今年最初の投稿は、「Yu-Gi-Oh!! AVA-TARO」が行きつくかもしれない、未来です。
閑話:アバターパーティーVRAINS!
謹賀新年。今年は兎年。
「あけましておめでとう!」
「…いきなり何だ」
新年のあいさつをしたら顔をしかめられた。解せない。
「相変わらず辛気臭い顔をしているな、遊作」
「相変わらず不躾だな、お前は」
への字に曲げていた口が、さらに曲がったような気がする。
ハノイの騎士との激闘、タロウが発端のある騒動、そしてイグニスたちとの戦いを経て無事新年を迎えることが出来た遊作。昨年溜まりに溜まった疲れ故に、新年一日目はゆっくり過ごし、学生駅伝をやっている間は惰眠をむさぼろうとしていた時に、突然家のベルが鳴った。
出る気がなかったので居留守を決め込もうとしたが、その後も一定間隔でピンポーンピンポーンの嵐。一体何処のドイツだ、何となく予想できてしまいまがらもベットから飛びあがりドアを上げると、案の定だった。
「…で、結局何の用だ」
「初詣に行くぞ」
「断る」
「早い」
即答した遊作にタロウが突っ込む。確かに今は初詣の時期、多くの人達が今年一年の無事と安全を祈願しているが、行く予定はない。その理由は三つある。
「一つ、今日わざわざ行くほどの事じゃない。二つ、今日はたぶん混んでいる。三つ、たまの正月くらいゆっくりさせてくれ」
「…え、遊作行かないの?」
割とだらしのない理由を挙げていくと、横から白い髪のメガネ男子、穂村尊が顔を出してきた。二人の後ろには財前葵がちらりと見えているし、三人とも袴と浴衣をそれぞれ来ている。コレから三人で向かう様子だが、それならそれでいいのではないか?
「…第一、何で俺もなんだ」
「初詣に行こうとしたら、葵と尊に会ってな。どうせなら御供総出で行こうと思っただけだ」
「なら俺は御供じゃない」
「それ言ったら私も御供じゃないんだけど」
「俺も、いつの間にか御供認定されてたし…」
「そういうことだ、準備しろ御供」
だから違う、と言いながらもたじたじになる。さしものLINK VRAINSの英雄と謳われた男も、三対一の数的不利に徐々に押し切られ始めていた。
どうしたものか、遊作は思案する。別に今日絶対に行かないという訳ではない。初詣は七日までには行ったほうが良いと言われているし、早いに越したことはないだろう。それによくよく考えれば、この言い出しっぺのトラブルメーカーが何をしでかすともわからない。ストッパーは多いほうが良い。
「解った、参拝までなら付き合う」
「やった!」
熟考の末返事を出した遊作はドアを閉めると、タンスから黒地のガウンコートを取り出す。
まぁ尊が喜んでいたから付き合うのも、と意味のない理屈付けながら身支度して外へ出た。
そして1時間後、藤木遊作は後悔した。
「何でこうなった…」
今年も波乱の幕開け、なんて生易しいこと言っている場合ではない。同時に付いてきてよかったとしない方がよかった得心もいってしまった。
「この俺の歌声を25点とはいい度胸だな!貴様、私たちとのど自慢勝負だ!」
「25点は25点だ!だが勝負は受けてやろう!行くぞ御供たち!」
タロウが向き合っているのは紅白歌合戦で演歌でも歌うのかと聞きたくなる派手な服装の集団。手に持ったマイクから拡声された声がハウリングして耳が痛い。
どうも初詣なのに神社でDen City恒例のど自慢大会が行われており、Den City中の歌自慢が一堂に会し新年を祝って声を枯らしていた。だがそのうちに一組の採点に割り込むようにタロウが勝手に採点してしまったのだ。
いきなりの低得点に相手は当然激怒、タロウも採点理由を言ったのだが、これが余計火に油を注ぐ事態となり結果タロウは遊作と葵と尊、そして屋台を出していた草薙翔一を巻き込んでのど自慢に参加する運びとなったのであった。
「何でお前は新年早々トラブルを持ってくるんだ…」
「慣れましょ。私は慣れたわ」
「達観するな財前葵、文句の一つ言ってもいい立場のハズだ」
「いいんじゃない?たまにはこういうの」
「尊、顔をキラキラさせるな」
ステージ脇の控室に座る遊作は両隣で正反対の対応をする二人に突っ込む。右側の葵は昨年最もタロウと関わりが深かったせいで彼の奇天烈っぷりに振り回され慣れている。ある意味桃井タロウのプロフェッショナルという不名誉を得た彼女の眼はやはりここではない何処か遠くを見ていた。
対して左側、尊は純粋にのど自慢が楽しみらしい。伊達眼鏡の下の目の輝きがまぶしいくて仕方ない、荒んだ遊作の心に沁みる。乗り気な人間が一人でもいるからいいものの、場合によっては総スカンを喰らう処だ。
絆されているのか、半ば諦観じみた溜息をもらす遊作に向かい合う草薙が苦笑した。
