86-エイティシックス- どこに行き、どこに帰るのか   作:ぺこぽん

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29話 それでも

 八五区外の迫りくる脅威とは無関係に、第三区は何も変わらない。

 道行く人も、その街並みも。

 

 たった一人、帽子を目深に被ったヨナは、ラングレイ家の前に立ち尽くしていた。

 その表情は変わる事も、言葉が漏れる事もない。

 

 ―――例え、何か想いを吐き出したとしても、誰も答えてくれる者などいないのだから。

 

 その瞳は何も現実を映していない。

 ただ、過ぎ去り二度と帰ってこない光景だけが脳裏に過ぎっている。

 

 ここには来るべきではない。

 そんな事はわかっている。

 誰かがヨナの跡を付け、その正体に繋がる糸口になってしまうかもしれないのだ。

 

 それでも……。

 何かに縋るように、気を張っていなければ崩れ落ちそうな体はこの場所に向かってしまう。

 

 あの時の想いに身を浸さねば、二度と立ち上がれなくなってしまいそうで。 

 貼り付けた仮面の下で息が詰まり、心臓の鼓動が止まってしまいそうになる。

 

「……っ」

 

 何を甘ったれた事を考えているのか。

 苦痛も悲哀も生きていればこそ感じられるものだ。

 死んでしまった者は、その想いすら抱けなくなってしまったというのに。

 

 裏切者などが何を腑抜けた事を。

 お前はもっと苦しみ、もがかなければならないのに。

 今でさえ、自分勝手な願いで多くの者を死に追い遣っているというのだから。

 

 ……いつから、どうしてこうなったんだろうな。

 

 戦争とこの共和国が悪いというのはわかっている。

 だが、幼かった自分には無関係だった事で、今更どうでもいい事だ。

 

 それよりも。

 あの日、強制収容所で泥の中に倒れ、こちらに手を伸ばす彼女に別れを告げてしまったからだろうか。

 それとも、祖父母にリードルフとその母の死を告げ、ありがとうと感謝され、彼らを死に追いやってしまったからだろうか。

 同胞に裏切者と言い放たれ、その彼が死んだ事に安堵してしまったからだろうか。

 

 過去を変える事など出来ないというのに、それらは茨の棘の様に体に纏わり付き、決してヨナから離れる事はない。

 そしてヨナ自身もそれらを忘れる事などない。

 それだけが自身の存在証明で、今迄の人生で積み重ねてきた唯一のものだからだ。

 

 それらは何度も囁いてくる。

 決して立ち止まる事は許さない。

 成すべき事を成せと。

 

「わかってる……」

 

 レギオンの大攻勢は近い。

 その為の出来る限り防衛策はしてきたつもりだ。

 それでも限りがある。

 ミリーゼ大尉もわかってはいる事だろうが、地上戦力はともかく超長距離砲に対する目途はほとんど立っていない。

 

 そもそもこちらの観測外から壊滅的な砲撃を行ってくる相手だ。

 秒速四千メートルの砲弾を撃ち落とす防衛システムもなければ、耐えられるだけの防爆シェルターもない。

 

 生命線たるプラント毎、首都リベルテ・エト・エガリテは消滅するだろう。

 

 勿論、主要なプラントを移設し、初撃の攻撃に耐える手もある。

 あれだけの大口径故、連続砲撃はレギオンとて不可能だろう。

 だが、その後。

 我々に二度目の攻撃を防ぐ手段など残ってはいない。

 

 阻電攪乱型が犇めくレギオン支配域では、反撃の為の観測すら不可能な為、巡航ミサイルの誘導も出来ない。 

 となれば、残された手段は地上部隊を率いての急襲だ。

 

 だが、誰がそんな事を成し遂げられる。

 例えばレギオンの声を聞き、出来るだけ会敵を避け、敵支配地域に浸透出来る様な手段があれば別だが。

 そして、それが可能だった者はもうこの国にはいない。

 

「……結局は人頼り、か」

 

 未だ抗戦を続ける人類の生き残りに、彼らが辿り着けたのなら。

 辿り着いた先の共同体が、この共和国を救おうと立ち上がってくれるのなら生き残れるかもしれない。

 

 ―――有色種を迫害し、戦いを押し付け、夥しい数の人の命を奪ったこの国を救う価値があるのならばだが。

 

