「酷い顔.......」
月曜日。
目が覚めて直ぐに鏡を覗き込むと、眼は充血し、腫れていた。
「おはよう.......」
憂鬱な気持ちで両親に挨拶をする。
「千佳.......。おはよう!」
暗い表情のわたしに母は一瞬心配するも直ぐに笑顔で元気に返事をしてくれた。
お父さんはいつものように新聞を読んでいる。
朝ごはんを食べ終わると、お母さんに弁当を渡される。
「いつもありがと、お母さん」
普段は何も言わずにお弁当を受け取るが、今日は珍しく感謝の言葉が出た。
「なぁに?何かあった?」
「.......ううん。何でもない」
「そう.......気をつけてね」
「うん。行ってきます!」
「.......千佳!」
お母さんは心配そうな表情でお父さんに聞こえないように耳打ちをしてきた。
「何かあったかは聞かないけど、話したくなったらいつでも言いなさい。お母さん、一生懸命に聞くから」
「お母さん.......。ありがとう、いつか話すから」
「うん!行ってらっしゃい!」
お母さんのお陰で暗くなっいた心が少し明るくなった気がする。
ありがとう、お母さん。
わたしの気分を表現するかのように家を出ると雨が降っていた。
お母さんのお陰で明るくなりかけた心がまた暗くなる。
はぁ.......。学校行きたくないなぁ。
かおりに何て顔で会えばいいのか、分からない。
ため息をつきながら学校へ向かった。
教室に入ると、いつものように皆が挨拶をしてくる。
「お、おはよう.......」
わたしは笑顔を作り、返事をする。
すると、かおりが心配そうに駆け寄ってくる。
「千佳!どうしたの?何かあった?」
「かおり.......。ううん。何でもない」
「嘘ばっかり。眼は赤いし、腫れてるし、さっきも無理やり笑顔作ってたし.......」
「.......心配してくれてありがと。でも本当に何でもないから」
「そっか.......。分かった」
かおりは何かを悟ったのか、それ以上話しかける事はなかった。
そしてかおりと何も話さないまま、放課後になった。
「千佳〜!今日暇?」
「かおり.......。暇だけど.......」
正直、まだかおりとは話したくなかった。
「じゃあ今日、千佳ん家、泊まりに行っていい?」
「え.......?何で?」
「話したい事、いっぱいあるからさ」
話したい事、か.......。
「でも明日も学校だし.......」
「いいじゃん!学校には遅刻しないようにするしさ!」
「ん〜.......分かった」
かおりはきっとわたしの事に気付いているのだろう。
だから二人きりで話し合う場を設けたのだ。
わたしもかおりに話さなければならない事がある。
だからかおりの提案にのることにした。
「じゃあ、準備したら千佳ん家行くから!」
「分かった」
わたし達は急いで家に帰る事にした。
家に着くなり、お母さんに相談した。
「お母さん!この後直ぐにかおりがうちに泊まりに来るけどいいよね?」
「え?今から?別に構わないけど急ね.......」
「かおりが話したい事があるんだって。わたしも話さなきゃならない事があるしさ。それも含めて今度お母さんには報告するからさ」
「.......分かったわ。今日はご馳走にしなくちゃ!」
お母さんは張り切って料理を始める。
ありがとう、お母さん。
かおりに連絡すると直ぐに行くと言っていた。
暫く待つと、かおりが家にやってきた。
「おぃーっす。来たよ〜千佳〜!」
「あら、かおりちゃん。久しぶり〜!」
お母さんはわたしよりも先にかおりの元へ向かう。
「お久しぶりです。今日は泊まらせていただきます!」
「学校には遅刻しないようにね」
「はい!」
かおりと楽しそうに話をしているお母さんがリビングに戻って来た。
「ちょっとお母さん。勝手にかおりと話さないでよ」
「なによ。いいじゃない」
「そうだよ、千佳」
「う.......。と、とにかく、話があるんでしょ!わたしの部屋に行くわよ!」
わたしは慌ててかおりを連れて自分の部屋へ入る。
「.......で、話ってなに?」
わたしは気づいてて知らぬ振りをした。
「千佳なら分かってるでしょ?」
「.......そうだね。ごめん、かおり」
「別に謝る事ないじゃん」
「ううん。わたし、かおりが比企谷くんに惹かれてること、分かってたのに.......」
友達の好きな人を好きになるなんて、最低だ。
「あたしだってあの子達の後に比企谷を好きになったわけだし」
「それとこれは違うでしょ。かおりはわたしの大事な友達だから.......」
「友達と同じ人を好きになっちゃダメなんて決まりないでしょ?」
「でも.......」
「あたしはね、怒ってるんじゃないんだよ?嬉しいの。初めは比企谷に嫌悪感を持っていた千佳が比企谷を好きになってくれたこと」
嬉しい.......?
「何で?わたしが比企谷くんをとっちゃうかもしれないんだよ?」
「元々、比企谷は誰のものでもないでしょ?比企谷が誰と付き合うかは比企谷が決めるんだから」
「じゃあかおりはわたしと比企谷くんが付き合ってもいいって言うの!?」
たまらず大声を出す。
「比企谷が決めた事なら仕方ないと思う。それに相手が千佳なら諦めもつくしね」
「かおりは可笑しいよ!何でそんなに冷静でいられるの!?本当に好きなら諦められないし、誰かにとられたくもない!自分が一番でありたいって思うでしょ!」
「あたしってさ、サバサバしてるって良く言われるでしょ?あたしもそう思う。比企谷の事は好きだし、付き合いたいとも思う。それは本気だよ?でも比企谷の意志を無視してまで付き合いたいとは思わない」
かおりは凄いよ.......。自分だけじゃなくてちゃんと比企谷くんの事も考えてる。
恋ってのは盲目で、好きなるとその人の事しか考えられなくなる。
何をしてでもその人を振り向かせようとする。
なのに、かおりはちゃんとその人の事を考えている。
わたしには無理だよ.......。
「かおりは凄いね。やっぱりわたしは比企谷くんには相応しくない」
「本当にそれでいいの?諦められないんでしょ?誰かにとられたくないんじゃないの?」
「じゃあどうしたらいいの!?」
「そんなの決まってんじゃん!アタックするしかないっしょ」
「でもわたしは自分の事しか考えられない、最低の女だよ.......」
「そんな訳ないでしょ。千佳はちゃんとあたしの事も比企谷の事も考えてるよ。だから悩んで、諦めようとしているんでしょ?でも諦めなくていいんだよ。もっと自分に素直になりなよ」
「.......わたし諦めたくない。かおりはわたしより凄い。だからこそ、そんなかおりに勝ちたい。比企谷くんと付き合いたい」
「うん!もあたしだって千佳には負けないよ!」
かおり.......ありがとう。
かおりはわたしの恩人で、ライバルだ。