86-エイティシックス- どこに行き、どこに帰るのか 作:ぺこぽん
本日は晴れ、晴天なり。
的中率100%の予報を受け、スピアヘッド戦隊員は休息を取っていた。
リアは水が入ったじょうろを持ち、花に水をやっている。
今日は当番はない為、余暇を楽しむ余裕が生まれていた。
少し森まで足を伸ばし、珍しい植物でも探してみようか。
そんな事を考えていた所。
声を掛けられる。
「リア、こっちの洗濯物を運ぶの手伝ってくれる?」
アンジュが両手に抱え持つ洗濯物を、少し掲げていた。
後ろには女子隊員全員が同じように分担して、洗濯物を持っている。
カイエがやって来て、リアの手からじょうろを受け取った。
「いいけど、全員で行くの?」
リアが不思議がると、カイエはうむ、と頷いてくる。
「そうだ。もうシンの許可はもらったからな」
アンジュが一番大きな洗濯物が入った袋を、リアに預けてきた。
戦隊腕相撲ランキング一位のリアにとって、なんら負担ではない。
負担ではないが。
果たして、全員で運ぶ必要性はあるのだろうか。
「行こ、行こ!」
クレナは待ち切れない子供の様な表情だ。
「そういう事だ」
「そういう事、そういう事!」
そして、リアはミクリとマイナに、ぐいぐいと背中を押され初めた。
「え、どういう事!?」
察しの悪いリアは困惑したまま、女子総勢七名で河原に向かう事となったのである。
河原につくと、いつもの洗濯場でさっそく洗濯を始める。
部隊員全員分の洗濯物ともなれば大量だ。
だが、七名もいればあっという間に終わってしまう。
ただ、一人。
リアだけは、絶対に洗濯物を洗う係りにはさせてもらえなかったが。
前に軽く擦ったつもりが、ライデンの服を破いた過去があるからだ。
決してわざとではない。
「「「終わったーっ!!!」」」
そして全員で、面倒事は終わったとばかり万歳。
当然、その後の時間が目的だったわけで。
すぐに、上着を脱ぐと浅瀬に飛び込んだ。
水は透き通っていて、底を見通せるほど。
たまに釣りをして、川魚を食事の足しに出来る程の清涼な川だ。
これも、この場所でしか味わえない良い所だと言えよう。
「気持ちいぃー!!」
クレナが濡れるのに構わず、水をばしゃばしゃと跳ね上げる。
それが、横にいるレッカに掛かり、すぐに応酬が始まった。
「やったなー」
「それ!」
陽光に煌めく水滴と、女子たちの矯声を聞きながら、カイエは目を細める。
まさに、この世の天国だなぁ。
……特に、男子たちにとっては。
などとぼんやりしながら、隣の浅瀬に立つリアを見る。
リアはタンクトップ姿で、クレナと同じくらいの豊満な谷間をカイエに見せつけている。
いや、偶然見えているだけだが。
到底、自分よりも年が二つも下とは思えない。
「じー……」
無意識に声が出ているリアは、腰を屈めているからだ。
視線の先は、ヤマメだろうか、ゆらゆらと泳いでいる川魚。
リアの手が一瞬、煌めくと掻き消える。
再び見えたその手には、魚が乗っていて、すぐに逃がさない様に岩場に放り上げる
目にも止まらぬ早業だった。
「さすが、山猫」
部隊内で呼ばれている渾名を、カイエは口にする。
「わお。やるう」
近くで見ていたアンジュも驚くが、うーんと悩む声を上げた。
「でも、一匹だけというのも不公平よね。全員分は無理かしら」
「やれない事はないわよ」
ふふん、と自慢げに鼻を鳴らすリアである。
だが、別に手持ちぶたさでやっただけで、魚が欲しいわけではない。
朝食を食べた後だし、お腹が減っているわけではないのだ。
「今日は食事当番ではないのだからやめておこう。こいつは逃がしてやるとするか。武士の情けというものだ」
カイエはそっと魚を、川に戻してやった。
すると、ざぶんといきなり水しぶきが大量に降りかかってきた。
主にリアに降りかかり、カイエも幾らか被害を被る。