 多くの犠牲を払い、何の益もなく同胞を救おうとする理想家など稀だろう。

 ならば救うに値する価値があると思わせなければならない。

 

 別れる際に無人機、そしてスピアヘッド戦隊のジャガーノートにはある詳細なデータを入れておいた。

 接敵したレギオンの性能、共和国の現状、有するエイティシックスの全戦力、それから彼らの戦闘記録だ。

 まともな人間ならば子供である彼らを再び戦わせようなどしないだろうが、まともな軍人であるならば彼らの優位性を認めるしかない。

 

 ―――そして彼ら自身も戦う以外の道を選べないはずだ。

 

 超長距離砲の破壊は、彼らに任せるしか手はない。

 レギオンとて虎の子の兵器を、たかが共和国如きを滅ぼす為に敵に晒す様な真似をしないだろう。

 一斉に反撃の糸口を与えぬまま滅ぼそうとするはずだ。

 

 だから大攻勢の後、耐える以外の手はない。

 人類がレギオンに大攻勢に対抗できると、その底力を信じて。

 

 間に合わなければ最後の足掻きを見せるのみだ。

 最後の一瞬まで彼らの救援を信じて戦う他ない。

 

 きっと来てくれるはずだと。

 

 それから……。

 その時、ヨナの背後を厚い装甲で覆われた大型の軍用車両が幾つも通り過ぎていく。

 頭上には哨戒する様にローターの風切り音を響かせる軍用ヘリが飛んでいる。

 

 車体の中に収容されているのは何者なのかは、わかりきっている。

 そして移送先は第8研究所だ。

 表向きには軍の研究施設として建造された建物だが、本当の正体は違う。

 その正体は名前もなく、決して記録に残される事のない監獄だ

 

 

 

 

「どういう事かね、シュタット少佐!!」

 

 低い怒気を孕んだ声のディミトリ・クロード中将にヨナは詰問されていた。

 

「は、何でしょうか」

 

 技術士官として不定期に駐留しているヨナは監獄の真新しい執務室で姿勢を正した。

 

「先日あの牢には三千二百番台がいたはずだ。あれらはすでに処分が終わったと聞いていたはず。何故、また満員になっている」

 

「ああ、あれは新しく送られてきた部品ですよ。既に以前の不良品は処分しましたので」

 

 机の上に投げつけられた書類を、ヨナはにこやかに拾う。

 

「本当かね。所長に聞いた話では君が、シュタット財閥の会社が不正に利潤を得ているという話だったが。見たまえ、君らが提出してきた財務報告だ。目を瞑るには余りにも額が桁違いすぎる」

 

 よく言う。

 ヨナは中将の後ろに控える小太りな男、所長に目を遣った。

 この活動で散々私腹を肥やしたのはあいつ自身だろうに。

 だからこそ、扱いやすいとヨナ自身が推薦したのだったが。

 

「中将閣下。あの部品共は我々、シュタット財閥が管理を任されているものですよ。当然、政府も軍との取り決めに置いて部品の取り扱いは我々に一任するとの話が通っております」

 

「それは、そうだが……」

 

 不服か。

 この男は自分よりも階級の下の者が、自分よりも政府との深い繋がりがあるのを耐えられないのだろう。

 青二才がと、白銀の瞳で中将は言い表している。

 

「新薬の治験、様々な人体実験、どれをとっても人もどきのエイティシックス共でしか出来ない事ばかりです」

 

 猿などでは到底不可能な進歩的な実験データを国家の法に反する事なく執り行えるのだ。

 彼らは生きた生体部品として適役な存在だ。

 

「ですが……部品共も生物ではありまして、餌が必要なのですよ」

 

 ヨナは心底嫌そうに顔を歪め、手を広げて振った。

 

「当然この施設の維持、全てに相当な費用が掛かっている事は存じておりますよ」

 

「そう、それでその事が正しく行われているかが心配なのだよ。この施設の管理者は私なのだから」

 

 確かに部品の輸送、監獄の警備は軍の管轄だ。

 だが、それ以外はシュタット財閥の様々な企業が取り仕切っているのだ。

 それが殊更気に入らないのだろう。

 シュタット財閥の企業の成果は、結局はリードルフの利益と成り得るのだから。

 

「当然承知しております。その事で以前のパーティーでは議長がこの監獄の竣工と運用の際、その手腕を褒められておりましたよ。中将閣下と今度ゆっくりと食事でも、と」

 

