俺はデッキから《融合》1枚を手札に加える!現れろ、縁を結ぶサーキッド!召喚条件は“『HERO』通常モンスター1体”!リンク召喚!リンク1、《a・HERO ドンモモタロウ》!」
着地の間も置かず飛びあがったドンモモタロウはリンクマーカーに飛び込むと、その体を小さな鎧武者に変えてEXモンスターゾーンに着地する。
《a・HERO ドンモモタロウ》ATK:250 LINK:1(↓)
「自分メインモンスターゾーンにカードがない時、《A・HERO サルブラザー》を特殊召喚!この瞬間、墓地の《A・HERO オニシスター》の効果発動!自分フィールドに《A・HERO》が特殊召喚された場合、自身を特殊召喚できる!」
アルターヒーローの背後に現れたのは二人の御供。一人はブルーエンジェルとのデュエルでも現れたムッキムキの青猿。もう一人は黄色いコスチュームに身を包んだ、女性の新顔だ。
《A・HERO サルブラザー》ATK:2000 DEF:500
《A・HERO オニシスター》ATK:1800 DEF:1600
「この効果で特殊召喚したオニシスターはフィールドを離れた時デッキに戻るが…再び現れろ、縁を結ぶサーキッド!召喚条件は“『a・HERO』含む効果モンスター2体以上”!」
号令に応じてアルターヒーローがオニシスターの後ろに回り込むと、尻を蹴ってリンクサーキッドに押し込んだ。哀れオニシスター僅かな登場、代打務めるは両足が列車になった新たな小英雄。
「リンク召喚!来ォい!《a・HERO ドントッキュウモモタロウ》!」
《a・HERO ドントッキュウモモタロウ》ATK:500 LINK:2(↑, ↓)
「ほ~、新しいリンク2ですか」
「ドントッキュウモモタロウの効果!特殊召喚成功時、自分と同じ向きのマーカーを持つリンクモンスター1体を対象に、その効果を無効にする!サンアバロン・ドリュアスの効果は無効だ!」
ドントッキュウモモタロウは両腕が変化したであろう黒い鋏をチョキチョキ音を立てると、線路をドリュアスまで伸ばして発車した。狙うはドリュアスのリンクマーカー、切り取ってしまえば能力を失うだろう。
「ならば私は永続罠《
しかし大地に根を張る聖天樹は鋏ごときでは砕けない。幹に刻まれた口が開き、近づく不届きものを一喝で吹き飛ばした。
「このカードがある限り、私の『サンアバロン』モンスターは効果の対象には出来ません!」
「ならばこれはどうだ?魔法カード《融合》を発動!手札の《Z・HERO ゼンカイジュラン》とサルブラザーを融合!」
鋏は防がれたが、まだ手はある。場のサルブラザーと手札のゼンカイジュランが現れた渦へ飛び込むと、爆発が起きた。
突然の揺れにたじろぐスペクター、何事かとドンを見ると、その背中に噴火した火山を背負っていた。何時の間にと訝しむ間もなく、轟々と打ち上げられるマグマから現れたのは一体の巨人。黒い剛腕、色違いの両足に支えられた深紅の体、側頭部から伸びた角を震わせ、恐竜の神が出陣する。
「牙を剥け、吠え上げろ、奇跡を起こせ!融合召喚!発動!《ZA・HERO
《ZA・HERO
「サルブラザーの効果で1枚ドローし、大獣神の効果発動!互いのターンに1度、エンドフェイズまで相手カード1枚の効果、サンアバロン・フォースの効果を無効にする!バトル!ドントッキュウモモタロウでサンアバロン・ドリュアスを攻撃!」
大獣神の目が輝くと、圧倒的アイツ感が場を支配する。ドリュアスの威圧が恐竜の神の威光の前に吹き飛んだ。
「ドリュアスの効果!このカードは攻撃対象にされません、よってこの攻撃は私への
ドントッキュウモモタロウがドリュアスを無視してスペクターに突っ込んでいく。先ほどは巨木故に傷つくことはなかったが、人はそうはいかない。
SPECTOR:4000→3500
ライフが減った手ごたえを感じたドン、二番手となった大獣神が天から降りし剣を掴んだ。恐竜剣ゴッドホーンに赤雷が集まり、邪悪を滅する一振りが振るわれる。