まさか、魚がやったわけでもあるまい。
「リアー、ごめん!!」
クレナが両手を合わせた姿で、謝ってきている。
でも、隣のマイヤとレッカがにやにやしてる所を見ると、わざとかもしれない。
運動能力が高いリアがいると面白いから、遊びに誘ったのだろう。
しかし、リアはというと、長い髪が顔に張り付き、幽鬼の様なひどい有様だ。
ぷるぷると体を震わし、拳を握りしめている。
「クーレーナー! そこになおれ!!」
リアは一足飛びで、クレナ達に飛び掛かっていった。
その表情は明るく、笑顔だ。
前と比べるとよく笑う様になったなあ、とカイエは思い、笑みを零した。
リアは半ば津波の様な水を、クレナに浴びせ始める。
「リア、ちょっと、ぎぶぎぶだってばあ!」
さすがに参ったのかクレナは、すぐに降伏を宣言する。
「カイエー!見てないで助けてよー!」
援護に入ったレッカとミクリ、マイナだが、それでもなお劣勢だ。
「残念だが、リアに喧嘩を売る方が悪い、骨は拾ってやろう」
合唱したカイエに、アンジュがくすりと笑う。
「リアちゃん、戦隊でも上位の格闘能力だものね」
さすがにシンには負けるが。
シン曰く、直線的で動きを読みやすいとの事だ。
もっと、頭を使えとよく言われている。
「確か、今の所ライデンと五分五分だったかな?」
「最近、喧嘩する事も少なくなったけどね」
最初の頃は、リアはよくライデンに突っかかっていたものだ。
自分をもっと前線に出せとの要望だが、シンから隊の指揮を任される事が多いライデンは、許可を出さなかったのだ。
突撃する馬鹿は一人で十分だ、との事らしい。
「まあ、リアがウルフスベーンで、ライデンがヴェアヴォルフだからなあ、致し方ないのかもな」
ウルフスベーン、別名トリカブト。
狼を殺すほどの毒を持つという逸話がある花だ。
以前、シンから借りた植物図鑑で、その記述を見つけた時、全員が納得し、爆笑した思い出がある。
「あら、でもダイヤ君とは仲が悪いわけじゃないわよ」
「はて、狼と犬を同じに見てもいいものだろうか……」
カイエとアンジュは、顔を見合わせて笑った。
「「クッシュン!」」
まさか同時刻、別々の場所で二人がくしゃみをしていたなど、誰も永遠に知る事はない。
さて、一遊びすると今度は雑談にと、女子たちの興味は移っていった。
食事の話から、石鹸の匂いの話、果ては、好みの男性のタイプへと。
女三人いれば姦しいというが、色恋の話となると特にだ。
「そんなに悪い奴じゃないんだよねー。あの鉄面隊長も」
レッカがクレナに向けて、にやにやとした表情を浮かべる。
「ごめんねぇ気が回らなくて。あんたもシンも当番ないんだから、口実作って二人にしてあげればよかったわよねー」
「ち、ちがうもん。私、別にそんなんじゃないもん!!」
鉄板ネタのクレナからかいを、我先にと女子たちは行う。
「でも、シンの方は、何考えてるかわからないよねえ」
果たしてクレナの努力は実るのかが疑わしく、曖昧な表情をレッカは浮かべるしかない。
「そういえば、最初リアの事をアリスって呼ぼうとしたら、珍しくシンが反対してたよね」
「ああ……もしかして、昔の彼女とか!」
「えっ!?」
マイヤがもろに衝撃を受けているクレナに、挑発的な笑みを向ける。
「なに、クレナ、気になるのー?」
「いや、それは!……そのごにょごにょ……」
頬を赤くし、指を引っ付け離しするクレナを見た者は、ほぼ全員同じ感想であった。
「「「「「クレナ、かっわいいー!」」」」」
リアだけ少しきょとんとした表情で、首を傾げていたが。
その姿に気づいたアンジュが、声を掛ける。
「ちなみにリアちゃんは、誰か気になる人はいないの?」
「気になる……」
リアは困ったように、眉根を寄せた。
こういう話題はこの隊に来るまで、誰かと話をした事も、考えた事すらない。
到底そんな余裕はなかったとも言えるけれども。