「そう……なのかね、では彼には宜しく伝えておいてくれまいか」

 

 ヨナはええ、と溜飲が下がったらしい中将に軽く頭を下げた。

 その後ろでは所長が指を三本立てており、ヨナは返事に五本指を立て、黙らせてやった。

 

「やめてッ!!」

 

 その時、つんざく悲鳴と叫び声が聞こえてきた。

 監獄に連行している間に、一悶着あったのだろう。

 

 顔を覗かせれば、一人の少女が幼い子供の手を離すまいと握っている。

 少女は看守の伸ばす手から、妹だろうかよく似通った子を身を呈して守ろうとしている。

 

 逃亡防止に首枷と手枷をされたままに関わらずだ。

 看守は苛立ちを隠し切れずに警棒に手を伸ばした。

 振り上げ、狙いを定めたのは離さまいと握られた二人の痩せこけた細い手。

 

「っ……」

 

 思わず声を上げそうになったヨナに中将が意識を向き掛ける。

 しかし、二人の少女が倒れ伏す音で、中将は騒動に目を戻した。

 警棒を振り上げたままの姿で看守が訝しげにしている。

 

「そこまでだ」

 

 ヨナは端末を操作していた手を止め、声を上げた。

 静寂が戻った中、一列に連行されるエイティシックスのにらみ付ける視線を受けながら少女達に近付いていく。

 倒れた二人の首元に手をやり、脈拍がある事を確認した。

 

「二等兵、厳命したはずだ。部品には傷をつけるなと。使えなくなったらどう責任を取るつもりだ」

 

「し、しかし、少佐殿。あの豚が手を離さないもので」

 

「言い訳はいい。次からは枷の機能を使え、いいな」

 

 少女の首枷を叩き、ヨナは二等兵に命令を下す。

 所長も移送に加わり、性別、年代毎の牢に全員が連れて行かれるのを見送った。

 

 少女が目を覚ませば、隣にいない妹の事を想い泣き叫ぶだろうか。

 そんな声などこの場所では幾度と聞こえてくる。

 そして静かにならなければ、薬を投与され、黙らされるだけだ。

 

「流石、シュタット少佐謹製の品だな。聞いたぞ、先日の鎮圧でも実に役立ったと」

 中将が軽く拍手をしながら、ヨナに賛美を送ってきた。

 

「お褒めに預かり光栄です、閣下」

 

 ヨナが技術部に入り、まず作り上げたのが完全な氾濫防止用の首枷だった。

 エイティシックスが命令に反せば、致死性の電撃が流れ、対象を死に至らしめる。

 その使用権と威力の程度は、使用許可を与えた者に委ねられている。

 

「でなければ、こやつらエイティシックスを共和国内に入れるなど許可が降りるはずもなかったであろう」

 

「ええ、これからもお任せください。エイティシックス共は、私が完璧に管理してみせしょう」

 

 ヨナは薄く笑い、歪んだ笑みを顔に貼り付けた。

 

 

 

「うっ……!」

 

 吐き気が胃の腑から立ち上り、ヨナは顔を抑えた。

 だが、この場所だけは汚したくなくてよろける様に離れ、数軒離れた横道に入り込む。

 そこで膝を折り、吐瀉物を側溝に吐き出した。

 

「何が生体部品……管理だ」

 

 誰が彼らをそんな目に合わせる様に仕組んだ。

 答えろ、ヨナイス・ラングレイ!

 

 当然、何もしなければ強制収容所にいる彼らはレギオンの大攻勢の際に、最も被害を受けるだろう。

 レギオンが羊飼いを獲得すべく彼らの脳を刈り取るだろう。

  

 だが、その前に救援が来る可能性だってある。

 その万一の可能性よりも、ヨナはこの選択をしたのだ。

 

 例え少数を犠牲にしてもより多くの者を救う為に。

 何よりも。

 彼女を探す我欲の為に。

 

 その為の犠牲を彼らに背負わせて。

 監獄の運営にはヨナの賛同者が大勢関わっている。

 だが、彼らが何もレギオンの停止は嘘だという与太話を完全に信じて、協力してくれている訳ではない。

 

 実利を求めているのだ。

 

 それが自分達にどのような利益をもたらすのか。

 それ以外に彼らの判断基準はない。

 

