86-エイティシックス- どこに行き、どこに帰るのか   作:ぺこぽん

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26話 名前

 戦闘は終了した。

 

 スピアヘッド戦隊七名が無事に集結した事にレーナは安堵し喜ぶ。

 同調で伝わってくる声が、彼らも再会出来た喜びを伝えてきた。

 

『戦闘終了、お疲れ様でした。アンダーテイカー、皆さんも』

 

『お疲れ様です、ハンドラー・ワン』

 

 何かが吹っ切れた様なシンの返答が返ってくる。

 

『それにしてもさぁ、あんたどうしちゃったわけ?』

 

『ここにきて一気にぐれちまったよなぁ』

 

 セオとライデンの揶揄う声が上がり、レーナは怪訝な返答を返した。

 

『ぐれてって……そういう訳ではありません。私はただ……』

 

『レギオンごと、私達を吹っ飛ばすつもりなのかと思った』

 

『前例もある事だし、どこぞのハンドラーさんみたいにね』

 

 クレナとリアがじとっとした疑う様な声で言ってくる。

 その途中、誰かが息詰った声を上げそうになるが堪え切った様だ。

 きっと、隣の管制室にいる彼だろう。

 

『そ、そんな訳ないじゃないですか!』

 

『冗談に決まってるじゃん、頭固いなぁ』

 

『あら、そこが少佐のいい所なんじゃない?』

 

 そこにカイエがまるで何度も頷いているような光景が浮かぶ声を出す。

 

『いや、少佐殿はきっと一皮剝けたのだ。なんといえばいいか、男の顔になったと言う所か。いや、女性にそういうのはへんか』

 

『誰かさんの影響じゃないのか? ま、とにかく感謝してる、助かったぜ』

 

 ライデンの言葉をシンが引き継いだ。

 

『ありがとうございます。ミリーゼ少佐、それにハンドラー・ツー、貴方も』

 

 シン以外にもこのもう一人のハンドラーが、色々と以前から援助をしてくれていた事にすでに気が付いていた。

 そして今は新型に破壊された四機とリアが乗る機体、それにシン達に付き従う今もなお健在な五機の無人機の計十機を援軍に寄越したのだ。

 きっと彼もレーナ以上の無茶をしたのだろう。

 

『俺は貴方達に感謝される様な事は何も……ただ、自分勝手にも貴方達に生き抜いてもらわないといけなかっただけだ』

 

 ヨナは掠れるような返答をシンに返した。

 これから伝えなくてはいけない事を躊躇している様な感覚に、その内容を知るレーナはぎゅっと手を握る。

 

『今からその理由を……スピアヘッド戦隊に極秘任務を伝える』

 

 そしてヨナは重い口を開いた。

 

『極秘……?』

 

 そんな指令など一切聞いていない全員は首を捻る

 特別偵察任務以外に、一体何があるというのか。

 

『貴方達にはレギオンの支配域を抜け、未だ抗戦を続けている人類の生存権に共和国の救援を要請してもらいたい』

 

 なんだそりゃ、というライデンが呟きを漏らした。

 全員が同じ想いだっただろう。

 

 理由は簡単だ。

 他に人類が生き残っているはずがない。

 それにどうして共和国なんぞの為に、そんな事をしなくてはならないのか。

 

『いや……』

 

 そこで、ヨナは一声区切った。

 

『貴方達はすでに自由の身だ。極秘任務などと謳っておきながら、その任務を負う責務は貴方達にはない。だから、これはただのお願いだ』

 

 ヨナは酩酊しているかの様な揺れ動く視界の中、それでも足掻く様に言葉を絞り出す。

 

『貴方達を死地に追い遣っておきながら、厚顔無恥にも我々を救って欲しいという懇願だ』

 

 返答はなかった。

 しばらく沈黙が訪れる。

 

『あんた、一体今までその極秘任務とやらを何人に言ってきた? 成功率は……ああ、今の惨状を見りゃ聞かなくてもわかるわな』

 