「まぁいいじゃないか。俺も遊作の歌を聞いてみたいし」
「草薙さん…すまない、巻き込んで」
「せっかくだ俺も参加しようかな?」
「歌えるのか?」
「何でか自信が湧いてくるんだよな~」
「歌ったことないのか…」
ココにも一人いた、ノリノリの人。そして心なしか不安しかない。
草薙は実際どうだか知らないが、藤木遊作は歌を歌ったことなどない。だからのど自慢などどう対処すればいいのか分からないのだ。と言うよりも。
「何故こういう時に限ってデュエルじゃないんだ!」
「「それは確かに思った」」
「Den Cityに来ているんだからディスクの一つくらい持っているだろうに…わざわざ相手の土俵で戦う必要あるか?」
「…あの感じ、多分流れで勝負内容決まってたわね」
「出来ればもう少し早く止めるべきだったな」
「まぁそれはそれで時間かかったんじゃない?会場にも迷惑掛かっちゃうし」
憤ってみたが現状がどうにかなるわけでもない。勝負することはもう決定事項だ。ここにいる5人で何とかするしかない。
あごに手を当て思案する遊作の顔を葵が申し訳なさそうに覗き込んだ。
「藤木君。毎度毎度ごめんなさい」
「…大丈夫だ、慣れたくなかったが慣れてしまった」
「でもまんざらでもないでしょ二人共?」
「「は?」」
「…二人共しわが寄ってるよ~」
尊の指摘に二人して眉間にしわが寄る。気持ち低めの睨みに苦笑しながら、尊はリラックスするよう促した。
「俺は結構楽しいよ、こういうの」
「尊が楽しいなら、それでいいんだが…」
「そもそも来たくないなら、無理にでも神社を出ればよかったじゃん」
「…」
「どうせなら思いっきりやろうよ?」
ね?と首を傾ける尊から目を逸らすように、遊作たちは反対を見た。ステージとは逆側、機材が置かれている場所でスタッフらしき男とタロウが話している。
どのような曲を選ぶのか、遊作にはわからない。ハノイの騎士と闘っている頃から幾度となく衝突してきたし、時に全力でデュエルしたこともある。今思い返してもあの時は柄にもなく声を荒げたものだ。ああも腹の底をひっくり返されたのは財前晃とのデュエルの時以来だろう。
しかしそれは彼の出自も内面も、逆に自分の内面もむき出しにしあったことでもある。熱い友情、などと青臭い台詞で表現するには憚られる、それでもタロウのいう処の「縁が出来た」のは事実だし、それを享受しているのも指摘通りかもしれない。
だが遊作は、まだ互いに知らないことは多いと首を振った。例えば歌の腕前とかは知らない、だから尊が思うような気持があるわけではない。遊作は二人の方へ向き直った。
「ところで、歌の経験は?」
「ブルーエンジェルの方でちょっと…でも他の人のカバーとかだし」
「俺はじいちゃん家にカラオケマシンがあったから…でも使ったの10年以上前だしな」
「安心しろ、必ず勝つ!俺との縁は、超良縁だ!」
腕をたくし上げたタロウが高らかに言い放つ。不安要素しかないのを聞いていなかったのか、それを上回るほどの自信があるのか。どちらにしろ会場のアナウンスが聞こえて来た、時間だ。
「歌が決まったぞ!」
「それは俺たちが知っている歌か?」
「大人数で歌う用らしいが、御供たちならやれるはずだ!」
「…不安しかないな…やるだけやってみよう」
「そうね」
「やべぇ草薙さん、緊張してきた」
「大丈夫だ尊、こういうのはノリで何とかするモノさ」
「行くぞ、御供たち!」
「「「誰が御供だ」」」
何時もの通りに返して、ステージに上る。デュエルディスクの代わりにマイクを口元に運ぶ。武器は、諸君らの声だ。
イントロが聞こえる。心音がパーカッションとシンクロする。観客の雑音さえ置いて行き、揺るがない境地───さえも吹き飛ばす、ブレブレ上等バカ騒ぎの始まりだ。
騒がしい熱気が急速に冷めていく。残った自分の温もりに身もだえながら、彼は布団から起き上がった。
「今のは…」
藤木遊作は頭を押さえながら時計を見た。睡眠時間はさほど長くなかったはずだが妙な軽やかさがある。疲れが取れていないのだろうか、ぼんやりと考えながら服を脱ぐと黒字のパーカーを着込み、デュエルディスクを装着する。そして机の引き出しからデッキを取り出すとディスクに差し込んだ。
「Into The VRAINS」
夢の内容はどんなものだったか、ただ久しぶりに悪夢じゃなかったことは確かだった。
何時かの明日に、
今年も著者の作品をよろしくお願いします!
今日のカード
○トークン(DON-MOMOTARO)
このカードはトークンとして使用する事ができる。
DON-MOMOTARO:「今このカードを見たな?これでお前とも縁が出来た!」