86-エイティシックス- どこに行き、どこに帰るのか   作:ぺこぽん

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主人公の名前が決まらない……。


2話 戦場は遠く

 

「それでは本日の戦況をお知らせします。第十七戦区……」

 

 街頭のスクリーンにアナウンサーの笑顔が映っている。

 場所はサンマグノリア共和国第一区の首都。

 

 平和を体現したかの様な街並みに、平和を享受する人々。

 白系種ーアルバだ。

 ここには、かつては移民として受け入れらていた様々な色を持つ有色種がいたはずだ。

 だが、今はいない。

 

「……であり、本日もわが軍の戦死者は0名であります」

 

 ヴラディレーナ・ミリーゼ少佐は、その言葉に僅かに眉をひそめた。

 

 

 国軍本部を兼ねる、ブランネージュ宮殿の一角にレーナは入る。

 その中には、共和国軍人の士官達が勤務している。 

 だが彼らは、今日も相変わらず、酒に溺れ、娯楽にふけっていた。

 

「昨日は傑作だったな、あの豚ども」

「五十機以上は壊れたかなあ」

 

 レーナは聞くに堪えない言葉に足を止めた。

 

「おい、諸君。お人形好きのお姫様が睨んでるぜ」

「なんですか、ミリーゼ少佐。ただ無人機が壊れただけでしょう」

 

 ソファーに座り込む男達が嘲笑う。

 

「ははっ、お優しいことで」

「お優しいといえば、お坊ちゃんもだなあ。ああ、あの時は最高だった」

「ああ、南部のか。ちょっと他の戦区のレギオンを押し付けちまったら、お坊ちゃんの戦隊壊滅だったもんなあ」

 

 そこで一人の男が口笛でひゅーと音を鳴らす。

 

「そこに迎撃砲が……」

 

 手の平をひらひらと上昇させ、そして膝を手で打ち鳴らした。

 

「ドカン!」

 

 一歩詰め寄ろうとしていたレーナの足が、止まった。

 

「よっぽどお坊ちゃんの方がお優しいよなあ。なんせひと思いに壊してやったんだからよ。確か、せいせいしたとも言ってたか?」

 

 男達はそこで大笑いを始めた。

 

「貴方達!……」

「おはよ、レーナ」

 

 そこに、レーナの行動を静止する声が割り込んだ。

 友人のアンリエッタ・ベンローズ技術大尉だ。

 

「あんな馬鹿連中に構うのなんてやめなって」

「でも……!」

「いいから」

 

 アネットはレーナを引っ張り、歩きだす。

 

「……アネット。彼らが言ってた事は本当なの?」

 

 レーナは信じられない気持ちで、目を伏せた。

 各戦隊が受け持つレギオンは、ハンドラーが負うべき責務だ。

 命令を軽視し、他の戦区にレギオンを押し付けたなどと、軍規違反ではないか。

 

 だが、それ以上に……。

 

「ああ、迎撃砲の事? そういえば結構前から使われ始めてるわよね、あれ」

 

「彼らを巻き込んで撃ち込まれたなんて……」

 

「なんでも大勢が一度に使用申請したから、システムエラーを起こして誤発射されたらしいわよ。偶然、レギオン集結地点に発射されたからよかったけど」

 

「それをせいせいしたって、……そんな言葉で片付けるなんて、あってはならないはずだわ」

 

 迎撃砲は正しく運用すれば、部隊の損害を抑える事が出来るものだ。

 だが今は、弾薬の使用期限が過ぎたと認められるまで、使用申請すら出来ないのだ。

 それですら、ほとんどのハンドラーは新しいおもちゃを手に入れた子供の様に持て遊び、まともな運用がされていないのが現状だ。

 

「実際、ハンドラーをやめたがってたから、丁度良かったとも言ってたらしいわよ、あのお坊ちゃんは」

 

「そんな事……。待って、お坊ちゃんって誰の事なの?」

 

 自分がお姫様と、揶揄されているのはわかる。

 しかし、よく聞くお坊ちゃんとは一体。

 

「あれ、レーナ知らなかったっけ。きっと前にパーティーでも会った事があるはずよ」

 

 そこで、アネットは首を捻った。

 

「ほら、あのー。有名な。なんだっけ」

 

「え、知らないの?」

 

「だって、皆お坊ちゃんって呼んでるから。……ああ、シュタット財閥!その一人息子!」

 

 だが、名前までは出てこないらしい。

 

「あとで調べておくわ。もしかしたらお見合い相手にいたかもしれないし」

 

「シュタット家の人とお見合いを!?」

 

「そ。一応、申し込んだだけ。二、三個年上だし。でも家柄が違いすぎて相手にされてなかったかも」

 

 ミリーゼ家も嘗ては貴族であり、シュタット家もそこまで格は高くないが同じ元貴族だ。

 だが全然、記憶にない。

 常に壁の花となっていたレーナでは無理らしからぬが。

 

 とにかく名前がわかったら、言ってやりたい事があるのだ。

 機体は無人機ではなく、生身の生きた人間が乗っているのだ

 彼らも同じ共和国民であり、共に戦う仲間であると。

 

「どうしてそんなに無人機に入れ込むわけ?」

「アネット、彼らは無人機ではないわ」

 

 こちらの思惑を察したアネットの諭す声に、レーナは反論する。

 そこでレーナの情報端末に侵入警報が届いた。

 