 現状は何も変わっていない。

 スピアヘッド戦隊以前にも、多くの生き抜いた号持ちが特別偵察任務送りにされたのだ。

 その任務を受けたにせよ、受けなかったにせよ彼らはすでにこの世にはいない。

 レギオンの支配域に足を踏み入れ、生き残れるはずもないのだ。

 救援などどこにも届く見込みはない。

 

『そうか、……あんただな。ハンドラーの亡霊ってのは』

 

 そこで、ライデンがどこか納得した様に驚きの声を上げた。

 プロセッサーが命を救われただの、任務中に勝手に別のハンドラーから聞こえてくる指令だの。

 ずっとエイティシックスに肩入れしていた何者かの正体はこいつだ思い至ったのだ。

 

『いつか聞こえるかもしれねぇって思ってたが、まさか今とはな』

 

『それでその亡霊さんが囁いたのは何だって? 共和国を救って欲しい?』

 

 セオが呆れた声で、嘲け笑う。

 とんだジョークだよと言わんばかりに。

 

『まさか前に俺らのハンドラーをしてた時からそれ、やってたのか? シン、お前レギオンについてこのハンドラーに話したんだっけか』

 

『ああ、以前に聞かれた事は全て話した』

 

 だから共和国が滅亡する未来を知り、少しでも足掻こうと自分達を生かし、特別偵察任務送りにし、さらに極秘任務を伝えたと。

 

『ご苦労なこった。俺らには、そうまでして救う価値がこの国にあるとは思えねんだけどな』

 

『共和国にも必死に生きている人がいる。86区の強制収容所の人達も。彼らは俺なんかとは違い生きるべき人達だ』

 

『……ああ』

 

 ライデンは押し黙った。

 それを自分は身を持って知っている。

 わざわざ死なせる事もないって奴らがいる事を。

 

 だが、知っているからといって、一度自由になった身にはただもう一度戦う理由を与えられ、そのぶら下げられた餌に飛び付く馬の様にはなりたくなかった。

 

『ふざけないで!じゃあ、そんな事の為にあんたは……』

 

 そこでリアが声を張り上げ、未だ残る戦闘の余韻を再び思い起こした。

 そんな事の為に、自分はあいつと思考を同調してまで父を葬ったのか。

 そんな事の為に自分を生かそうと無茶をしたのか。

 

 とんだ愛国精神だ。

 そんなもの自分は知った事ではない。

 もう自分に残されたのは仲間の為に戦うと決めた意志だけだからだ。

 何にせよ、このお願いを受ける理由などない。

 

『いいでしょう、その任務お受けしましょう。ハンドラー・ツー』

 

 だから、シンがどこ吹く風で受諾したのに全員が驚愕する。

 

『ちょ、ちょっと待て、シン。そんな軽く近所にお使いに行く様に言われてもだな』

 

 カイエが慌てて、呆れた様に突っ込みを入れる。

 確かにシンの異能があれば、なんとかなりそうな予感はあるが。

 

『そうだ。お願いなら聞く必要はねぇ、第一物資も食料も全然足りねぇだろうが』

 

 語気を強め、自分達の装備を冷静に勘定するライデンに、ヨナが訂正を入れる。

 

『三ヶ月分の物資を追加でそちらに送っている。すまないが、食料についてはプラスチック爆薬だが』

 

 見ればファイドの隣に、融通の利かなそうなスカベンジャーが二機近づいて来ていた。

 ファイドが器用に脚を振るも、そいつらが同様に返事を返すことはない。

 ただ、そいつらには合計十機の追加コンテナが連結されていた。

 

『至れり尽くせりで感謝したいとこだが、断ったら自爆するとかじゃねえよな』

 

『うん、ありそう。自爆しなくても迎撃砲が降ってくるとか』

 

 ライデンが押し売りに直面したかの様に引き攣った声を出し、それにクレナが同意する。

 

『そんな事はしません!少佐はその為に元々準備を進めていて……断られても皆に物資を渡すつもりでした』

 

 レーナはそこでヨナを庇う様に声を上げた。

 

『なんだ、少佐はこの事知ってたんだ』

 