「大獣神で攻撃!《超伝説・雷光斬り》!」
SPECTOR:3500→800
ライフが1000を切る大ダメージ。数多の魔を切り裂いた大獣神の攻撃が通った、だがドンの顔は浮かばない。何故なら白い服に黒い切り傷が入り、満身創痍のハズのスペクターが、嗤っていたから。
「この瞬間、サンアバロン・ドリュアスの効果発動!1ターンに1度、自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合に、その数値分だけ自分のLPを回復、EXデッキから「サンヴァイン」モンスター1体を特殊召喚します!」
SPECTOR:800→3500
ドリュアスの枝葉から現れた蔦がスペクターの全身に絡みつくと、陽光のような光に包み込む。光が晴れツタが去ると、そこには切り傷も煤もない、デュエルを始めた時のスペクターが立っていた。
変化はこれで終わらない。ドリュアスの付けていた実に一つが震え出したかと思うと、紫の粘液を迸らせながら何かを産み落とした。
「現れろリンク1、《
《
「その枝、気持ち悪くないのか?」
「母親の抱擁を気色悪く思う子がどこにいますか?──まぁあなたにはわからないでしょうが…親のいないあなたには」
「お前…まさか」
「サンヴァイン・ヒーラーの効果!特殊召喚に成功した時、ドリュアスを対象に、そのリンクマーカー一つに付き300のライフを回復する!」
生まれたソレ、薔薇のようなドレスを着た緑色の少女は、ドリュアスと同じく光を放ち、スペクターを癒していく。
SPECTOR:3500→3800
ダメージがほぼ喪失した様子を見て、ドンは察した。これがヤツの基本戦術だと。
攻撃対象にならないサンアバロンリンクモンスターを中心に、ダメージを糧として展開を繰り返していく絶対防御戦法。トリガーとなるのが相手からの攻撃と受動的なものだから展開スピードは遅いが、長引けば長引くほど相手に有利な状況となるのは明白だ。対策を講じて短期決戦に持ち込まなくてはならない。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「ではこの瞬間、罠発動!《
だが聖天樹は地面に張り巡らせた根をしならせて伏せカードを弾く。同時にドンの体を鞭のように打ち付けて、僅かに仰け反らせた。
「おやおや、《マジスタリー・アルケミスト》でしたか。危ない危ない」
弾かれて見えた絵柄を確認したスペクターがほっと胸をなでおろす。ワザとらしい所作だが、確かに彼にとってはアブナイ一手だったのだから除去できて安心、はあながち間違いではないのだろう。
スペクターは自分にターンが映ったことを確認すると、デュエルディスクより展開されたリングからせり出たカードを取った。
「では、私のターン!自分フィールドに『聖天樹』モンスターが存在する場合、手札を1枚墓地へ送って、永続魔法《
どうやら能動的にサンアバロンを展開するためのカードらしい。だがその一手は神が許さない。
「ならば大獣神の効果!互いのターンに1度、エンドフェイズまで相手カード1枚の効果を無効にする!《大獣神ビーム》!」
大獣神の角から放たれた雷が、カードに直撃する。色を失ったカードはもうこのターン使い物にならない。だな尚もスペクターの笑みは消えることはなかった。
「でしたら2体目のゲニウス・ロキを召喚!そして自分フィールドに植物族通常モンスターが存在する場合、手札の《
《
ゲニウス・ロキ、サンヴァイン・メイデンと合わせて3体のモンスターがスペクターの下に集う。単純計算で、一気にリンク4を呼び出すことができる数だ。その内メイデンとシャドウが地中に潜ると、ドリュアスがその身を大きく振るわせ始めた。
「現れろ、私たちの道を照らす未来回路!召喚条件は“植物族モンスター2体以上”!リンク召喚!リンク3、《
