86-エイティシックス- どこに行き、どこに帰るのか   作:ぺこぽん

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30話 贖い

 警報が鳴り響いたのは、深夜。

 決して鳴らしてはならぬと設定された警報。

 今その音が、その意図する脅威が迫っていた。

 

「っ……来た」

 

 ヨナはシュタット家の自室で端末を操作していた手を止め、微かな声で呟いた。

 端末が通知してきたその音に、口元を僅かに震わせる。

 

 どこか待ち望んでいたかの様に。

 その時が来れば、全てが無に帰すと知っておきながら、ようやく苦しみから開放されたとばかりに。

 

 沸き起こる高揚感と身震いが入り混じりながら全身を支配する。

 だが肉体とは逆に思考は冴え渡り、自身の手にすぐさま指令を送った。

 端末を操作し、予め設定されていたプログラムを走らせる。

 

"オペレーション・パイシュニャ"

 

 表示された文字を一瞥。

 全ての協力者に対し、個別に一斉配信された通信内容は彼らを駆り立てるだろう。

 彼らとはこの時が来るとヨナの言葉を信じ、又は騙され、果ては協力してくれた者達の事だ。

 多くの者はすぐさま自らの財産を守ろうと、生き残らんとすべく行動するに違いない。

 そして何より、愛する者を守らんとする為に。

 

 

 

「すぐに避難の準備を!」

 

 ヨナは軍服と装備を整え終わると、屋敷の使用人に声を掛けて回った。

 彼らは祖父の代から雇われ、居住を屋敷の離れに構える者も多い。

 ヨナが幼い頃から共に過ごしてきた人達だ。

 

「リードルフ様、一体何が起きたのですか……?」

 

 主要な者が正面玄関ホールに集まり、突然の主人の言葉に戸惑いを覚えている。

 ヨナは十数名の銀色の瞳を見返しながら、言葉短く現状を説明した。

 

「最終的なレギオンの狙いは我々の生命線たるこの第一区だ。暫くは持ち堪えるつもりだが、いずれ戦線は突破されるだろう」

 

「……事態は理解しました。リードルフ様が昔なら兎も角、冗談でもこの様な事を申される御方でもない事も存じております。しかし、……どこに避難せよと申されるのか」

 

 老齢の執事長が代表して答え、ヨナは腕をすっと腕をある方向にと伸ばした。

 

「まずは三区の第8研究所まで。俺の名前を出せばそこに入れてもらえる手筈になっているから」

 

 囚人の脱獄防止の為、堅牢に建造したあの監獄ならば、例え戦車型の砲撃とはいえ数度なら防げれる。

 その為にこそ設計したのだから。

 囚人の暴動が発生すれば巻き込まれる恐れもあるが、この地区で戦火から逃れられる場所といえばあの場所しかない。

 

「でも、もし首都が陥落してしまうのなら、そこから出来るだけ東に。レギオンに包囲される前に逃げて欲しい」

 

「東……」

 

 すでにレーナ達との同調で、レギオンが北から進行して来ているのは聞いている。

 そして、戦線が崩壊すれば西と東にまで攻勢範囲を広げ、ここまで押し寄せてくるだろう。

 

 だが……別に東に行けと言った言葉には何の根拠もない。

 そこに辿り着いたからといって、救援も何もないのだ。

 

 全ては手遅れとなった。

 彼は辿り着けなかったのか、それとも間に合わなかったのか……。

 

 それでも、一歩でも諦めずに生き残る為に。

 唯の時間稼ぎにしかならないとわかっている。

 だが南に逃げ、共和国を捨てた所でどうなる。

 

 ―――もっと悲惨な最後が待ち受けているだけだ。

 

「俺は貴方達を守る為に、全力を尽くすから」

 

 ざわめきと共に多くの者は顔を見合わせるが、誰も足を動かそうとはしない。

 

「この御屋敷を捨て、逃げる訳にはいきません」

 

 喧騒の中、執事長が出した言葉に全員の声が止まった。

 

「屋敷の主人である俺がそうしろって言ってるんだ。こんな空箱より命の方が大事だろ」

 

「それでも……旦那様に最後の時まで任された大事な場所でありますから」

 