 セオの声に、ええとレーナは首肯する。

 早めにレーナから彼らに伝える事も出来たのだが、ヨナが自分から伝えると言い切ったのだ。

 彼らが返してくるもの全てを受け止めるのは自分だと。

 

『あのいいかしら、ハンドラー・ツー』

 

 そこで今迄黙っていたアンジュがヨナに話し掛けた。

 

『ブラックドック……ダイヤ君の事なのだけど。もしかして貴方が治療の手配をしてくれたのかしら。……それにもし、この任務を受けたら残してきた三人の治療をちゃんとしてくれる?』

 

『別に交換条件ではないのだが、約束する。あの三人を丁重に扱うと。病院で適切な治療を受けさせると。例え完治したとしてもプロセッサーである現状は変えられないが……』

 

『なら私。この任務受けるわ』

 

 アンジュは決意して、シンの肩を持った。

 残してきた者達に憂いがなくなれば、もう後はただ進むだけだ。 

 いつか追い付いてくるであろう彼を安心して待つ事が出来る。

 

『はい!はいはい!レッカの事もお願いね!絶対だからね!』

 

 クレナが手を上げながら必死に声を張り上げる。

 

『二人ともハルトの名前も出してやりなって、可哀そうでしょ。んじゃ、僕からはハルトの事、お願いしまーす』

 

『お前らなぁ……』

 

 セオがさらに仲間に入った事によりライデンは溜息をつき、苦笑する事となった。

 そんなライデンを止めとばかり諭すようなシンの声が上がった。

 

『どうせ、目的地も何もないあてのない旅だろ?』

 

『まあ、そりゃそうなんだが……二人はどうすんだ?』

 

 ライデンは残ったカイエとリアに話を振った。

 

『う~む。我らが隊長がそう言うのなら私は是非もない。後は、少佐殿の方からこの任務に太鼓判を押してもらえるかどうかくらいだな。どうだレーナ?』

 

 カイエから名前を呼ばれたレーナは背筋を伸ばし顔を上げる。

 答える言葉に迷いはなかった。

 

『私は彼を信じています。だから、人類が生き残っていると胸を張って私も言います。そして、きっとこの任務を達成出来ると皆さんの事も信じています』

 

 彼らが生き残れる保証はどこにもない。

 嘗て成し遂げた事のない任務。

 たったの七名、機体は棺桶と揶揄される程の性能。

 

『信じます』

 

 それでもぎゅっと手を握り、レーナは誰かに祈る様に言った。

 所詮彼らと共にはいない、安全な壁の中で自分はそれだけしか出来ないのだから

 

『しょうがない。信じられたのなら応えてみようとも』

 

 カイエはわざとらしく肩を竦めて納得し、次にリアがヨナに対し声を上げた。

 

『ねぇ、聞かせてよ。マンゴネル隊の皆に、迎撃砲を使った時、ほんとは……』

 

 質問の最後は途切れたが、何を聞きたかったのかはわかった。

 リアにとってあの出来事は、十分に白豚どもの卑劣さを体現したものだったのだ。

 ありとあらゆる罵りをあのハンドラーは受けるに値するものだったはずだ。

 

 だが、もしあいつが語った事が本当だとしたら。

 迎撃砲が使用される前に、皆、すでに死んでいたのだとしたら。

 私を生かす為に、あの迎撃砲が使用されたのだとしたら。

 あの出来事は……。

 

『言い訳はしない。俺は彼らを助けれなかった。それだけだ』

 

 返答は簡潔に淡々と述べられた。

 すでに思考の同調は切断されている。

 だから、この男の真意などわかるはずもない。

 

 でも、それで十分だった。

 何を自分は期待していのだろうか。

 白豚に二度も助けられたからといって、何かが変わった訳でもない。

 

 ただ、少し思考の同調などという非常識な手段に汚染されたに過ぎない。

 少し距離が縮まってしまったなどとは思いたくもない。

 復讐の、憎悪する相手には変わりはないはずだ。

 

『あっそ。じゃあ、もう思い残す何もない。私も皆と一緒に行く』

 