人面がボコりと膨れてニョキニョキと伸びていく。幹に埋め込まれただけだったそれは次第に凹凸を作り上げていき、やがて端正な顔立ちの女性へと変化した。
成長を終えた女性が目を見開きこちらを睥睨する。彼女の背にはドリュアスの3倍はあろう大きさにまで成長を果たした巨木があった。
《
「伸びたな」
「ドリュアノームもまた、攻撃対象になりません。そして1ターンに三度まで私が戦闘・効果ダメージを受けた場合に、自身のリンク先に《聖蔓》モンスターを特殊召喚し、受けたダメージ分ライフを回復します!」
即ち最低4回以上攻撃しなければマトモにダメージを与えることが出来ないことになる。しかもその間は相手フィールドにアドバンテージを与え続けることになる。ドリュアデスを見上げながらドンは面倒そうに眉をひそめた。
「そして現れろ、私たちの道を照らす未来回路!ゲニウス・ロキをリンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク1、《
《
ゲニウス・ロキから発芽したのは新たなモンスター。木の葉を纏い、刺々しい鋸刃を背負った緑の剣士だ。
「サンヴァイン・スラッシャーの攻撃力はリンクしている《サンアバロン》リンクモンスターのリンクマーカー一つに付き800アップする!バトルです!スラッシャーで大獣神に攻撃!」
《
母なる聖天樹の加護を受けた剣士が大獣神に突撃する。大獣神のゴッドホーンとスラッシャーの剣がぶつかり合い、ゴッドホーンの両断と共に決着する。
真一文字の切れ込みから光が迸り、爆散する大獣神。炎風がドンを焼きそのライフをジワリと削っていく。
DON-MOMOTARO:4000→3500→3200
だがそれだけでは終わらない。
「永続罠サンアバロン・フォースの効果!相手モンスターを破壊したことで、フィールドのリンクマーカーの数が一番多いモンスター、つまりドリュアデスのリンクマーカーの数×100のダメージを相手に与えます。そしてスラッシャーの更なる効果!戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターを効果を無効にして私のフィールドに特殊召喚する!」
「何!?」
「さぁ現れなさい大獣神!」
スラッシャーが手をかざすと、ドリュアノームが根をうごめかせて地面を隆起させる。ボコりと出てきたのは先ほど破壊された大獣神。しかしその眼は怪しい紫の輝きを宿していた。
「俺のモンスターを盗るな、返せ!」
「お断りします、大獣神でドントッキュウモモタロウに攻撃!」
全身に巻き付いた根に操られるまま、大獣神は折れた剣を構える。構えは超伝説・雷光斬り、受ければどうなるかは先ほどスペクターが証明した。
「ドントッキュウモモタロウの効果!このカードが戦闘・効果の対象になった場合、このカードをリリースして、墓地のリンク1モンスターに攻撃対象を差し替える!」
だからこそドントッキュウモモタロウは両手足の追加パーツを外し、アルターヒーローに戻る。赤いモモ武者ならばたとえ神の一撃でも耐えることができる。
「a・HERO ドンモモタロウの効果!このカードは戦闘では破壊されず、互いの戦闘ダメージもゼロにして、更に!ダメージ計算後、戦闘した相手モンスターの元々の攻撃力以下の守備力を持つモンスター一体を、自身の墓地から特殊召喚できる!」
桃型に変形したアルターヒーローとゴッドホーンがぶつかり合う。空間に波紋が広がり、その中からモンスターが飛び出した。
「戻ッてこい《Z・HERO ゼンカイガオーン》!」
スタートジャンクションで墓地に送っていたZ・HERO。念のためか守備表示だ。だが攻撃の要である大獣神は相手に奪われたまま。効果が無効になっているからその真価をスペクターが使えないことは幸いだが、状況は一気に不利になった。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドです!」
