86-エイティシックス- どこに行き、どこに帰るのか   作:ぺこぽん

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体もってくれよ!!俺のモチべぇ!!


20話 特殊装備

 「第一戦区第一防衛戦、スピアヘッドへの補給物資……」

 

 輸送係の伍長は怪訝そうに、書類にサインするレーナに胡乱気な視線を向けた。 

 そして当然、次にレーナの後ろにある頑丈そうな二つのコンテナに目が行く。

 

「少佐……このコンテナの中身は一体何でしょうか?」

 

「と、特殊弾頭に特殊装備です……」

 

 引き攣った声でレーナは答える。

 当然怪しい事、この上ない。

 

「本当でしょうか……?」

 

 そこにレーナがそっと差し出す手には、お金の束が握られていた。

 ありったけのレーナの財布の中身すべてだ。

 それを伍長は一瞬目が泳ぎ、受け取りそうになるも、なんとか手の平で押し返す。

 

「こ、困ります。最近、ただでさえ輸送部隊の方に余計な荷物が増えて困ると苦情がきていまして……」

 

「え……」

 

 レーナに動揺からなる言葉が漏れた。

 まさか、断られるとは思ってもみなかったわけで、その後の対応など用意しているわけもない。

 

「一度中身を改めさせて貰い、精査さして頂いた後に……」

 

「そ、それは!」

 

「いいだろ、伍長」

 

 あたふたと慌てて手を動かすレーナに救いの声が掛かった。

 

「……シュタット少佐。もしや貴方の入れ知恵ですか」

 

 ヨナがレーナの隣に立ち、有無を言わせずレーナの倍の金額を伍長のポケットに突っ込む。

 

「技術部からの依頼でもあるんだよ。新兵器の開発はどこの部署も拮抗していてな。エイティシックスなら安全を気にせず試験が出来るだろ?」

 

 軽薄そうにヨナが笑うのを演技だとわかっているのでレーナは反応しない。

 

「伍長もどの勝ち馬に乗るか、考えてみたらどうだ」

 

 ヨナが身を乗り出すと、伍長は諦めたとばかり白旗を上げた。

 しかし、融通が利かないのか部隊の仲間の非難の方を気にしたのか、最後に躊躇しながら口を開く。

 

「で、では。せめてミリーゼ少佐の物は正式に技術部からの申し出をしてからで」

 

「そんな……それでは間に合わなっ……」

 

 何かを言い掛け、慌ててレーナは口をつぐんだ所で隣から肩に手を回してき者たがいた。

 

「伍長、わかるだろ。ここは俺の顔を立ててくれよ」

 

 ヨナがレーナの肩を抱き、傍から見ればそういう関係であるかのように思わせる様にしてきた。

 レーナは顔が赤くなるのを自覚しながらも、こくこくと意味もなく首を振る。

 

「……わかりました」

 

 気弱そうな伍長は諦めて、首を縦に振ったのだった。

 

 

 輸送部に念押しした後、二人は通路を歩いていた。

 

「先程は、不埒な真似をしてすみませんでした」

 

「いえ、少佐が来てくださって助かりました」

 

 ヨナが申し訳無さそうに眉を下げるのに、レーナは首を振る。

 

「もっと早く来れれば良かったのですが、彼の説得に手間取ってしまいまして」

 

「大丈夫でしょうか……」

 

「ええ、あれでも腕は確からしいですから。……それより昨夜は急に少佐が訪ねて来られて、驚きましたよ」

 

 レーナはヨナの助けに感謝しながら、昨夜の事を思い出していた。

 

 

 

『戦死扱い……ですか』

 

 戦闘後、シンからの同調で告げられたのはイルマ少尉の状態だった。

 

『回復は、見込めないのでしょうか……?』

 

『俺は医者ではないのではっきりした事は言えませんが、あの状態ではもって一週間でしょう』

 

『そんな……』

 

 重度の火傷はいずれ壊死していくだろうし、抗生物質がなければ感染症で死に至る。

 廃墟を探せば薬品は見つかるかもしれないが、どれも使用期限が怪しいものばかりだろう。

 それに助かっても再び戦えるまで、どれだけ時間がかかる事か。

 

『だから、ダイヤを戦死した事にして下さい。幸いレイドデバイスも熱で壊れてしまいましたし、誰かが確認しに来る事もないでしょう』

 

『ですが、負傷者は収容所に移送され、そこで治療を受ける決まりで……』

 

『あそこにまともな医療設備はありません。むしろ前線の方が恵まれているくらいです。それに少佐のそれは建前で、輸送部の連中はそんな面倒をするよりヘリから落とす選択をするでしょう』

 

 ここ最近の誰の仕業か、当たりと言われる幾らか上等な機体の為か、機体が破壊されながらも生き残るプロセッサーが増えてきているのだ。

 それは傷痍兵が増える事を意味し、使えない部品など破棄するのがアルバの常の考えだ。

 

『それならせめて、俺達の元で死なせてやりたい』

 

 シンはぎゅっと拳を握った。

 リアとアンジュがいる限り、すぐさまそんな真似は出来ないだろうが、すぐに彼女らも悟る事だろう。

 そうなったら約束通り、一緒に連れて行くだけだ。

 