 全員の決は採れた。

 レーナとシンとの一度の会話が終わり、そして語り尽くす事がなくなると、自然と一つの意思疎通がなされる。

 七機の機体が示し合わせた様に一方向に機体の向きを変えた。

 

『ファイド、コンテナの繋ぎ直し終わったか?そっちのぽんこつ共も』

 

『整備と修理は寝るとこ決めてからだな……。初日にこんだけ弾薬を使っちまったのは痛かったか』

 

『まあ、いいんじゃない、追加の物資も届いた事だし』

 

 駆動音から彼らが動き始めたのがレーナとヨナにはわかった。

 

『だな。少佐含め、あのハンドラー様様だ』

 

 そこで、ライデンがふと思いついた様に声を上げる。

 

『ああ、そうだ。ハンドラー・ツー。最後にあんたの名前は聞かせてくれねぇのか』

 

 対した意味はない。 

 ただレーナを通して、あいつは自分たちの名前を一方的に知っているであろうと思えるし。

 亡霊と呼ばれる、自分達を無理無茶無謀の任務を果たせと言ってきた相手がどんな名前なのか気になっただけだ。

 

『……貴方達に名乗る程の名はない』

 

『なにそれ、感じ悪い』

 

 クレナの言葉に折角こっちが聞いたやったのにという非難がひしひしと伝わってくる。

 それを流石に感じ取り、ヨナは返答した。

 

『じゃあ、そうだな……イスカリオテとでも呼んでくれ』

 

『なんだそりゃ……』

 

 ライデンがその意味を図りかねていると、更に言葉が重ねられた。

 それは酷く躊躇いがちな。

 それでいて、迷子の子供の様にどこか不安げな泣きそうな声だった。

 

『でももし……いつか貴方達と同じ戦場に立ち、共に戦える日が来たのなら、その時、もし一度でも戦友だと思ってもらえる日が来たのなら、俺の名前を……聞いて、もらえますか……?』

 

 ハンドラー・ツー。

 いや、イスカリオテから初めて懇願するような、途切れ途切れな素の声であろう本音が語られた。

 

 その変化に誰もが言葉を失う。

 そもそも、恐らく自分達にそんな日は来ないだろうし、白豚が今更共に戦おうと、彼らがした仕打ちは帳消しには出来ない。

 

 中には共に戦ったアルバがいたり、レーナやこのハンドラーみたいな奴らもいるのだろうが、エイティシックスと呼ばれる今の世代の彼らとは何もかもが決定的に違い、決して戦友になどなれる日は来ない。

 

 だからそんな質問に何の意味もないと、誰かが言おうとした所、リアの辛辣な声に打ち消された。

  

『誰があんたの御大層な名前なんて聞くもんか。あんたの名前を聞く時は、私達が他の国の人達を引き連れてこの国に帰ってきて、それで全部悪事を暴いてからよ。死刑台で聞いてやるわよ』

 

 利発で意思の通った気持ちのいい程の暴言。

 その以前から何も変わらないリアの声にヨナは苦笑を漏らした。

 

『ああ、その日を……楽しみにしている』

 

 それからシンがヨナに声を掛けた。

 

『ではイスカリオテ。残した三人の事をお願します』

 

 次にシンの声の調子が少し変わったのは気のせいか。

 

『それから、少佐の事を頼みます』

 

『任された』

 

 シンとヨナの交わした言葉はそれきりだった。

 最後の会話とばかり、交わす言葉は短く、別れを予感させる。

 

 そこでようやく彼らが意図している事を飲み込んだレーナは手を無意味にもスクリーンに伸ばした。

 

『待って……待って下さい!置いて行かないで』

 

『ああ、いいなぁ、それ。俺達は追われるんじゃない、俺達は置いて先に行くんだ。どこまでも、行けるとこまで』

 

 ヨナは隣の管制室から、誰かが飛び出していく音を聞いた。

 きっとレーナだろう。

 少しでも、彼らと同調を維持する為。 

 共和国管制範囲外領域へと進む彼らを追いかけていったのだろう。

 その間にも彼らの他愛ない会話は続いている。

 

『てかさあ、試作機って言ってたけど、なにこいつら。なんかすでに泥だらけで汚いし』

 