 旦那様とはお祖父様の事だ。

 ヨナは唇を噛み締め、家族同然に過ごしてきた彼らから目を逸らした。

 

 ここが、貴方達が長年過ごしてきた場所である事は分かっている。

 どんなに大事に屋敷を、庭木の手入れをしてきたかも。

 だが貴族制度など既になく、この屋敷と貴方達の間には唯の雇用契約しかないだろう。

 ……それに、死人の言葉にどれ程の価値がある。

 

「どうして言う事を聞いてくれない……っ。俺が……彼じゃないからか……」

 

 目を伏せた者は、ほんの数名。

 その中にはルイーゼの姿も当然含まれていた。

 

「ずっと黙っていてくれたんだろう?……だったら最後まで騙されていてくれ……頼むから!」

 

 懇願するヨナの声は、ホールに反響した。

 彼らがヨナの正体に気付かないはずがないのだ。

 祖父母が生きていた時ならまだしも、子供であるヨナが薬品や髪染め液を常に消費するのは奇妙だ。

 見つからない様に処分していたつもりだが、それでも彼らが見逃す筈がない。

 

「いいえ、旦那様がお認めになった日から。貴方様は私共が仕えるべき御方です」

 

 執事長の言葉は淡々と、すでに全てを知っている者の口調だった。

 あの日から。

 ハウツマン・シュタットが自身の孫としてヨナを連れ帰った時から、ある程度わかっていたのだろう。

 

「俺は……」

 

 きっと彼らに知らない間に自身は守られていたのだろうな。

 またもや祖父の行いに救われていたのか。

 なら一層、彼らを死なせたくはない。

 

「例え、この屋敷を守っても俺は二度とこの場所に戻る事はない。今日、リードルフ・シュタットは……死ぬ」

 

 なんとか押し出した声は震え、ヨナは喘ぐように言い切った。

 惜しまない訳がない。

 半生を過ごしたこの場所を、彼らを愛おしく思わない訳が無い

 

 だが、それももう終わりだ。

 これから先、正体を偽り続ける事は不可能になる。

 戦闘が続けば目の色を変える暇もなければ、髪を染める時間すらもなくなるだろう。

 

「だから、もういない死人達相手に義理立てする必要なんか……何もない」

 

 だから、自分の命を大事にして欲しいと。

 裏切り者として生きる絶望の中でも、人並みの愛情を与えてくれた彼らを失いたくはない。

 

「それでも行きません」

 

 ルイーゼが首を振り、ヨナに近付いてきた。

 

「どうして……」

 

「戦争になれば、大勢の怪我人が出ます。旦那様は常々仰っていました。シュタット家たるもの全ての命に対し、報いる義務があると」

 

 顔を上げたヨナの唇をルイーゼ優しく指で触れ、閉じさせた。

 もう説明も、命令も何も必要ないとばかり。

 

「私達も使用人とはいえシュタット家に連なるものですから。それに私も看護師の資格を持っていますので、貴方が逃げないというのなら私も戦います」

 

「ルイーゼ……」

 

 昔から姉の様に接してくれた彼女に諭されると、ヨナは逆らう事が出来なかった。

 そしてもうあの名前で呼んでくれない事にも、幾ばくかの寂寥も感じていた。

 

「この屋敷も宜しければ避難するまでの間、最後まで怪我人の救護施設として利用したく思います」

 

「……構わない。でも……砲撃が少しでも聞こえたら必ず逃げる様に」

 

 それだけしかヨナは言う事が出来なかった。

 彼らが選んだ道を、どうして偽りの主人である自分などが妨げられようか。

 

「今まで、……ありがとうございました」

 

 ヨナは頭を深く下げ、彼らの顔を見る事なく踵を返した。

 そこに声が掛けられる。

 ヨナは足を止めないまま、その言葉を背に受けた。

 

「いってらっしゃいませ」

 

 ルイーゼの普段と何も変わらない声。

 彼女がいつもの様に頭を下げて、見送ってくれているのだと見なくてもわかる。

 それに、いつもであれば自分は返事をしていた事を思い出す。

 

「ご武運を」

 

 だけど、今回は。

 この最後の時は。

 ヨナは何も言い返さず、決して振り返らなかった。

 

 