 だから、エイティシックス達を実験体として生かすしか、資金協力を取り付けるしかなかったのだ。

 既に計画は巨大化し、自分一人で取り纏められる様なものではない。

 だから、計画は独り歩きし、すぐさまシュタット財閥内の医療分野が顔を出してきたのだ。

 

 恐らくリードルフを排除しようとする一族の誰かだろう。

 そいつはもっと魅力的な提案をしたのだ

 今すぐ取り掛かれるものとして臓器移植を。

 

 健康体のエイティシックスから病気の白系種に適合する臓器を移植するのだ。

 人口も少なく、そもそもドナー登録の少ないこの共和国ではエイティシックスの母数は捨てきれない。

 

 自分の中に忌み嫌うエイティシックスの異物が入るなど共和国の感性なら憤死ものだろう。

 

 だが、そもそも提供者の正体を知られなければいい訳で、大金を積む客はいくらでもいるという訳だ。 

 その為に未だ補修中とされるガス室送りにはされず、彼らは部品として扱われ、様々な実験の為に生かされている。

 

 当然、死んだ者も大勢いる。

 強制収容所で反乱を起こし、銃火器で鎮圧された者も。

 非道な人体実験を行なわれ、死を迎えた者も。

 

 ヨナが何もしなければ、死ななくてすんだ者もいるだろう。

 それでも、……決行した。

 

「なぁ、……救ってやった方が多いだろう」

 

 思わず溢した言葉に気付き、また吐瀉物を吐き出した。

 既に吐き出すものはなく、胃液が口から垂れるのみだ。

 

 いつから人の死を数字で見るようになってしまった。

 会った事も会話した事もない人の死など、何も感じるはずがないと考えるようになった。

 

「……これはもう駄目かも、な」

 

 口元を拭い、長い息を吐く。

 そして、あれだけの事をしておきながら、結局彼女は見つかっていない。

 お祖父様の途中で書くのをやめた手記に残された強制収容所から優先的に解体しているのに関わらずだ。

 

 それでも見つからない。

 すでにあの時、亡くなったか。

 それとも反乱に加わり、鎮圧する際に銃殺されたか。

 戦場のどこかにいるのか、それともいたのかすら判らない。

 

 いずれ無意味な結末に打ちのめされるのだと、心の何処か告げている。

 

「それでも……」

 

 それでも、一度始めたものをなかった事には出来ない。

 その責務から逃げ出していいはずがない。

 

 数発。

 自分の拳で頬を殴り飛ばす。

 

 痛みと衝撃で体は立ち上がり、頭に掛かっていた靄が少し晴れる。

 ゆっくりとだが、再びヨナは歩き出した。

 

「それでも……」

 

 最後の時まで立ち止まる事は許されていいはずがない。

 

 

 

 

 

 レーナは深夜、自分が受け持つブリジンガメン隊の戦隊長シデン・イータ大尉だ。

 

『報告ご苦労様でした』

 

『ああ、今回も助かったぜ。砲撃支援がなきゃいよいよやばかった』

 

 ようやく休息を取れたのだろうか。

 随分と彼女は疲れた声を上げている。

 

『いよいよもってあたしらも終わりかな。スピアヘッド行きの方が先かと思ってたが、レギオンの方が先客らしい』

 

『どうやらその様ですね。戦術予報でもレギオンの攻勢が近いと示しています』

 

 東か、北か。

 この二方向が最も大攻勢で攻められる可能性が高いと

算出されている。

 そしてその期限は数ヶ月、恐らく一年以内だ。

 

『なぁ、女王陛下。最後になったら名前位呼んでくれよな。別れの会話がパーソナルネームなんて味気ない』

 

『でしたら、その女王陛下という呼び方もやめて下さい。キュクロプス』

 

 彼女はレーナがハンドラーに着任し、認めてもらってからその呼び名を変えようとはしない。 

 別に私は女王様でも、彼らは歩兵でもないのだが。

 

『ははっ、その時になったら考えとくよ。けど、相変わらずお堅いなぁ』

 

 結局の所、自分は彼らと共に戦っている訳ではないのだ。

 でもその名を聞く事は。

 その死を背負い、目を逸らさず背負う事はハンドラーとしての負うべき責務だ。

 

『相変わらずっすね、少佐殿は』

 

『そうそう、ちょっと雰囲気変えてみたら? ほんとの女王様って感じの奴』

 