『ちょっと待って!』

 

 そこにリア同調を繋いできた。

 背中を庇う動きをしながらもリアはシンに追い付いてきて、その黒い瞳を向けてくる。

 

『ねえ、あんた。私達に悪いと思ってるんでしょ』

 

『ヘカーテ少尉……』

 

 そこでリアは、耳が痛くなるほどの大声で叫ぶ。

 

『だったらなんとかしてよ! 私達の上にミサイルを降らせる金があるんだったら、まともな薬や医療道具ぐらい送れるでしょ!』

 

 シンは耳を塞いでいたが、同調しているので意味がないとすぐに気付き、腕を降ろす。

 

『なんとかします……!だから、少しだけ待っていて下さい!』

 

 レーナの決死の声に、リアは悔しそうに唇を噛んだ。

 アルバにお願いをするなんて、屈辱だと言いたげに。

 それでも仲間の為と思い、行動を起こしたのだろう。

 

『部下が失礼しました。ですが、俺からも可能であればよろしくお願いします』

 

『最善を尽くします』

 

 そうしてレーナとの同調は切れた。

 静寂が二人の間に流れる。

 

「……いつまでその名前でいるつもりなんだ?」

 

「……ずっとよ」

 

 まあ、いいかとシン踵を返そうとした所でリアの声が掛かる。

 

「ねえ、勝手な事しないよね……。別にあいつの事を信じてるわけじゃないけど、それでもアンジュが……」

 

「わかってる。けど、どうにもならない事もある。その時は覚悟しておいてくれ」

 

 そうシン言い放ち、足を踏み出そうとするのを止め、代わりに数度鼻を鳴らした。

 

「……早くシャワーを浴びたほうが良い。特に頭」

 

「え……嘘!?」

 

 慌てて戻っていくリアを見て、もう少し別の言い方があったかと考えるシンだった。

 

 

  

 その後も戦闘は継続的に続き、遂にダイヤを除き戦えるスピアヘッド戦隊の隊員は今や14名になってしまった。

 

 直す者のいなくなった壊れたラジオをライデンはいじっていたが、諦めて元の位置に戻した。

 今もアンジュやリア達が、必死の看病をしているこのラジオの持ち主が再び修理出来る日は来るのだろうか。

 

『こんばんは』

 

『感度良好だ、少佐。……野郎ばっかりでむさ苦しくてすまねぇなあ』

 

 いつもの時間に繋いできた少佐にライデンは答える。

 答えてきた声の主がいつもと違うのに、レーナは不思議そうにしていた。

 

『あの、……ノーゼン大尉はどうかしましたか?』

 

『寝てるだけだ、疲れたってよ』

 

 人員が減り、それに伴って増える各員の負担。

 そしてそれを預かるシンにだけ聞こえる亡霊の声。

 

『俺には……俺達にはわかんねぇけど、やっぱしんどいんじゃねえかな。四六時中レギオンの声が聞こえるってのは』

 

 疲労が限界を迎えるのも仕方がないというものだ。

 レーナはそういえば、シュタット少佐にも何か能力があると言っていた事をを思い出していた。

 彼もそういう時があるのだろうか。

 

『そうですか……。物資の輸送の手続きを完了したと連絡したかったのですが』

 

『だったら、ちゃんと届いてからにしてくれ。どうせ届かなきゃ、あいつも信じやしないしな』

 

『ヘカーテ少尉ですね。でも、なんとか彼女との約束は果たせそうです。……それで、イルマ少尉の状態は……?』

 

 レーナは先日、戦死扱いにしたダイヤについて尋ねる。

 ニ階級特進じゃないのかと、巫山戯る余裕は今のライデンにはなかった。

 

『なんとか持ちこたえてるってレベルだ。やっぱ火傷と熱が酷くてな。今も看病を続けてるがどうだか……』

 

『もう少しだけ、持ちこたえさせて下さい』

 

 ライデンは頬を擦りながら、嘆息する。 

 この少佐はどこまでお人好しなのだか。

 そうまでする労力に自分達の命など、到底見合わないというのに。

 

 そして、この少佐に協力しているであろう人物もだ。

 到底、今迄の行動を、この少佐一人で成しているとは思えない。

 きっと、協力者がいるはずだ。

 何故か少佐は、その協力者をひた隠しにしているが。 

 

『全く、あんたも大概だな。そっちの方が倒れないように程々にやってくれ』

 

 少しはこの定時連絡も休んでも、罰は当たらないはずだ。

 

『あんまり無茶してるとあんたも、ハンドラーの亡霊に仲間入りしちまうぜ』

 

『ハンドラーの亡霊?』

 

 レーナの怪訝な声にライデンは、笑みを浮かべながら説明する。

 エイティシックスでまことしやかに囁かれている噂を。

 

『何でも俺達がおっ死にかけた時に聞こえてくるんだとよ。突然、知らねぇハンドラーからの同調。亡霊の声が』

 