 首都の道路を高級車の性能を活かし、ヨナはブランネージュ宮殿を目指していた。

 すでにレーナから、全プロセッサーに対する要請が同調越しに聞こえている。

 

『ヨナ君、聞こえるかね』

 

 そこに別の同調者からの声が入った。

 

『ランドル博士!? 博士も早く非難をして下さい!』

 ヴァンデュラム社がある84区は東寄りとはいえ、あそこは外周部だ。

 シェルターに避難しなければ砲撃に巻き込まれる恐れがある。

 

『君の要望通り、予備機、製造途中全てのジャガノートに改良型アンダーヘッドの導入設定は完了したぞ』

 

『ありがとうございます!』

 

 ヨナは運転しながら、手元の端末を操作するという危険行為をしながら答えた。

 

『これで十分戦えます。博士の苦労は絶対に無駄にはしません。だから、早く避難を』

 

『儂は……儂は逃げぬ』

 

 ランドルの厳かな声に、ヨナは力いっぱいアクセルを踏み込み答えた。

 

『どうしてですか!貴方はこれからも必要な人です!』

 

『儂は……あの時、死ぬべき人間じゃった。自らの保身の為に、人として、いや研究者としてもあるまじき行いをした。今まではその償いの延長に過ぎん』

 

『何を言ってるんです!?』

 

 ヨナの必死な声にランドルは真面に返答を返してくる事はない。 

 唯、ぶつぶつと呪文の様に難解な懺悔の言葉を告げてくるのみだ。

 

『なに安心せい。みすみすこの天才的頭脳をレギオン共にくれてやる気はない。この老体とて自分の始末ぐらいつけれるわ』

 

 その言葉を聞いて、ヨナは血相を変える。  

 だからといって遠く離れた彼に届くものは声だけで。

 

『ヨナ君。君にあの時、声を掛けられて儂は嬉しかった……ありがとう』

 

『やめ……ッ!』

 

 思わず叫ぶ。

 だが、しばらく経つも予想した音は聞こえてこなかった。

 代わりに聞こえるのは数人の大声と、取り押さえるような物音。

 

『こら、何をする!放さぬか!貴様ら、社長に向かってよくも!』

 

 ヴァンデュラム社にいる仲間が博士を取り押さえてくれたのだろう。

 

『博士を頼みます』

 

 彼らに博士の事を任せ、ヨナは後顧の憂いなく車を急加速した。

 

 

 

 ブランネージュ宮殿に無茶な運転で板金をへこませた高級車が乗り付けた。

 煙を吐く車体のドアを蹴破り、ヨナは外に出る。

 

 軍の中枢であるこの場所は、普段の様子では考えられない喧騒に包まれていた。

 伝令役に走り回る者や、頭を抱えて未だ鳴り響く警報から伏せている者。

 

 その中。

 未だ軍人らしさを保つ一団の姿が見えた。

 

 ブランネージュ宮殿の階段を、この場所の役割に釣り合う軍靴の音を響かせながら、その一団は降りてきている。

 凡そ一個中隊程のわずかばかりの人数。

 

 肩に背負うは携行性自動小銃。

 レギオンとの戦闘では自走地雷程度を退ける能力しか持たぬ代物だ。

 その性能を知ってだろう、彼らの表情は一様に悲壮に満たされている。

  

「カールシュタール准将……」

 

 その中。

 ただ一人、全てを諦めたかのような表情ながらも覚悟を決めた者がいる。

 死ぬ覚悟をだ。

 

「何処に行かれるのですか 」

 

「お前か……」

 

 ヨナは彼らの前に立ち塞がる形となり、カールシュタールと真正面から見合う事となった。

 

「あの警報を知らないはずはないだろう。その為にレーナとお前は準備をしていたのだから。見事、その読みが当たったという訳だ」

 

「……見事、などと言えたものではありません。唯の事実に基づく予測です。その基となったデータを貴方がたが目を背け続けてきただけですよ」

 

 入手したレギオンの報告は再三行ってきたのだ。

 それを真面に取り合わず、見て見ぬ振りをし続けてきた結果がこれだ。

 

「ではエイティシックスを85区内に呼び込み、戦わせるという考えはお前が発案者か、シュタット少佐」

 

「いいえ。発案などというには烏滸がましいレベルの話です。何せ、それしか共和国は戦う術を持たぬのですから」

 