だが日本一の暴太郎は決して怯まない。伝説のヒーローは大獣神だけではないのだから。
3ターン目。
「俺のターン!《Z・HERO ゼンカイマジーヌ》を召喚!」
現れたの4人目のZ・HERO。トンガリ帽子を被り、両肩からドラゴンの翼を生やしたピンクの魔女っ子ロボだ。
「マジーヌの効果!自身が召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキトップからカードを3枚確認し、その中に魔法カードがあればその内一枚を手札に加える!《ぬぬぬマジーヌ》!」
手にした杖を翳し、先端に埋め込まれた宝玉を輝かせると、デッキの上からカードが独りでに動き出し、ドンの前に整列する。マジーヌの魔力に反応しているのか、うち2枚が桃色のオーラを纏っているが、その内1枚を手に取ると、残されたカードたちは独りでにデッキに戻って行った。
「魔法カード《
墓地と手札を反復するサルの御供の負担を無視して、再び現れた融合の渦。マジーヌを飲み込んだ渦が姿を変えたのは、巨大な魔法陣だった。
中央に巨大な“M”をあしらった魔法陣の淵に現れる5つの影。唸る大地の
「今こそマジンの王となれ、マージ・ジルマ・マジ・ジンガ!《ZA・HERO マジキング》、ナンバーワン!」
目深に被った帽子を弾き、緑の慧眼を輝かせた唯一無二のマジンの王。
《ZA・HERO マジキング》ATK:2700 DEF:2300
「サルブラザーの効果で1枚ドロー!マジキングの攻撃力は互いの魔法・罠カード1枚につき100Pアップする!」
《ZA・HERO マジキング》ATK:2700→3400 DEF:2300
「魔法カード《死者蘇生》発動!墓地のドントッキュウモモタロウを蘇生させ、現れろ、縁を結ぶサーキッド!召喚条件は“『HERO』効果モンスター2体以上”!2体のa・HEROをリンクマーカーにセット、サーキッドコンバイン!」
2体のモンスターが上、下、左斜め下のリンクマーカーに飛び込むと、何故か後ろで停車していたエンヤライドンが動き出した。
「何故バイク…」
ポカンと口を開けるスペクターを他所にエンヤライドンの隣にゼンカイジュランが現れた。ジュランはゼンカイオーになるかのように変形すると、エンヤライドンもそれに合わせて人体の半身に変形していく。
「リンク召喚!来ォい、《ドンゼンカイオー》!」
《ドンゼンカイオー》ATK:2500 LINK:3(↑,↙,↓)
完全な人型へと合体した全身真っ赤な機人、右肩のギアを回転させ、水色のブレードを腕から林店に掲げる様は、全力全開で暴太郎の如く。
「ドンゼンカイオーとそのリンク先のヒーローの攻撃力は墓地の「HERO」カード1枚につき100アップし、共に貫通効果を得る!」
墓地のモンスターは合わせて7枚。この力はすぐ後ろのマジキングにも反映されていく。
《ドンゼンカイオー》ATK:2500→3200 LINK:3(↑,↙,↓)
《ZA・HERO マジキング》ATK:3700→3800→4500 DEF:2300
互いに力を高めていく二体のロボット、マジキングに至っては自身の効果も相まって一撃でライフを削り切るほどの攻撃力に変化している。これには余裕の笑みを崩さないスペクターも素直に感心した。
「ここまで攻撃力を…ご苦労様です」
「要は一撃で終わらせれば、お前の母親とやらも回復できまい…」
確かにサンアバロンモンスターは強力なカードだ。だがしかしその効果を発動できるのは、攻撃されライフが残った場合のみ。圧倒的な火力の前では消し炭になるだろう。シンプルで効果的な対策だ。
「だが、先ずは大獣神を返してもらう!ドンゼンカイオーの効果発動!このカードがリンク状態の時、1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体の表示形式を変更できる!大獣神を守備表示にして、バトルだ!」