『そんな出来る訳ないでしょ、あのお嬢様が』

 

 そこで聞き覚えのある三人の声が同調に割り込んできた。

 

『あんたら、あたしが話してんだから引っ込んでろよ』

 

 シデンが嫌そうな声を上げ、それにダイヤとハルト、それからレッカが不満そうにしている。

 

『特に金髪、最近調子に乗りすぎだ。また、きついの一発貰たいのか?』

 

『いや、勘弁っす』

 

 ダイヤの心底恐れ入った声が聞こえてきた。

 

『いや、あそこだけは駄目でしょ。出会い頭に一発ってそんなのありって感じだったな、うん』

 

『やめろ、思い出させるなっ!』

 

 ハルトとダイヤがばたばたと離れる音を響かせ、今度はシデンが嫌そうな声を上げた。

 

『あ、こら。あたしの髪はどうでもいんだよ。ほら、しっしっ』

 

『はーい』

 

 レッカがシデンの髪を梳かそうとでもしていたのだろうか。

 ようやく静かになったシデンは、軽い溜息を吐いた。

 

『ま、あんなんでもいい置き土産を残してくれたよ。あの首のない死神は』

 

『…ええ』

 

『流石は元号持ちだ。なあ、面倒だからあいつらのパーソナルネーム以前ので登録していいよな』

 

『それは……』

 

 実は三人が治療により回復した後、ヨナが書類を誤魔化したのだ。

 三人を死亡扱いし、新しく収容所から配置されたエイティシックスとして。

 それもレーナが着任する戦隊のプロセッサーとして送り込みんだのだ。

 きっと行ってくれた彼らに対し、せめてもの恩返しだったのだろう。

 

 その為、以前のパーソナルネームは消え去り、今では記号が与えられているのみだ。

 

 だが彼らは、すぐに以前の腕を取り戻し頭角を現したのだろう。

 再び号持ちと呼ばれる様になったのだ。

 

『そうですね。どうせ誰も気が付かないでしょうし、問題ないでしょう』

 

『そうこなくっちゃ』

 

 嬉しそうに書類を書くのが苦手な彼女は笑った。

 それからしばし沈黙が流れ、シデンが先に口を開いた。

 

『実際問題どうなんだ? あの死神は辿り着けたと思うのか』

 

 あの三人には極秘任務の内容と、それを受諾してくれた事を言ってある。

 可能性は低いにせよ、彼らには再び死ぬ為に戦うのではなく、生き延びて再会する為に戦って欲しかったからだ。

 当然、戦隊長である彼女にもその話は伝わっている。

 

『……わかりません、ですがそれでもきっと彼らは、救援を呼んでくれると信じています』

 

『信じてる、ね』

 

 シデンの声色が少し低くなる。

 

『だが、あたしらがその時まで生き残れる保証はどこにもないぞ。それでも戦うのか』

 

『それでも………』

 

 レーナは残してくれた手紙に触れ、その想いを再確認する。

 

『シンならきっと辿り着けてるっすよ』

 

『そうそう、じゃなきゃダイヤ死んじゃうし……アンジュとか、ねぇ』

 

『ぐっ……俺、この戦いに生き残ったら彼女に告白するんだ』

 

『あ、それ死亡フラグ』

 

『あーあ、クレナ。シンとの関係どうなってるんだろう。すぐ近く見たかったなぁ』

 

『『何も変わってないでしょ』』

 

『それもそうね』 

 

 未だ同調をこっそりと繋いだままだった三人が会話に割り込んできた。

 

『よーし、お前らいい覚悟だ。そこで正座してろ。今行く』

 

 シデンが指の骨を鳴らす音が響き、彼らの扱いに苦労しているのだなと、レーナはくすりと笑みを零した。

 

 スピアヘッド戦隊にいた頃と変わらないやり取り。

 それが最後に交わした言葉を思い起こす。

 

『それでも……』

 

 彼らは行ってくれたのだ。 

 先に行くと、救援を呼んでくると、置いていった者を信じて先に進んでくれた。

 それまで生き残る事を信じてくれた彼らに応えなくては。

 最後の時まで戦い抜かなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その日はやってきた。




なんとか整合性を取る為に語りが長く……。
それにしてもPCよりスマホの方がすいすい書けるような。
なんていう現象なんでしょうね。
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