 ヨナは歪んだ笑顔を貼り付け、何も持たぬ両手を広げた。

 それにカールシュタールは鼻を鳴らし、ヨナを白銀の眼光で見据える。

 

「戦う……この状況下で未だそのような事を言える者を二人も目にするとはな……。だがレーナと違い、お前は唯の理想主義者とは思えん」

 

 カールシュールはヨナのすぐ横に近づき、諦観を滲ませた言葉を吐き続ける。 

 二人の視線はすぐ近くで交差し、互いに目を逸らさぬままだ。

 

「どうあがこうとも、いずれ絶望が現実に追い付くとわかっているはずだ」

 

 そうあるはずだと決めて掛かってくる言葉に、すぐさまヨナの返答はない。

 そんな事はわかっているとばかり。

 互いの瞳は鏡を写したかのように淀み、そこに何ら希望を見出す灯は見えない。

 

「すでにここは絶望の只中ですよ、勘違いされない方がよろしいかと」

 

 ヨナの不遜な物言いにカールシュタールは、確かになと声を漏らした。

 それから一度、顔をヨナに近づけ鋭く睨み付ける

 これだけは忘れぬなとばかり。

 

「ならば、あの子に愚かな夢を抱かせた罪。最後の時まで贖って貰おう」

 

 カールシュタールは吊具の音をさせ、小銃を背負い直した。

 それからヨナの肩を押し退ける様に進み始める。

 彼に従う僅かばかりの手勢も

 ヨナの周りを足取りは重く、亡国と化す未来を暗示させるような軍勢は続く。

 

「准将、まだ質問に答えて貰っていませんが」

 

 そこにカールシュタールの背に向け、ヨナは声を掛けた。

 

「なに……」

 

「何処に行かれるというのですか」

 

 ぴたりを足を止めたカールシュタールは、肩越しにヨナを見遣る。

 ふっと笑うように振り返らぬまま、彼は答えた。

 

「決まっている。エイティシックスを呼び込むにせよ、グランミュールの解放、地雷原の撤去。どれも時間は掛かるだろう。ならば、その時間稼ぎ位はしてやろうというのだ」

 

「……違うでしょう」

 

 ヨナは唇を歪めた。

 隠そうともせず浮かんだ侮蔑の表情が浮かぶ。

 それから周りにいる彼らに視線をゆっくりと移していった。

 

「貴方がたは戦うつもりなど毛頭ない。唯、軍服を纏うお題目に託け、無駄死にして楽になろうとしているだけですよ」

 

 ヨナは周りを取り囲むアルバの軍に視線を向けた。

 軍人であるという矜持が少しは残っている彼らを。

 

 だが、彼らの表情は、瞳はすでに一様に死んでいる。

 11年前の戦争初期にレギオンの脅威を知る者もいるのかもしれない。

 ならば分かっているはずだ。

 彼らは……何より先頭に立つあの男は。

 

 ―――レギオンの軍勢相手に、小銃しか持たぬ歩兵など何の意味もない事を。

 

「巫山戯ないで欲しい。時間稼ぎだと。その程度、俺達が何の考えもなしに動いてきたと!?」

 

 ヨナは激高して、声を張り上た。

 アルバに対する恨みなど、裏切者である自身が持っていいはずがない。

 それでも思わずには……いられないだろう。

 

 もし、あの時。

 この国の大人達が人種など関係なく手を取り合えていたならば。

 間違っていると声を挙げられる者が手を取り合っていたのなら。

 どれだけの犠牲が出ずに済んだかを。

 

「貴方がたのそれは逃げだ!」

 

 ヨナは一歩ずつカールシュタールに近付いていく。

 

「今、貴方がたがやるべき事はご立派な犬死などでは無い。この戦いを生き残り、この国の現状と向き合うべきだ。そしてその責任を取ってもらう!」

 

「責任だと……?」

 

 戦争初期、この国の正規軍は死に絶えた。

 後に残るは間違った体制を引き継いだ老害と、その思想を受けた若者だ。

 

 だが、それでも今こうして銃を取り立ち上がる者も残っていたのだ。

 その僅かな真面な軍人すらもいなくなれば、今度こそ先はない。

 何も残らず、変わる事もない。

 