EXモンスターゾーンから跳躍したドンゼンカイオーは右足の仕込み銃から弾丸を撃ち込んだ。雨霰のように降り注ぐそれらに鈍く反応する大獣神、ぐらつく体目掛けて、ドンゼンカイオーは大きく身をよじらせた。
「大獣神を攻撃!《ドンゼンカイクラッシュ》!」
超大上段からの唐竹割りが、神を聖天樹の呪縛から解き放つ。大獣神は守備表示、そしてドンゼンカイオーの効果でスペクターに切っ先が突き刺さった。
SPECTOR:3800→2900
《ドンゼンカイオー》ATK:3200→3300 LINK:3(↑,↙,↓)
「マジキングでサンアバロン・ドリュアノームを攻撃!マジカルクライマックス!」
続くマジキングが魔法剣キングカリバーで軌跡を描く。描かれた魔法陣が刀身に集中し、マジキングが雄々しき翼を背に生やすと天高く舞い上がった。
これを喰らえば母なる聖天樹は真っ二つになるだろう。スペクターはその様相を目にして、これまでにないほど顔を歪めた。
「怖いですねぇ、その浅はかさ!罠カード《
「マジキングの効果!1ターンに1度、墓地の魔法カード1枚を除外することで、相手が発動した魔法・罠カードの効果を無効にして、互いの魔法・罠ゾーンのカードを全て破壊する!《ジー・マジ・ジジル》!」
なっ、と愉悦が驚愕へ。マジキングが唱えた呪文に呼ばれ、無数のキングカリバーが現出。互いの魔法・罠ゾーンのカードへ目掛けて一斉に射出した。
《ZA・HERO マジキング》ATK:4500→4600→4500 DEF:2300
「そう来ましたか…ですが永続罠発動《
「問答無用だ!たとえその効果が通っても、お前の母親を支える力は跡形もなく消え去るわ!《キングカリバー魔法斬り》!」
「しかしこのターンは持ちこたえられます!」
マジキングの一撃がドリュアノームに直撃する、その刹那に躍り出たスラッシャーが身を挺してドリュアノームをかばった。スラッシャーは爆散し、その火の粉がスペクターを焼いていくが、内心彼は安堵していた。
SPECTOR:2900→1700
「危ないところでしたね…ドリュアノームの効果!1ターンに3度まで、自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合に、EXデッキから「サンヴァイン」リンクモンスター1体を自分フィールドの「聖天樹」リンクモンスターのリンク先となる自分フィールド特殊召喚し、受けたダメージの数値分だけライフを回復します。」
何故なら母なるドリュアノームは健在。今も付けた実から新たな守護者を生誕させ、命漲るその草木で優しく包み込んでくれる。一撃で倒すと宣った愚かな妄想はここに崩れた。
《
SPECTOR:1700→2900
「クライマックスにはまだ遠いですよ?もう少し、貴方の下らないヒーローごっこに付き合ってあげましょう…」
「だッたら嫌と言ッても見せてやろう!乳離れできるよう、その大木を叩き切ッてやらァ!」
じか~い、次回…
あぁ、実に美しい、我が母なる樹よ…
愛で結ばれた我らの絆は何人にも断ち得ない、断ち切らせない。
今こそ本物の愛でLINK VRAINSを照らし、愛を知らぬ愚図の命を奪い去る────。
『いだいなおかあさま』
めでたし、めでた「引ッ込んでいろ!」
今日のカード
○ZA・HERO マジキング
融合・効果モンスター
星8/闇属性/戦士族/攻2700/守2300
「Z・HERO ゼンカイマジーヌ」+「A・HERO」モンスター1体
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
①:このカードの攻撃力は互いのフィールド・墓地の魔法・罠カードの数×100Pアップする。
②:1ターンに1度、魔法・罠カードの効果が発動した時、自分墓地の魔法カード1枚を除外して発動できる。その発動を無効にし、互いの魔法・罠ゾーンのカードを全て破壊する。