「じゃあね、レーナ。あんまりエイティシックスなんかに入れこまないようにね」

 

 

 管制室に入り、無機質なコンソールに向き合う。

 レイドデバイスを首に嵌め、スクリーンに視線を向けた。

 

「認証開始。ヴラディレーナ・ミリーゼ少佐。東部方面軍第九戦区、第三防衛戦隊指揮管制官」

   

 認識後、管制システムが作動し始めた。

 

 まず、ホログラムのスクリーンに各種観測機器の膨大なデータが表示される。

 それから遥か前線にいる友軍機と、その先に膨大な敵性存在を示しているレギオンの存在が輝点となって映し出される。

 

「最新のマッピングデータを更新。第三戦隊半径1000mまでの詳細データをプリセット」

 

 その言葉でホログラムが情景を変え、二次元的視点が三次元域に拡大される。

 廃墟の存在、身を潜める地形、それからジャガーノートの弱点となる脆弱地形の詳細。

 それらは命を預かる戦隊が、実際に展開している場所のものだ。

 

 これらは数年前から整備されたシステムだ。

 

 ジャガーノートのガンカメラのデータから入手した情報を、データ化しホログラムで表示しているのだ。

 とはいっても阻電攪乱型のせいで、残念ながらリアルタイムではない。

 戦闘や哨戒任務の際に得たデータが元となっている。

 

 一体、これが作られる前のハンドラーはどうやって管制していたというのだろうか。 

 

 だが、それでもほとんどのハンドラーは、そんな面倒な情報を扱おうとはしない。

 そもそもハンドラーの役割は、エイティシックスの監視が目的だというのが、大勢の意見なのだ。

 実際、この機能を使用するのは自分だけなのかもしれない。

 

 それでも、自分と同じ意思を持つ誰かが、このシステムを作ったのだ。 

 彼らの、エイティシックス達の生存率を少しでも上げるその為に。

 レーナはその事を少しだけ嬉しく思い、笑みを浮かべた。

 

 そうだ。今度、このシステムを作った人に会ってみよう。

 きっとハンドラーとしての視点で、もっと改良する事が出来るかもしれない。

 

 レーナは一回だけ、コンソールを優しく撫でた。

 

「知覚同調、起動」

 

 そして、戦場の音がレーナの元に届く。

 

 

 機体が、ジャガーノートが爆散した。

 中にいた人間も共に、機械の様に砕け散る。

 手足が、内臓が、頭が断末魔と共に引き裂かれる。

 

 それでもなお蠢く死体は、こちらに口を向けた。

 何かを呟く言葉は、音となって届く事はない。

 わからない、聞こえない

 

 ―――聞く事が出来ない。

 

 目が覚める。

 

「お坊ちゃま。どうされましたか?ひどいうなされ声が聞こえましたが」

 

 控えめなノックの音と共に、こちらを心配する女性の大きめな声が聞こえた。

 

「大丈夫だ、ルイーゼ。なんでもないよ」

 

「そう、ですか。ご無理をなさらないで下さいね」

 

 どうやら、昨晩遅くまで起きていた事は悟られていたらしい。

 

「では、朝食の準備が出来ておりますので、お待ちしております」

 

「ありがとう」

 

 そう言い返し、扉の前からメイドであるルイーゼが離れていく。

 それを確認してから、リードは体を起こし、ベットから降りた。

 

 天蓋付きの豪勢なしつらえだ

 他の家具も部屋の大きさもそれに見合ったもの。

 リードはカーテンを開けると、日差しが差し込み、外の景色を見た。

 

 第一区の首都。

 それも見晴らしの良い一等地だ。

 場所は戦前から薬剤、医療などで財をなしたシュタット財閥の宮殿の一室。

 

 その景色をどうでも良さそうに見た後、少年は軍服を取り出した。 

 共和国軍人のもので、階級は少佐。

 

 鏡でリードは、何度も何度も自分の姿を確かめる。

 長めの銀髪に、銀瞳。

 

 なるほど、軍でお坊ちゃんと馬鹿にされる訳だ。 

 リードルフ・シュタット少佐。

 年は19。

 19のはずなのだが、そうは見えないだろう。

 

 未だ成長途中の身は平均身長から到底低く、未だ声も若い。

 何より顔は少女の様であり、童顔から幼く見られがちだ。

 

 仇名の極めつけは軍務中のリードに、ルイーゼが忘れものを届けに来た事だろう。

 何もいつもの調子で、名前を呼ばなくてもいいものを。

 

 だが、6も年上でよく尽くしてくれている彼女を諫める事など出来ない。

 

 リードは執拗なほどの、身だしなみの確認を終え机に向かった。

 机に置かれているのは、昨夜遅くまでまとめていた意見具申書だ。 

 

 題は"戦後 86区の劣等種たるエイティシックスの最終的解決"

 

 それを引っ掴むと鞄に放り込み、足を止めた。 

 瞳を一度閉じ、一息ついた呼吸の後、顔を上げる。

 そして、部屋を出る前に声を発した。

 

「行ってきます。おじい様、おばあ様」

 




主が、『おまえの名は何か』とお尋ねになるとそれは答えた。『我が名はレギオン。我々は、大勢であるがゆえに』

やっぱ、レギオンって聞くとガメラ2なんですよね。
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