「エイティシックス共に頭を垂れ、悪かったと謝罪しろとでもいうのかね?」

 

 ヨナは眉を潜めたカールシュタールの正面に立った。

 

「いいえ」

 

 それは国家がやるべき行動だろう。

 軍人であった彼らに国の決定に逆らう事など出来ようはずもない。

 家族を、国を守る為に、彼らも必死だったのだろうとわかる。

 それでも今度こそは間違った選択をしない事を望む。

 

「謝罪すべきなのは、残された共和国の次の世代にだ。自分達は間違った事をしてきて、蔑み、嫌悪してきた相手に命を救われたのだと!過ちを見て見ぬ振りをし、正す機会を悉く無にしてきたと伝えるべきだ!」

 

 ヨナは一息で言い切り、肩で息をした。

 

「そうしなければ、この国は今度こそ終わる」

 

 沈黙が流れる。

 だが、それはヨナに対する怒声の為の準備期間でしかなかった。

 

 巫山戯るな、という声が聞こえてくる。

 あいつらエイティシックスこそが悪いのだと。

 武器をくれてやったのにレギオン共を倒せぬあいつらが悪いのだと。

 

「エイティシックスのせいだ!!」

 

 彼らの大部分は拳を握り、その向かう対象はヨナに向けてだ。

 そして数名は銃床を握る手に力を込めた。

 

 戦場の狂気は伝染し、民衆はいとも容易く暴徒と化す。

 それでも何ら態度を変える事のないヨナにカールシュタールは怒気を孕む声で言い放った。

 

「まるで、この戦争の後があるとでも言いたげな言葉だな」

 

「ええ、そうだ」

 

 そこでヨナは大きく息を吸った。

 

「だから、こう言ってるんだ。あんた方の尻拭いは俺らがしてやる。だから黙って事が終わるまで見物してろッ!!」

 

 流石に今度は、今迄とは違う空気が流れた

 言い過ぎたか。

 唯一残された矜持すらも汚された彼らが、どんな行動に出るか考えなかった訳でもない。

 

 だが、言いたくなったからつい、言ってしまったのだ。

 抱えていた想いを抑え切れなくなった。

 既に、己も戦場の狂気に飲み込まれているという事だろうか。

 それでも、流石に今殺される気は毛頭ないが。

 

「……貴方がたがすべき事は国民の避難の誘導です。極秘に建造していたシェルターの地図を後で渡します。変な場所に逃げ込み、レギオンの餌食にならない様に誘導をお願いします」

 

 一転、ヨナは穏やかな口調で告げた。

 そこでレーナの部下達が地図を持ち、彼らに追い付いてきた。

 どうやらヨナの足止めは成功したらしい。

 

 それでもヨナを見る目が変わらないのは同じだ。

 一触触発の空気の中、ヨナは片頬を引き攣らせて笑って見せる。

 

「上官に対する無礼はご容赦願いたい。なにせ国家滅亡の危機ですので」

 

 彼らを掻き分け、ヨナはもう用はないとばかり進み始めた。

 自分が行くべき戦場に。

 それでも彼らに無事に通して貰えない覚悟をしたものの。

 

「行かせろ」

 

 カールシュタールの一声がそれを留めた。

 ヨナは振り返り掛けるも、そのまま全力で走り出した。

 その背をカールシュタールは目線に捉え続け、その先にいるであろうレーナにも想いを馳せる。

 だが、もうすでに別れの言葉は告げ終わったのだ。

 未練など何も残っているはずもない。

 カールシュタールは踵を返すと、部下達に声を掛けた。 

 

「あの若造の言う事に従う意義はない」

 

 それでも投げ入れられた石は湖面を変える。

 連れてきた兵達は戸惑いを抱え初め、自身の死を自覚し足を止めてしまった者もいる。

 

 それならば別にそれでいい。

 カールシュタールは、何も号令を発する事なく進み始めた。

 彼はふっと言葉を漏らした。

 

「精々足掻けばいい」

 

 どこの馬の骨とも知れぬ異端者よ。

 




会話をすれば話が進まず、話が進まねばモチベが続かず。 
書いてる間は楽しいですけど、やっぱ難しいですね。

さーて、叔父様は生き残れるのでしょうか?
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