それに、もうそういうのは……。
「ライデンとか? 喧嘩するほど仲が良いって言うし!」
「えぇー、あのキザ男~?」
「ない、……絶っ対ない」
リアが心底本気で嫌そうな表情を浮かべ、全く脈はないなというのは全員の共通認識となった。
またもや、クシャミをする者がいたが、これもまた関係ない話である。
「そういえば、前に幼馴染を探してるって聞いたけど、その人の事?」
レッカが隊が編成された時、リアが皆に訊いて回っていた事を思い出した。
「ううん……あの子は……」
リアが視線を落とし、聞いてはいけない事を聞いてしまった事をレッカは悟った。
こういう事はよくある話で、部隊内でも珍しくもない。
でも、まだリアは受け入れる事が出来ていないのだと、皆わかっていた。
そこにカイエが、リアに後ろから飛びつき、お腹に手を回し撫でまわす。
「うひゃい!」
「おお、相変わらずリアの腹筋は素晴らしいな」
見事にシックスパックに割れた腹筋を、カイエは遠慮なく撫でまわす。
別にリアは、筋トレをしているわけでもないが、元々こうなのだ。
とはいっても決して筋骨隆々というわけでもなく、出る所は出て引き締まっている健康的な体つきだ。
「や、やめてって! カイエ~!」
「お、こうか。よいではないか~、よいではないか~」
くんずほぐれつする二人は全身を絡め、先ほどの雰囲気は霧散していった。
「くすっ……ほんと、仲が良いよね、カイエとリア」
上手く場をほぐしてくれたカイエに、クレナは感謝しながら呟く。
「もし男子たちが見てたら、泣いて喜ぶんじゃない?」
カイエの攻撃で、胸元近くまで服が捲れ上がっているリアの姿は、女子の目から見ても艶かしかった。
で、実はそれを見ている三つの男子の視線。
茂みに潜むのはハルト、セオ、ダイヤの三人だ。
「ないない、あんなの見て喜ぶなんてクジョーくらいなもんでしょ」
「そうそう、クジョーの奴、何が歌姫だよ。あんなの、山猫じゃなくて山ゴリラじゃん」
「さすが、素手で自走地雷を破壊する女……」
「俺なんてこの前、ちょっと花壇の花折っちゃたらさ、アイアンクローで宙吊りだぜ」
ハルトはその時の事を思い出したのか、青い顔をしている。
「うわ、女子にアイアンクローで宙吊りなんて、おそらく人類初でしょ」
「お前らなあ、ちょっと静かにしろぉ」
目線を一切逸らそうともしないダイヤが、二人にうるさいぞとばかり注意をする。
さっきまで一番、覗きに反対していたはずなのだが。
なんだが、無性にむかついてくる。
「目標多数、構え」
「撃てぇ」
目配せしたセオとハルトにより、ダイヤは生贄となった。
普段拳銃を持ち歩かないリア以外、女子がすぐさま物音に対し、拳銃を構える。
「ちょ、嘘。ま、待って……」
「ダイヤーくーん……?」
「あ、あはは、アンジュ。カオガコワイヨ」
こってりしぼられるだろう戦友を見捨て、ハルトとセオは身を顰める。
だが、すぐさま発見される事となった。
あっと言う間に回り込んだリアによって、二人は捕まえられたのだ。
「むが、むががああ!」
「むあ、むむわわあ!」
リアが、二人をがっしと捕まえ、アイアンクローで宙吊りにしている。
女子にしては背の高いリアがすると、二人はまるで、じたばたと蠢く蜘蛛のようで哀れだ。
全く同情する謂れはないが。
こうして二人は、見事女子に同時にアイアンクローで宙づりにされる人類初となったのであった。
「で、なんの用なのだ?」
何を言っているかわからない二人は無視し、カイエはダイヤに質問をする事にした。
「予報が変わったって」
すぐさま全員の表情が変わる。
一時の晴れ間が終わりを告げるのだった
損害報告 スピアヘッド戦隊 戦死者0名。
ヒロイン紹介みたいなものです。
あと、すみません。
戦闘シーンを書くのは苦手なので、必要なければカットで。