 ライデンは聞いた事はないが、以前いた部隊の仲間は実際に聞いた事があると言っていた。

 怪しい事この上ないが、それで命を救われたとかも。

 まあ、ただの怪談の類の話だろう。

 

『案外、今もあんたの隣にいるかもな』

 

『えぇっ! っあいた!!』

 

 慌てたレーナの声がし、それからどこかに体をぶつける音も。

 セオが笑い声を漏らし、ライデンも顔を見合わせて同じく笑う。

 

『驚かせて悪かったな。ただの冗談だ』

 

『シュガ中尉、やめて下さい。もう』

 

 むくれた様なレーナの声だ。

 豪胆な割に、ネズミを怖がったり令嬢らしい所は、からかいがいがあるとライデンは思う。

 その後、取り繕うような咳払いの後、

 

『とにかく大尉もですが……やはり各員の負担が増えていますね。補充を急がせます。こちらに最優先で人員を送るように手をつくしますから』

 

 レーナは悔し気な声でそう言ってきた。

 

『ああ……そうだな』

 

 ライデンはその後の会話を適当に答えながら、腕を組んで後ろに回した。

 いくら申請しても来るはずのない補充。

 だが、その徒労の意味を彼女に告げるのは……未だ憚られていた。

 

 

 

「レーナ……なんだって、あんたそんなドレスなんか……?」

 

 アネットがレーナに向けて怪訝な表情で呟いている。 

 場所は革命祭のパーティ。

 

 色鮮やかなドレスを着込なす淑女が集まる中、レーナの纏う黒は悪目立ちする。

 

「素敵でしょ、おかげで誰も話し掛けてこないわ」

 

 しかし、そんな事などお構いなしに、レーナは不敵な笑みを浮かべて裾を翻してきた。

 叔父様に部隊の補充の吉報を貰い、いくらか気分が良くなったレーナはパーティーに出るだけ出てみようという気になったのだ。

 

「お二人とも、こんばんは」

 

 そして誰も声を掛けてこないと、レーナが誇らしげに言った傍から声が掛けられる。

 もの好きな奴は誰だと、アネットは目を向けるとシュタット家のお坊ちゃんが立っていた。

  

 仕立ての良いスーツに、物腰の良さそうな姿。

 腹立たしい程、礼節を弁えた旧貴族特有の物腰。

 

「ミリーゼ……嬢。それに確か、ベンローズ嬢でしたか」

 

 レーナの名前を少し言い淀んだが、この場で階級を呼ばない辺り徹底している。

 

「シュタット……さん。貴方も来られてたのですね」

 

 レーナが少し親し気な笑みを浮かべるのを見て、頭を軽く下げていたアネットは怪訝な表情を浮かべた。

 そしてその二人が、幾らか親密そうに会話を交わすのを見て、それこそその表情は一変する。

 

「ちょっと、レーナ」 

 

 アネットはレーナに耳打ちする。

 

「ねえ、いつの間に彼と仲良くなったの。前まで親の敵みたいな敵意をぶつけてたのに」

 

「え……あ。そうよ、今でもそう」

 

 レーナが慌てて取り繕う様に彼を睨み、ヨナがそれに同調する様に身を縮めた。

 怪しい事この上ない。

 

 それでもこの親友が、エイティシックス以外に興味を向けたのはいいことだ。 

 お似合いな二人に見えない事もない

 

 そこで、アネットは自分の婚約者の姿を見つけ、慌てて顔を伏せる。

 

「どうしたの?」

 

 レーナが覗き込んでくる。

 

「向こうに今日、新作のおやつを送り付けた婚約者がいるの。またね」

 

 アネットはドレスを翻して離れていくのを、ヨナは不思議そうに首を傾げた。

 彼女のお菓子作りの腕を知らずに済んだのは幸運だと、レーナは苦笑いを浮かべる。

 

 そこに花火が揚がる音が聞こえ、同時にレーナのレイドデバイスに同調が入った。

 

『少佐』

 

『ノーゼン大尉……』

 

 レーナは申し訳なさそうにヨナを見てきた。

 それにヨナは軽く頷き、レーナは頭を下げて、会場から離れていく。

 ヨナはそれを見送った後、パーティーの群れの中に戻っていった。

 

 彼女の判断は正しい。

 ヨナは張り付けた仮面で、談笑しながら心の中で思う。

 

 息が詰まり、胸を掻き毟りたくなる焦燥感を抑えながら、ヨナは殊更無意味な会話を続ける。

 必要な時間だと、思いながらも逃げ出したい気持ちは強まる一方だ。

 

 次第に目の前で会話をする男性の口の動きがゆっくりとなっていく。

 それに合わせ、音も間延びした様に、古びたテレビを通してみる様に間抜けな音となってヨナの耳に届く様になる。

 

 ヨナはその音を聞き流しつつ、止まったような時間の中でレーナに意識を向けた。

 彼女は花火に照らされるテラスの中にいる。

 

 ふいにその手が宙に伸ばされる。

 そして力を込めて握られた。

 

 後姿しか見えない。

 それでも 大切な何かを決意した様な姿だった。

 




早く書き終えて、リアルに傾注しなければまずいような……。
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