 それは戦闘に間に合わせる為、最短距離を突っ走らせたからで。

 それでもヴァンデュラム社の皆が、彼らを少しでも生かそうと決死の想いで造り上げたものなのだ。

 

 それだけはどうしても伝えたくて。

 でも。

 ヨナの意思に反し、ついに口を開こうとも声が出て来なくなった。

 

『それになんか、子蜘蛛みたいで気持ち悪くない』

 

『そう、私は結構可愛いと思うけど』

 

『ええ~、そうかなぁ』

 

『あ、セオ。またこいつにマーク描いといてよ。私の機体壊れちゃったから』

 

『いいけど……あ、ごめん。道具処分しちゃった』

 

『えぇー』

 

 ヨナは喉を抑え、椅子から立ち上がろうとするも足は上がらない。

 僅かに動いた上半身せいで、バランスを崩し床に転倒する。

 

『うわ、何これ』

 

『綺麗、だね』

 

『一面真っ赤だ。なんの花だこいつは』

 

『『彼岸花』』

 

『自由になって最初に見れた景色がこれって、幸先いいじゃん』

 

『何か良い由来とかあるのかしら』

 

『残念ながら、元々は墓地に植えられるような花で、あまり縁起のいいものではないな』

 

『そうそう、根っこには毒があるしね。私の名前と一緒』

 

『うへぇ、聞かなきゃ良かったなぁ』

 

『だが、花言葉は再会を意味していてな。例え死によって分かたれたとしても、愛する者と再び出会う事を願って植えられるのだ』

 

『カイエ、今それ言っちゃう?』

 

『ねー、シン君』

 

『なんで俺に振る』

 

『もしかして自覚してないの?』

 

『ちょっと! シンは絶対そんなんじゃないから!』

 

『そういや、あのハンドラーに少佐を頼むって言ってたが、それって大丈夫か?』

 

『だから、何が?』

 

 ヨナは肘を使って、冷たい床を這う。

 目指す場所などない。

 この管制室を出たからとしても、外に彼らのような自由は待っていない。

 

 視界が歪む。

 頭が割れるように痛む。

 血が止まらない。

 

 それでも追い掛けてくる何かに抗いたかった。

 

 どうやらアリスと父親に呼ばれていた少女との同調は思いの外、無茶だったらしい

 ベンローズ大尉の忠告通りの結果という訳だ。

 

 だが。

 後悔は微塵もない。

 ただ、彼女を救えて良かったと。

 そして、彼女の父親を救ってやれて良かったと思うのは身勝手か。

 

 ……あの時、彼女をあの子ではないかと思ってしまった。

 もし、視界に黒髪が一筋でも見えたのなら、きっと疑い様がなかったに違いない。

 でも、呼ばれた名前は違ったのだ。

 あの子の発音とは全く違う呼ばれ方。

 

 それによくある事だ。

 父親が戦場に連れて行かれ、死に別れる事など。

 父親を待ち続けるエイティシックスの子供など。

 

 何も、自分とあの子が特別というわけではない。

 

 どこか残念な気持ちと安堵する想いが両立している。

 なんにせよあの子でなくて良かったのだ。

 あの子にあんなお願いをする事になっていたとしたら、あるいは既にしているのだとしたら……。

 

 ヨナは拳を地面に叩きつけた。

 後悔に押し潰されている場合ではない。

 まだまだしなくてはいけない事が残っているのだから。

 

 彼らは行ってくれたというのに、見送った自分がこんな所で、楽になっていはずがない。

 

 絶対に。

 絶対にそんな事は許されていいはずがない。

 裏切者らしく、最後まで足掻いて死ななければならないはずのだから。

 

 だが、視界は赤黒く閉ざされていく。

 脳裏に響く同調の声が、沈みゆく意識に消えゆく。

 

 ふと、耳に懐かしい名前がを呼ぶ声が聞こえた気がしたが、抗い様のない意識の消失が始まる。

 明ける気配のない闇にヨナは飲み込まれていった。

 




オデノモチベハドボドボデス!
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